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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07D
管理番号 1315687
異議申立番号 異議2016-700049  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-21 
確定日 2016-06-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第5752579号発明「安定化された4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル含有組成物、ビニル化合物の重合禁止剤組成物、及びこれを用いたビニル化合物の重合禁止方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5752579号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5752579号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成23年12月9日に特許出願され、平成27年5月29日に特許の設定登録がされ、平成27年7月22日にその特許公報が発行され、平成28年1月21日に、その請求項1?10に係る発明の特許に対し、特許異議申立人エボニック デグサ ゲーエムベーハー(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年1月21日 特許異議申立書
同年3月11日 取消理由通知書
同年4月19日 意見書(特許権者)

第2 本件発明
特許第5752579号の請求項1?10に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルにその安定化剤として4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを配合したことを特徴とする安定化された4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル含有組成物。
【請求項2】
100重量部の4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルに対して、0.01重量部以上の4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを配合してなる請求項1記載の組成物。
【請求項3】
100重量部の4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルに対して、10?500重量部の4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを配合してなる請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルおよび4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの溶剤をさらに含有してなる請求項1乃至3のうちのいずれか記載の組成物。
【請求項5】
溶剤が水とアルコール化合物との混合溶剤である請求項4記載の組成物。
【請求項6】
100重量部の4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルに対して0.01重量部以上の4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを配合してなるビニル化合物の重合禁止剤組成物。
【請求項7】
100重量部の4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルに対して、10?500重量部の4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを配合してなる請求項6記載のビニル化合物の重合禁止剤組成物。
【請求項8】
4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルおよび4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの溶剤をさらに含有してなる請求項6または7記載のビニル化合物の重合禁止剤組成物。
【請求項9】
溶剤が水とアルコール化合物との混合溶剤である請求項8記載のビニル化合物の重合禁止剤組成物。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれかに記載の重合禁止剤組成物を、ビニル化合物を含む流体に直接、あるいは、更に溶媒に希釈して添加することを特徴とするビニル化合物の重合禁止方法。」

第3 特許異議申立書で申立てられた取消理由の概要
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は以下のとおりである。

1 本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第1?7号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

2 本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第1?9号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

甲第1号証:特表2002-510297号公報
甲第2号証:米国特許出願公開2006/0122341号明細書
甲第3号証:特表2004-513985号公報
甲第4号証:特表2004-513078号公報
甲第5号証:特表2003-515656号公報
甲第6号証:国際公開第00/36052号
甲第7号証:特開2009-114186号公報
甲第8号証:米国特許出願公開2010/0168434号明細書
甲第9号証:特開平11-171906号公報

第4 取消理由通知の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下の理由1及び2に示すとおりである。

1 理由1について
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第6号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

2 理由2について
本件特許の請求項2?4、6?8及び10に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第6号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

甲第6号証:国際公開第00/36052号
甲第1号証:特表2002-510297号公報

第5 当審の判断
1 取消理由通知の理由について
(1)理由1(新規性)について
ア 各甲号証の記載事項について
(ア)甲第6号証について
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。(以下、甲第6号証の記載事項を訳文で示す。訳文については、特許異議申立書の甲第6号証の抄訳文も参照のこと。)

(6a)「本発明は、組成物、並びにモノマー製造及び精製工程の間に容易に重合可能なビニル芳香族化合物の早期重合を効果的に阻害する方法に関する。」(第1頁第3?5行)

(6b)「本発明の一つの目的は、ビニル芳香族化合物、アルキル置換された芳香族化合物もしくはヒドロキシアルキル置換された芳香族化合物、並びに、安定なニトロキシド化合物と少なくとも1つのフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミン、もしくはホスファイト又はこれらの混合物との有効阻害量の組み合わせの混合物を含有し、蒸留又は精製中の早期重合に対して安定化された新規組成物を提供することである。」(第6頁第25?29行)

(6c)「成分(a)のビニル芳香族化合物は、フリーラジカル誘導重合されることができる少なくとも一つの炭素-炭素二重結合を有する。このようなモノマーの典型例は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、スチレンスルホン酸、及び構造異性体、前記化合物の誘導体、前記化合物の混合物等である。」(第7頁第20?26行)

(6d)「成分i)の典型的なニトロキシドとしては、・・・4-ヒドロキシ-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、・・・1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オン、・・・が挙げられる。
好ましい成分i)のニトロキシドは、・・・4-ヒドロキシ-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、・・・1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オンである。」(第9頁化学式の下第1行?同頁下から第3行)

(6e)「実施例1
エチルベンゼンを含有するスチレンモノマーの阻害
減圧下で蒸留することにより、商用グレードのスチレンからt-ブチルカテコール貯蔵安定剤を除去する。窒素パージ下でアルミナを通してゆっくりと濾過することにより、商用グレードのエチルベンゼンから存在するヒドロペルオキシドを除去する。凝縮器、ゴム隔膜及び磁気撹拌棒を備えた300mlの三つ口フラスコに、適切な1以上の安定剤を含有する精製された55mlのスチレンを充填する。これに55mlの純エチルベンゼン(・・・)を添加する。5回の連続した排気及び溶液を撹拌中の窒素充填により無酸素雰囲気を作る。・・・次いで、容器は120度で温度制御された油浴に浸漬される。サンプルを15分間隔で回収し、次いで形成されたポリスチレンの量を屈折率測定により決定する。得られたグラフの測定不可部分に線をフィッティングし、0%ポリマーの部分まで外挿することにより、誘導時間を決定する。
使用される阻害剤の量は、スチレンモノマーに基づく質量百万分率(ppm)で記載する。阻害剤は、以下のとおりである:
ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケート(PROSTAB(商標)5415)
イソオクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロケイ皮酸エステル(IRGANOX(登録商標)L135)
モノ及びジアルキル化tert-ブチル/tert-オクチル-ジフェニルアミンの混合物(IRGANOX(登録商標)L57)
2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オール(ヒンダードアミン)トリス-(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(IRGAFOS(登録商標)168)」(第17頁第14行?第18頁第7行)

(6f)「第1表
試験 溶媒 誘導時間(分)
-------------------
1 クロロベンゼン 75
2 エチルベンゼン 37

PROSTAB(商標)5415は、スチレンに基づく試験1及び2では100ppmで存在する。第1表は、アルキル置換された芳香族化合物の存在下でビニル芳香族モノマーの重合を行う時、ビニル芳香族モノマーの早期熱重合の阻害についてニトロキシド阻害剤はあまり有効ではないことを示す。」(第18頁第10行?最下行)

(6g)「第2表
試験 共安定剤(100ppm) 誘導時間(分)
-----------------------------
2 なし 37
3 IRGANOX(登録商標)L57 60
4 ビタミンE 82
5 IRGANOX(登録商標)L135 82
6 ヒンダードアミン 75
7 IRGAFOS(登録商標)168 60

PROSTAB(商標)5415は、スチレンに基づく試験2?7では100ppmで存在する。第2表は、高められた温度におけるエチルベンゼンの存在下でスチレンの早期重合の阻害に対するニトロキシドの活性向上に対して、フェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミン又はホスファイトの使用が有効であることを示す。」(第19頁第1?13行)

(6h)「実施例2
エチルベンゼンを含有するスチレンモノマーの阻害
2mLの代わりに0.5mLのわずかな空気が溶液中に注入されることを除いて実施例1のようにスチレン阻害実験を行う。PROSTABTM5415と本発明の少なくとも1つのフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミン又はホスファイトとの併用は、これらの条件下でスチレンの早期重合を阻害する相乗的な方法を提供する。」(第20頁第4?10行)

(6i)「実施例3
エチルベンゼンを含有するスチレンモノマーの阻害
ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケートの代わりに4-ヒドロキシ-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン及び1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オンを用いて、実施例1のようにスチレン阻害実験を行う。これらのニトロキシドと本発明の少なくとも1つのフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミン又はホスファイトとの併用は、エチルベンゼンの存在下でスチレンの早期重合を阻害する相乗的な方法を提供する。0.5mlのわずかな空気が溶液中に注入される時に同じ効果が観察される。」(第20頁第11?19頁)

(6j)「実施例4
対応するアルキル置換された芳香族化合物を含有するビニル芳香族モノマーの阻害
スチレン/エチルベンゼンの組合せをメチルスチレン/イソプロピルベンゼン、ビニルトルエン/エチルトルエン、ジビニルベンゼン/エチルスチレン、およびスチレンスルホン酸/エチルベンゼンスルホン酸の組合せに代えて実施例1のように重合阻害実験を行う。1つのニトロキシドと本発明の少なくとも1つのフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミン又はホスファイトとの併用は、対応するアルキル置換された芳香族化合物の存在下でビニル芳香族モノマーの早期重合を阻害する相乗的な方法を提供する。0.5mLのわずかな空気が溶液中に注入される時に同じ効果が観察される。」(第21頁第1?11行)

(6k)「請求の範囲
1.(a)ビニル芳香族化合物、並びに
(b)アルキル置換された又はヒドロキシアルキル置換された芳香族化合物、並びに
(c)i)少なくとも1つの安定ニトロキシド及びii)少なくとも一つのフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミンもしくはホスファイト、又はこれらの混合物の有効安定化量の混合物、
を含む蒸留又は精製中の早期重合に対して安定化された組成物。」(請求の範囲の請求項1)

(6l)「8.成分i)は、・・・4-ヒドロキシ-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、・・・1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オンからなる群から選択される少なくとも1つのニトロキシドである、請求項1に記載の化合物。」(請求の範囲の請求項8)

(6m)「(a)ビニル芳香族化合物、及び
(b)アルキル置換された又はヒドロキシアルキル置換された芳香族化合物の蒸留又は精製中の早期重合に対して、
i)少なくとも1つの安定ニトロキシド、及び
ii)少なくとも一つのフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミンもしくはホスファイト、又はこれらの混合物の有効安定化量の混合物の使用。」(請求の範囲の請求項16)

(イ)甲第1号証について
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(1a)「1.(a)エチレン性不飽和アクリレートモノマーまたは該モノマーの混合物、および
(b)2種のニトロキシド化合物からなる相乗作用混合物の阻害有効量
よりなる、エチレン性不飽和アクリレートモノマーの早期重合を阻害するための組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)

(1b)「5.2種のニトロキシドの重量比が10:1ないし1:10であるところの、請求項1記載の組成物。
6.2種のニトロキシドは、・・・
1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オール、
1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オン、・・・
からなる群より選択されるところの、請求項1記載の組成物。」(特許請求の範囲の請求項5及び6)

(1c)「本発明の一つの目的は、早期重合から保護された組成物を提供することである。他の目的は、エチレン性不飽和アクリレートモノマー中に2種またはそれ以上のニトロキシドからなる相乗作用混合物の有効量を混入することによって、蒸留精製工程の間に該モノマーの早期重合を阻害するための方法を提供することである。」(第7頁第17?21行)

(1d)「一般的な種類としてのニトロキシド化合物はアクリレートを包含する広範囲にわたる種類のモノマーのための有効な重合阻害剤であるけれども、安定化効力における相乗増加は、例えばビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニ-4-イル)セバケートと1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ-4-オールとからなる混合物の使用によって示されることができる。比率の広範囲にわたる変化が相乗阻害を与えるけれども、1:1混合物が非常に有効に思われる。相乗作用は、2種のニトロキシドの重量比が10:1ないし1:10、好ましくは3:1ないし1:3で、また最も好ましくは2種のニトロキシドの重量比が2:1と1:2との間で見られる。」(第8頁第5?13行)

(1e)「重合阻害剤組成物は保護されるモノマー中にあらゆる慣用の方法によって導入されることができる。それは適した溶媒中の濃縮液として、所望の適用位置の直前の上流にあらゆる適当な手段によって添加され得る。」(第11頁第9?11行)

イ 甲第6号証に記載された発明について
甲第6号証の請求の範囲の請求項1には、「(a)ビニル芳香族化合物、並びに(b)アルキル置換された又はヒドロキシアルキル置換された芳香族化合物、並びに(c)i)少なくとも1つの安定ニトロキシド及びii)少なくとも一つのフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミンもしくはホスファイト、又はこれらの混合物の有効安定化量の混合物、を含む蒸留又は精製中の早期重合に対して安定化された組成物。」(摘記(6k))が記載され、実施例1では、その第2表をみると、ビニル芳香族化合物としてスチレンを用いた試験2?7が記載され、アルキル置換された又はヒドロキシアルキル置換された芳香族化合物としてエチルベンゼンが用いられ、i)少なくとも1つの安定ニトロキシドとして、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケートと、共安定剤として、芳香族アミンであるモノ及びジアルキル化tert-ブチル/tert-オクチル-ジフェニルアミンの混合物(IRGANOX(登録商標)L57)を用いた例(試験3)、フェノールであるイソオクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロケイ皮酸エステル(IRGANOX(登録商標)L135)を用いた例(試験5)、ホスファイトであるトリス-(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(IRGAFOS(登録商標)168)を用いた例(試験7)が記載され、ビニル芳香族モノマーの早期熱重合の阻害に関し、ニトロキシド阻害剤の有効性が誘導時間として記載されている(摘記(6g))。
そして、実施例3では、実施例1のビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケートに代えて、4-ヒドロキシ-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(以下「H-TEMPO」ともいう。)及び1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オン(以下「OXO-TEMPO」ともいう。)を用いた例である旨の記載がされている(摘記(6i))。

この実施例3の記載のみをみると、ニトロキシド化合物として、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いたとも、H-TEMPO又はOXO-TEMPOを別々に用いたとも、いずれにも一応解し得るものではある。しかしながら、発明の詳細な説明の他の記載もみると、他の実施例(実施例1,2,4)では、1種類のニトロキシド化合物を用いた例であって、2種類用いた例は記載されていないこと、また、実施例3においても、H-TEMPOとOXO-TEMPOを併用しているのならば、当然記載されるべき両者の配合割合が記載されていないことも勘案すると、実施例3においては、ニトロキシド化合物として、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを別々に用いた例であると解することが自然である。

したがって、実施例3では、ニトロキシド化合物として、OXO-TEMPOとH-TEMPOとを別々に用いた例であるから、甲第6号証には、
「(a)ビニル芳香族化合物としてのスチレン、並びに(b)アルキル置換された又はヒドロキシアルキル置換された芳香族化合物としてのエチルベンゼン、並びに(c)i)安定ニトロキシドとして、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オン、及びii)少なくとも一つのフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミンもしくはホスファイト、又はこれらの混合物の有効安定化量の混合物、を含む蒸留又は精製中の早期重合に対して安定化された組成物」の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されていると認める。

また、甲第6号証の請求の範囲の請求項16には、「(a)ビニル芳香族化合物、及び(b)アルキル置換された又はヒドロキシアルキル置換された芳香族化合物の蒸留又は精製中の早期重合に対して、i)少なくとも1つの安定ニトロキシド、及びii)少なくとも一つのフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミンもしくはホスファイト、又はこれらの混合物の有効安定化量の混合物の使用。」(摘記(6m))が記載され、上記で述べたように、実施例1の記載をみた上で実施例3を勘案すると、実施例3は、ニトロキシド化合物として、OXO-TEMPOとH-TEMPOとを別々に用いた例であるといえるから、甲第6号証には、
「(a)ビニル芳香族化合物、及び(b)アルキル置換された又はヒドロキシアルキル置換された芳香族化合物の蒸留又は精製中の早期重合を防ぐための、i)1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オン、及びii)少なくとも一つのフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミンもしくはホスファイト、又はこれらの混合物の有効安定化量の混合物」の発明(以下「引用発明B」という。)が記載されていると認める。

ウ 対比・判断
引用発明Aの1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オンは、本件発明1の4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルに相当することは明らかである。また、本件発明1は、OXO-TEMPOにその安定剤としてH-TEMPOを配合したことを特徴とする安定化されたOXO-TEMPO含有組成物であって、その他の成分を含め得るものであることは明らかであるから、引用発明AにおいてOXO-TEMPO以外の成分が含まれている点は、両者の相違点とはいえない。

そうすると、本件発明1と引用発明Aとでは、「4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル含有組成物」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)本件発明1では、安定化剤として4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを配合した安定化された組成物であるのに対して、引用発明Aでは、安定化剤として4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを配合することが特定されていない点

上記相違点1は、明らかに実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明とはいえない。

(2)理由2(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)甲第6号証に記載された発明との対比・判断
甲第6号証には、上記(1)イで示したとおりの引用発明Aが記載されており、上記(1)ウ(ア)で述べたとおり、本件発明1と引用発明Aとでは、「4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル含有組成物」である点で一致し、上記(相違点1)で相違する。

そこで相違点1について検討する。

甲第6号証には、アルキル置換された又はヒドロキシアルキル置換された芳香族化合物の存在下、少なくとも1つの安定ニトロキシドに加えて、少なくとも一つのフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミンもしくはホスファイト、又はこれらの混合物の有効安定化量の混合物を添加することにより、蒸留又は精製中に、ビニル芳香族化合物の早期重合を阻害することを達成した発明が記載されている(摘記(6k))。ここで、「少なくとも1つの安定ニトロキシド」の具体例として、H-TEMPOもOXO-TEMPOも記載されている(摘記(6d))が、ニトロキシド化合物は、単にビニル芳香族化合物の早期重合を阻害するための上記安定化混合物のための構成成分として記載されているにすぎず、上記2種のニトロキシド化合物を組み合わせて用いた具体例は記載されていない。そうすると、甲第6号証において、OXO-TEMPOの他に、H-TEMPOを共に用いる動機付けがあるとはいえないから、引用発明Aにおいて、相違点1に係る構成を備えることを当業者が容易になし得たということはできない。

また、甲第1号証には、(a)エチレン性不飽和アクリレートモノマーまたは該モノマーの混合物、および(b)2種のニトロキシド化合物からなる相乗作用混合物の阻害有効量よりなる、エチレン性不飽和アクリレートモノマーの早期重合を阻害するための組成物が記載されており(摘記(1a))、2種用いるニトロキシド化合物として、他の例示化合物と共にH-TEMPO、OXO-TEMPOは記載されている(摘記(1b))が、甲第1号証において2種類のニトロキシド化合物を用いるのは、エチレン性不飽和アクリレートモノマーの早期重合を阻害するためであって、OXO-TEMPOにH-TEMPOを添加することで、OXO-TEMPOを安定化させることについては何ら記載されていないから、甲第1号証の記載から引用発明Aにおいて更にH-TEMPOを配合する動機付けは認められず、引用発明Aにおいて、相違点1に係る構成を備えることを当業者が容易になし得たということはできない。

(イ)効果について
念のため、効果についても検討すると、甲第6号証及び甲第1号証には、本件発明1の作用効果である、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることで、OXO-TEMPOの残存率が向上したことについては記載も示唆もないので、本件発明1の作用効果は予測可能とはいえない。

(ウ)まとめ
よって、本件発明1は、甲第6号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2?4は、上記アで示した理由と同じ理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明6について
(ア)対比・判断
引用発明Bは、「(a)ビニル芳香族化合物、及び(b)アルキル置換された又はヒドロキシアルキル置換された芳香族化合物の蒸留又は精製中の早期重合を防ぐための、i)1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オン、及びii)少なくとも一つのフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミンもしくはホスファイト、又はこれらの混合物の有効安定化量の混合物」であり、ビニル芳香族化合物は、ビニル化合物に相当し、また、甲第6号証には、容易に重合可能なビニル芳香族化合物の早期重合を効果的に阻害する方法であるとの記載がされ(摘記(6a))、早期重合を防ぐとは、重合を禁止することを意味するといえるから、引用発明Bの蒸留又は精製中の早期重合を防ぐための上記「混合物」とは、本件発明6の「ビニル化合物の重合禁止剤組成物」に相当する。

そうすると、本件発明6と引用発明Bとでは、「4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを含むビニル化合物の重合禁止剤組成物」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点2)本件発明6では、ビニル化合物の重合禁止剤組成物に、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル100重量部に対して、4-ヒドロキシ-2,2,6,6,-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを0.01重量部以上配合すると特定しているのに対し、引用発明Bでは4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを配合することが特定されていない点

そこで、上記(相違点2)について検討する。

上記ア(ア)で検討したとおり、甲第6号証及び甲第1号証には、いずれも更にH-TEMPOを配合する動機付けはないから、引用発明Bにおいて、相違点2に係る構成を備えることを当業者が容易になし得たということはできない。

(イ)効果について
念のため、効果についても検討すると、上記「ア(イ)」で検討したとおり、甲第6号証及び甲第1号証には、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることで、OXO-TEMPOの残存率が向上したことについては記載も示唆もなく、そして、OXO-TEMPOの残存率が向上することにより、ビニル化合物の重合禁止がより高まることは明らかであるので、本件発明6の作用効果は予測可能とはいえない。

(ウ)まとめ
よって、本件発明6は、甲第6号証及び甲第1号証の記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明7、8及び10について
本件発明7、8及び10は、本件発明6を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明7、8及び10は、上記ウで示した理由と同じ理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
よって、取消理由通知において示した理由1及び2では、本件特許1?4、6?8、10を取り消すことはできない。

2 その他の特許異議申立書で申立てられた取消理由について
特許異議申立人が申立てた取消理由のうち、甲第6号証を主引用例とした場合については、上記1で検討したので、ここでは、甲第1?5及び7号証を主引用例とした場合について検討する。

(1)理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)甲第1号証について
甲第1号証には、上記1(1)ア(イ)において示したように、「(a)エチレン性不飽和アクリレートモノマーまたは該モノマーの混合物、および(b)2種のニトロキシド化合物からなる相乗作用混合物の阻害有効量よりなる、エチレン性不飽和アクリレートモノマーの早期重合を阻害するための組成物。」の発明が記載され(特許請求の範囲の請求項1)、ニトロキシド

化合物として、他の例示化合物と共にH-TEMPO、OXO-TEMPOが記載され(同請求項6)、実施例において、H-TEMPOを含む2種のニトロキシド化合物を用いた具体例が記載されている。

しかしながら、甲第1号証には、あくまで2種類のニトロキシド化合物を用いることによりエチレン性不飽和アクリレートモノマーの早期重合を阻害する組成物が記載されているのにとどまり、H-TEMPO又はOXO-TEMPOを別々に配合することが記載されているとしても、具体的にH-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることまでもが記載されているとはいえない。

また、甲第1号証において2種類のニトロキシド化合物を用いるのは、エチレン性不飽和アクリレートモノマーの早期重合を阻害するためであって、OXO-TEMPOにH-TEMPOを添加することで、OXO-TEMPOを安定化させることについては何ら記載されていないから、甲第1号証の記載からH-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いる動機付けは認められず、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせ用いることを当業者が容易になし得たということはできない。

(イ)甲第2号証について(以下、甲第2号証の記載を訳文で示す。訳文については、特許異議申立書の甲第2号証の抄訳文も参照のこと。)

甲第2号証には、「ビニル芳香族モノマーの早期重合及びポリマー成長を阻害及び遅延させる方法であって、前記モノマーに、(A)少なくとも一つの芳香族スルホン酸;(B)少なくとも一つのアミン;(C)少なくとも一つのニトロフェノール;並びに(D)ニトロキシラジカル含有化合物及びニトロソアニリンからなる群の少なくとも1つの物質、を含む阻害剤及び遅延ブレンドの有効量を添加する工程を含む、方法。」の発明が記載され(CLAIM1)、ニトロキシラジカル含有化合物として、H-TEMPOやOXO-TEMPOが例示され(段落[0057])、実施例1では、OXO-TEMPOを用いた例が記載されている。

しかしながら、甲第2号証には、あくまでビニル芳香族モノマーの早期重合及びポリマー成長を阻害及び遅延させるため、(A)?(D)の少なくとも1つの阻害剤を用いた組成物が記載されているにすぎず、ニトロキシラジカル化合物として、H-TEMPO又はOXO-TEMPOを別々に用いることが記載されているとしても、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることまでもが記載されているとはいえない。

また、甲第2号証においてニトロキシド化合物を用いるのは、ビニル芳香族モノマーの早期重合及びポリマー成長を阻害及び遅延させるためであって、OXO-TEMPOにH-TEMPOを添加することで、OXO-TEMPOを安定化させることについては何ら記載されていないから、甲第2号証の記載からH-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いる動機付けは認められず、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせ用いることを当業者が容易になし得たということはできない。

(ウ)甲第3号証について
甲第3号証には、「エチレン性不飽和モノマーの早期重合を抑制する方法において、A)少なくとも1種のニトロキシル化合物、及びB)7-位置に電子吸引性基を有する少なくとも1種のキノンアルカイド化合物、の有効量を前記モノマーに添加する工程を包含する、上記抑制方法。」の発明が記載され(請求項1)、ニトロキシル化合物として、H-TEMPOやOXO-TEMPOが例示され(請求項4)、実施例では、OXO-TEMPOを用いた例が記載されている。

しかしながら、甲第3号証には、あくまでエチレン性不飽和モノマーの早期重合を抑制する方法において、ニトロキシル化合物とキノンアルカノイド化合物を組み合わせて用いる組成物が記載されているだけであり、ニトロキシル化合物として、H-TEMPO又はOXO-TEMPOを別々に用いることが記載されているとしても、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることまでもが記載されているとはいえない。

また、甲第3号証においてニトロキシル化合物を用いるのは、エチレン性不飽和モノマーの早期重合を抑制するためであって、OXO-TEMPOにH-TEMPOを添加することで、OXO-TEMPOを安定化させることについては何ら記載されていないから、甲第3号証の記載からH-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いる動機付けは認められず、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせ用いることを当業者が容易になし得たということはできない。

(エ)甲第4号証について
甲第4号証には、「ニトロキシル含有阻止剤を用い、その阻止剤含有工程流が再循環される、不飽和単量体の製造及び精製のための方法において、前記流れを約110℃以下のリボイラー温度で再循環することを含む改良製造精製方法。」の発明が記載され(請求項1)、エチレン系不飽和単量体の重合及び重合体成長を、それらに少なくとも一種類の安定なニトロキシド遊離ラジカル化合物を添加することにより阻止することが記載され(段落【0002】)、ニトロキシル含有化合物として、H-TEMPOやOXO-TEMPOが例示され(段落【0086】)、実施例では、OXO-TEMPOを用いた例が記載されている。

しかしながら、甲第4号証には、あくまでエチレン性不飽和単量体の重合体成長を阻止するため、ニトロキシル含有化合物を用いる組成物が記載されているだけであり、ニトロキシル化合物として、H-TEMPO又はOXO-TEMPOを別々に用いることが記載されているとしても、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることが記載されているとはいえない。

また、甲第4号証においてニトロキシル含有化合物を用いるのは、エチレン性不飽和単量体の重合体成長を阻止するためであって、OXO-TEMPOにH-TEMPOを添加することで、OXO-TEMPOを安定化させることについては何ら記載されていないから、甲第4号証の記載からH-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いる動機付けは認められず、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせ用いることを当業者が容易になし得たということはできない。

(オ)甲第5号証について
甲第5号証には、エチレン不飽和モノマーに、A)第1の抑制剤(化学式の記載は省略する。)と第2の抑制剤を添加することで、エチレン不飽和モノマーの早期重合およびポリマー成長を抑制する発明が記載され(請求項44)、第2の抑制剤として、H-TEMPO、OXO-TEMPOが例示されており(請求項75)、実施例として、H-TEMPO又はOXO-TEMPOをそれぞれ用いた例は記載されている。

しかしながら、甲第5号証には、あくまでエチレン不飽和モノマーの早期重合およびポリマー成長を抑制するために、第1の抑制剤と第2の抑制剤を混合して用いる組成物が記載されているだけであり、第2の抑制剤として、H-TEMPO又はOXO-TEMPOを別々に用いることが記載されているとしても、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることが記載されているとはいえない。

また、甲第5号証において第2の抑制剤を用いるのは、エチレン不飽和モノマーの早期重合およびポリマー成長を抑制するためであって、OXO-TEMPOにH-TEMPOを添加することで、OXO-TEMPOを安定化させることについては何ら記載されていないから、甲第5号証の記載からH-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いる動機付けは認められず、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせ用いることを当業者が容易になし得たということはできない。

(カ)甲第7号証について
甲第7号証には、オレフィン系不飽和モノマーを安定化するために、重合抑制剤を添加することが記載され(請求項1、8)、重合抑制剤として、H-TEMPOやOXO-TEMPOが例示されており(請求項9)、実施例として、H-TEMPO又はOXO-TEMPOをそれぞれ用いた例は記載されている。

しかしながら、甲第7号証には、あくまでエチレン不飽和モノマーの早期重合およびポリマー成長を抑制するために、重合抑制剤を添加した組成物が記載されているだけであり、重合抑制剤として、H-TEMPO又はOXO-TEMPOを別々に用いることが記載されているとしても、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることが記載されているとはいえない。

また、甲第7号証において、重合抑制剤を添加するのは オレフィン系不飽和モノマーを安定化するためであって、OXO-TEMPOにH-TEMPOを添加することで、OXO-TEMPOを安定化させることについては何ら記載されていないから、甲第7号証の記載からH-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いる動機付けは認められず、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせ用いることを当業者が容易になし得たということはできない。

(キ)甲第8号証について(以下、甲第8号証の記載を訳文で示す。訳文については、特許異議申立書の甲第8号証の抄訳文も参照のこと。)

甲第8号証には、モノマーを4-ブトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキサイドと接触させる工程を有する、エチレン性不飽和モノマーの重合を阻害する方法の発明が記載され(請求の範囲の請求項1)、第2の阻害剤としてH-TEMPOやOXO-TEMPOが例示されており(段落[0054]、[0055])、実施例として、H-TEMPO又はOXO-TEMPOをそれぞれ用いた例は記載されている(実施例1、表1)。

しかしながら、甲第8号証には、あくまでエチレン性不飽和モノマーの重合を阻害するために、重合抑制剤を添加したことが記載されているだけであり、重合抑制剤として、H-TEMPO又はOXO-TEMPOを別々に用いることが記載されているとしても、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることが記載されているとはいえず、また、OXO-TEMPOにH-TEMPOを添加することで、OXO-TEMPOを安定化させることについては何ら記載されていないから、甲第8号証の記載からH-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いる動機付けは認められず、甲第1?5、7号証に記載された発明において、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせ用いることを当業者が容易になし得たということはできない。

(ク)甲第9号証について
甲第9号証には、ピペリジン-1-オキシル類にアルコールを配合することにより、オレフィン類の重合禁止剤組成物の発明が記載され、ピペリジン-1-オキシル類として、H-TEMPOやOXO-TEMPOが記載され(特許請求の範囲の請求項1及び2)、実施例として、H-TEMPOを用いた例は記載されている。

しかしながら、甲第9号証には、あくまでオレフィン類の重合禁止のために、ピペリジン-1-オキシル類を含む組成物が記載されているだけであり、重合禁止剤として、H-TEMPO又はOXO-TEMPOを別々に用いることが記載されているとしても、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることが記載されているとはいえず、また、OXO-TEMPOにH-TEMPOを添加することで、OXO-TEMPOを安定化させることについては何ら記載されていないから、甲第9号証の記載からH-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いる動機付けは認められず、甲第1?5、7号証に記載された発明において、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせ用いることを当業者が容易になし得たということはできない。

(ケ)まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲第1?5及び7号証に記載された発明ではないし、また、甲第1?5、7?9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2?5は、上記アで示した理由と同じ理由により、甲第1?5及び7号証に記載された発明ではないし、また、甲第1?5、7?9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明6について
甲第1?5、7号証には、ビニル化合物の早期重合を防止するために、H-TEMPO又はOXO-TEMPOを別々に用いる方法の発明が記載され、ビニル化合物の早期重合を防止するために用いられたH-TEMPO又はOXO-TEMPOは、ビニル化合物の重合禁止剤組成物に相当する。

しかしながら、上記アにおいて述べたとおり、甲第1?5、7号証には、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることは記載されていない。

また、上記アにおいて述べたとおり、甲第1?5、7号証には、OXO-TEMPOにH-TEMPOを添加することで、OXO-TEMPOを安定化させることについては何ら記載されていないから、第1?5、7号証の記載からH-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いる動機付けは認められず、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることを当業者が容易になし得たということはできない。

更に、上記アにおいて述べたとおり、甲第8及び9号証には、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることも、また、OXO-TEMPOにH-TEMPOを添加することで、OXO-TEMPOを安定化させることについても記載されていないから、甲第1?5、7号証に記載された発明において、H-TEMPOとOXO-TEMPOとを組み合わせて用いることを当業者が容易になし得たということはできない。

エ 本件発明7?10について
本件発明7?10は、本件発明6を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明7?10は、上記ウで示した理由と同じ理由により、甲第1?5及び7号証に記載された発明ではないし、また、甲第1?5、7?9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明5、9(甲第6号証を主引用例とした場合)について
取消理由通知では、本件発明5及び9に対して、甲第6号証に記載された発明を主引用例とした場合についての取消理由は通知しなかったので、改めてここで検討する。

本件発明5は、本件発明1を間接的に引用して限定した発明であり、また、本件発明9は、本件発明6を間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明5及び9は、上記1(1)ウ及び1(2)ア及びウで示した理由と同じ理由により、甲第6号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)小括
したがって、その他の特許異議申立書で申立てられた取消理由によっては、本件発明1?10を取り消すことはできない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件特許1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-06-17 
出願番号 特願2011-270431(P2011-270431)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C07D)
P 1 651・ 121- Y (C07D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 憲彦  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 木村 敏康
佐藤 健史
登録日 2015-05-29 
登録番号 特許第5752579号(P5752579)
権利者 伯東株式会社
発明の名称 安定化された4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル含有組成物、ビニル化合物の重合禁止剤組成物、及びこれを用いたビニル化合物の重合禁止方法  
代理人 太田 顕学  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 田中 政浩  

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