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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1315666
異議申立番号 異議2015-700074  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-08 
確定日 2016-06-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第5695585号発明「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5695585号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5695585号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成22年8月24日に出願した特願2010-533376号(優先権主張、平成21年8月24日)の一部を平成24年2月17日に新たな特許出願としたものであって、平成27年2月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人により特許異議の申立てがなされ、平成27年12月3日付けで取消理由が通知され、これに対し平成28年2月5日に意見書が提出され、同年3月1日付けで取消理由(審決の予告)が通知され、これに対し同年4月28日付けで意見書が提出されたものである。

2 本件発明
特許第5695585号の請求項1?11に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項によって特定される、次のとおりのものである(以下では、請求項の項番に従い、「本件発明1」などといい、全体をまとめて「本件発明」という。)。
「 【請求項1】
遮熱層と、
第1の紫外線遮蔽層とを備え、
前記遮熱層が、熱可塑性樹脂であるポリビニルアセタール樹脂と、遮熱粒子と、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物及びアントラシアニン化合物の内の少なくとも一種の成分とを含有し、
前記第1の紫外線遮蔽層が、熱可塑性樹脂であるポリビニルアセタール樹脂と、紫外線遮蔽剤とを含有する、合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
前記第1の紫外線遮蔽層が、前記遮熱層の一方の表面に積層されている、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
前記第1の紫外線遮蔽層が、前記遮熱層の一方の表面側に配置されており、
前記遮熱層の一方の表面側とは反対の他方の表面側に配置された第2の紫外線遮蔽層をさらに備え、
前記第2の紫外線遮蔽層が、熱可塑性樹脂であるポリビニルアセタール樹脂と、紫外線遮蔽剤とを含有する、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
前記第1の紫外線遮蔽層が、前記遮熱層の一方の表面に積層されており、
前記第2の紫外線遮蔽層が、前記遮熱層の一方の表面とは反対の他方の表面に積層されている、請求項3に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
前記紫外線遮蔽層の波長360?390nmでの紫外線透過率が0.5%以下、又は、前記紫外線遮蔽層の波長380?390nmでの紫外線透過率が0.8%以下である、請求項1?4のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
前記成分が、フタロシアニン、フタロシアニンの誘導体、ナフタロシアニン及びナフタロシアニンの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1?4のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
前記遮熱粒子が金属酸化物粒子である、請求項1?4のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項8】
前記遮熱粒子が、錫ドープ酸化インジウム粒子である、請求項7に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
前記遮熱層及び前記紫外線遮蔽層がそれぞれ、可塑剤をさらに含有する、請求項1?4のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項10】
前記紫外線遮蔽層100重量%中、前記紫外線遮蔽剤の含有量が0.2?1.0重量%である、請求項1?4のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
第1,第2の合わせガラス構成部材と、
前記第1,第2の合わせガラス構成部材の間に挟み込まれた中間膜とを備え、
前記中間膜が、請求項1?4のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜である、合わせガラス。」

3 取消理由の概要
当審において、請求項1?11に係る特許に対して通知した取消理由(審決の予告)の要旨は、次のとおりである。
本件発明1?11は、刊行物1(特開2005-206453号公報)及び刊行物2(特開2008-24538号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?11に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

4 刊行物の記載
(1)刊行物1(特開2005-206453号公報)について
ア 記載事項
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも遮熱層と紫外線遮蔽層とをそれぞれ1層以上有することを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
少なくとも遮熱層と前記遮熱層の両面に形成された紫外線遮蔽層との3層からなることを特徴とする請求項1記載の合わせガラス用中間膜。
・・・
【請求項5】
遮熱層は、ポリビニルアセタール樹脂100重量部、可塑剤20?60重量部、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩0.0001?1.0重量部、錫ドープ酸化インジウム微粒子0.1?3.0重量部、分散安定剤0.01?5.0重量部及び酸化防止剤0.01?5.0重量部を含有するものであり、
前記錫ドープ酸化インジウム微粒子は、平均粒径が80nm以下であり、かつ、100nm以上の粒子数が1個以下/1μm2となるよう分散されていることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
紫外線遮蔽層は、透明樹脂と紫外線カット剤とを含有することを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の合わせガラス用中間膜。
・・・
【請求項14】
クリアガラス、グリーンガラス、高熱線吸収ガラス及び紫外線吸収ガラスからなる群より選択される2枚のガラスの間に介在させて合わせガラスとし、スーパーキセノン100時間照射試験を行った後における、JIS Z 8722及びJIS R 3106(1998)に準拠して測定した可視光透過率の低下が1.0%以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13記載の合わせガラス用中間膜。」
(イ)「【0001】
本発明は、合わせガラスにした際の透明性、遮熱性、電磁波透過性に優れ、かつ、耐光性試験後も初期光学品質を損なわない、合わせガラス用中間膜及び該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスに関する。」
(ウ)「【0087】
(5)紫外線遮蔽層の製造
得られたポリビニルブチラール樹脂100重量部に対し、可塑剤溶液を40重量部、全系に対してMg含有量が60ppmとなるよう2-エチル酪酸マグネシウムを適量添加し、ミキシングロールで充分に溶融混練した後、プレス成形機を用いて150℃で30分間プレス成形し、平均膜厚0.76mmの紫外線遮蔽層(A)を得た。」

イ 刊行物1に記載された発明
記載事項(ア)によれば、刊行物1には、遮熱層と該遮熱層の両面に形成された紫外線遮蔽層からなる合わせガラス用中間膜であって、該遮熱層は、ポリビニルアセタール樹脂、可塑剤及び錫ドープ酸化インジウム微粒子を含有し、該紫外線遮蔽層は、透明樹脂と紫外線カット剤を含有する合わせガラス用中間膜、及びこれを用いた合わせガラスが記載されている。そして、同(ウ)によれば、紫外線遮蔽層を形成する透明樹脂には可塑剤を有するポリビニルブチラール樹脂が用いられる。
以上の記載によれば、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「遮熱層と該遮熱層の両面に形成された紫外線遮蔽層を備え、該遮熱層が、ポリビニルアセタール樹脂、可塑剤及び錫ドープ酸化インジウム微粒子を含有し、該紫外線遮蔽層は、ポリビニルブチラール樹脂、可塑剤及び紫外線カット剤を含有する合わせガラス用中間膜。」

(2)刊行物2(特開2008-24538号公報)について
ア 記載事項
(カ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側ガラス板と、第1の樹脂層と、赤外線反射フィルムと、第2の樹脂層と、外側ガラス板とをこの順に有し、前記赤外線反射フィルムが赤外線吸収性物質を含む、窓用合わせガラス。
【請求項2】
前記赤外線吸収性物質として赤外線吸収性染料を含む、請求項1に記載の窓用合わせガラス。
【請求項3】
前記赤外線吸収性染料としてフタロシアニン染料を含む、請求項2に記載の窓用合わせガラス。
・・・
【請求項6】
前記赤外線吸収性顔料としてフタロシアニン化合物を含む、請求項5に記載の窓用合わせガラス。
【請求項7】
前記赤外線吸収性物質として錫ドープ酸化インジウム、アルミニウムがドープされた酸化亜鉛、アンチモンがドープされた酸化錫および酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1つの微粒子を含む、請求項1?6のいずれかに記載の窓用合わせガラス。」
(キ)「【0002】
窓ガラス、特に自動車等の車両の窓ガラスには、車内温度上昇を防止するために赤外線反射膜が備えられているものがある。」
(ク)「【0007】
本発明は、電波透過性能を確保した上で、日射エネルギーの吸収を抑え、内側への再放射を抑えることができる、窓用合わせガラスを提供することを目的とする。」
(ケ)「【0019】
本発明において赤外線反射フィルムは、このような高屈折率層と低屈折率層とを有し、さらに赤外線吸収性物質を含む。
本発明において赤外線吸収性物質は特に限定されないが、前記赤外線吸収性物質として赤外吸収性染料および/または赤外線吸収性顔料を含むことが好ましく、赤外吸収性染料および/または赤外線吸収性顔料であることがより好ましい。
また、前記赤外線吸収性物質としてITO、アルミニウムがドープされた酸化亜鉛(AZO)、アンチモンがドープされた酸化錫(ATO)および酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1つ(以下、「ITO等」ともいう。)を微粒子形状で含むことが好ましく、これらからなる群から選ばれる少なくとも1つの微粒子であることがより好ましい。
本発明において赤外線吸収性物質は、このような赤外吸収性染料、赤外線吸収性顔料およびITO等からなる群から選ばれる少なくとも1つを含んでよく、これらの全てを含んでもよい。
【0020】
これらの赤外線吸収性物質の各々について説明する。
赤外線吸収性染料について説明する。
本発明において赤外線吸収性染料は特に限定されず、赤外線を吸収する染料であればよい。例えばシアニン染料、・・・フタロシアニン染料・・・が挙げられる。
【0021】
このような赤外線吸収性染料は、例えば特許文献3に記載のITOや6ホウ化物と比較して安価であるので、ITOや6ホウ化物を用いた場合と同様の赤外線吸収性を本発明の窓用合わせガラスに付与するために必要なコストを削減することができるので好ましい。
また、ITOや6ホウ化物の微粒子や、顔料を用いた場合と比較すると、この赤外線吸収性染料は、前記赤外線反射フィルムに分散させる際に凝集が起きにくく、均一に分散させることができるので、ヘイズの発生を抑えることができ、本発明の窓用合わせガラスにより高い赤外線吸収能を付与することができる点で好ましい。さらに、後述するように、本発明で用いる赤外線反射フィルムが赤外線吸収性顔料またはITO等を微粒子形状で含む場合は、これらは、赤外線反射フィルムのベース層に含まれることが好ましいが、この赤外線吸収性染料は、ベース層以外の部分に含まれてもよいので、製造が容易であるという点で好ましい。」
(コ)「【0022】
また、前記赤外線吸収性染料を用いる場合に、前記第2の樹脂層が紫外線吸収剤を含むことが好ましい。本発明において赤外線反射フィルムはPVB等の第2の樹脂層よりも内側(例えば車内側)に配されるので、第2の樹脂層に紫外線吸収剤を添加すると、外側(例えば車外側)から入射する紫外線が赤外線反射フィルムに到達することを抑制し、赤外線吸収性染料の性能をより長期間維持することができるので好ましい。」
(サ)「【0034】
本発明の窓用合わせガラスは、可視光透過率が70%以上であることが好ましい。特に自動車のウインドシールドにも用いる場合に好ましい。」

5 対比と判断
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「ポリビニルアセタール樹脂」は熱可塑性樹脂であるので、本件発明1における「熱可塑性樹脂であるポリビニルアルコール樹脂」に相当する。
また、同様に、引用発明の「錫ドープ酸化インジウム微粒子」、「ポリビニルブチラール樹脂」、「紫外線カット剤」は、本件発明1の「遮熱粒子」、「熱可塑性樹脂であるポリビニルアセタール樹脂」及び「紫外線遮蔽剤」に相当することは明らかである。
とすると、本件発明1と引用発明とは、
「遮熱層と、第1の紫外線遮蔽層とを備え、
前記遮熱層が、熱可塑性樹脂であるポリビニルアセタール樹脂と遮熱粒子とを含有し、前記第1の紫外線遮蔽層が、熱可塑性樹脂であるポリビニルアセタール樹脂と紫外線遮蔽剤とを含有する合わせガラス用中間膜。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。
本件発明1が、遮熱層に「フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物及びアントラシアニン化合物の内の少なくとも一種の成分」(以下、「成分X」という。)を含有するのに対し、引用発明の遮熱層に成分Xを含有することは明記されていない点(以下、「相違点」という。)。

(2)判断
引用発明において、上記相違点の構成に想到することが容易であるかを検討する。
引用発明の合わせガラス用中間膜は、その記載事項(イ)に記載されているように、合わせガラスにした際の透明性、遮熱性及び耐光性試験後も初期光学特性を損なわないという耐久性を有することを目的とするもので、遮熱性を向上するために遮熱粒子を含有する遮熱層を備えるものである。
一方、刊行物2に記載された窓用合わせガラスは、その記載事項(キ)(ク)によれば、日射エネルギーの吸収を抑えて車内温度上昇を防止することを解決すべき課題とし、合わせガラス用中間膜中の赤外線反射フィルムに、赤外線吸収物質として錫ドープ酸化インジウムやフタロシアニン染料を含有するものである(同(ケ))。
そして、同(ケ)には、赤外線吸収染料、赤外線吸収含量及びITO等からなる群から選ばれる少なくとも1つ含んでもよく、これら全てを含んでもよいと記載されているので、刊行物2には、合わせガラス用中間中に赤外線吸収物質として錫ドープ酸化インジウムとフタロシアニン染料を併用することは示唆されているといえる。
しかし、刊行物2には、フタロシアニン染料等の赤外線吸収染料は、ITO等と比べると安価であり、分散性に優れるので製造が容易な赤外線吸収性材料として記載されており(同ケ)、ITO等と併用することで、良好な遮熱性を発揮することについては記載も示唆もされていない。
これに対し本件発明1は、遮熱層と紫外線遮蔽層からなる合わせガラス用中間膜において、遮熱層に遮熱粒子とフタロシアニン化合物とを併用することで、両者を単独使用した場合に比較して顕著な遮熱特性(日射透過率)有する合わせガラス用中間膜に係る発明であると認められる(特許明細書の段落【0034】【0035】)。
したがって、本件発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものではない。
本件発明2?10は、請求項1の記載を直接又は間接に引用する合わせガラス用中間膜に関する発明であり、本件発明11は、請求項1?4のいずれかに記載された合わせガラス用中間膜を使用した合わせガラスに関する発明である。
したがって、本件発明2?11は、本件発明1と同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

6 むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては請求項1?11に係る特許を取り消すことができない。
また、他に請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-05-27 
出願番号 特願2012-32679(P2012-32679)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡田 隆介  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 真々田 忠博
新居田 知生
登録日 2015-02-13 
登録番号 特許第5695585号(P5695585)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 合わせガラス用中間膜及び合わせガラス  
代理人 特許業務法人ライトハウス国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  

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