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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B66C
管理番号 1316202
審判番号 不服2015-4595  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-09 
確定日 2016-06-23 
事件の表示 特願2011- 19449「クレーン装置及び制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月23日出願公開、特開2012-158435〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願は、平成23年2月1日の出願であって、平成26年4月30日付けで拒絶理由が通知され、平成26年6月30日に意見書が提出されるとともに明細書、特許請求の範囲及び図面について補正する手続補正書が提出され、平成26年12月4日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成27年3月9日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成27年11月11日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年1月14日に意見書が提出されるとともに明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 本件発明

本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、平成28年1月14日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲、並びに、平成26年6月30日に提出された手続補正書により補正された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
レーンに沿って走行可能であり、ロープの巻上及び巻下によって荷役を行うクレーン装置であって、
前記走行するための電力及び前記荷役を行うための電力を供給するバッテリーと、
前記レーン上に設定された給電位置に当該クレーン装置が位置する際に、地上側に設けられた電源装置と接触することで、前記電源装置から供給される電力を受けて前記バッテリーを充電可能とする集電機構と、
前記バッテリーの充電状態を管理する充電状態管理システムと、
当該クレーン装置の動作を制御する制御部と、を備え、
前記充電状態管理システムは、
前記バッテリーの現在の充電状態を示すデータを取得する充電状態データ取得部と、
前記荷役を行うために必要な荷役エネルギーを算出する荷役エネルギー算出部と、
前記レーンに沿った方向における前記荷役を行う場所から前記給電位置まで走行して帰還するために必要な帰還エネルギーを算出する帰還エネルギー算出部と、
前記充電状態データ取得部が取得したデータによって示される前記バッテリーの現在の充電状態と、前記荷役エネルギー算出部が算出した荷役エネルギー及び前記帰還エネルギー算出部が算出した帰還エネルギーの合計との比較に基づいて、前記バッテリーの現在の充電状態において、前記荷役を終えた場合でも前記給電位置まで走行して帰還することができるか否かを待機状態の際に繰り返し判定し、または前記荷役を行った後に前記給電位置まで走行して帰還することができるか否かを判定する荷役可否判定部とを有し、
前記制御部は、当該クレーン装置が前記荷役を行うための作業場所に待機している際に前記荷役可否判定部が前記給電位置まで走行して帰還することができないと判定した場合、前記荷役を開始せずに、当該クレーン装置を前記作業場所から前記給電位置まで走行させて帰還させるよう制御する
クレーン装置。」

第3 刊行物

ア 刊行物1の記載事項
当審拒絶理由に引用された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-166180号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a 「【0011】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
<<第1実施形態>>
<ロボットシステムS1の構成>
図1は、基本的な第1実施形態に係わるマニピュレータ台車を有するロボットシステムS1の側面図である。
本発明の第1実施形態のロボットシステムS1は、床3の上に組まれた架台4上に、走行レール100が取り付けられ、該走行レール100上を走行台車110に回転自在に設置された左右(図1の紙面の表裏方向)それぞれ一対の駆動輪112が回転することにより、走行台車110が、走行レール100上を走行する構成である。
走行台車110の駆動輪112は、走行台車110に搭載されたモータ111に減速機構111gを介して接続され、モータ111の駆動力が、減速機構111gを介して伝達され、駆動される。
【0012】
この走行台車110には、オペレータ1により操作される操作器80の固定局通信装置10からの電波を受信する移動局通信装置20と、上述のモータ111と、該モータ111等の動力源のバッテリ60と、シミュレータ(図示せず)等が組み込まれた制御装置200とが搭載されている。
制御装置200は、走行用のモータ111のほか、走行台車110に設置され後記のマニピュレータ140を上下動させるため伸縮する伸縮機構130、該伸縮機構130の先端に一方端側が取り付けられるマニピュレータ140、マニピュレータ140の他方端側に取り付けられるハンド150等の駆動制御を行なう。この構成により、制御装置200により操作制御されるマニピュレータ140のハンド150で、床3に置いてあるワーク99を掴み移動させることができるようになっている。
【0013】
これらの動力源のバッテリ60には、バッテリ60の残量エネルギを検出するためのセンサ70が組み込まれており、このセンサ70のセンサ情報である検知信号は、制御装置200に入力される。
このセンサ70は、バッテリ60から直接、エネルギの残量を検知するセンサ、或いは、バッテリ60の電圧またはその出口の電流を検知してどれ位のバッテリ残量が有るか推定するセンサの何れかを用いることできる。
【0014】
なお、動力源がエンジンなどの燃料を用いて動力を得るものであれば残存燃料をその重量センサや、液体であれば液位センサにより直接に残存エネルギを検出するようにしてもよい。
或いは、バッテリ60の現在のエネルギ残量を、ある時点のエネルギ残量から、ある時点から現在までのバッテリ60のエネルギを用いて行った仕事量を差し引くことで、求めることができる。なお、バッテリ60等の残量エネルギは、SOC(State Of Charge)により定量化されるが、SOCは、電圧計および電流計で得られる電圧および電流を用いて算出される。
また、走行台車110に搭載される移動局通信装置20は、走行台車110の制御装置200と、走行台車110の各種動作を操作するためにオペレータ1に所持される操作器80の固定局通信装置10との通信が行われる。
【0015】
また、走行レール100上を走行する走行台車110の走行方向の一方端側(図1に示す走行台車110の左端側)には、動力源のバッテリ60に充電するための移動側受電部30が設けられている。
一方、図1に示すように、架台4には、走行台車110の移動側受電部30に対向して、電源2に接続される充電装置50の固定側給電部40が設けられている。
【0016】
この充電装置50の固定側給電部40は、走行台車110が、図1の矢印α11に示すように、走行レール100の固定側給電部40側の移動端まで走行し充電可能なポジションに移動し、かつ、図1の矢印α12に示すように、充電可能なポジションから離間するように走行することにより、走行台車110の移動側受電部30が着脱できるように構成されている。このように、架台4側の充電装置50の固定側給電部40と、走行台車110の移動側受電部30とが接続した充電可能なポジションにおいて、走行台車110のバッテリ60が充電装置50により充電される。
【0017】
ここで、走行台車110が、充電装置50の固定側給電部40がある充電可能なポジションに至ったことは、近接スィッチ(図示せず)、その他の位置検出を用いて検出したり、或いは、走行台車110の駆動輪112を回転駆動するモータ111に取り付けたエンコーダ(図示せず)の情報等により検出できる。
なお、エンコーダで走行台車110の位置を検出する場合には、定期的に、エンコーダの初期位置を走行台車110の初期位置に基づき更正し、位置ズレが生じないようにする。
バッテリ60の充電後、走行台車110が、図1の矢印α12に示すように、走行レール100上を走行することにより、走行台車110の移動側受電部30が、充電装置50の固定側給電部40から離間し、走行台車110のバッテリ60の充電動作が終了される。」(段落【0011】ないし【0017】)

b 「【0018】
<ロボットシステムS1の制御>
上述のロボットシステムS1において、オペレータ1は、操作器80の操作を行ない、操作器80からの動作指令が、固定局通信装置10から移動局通信装置20へ無線伝送され、移動局通信装置20を介して、制御装置200へ入力される。こうして、指令を受けた制御装置200の制御により、走行台車110を前進、後退させたり、走行台車110に搭載された伸縮機構130の上昇、下降、および、伸縮機構130に取り付けられたマニピュレータ140やハンド150の動作を遠隔操作できるようになっている。
走行台車110を、このようなマニピュレータ台車とすることで、動力用ケーブルや制御用ケーブルを走行台車110まで配線する必要がなく、走行レール100の上に装備がなされた走行台車110を載せるだけで設備の運転が直ぐに可能になる。
【0019】
ところで、バッテリ駆動システムでは、バッテリのエネルギ消費があると充電などをその都度しなければならならないが、本第1実施形態では、走行レール100のストローク端で、固定側となる架台4に設置した充電装置50の固定側給電部40で、走行台車110のバッテリ60の充電ができる。
そのため、マニピュレータ台車である走行台車110を運転していないときには、走行台車110を、その移動側受電部30が、バッテリ60にエネルギを供給可能な充電装置50の固定側給電部40に接触するように、移動させておくことで、マニピュレータ台車の走行台車110の不稼動時に充電装置50によって充電させることができ、バッテリ60への充電作業をいちいち人が行わなくても済む。
【0020】
但し、走行台車110による作業の途中で、バッテリ60のエネルギ切れとなる場合が想定される。
そこで、このロボットシステムS1では、バッテリ60の残量エネルギをセンサ70で検知または検知推定する、或いは、制御装置200の中に走行台車110の消費エネルギを予測計算するためのシミュレータを搭載することで、指令による次作業の仕事量とバッテリ60の残量エネルギを比較する。そして、実行可能な場合のみ実行して、エネルギ不足で、走行台車110が途中で止まってしまうような場合には、最初から操作器80で入力された指令を実行せずに、実行不可のメッセージ等を操作器80に表示してその状態をオペレータ1へ知らせる。」(段落【0018】ないし【0020】)

c 「【0046】
<<第3実施形態>>
次に、第3実施形態の複数駆動軸ロボットシステムS3について、図5を用いて説明する。
なお、図5は、本発明を複数駆動軸へ適用した場合に制御装置200を地面G上に設置したときの第3実施形態の複数駆動軸ロボットシステムS3の概念的構成図である。
【0047】
<複数駆動軸ロボットシステムS3の構成>
図5に示すように、第3実施形態の複数駆動軸ロボットシステムS3は、シミュレータ搭載の制御装置を、移動する台車上に設置せず、固定側の地面G上にした場合の一実施形態である。
地面G上の走行レール100上を、車輪110A1が回転することにより走行する走行台車110Aの上には、そのレール110A2、110A3上を、走行台車110Bと110Cが別々に、それぞれの車輪110B1、110C1が回転することにより、それぞれ走行可能となっている。また、走行台車110Bの上には、そのレール110B2上を、走行台車110Dが、その車輪110D1が回転することにより、走行可能になっている。
各走行台車110A、110B、110C、110Dには、それぞれ各台車の駆動源であるモータ(図示せず)を駆動する駆動回路D6A、D6B、D6C、D6Dが搭載されている。」(段落【0046】及び【0047】)

d 「【0058】
<<第1、2、3実施形態における制御フロー>>
次に、第1、2、3実施形態における基本的な制御フローについて、図8を用いて説明する。なお、図8は、第1、2、3実施形態における制御ソフトの基本的な制御フローを示す流れ図である。
ここで、下記の制御ソフトは、制御装置200、201、200A、200B、200C、200D内に格納されるプログラムが、CPUによって実行されることにより、具現化される。
【0059】
図8のステップS001から、プログラムをスタートし、図8のステップS002において、オペレータ1または他の制御装置等からの動作指令を取り込む。
続いて、図8のステップS003において、動作指令が入力された否かを判定する。
図8のステップS003において、動作指令が入力されてないと判定された場合には、ステップS002へ戻り、動作指令が入力されるまで判定を繰り返す、すなわち、動作指令が入力されるまで待つこととなる。
【0060】
一方、図8のステップS003において、動作指令が入力されたと判定された場合には、ステップS004へ移行する。
図8のステップS004において、動作指令に対する時系列の各駆動軸の動作制御データを予め用意された動作制御データが格納された動作制御データ格納データベースDB001を参照しながら作成する。
ここで、予め動作制御データ格納データベースDB001に、おおまかな動作指令に対して具体的なモータへの指令を対応付けて、用意しておくことにより、複雑な動作も、簡単な動作指令で実行できるようになる。
【0061】
続いて、図8のステップS005において、動作指令を実行する場合を仮想モデルでシミュレーションを行い消費エネルギを推定し、予測消費エネルギを求める。
続いて、図8のステップS006において、バッテリ60の残量容量を検知する情報をセンサ70(図1参照)から取り込む。
【0062】
続いて、図8のステップS007において、バッテリ60の残量エネルギを検知または検知推定し、残量エネルギを求める。なお、バッテリ60のエネルギを用いた仕事量から、バッテリ60の残量エネルギを推定することも可能である。
続いて、図8のステップS008において、ステップS007で求めたバッテリ60の残量エネルギとステップS005で求めた予測消費エネルギを比較して、バッテリ60の残量エネルギが、動作指令を実行するのに充分あるか否か判定する。
【0063】
図8のステップS008において、バッテリ60の残量エネルギが予測消費エネルギより充分大きいと判定された場合には、ステップS009に移行し、ステップS009において、動作指令に対する各軸の動作制御を実行する。
続いて、図8のステップS010において、動作指令を実行したことをオペレータ或いは他の制御装置等に応答として知らせる信号を出力する。
【0064】
一方、図8のステップS008において、バッテリ60の残量エネルギが予測消費エネルギより充分大きくないと判定された場合には、動作指令の実行が不可として、図8のステップS011へ進み、図8のステップS011において、オペレータ1或いは他の制御装置等に動作不可能なことを、ディスプレイや音声ガイダンスなどで知らせる信号を出力する。
そして、プログラムは、最初のステップS002移行し、上述の処理を繰り返す。」(段落【0058】ないし【0064】)

e 「【0097】
<<第5実施形態>>
次に、本発明を原子力発電所の原子炉建屋オペフロの作業用マニピュレータ台車へ適用した第5実施形態のロボットシステムS5について、図17を用いて説明する。
なお、図17は、第5実施形態における原子力発電所の原子炉建屋オペフロの作業用マニピュレータ台車へ適用したロボットシステムS5の概念的構成図である。
原子力発電所においては、定期検査時に、炉心6の中の燃料を交換したり、移動させる。この場合、従来、図17の二点鎖線に示すように、燃料交換装置F110に取り付けられた伸縮管F130の先端のグラップルF150で燃料集合体98を把持し移動させ、燃料ラック7の中の燃料と交換したりする。
【0098】
ここで、伸縮管F130の先端のグラップルF150に設置されたグラップルカメラF75で、グラップルF150で燃料集合体98を把持するときの画像を確認しつつ制御したり、または、グラップルカメラF75を位置決め制御に利用してもよい。
このような、既存の原子力発電所における燃料交換装置F110は、移動する走行軸に対して、動力ケーブル、制御ケーブルなどが据付られた制御盤(図示せず)から配線され、ケーブルベアF111等を用いて配線を束ね配線される場合が多い。
このような従来の燃料交換装置F110に、本発明を適用してケーブルベアF111は勿論のこと配線を省略して、安価に、かつ簡単に設置可能となる。
【0099】
図17に示すように、第5実施形態のロボットシステムS5においては、走行レール100を利用して、マニピュレータ台車の走行台車110(以下、マニピュレータ台車110と称する)を設置する。このマニピュレータ台車110に設けられた伸縮機構130の先には、マニピュレータ140が取り付けられている。
ところで、炉心6は、プール5の中の水Wの中にあるので、マニピュレータ140として、例えば、水中マニピュレータを取り付けてもよいし、気中用マニピュレータに、水が浸入しないように、フード140Fを被せてフード140F内にエアをパージするようにしてもよい。さらに、マニピュレータ140の水深をセンサ(図示せず)で検出し、水深に応じてパージ圧力を自動で調整できるようにしてもよい。
【0100】
また、走行レール100の長手方向の両端には、電源2に接続された固定側給電部40a、40bが設置されており、これらの固定側給電部40a、40bに対向して、マニピュレータ台車110の走行レール100に沿っての走行方向の両端部には、それぞれ搭載したバッテリ(図示せず)ヘ充電を行うための移動側受電部30a、30bが設置されている。
また、図17に示すように、オペレータ1は、ハンディタイプの操作器80を用いて、無線でマニピュレータ台車110の運転ができるのでケーブルレスであり、取り扱いが容易である。
【0101】
そして、マニピュレータ台車110には、予め専用の吊りフック9が設置されており、建屋の天井クレーンKのフック8で何時でもそのまま吊れるようにすることにより、吊り具の準備や取り付けをその都度行なわないでも済むようになっている。
この構成により、天井クレーンKを利用して、そのフック8でマニピュレータ台車11の吊りフック9を引っ掛け吊り上げ、マニピュレータ台車110は、その車輪110sを走行レール100の上に載せるだけで直ちに運用が可能である。
【0102】
なお、万一、マニピュレータ台車110が故障しても、直ぐに代わりのマニピュレータ台車110と交換することで、応急対応が迅速に行える。図17に示すように、同じ走行レール100には、従来の燃料交換装置F110が有るので、燃料交換装置F110の反対側へは、走行して移動することはできないが、バッテリ搭載のケーブルレスのマニピュレータ台車110は、天井クレーンKのフック8で、マニピュレータ台車110の吊りフック9を引っ掛け吊り上げ、図17の白抜き矢印βに示すように、容易に従来の燃料交換装置F110の反対側へ再セットすることができる。
ここで、マニピュレータ台車110は、特に伸縮機構130やマニピュレータ140を搭載しないで、人が台車の上にのれる単純な作業台車として適用してもよい。
【0103】
また、マニピュレータ140を搭載したマニピュレータ台車110とした場合には、
イ.原子炉内面やプール5の壁面5K、床3 (図17参照)の傷などの場所を特定した検査業務への利用、または、マニピュレータ台車110やマニピュレータ140の座標データと対応させて検査結果データを保存できるので、毎年同じ場所の結果データを、正確に対応可能なデータとして、自動で記録保存し、それを呼び出し、確認、編集なども容易にでき、正確な座標として応用できる。」(段落【0097】ないし【0103】)

イ 上記ア及び図面の記載から分かること

f 上記アのa及びb並びに図1の記載から、刊行物1には、マニピュレータ台車である走行台車110の発明が記載されていることが分かる。

g 上記アのa及びb並びに図1の記載から、走行台車110は、走行レール100上を走行し、伸縮機構130の上昇、下降によって作業を行うことが分かる。

h 上記アのa及びb並びに図1には、走行台車110は、走行用のモータ111、伸縮機構130、マニピュレータ140及びハンド150の動力源のバッテリ60を備えていることが記載されている。
そして、走行用のモータ111は走行するための電力を、伸縮機構130、マニピュレータ140及びハンド150は作業を行うための電力を、それぞれバッテリ60から供給されるものであることが理解できる。
したがって、走行台車110は、走行するための電力及び作業を行うための電力を供給するバッテリ60を備えていることが分かる。

i 上記アのa及びb並びに図1には、走行台車110は、走行レール100のストローク端で固定側となる架台4に設置した充電装置50の固定側給電部40で、走行台車110のバッテリ60が充電できることが記載されている。
また、上記アのa及びb並びに図1には、走行台車110は、架台4の充電装置50の固定側給電部40と、走行台車110の移動側受電部30とが接続した充電可能ポジションにおいて、走行台車110のバッテリ60が充電装置50により充電されることも記載されている。
したがって、走行台車110は、走行レール100のストローク端に走行台車110が位置する際に、架台4に設けられた固定側給電部40と接続することで、固定側給電部40から供給される電力を受けてバッテリ60を充電可能とする充電装置50を備えることが分かる。

j 上記アのb及び図1には、走行台車110は、バッテリ60の残量エネルギをセンサ70で検知または検知推定し、指令による次作業の仕事量とバッテリ60の残量エネルギを比較し、エネルギ不足で、走行台車110が途中で止まってしまうような場合には、入力された指令を実行せずに、実行不可のメッセージを表示することが記載されている。
そして、バッテリ60の残量エネルギを検知し、エネルギ不足のときには指令を実行しないことから、走行台車110は、残量エネルギを管理する残量エネルギ管理システムを備えていることが理解できる。
したがって、走行台車110は、バッテリ60の残量エネルギを管理する残量エネルギ管理システムを備えていることが分かる。

k 上記アのb及び図1には、走行台車110は、制御装置200の制御により、走行台車110を前進、後退させたり、走行台車110に搭載された伸縮機構130の上昇、下降、および、伸縮機構130に取り付けられたマニピュレータ140やハンド150の動作を遠隔操作できることが記載されている。
したがって、走行台車110は、走行台車110の動作を制御する制御装置200を備えていることが分かる。

l 上記アのb及び図1の記載を上記jとあわせてみると、走行台車110の残量エネルギ管理システムは、バッテリ60の残量エネルギを検知するセンサ70を備えていることが分かる。

m 上記アのb及び図1の記載を上記jとあわせてみると、走行台車110の残量エネルギ管理システムは、指令による次作業の仕事量を予測計算するシミュレータを備えていることが分かる。

n 上記アのb及び図1の記載を上記j、l及びmとあわせてみると、走行台車110の残量エネルギ管理システムは、センサ70が検知した残量エネルギによって示されるバッテリ60の残量エネルギと、シミュレータが予測した指令による次作業の仕事量との比較に基づいて、バッテリ60の残量エネルギにおいて、実行可能か、エネルギ不足で走行台車110が途中で止まってしまうような場合かを判定する判定部を備えていることが分かる。

ウ 刊行物1に記載された発明
したがって、上記ア及びイを総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認める。

「 走行レール100上を走行し、伸縮機構130の上昇、下降によって作業を行う走行台車110であって、
走行するための電力及び作業を行うための電力を供給するバッテリ60と、
走行レール100のストローク端に走行台車110が位置する際に、架台4に設けられた固定側給電部40と接続することで、固定側給電部40から供給される電力を受けてバッテリ60を充電可能とする充電装置50と、
バッテリ60の残量エネルギを管理する残量エネルギ管理システムと、
走行台車110の動作を制御する制御装置200と、を備え、
残量エネルギ管理システムは、
バッテリ60の残量エネルギを検知するセンサ70と、
指令による次作業の仕事量を予測計算するシミュレータと、
センサ70が検知した残量エネルギによって示されるバッテリ60の残量エネルギと、シミュレータが予測した指令による次作業の仕事量との比較に基づいて、バッテリ60の残量エネルギにおいて、実行可能か、エネルギ不足で走行台車110が途中で止まってしまうような場合かを判定する判定部とを有している、
走行台車110。」

エ 刊行物2の記載事項
当審拒絶理由に引用された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開昭64-12802号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

o 「 本発明は、車上にバッテリを搭載して走行するバッテリ走行車において、バッテリ走行車が走行路の途中でバッテリの残容量がなくなって停止することを防止するため、バッテリ電圧が所定値に達した時に、バッテリ走行車の行先を充電位置へと変更するものである。そしてこの比較するバッテリ電圧値を、バッテリ走行車の現在位置に合わせて最適化するために、バッテリ走行車の現在の走行位置と該バッテリ走行車の搭載バッテリの充電を行う充電位置との間の走行経路を経由した離間距離を常時検出するようにし、バッテリ走行車が該離間距離を走行して前記充電位置に達するまでの、電力消費量を算定してバッテリ電圧許容値を設定するようにするものである。」(第1ページ右下欄5ないし18行)

p 「 しかしながら、このような従来のバッテリ走行車にあっては、電圧が不十分な時に電圧低下の警報に気付かずに走らせると、途中で止ってしまうことがある。」(第2ページ右上欄2ないし5行)

q 「 バッテリ走行車11には車上に第2図に示すような装置が設けられる。即ちバッテリ走行車11の走行現在位置と、該バッテリ走行車の搭載バッテリの充電を行う充電位置20との間の走行経路を経由した離間距離を検出する離間距離検出装置1を構成するものとして、バッテリ走行車11の車輪の回転によってパルスを発生させる装置12と、このパルスを分周する装置13と、分周したパルスをカウントするカウンタ14が設けられる。カウンタ14には後に述べる走行制御装置15からの指令により、スタート時に充電位置との距離に対応した値がセットされる。カウンタ14は可逆型のカウンタであり、走行制御装置15からの指令に基づき、バッテリ走行車11の走行方向によってカウント値が増減するので、搬送路10が一本のレールであるような場合は、パルスのカウント値はバッテリ走行車11の走行距離に比例し、従って充電位置からの離間距離に比例するので、カウンタ14の出力はそのまゝ離間距離検出信号として用いられる。
カウンタ14の出力はD/A変換器16に入力されてアナログ電圧として表され、これがバッテリ電圧許容値設定装置2となる。一方バッテリ電圧検出器17によってバッテリ電圧bが検出され、D/A変換器16(バッテリ電圧許容値設定装置2)の出力aとが比較器18によって比較されることになり、このようにしてバッテリ電圧検出器17と比較器18とによってバッテリ低下検出装置3を形成する。第4図はバッテリの電圧降下とカウンタ14のカウント値からの電圧との関係を示しており、時間の経過即ちバッテリの使用にともなってバッテリの電圧値Vbがあるところから急に減少して限界値に達していることがわかる。図のV_(2)はD/A変換器16の出力による電圧許容値設定値の電圧、V_(1)はバッテリ電圧検出機17による低下検出電圧である。
バッテリ走行車11がバッテリの電力を消費しながら走行すると、バッテリ電圧検出装置17の電圧bは次第に減少し、バッテリ走行車と充電位置20の離間距離が遠くなるに従ってカウンタ14のカウント値は増大するので、バッテリ走行車が搬送路10上をある地点まで走行したとき、バッテリ電圧検出器17の出力電圧bが、カウンタ14の出力に基くD/A変換器16の電圧aよりも小さくなり、そのとき比較器18がそのことを検知して走行制御装置15に対して警報が出される。そうすると走行制御装置15からは、バッテリ走行車11の行先を変更して充電位置20の方へ走行させる指令が出され、バッテリ走行車11の駆動モータ7を駆動して充電位置20の方へ走行する。」(第3ページ左上欄5行ないし左下欄15行)

オ 上記エ及び図面の記載から分かること

r 上記エのoの記載から、刊行物2には、車上にバッテリを搭載して走行するバッテリ走行車11に関する技術が記載されていることが分かる。

s 上記エのoないしq並びに第1図ないし第3図の記載から、バッテリ走行車11は、バッテリ走行車11の現在の走行位置から、バッテリ走行車の搭載バッテリの充電を行う充電位置20に達するまでの電力消費量を算定してバッテリ電圧許容値設定装置2の出力aを設定し、バッテリ電圧bが、バッテリ走行車11の現在の走行位置と充電位置20との離間距離に比例したバッテリ電圧許容値設定装置2の出力aよりも小さくなると、バッテリ走行車11が充電位置20の方へ走行することが分かる。

カ 刊行物2に記載された発明
したがって、上記エ及びオを総合すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されていると認める。

「バッテリ走行車11の現在の走行位置から、バッテリ走行車の搭載バッテリの充電を行う充電位置20に達するまでの電力消費量を算定してバッテリ電圧許容値設定装置2の出力aを設定し、バッテリ電圧bが、バッテリ走行車11の現在の走行位置と充電位置20との離間距離に比例したバッテリ電圧許容値設定装置2の出力aよりも小さくなると、バッテリ走行車11が充電位置20の方へ走行するバッテリ走行車11。」

第4 対比・判断
レーンとは走路のことであり、走行レールは走路に配置されているものであるから、刊行物1に記載された発明における「走行レール100上を走行し」は、本件発明における「レーンに沿って走行可能であり」に相当する。
また、本件発明と刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1に記載された発明における「作業」は、その技術的意義からみて、本件発明における「荷役」に相当し、同様に、「バッテリ60」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本件発明における「バッテリー」に相当する。
そして、刊行物1に記載された発明において「走行レール100のストローク端」は、「バッテリ60を充電可能とする」位置であるから、本件発明における「レーン上に設定された給電位置」に相当する。
さらに、本件発明と刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1に記載された発明における「固定側給電部40」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本件発明における「電源装置」に相当し、以下同様に、「接続」は「接触」に、「充電装置50」は「集電機構」に、「残量エネルギ」は「充電状態」に、「残量エネルギ管理システム」は「充電状態管理システム」に、「制御装置200」は「制御部」に、「残量エネルギ」は「現在の充電状態を示すデータ」に、「検知」は「取得」に、「センサ70」は「充電状態データ取得部」に、「指令による次作業の仕事量」は「荷役を行うために必要な荷役エネルギー」に、「予測計算」は「算出」に、「シミュレータ」は「荷役エネルギー算出部」に、「バッテリ60の残量エネルギ」は「バッテリーの現在の充電状態」に、「シミュレータが予測した」は「荷役エネルギー算出部が算出した」に、それぞれ相当する。
加えて、刊行物1に記載された発明における「走行台車110」は、本件発明における「クレーン装置」と、「荷役装置」という限りにおいて少なくとも一致する。
そして、刊行物1に記載された発明における「センサ70が検知した残量エネルギによって示されるバッテリ60の残量エネルギと、シミュレータが予測した指令による次作業の仕事量との比較に基づいて、バッテリ60の残量エネルギにおいて、実行可能か、エネルギ不足で走行台車110が途中で止まってしまうような場合かを判定する判定部とを有している」は、本件発明における「前記レーンに沿った方向における前記荷役を行う場所から前記給電位置まで走行して帰還するために必要な帰還エネルギーを算出する帰還エネルギー算出部と、前記充電状態データ取得部が取得したデータによって示される前記バッテリーの現在の充電状態と、前記荷役エネルギー算出部が算出した荷役エネルギー及び前記帰還エネルギー算出部が算出した帰還エネルギーの合計との比較に基づいて、前記バッテリーの現在の充電状態において、前記荷役を終えた場合でも前記給電位置まで走行して帰還することができるか否かを待機状態の際に繰り返し判定し、または前記荷役を行った後に前記給電位置まで走行して帰還することができるか否かを判定する荷役可否判定部とを有し、前記制御部は、当該クレーン装置が前記荷役を行うための作業場所に待機している際に前記荷役可否判定部が前記給電位置まで走行して帰還することができないと判定した場合、前記荷役を開始せずに、当該クレーン装置を前記作業場所から前記給電位置まで走行させて帰還させるよう制御する」と、「充電状態データ取得部が取得したデータによって示されるバッテリーの現在の充電状態と、荷役エネルギー算出部が算出した荷役エネルギーに基づいて、判定する」という限りにおいて少なくとも一致する。

したがって、本件発明と刊行物1に記載された発明は、
「 レーンに沿って走行可能であり、荷役を行う荷役装置であって、
走行するための電力及び荷役を行うための電力を供給するバッテリーと、
レーン上に設定された給電位置に荷役装置が位置する際に、
電源装置と接触することで、電源装置から供給される電力を受けてバッテリーを充電可能とする集電機構と、
バッテリーの充電状態を管理する充電状態管理システムと、
荷役装置の動作を制御する制御部と、を備え、
充電状態管理システムは、
バッテリーの現在の充電状態を示すデータを取得する充電状態データ取得部と、
荷役を行うために必要な荷役エネルギーを算出する荷役エネルギー算出部と、
充電状態データ取得部が取得したデータによって示されるバッテリーの現在の充電状態と、荷役エネルギー算出部が算出した荷役エネルギーに基づいて、判定する、
荷役装置。」である点で一致し、次の点で相違または一応相違する。

<相違点1>
「荷役装置」に関し、本件発明は「クレーン装置」であるのに対し、刊行物1に記載された発明は「走行台車110」である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
荷役(作業)を行う機構に関し、本件発明においては「ロープの巻上及び巻下によって荷役を行う」のに対し、刊行物1に記載された発明においては「伸縮機構130の上昇、下降によって作業を行う」点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>
電源装置を設ける箇所に関し、本件発明においては「電源装置」は「地上側」に設けられているのに対し、刊行物1に記載された発明においては「固定側給電部40」は「架台4」に設けられており、地上側に設けるのか否か不明な点(以下、「相違点3」という。)。

<相違点4>
「充電状態データ取得部が取得したデータによって示されるバッテリーの現在の充電状態と、荷役エネルギー算出部が算出した荷役エネルギーに基づいて、判定する」ものに関し、本件発明においては「前記レーンに沿った方向における前記荷役を行う場所から前記給電位置まで走行して帰還するために必要な帰還エネルギーを算出する帰還エネルギー算出部と、前記充電状態データ取得部が取得したデータによって示される前記バッテリーの現在の充電状態と、前記荷役エネルギー算出部が算出した荷役エネルギー及び前記帰還エネルギー算出部が算出した帰還エネルギーの合計との比較に基づいて、前記バッテリーの現在の充電状態において、前記荷役を終えた場合でも前記給電位置まで走行して帰還することができるか否かを待機状態の際に繰り返し判定し、または前記荷役を行った後に前記給電位置まで走行して帰還することができるか否かを判定する荷役可否判定部とを有し、前記制御部は、当該クレーン装置が前記荷役を行うための作業場所に待機している際に前記荷役可否判定部が前記給電位置まで走行して帰還することができないと判定した場合、前記荷役を開始せずに、当該クレーン装置を前記作業場所から前記給電位置まで走行させて帰還させるよう制御する」ものであるのに対し、刊行物1に記載された発明においては「センサ70が検知した残量エネルギによって示されるバッテリ60の残量エネルギと、シミュレータが予測した指令による次作業の仕事量との比較に基づいて、バッテリ60の残量エネルギにおいて、実行可能か、エネルギ不足で走行台車110が途中で止まってしまうような場合かを判定する判定部とを有している」ものである点(以下、「相違点4」という。)。

上記相違点について検討する。

<相違点1について>
クレーンの定義として、日本工業規格(JIS B 0146-1の2.クレーンの定義)では「クレーン:フックまたはその他のつり具によって荷をつり上げ,空中で移動するための反復運動機械。」と定義されている。
そして、刊行物1における走行台車110は、上記第3 アのa及び図1の記載(特に段落【0012】の「マニピュレータ140のハンド150で、床3に置いてあるワーク99を掴み移動させることができる」という記載。)から、つり具によって荷をつり上げ、空中で移動するための反復運動機械であることが分かる。
したがって、日本工業規格のクレーンの定義によれば、刊行物1に記載された発明における走行台車110はクレーン装置といえる。

また、機械工学辞典(越後亮三、他4名編集、初版第3刷、株式会社朝倉書店、1993年6月1日、259ページ)によれば、クレーンは「いわゆる起重機で,重量物の移動に使用されるが,荷をつり上げ,上下方向に運搬するほか,トロリの横行,機体の走行またはジブの旋回,起伏などにより前後及び左右方向に運搬する機械で,多種多様の種類がある。」と記載されている。
そして、刊行物1における走行台車110は、重量物の移動に使用され、荷をつり上げ、上下方向に運搬するほか、機体の走行により前後及び左右方向に運搬する機械であることが分かる。
したがって、機械工学辞典のクレーンの定義によれば、刊行物1に記載された発明における走行台車110はクレーン装置といえる。

このように、刊行物1に記載された発明における走行台車110はクレーン装置であるから、相違点1については実質的な相違点ではない。

<相違点2について>
刊行物1には伸縮機構130を伸縮させるための具体的な構成は記載されていないため、当業者が刊行物1に記載された発明を実施するにあたり伸縮機構130を伸縮させるための具体的な構成を選択する必要があるところ、伸縮機構において、ロープの巻上及び巻下によって伸縮機構を伸縮させる構成は、本件出願前周知の技術(以下、「周知技術」という。必要ならば、実用新案登録第2553376号公報[第8欄18ないし34行及び第1ないし3図]及び特開平8-262182号公報[段落【0016】ないし【0021】及び図9ないし図11]等を参照。)であるから、刊行物1に記載された発明における伸縮機構130について、伸縮させるための具体的な構成として周知技術を採用し、ロープの巻上及び巻下によって伸縮する構成として相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば、容易に想到できたことである。

<相違点3について>
上記第3 アのc及びe並びに図5及び図17に記載されているように、刊行物1には固定側給電部40を地面Gや床3に設ける構成が記載されていることから、刊行物1に記載された発明における「固定側給電部40」を地上側も含めどこに設けるのかは、走行台車110及び走行台車110が走行する場所の形態に応じて、当業者が適宜に決定すべき単なる設計事項にすぎない。
したがって、刊行物1に記載された発明の固定側給電部40を設ける位置に関して、単に地上側を選択して相違点3に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

<相違点4について>
まず、相違点4について検討するのに先立ち、刊行物2に記載された発明について検討する。

刊行物2に記載された発明における「バッテリ走行車の搭載バッテリの充電を行う充電位置20に達するまでの電力消費量」とは、バッテリ走行車が充電位置20に帰還するために必要な電力消費量だと理解できるから、「バッテリ走行車のバッテリーの充電を行う給電位置まで帰還するために必要な帰還エネルギー」と表現できる。
また、刊行物2に記載された発明における「バッテリ電圧b」とは、上記第3 エのqに記載されているように、バッテリ検出器17によって検出された電圧であるから、「バッテリーの現在の充電状態」と表現できる。

したがって、刊行物2に記載された発明を本件発明の記載に倣って表現すると、「バッテリ走行車の現在の走行位置から、バッテリ走行車のバッテリーの充電を行う給電位置まで帰還するために必要な帰還エネルギーを算出してバッテリ電圧許容値設定装置2の出力aを設定し、バッテリーの現在の充電状態が、バッテリ走行車の現在の走行位置と給電位置との離間距離に比例したバッテリ電圧許容値設定装置2の出力aよりも小さくなると、バッテリ走行車が給電位置の方へ走行するバッテリ走行車。」と表現できる(以下、「請求項2に記載された技術」という。)。
また、刊行物2に記載された技術は、上記第3 エのoに記載されているように、「バッテリ走行車が走行路の途中でバッテリの残容量がなくなって停止することを防止」するという課題を解決するものであり、さらに具体的な課題として車両が充電位置まで戻れなくなるという課題に注目しているものである。

そこで、相違点4について検討する。
まず、「帰還エネルギー算出部」に関し、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された技術とはバッテリを動力源とする作業車両という共通の技術分野に属するとともに、バッテリのエネルギー不足で車両が途中で止まってしまうことを回避するという共通の課題(以下、「共通の課題」という。)を有しているものである。
そして、共通の課題におけるさらに具体的な課題として刊行物2に記載された技術が注目している、車両が充電位置まで戻れなくなるという課題は、刊行物1に記載された発明においても内在している課題であるから、刊行物2に記載された技術における、「バッテリ走行車の現在の走行位置から、バッテリ走行車のバッテリーの充電を行う給電位置まで帰還するために必要な帰還エネルギーを算出」する技術に基づき、刊行物1に記載された発明に、「走行台車110」の現在の走行位置から「走行台車110」の「バッテリ60」の充電を行う「充電装置50」まで帰還するために必要な「残量エネルギ」を算出する構成を付加することは、当業者であれば、容易になしえたことである。
そうすると、比較するエネルギー及び「判定」している内容に関し、「バッテリ60の残量エネルギ」との比較を「シミュレータが予測した指令による次作業の仕事量」とすると、走行台車110が作業の途中で止まりはしないものの、作業終了後に走行台車110が充電位置へ走行するエネルギが不足するという不具合が発生する可能性があるため、このような不具合の発生を回避するために、「バッテリ60の残量エネルギ」との比較を「シミュレータが予測した指令による次作業の仕事量」と刊行物2に記載された技術における「バッテリ走行車の現在の走行位置から、バッテリ走行車のバッテリーの充電を行う給電位置まで帰還するために必要な帰還エネルギー」との合計とすることは当業者であれば、容易に想到できたことである。
そして、「判定」している時期に関し、刊行物1に記載された発明において、作業を行った後や、作業場所で待機しているような、作業を行っていない場合にもバッテリ60の残量エネルギが減少していくことは明らかであるから、作業を行っていない場合に「判定」を行わなければバッテリ60の残量エネルギが減少して走行台車110が充電位置に戻れなくなる不具合が発生する可能性があり、このような不具合の発生を回避するために、「バッテリ60の残量エネルギ」との比較を、作業を行っていない状態においても繰り返し行う構成とすることは当業者であれば、容易に想到できたことである。
以上を総合すると、刊行物1に記載された発明に、刊行物2に記載された技術を適用し、相違点4に係る本件出願の請求項1に係る発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば、容易に想到できたことである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本件出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-12 
結審通知日 2016-04-19 
審決日 2016-05-09 
出願番号 特願2011-19449(P2011-19449)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B66C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 日下部 由泰  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 梶本 直樹
槙原 進
発明の名称 クレーン装置及び制御方法  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 棚井 澄雄  

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