• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1316011
審判番号 不服2014-22705  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-07 
確定日 2016-06-15 
事件の表示 特願2010-510358「遺伝子改変された光合成生物のハイスループットスクリーニング」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月11日国際公開、WO2008/150461、平成22年 8月26日国内公表、特表2010-528609〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成20(2010)年5月30日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年6月1日 米国、 2008年3月20日 米国、2008年3月20日 米国)とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成26年11月7日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
原形質状態を決定するために、形質転換した非維管束光合成生物をスクリーニングする方法であって、
第1のプライマー対を用いて前記形質転換した生物の第1の内因性葉緑体核酸配列を増幅させる工程、ここで、第1の内因性葉緑体核酸配列は、前記生物を形質転換するための発現ベクターの標的配列を含み、前記第1のプライマー対の1つのプライマーは、前記発現ベクターによって置換される前記標的配列においてアニールする;
第2のプライマー対を用いて同一のチューブ内で前記形質転換した生物の第2の内因性葉緑体核酸配列を増幅させる工程、ここで、第2の内因性葉緑体核酸配列は、前記生物を形質転換するための発現ベクターの標的配列でない;
前記第1の内因性葉緑体核酸配列が増幅され、前記第2の内因性葉緑体核酸配列が増幅されているか否かを決定する工程;そして、
前記第1の内因性葉緑体核酸配列が増幅されず、および前記第2の内因性葉緑体核酸配列が増幅されている場合に、前記形質転換した生物の原形質状態をホモプラスミーと決定する工程、
を含む、方法。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された本願優先日前の2005年に頒布された刊行物であるBiochem Biophys Res Commun.(2005),Vol.329,No.3,p.966-975(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
なお、翻訳は当審によるものであって、下線は当審が付与したものである。

(ア)「Chlamydomonas reinhardtiiにおける、chlL遺伝子の、Klebsiella pneumoniaeのニトロゲナーゼFeタンパク質遺伝子(nifH)による機能的置換」(タイトル)

(イ)「Chlamydomonas reinhardtiiが暗闇でクロロフィル生合成をするために獲得した必須の葉緑体遺伝子である、chlLのコーディング領域全体を、Klebsiella pneumoniaeのnifH(ニトロゲナーゼFeタンパク質の構造成分をコードする)又は、β-グルコニダーゼをコードするEscherichia coliのuidAレポーター遺伝子で正確に置換した。ホモプラスミックnifH又はuidA形質転換体は、最小培地プレートで数世代にわたっての選別後、サザンブロットによって同定した。全てのuidA形質転換体は、chlL変異体の“暗闇で黄色”表現型特性を有するのに対して、ホモプラスミックnifH形質転換体は、一部“暗闇で緑”表現型を示した。」(要約)

(ウ)「より明確にホモプラスミックとヘテロプラスミックの形質転換体を区別するために、我々はchlL領域の側面に位置する、petBにおけるNcoIサイトから、chlLの下流のXbaIサイトに伸びる、3.4kbプローブも用いた(Fig.2)。7.8kbのEcoRIフラグメントは、chlLを含むDNAにあると予測される。nifHまたはuidAの内側で特異的に切断する二番目の酵素で消化すると、その結果、2つのより短いフラグメントが予測されるから、このフラグメントは、ホモプラスミックな形質転換体には存在しないはずである(Fig.3Dと4C)。nifH形質転換体10Eからの細胞DNA全体が、EcoRIとAhdIで分解され、3.4kbプローブでプローブされた時、期待された2つのより短いバンド(3.7と4.1kb)が検出され、野生型のバンド(7.8kbのEcoRIフラグメント)は、明らかになかった(とても長い暴露時間の後でさえ)。これは、このnifH形質転換体は、確かにホモプラスミックであることを示す(Fig.4C)。二つのuidA形質転換体3Eと3Bの同様な分析において、EcoRIとBamHIの消化で、5.1と3.7kbのハイブリダイズするバンドが得られ、野生型の7.8kbのバンドがないから、それらもホモプラスミックなラインであることが明らかになった(Fig.3D)。念のため、我々はnifHホモプラスミックな系において、chlL特異的オリゴヌクレオチド7と8(Table1)を用いたPCRも行い、追加の45サイクル後でさえバンドがないことは、chlL遺伝子の欠損を証明し、ヘテロプラスミックな系において、野生型chlLの存在を示す、大変明るいバンドが検出された(データ未発表)。」 (第970頁右欄第42行?第972頁左欄第5行)

(エ)「

図1 構造物と2段階の葉緑体形質転換の概略図・・(B)二回目の形質転換のための受容物として用いられるpetB変異体を得るためのpCQ3ベクターの衝撃と、nifHの遺伝子修飾された葉緑体を有するC.reinhardtiiを得るためのnifH遺伝子を有するpCQ9ベクターの送達による、相同組換えでの2段階の葉緑体形質転換」(第968頁、図1)

上記引用例記載事項(ウ)の「念のため、我々はnifHホモプラスミックな系において、chlL特異的オリゴヌクレオチド7と8(Table1)を用いたPCRも行い、追加の45サイクル後でさえバンドがないことは、chlL遺伝子の欠損を証明し、ヘテロプラスミックな系において、野生型chlLの存在を示す、大変明るいバンドが検出された。」において、「nifHホモプラスミックな系」とは、上記引用例記載事項(ア)、(イ)に記載のように、「Chlamydomonas reinhardtiiにおける、葉緑体のchlL遺伝子が、Klebsiella pneumoniaeのnifHに置換された、nifHホモプラスミックな形質転換体」である。
また、「PCRも行い、追加の45サイクル後でさえバンドがない」ことは、核酸配列が増幅されないことであることは本願優先日前の技術常識である。
そして、上記引用例記載事項(ウ)は、nifHホモプラスミックな系において、念のために、PCRによってchlL遺伝子の欠損を証明し、ヘテロプラスミックな系においてchlLの存在を示すバンドが検出されたことが記載されているから、PCRにおいてchlL遺伝子が増幅されない場合に、ホモプラスミーと決定する方法が記載されているといえる。

そうすると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「Chlamydomonas reinhardtiiにおける、葉緑体のchlL遺伝子が、Klebsiella pneumoniaeのnifHに置換された、nifHホモプラスミックな形質転換体において、chlL特異的オリゴヌクレオチド7と8(Table1)を用いたPCRも行い核酸配列が増幅されない場合に、形質転換体をホモプラスミーと決定する方法。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「Chlamydomonas reinhardtii」とは、「非維管束光合成生物」であるから、引用発明の「Chlamydomonas reinhardtiiにおける・・形質転換体」は、本願発明の「形質転換した非維管束光合成生物」に相当する。
また、引用発明の「chlL遺伝子」とは、上記引用例記載事項(イ)、(エ)より、葉緑体に内在する配列で、nifH遺伝子に置換される標的配列であり、nifH遺伝子の形質転換は発現ベクターで行うことから、引用発明の「chlL遺伝子」、「chlL特異的オリゴヌクレオチド7と8」は、それぞれ、「形質転換するための発現ベクターの標的配列を含む、第1の内因性葉緑体核酸」、「発現ベクターによって置換される標的配列においてアニールするプライマー」に相当し、引用発明の「chlL特異的オリゴヌクレオチド7と8」は、本願発明の「第1のプライマー対」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、「形質転換した非維管束光合成生物をスクリーニングする方法であって、
第1のプライマー対を用いて前記形質転換した生物の第1の内因性葉緑体核酸配列を増幅させる工程、ここで、第1の内因性葉緑体核酸配列は、前記生物を形質転換するための発現ベクターの標的配列を含み、前記第1のプライマー対の1つのプライマーは、前記発現ベクターによって置換される前記標的配列においてアニールする;
前記第1の内因性葉緑体核酸配列が増幅されているか否かを決定する工程;
前記第1の内因性葉緑体核酸配列が増幅されない場合に、形質転換した生物をホモプラスミーと決定する方法。」
で一致し、
(相違点1)本願発明は、「原形質状態を決定するためにスクリーニングする方法であって、形質転換した生物の原形質状態をホモプラスミーと決定する工程を含む」のに対して、引用発明は、「原形質状態」をホモプラスミーと決定し、スクリーニングする方法と記載されていない点。
(相違点2)本願発明は、「第2のプライマー対を用いて同一のチューブ内で前記形質転換した生物の第2の内因性葉緑体核酸配列を増幅させる工程、ここで、第2の内因性葉緑体核酸配列は、前記生物を形質転換するための発現ベクターの標的配列でない;、第2の内因性葉緑体核酸配列が増幅されているか否かを決定する工程、第2の内因性葉緑体核酸配列が増幅されている場合に形質転換した生物の原形質状態をホモプラスミーと決定する工程」を含むのに対し、引用発明では、該工程がない点。

4.当審の判断
(相違点1)について
「原形質」とは、 細胞を構成している物質のことであることは、当業者に周知の事項である(必要なら、例えば、今堀和友ほか編、「生化学辞典(第3版)」第2刷、1998年11月20日、株式会社東京化学同人発行、477ページの「原形質」の欄参照。)ところ、引用文献に、内因性葉緑体遺伝子である、chlL遺伝子が、PCRによって増幅されない場合に、形質転換体がホモプラスミーと決定することが記載されており、引用発明においても、形質転換体の細胞を構成している物質をスクリーニングし、ホモプラスミーと決定しているといえるから、上記相違点は実質的な相違ではない。

(相違点2)について
本願優先日前より、PCRによる増幅反応を行う際に、PCRでネガティブな結果がでたときに、鋳型が存在しないのか反応が悪いのか不明であるから、その結果が実験の単純ミスから生じていないことを示すためにポジティブコントロールを用いること、形質転換されているかされていないかをPCRによって確認する際に、ポジティブコントロールとして、形質転換生物および形質転換されていない生物の両方に存在する遺伝子を増幅するプライマー対を用いること、ポジティブコントロールのプライマー対によるPCR反応を標的遺伝子を増幅するプライマー対と同一のチューブ内で行うことは、周知である(例えば、J Clin Microbiol.(1992),Vol.30,No.12,.p.3185-3189のAbstract、細胞工学別冊 目で見る実験ノートシリーズ バイオ実験イラストレイテッド 新版 本当に増えるPCR,1999年7月1日第2版第2刷発行、株式会社秀潤社、p.49-51、特開2001-238700号公報 段落【0022】?【0026】参照)。
したがって、引用発明の、chlL遺伝子を増幅する第1のプライマー対によるPCRにより、chlL遺伝子が増幅されないことを確認するスクリーニング方法に加えて、ポジティブコントロールとして、「chlL遺伝子が形質転換されていないChlamydomonas reinhardtii」と「chlL遺伝子がnifHに形質転換されているChlamydomonas reinhardtii」の両方に発現する遺伝子を増幅する第2プライマー対を同一チューブ内に設けること、第2プライマー対として、置換標的ではない、葉緑体遺伝子を増幅するプライマー対をポジティブコントロールとし、第1のプライマー対による増幅がされないことが、chlL遺伝子の不存在であることを確認することは、当業者が容易に想到しうることである。
そして、本願発明において奏される効果も、引用例から予測できない程の格別なものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用例に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

5.審判請求人の主張
審判請求人は、平成26年11月7日付審判請求書において、引用文献3では、原形質状態を決定するためにPCRのみを用いて1群のコロニーを試験しておらず、並行して別個の群から同質細胞質コロニーを同定するためにサザンブロッティングを使用しており、PCRは、サザンブロッティングを用いて同質細胞質として同定したコロニーについて行っているにすぎないから、同引用文献は、未知の原形質状態を有する形質転換体を選別するためにPCRを使用することは記載も示唆もしておらず、PCRのみが生物の原形質状態を決定するとの目的を達成したであろうことは示唆さえしていない旨、主張している。
しかしながら、サザンブロッティングによってホモプラスミーであるとした形質転換体についてではあるが、ホモプラスミーであるか確認する手段として、PCRによって、形質転換の標的遺伝子が増幅されないことをもって、ホモプラスミーであるかを確認できることが引用例に記載されていれば、サザンブロッティングを用いることなく、PCR単独で形質転換体がホモプラスミーであるかを決定することは、当業者が容易に想到しうることである。
また、本願発明は、PCRにより形質転換体がホモプラスミーと決定する工程を含むスクリーニング方法であり、他の検出方法を含むことを妨げるものではない。なお、本願発明に相当する、本願実施例においても、形質転換細胞を確認するために、薬剤耐性で選別したり、サザンブロッティング、形質転換によって導入した遺伝子を検出するPCRも併せて行っている。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

6.むすび

以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
 
審理終結日 2016-01-13 
結審通知日 2016-01-19 
審決日 2016-02-01 
出願番号 特願2010-510358(P2010-510358)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉森 晃北村 悠美子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
▲高▼ 美葉子
発明の名称 遺伝子改変された光合成生物のハイスループットスクリーニング  
代理人 青木 篤  
代理人 福本 積  
代理人 古賀 哲次  
代理人 中村 和美  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 福本 積  
代理人 石田 敬  
代理人 武居 良太郎  
代理人 武居 良太郎  
代理人 中村 和美  
代理人 石田 敬  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ