• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1316158
審判番号 不服2014-26644  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-26 
確定日 2016-06-20 
事件の表示 特願2012-548073「アモルファス合金シール及び接合」拒絶査定不服審判事件〔平成23年7月7日国際公開、WO2011/082428、平成25年5月13日国内公表、特表2013-516326〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)1月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年(平成22年)1月4日、米国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続きの経緯は以下のとおりである。

平成24年 9月 4日 :国際出願翻訳文提出書の提出
平成24年 9月 5日 :手続補正書の提出
平成25年12月16日付け:拒絶理由の通知
平成26年 4月11日 :意見書、手続補正書の提出
平成26年 8月20日付け:拒絶査定
平成26年12月26日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成27年 6月25日 :上申書の提出



第2 平成26年12月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年12月26日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正
本件補正は、(1)独立請求項である、請求項1、5、9、11、13、14、17、19及び20の各請求項に係る発明の発明特定事項である「密封シール」について「流体や微生物に対して不浸透性の気密シール」と限定を付加するもの、(2)請求項2における「第1の部分及び第2の部分が」なる補正前の記載を「前記第1のパーツ及び前記第2のパーツが」と訂正するものである。よって、本件補正は、(1)特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を、(2)同項第3号の誤記の訂正をそれぞれ目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1又は請求項17に記載された発明(以下、それぞれ「本願補正発明1」、「本願補正発明17」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。


2 補正後の本願発明

本願補正発明1は、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「第1の表面を含む第1のパーツ及び第2の表面を含む第2のパーツを提供する工程と、
少なくとも部分的にアモルファス状であり、ガラス転移温度Tg及び結晶化温度Txを有する組成物を提供する工程と、
前記組成物をTxよりも低い第1の温度に加熱する加熱工程と、
当該加熱された組成物を前記第1の表面の一部分及び前記第2の表面の一部分に配置して、それらの間に界面層を形成する配置工程と、
前記界面層をTgより低い第2の温度まで冷却し、当該界面層を前記第1の表面及び前記第2の表面の少なくとも一つと密着させて流体や微生物に対して不浸透性の気密シールである密封シールを形成する冷却工程と、
を備える、
方法。」


また、本願補正発明17は、特許請求の範囲の請求項17に記載された以下のとおりのものである。
「第1の表面と、前記第1の表面の一部分の上に配置された密封シールとを有し、前記密封シールが少なくとも部分的にアモルファス状の組成物を有し、前記密封シールが流体や微生物に対して不浸透性の気密シールである、物品。」

なお、請求人は、平成27年6月25日に提出された上申書において、請求項17に記載された「第1の表面」を「第1の表面を有する第1のパーツ」とする発明の明確化を希望する旨述べているが、物品に表面が存在すること及び物品が部品(パーツ)を有することは当然であることから、請求項17に係る発明自体は明確であるといえる。請求人が希望する上記発明の明確化は、請求項17を引用する請求項18との関係において必要となる明確化であり、請求項18に係る発明を明確化するためのものであるといえ、請求項17に係る発明自体を認定する上では「第1のパーツ」という文言の有無によって実質的な差異があるものではない。よって、本願補正発明17については、上記特許請求の範囲に記載のとおり認定するものである。


3 引用刊行物及びその記載事項
現査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2008/0251164号明細書(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている(理解の便のため、下線及び参考仮訳を当審で付した。)。

ア [0003]
「For example, tetraethyl-lead was formerly used as an “anti-knock” additive in gasoline, lead solder was used in plumbing applications, and of course in past decades lead was commonly found in paint.」
(参考仮訳:例えば、テトラエチル鉛はガソリンへの「耐ノッキング」添加剤として従来使用され、鉛はんだは配管の用途で使用され、もちろん過去数十年間鉛は一般に塗料で見られた。)


「[0026] The current invention is directed to methods and compositions for a novel metal-to-metal or material-to-material joining technique using bulk metallic glasses. The method of the current invention relies on the superior mechanical properties of bulk metallic glasses and/or softening behavior of metallic glasses in the undercooled liquid region of temperature-time process space, enabling joining of a variety of materials at a much lower temperature than typical ranges used for soldering, brazing or welding. For example, by selection of the appropriate bulk metallic glasses can be used in the semiconductor industry, e.g., copper, copper-aluminum, gold, to allow for the replacement of lead and lead alloy solders.」
(参考仮訳:[0026] 本発明はバルク金属ガラスを用いた新規な金属対金属又は材料に材料接合技術のための方法および組成物に関する。本発明の方法は、温度時間処理空間の過冷却液体領域内のバルク金属ガラスの優れた機械的特性および/または金属ガラスの軟化挙動に依存して、はんだ付け、ろう付け又は溶接に使用される典型的な範囲よりもはるかに低い温度で種々の材料の接合を行うことができる。例えば、適切なバルクの選択により金属ガラスは、半導体産業で使用される、例えば、銅、銅-アルミニウム、金、鉛及び鉛合金はんだの交換を可能にすることができる。)


「[0028] The flowchart of the basic joining process in accordance with the current invention is set forth in FIG. 3. As shown the process entails three basic process steps the preparation of the amorphous alloy joining material (Step A), the preparation of the materials to be joined (Step B), and then the formation of the joint.」
(参考仮訳:[0028] 本発明による基本的な接合処理のフローチャートを図3に示す。示された処理は、アモルファス合金接合材料の準備(ステップA)、接合される材料の準備(ステップB)、そして接合部の形成の3つの基本的な工程を必要とする。)


「[0035] Finally, once the joining material and the materials to be joined are sufficiently prepared the joint itself is formed as shown by Step C in FIG. 3. Generally, the joint formation process in accordance with the current invention requires an application of heat to allow the joint material to reach a temperature profile suitable for bonding the interface surfaces of the pieces to be joined, and a suitable pressure has to be applied to bring the interface surfaces together to form the joint in question.」
(参考仮訳:[0035] 最後に、接合部を形成するのに十分に準備された接合材と接合される材料によるジョイント自体は、図3のステップCに示すように形成される。一般的に、本発明による接合の形成は接合材料は接合されるべき部材の接合面を接合するための適切な温度プロファイルに達するように加熱を必要とし、適切な圧力を加え接合面を混ぜ合わせるために接合部を形成するようにしなければならない。)

オ [0037]
「The temperature profile of the thermoplastic joining process is labeled as “Method 1” in temperature curve shown in FIG. 4.」
(参考仮訳:熱可塑性接合工程の温度プロファイルは、図4に示す温度曲線において「方法1」としてラベル付けされる。


「[0038] As shown in FIG. 4, under this thermoplastic joining process the BMG is heated to a temperature between the BMG material's glass transition (Tg) and crystallization (Tx) temperatures. At this temperature the BMG becomes a supercooled liquid.」
(参考仮訳:[0038] 図4に示すように、この熱可塑性接合処理中のBMGは、BMG材料のガラス転移温度(Tg)と結晶化温度(Tx)との間の温度に加熱される。この温度ではBMGは、過冷却液体となる。)


「[0041] As such, by judiciously choosing the amorphous alloy system, the amorphous joining technique of the current invention may be used for a wide variety of metal-to-metal joints using thermoplastic processing, not limited to the applications found in any specific industry. For example, the technique could be applied to metal-to-BMG joining, or BMG-to-BMG joining, fasteners, etc.」
(参考仮訳:[0041] このため、非晶質合金系を慎重に選定することにより、本発明の非晶質接合技術は、特定の産業で発見された用途に限られること無く、熱可塑処理工程を用いる、多種多様な金属-金属接合に使用される。例えば、本技術は、金属-BMG接合、またはBMG-BMG接合、固定具などに適用することができる。)


「[0053] For example, the process of forming an exemplary joint is shown in FIG. 8. As shown, the BMG joining material can be provided in any suitable form. In the example the BMG is provided in the form of balls that can be applied where needed to form the joint. Flux can then be optionally applied to create a good wetting surface. The joining area is heated to a temperature sufficient to activate the flux, and is then heated to another temperature in accordance with the joining technique chosen. In the example shown in FIG. 8 above, a thermoplastic technique has been chosen, so the temperature is raised to the Tg of the BMG used, and then the two metal pieces are sandwiched together. When the BMG is sufficiently soft the balls of BMG will thermoplastically flow and fill up the space between the two metal surfaces. The joint is then cooled down to room temperature. 」
(参考仮訳:[0053] 例えば、例示的な接合部を形成するまでの工程を図8に示す。示されているように、BMG接合材料は、任意の適切な形態で提供することができる。例では、BMGは、接合部を形成するのに適用可能な球形状で提供される。フラックスは、次いで、必要に応じて、良好な濡れ表面を形成するために適用することができる。接合領域は、フラックスを活性化するのに十分な温度まで加熱され、そして選択された接合技術に適した別の温度に加熱される。上述の図8に示した例では、熱可塑技術が選択されているので、温度は使用するBMGのTgまで上昇させた後、2金属片を挟み込む。BMGが十分に柔らかい場合、BMGのボールは、熱可塑的に流れ、2つの金属表面の間の空間を埋めるであろう。接合部を室温まで冷却する。)

ケ[0055]
「Such a mechanical interlock could be a desirable alternative to current conventional fasteners such as rivets and fasteners.」
(参考仮訳:このような機械的な結合は、リベットやファスナのような現在の従来型の固定具に対する望ましい代替方法とすることができる。)

コ EXAMPLES
「[0131] An exemplary embodiment of the thermoplastic joining method of the current invention is demonstrated. In this approach, the bulk metallic glass is heated to the supercooled liquid region of the amorphous material and a small force is applied to the joint, resulting in good wetting and a strong bond. Complete wetting between a copper substrate and a platinum based bulk metallic glass is demonstrated and leads to atomistically intimate void-free interface, which is devoid of any reaction phase (e.g., intermetallic compounds).
(参考仮訳:[0131] 本発明の熱可塑接合方法の例示的な実施形態が示される。このアプローチでは、バルク金属ガラスは、非晶質材料の過冷却液体域に加熱され、微小な力が接合部に印加され、良好な濡れ性及び強い結合が得られる。銅基板と白金系バルク金属ガラスとの間の完全な濡れが発現し、反応相(例えば金属間化合物)が形成されていない、ボイドフリーで原子的に密着した界面がもたらせられる。)

サ FIG.3
「The two pieces of materials to be joined should be also be preparation:」
(参考仮訳:接合される2部材も準備される)

シ FIG.4
図4には、「method(1)」として温度プロファイルが図示されており、当該温度プロファイルは、ガラス転移温度Tgより高い第1の温度に加熱する工程の後に、ガラス転移温度Tgより低い第2の温度まで冷却する工程からなることが看取される。

ス FIG.11
図11には、2つのCu cylinderと、各Cu cylinderがそれぞれの表面を含むこと、BMG solderを各Cu cylinderの表面の一部分上の間に配置することがそれぞれ看取される。
よって、2つのパーツのそれぞれに表面を含むこと、両表面の一部分上の間にBMG solderからなる接合材を配置することが記載されているといえる。

セ 刊行物1に記載された発明
上記摘記事項ア?サ及び認定事項シ?セを技術常識を踏まえ本願補正発明1及び17に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。
「第1の表面を含む第1のパーツ及び第2の表面を含む第2のパーツを提供する工程と、
少なくとも部分的にアモルファス状であり、ガラス転移温度Tg及び結晶化温度Txを有する組成物を提供する工程と、
前記組成物をTxよりも低い第1の温度に加熱する加熱工程と、
当該加熱された組成物を前記第1の表面の一部分及び前記第2の表面の一部分に配置して、それらの間に接合材層を形成する配置工程と、
前記接合材層をTgよりも低い第2温度まで冷却し、当該接合材層を前記第1の表面及び第2の表面の少なくとも1つと密着させて接合部を形成する冷却工程と、
を備える、
方法。」(以下、「刊行物1発明1」という。)
「第1の表面と、前記第1の表面の一部分上に配置された接合材とを有し、前記接合材が少なくとも部分的にアモルファス状の組成物を有する、物品。」(以下、「刊行物1発明2」という。)


4 対比
まず、方法に関して、本願補正発明1と刊行物1発明1とを対比する。
次に、物品に関して、本願補正発明17と刊行物1発明2とを対比する。

ア 方法
本願補正発明1と刊行物1発明1とを対比すると、本願補正発明1における「接合材層」は、第1の表面と第2の表面との間の境界面に形成される層であるから、本願補正発明1における「接合材層」と刊行物1発明1の「界面層」とは、一致する。
よって、本願補正発明1と刊行物1発明1とは、以下の点で一致し、同様に以下の点で相違する。
<一致点>
「第1の表面を含む第1のパーツ及び第2の表面を含む第2のパーツを提供する工程と、
少なくとも部分的にアモルファス状であり、ガラス転移温度Tg及び結晶化温度Txを有する組成物を提供する工程と、
前記組成物をTxよりも低い第1の温度に加熱する加熱工程と、
当該加熱された組成物を前記第1の表面の一部分及び前記第2の表面の一部分に配置して、それらの間に界面層を形成する配置工程と、
前記界面層をTgより低い第2の温度まで冷却し、当該界面層を前記第1の表面及び前記第2の表面の少なくとも一つと密着させる冷却工程と、
を備える、
方法。」
<相違点1>
冷却工程において界面層を冷却して形成されるものに関して、本願補正発明1は、「流体や微生物に対して不浸透性の気密シール」である「密封シール」であるのに対して、刊行物1発明1は、「接合部」であり、その余の点が不明である点。

イ 物品
本願補正発明17と刊行物1発明2とを対比すると、本願補正発明17における「密封シール」と刊行物1発明2の「接合材」とは、少なくとも部分的にアモルファス状の組成物を有する「部材」である点で共通するといえる。
よって、本願補正発明17と刊行物1発明2とは、以下の点で一致し、同様に以下の点で相違する。
<一致点>
「第1の表面と、前記第1の表面の一部分の上に配置された部材とを有し、前記部材が少なくとも部分的にアモルファス状の組成物を有する、物品。」
<相違点2>
上記の「部材」に関し、本願補正発明17は、「密封シール」であって「流体や微生物に対して不浸透性の気密シール」であるのに対して、刊行物1発明2の「接合材」は、それらの点が不明である点。



5 判断
上記各相違点について検討する。
ア 相違点1
刊行物1には、段落[0003]に「鉛はんだは配管の用途で使用され」と記載され、段落[0026]に「はんだ付け、ろう付け又は溶接に使用される典型的な範囲よりもはるかに低い温度で種々の材料の接合を行うことができる」と記載され、段落[0041]に「固定具などに適用することができる」と記載され、段落[0055]に「リベットやファスナのような現在の従来型の固定具に対する望ましい代替方法とすることができる。」と記載されている。
これらの記載からすると、刊行物1に接した当業者であれば、刊行物発明1について、種々の材料の接合で用いられる、「はんだ付け」、「ろう付け」、「溶接」の代替手段として利用できるのではないかとの認識を持つことは十分想到し得る事項である。
また、そのような認識を持った際に、具体例として段落[0003]に記載された「配管」に用いてみようと思うことも、例えば、特開平6-63741号公報、特開平9-317959号公報、特開平6-63771号公報、特開2007-895号公報に開示されているように管自体を接合することが周知であり、アモルファス合金を用いることも周知であることからして、格別の創意工夫が必要であったものとは認められない。
そして、本願出願時点で、具体的構成は別として、管を接合しようとすれば流体が不浸透となるようにしたいと思うことは十分想到し得る事項である。
なお、本願補正発明1について、流体が不浸透となるようにするために、どのような創意工夫が必要であったのかは明らかでなく、明細書全般からも、どのような工夫によって、本願補正発明1において初めて流体が不浸透とできるようになったのかも明らかではない。


イ 相違点2
相違点2の内容は、相違点1の内容と実質的に同様であるので、検討結果も同様のものとなる。

ウ 請求人の主張
請求人は、意見書(平成26年4月11日提出)、審判請求書(平成26年12月26日提出)、上申書(平成27年6月25日提出)において、刊行物1発明は、その発明者であるWilliam L, Johnson教授が述べているように、密封シールを形成するとは限らないものである旨主張しているので、当該主張について検討する。
そもそも上記意見書に付されたJohnson教授によるDeclarationは、米国特許第5,482,580号明細書に関するものであって、刊行物1に関するものではない。また、同意見書では、当該Declarationが刊行物1についても当てはまる旨の意見(2014年4月7日付けRemarksに関する部分)を述べているが、そもそも発明が異なる以上、直ちに当てはまるものとは認められないし、具体的に何がどのように当てはまるのかの説明もなく、上記当てはまる旨の意見を理解することができない。
また、主張の内容についても、気密シールが存在していたことが未確認であるに留まることから、気密シールが存在していなかったと断定できないため、本願補正発明1及び17の刊行物1発明1及び2からの容易想到性を否定するに足る内容とはいえない。むしろ、(ア)アモルファス合金のような金属は、一般的に流体や微生物に対して不浸透性であること、(イ)部分的にアモルファス状の組成物が気密シールであること(例えば、米国特許第4,371,588号明細書には、部分的にアモルファス状である材料からなる気密シール(hermetic seal)が記載されている(クレーム1、3参照)。)、(ウ)アモルファス合金からなるものが液体の浸透を防止できること(例えば、特開2006-524896号公報(請求項3)参照)を考慮すれば、刊行物1に記載の接合部として気密シールとすることは可能であったと考える方が自然である。
さらには、本願補正発明1とは異なり、刊行物1発明1は、必然的に気密シールが生じるものではなく、気密シールが生じない場合もあるとの主張内容は、本願補正発明1と刊行物1発明1との間に具体的な発明特定事項の差異(例えば、製造工程、材料、構造、温度等の諸条件)が存在しないこと、同様の発明からは同様の結果が得られると考えることが自然であることを併せて考慮すれば、気密シールが生じない場合もあったかも知れないが、気密シールが生じる場合もあったと認められる。そして、進歩性の検討においては、刊行物に記載されているか否かや刊行物に記載されている発明が特定のものであるか否かではなく、刊行物に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かであるところ、刊行物1に気密シールに関することが記載されていない又は刊行物1発明の密封シールが気密シールのみであるとは限らないとしたとしても、上記アで説示したように、刊行物1発明1の接合部を気密シールが要求される場所で用いたということは十分に想到し得る事項であり、出願人の主張は容易想到性を否定するものではない。
以上のことから、出願人の主張は採用することができない。

エ 効果
本願補正発明1及び17によってもたらされる効果も、刊行物1発明1及び2並びに上記周知の事項から、当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものではない。

オ 小括
したがって、本願補正発明1は、刊行物1発明1及び上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本願補正発明17は、刊行物1発明2及び上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


6 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。



第3 本件出願
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されることとなるので、本件出願の請求項1ないし請求項20に係る発明は、平成26年4月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項20に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)及び請求項17に係る発明(以下、「本願発明17」という。)は、特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。

ア 本願発明1
「第1の表面を含む第1のパーツ及び第2の表面を含む第2のパーツを提供する工程と、
少なくとも部分的にアモルファス状であり、ガラス転移温度Tg及び結晶化温度Txを有する組成物を提供する工程と、
前記組成物をTxよりも低い第1の温度に加熱する加熱工程と、
当該加熱された組成物を前記第1の表面の一部分及び前記第2の表面の一部分に配置して、それらの間に界面層を形成する配置工程と、
前記界面層をTgより低い第2の温度まで冷却し、当該界面層を前記第1の表面及び前記第2の表面の少なくとも一つと密着させて密封シールを形成する冷却工程と、
を備える、
方法。」

イ 本願発明17
「第1の表面と、前記第1の表面の一部分の上に配置された密封シールとを有し、前記密封シールが少なくとも部分的にアモルファス状の組成物を有する物品。」


2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、上記第2の[理由]3に記載したとおりである。

3 対比、判断
本願発明1は、本願補正発明1から、密封シールに係る発明特定事項である「流体や微生物に対して不浸透性の気密シールである」ことを削除したものである。同様に、本願発明17は、本願補正発明17から、密封シールに係る発明特定事項である「流体や微生物に対して不浸透性の気密シールである」ことを削除したものである。
そうすると、本願発明1の特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明1が、上記第2の[理由]4、5に記載したとおり、刊行物1発明1及び上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1発明1及び上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。同様に、本願発明17の特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明17が、上記第2の[理由]4、5に記載したとおり、刊行物1発明2及び上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明17も、同様の理由により、刊行物1発明2及び上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。


第4 補正案に関する付記
なお、平成27年6月25日提出の上申書において、請求人より補正案が示されているので、検討の結果を付記する。

1 補正案発明の概要
本願補正発明1及び17について、さらに請求項19等にみられるような、以下の点を特徴とする物品や方法であると認められる。
「第1のパーツにキャビティを設け、第2のパーツの一部分をキャビティに配置し、前記キャビティ内の第1のパーツと第2のパーツとの間にアモルファス合金からなる密封シールを配置する点」

2 検討
上記特徴点は、刊行物1に記載されているし(FIG.8参照)、周知の技術である(例えば、特開2007-895公報(特に、図5参照)、特開平6-63771号公報参照。)。
よって、刊行物1に記載された2部材の接合について、2部材の形状、配置及び接合等に関する上記の周知の技術に置き換えることは、当業者であれば格別の困難はない。

3 補正案に関する結論
仮に、補正案の趣旨に則り、特許請求の範囲等を手続補正したとしても、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとの結論は変わらない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明1及び17は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-22 
結審通知日 2016-01-25 
審決日 2016-02-05 
出願番号 特願2012-548073(P2012-548073)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B23K)
P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁木 学青木 正博  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 平岩 正一
落合 弘之
発明の名称 アモルファス合金シール及び接合  
代理人 木村 秀二  
代理人 高柳 司郎  
代理人 大塚 康弘  
代理人 下山 治  
代理人 永川 行光  
代理人 大塚 康徳  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ