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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B60S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60S
管理番号 1316446
審判番号 不服2015-12199  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-29 
確定日 2016-06-22 
事件の表示 特願2011-72500号「ワイパーアーム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月25日出願公開、特開2012-206563号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年3月29日の出願であって、平成26年8月7日付けで拒絶の理由が通知され、平成26年10月7日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年3月31日付けで拒絶査定がされ、同査定の謄本は平成27年4月2日に請求人に送達された。
これに対して、平成27年6月29日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同時に手続補正書が提出された。


第2 平成27年6月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年6月29日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
平成27年6月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。
なお、下線部は補正箇所を示す。
「 【請求項1】
ワイパーアームであって、
駆動機構に連結可能なアームヘッドと、
前記アームヘッドに回動可能に連結されたアーム本体と、
前記アームヘッドと前記アーム本体とを連結する連結ピンとを備え、
前記アーム本体に、前記連結ピンの少なくとも一部が嵌合する嵌合穴を備え、
前記連結ピンは、該連結ピンの前記アーム本体からの脱落を防止するための頭部と末端部とを有しており、
前記連結ピンの頭部の内側に隣接した部分に、前記嵌合穴の内周縁部と係合することにより前記連結ピンの軸周りでの回転を防止する回転防止部が形成されており、
前記アーム本体の嵌合穴は、前記回転防止部の断面形状と、同一の形状を有しておらず、
前記回転防止部は、前記嵌合穴内に、隙間がある状態で嵌合している、ワイパーアーム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成26年10月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
ワイパーアームであって、
駆動機構に連結可能なアームヘッドと、
前記アームヘッドに回動可能に連結されたアーム本体と、
前記アームヘッドと前記アーム本体とを連結する連結ピンとを備え、
前記アーム本体に、前記連結ピンの少なくとも一部が嵌合する嵌合穴を備え、
前記連結ピンは、該連結ピンの前記アーム本体からの脱落を防止するための頭部と末端部とを有しており、
前記連結ピンの頭部の内側に隣接した部分に、前記嵌合穴の内周縁部と係合することにより前記連結ピンの軸周りでの回転を防止する回転防止部が形成されており、
前記アーム本体の嵌合穴は、前記回転防止部の断面形状と、同一の形状を有しており、
前記回転防止部は、前記嵌合穴内に、隙間なく又は隙間がある状態で嵌合している、ワイパーアーム。」

2.補正の適否
(1)補正の適否の検討
ア.
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「前記アーム本体の嵌合穴は、前記回転防止部の断面形状と、同一の形状を有しており、前記回転防止部は、前記嵌合穴内に、隙間なく又は隙間がある状態で嵌合している」という事項を、「前記アーム本体の嵌合穴は、前記回転防止部の断面形状と、同一の形状を有しておらず、前記回転防止部は、前記嵌合穴内に、隙間がある状態で嵌合している」という事項とするものであり、「アーム本体の嵌合穴」を、「回転防止部の断面形状と、同一の形状を有して」いたものから、「回転防止部の断面形状と、同一の形状を有して」いないものとして、「アーム本体の嵌合穴」の形状を変更するものであるから、特許請求の範囲の減縮をするものとはいえない。
イ.
審判請求書の「D.補正の根拠」で、請求人が主張するように、当該補正前の「同一の形状を有しており」が、「同一の形状を有しておらず」の誤記であったとすると、「嵌合穴」と「回転防止部」とは形状が異なり、それらの間には隙間ができるといえるから、当該補正前の請求項1において、「嵌合穴」と「回転防止部」との関係を特定している「前記回転防止部は、前記嵌合穴内に、隙間なく嵌合している」という事項(択一的な事項の一つの事項)と矛盾することになる。
ウ.
審判請求人は、審判請求書の「D.補正の根拠」において、隙間の有無に関して、択一的な事項の他の一つの事項、すなわち、「前記回転防止部は、前記嵌合穴内に、隙間がある状態で嵌合している」という事項に特定したことを、特許請求の範囲の減縮に相当する旨主張する一方、他方では、嵌合穴の形状に関して、誤記である旨主張するものであり、審判請求人のこれらの主張は矛盾しているから、採用できない。
エ.
上記イ.及びウ.から、本件補正は誤記の訂正には、該当しないといえる。
オ.
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除、同項第2号の特許請求の範囲の減縮、同項第3号の誤記の訂正、同項第4号の明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的とする補正とはいえないから、特許法第17条の2第5項の規定に適合していない。
以上より、本件補正は適正になされたものとはいえない。

(2)本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、上記(1)で検討したとおり、特許法第17条の2第5項の規定に適合していないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、上記2.で述べたとおり、本件補正は適正になされたものではないが、仮に、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号の規定(特許請求の範囲の減縮)に適合すると解釈した場合、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条7項の規定に適合するか)についても、以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.(1)に記載したとおりのものである。

(2)刊行物に記載の事項及び発明
ア 刊行物に記載の事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、実願昭58-164795号(実開昭60-71720号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で加筆した。以下、同様である。
(1a)
「このワイパアーム1はアームリテーナ3とヒンジピン5’の隙間11の部分から腐食が発生し、・・・本考案は上記の不具合を解消する為に、アームヘッドとアームリテーナのヒンジピンによるかしめ固定において、ヒンジピンの両端をかしめたかしめ部をアームリテーナのかしめ穴一杯に押し広げアームリテーナとヒンジピンの間に隙間を発生させることなく一体的に固着したワイパアームを提供するものである。」(明細書第2頁第15行?第3頁第15行)
(1b)
「組付けでアームへッド2に位置合せしたあとヒンジピン5を押入して段差部6をかしめ穴7の外周部に突き当て、突出した小径突出部8をアームリテーナ3のかしめ穴7間一杯に広げ隙間のないようにかしめ固定する。そのあと、アームリテーナ3の内側に押え治具を入れてアームリテーナ3の変形を押えヒンジピン5の他方の大径部12をかしめる。」(明細書第4頁第6?13行)
(1c)
「ヒンジピン5の大径部12のかしめ部は第2図、(ハ)に図示する如く、竦み変形させられ、この竦み部13をアームリテーナ3のかしめ穴10一杯に押し広げて隙間なく固定したものである。これによって、アームリテーナ3とヒンジピン5は一体的に固着結合された構造となる。」(明細書第4頁第13?19行)
(1d)
「ヒンジピンとアームリテーナの結合が隙間のない一体的な固着結合である為、塗装が一様の厚さに出来、SPG材からなるアームリテーナの生地露出がない為、腐食により赤錆等の発生を防止出来る。又、遊びの拡大が押えられ耐久性が向上する。」(明細書第5頁第5?10行)

イ 刊行物に記載された発明
(ア)
上記ア(1c)及び第2図(イ)(ハ)から、かしめ穴10に、ヒンジピン5の少なくとも一部がかしめ固定され、ヒンジピン5の大径部12の内側に隣接した部分に竦み部13が形成されていることが、明らかである。
(イ)
上記(ア)、上記ア(1a)?(1d)の記載事項及び第1?2図の図示内容を総合し、本願補正発明の記載に則って整理すると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ワイパアーム1であって、
アームヘッド2と、
前記アームヘッド2に対してヒンジピン5により固定されたアームリテーナ3と、
前記アームヘッド2と前記アームリテーナ3とを固定するヒンジピン5とを備え、
前記アームリテーナ3に、前記ヒンジピン5の少なくとも一部がかしめ固定されるかしめ穴10を備え、
前記ヒンジピン5は、かしめられた大径部12と小径突出部8とを有しており、
前記ヒンジピン5の大径部12の内側に隣接した部分に、前記かしめ穴10一杯にかしめにより押し広げて隙間なく固定した竦み部13が形成されている、ワイパアーム1。」

(3)対比
ア 本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)
引用発明の「アームヘッド2」と、本願補正発明の「駆動機構に連結可能なアームヘッド」とは、「アームヘッド」の限りで共通する。
(イ)
引用発明の「ワイパアーム1」及び「アームリテーナ3」は、それぞれ、本願補正発明の「ワイパーアーム」及び「アーム本体」に相当する。
(ウ)
引用発明において、「アームリテーナ3」は、「アームヘッド2」に対して「ヒンジピン5により固定され」ているから、これらの部品は、ヒンジ結合されているといえる。すなわち、引用発明において、「アームリテーナ3」は、「アームヘッド2」に対して回動可能に連結されているといえる。
(エ)
上記(イ)及び(ウ)から、引用発明の「前記アームヘッド2に対してヒンジピン5により固定されたアームリテーナ3」は、本願補正発明の「前記アームヘッドに回動可能に連結されたアーム本体」に相当する。
(オ)
上記(ウ)から、引用発明において、「ヒンジピン5」は、ヒンジ結合によって、「アームヘッド2とアームリテーナ3とを」回動可能に「固定する」といえるから、引用発明の「ヒンジピン5」は、これらの部品を「連結する連結ピン」といえる。
(カ)
上記(イ)及び(オ)から、引用発明の「前記アームヘッド2と前記アームリテーナ3とを固定するヒンジピン5」は、本願補正発明の「前記アームヘッドと前記アーム本体とを連結する連結ピン」に相当する。
(キ)
引用発明において、「かしめ穴10」に、「ヒンジピン5の少なくとも一部がかしめ固定される」から、「かしめ固定」によって、「ヒンジピン5」は、「かしめ穴10」に、はめ合わされて、嵌合しており、「かしめ穴10」は、「嵌合」のための「穴」といえる。
(ク)
上記(イ)及び(キ)から、引用発明の「前記アームリテーナ3に、前記ヒンジピン5の少なくとも一部がかしめ固定されるかしめ穴10を備え」ることは、本願補正発明の「前記アーム本体に、前記連結ピンの少なくとも一部が嵌合する嵌合穴を備え」ることに相当する。
(ケ)
上記(2)ア(1b)及び第2図(イ)から、かしめられたヒンジピン5の大径部12及び小径突出部8は、ヒンジピン5のアームリテーナ3からの脱落を防止する機能を備えていることが、明らかである。
(コ)
上記(イ)及び(ケ)から、引用発明の「前記ヒンジピン5は、かしめられた大径部12と小径突出部8とを有して」いることは、本願補正発明の「前記連結ピンは、該連結ピンの前記アーム本体からの脱落を防止するための頭部と末端部とを有して」いることに相当する。
(サ)
引用発明の「竦み部13」は、ヒンジピン5の一部分を形成しており、「かしめ穴10一杯にかしめにより押し広げて隙間なく固定した」ものであり、かしめ穴10の内周縁部と係合することで、ヒンジピン5の軸周りでの回転を防止する機能を備えているといえるから、本願補正発明の「回転防止部」に相当する。
(シ)
上記(サ)から、引用発明の「前記ヒンジピン5の大径部12の内側に隣接した部分に、前記かしめ穴10一杯にかしめにより押し広げて隙間なく固定した竦み部13が形成されている」ことは、本願補正発明の「前記連結ピンの頭部の内側に隣接した部分に、前記嵌合穴の内周縁部と係合することにより前記連結ピンの軸周りでの回転を防止する回転防止部が形成されて」いることに相当する。

イ 以上より、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「ワイパーアームであって、
アームヘッドと、
前記アームヘッドに回動可能に連結されたアーム本体と、
前記アームヘッドと前記アーム本体とを連結する連結ピンとを備え、
前記アーム本体に、前記連結ピンの少なくとも一部が嵌合する嵌合穴を備え、
前記連結ピンは、該連結ピンの前記アーム本体からの脱落を防止するための頭部と末端部とを有しており、
前記連結ピンの頭部の内側に隣接した部分に、前記嵌合穴の内周縁部と係合することにより前記連結ピンの軸周りでの回転を防止する回転防止部が形成されている、ワイパーアーム。」
<相違点1>
「アームヘッド」に関して、本願補正発明は、「駆動機構に連結可能なアームヘッド」であるのに対して、引用発明の「アームヘッド2」は、そのように特定されていない点。
<相違点2>
「嵌合穴」と「回転防止部」との関係に関し、本願補正発明は、「前記アーム本体の嵌合穴は、前記回転防止部の断面形状と、同一の形状を有しておらず、前記回転防止部は、前記嵌合穴内に、隙間がある状態で嵌合している」のに対して、引用発明は、「前記かしめ穴10一杯にかしめにより押し広げて隙間なく固定した竦み部13が形成されている」点。

(4)判断
ア 以下、相違点について検討する。
<相違点1について>
ワイパー装置において、アームヘッドが駆動機構に連結されることは、例示するまでもない周知技術であり、この周知技術を引用発明に適用し、引用発明の「アームヘッド2」を、「駆動機構に連結可能なアームヘッド」とすることで、上記相違点1に係る本願補正発明の構成に到ることは、当業者にとって格別に困難なことではない。
<相違点2について>
(ア)
穴内に軸部材をかしめて固定することに関し、「穴は、軸部材の断面形状と、同一の形状を有しておらず、軸部材は、穴内に、隙間がある状態で嵌合していること」は、例えば、特開2002-73186号公報の段落【0011】及び図3、特開2002-248531号公報の段落【0043】及び図1?3、並びに、実願昭62-129171号(実開昭64-34406号)のマイクロフィルムの明細書第14頁第9?20行及び第4図に示すように、技術分野を問わず、周知の固定技術といえる。
(イ)
引用発明のヒンジピン5(連結ピン)は、軸部材といえるから、引用発明のかしめ穴10(嵌合穴)に、軸部材であるヒンジピン5(連結ピン)の竦み部13(回転防止部)を、かしめにより押し広げて固定(嵌合)することに関して、上記(ア)の周知の固定技術を適用することで、引用発明のかしめ穴10(嵌合穴)をヒンジピン5(連結ピン)の竦み部13(回転防止部)の断面形状と、同一の形状を有しておらず、ヒンジピン5(連結ピン)の竦み部13(回転防止部)は、かしめにより、かしめ穴10(嵌合穴)内に、隙間がある状態で嵌合しているようにすることで、上記相違点2に係る本願補正発明の構成に到ることは、当業者にとって格別に困難なことではない。
(ウ)
なお、本願補正発明の「嵌合」が、「圧入嵌合」ないし「単なる係合」を意味するとしても、引用発明のかしめによる固定(嵌合)技術に代えて、例えば、特開平11-194175号公報の段落【0015】及び図3、実願昭53-151094号(実開昭55-68080号)のマイクロフィルムの明細書第2頁第16?19行及び第1?5図、欧州特許出願公開第1547881号明細書のFig.1b?3、並びに、仏国特許出願公開第2679304号明細書のFig.1?7等に示される周知の嵌合技術を採用して、上記相違点2に係る本願補正発明の構成に到ることは、当業者にとって格別に困難なことではない。

イ 作用効果について
そして、本願補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術から予測される範囲内のものにすぎず、格別に顕著なものということはできない。

ウ 独立特許要件についてのまとめ
したがって、本願補正発明は、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明(引用発明)及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、仮に、特許法第17条の2第5項第2号の規定(特許請求の範囲の減縮)に適合すると解釈した場合であっても、上記(4)から、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
(1)本願発明
平成27年6月29日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、平成26年10月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2 1.(2)に記載のとおりのものである。

(2)刊行物に記載の事項及び発明
ア 刊行物に記載の事項
刊行物の記載事項は、上記第2 2.なお書き(2)アに示したとおりである。

イ 刊行物に記載された発明
刊行物に記載された発明は、上記第2 2.なお書き(2)イに示した「引用発明」のとおりである。

(3)対比
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)
本願発明と引用発明との対比は、上記第2 2.なお書き(3)アに示したとおりである。
(イ)
さらに、引用発明は、「前記ヒンジピン5(連結ピン)の大径部12(頭部)の内側に隣接した部分に、前記かしめ穴10(嵌合穴)一杯にかしめにより押し広げて隙間なく固定した竦み部13(回転防止部)が形成されている」から、「竦み部13(回転防止部)」は、「かしめ穴10(嵌合穴)一杯にかしめにより押し広げて隙間なく固定した」ものであり、「竦み部13(回転防止部)は、かしめ穴10(嵌合穴)内に、隙間なく嵌合している」といえるから、引用発明は、本願発明の択一的な特定事項の一つである「回転防止部は、嵌合穴内に、隙間なく嵌合している」という特定事項を備えている。

イ 以上より、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「ワイパーアームであって、
アームヘッドと、
前記アームヘッドに回動可能に連結されたアーム本体と、
前記アームヘッドと前記アーム本体とを連結する連結ピンとを備え、
前記アーム本体に、前記連結ピンの少なくとも一部が嵌合する嵌合穴を備え、
前記連結ピンは、該連結ピンの前記アーム本体からの脱落を防止するための頭部と末端部とを有しており、
前記連結ピンの頭部の内側に隣接した部分に、前記嵌合穴の内周縁部と係合することにより前記連結ピンの軸周りでの回転を防止する回転防止部が形成されており、
前記回転防止部は、前記嵌合穴内に、隙間なく嵌合している、ワイパーアーム。」
<相違点1>
「アームヘッド」に関して、本願発明は、「駆動機構に連結可能なアームヘッド」であるのに対して、引用発明の「アームヘッド2」は、そのように特定されていない点。
<相違点2>
本願発明は、「前記アーム本体の嵌合穴は、前記回転防止部の断面形状と、同一の形状を有して」いるのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(4)判断
ア 以下、相違点について検討する。
<相違点1について>
相違点1は、上記第2 2.なお書き(3)イの<相違点1>と同じであり、その相違点についての検討は、上記第2 2.なお書き(4)アの<相違点1について>で述べたとおりである。
<相違点2について>
(ア)
引用発明の竦み部13(回転防止部)は、かしめ穴10(嵌合穴)一杯にかしめにより押し広げて隙間なく固定されているから、通常、竦み部13(回転防止部)の断面形状は、かしめ穴10(嵌合穴)と同一の形状となっているといえる。
すなわち、かしめ穴10(嵌合穴)は、竦み部13(回転防止部)の断面形状と、同一の形状を有しており、相違点2は、実質的には相違点とはいえないともいえる。
(イ)
一応、引用発明の竦み部13(回転防止部)について更に検討するに、「かしめ穴10(嵌合穴)一杯にかしめにより押し広げて隙間なく固定されている」という技術的意味は、上記第2 2.なお書き(2)ア(1a)及び(1d)の腐食防止及び耐久性向上などの効果が得られるようにすることにあるといえる。
(ウ)
引用発明においては、かしめの程度によって、かしめ穴10(嵌合穴)の内面(かしめ穴10の内面の周方向の一部分、又は、かしめ穴10の内面の軸方向の一部分など)に僅かに隙間が存在することも考えられなくはない。
(エ)
しかしながら、引用発明のかしめ工程で、僅かでも隙間が存在すれば、塗装がはがれ異物等がその隙間に侵入し易く腐食等の要因となり、強度も充分ではなく摩耗も発生し易くなることは、自明なことであり、それらを防止するために全く隙間がないようにかしめることは、技術常識といえる。
(オ)
上記(イ)の引用発明のかしめの技術的意味及び上記(エ)のかしめ工程の技術常識から、引用発明の竦み部13(回転防止部)を、かしめ穴10(嵌合穴)一杯に全く隙間がないようにかしめにより押し広げて構成し、すなわち、竦み部13(回転防止部)の断面形状をかしめ穴10(嵌合穴)の形状と同一の形状となるようにし、上記相違点2に係る本願発明の構成に到ることは、当業者であれば、当然考慮することであり、格別に困難なことではない。
(カ)
なお、本願発明の「嵌合」が、「圧入嵌合」を意味するとしても、嵌合穴と同一形状の回転防止部を嵌合穴に「圧入嵌合」することも、原査定の拒絶の理由で引用された、実願平2-98411号(実開平4-55451号)のマイクロフィルムの明細書第2頁第8?13行及び第7図、並びに、英国特許出願公告第1585449号明細書の第2頁左欄第32?42行及びFig.1?3に記載されている。

イ 作用効果について
そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、周知技術及び技術常識から予測される範囲内のものにすぎず、格別に顕著なものということはできない。

(5)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明(引用発明)、周知技術及び技術常識に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-05 
結審通知日 2016-04-06 
審決日 2016-05-11 
出願番号 特願2011-72500(P2011-72500)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60S)
P 1 8・ 57- Z (B60S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
出口 昌哉
発明の名称 ワイパーアーム  
代理人 小野 新次郎  
代理人 星野 修  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小林 泰  
代理人 山本 修  

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