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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03F |
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管理番号 | 1316251 |
審判番号 | 不服2015-1036 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-01-19 |
確定日 | 2016-07-12 |
事件の表示 | 特願2010-235988「感放射線性樹脂組成物及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年5月10日出願公開,特開2012- 88573,請求項の数(3)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続の経緯 特願2010-235988号(以下「本件出願」という。)は,平成22年10月20日の特許出願であって,その手続の概要は,以下のとおりである。 平成26年 4月17日起案:拒絶の理由(同年5月7日発送) 平成26年 7月 2日差出:手続補正 平成26年 7月 2日差出:意見書 平成26年10月20日起案:拒絶査定(同年同月28日送達) 平成27年 1月19日差出:手続補正 平成27年 1月19日差出:審判請求 平成27年 3月 4日差出:前置報告 平成28年 1月26日起案:当合議体の拒絶の理由(同年2月2日発送) 平成28年 3月31日差出:手続補正(以下「本件補正」という。) 平成28年 3月31日差出:意見書 2 本願発明 本件出願の請求項3に係る発明(以下「本願発明3」という。)は,次のものである。 「【請求項3】 [A]塩基解離性基を含む構造単位(f)と酸解離性基を含む構造単位(p)とを有する含フッ素重合体, [C]感放射線性酸発生剤,及び 水 を含有する感放射線性樹脂組成物の製造方法であって, 上記構造単位(f)が,下記式(1-1)で表される構造単位であり, 上記水の含有量が3質量%以下であり, 上記[A]含フッ素重合体を含む溶液を脱水処理する工程を有することを特徴とする感放射線性樹脂組成物の製造方法。 【化4】 (式(1-1)中,Rは水素原子,フッ素原子又は炭素数1?4の1価の鎖状炭化水素基であり,この炭素数1?4の1価の鎖状炭化水素基が少なくとも1個のハロゲン原子で置換されていてもよい。Rfはフッ素原子で置換されていてもよい1価の鎖状炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。R^(a)は置換基で置換されていてもよい2価の鎖状の有機基又は芳香族炭化水素基である。Xは少なくとも1個のフッ素原子で置換された2価の炭化水素基である。)」 3 当合議体の拒絶の理由について 当合議体の拒絶の理由は,概略,本件補正前の請求項3に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用例1:特開2010-2870号公報 なお,当合議体の拒絶の理由は,本件補正前の請求項3に係る発明のうち,本件補正により削除された,式(1-2)で表される構造単位を選択肢とする発明に対するものである。 (参考)本件補正前の請求項3に係る発明は,次のものである。 「【請求項3】 [A]塩基解離性基を含む構造単位(f)と酸解離性基を含む構造単位(p)とを有する含フッ素重合体, [C]感放射線性酸発生剤,及び 水 を含有する感放射線性樹脂組成物の製造方法であって, 上記構造単位(f)が,下記式(1-1)及び(1-2)でそれぞれ表される構造単位群より選ばれる少なくとも1種であり, 上記水の含有量が3質量%以下であり, 上記[A]含フッ素重合体を含む溶液を脱水処理する工程を有することを特徴とする感放射線性樹脂組成物の製造方法。 【化4】 (式(1-1)中,Rは水素原子,フッ素原子又は炭素数1?4の1価の鎖状炭化水素基であり,この炭素数1?4の1価の鎖状炭化水素基が少なくとも1個のハロゲン原子で置換されていてもよい。Rfはフッ素原子で置換されていてもよい1価の鎖状炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。R^(a)は置換基で置換されていてもよい2価の鎖状の有機基又は芳香族炭化水素基である。Xは少なくとも1個のフッ素原子で置換された2価の炭化水素基である。) 【化5】 (式(1-2)中,Rは水素原子,フッ素原子又は炭素数1?4の1価の鎖状炭化水素基であり,この炭素数1?4の1価の鎖状炭化水素基が少なくとも1個のハロゲン原子で置換されていてもよい。Rfはフッ素原子で置換されていてもよい1価の鎖状炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。R^(a)は置換基で置換されていてもよい2価の鎖状の有機基又は芳香族炭化水素基である。)」 4 原査定の理由について 原査定の理由は,概略,本件出願の請求項1から3に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された前記引用例1に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 なお,原査定の拒絶の理由も,本件補正前の請求項1から3に係る発明のうち,式(1-2)で表される構造単位を選択肢とする発明に対するものである。 第2 当合議体の判断 1 当合議体の拒絶の理由について 本件補正により,当合議体の拒絶の理由の対象となった発明,すなわち,式(1-2)で表される構造単位を選択肢とする発明が,請求項3から削除された。 当合議体の拒絶の理由は,その前提が失われたことにより,解消した。 2 原査定の拒絶の理由について 本件補正により,原査定の拒絶の理由の対象となった発明,すなわち,式(1-2)で表される構造単位を選択肢とする発明が,請求項3から削除された。 原査定の拒絶の理由も,その前提が失われたことにより,解消した。 ところで,当合議体の拒絶の理由と原査定の拒絶の理由は,本願発明3の「[A]含フッ素重合体を含む溶液を脱水処理する工程」について,周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものと判断したか,引用例1の「乾燥」に相当すると判断したかにおいては異なるとしても,引用文献として上記引用例1を挙げた点においては共通する。そこで,引用例1に記載された発明に基づく容易推考について,以下,確認する。 (1) 引用例1の記載 引用例1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものである。 ア 「【請求項1】 塩基解離性基を有する構成単位(f1)および下記一般式(f2-1)で表される構成単位(f2)を有する含フッ素高分子化合物(F),酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解性が変化する基材成分(A),および露光により酸を発生する酸発生剤成分(B)を含有する液浸露光用レジスト組成物。 【化1】 [式中,Rは水素原子,低級アルキル基またはハロゲン化低級アルキル基であり;Wは下記一般式(w-1)?(w-4)のいずれかにより表される基である。] 【化2】 [式(w-1)中,R^(21)は炭素数2以上のアルキル基であり,R^(22)およびR^(23)は相互に結合して炭素数7以上の単環式の脂肪族環式基を形成している。式(w-2)中,R^(24)は炭素数3以上の分岐鎖状のアルキル基であり,R^(25)およびR^(26)は相互に結合して脂肪族環式基を形成している。式(w-3)中,R^(27)は酸解離性溶解抑制基であり,R^(28)は2価の連結基である。式(w-4)中,R^(29)は直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基または脂肪族環式基であり,nは0?3の整数であり,R^(30)およびR^(30)’はそれぞれ独立して直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基または水素原子であり,R^(29)およびR^(30)が相互に結合して脂肪族環式基を形成していてもよい。] 【請求項2】 前記塩基解離性基がフッ素原子を含む請求項1に記載の液浸露光用レジスト組成物。 【請求項3】 前記構成単位(f1)が,下記一般式(f1-1)または(f1-2)で表される構成単位である請求項1または2に記載の液浸露光用レジスト組成物。 【化3】 [式中,Rはそれぞれ独立して水素原子,低級アルキル基またはハロゲン化低級アルキル基であり;Xは二価の有機基であり,A_(aryl)は置換基を有していてもよい二価の芳香族環式基であり,X_(01)は単結合または二価の連結基であり,R^(2)はそれぞれ独立してフッ素原子を有する有機基である。]」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は,液浸露光(Liquid Immersion Lithography)用レジスト組成物,該液浸露光用レジスト組成物を用いたレジストパターン形成方法,および液浸露光用レジスト組成物用の添加剤として有用な含フッ素化合物に関する。」 ウ 「【0015】 <(F)成分> [構成単位(f1)] 構成単位(f1)における「塩基解離性基」とは,塩基の作用により解離しうる有機基である。塩基としては,一般的にリソグラフィー分野において用いられているアルカリ現像液が挙げられる。すなわち,「塩基解離性基」は,アルカリ現像液(たとえば,2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液(23℃))の作用により解離する基である。 塩基解離性基は,アルカリ現像液の作用により加水分解が生じることにより解離する。そのため,該塩基解離性基が解離すると同時に親水基が形成され,(F)成分の親水性が高まり,アルカリ現像液に対する親和性が向上する。 塩基解離性基としては,上記定義に該当する有機基であれば特に限定されるものではなく,フッ素原子を含むものであってもよく,フッ素原子を含まないものであってもよい。構成単位(f1)中の塩基解離性基以外の部位にフッ素原子が含まれていない場合には,フッ素原子を含む塩基解離性基であることを要する。一方,構成単位(f1)中の塩基解離性基以外の部位にフッ素原子が含まれている場合には,フッ素原子を含む塩基解離性基であってもよく,フッ素原子を含まない塩基解離性基であってもよい。 なお,フッ素原子を含む塩基解離性基は,塩基解離性基における水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された基をいう。 【0016】 構成単位(f1)において,塩基解離性基はフッ素原子を含むことが好ましい。特に,構成単位(f1)中に含まれるフッ素原子が,塩基解離性基のみに存在することが好ましい。塩基解離性基がフッ素原子を含む場合,アルカリ現像液の作用により該塩基解離性基が解離した際,フッ素原子も構成単位(f1)から解離するため,アルカリ現像液に対する親和性がより高くなる。 フッ素原子を含む塩基解離性基の具体例としては,たとえば,下記一般式(II-1)?(II-4)で表される基が挙げられる。本発明において,塩基解離性基は,下記一般式(II-1)?(II-4)で表される基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく,本願発明の効果に優れ,かつ合成が容易である点から,下記一般式(II-1)または(II-4)で表される基が特に好ましい。 【0017】 【化5】 [式中,R^(2)はそれぞれ独立してフッ素原子を有する有機基である。]」 エ 「【0083】 本発明の液浸露光用レジスト組成物がポジ型レジスト組成物である場合,(A)成分としては,酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解性が増大する基材成分が用いられる。該(A)成分は,露光前はアルカリ現像液に対して難溶性であり,露光により前記(B)成分から酸が発生すると,該酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解性が増大する。そのため,レジストパターンの形成において,当該ポジ型レジスト組成物を基板上に塗布して得られるレジスト膜に対して選択的に露光すると,露光部は,アルカリ現像液に対して難溶性から可溶性に変化する一方で,未露光部はアルカリ難溶性のまま変化しないので,アルカリ現像することによりレジストパターンが形成できる。」 オ 「【0199】 次に,実施例により本発明をさらに詳細に説明するが,本発明はこれらの例によって限定されるものではない。 <合成例1:[化合物5]の合成> 窒素雰囲気下0℃で,メタクリル酸30g(348mmol)のTHF溶液300mlに,トリエチルアミン61g(600mmol),ブロモ酢酸メチル64g(418 mmol)を加え,室温まで戻し,3時間撹拌した。薄層クロマトグラフィー(TLC)にて原料の消失を確認後,反応液を減圧下溶媒留去した。得られた反応物に水を加え,酢酸エチルで3回抽出した。有機層を水で2回洗浄し,減圧下で溶媒を留去して,化合物(2)-1を無色液体として47g得た(収率85%)。 次に,窒素雰囲気下0℃で,化合物(5-1)30g(190mmol)のTHF溶液700 mlに,2.38質量%TMAH水溶液700 mlを加え,室温で3時間撹拌した。薄層クロマトグラフィー(TLC)にて原料の消失を確認後,減圧下でTHF溶媒を留去した。得られた反応水溶液に0℃下10N塩酸50mlを加え,酸性に調整した後,酢酸エチルで3回抽出した。得られた有機層を水で2回洗浄し,減圧下で溶媒を留去して化合物(5-2)を無色液体として26g得た(収率95%)。 次に,窒素雰囲気下0℃で,2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール27g(177mmol),エチルジイソプロピルアミノカルボジイミド(EDCI)塩酸塩37g(195mmol),ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.6g(5mmol)のTHF溶液100mlに)化合物(5-2)17g(118mmol)を加え,室温まで戻し,3時間撹拌した。薄層クロマトグラフィー(TLC)にて原料の消失を確認後,反応液を0℃に冷やし,水を加えて反応を停止した。酢酸エチルで3回抽出し得られた有機層を水で2回洗浄した。減圧下溶媒留去して得られた粗生成物をシリカゲルろ過(酢酸エチル)により精製し,[化合物5]を無色液体として19g得た(収率58%)。 【0200】 【化63】 」 カ 「【0227】 <合成例9:高分子化合物1の合成> 温度計,還流管を繋いだ3つ口フラスコに,71.80g(259.99mmol)の[化合物5],19.41g(86.66mmol)の[化合物6]を136.82gのテトラヒドロフランを加えて溶解させた。この溶液に,重合開始剤としてアゾビスイソ酪酸ジメチル(V-601)を20.80mmol添加し溶解させた。これを窒素雰囲気下,3時間かけて,67℃に加熱したテトラヒドロフラン76.00gに滴下し,重合反応を行った。滴下終了後,反応液を4時間加熱攪拌し,その後,反応液を室温まで冷却した。得られた反応重合液を大量のn-ヘプタンに滴下し,重合体を析出させる操作を行い,沈殿した高分子化合物をろ別,洗浄,乾燥して,目的物である高分子化合物1を32g得た。 この高分子化合物1について,GPC測定により求めた標準ポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)は25,500であり,分散度(Mw/Mn)は1.56であった。また,カーボン13核磁気共鳴スペクトル(600MHz_^(13)C-NMR)により求められた共重合組成比(構造式中の各構成単位の割合(モル比))は,l/m=77.3/22.7であった。 【0228】 【化77】 」 キ 「【0251】 <実施例1?16,比較例1?2> 下記の表1?2に示す各成分を混合し,溶解して,ポジ型のレジスト組成物を調製した。 【0252】 【表1】 【0253】 【表2】 【0254】 表1中,各略号はそれぞれ以下のものを示し,[ ]内の数値は配合量(質量部)である。 (A)-1:下記化学式(A)-1で表される,Mw7000,Mw/Mn1.8の共重合体。式中,( )の右下の数値は各構成単位の割合(モル%)を示す。 (B)-1:(4-メチルフェニル)ジフェニルスルホニウムノナフルオロ-n-ブタンスルホネート。 (F)-1:前記[高分子化合物1]。 …(省略)… (D)-1:トリ-n-ペンチルアミン。 (S)-1:PGMEA/PGME=6/4(質量比)の混合溶剤。 【0255】 【化85】 」 (2) 引用発明 引用例1の【請求項3】には,塩基解離性基を有する構成単位(f1)の選択肢として(f1-1)が示され,また,【請求項3】が引用する【請求項1】には,構成単位(f-2)の「W」の選択肢として,(w-1)が示されている。 そして,引用例1の段落【0251】の【表1】及び【0252】には,上記選択肢の要件を満たす液浸露光用レジスト組成物の調整例として,実施例1のポジ型のレジスト組成物を調整したことが開示されている。 そうしてみると,引用例1には,以下の「ポジ型のレジスト組成物の調整方法」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。 「【0251】【表1の実施例1】 (A)成分,(B)成分,(F)成分,(D)成分及び(S)成分を混合し,溶解したポジ型のレジスト組成物の調製方法であって, (A)成分は,下記化学式(A)-1で表される,Mw7000,Mw/Mn1.8の共重合体であって,式中,( )の右下の数値は各構成単位の割合(モル%)を示し, (A)-1: (B)成分は,(4-メチルフェニル)ジフェニルスルホニウムノナフルオロ-n-ブタンスルホネートであり, (F)成分は,高分子化合物1であり, (D)成分は,トリ-n-ペンチルアミンであり, (S)成分は,PGMEA/PGME=6/4(質量比)の混合溶剤であり, ここで,高分子化合物1は, 【0227】 温度計,還流管を繋いだ3つ口フラスコに,71.80g(259.99mmol)の下記[化合物5],19.41g(86.66mmol)の下記[化合物6]を136.82gのテトラヒドロフランを加えて溶解させ, この溶液に,重合開始剤としてアゾビスイソ酪酸ジメチル(V-601)を20.80mmol添加し溶解させ, これを窒素雰囲気下,3時間かけて,67℃に加熱したテトラヒドロフラン76.00gに滴下し,重合反応を行い, 滴下終了後,反応液を4時間加熱攪拌し,その後,反応液を室温まで冷却し, 得られた反応重合液を大量のn-ヘプタンに滴下し,重合体を析出させる操作を行い,沈殿した高分子化合物をろ別,洗浄,乾燥して得た下記高分子化合物1である, ポジ型のレジスト組成物の調製方法。 化合物5,化合物6,高分子化合物1: 」 (3) 対比 本願発明3と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。 ア 塩基解離性基を含む構造単位(f) まず,本願発明の「塩基解離性基を含む構造単位(f)」に関して,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0029】から【0031】には,以下のとおり記載されている。 「【0029】 [構造単位(f)] 構造単位(f)は,塩基解離性基を含む。塩基解離性基とは,塩基との接触によって解離する基を意味し,例えばヒドロキシル基,カルボキシル基等の極性官能基中の水素原子を置換する基であって,アルカリの存在下(例えば,23℃のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド2.38質量%水溶液中)で解離する基をいう。構造単位(f)における塩基解離性基としては,そのような性質を有する基である限り特に限定されないが,具体例として,下記式(f-a)?(f-c)で表される基を挙げることができる。 【0030】 【化8】 【0031】 上記式(f-a)及び(f-b)中,R^(b)はフッ素原子を有していてもよい炭化水素基である。 上記式(f-c)中,R^(c)は,置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基である。R^(d)はハロゲン原子で置換されていてもよい1価の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。」 ここで,引用発明の高分子化合物1の[化合物5]から誘導された構成単位は,上記式(f-b)の要件を満たす基を有する。すなわち,「R^(b)」をフッ素原子を有していてもよい炭化水素基である「CH_(2)C_(2)F_(5)」としたものである。 したがって,引用発明の高分子化合物1の[化合物5]から誘導された構成単位は,本願発明の「塩基解離性基を含む構造単位(f)」に相当する。 イ 酸解離性基を含む構造単位(p) 本願発明の「酸解離性基を含む構造単位(p)」に関して,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0128】から【0130】には,以下のとおり記載されている。 「【0128】 酸解離性基としては,下記式(Y-1)で表される基であることが好ましい。 【0129】 【化25】 【0130】 上記式(Y-1)中,R^(p1)は炭素数1?4の1価の鎖状炭化水素基又は炭素数4?20の1価の脂肪族環状炭化水素基である。R^(p2)及びR^(p3)はそれぞれ独立して炭素数1?4の1価の鎖状炭化水素基又は炭素数4?20の1価の脂肪族環状炭化水素基であるか,又はR^(p2)及びR^(p3)が互いに結合して,それぞれが結合している炭素原子と共に炭素数4?20の2価の脂肪族環状炭化水素基を形成する。」 ここで,引用発明の高分子化合物1の[化合物6]から誘導された構造単位は,上記式(Y-1)の要件を満たす基を有する。すなわち,「R^(p1)」を炭素数2の1価の鎖状炭化水素基である「C_(2)H_(5)」とし,また,「R^(p2)及びR^(p3)」を,両者が互いに結合して,それぞれが結合している炭素原子と共に炭素数8の2価の脂肪族環状炭化水素基を形成している「C_(8)H_(14)」としたものである。 したがって,引用発明の高分子化合物1の[化合物6]から誘導された構成単位は,本願発明の「酸解離性基を含む構造単位(p)」に相当する。 ウ [A]含フッ素重合体 引用発明の高分子化合物1は,フッ素(F)を含む重合体であるから,「含フッ素重合体」といえる。 上記ア及びイを併せて考慮すると,引用発明の「高分子化合物1」は,本願発明3の「[A]塩基解離性基を含む構造単位(f)と酸解離性基を含む構造単位(p)とを有する含フッ素重合体」の要件を満たす。 エ [C]感放射線性酸発生剤 引用発明の(B)成分,すなわち,「(4-メチルフェニル)ジフェニルスルホニウムノナフルオロ-n-ブタンスルホネート」は,技術的にみて,露光により酸を発生する酸発生剤成分である(引用例1の【請求項1】からも確認できる事項である。)。 したがって,引用発明の「(4-メチルフェニル)ジフェニルスルホニウムノナフルオロ-n-ブタンスルホネート」は,本願発明3の「[C]感放射線性酸発生剤」に相当する。 オ 感放射線性樹脂組成物の製造方法 引用発明の「ポジ型のレジスト組成物」は,「レジストパターンの形成において,当該ポジ型レジスト組成物を基板上に塗布して得られるレジスト膜に対して選択的に露光すると,露光部は,アルカリ現像液に対して難溶性から可溶性に変化する一方で,未露光部はアルカリ難溶性のまま変化しないので,アルカリ現像することによりレジストパターンが形成できる」(段落【0083】)ものであるから,「感放射線性樹脂組成物」に該当する。 したがって,引用発明の「ポジ型のレジスト組成物の調製方法」は,本願発明3の「感放射線性樹脂組成物の製造方法」に相当する。 (4) 相違点 ア 本願発明3と引用発明は,以下の点で一致する。 「 [A]塩基解離性基を含む構造単位(f)と酸解離性基を含む構造単位(p)とを有する含フッ素重合体, [C]感放射線性酸発生剤を含有する感放射線性樹脂組成物の製造方法。」 イ 本願発明3と引用発明は,少なくとも,以下の点で相違する。 (相違点) 本願発明3の「構造単位(f)」は,下記式(1-1)で表される構造単位であるのに対し,引用発明のものは,下記式(1-1)の「-R^(a)-X-」の部分が「-CH_(2)-」であり,「X」の要件を満たすものが存在しない点。 【化4】 (式(1-1)中,Rは水素原子,フッ素原子又は炭素数1?4の1価の鎖状炭化水素基であり,この炭素数1?4の1価の鎖状炭化水素基が少なくとも1個のハロゲン原子で置換されていてもよい。Rfはフッ素原子で置換されていてもよい1価の鎖状炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。R^(a)は置換基で置換されていてもよい2価の鎖状の有機基又は芳香族炭化水素基である。Xは少なくとも1個のフッ素原子で置換された2価の炭化水素基である。) (5) 判断 上記相違点を克服するためには,引用発明の高分子化合物1の前駆体である[化合物5]を,本願発明3の式(1-1)に対応する前駆体(以下「代替前駆体」という。)に替えることが必要である。 しかしながら,引用例1には,このような代替前駆体は,記載も示唆もされていない。例えば,引用発明の[化合物5]の製造方法(引用例1の段落【0199】及び【0200】)を参照しても,このような代替前駆体について,記載も示唆もない。 なお,引用例1の段落【0015】には,「構成単位(f1)中の塩基解離性基以外の部位にフッ素原子が含まれている場合には,フッ素原子を含む塩基解離性基であってもよく,フッ素原子を含まない塩基解離性基であってもよい。」と記載されている。すなわち,引用例1には,一応,構成単位(f1)中の塩基解離性基以外の部位にフッ素原子が含まれていることを許容する記載がある。しかしながら,この記載は,構成単位(f1)中の塩基解離性基以外のどこかにフッ素原子が含まれていることを示唆するにとどまり,引用発明の「-CH_(2)-」の位置にフッ素原子を含むことを示唆するものではない。そもそも,この「-CH_(2)-」の水素原子をフッ素原子に置換しただけでは,代替前駆体にならない。 引用例1には,相違点を克服することについて,記載も示唆もない。 そればかりか,引用例1の段落【0016】には,「構成単位(f1)中に含まれるフッ素原子が,塩基解離性基のみに存在することが好ましい。塩基解離性基がフッ素原子を含む場合,アルカリ現像液の作用により該塩基解離性基が解離した際,フッ素原子も構成単位(f1)から解離するため,アルカリ現像液に対する親和性がより高くなる。」と記載されている。このような引用例1の記載に接した当業者ならば,仮に,引用発明において代替前駆体を採用した場合には,「アルカリ現像液の作用により該塩基解離性基が解離した際,フッ素原子も構成単位(f1)から解離するため,アルカリ現像液に対する親和性がより高くなる」という効果が失われ,好ましくないと理解する。 引用発明において相違点を克服することについては,阻害要因がある。 (6) 小括 以上のとおりであるから,本願発明3は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。 本件出願の請求項1及び2に係る発明についても,構造単位(f)が,式(1-1)で表される構造単位であることが規定されているので,同様に,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。 第3 むすび 以上のとおり,当合議体の拒絶の理由及び原査定の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-06-27 |
出願番号 | 特願2010-235988(P2010-235988) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G03F)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 倉持 俊輔 |
特許庁審判長 |
藤原 敬士 |
特許庁審判官 |
清水 康司 樋口 信宏 |
発明の名称 | 感放射線性樹脂組成物及びその製造方法 |
代理人 | 天野 一規 |