ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
---|---|
管理番号 | 1316100 |
審判番号 | 不服2014-2355 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-02-07 |
確定日 | 2016-06-17 |
事件の表示 | 特願2010-502337「ポリ(アミノ酸)ターゲッティング部分」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月16日国際公開、WO2008/124639、平成22年7月15日国内公表、特表2010-523595〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.出願の経緯 本願は、平成20年4月4日(パリ条約による優先権主張:2007年4月4日、同年5月17日、同年11月2日、同年11月7日及び同年11月26日:いずれもアメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願である。 そして、平成23年3月30日に手続補正書が提出され、平成25年2月22日付けで拒絶理由が通知され、同年5月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月4日付けで拒絶査定され、平成26年2月7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年5月14日付けで前置審査の結果が報告された。 その後、当審において、同年8月29日付けで審尋され、平成27年2月26日付けで回答書が提出され、同年5月20日付けで拒絶理由が通知され、同年10月21日に意見書及び手続補正書が提出された。 2.本願発明について 本願の請求項1?56に係る発明は、平成27年10月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?56にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 不安定プラーク、癌、または再狭窄の治療において使用するための、ポリマーから形成される標的特異的ナノ粒子の処方物であって、該ナノ粒子は、不安定プラーク、癌、または再狭窄の治療のための治療薬、予防薬、または診断薬を含み、 該ナノ粒子が、(i)血管の基底膜におけるコラーゲン、(ii)損傷した脈管構造、または(iii)HER2を特異的に標的とする、ナノ粒子に付着したポリ(アミノ酸)標的部分を有し、 該ポリ(アミノ酸)は、タンパク質、アフィボディ、ペプチド、ならびに、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、修飾されたアミノ酸もしくは保護されたアミノ酸を含むペプチド模倣物からなる群より選択され、 該ポリマーは1種以上のポリエステルもしくはポリエチレングリコール(PEG)またはそれらの組合せを含む、処方物。 3.当審の判断 (1)引用刊行物及びその記載事項 ア.原査定の拒絶理由で引用され(引用文献1)、本願の出願(優先権主張日)前に日本国内又は外国において頒布された、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2006/099445号(以下、「引用例1」という。)には、次の記載がある。なお、引用例1は英語で記載されているところ、その訳文として特表2008-533157号公報の記載を援用する。 (ア)「【請求項1】 放射性核種と結合するリガンドと結合した内側のナノコア、及び脂質及びポリアセチレングリコールを含む外層を有するナノセルを含む放射性核種ナノセル組成物であって、放射性核種が該ナノコアと結合した該リガンドと複合体を形成し、該ナノセルが900nm未満である、組成物。 …… 【請求項3】 標的リガンドを更に含む、請求項1に記載の放射性核種ナノセル組成物。 【請求項4】 治療部分を更に含む、請求項1に記載の放射性核種ナノセル組成物。 【請求項5】 前記ポリアセチレングリコールがポリエチレングリコール(PEG)である、請求項1に記載の放射性核種ナノセル組成物。」 (イ)「【0036】 別の実施形態において、放射性核種ナノセルは、特定の細胞をターゲティングするナノセル上のリガンドを使用することによって、特定の組織にターゲティングされる。好ましい実施形態において、リガンドは、脂質ナノシェル又はPEG上のナノセルと結合する。このような実施形態において、ナノセルのサイズ範囲は5?50nm、好ましくは30?45nmである。」(段落[0048]) (ウ)「【0043】 例えば、ナノセルは、異なる組織において癌関連炭水化物をターゲティングするようにテーラーメイドしてもよい。……。TF抗原結合ペプチドは、ナノセルの表面上(例えばナノシェル上)のポリエチレングリコール(PEG)スペーサーの末端において挿入されるマレイミドに選択的にコンジュゲートするためにN末端におけるチオール官能基を取り込むために利用され、修飾される。量子ドットとペプチドの間のPEGスペーサーは、ペプチドの柔軟性を向上させることで、細胞表面上の抗原との多価の相互作用を促進する。別の実施形態において、リガンドはナノコアに取り込まれる場合がある。」(段落[0055]) (エ)「【0052】 ナノコアは、好ましくはマトリックス中で結合される放射性核種複合体を含有する。マトリックスは、好ましくは生分解性及び生体適合性のポリマーマトリックスである。ナノコアを調製するのに有用なポリマーには、合成ポリマー及び天然ポリマーが含まれる。これらのナノコアは、脂質、タンパク質、炭水化物、単純な複合体及びポリマー(例えば、PLGA、ポリエステル、ポリアミド、ポリ炭水化物、ポリ(β-アミノエステル)、ポリカルバミド、多糖類、ポリアリール、ポリ尿素、ポリカルバメート、タンパク質等)等の物質の何れか、並びに当業界で既知の方法(例えば、複乳剤、噴霧乾燥、位相転移等)の何れかを使用して調製される。診断薬は、ナノコア中に取り込まれてもよければ、帯電を介して共有結合したり、イオン結合したり、又はリンカー結合を介して結合してもよい。」(段落[0064]) (オ)「【0087】 好ましい実施形態において、ナノセルは又、脂質二重層の外側等の表面に優先的に露出しているポリエチレングリコール(PEG)も含有する。PEGは、細網内皮系(RES)又は正常組織によってナノセルが取り込まれるのを阻止する。 【0088】 本発明の一態様によれば、ポリエチレングリコール(PEG)は、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)(又は本発明のナノセルの調製に使用されるその他何れかの脂質)に共有結合でコンジュゲートする。PEG-DSPEは、PEGポリマーによって形成される親水性「シェル」で囲まれたジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)の脂肪酸からなる疎水性コアを有するミセルを形成する。脂質コート上にPEGポリマーが存在することで、免疫系によるナノセルのインビボ検出、及び細網内皮系(RES)による取り込みが阻止される。」(段落[0099]?[00100]) (カ)「【0120】 本発明の一実施形態においては、腫瘍等の所望の血管新生疾患又は障害を処置するための新規の組成物及び方法が開示される。この実施形態において、ナノセルは、長時間作用するように選択的に選ばれた第一の治療薬を含有するナノコア、及び即時に且つより短い時間作用するように選択的に選ばれた、外側のナノシェル内に封入された第二の治療薬を含む。好ましい一実施形態において、テーラーメイドナノセルは、血管新生(例えば腫瘍、黄斑変性症)の部位で選択的に浸出し、正常な脈管構造を通過せず、腫瘍を有さない細胞に浸入しないように、約60nm超にサイズ制限されている。本発明の好ましい実施形態において、テーラーメイドナノセルは、全体直径が約60nm?約600nmである。テーラーメイドナノセルは又、イメージングと処置を組み合わせる前述のようなイメージング薬を含む場合もある。 【0121】 一実施形態において、ナノコア中に存在する第一の治療薬は抗新生物薬であり、ナノシェル中に存在する第二の治療薬は抗血管新生薬である。 」(段落[00132]?[00133]) イ.原査定の拒絶理由で引用され(引用文献7)、本願の出願(優先権主張日)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である「Anna Orlovaら、“Synthetic Affibody Molecules: A Novel Class of Affinity Ligands for Molecular Imaging of HER2-Expressing Malignant Tumors”、Cancer research、2007年3月1日、67巻5号、2178?2186頁」(以下、「引用例2」という。)には、次の記載がある。なお、引用例1は英語で記載されているところ、その訳文で示す。 (ア)「合成アフィボディ分子:HER-2発現悪性腫瘍の分子イメージングのための新規なクラスの親和性リガンド」(表題) (イ)「アフィボディ分子Z_(HER2:342-pep2)〔1,4,7,10-テトラ-アザシクロドデカン-N,N',N",N"'-四酢酸(DOTA)キレート化剤でサイト特異的かつ均一に結合された〕が、ペプチド合成による単回化学プロセスで製造された。DOTA-Z_(HER2:342-pep2)は自発的に折りたたまれ、HER2に65pmol/Lの親和性で結合する。^(111)Inを95%以上組み込みんだ効率的な放射性標識化は、低温(室温)及び高温(90℃まで)で、30分以内に成し遂げられた。^(111)In-DOTA-Z_(HER2:342-pep2)の腫瘍取り込みは、HER2陽性の異種移植片に特異的であった。組織1グラム当たり23%の導入活性という高い腫瘍への取り込み(血液と比較して7.5倍以上)と、高コントラストγ線カメラ画像は注射後1時間ですでに得られた。ハーセプチンによる前処理は腫瘍標的化を妨害せず、一方、^(111)In-DOTA-Z_(HER2:342-pep2)の投与前にヒートショックプロテイン90阻害剤である17-アリルアミノ-ゲルダナマイシンを用いたHER2の消耗は腫瘍画像を消去した。本結果は、放射性標識化合成DOTA-Z_(HER2:342-pep2)は、HER2発現カルシノーマの生体内分子イメージングのための臨床的に有用な放射性医薬品になる可能性があることを示している。」(Abstract) (2)引用例1に記載された発明 引用例1には、摘示(ア)?(カ)の記載からみて、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 腫瘍の処置において使用するための、ポリマーから形成されるナノセルの組成物であって、該ナノセルは、腫瘍の治療のための治療薬、予防薬、又は診断薬を含み、 該ナノセルが、腫瘍をターゲッティングする、ナノセル上のリガンドを有し、 該ポリマーは1種以上のポリエステルもしくはポリエチレングリコール(PEG)又はそれらの組合せを含む、組成物。 (3)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「腫瘍」、「処置」、「ナノセル」、「組成物」、「ターゲッティング」及び「リガンド」は、それぞれ本願発明の「癌」、「治療」、「ナノ粒子」、「処方物」、「特異的に標的」及び「標的部分」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「癌治療において使用するための、ポリマーから形成される標的特異的ナノ粒子の処方物であって、該ナノ粒子は、癌の治療のための治療薬、予防薬、又は診断薬を含み、 該ナノ粒子が、標的物質を特異的に標的とする、ナノ粒子に付着した標的部分を有し、 該ポリマーは1種以上のポリエステルもしくはポリエチレングリコール(PEG)又はそれらの組合せを含む、処方物。」 の点で一致し、次の点で相違する。 相違点: 標的物質を特異的に標的とする標的部分について、本願発明は「(i)血管の基底膜におけるコラーゲン、(ii)損傷した脈管構造、または(iii)HER2を特異的に標的とするポリ(アミノ酸)であり、該ポリ(アミノ酸)は、タンパク質、アフィボディ、ペプチド、ならびに、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、修飾されたアミノ酸もしくは保護されたアミノ酸を含むペプチド模倣物からなる群より選択され」るものであることが特定されているが、引用発明では「腫瘍をターゲッティングする」と特定されているのみである点 (4)判断 引用例2には、合成アフィボディ分子Z_(HER2:342-pep2)がHER-2に親和性であり、HER-2発現腫瘍を特異的に標的とすることが記載されている。ここで、合成アフィボディ分子Z_(HER2:342-pep2)は、アフィボディであるから本願発明におけるポリ(アミノ酸)に該当する。 そうすると、引用発明のナノ粒子処方物の腫瘍をターゲッティングする標的部分として引用例2に記載されたHER-2を特異的に標的とする合成アフィボディ分子を採用し、HER-2発現腫瘍の治療、予防、診断に使用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、その効果も当業者の予測する範囲内である。 (5)小括 そうすると、本願の請求項1に係る発明は引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 4.請求人の主張について 請求人は、審判請求書において、 「本願発明は、内皮基底膜においてのみ露出され、細胞間の結合が、例えば、癌、再狭窄および敗血症から生じる漏出性の結合である場合にのみ露出されるリガンドを標的するナノ粒子を特徴とします。それゆえ、本願発明のナノ粒子は、漏出性結合内で露出されたリガンドに対してナノ粒子を標的化することによって、ナノ粒子が上皮を貫通し得るという驚くべき発見に基づき、障害または疾患に起因して破られた内皮基底膜を介してのみ所望の領域に薬物を送達するのです。」 と主張している。 しかしながら、本願発明は、補正により「該ナノ粒子が、(i)血管の基底膜におけるコラーゲン、(ii)損傷した脈管構造、または(iii)HER2を特異的に標的とする、ナノ粒子に付着したポリ(アミノ酸)標的部分を有し」となり、「(iii)HER2を特異的に標的とする」ものは、「(i)血管の基底膜におけるコラーゲン」や「(ii)損傷した脈管構造」を標的とするものとは直接関係するものではないことが明らかになったことから、上記請求人の主張は、特許請求の範囲における特定事項の一部についてのものであって、本願発明全体にかかるものとしては採用することはできない。 5.むすび 上記したとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであり、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、この理由により拒絶すべきものである。 よって、上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-01-22 |
結審通知日 | 2016-01-25 |
審決日 | 2016-02-08 |
出願番号 | 特願2010-502337(P2010-502337) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高橋 樹理 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
小久保 勝伊 関 美祝 |
発明の名称 | ポリ(アミノ酸)ターゲッティング部分 |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 森下 夏樹 |