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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01G
管理番号 1315673
異議申立番号 異議2015-700003  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-07-15 
確定日 2016-06-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第5739389号「連棟型栽培用ハウス」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5739389号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5739389号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成22年6月23日に出願した特願2010-142956号の一部を平成24年9月7日に新たな特許出願としたものであって、平成27年5月1日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人伊勢川和江(以下「申立人A」という。)及び特許異議申立人木平ゆう子(以下「申立人B」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明1及び2
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」という。分説は申立人らの主張に基づく。)。

「【請求項1】
A 中央部分が高く、両側部分が前記中央部分より低い屋根部分を有する単棟型の栽培用ハウスを幅方向に並設し、該並設された栽培用ハウスは、隣り合う棟の間に、支柱と棟の長さ方向に設けられている排水樋を有する谷部を備える連棟型栽培用ハウスであって、
B 門型のパイプを有する躯体と、
C 該躯体に展張されている合成樹脂製のフィルム又はシートからなる外張りと、を有し、
D 前記谷部の排水樋は、底板と、該底板の幅方向の両側に斜め上方に傾斜して設けられた斜板を備え、
E 前記躯体の幅方向の両側には、前記外張りの端縁部を固定している巻取軸を有し、前記外張りを開閉するときに前記巻取軸自体が前記躯体上又は躯体に沿って移動しながら外張りを巻き取り又は繰り出す巻取器を備え、
F 前記谷部側は、前記外張りの端縁部を固定している巻取軸を有し、前記外張りを開閉するときに前記巻取軸自体が前記躯体上又は躯体に沿って移動しながら外張りを巻き取り又は繰り出す巻取器を備え、前記外張りは前記巻取器に巻かれた状態で前記排水樋の斜板上に載せ置かれており、
G 前記屋根部分の下側に、前記支柱と前記躯体の間に架設されており、アーチ状のパイプで構成された内張り用の骨組をハウス内に備え、該骨組の上面側には合成樹脂製のフィルム又はシートを展張して内張りが設けられており、
H 該内張りの両側には、内張りの端縁部を固定している巻取軸を有し、前記内張りを開閉するときに前記巻取軸自体が前記骨組上又は骨組に沿って移動しながら内張りを巻き取り又は繰り出す巻取器を備え、
I 該巻取器で前記内張りを閉じたときは、前記巻取器は、前記支柱と前記躯体の間に架設されている前記アーチ状のパイプで構成された内張り用の骨組の両側に位置し、閉じたときの前記巻取器より上側の展張状態の前記内張りには、巻き取られたロール状態の内張りとの間で形成される窪みに溜まる結露水を排出するための透水孔が備わる、連棟型栽培用ハウス。
【請求項2】
J 巻取器で外張りの下側を、閉じたときの位置から開き位置まで巻き上げて停止させたときの前記巻取器より上側の巻き取られていない展張状態の外張りには、巻き取られたロール状態の外張りとの間で形成される窪みに溜まる雨水を排出するための透水孔が備わっている、請求項1記載の連棟型栽培用ハウス。」

3 取消理由の概要
(1)申立人Aが主張する取消理由の概要
請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:「五訂版 施設園芸ハンドブック」(発行:(社)日本施設園芸協会、五訂版3刷:2007年4月20日)(「刊行物1」という。以下同様。)
甲第2号証:特開2003-339250号公報(「刊行物2」)
甲第3号証:特許第3681160号公報(「刊行物3」)
甲第4号証:特開2000-279035号公報(「刊行物4」)
甲第5号証:特開平9-275819号公報(「刊行物5」)
甲第6号証:実用新案登録第2589821号公報(「刊行物6」)
甲第7号証:特開2006-340647号公報(「刊行物7」)
甲第8号証:特開平11-42023号公報(「刊行物8」)
甲第9号証:特開2001-211761号公報(「刊行物9」)

(2)申立人Bが主張する取消理由の概要
請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開昭58-134917号公報(「刊行物10」)
甲第2号証:実願昭55-118225号(実開昭57-41062号)のマイクロフィルム(「刊行物11」)
甲第3号証:東罐興産株式会社「トーカンホワイト40」商品パンフレット、2007年7月発行(「刊行物12」)
甲第4号証:実願昭54-61495号(実開昭55-170963号)のマイクロフィルム(「刊行物13」)
甲第5号証:実願昭57-128027号(実開昭59-31855号)のマイクロフィルム(「刊行物14」)
甲第6号証:特開2006-61018号公報(「刊行物15」)

4 刊行物の記載
(1)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物1(とくに27頁の図-3、31頁の図-6、32頁の図-7及び図-8、35頁の図-13、36頁左欄下から4行?37頁左欄4行の「4)フィルムの巻き取りによって開閉する温室」に係る記載事項)には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「A 中央部分が高く、両側部分が前記中央部分より低い屋根部分を有する単棟型の栽培用ハウスを幅方向に並設し、該並設された栽培用ハウスは、隣り合う棟の間に、柱と棟の長さ方向に設けられている谷樋を有する谷部を備える連棟型栽培用ハウスであって、
B’幅方向の両側の柱とアーチパイプを有し、
C 該アーチパイプに展張されている屋根フィルムと、を有し、
D 前記谷部の谷樋は、底板と、該底板の幅方向の両側に斜め上方に傾斜して設けられた斜板を備え、
E 前記アーチパイプの幅方向の両側には、前記屋根フィルムをパイプによって巻き取り又は繰り出す巻取器を備え、
F 前記谷部側は、前記屋根フィルムをパイプによって巻き取り又は繰り出す巻取器を備え、前記屋根フィルムは前記谷樋の斜板上に載せ置かれており、
G’前記屋根部分の下側に、前記谷側の柱と両側の柱の間に架設されており、アーチ状のカーテン用パイプをハウス内に備え、該カーテン用パイプの上面側にはカーテンフィルムが設けられている、連棟型栽培用ハウス。」

(2)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物2には、次の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されている(申立人Aの主張に基づく。) 。
「A 中央部分が高く、両側部分が前記中央部分より低い屋根部分を有する単棟型のビニルハウス200を幅方向に並設し、該並設されたビニルハウス200は、隣り合う棟の間に、主骨パイプ101と棟の長さ方向に設けられている谷樋201を有する谷部を備える連棟型栽培用ハウスであって、
B ホロパイプ102を有する躯体と、
C 該躯体に展張されているフィルム301と、を有し、
D 前記谷部の谷樋201は、底板と、該底板の幅方向の両側に斜め上方に傾斜して設けられた斜板を備え、
E 前記躯体の幅方向の両側には、前記フィルム301の端縁部を固定している巻上パイプ111を有し、前記フィルム301を開閉するときに前記巻上パイプ111自体が前記躯体上又は躯体に沿って移動しながらフィルム301を巻き取り又は繰り出す開放機構を備え、
F 前記谷部側は、前記フィルム301の端縁部を固定している巻上パイプ111を有し、前記フィルム301を開閉するときに前記巻上パイプ111自体が前記躯体上又は躯体に沿って移動しながらフィルム301を巻き取り又は繰り出す開放機構を備え、前記フィルム301は前記巻上パイプ111に巻かれた状態で前記谷樋201の斜板上に載せ置かれている、連棟型栽培用ハウス。」

(3)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物3には、次の事項が記載されている。
ア 「【0002】
【従来の技術】・・・・
【0004】
そこで、最近、図4(b)に示すように、上記農業用カーテン1の裾を、アーチ状のパイプ製枠体2に沿って、天井側に巻き上げたり引き下ろしたりする動作を自動的に行うことのできる巻き上げ式カーテンが提案され、広く普及しつつある。
【0005】
このような農業用カーテン1としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の樹脂フィルムや、ポリエステル,ポリエチレン,ナイロン,ポリプロピレン等の繊維からなる不織布シートが汎用されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記樹脂フィルムを用いたものは、保温性には優れているものの、通気性や透湿性に乏しいため、ハウスやトンネルの外張材の内側に結露した水が滴下してフィルム表面に溜まって水溜まりができ、その重みによって、巻き上げ・引き下ろしによる開閉作業を行うことができにくくなるという問題がある。また、日中、フィルムを巻き上げた状態で数時間放置しておくと、互いに接したフィルム同士が熱によって貼り付き、下に降ろす動作がしにくくなり、注意しないとその部分が破損してしまうという問題がある。」
イ 図4(b)には、アーチ状のパイプ製枠体2が、地面に支持されていることが図示されている。

(4)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物4ないし7には、次の技術事項が記載されている(申立人Aの主張に基づく。) 。
「巻き取られたロール状態の外張りのフィルムと展張状態の外張りのフィルムとの間に形成される窪みに溜まる水を排出するために、外張りのフィルムに透水孔を設けること。」

(5)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物8には、次の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は農業用ビニ-ルハウス等農業用ハウスにおいて使用するカ-テンフイルムの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】農業用ビニ-ルハウス等農業用ハウスにおいて、野菜等作物の育苗時或は栽培時にハウス内の保温のため通称カ-テンフイルムを使用することは従来から行われてきた。従来のカ-テンフイルムは、ビニ-ルハウス等農業用ハウスの中に、栽培作物に応じて適宜の高さと巾に張り渡された架線或は棧架に、巻取り芯に巻きとられているフイルムを展張して被覆する手段とか、平成5年実用新案出願公告第10598号(実開昭59-95864)に示される農業用有孔フイルム等提供されている。・・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の解決しようとする問題点は、育苗や移植後の栽培時においても保温性、保湿性が確保され、又適宜の通気性を有しフイルム上に生ずる水分をフイルム上に滞溜させることなく滴下可能な水抜き兼通気孔を開孔してなる農業用ハウスで使用するカ-テンフイルムを提供せんとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は農業用ハウスで使用する合成樹脂製のフイルムに、直径2mm以上5mm以内の水抜き兼通気孔を適宜の間隔、でき得れば10cm以上20cm以内で、一種単孔をもってチドリ状に又は並列に開孔配設するか、又は直径が2mm以上5mm以内の単孔を二種以上で平均直径が3mm以上になるよう組み合わせ且つ間隔を10cm以上20cm以内で開孔配設し、更に縦方向両サイド又は横方向両サイドに作業縁を設けて農業用ハウスで使用するカ-テンフイルムを構成することによって前記課題を解決した。」

(6)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物9には、次の事項が記載されている。
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような状況に鑑みて、農業用フィルム(特に内張フィルム)の保温性を保持したまま、フィルム上に水が溜まることもなく、したがって作物を傷めることもなく、かつ、大型ハウスにも用いることができる農業用有孔フィルムおよびその製造方法の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意研究を行った結果、合成樹脂フィルムの長さ方向に沿って、幅方向の少なくとも一方の端から20?100cmの幅に、10?20cm間隔で穿孔された直径2?5mmの孔を有する開孔部が設けられ、前記開孔部の合計面積がフィルムの全面積の5?20%であることを特徴とする農業用有孔フィルムが従来の技術の課題を解決し、前記農業用有孔フィルムがインフレーション成形によって得られる2枚重ね状態の筒状フィルムに、開孔部を設ける前、または開孔部を設けた後、もしくは開孔部を設けると同時に、前記開孔部に隣接する穿孔されていない部分に、フィルムの長さ方向に沿って1ヶ所以上のスリットを設け、スリットから開いて1枚もしくは2枚以上のフィルムに分離することによって効率的に得られ、全幅が6mを超える広幅フィルムで片側のみに前記開孔部を有する農業用有孔フィルムも製造できることを見出し本発明を完成した。」
「【0008】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態を説明する。本発明の農業用有孔フィルムは、農業用被覆材、特に、農業用ハウスの内張フィルムとして用いられる。農業用ハウスはかまぼこ型(図3)、屋根型等の形があるが、外張フィルム(図3の3)はいずれもハウス天頂部からハウス側面部(サイド)方向へ傾斜して展張され、ハウス内の水滴が傾斜に沿って流れるように工夫されている。同様にハウス内張フィルム(図3の4)も傾斜に沿ってハウス天頂部からサイドに向かって傾斜をつけて被覆するのが一般的である。その結果、内張フィルム上の水溜りもハウスサイド部にのみ発生しやすい。この水溜り発生を防止するためには、フィルム上に生じる水分を適時滴下させる必要がある。
【0009】内張フィルムの被覆方法としては1枚のフィルムをハウス幅方向全面に被覆する場合とハウス天頂部で2分割し、左右に分けて内張りフィルムを被覆する場合がある。1枚でハウス幅全体を被覆する場合には、作物が栽培されていないハウスサイド側に位置する内張りフィルムの両側に水分を適時滴下させるための開孔部(図3の5)が必要であり、・・・・
【0010】本発明の農業用有孔フィルムは、農業用ハウスの内張フィルムとして用いられ、その際にフィルム上に生じる水分を適時滴下させるため、・・・・」

(7)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物10には、次の発明(以下「刊行物10発明」という。)が記載されていると認められる。
「A 中央部分が高く、両側部分が前記中央部分より低い屋根部分を有する単棟型のビニールハウスを幅方向に並設し、該並設されたビニールハウスは、隣り合う棟の間に、支柱5と棟の長さ方向に設けられている上段樋1を有する谷部を備える連棟型ビニールハウスであって、
B 塩ビパイプによる弧状支持材6と、
C 該支持材6に展張されている上段ビニール透明シート10と、を有し、
D 前記谷部の上段樋1は、底板と、該底板の幅方向の両側に斜め上方に傾斜して設けられた斜板を備え、
F 前記谷部側は、前記上段ビニール透明シート10の端縁部を固定しているシート巻取杆13を有し、前記上段ビニール透明シート10を開閉するときに前記シート巻取杆13自体が前記支持材6上に沿って移動しながら上段ビニール透明シート10を巻き取り又は巻き戻すシート巻取杆13を備え、前記上段ビニール透明シート10は前記シート巻取杆13に巻かれた状態で前記上段樋1の斜板上に載せ置かれており、
G’前記屋根部分の下側に、前記支柱5と地面の間に架設されており、塩ビパイプによる弧状支持材7をハウス内に備え、該支持材7の上面側には下段ビニール透明シート11を展張して設けられており、
H’該下段ビニール透明シート11の谷部側には、下段ビニール透明シート11の端縁部を固定しているシート巻取杆13を有し、前記下段ビニール透明シート11を開閉するときに前記シート巻取杆13自体が前記支持材7上に沿って移動しながら下段ビニール透明シート11を巻き取り又は巻き戻すシート巻取杆13を備えている、連棟型ビニールハウス。」

(8)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物11には、次の事項が記載されている。
ア 「近年野菜のハウス栽培の発達に伴いハウスを二重カーテン式にして、必要に応じて内側カーテンを捲きあげるなどのことが行われているが、二重カーテン式にすると、朝夕の温度変化によつてカーテン内側に水滴が発生し、これらが谷部において地面に落下して植物にとびはね、これらの原因からポトリス病など、病害の発生のおそれがあり、このような水滴の落下をなくすことは、栽培農家の斉しく求めるところである。このようなハウス内のルーフ谷部における水滴の落下に対し、谷部に樋を設けて水滴の落下を受けるような工夫がなされている。」(明細書第1頁15行?第2頁6行)
イ 「従来例を示す第1図(A)は、支柱(1)の頂部に樋(2)を載置した形式のもので、C鋼を用いた桁(3)には上部ルーフ桟(4)、下部ルール桟(5)を取りつけるもので、(6)は上部カーテンルーフ、(7)は下部カーテンルーフである。(8)は二重カーテン用パイプで必要に応じ下部カーテンルーフ(7)を捲きとるものである。」(同第2頁第12?18行)

(9)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物12には、次の技術が記載されている(申立人Bの主張に基づく。)。
「内張り用遮光フィルムの巻上パイプ部分の両サイド部に小孔が設けられていること。」

(10)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物13には、次の技術が記載されている(申立人Bの主張に基づく。)。
「栽培用ハウスの内張りカーテン用フィルムの凝縮水が内張りの両端部に溜まるのを防止するために有孔フィルムとすること。」

(11)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物14には、次の技術が記載されている(申立人Bの主張に基づく。)。
「栽培用ハウスの温室用カーテンに溜まる結露水を排出するための水抜き部(3)を巻取軸(5)近傍に設けること。」

(12)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物15には、次の技術が記載されている(申立人Bの主張に基づく。)。
「栽培用ハウスの天窓を覆うシート12の巻芯14に雨水を排出するための水抜き用開口20を設けること。」

5 判断
(1)本件発明1について
ア 刊行物1又は刊行物2を主引例とする取消理由の検討
(ア)対比・判断
a 本件発明1と、刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明には、内張りの構成として、屋根部分の下側に、谷側の柱と両側の柱の間に架設された、アーチ状のカーテン用パイプをハウス内に備え、該カーテン用パイプの上面側にはカーテンフィルムが設けられているが、本件発明1の発明特定事項Gである「前記屋根部分の下側に、前記支柱と前記躯体の間に架設されており、アーチ状のパイプで構成された内張り用の骨組をハウス内に備え、該骨組の上面側には合成樹脂製のフィルム又はシートを展張して内張りが設けられており」(とくに、内張り用の骨組を支柱と門型のパイプを有する躯体の間に架設されている点)、同Hである「該内張りの両側には、内張りの端縁部を固定している巻取軸を有し、前記内張りを開閉するときに前記巻取軸自体が前記骨組上又は骨組に沿って移動しながら内張りを巻き取り又は繰り出す巻取器を備え」、同Iである「該巻取器で前記内張りを閉じたときは、前記巻取器は、前記支柱と前記躯体の間に架設されている前記アーチ状のパイプで構成された内張り用の骨組の両側に位置し、閉じたときの前記巻取器より上側の展張状態の前記内張りには、巻き取られたロール状態の内張りとの間で形成される窪みに溜まる結露水を排出するための透水孔が備わる」ことは特定されていない(刊行物1には開示されていない)。
b 刊行物2には、上記4(2)のとおり、刊行物2発明が記載されているが、申立人Aも認めているように、本件発明1の発明特定事項G、H、Iに相当する構成は開示されていない。
c 刊行物3には、上記4(3)で摘記した事項からみて、農業用カーテン1(内張り)の裾を、アーチ状のパイプ製枠体2(内張り用の骨組)に沿って、天井側に巻き上げたり引き下ろしたりする動作を自動的に行うことのできる巻き上げ式カーテンが記載されているが、連棟型栽培用ハウスであること、及びアーチ状のパイプ製枠体2が支柱と外張りの躯体の間に架設されていることは記載されていない。すなわち、刊行物3には、本件発明1の発明特定事項G及びIに相当する構成は開示されていない。
d 刊行物4ないし7には、上記4(4)で記載した外張りに関する技術事項が記載されているが、内張りに関することは記載されていない。すなわち、刊行物4ないし7には、本件発明1の発明特定事項G、H、Iに相当する構成は開示されていない。
e 刊行物8及び9には、上記4(5)及び(6)で摘記した事項からみて、内張りのフィルムに透水孔を有することが記載されているが、連棟型栽培用ハウスであること、内張りの骨組が支柱と外張りの躯体の間に架設されていること、及び巻き取られたロール状態の内張りとの間で形成される窪みに溜まる結露水を排出することは記載されていない。すなわち、刊行物8及び9には、本件発明1の発明特定事項G、H、Iに相当する構成は開示されていない。
f 以上のとおり、刊行物1ないし9には、本件発明1の発明特定事項Gに相当する構成は開示されておらず、また、後記するように、刊行物10ないし15にも、本件発明1の発明特定事項Gに相当する構成は開示されていないから、刊行物1ないし15に記載の発明又は技術事項を組み合わせたとしても、本件発明1には到達し得ない。
g よって、本件発明1は、当業者が刊行物1ないし15に記載の発明に基いて容易に発明することができたものでもない。

(イ)申立人Aの主張について
申立人Aは、甲第1号証(刊行物1)には、本件発明1の内張りの構成の詳細及び透水孔以外のすべての構成要件が明記されており、内張りの構成についても十分に示唆されており、甲第2号証(刊行物2)にも、本件発明1の内張りの構成以外のすべての構成要件が明記されており、また、甲第3号証(刊行物3)には、本件発明1の構成要件G、H、Iのアーチ状の内張りのうち、透水孔以外のすべての構成が記載されており、甲第1号証又は甲第2号証に記載の連棟型栽培用ハウスにおいて、甲第3号証に記載のアーチ状の内張りを適用することに何ら技術的な困難性はなく、甲第1?3号証の記載に基づいて、連棟型栽培用ハウスのハウス内に設けたアーチ状の内張りのフイルムとして、甲第8号証(刊行物8)や甲第9号証(刊行物9)に記載されて公知の一般的な孔明き内張りフイルムを適用すると、必然的に本件発明1の構成となり、さらには、窪みに溜まった水である結露水を排出するために「透水孔」を設けることは、甲第4?7号証(刊行物4?7)に記載されているから、本件発明1の課題、構成及び効果は甲第1?9号証に基づいて、当業者が容易に想到し得る旨主張する。

しかしながら、刊行物3には、上記(ア)cで述べたように、本件発明1の発明特定事項Gに相当する構成は開示されておらず、また、刊行物1にも、上記(ア)aで述べたように、本件発明1の発明特定事項Gに相当する構成は開示も示唆もされていないから、申立人Aの上記主張は採用できない。
また、刊行物4?7から「巻き取られたロール状態の外張りのフィルムと展張状態の外張りのフィルムとの間に形成される窪みに溜まる水を排出するために、外張りのフィルムに透水孔を設けること」が周知であるとしても、本件発明1の発明特定事項AないしHに相当する構成を備えた発明が公知ではないから、当業者が本件発明1を容易に想到し得たとはいえない。
なお、連棟型栽培用ハウス(外張りに係る構成)、内張りに係る構成、巻取器に係る構成、窪みに溜まった水を排出する構成が公知・周知であったとしても、それら断片的な公知・周知技術から本件発明1を想到することが、当業者にとって容易であるとはいえない。

イ 刊行物10又は刊行物11を主引例とする取消理由の検討
(ア)対比・判断
a 刊行物10には、上記4(7)のとおり、刊行物10発明が記載されているが、本件発明1の発明特定事項E,G、H、Iに相当する構成は開示されていない。
b 刊行物11には、上記4(8)で摘記したように、下部ルーフ桟(5)を備え、その上面側には下部カーテンルーフが設けることが開示されているが、下部ルーフ桟(5)の(谷部と対する)両側の構成は不明であるから、本件発明1の発明特定事項E、G、H、Iに相当する構成は開示されているとはいえない。
c 刊行物12ないし15には、上記4(9)ないし(12)で記載した技術事項が記載されているが、少なくとも本件発明1の発明特定事項Gに相当する構成は開示されていない。
d 以上とおり、刊行物10ないし15には、本件発明1の発明特定事項Gに相当する構成は開示されておらず、また、前記したように、刊行物1ないし9にも、本件発明1の発明特定事項Gに相当する構成は開示されていないから、刊行物1ないし15に記載の発明又は技術事項を組み合わせたとしても、本件発明1には到達し得ない。
e よって、本件発明1は、当業者が刊行物1ないし15に記載の発明に基いて容易に発明することができたものでもない。

(イ)申立人Bの主張について
申立人Bは、甲第1号証(刊行物10)及び甲第2号証(刊行物11)には、本件発明1の二重膜式連棟型栽培用ハウスの構成要件A?Iのうち内張りの結露水排出用透水孔以外のすべての構成が開示されており、また、甲第3号証(刊行物12)には、重膜式栽培用ハウスの内張りである「カーテン」の商品として、結露水排出用透水孔である「水抜き穴」を両サイドの巻取器部分に設けたものが既に市販されていたことが明らかであるから、甲第1号証又は甲第2号証の二重膜式連棟型栽培用ハウスの内張りとして、この甲第3号証に記載の市販品を用いることにより、本件発明1の構成要件AないしIをすべて具備する連棟型栽培用ハウスとなり、さらには、甲第1号証及び甲第2号証に記載の二重膜式連棟型栽培用ハウスに、甲第3号証ないし甲第6号証(刊行物12ないし15)に記載の透水孔を適用すると容易に本件発明1の構成に到る旨主張する。

しかしながら、刊行物10は、内張りを備えるものではあるが、塩ビパイプによる弧状支持材7(内張り用の骨組であるアーチ状のパイプ)は、支柱5と地面の間に架設されており、支柱と外張りの躯体(門型のパイプ)に架設されておらず、また、上段ビニール透明シート10と下段ビニール透明シート11を(谷部と対する)両側において巻き取り又は巻き戻すことも開示されていないから、すなわち、本件発明1の発明特定事項E、G、H、Iに相当する構成は開示されていないから、申立人Bの上記主張は採用できない。
また、刊行物11にも、上記(ア)bで述べたように、本件発明1の発明特定事項E、G、H、Iに相当する構成は開示されていないから、申立人Bの上記主張は採用できない。
なお、先にも述べたように、本件発明1の構成要件がそれぞれ公知又は周知のものであったとしても、当業者が本件発明1を容易に想到し得たとはいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1ついての判断と同様の理由により、当業者が刊行物1?15に記載の発明に基いて容易に発明することができたものではない。

6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-06-01 
出願番号 特願2012-197568(P2012-197568)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 小野 忠悦
住田 秀弘
登録日 2015-05-01 
登録番号 特許第5739389号(P5739389)
権利者 協伸化成株式会社
発明の名称 連棟型栽培用ハウス  
代理人 有吉 修一朗  
代理人 森田 靖之  

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