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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1315668
異議申立番号 異議2015-700177  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-12 
確定日 2016-06-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第5721917号「粘着テープ」の請求項1?3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5721917号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5721917号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成26年10月30日に特許出願され、平成27年4月3日に特許の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人平川弘子により特許異議の申立てがなされ、平成28年2月4日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年3月30日に意見書の提出があったものである。

第2.本件特許発明
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
リビングラジカル重合により得られた、重量平均分子量30万?200万、分子量分布(Mw/Mn)1.05?2.5の架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーを60重量%以上含有するポリマー成分と架橋剤とを含有する粘着剤層を含有し、前記粘着剤層のゲル分率が15重量%以下であることを特徴とする粘着テープ。
【請求項2】
架橋性官能基が水酸基を含み、架橋剤がイソシアネート系架橋剤を含むことを特徴とする請求項1記載の粘着テープ。
【請求項3】
架橋性官能基がカルボキシル基を含み、架橋剤がエポキシ系架橋剤又はアジリジン系架橋剤を含むことを特徴とする請求項1記載の粘着テープ。」
以下、本件特許の請求項1ないし3に係る発明を、それぞれ、本件特許発明1ないし3という。

第3.取消理由の概要
当審において、本件特許発明1ないし3に係る特許に対して、平成28年2月4日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、「本件特許発明1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第113条第2号により取り消すべきものである。」というものである。

第4.刊行物の記載事項
1.刊行物
国際公開第2008/111412号(異議申立書の証拠方法である甲第1号証。)
一般社団法人日本接着学会第51回年次大会講演要旨集の抜粋(異議申立書の証拠方法である甲第4号証。)

2.甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付した。
(1)「[1] GPC法によりポリスチレン換算分子量として測定された重量平均分子量が50万?150万であるアクリル酸エステル系樹脂と、アルコール性水酸基を有し且つ水酸基価が35以上である粘着付与樹脂と、テルペンフェノール樹脂とを含み、ゲル分率が5?40重量%であることを特徴とする粘着剤。
[2] 粘着付与樹脂がロジンエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の粘着剤。」(請求の範囲 請求項1、請求項2)
(2)「[6] 基材の両面に、請求項1に記載の粘着剤からなる粘着剤層が積層一体化されてなることを特徴とする両面粘着シート。」(請求の範囲 請求項6)
(3)上記粘着剤を構成するアクリル酸エステル系樹脂としては、アクリル酸アルキルエステルモノマーを単独重合してなるアクリル酸アルキルエステル樹脂、メタクリル酸アルキルエステルモノマーを単独重合してなるメタクリル酸アルキルエステル樹脂、二種以上のアクリル酸アルキルエステルモノマーを共重合してなるアクリル酸アルキルエステル樹脂、二種以上のメタクリル酸アルキルエステルモノマーを共重合してなるメタクリル酸アルキルエステル樹脂、アクリル酸アルキルエステルモノマーとメタクリル酸アルキルエステルモノマーとの共重合体、アクリル酸アルキルエステルモノマー又はメタクリル酸アルキルエステルモノマーの何れか一方或いは双方と、これと共重合可能な他のビニルモノマーとの共重合体などが挙げられ、アクリル酸アルキルエステルモノマー又はメタクリル酸アルキルエステルモノマーの何れか一方或いは双方と、これと共重合可能な他のビニルモノマーとの共重合体が好ましい。
上記アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、特に限定されないが、アルキル基の炭素数が1?12の一級又は二級のアルキルアルコールと、アクリル酸とのエステル化反応により得られるものが好ましく、具体的には、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシルなどが挙げられ、アクリル酸エチルとアクリル酸-n-ブチルとアクリル酸-2-エチルヘキシルとを含有することが好ましい。なお、上記アクリル酸アルキルエステルモノマーは、単独で用いられても、二種以上が併用されてもよい。
上記アクリル酸エステル系樹脂中におけるアクリル酸エチル成分の含有量は、少ないと、形成される粘着剤層が、被着体の変形に伴って生じる剥離応力によって被着体から剥離し易くなることがあり、多いと、粘着剤の粘度が高くなりすぎて塗工性が低下し、或いは、形成される粘着剤層が硬くなりすぎることがあるので、5?30重量%が好ましく、8?25重量%がより好ましい。
上記アクリル酸アルキルエステルモノマー又はメタクリル酸アルキルエステルモノマーと共重合可能な他のビニルモノマーは、アクリル酸アルキルエステルモノマー又はアクリル酸アルキルエステルモノマーの何れか一方或いは双方と、これと共重合可能な他のビニルモノマーとの共重合体を改質して、得られる粘着剤の凝集力を高める目的で添加されるものであって、例えば、アクリル酸エステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)を上昇させるもの、アクリル酸エステル系樹脂の主鎖間に架橋構造を形成するのに寄与するものなどが用いられる。
又、上記アクリル酸エステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)を上昇させるビニルモノマーとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシ基含有モノマー;n-メチロールアクリルアミドなどの水酸基含有モノマー;無水マレイン酸、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。ビニルモノマーとしては、アクリル酸エステル系樹脂の分子量の制御に影響を及ぼしにくく、得られる粘着剤の粘着性に優れていることから、アクリル酸が好ましい。
ガラス転移温度を上昇させるビニルモノマー成分の総含有量は、少ないと、得られる粘着剤のガラス転移温度が低くなり過ぎて粘着剤の凝集力が低下することがあり、多いと、得られる粘着剤の粘着力やタックが低下することがあるので、アクリル酸エステル系樹脂中、0.01?10重量%が好ましく、0.05?5重量%がより好ましい。
アクリル酸エステル系樹脂の主鎖間に架橋構造を形成するのに寄与するビニルモノマーとしては、特に限定されないが、水酸基含有アクリル酸エステル、水酸基含有メタクリル酸エステルが好ましい。
水酸基含有アクリル酸エステルモノマー又は水酸基含有メタクリル酸エステルの何れか一方或いは双方と、後述するイソシアネート架橋剤とを用いることで、粘着剤のゲル分率を5?40重量%に調整し易く、耐反発性能と耐剥離性能に優れた粘着剤を得ることができる。」([0012]-[0019])
(4)「そして、上記アクリル酸エステル系樹脂を得るには、アクリル酸アルキルエステルモノマー又はメタクリル酸アルキルエステルモノマーの何れか一方或いは双方を、必要に応じてアクリル酸アルキルエステルモノマー又はメタクリル酸アルキルエステルモノマーの何れか一方或いは双方と共重合可能な他のビニルモノマーと共に、重合開始剤の存在下にてラジカル反応させればよい。なお、重合方法としては、従来公知の方法が用いられ、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などが挙げられる。」([0027])
(5)「又、上記粘着剤では、架橋剤を添加して粘着剤を構成する樹脂の主鎖間に架橋構造を形成するのが好ましい。架橋剤の種類や量を適宜、調整することによって、粘着剤のゲル分率を所望の範囲に調整することが容易になる。上記架橋剤としては、特に限定されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート型架橋剤などが挙げられ、イソシアネート系架橋剤が好ましい。これは、イソシアネート系架橋剤中のイソシアネート基と、上述の粘着付与樹脂中のアルコール性水酸基とが反応してウレタン結合が形成される。従って、粘着剤により形成される粘着剤層を、被着体の変形に伴って生じる剥離応力により被着体から剥離されにくいものにすることができるからである。」([0040])
(6)「即ち、上記粘着剤のゲル分率は、高くても低くても、形成される粘着剤層が被着体の変形に伴って生じる剥離応力によって被着体から剥離し易くなるので、5?40重量%に限定され、10?40重量%が好ましく、15?35重量%がより好ましい。」([0042])

3.甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の記載がある。
(1)「2.新規リビングラジカル重合法(TERP法)
当社は、京都大学の山子茂教授のグループと共に、有機テルル化合物をプロモーターとして使用するリビングラジカル重合法(TERP法:Organo telluriumu-mediated living radical polymerization)の研究開発を行ってきた。」(第17頁)
(2)「3.粘着剤開発
3.1 TERP粘着剤
TERP法のもう一つの特徴である高分子量領域での分子量制御性に優れる特徴を生かし粘着剤の開発を行った。粘着剤のモデル化合物としてBAとHEMAの共重合体(重量比95/5)について分子量の異なるサンプルを合成し、得られたポリマーについてJIS Z0237-2000の試験方法に基づき粘着物性の比較した結果をTable3に示す。
TERP法では高分子量領域での分子量制御が可能なことから、その結果として得られた粘着剤は可塑剤として作用するオリゴマー成分が低減され、かつ未架橋部分がないため、フリーラジカル重合品(FRP)と比較し凝集破壊が起こりにくく、耐熱性に優れ、剥離時の被着体汚染が低減されることがわかった。」(第19頁)
(3)「

」(第19頁)

第5.甲第1号証に記載された発明
上記第4.2.(1)及び(2)の記載を総合すると、甲第1号証には「基板の両面に、GPC法によりポリスチレン換算分子量として測定された重量平均分子量が50万?150万であるアクリル酸エステル系樹脂と、アルコール性水酸基を有し且つ水酸基価が35以上であるロジンエステル系樹脂と、テルペンフェノール樹脂とを含み、ゲル分率が5?40重量%である粘着剤からなる粘着剤層が積層一体化されてなる両面粘着シート。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

第6.対比・判断
1.本件特許発明1と甲1発明との対比
(1)甲1発明の「アクリル酸エステル系樹脂」は、本件特許発明1の「アクリル系ポリマー」に相当する。
(2)本件特許の明細書の段落【0044】?【0047】には、本件特許発明1の粘着テープの粘着剤層の厚みは用途によって設定されるので特に限定されないこと、基材の厚みは用途によって設定されるので特に限定されないこと、基材の両面に上記粘着剤層が形成されていてもよいことが記載されている。
そうしてみると、甲1発明の「両面粘着シート」は、本件特許発明1の「粘着テープ」に相当すると認められる。
(3)本件特許の明細書の段落【0030】には、本件特許発明1の重量平均分子量が、甲1発明と同様のGPC法によりポリスチレン換算分子量として測定されたものであることが記載されていることから、甲1発明のアクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量は、本件特許発明1のアクリル系ポリマーの重量平均分子量に包含されるものである。
(4)本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は以下の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
[一致点]
「重量平均分子量50万?150万であるアクリル系ポリマーを含有するポリマー成分を含有する粘着剤層を含有する粘着テープ。」
[相違点]
粘着剤層のゲル分率について、本件特許発明1では15重量%以下であるのに対して、甲1発明では5?40重量%である点。

2.判断
粘着剤層のゲル分率について、本件特許発明1と甲1発明では5?15重量%の範囲で重複しているものの、本件特許の明細書の段落【0033】に記載されているように、本件特許発明1は、粘着剤層のゲル分率として15重量%以下という数値範囲を選択することにより、薄くとも剥がれにくく、被着体に対して高い定荷重剥離性と粘着剤凝集力と発揮できるという効果が奏されるものである。
そして、当該効果は、甲第1号証及び甲第4号証のいずれにも記載も示唆もされていない有利で優れたものであり、また、本件特許の出願時の技術水準から当業者が予測できたものでもない。
以上を踏まえると、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第4号証に対して進歩性を有しているものと判断される。

3.小括
よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接的に引用する発明であって、上記相違点に係る発明特定事項を有しているから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明から、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第7.むすび
以上のとおりであるから、通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-05-31 
出願番号 特願2014-555436(P2014-555436)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 前田 寛之
菊地 則義
登録日 2015-04-03 
登録番号 特許第5721917号(P5721917)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 粘着テープ  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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