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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1316508
審判番号 不服2013-17398  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-09 
確定日 2016-06-30 
事件の表示 特願2009-543461「修飾されたナノ粒子を含んでいる膜形成組成物および修飾されたナノ粒子を膜形成組成物中に使用する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月10日国際公開、WO2008/080908、平成22年 5月 6日国内公表、特表2010-514874〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2007年12月21日(パリ条約に基づく優先権主張、2006年12月28日、欧州特許庁(EP))の国際出願日に出願されたものとみなされる国際特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成22年12月16日 手続補正書
平成24年10月 1日付け 拒絶理由通知
平成25年 3月11日 意見書・手続補正書
平成25年 4月25日付け 拒絶査定
平成25年 9月 9日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成25年11月12日付け 前置審査移管
平成26年 1月15日付け 前置報告書
平成26年 1月17日付け 前置審査解除
平成26年 7月 9日 上申書
平成26年 9月30日付け 拒絶理由通知
平成27年 4月10日 意見書・手続補正書
平成27年 4月17日 上申書

第2 本願の請求項に記載された事項
平成27年4月10日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5において、膜形成組成物、修飾されたナノ粒子、そのナノ粒子を使用する方法及び当該膜形成組成物を硬化して得られる引っかき抵抗性コーティングに係る発明が記載されているところ、そのうち請求項2には、以下の事項が記載されている。

「非晶質シリカナノ粒子の上に吸着されたセグメント化コポリマーを有し且つ1?400ナノメートルの平均直径を有する非晶質シリカナノ粒子を含んでいる修飾されたナノ粒子であって、該セグメント化コポリマーが吸着セグメントおよび疎水性表面活性セグメントを含んでいる修飾されたナノ粒子において、該吸着セグメントが1以上の塩基性アミノ官能基を有し、該シリカナノ粒子が非プロトン性有機溶媒中のコロイド分散物中の非晶質シリカ粒子であり、該ナノ粒子が非晶質シリカ粒子上のシラノール基がモノアルコールにより部分的にエステル化されることにより化学的に修飾された表面を有し、該セグメント化コポリマーがGPCによって測定された重量平均分子量1000?10000g/モルを有するものであり、ナノ粒子上のセグメント化コポリマーの量がナノ粒子の合計固形分重量に対して10?80重量%であり、該セグメント化コポリマーはセグメント化コポリマー重量に対して最大で40重量%の吸着セグメントを含んでおり、該セグメント化コポリマーの残部は疎水性セグメントであり、該セグメント化コポリマーがセグメント化ブロックコポリマーであり、少なくとも該疎水性セグメントがエチレン性不飽和モノマーの制御されたラジカル重合によって作られたマクロモノマーであり、且つ、該セグメント化ブロックコポリマー上の該疎水性セグメントが、該疎水性セグメントの重量当たり(メタ)アクリル酸のC5?C15アルキルエステル10重量%?90重量%を含む、
上記の修飾されたナノ粒子。」
(以下、上記請求項2に記載された事項で特定される発明を「本願発明」という。)

第3 平成26年9月30日付け拒絶理由の概要
当審が平成26年9月30日付けで通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。
「理由1:・・(中略)・・
理由2:・・(中略)・・
理由3:本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由4:本願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日(優先日)前の特許出願を優先権主張の基礎とする特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

・・(中略)・・
III.理由3について
・・(中略)・・
引用刊行物:
1.・・(中略)・・
2.・・(中略)・・
3.・・(中略)・・
4.・・(中略)・・
5.特開2001-81356号公報(新たに引用)
(以下、上記「1.」ないし「5.」の各文献を「引用例1」ないし「引用例5」という。)
・・(中略)・・
(2)本願発明7ないし9について
・・(中略)・・
(d)以上のとおりであるから、本願発明7ないし9についても、上記引用発明2と実質的に同一であり、本願発明7ないし9は、いずれも上記引用例1ないし5に記載された発明であるというほかはない。
・・(中略)・・
3.理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明1ないし14については、いずれも上記引用例1ないし5に記載された発明である。

IV.理由4について
・・(中略)・・
引用出願:特願2007-36200号(特開2008-179750号公報)
(新たに引用する。優先日が平成18年12月27日である。以下「先願」という。)
・・(中略)・・
3.理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明1ないし5、7及び10ないし14は、いずれも先願明細書等に記載された発明であるものと認められる。」

第4 当審の判断
当審は、上記理由3及び4とそれぞれ同一の理由により、本願は、依然として拒絶すべきものと判断する。以下詳述する。

I.上記理由3について

1.引用文献に記載されている事項
上記特開2001-81356号公報(以下「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 無機粒子を、(A)疎水性単量体を必須成分とする重合体の片末端にラジカル重合性反応基を有するマクロモノマーに親水性単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体及びその塩、(B)pH6以上で増粘性を示すメタクリル系共重合体、及び(C)3級カチオン基を有する単量体と、不飽和モノカルボン酸及び不飽和ジカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種を重合して得られる共重合体及びその塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤で表面コーティングしたことを特徴とする無機顔料。
【請求項2】 水系樹脂に請求項1記載の無機顔料を含有させたことを特徴とする水系樹脂組成物。
【請求項3】 水系樹脂に請求項1記載の無機顔料を含有させたことを特徴とする水系耐チッピング樹脂組成物。」

(1b)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は無機顔料およびそれを含有してなる水系樹脂組成物に関し、更に詳しくは、特に水系樹脂アンダーコート材に代表される水系樹脂組成物に好適に応用でき、水系樹脂組成物に配合した際、優れた粘度調整機能・チキソ性付与効果を有し、かつ多量に配合した場合においても亀裂・膨れを防止し、耐水性、塗膜強度に優れるとともに、貯蔵安定性に優れた水系樹脂組成物を与える無機顔料、および該無機顔料を配合してなる水系樹脂組成物に関する。」

(1c)
「【0009】本発明に使用される無機粒子の種類は特別に限定されないが、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、コロイド炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、ゼオライト、珪藻土、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、タルク、クレー、マイカなどを例示することができる。しかしながら、タルク、クレー、マイカに代表されるような粒子形状が平面的な無機粒子の場合、該無機顔料を配合した水系樹脂組成物を塗布し焼付け硬化する際に水分の蒸発を妨げることとなり膨れやすくなるため、粒子形状が立体的で、かつ平均粒子径の調整が容易であり、分散の良好な炭酸カルシウムが好ましい。無機粒子の平均粒子径や形状は特に限定されないが、平均粒子径が大きくなると、水系樹脂組成物に配合した際、十分な粘度調整機能およびチキソ性付与効果が得られない場合があり、また、水系樹脂成分と無機顔料との界面から亀裂が発生する恐れがある。そのため該無機顔料に使用する無機粒子の粒子径は小さいほうが好ましく、特に、下記式(a)、(b)、(c)をともに満足するものがより好ましい。
【0010】(a) 0.001≦dx1≦10.000
(b) 0.005≦dx2≦20.000
(c) 0.1≦Sw
但し、
dx1:電子顕微鏡写真より無作為に選択された20個についての投影円相当径を平均した平均一次粒子径(μm)。
dx2:島津式粒度分布計SA-SP3により測定した粒子のd50平均二次粒子径(μm)。
Sw:ユアサアイオニクス社製NOVA2000により測定した窒素吸着法によるBET比表面積(m^(2)/g)。
【0011】上記式(a)は本発明の無機顔料に使用する無機粒子の平均一次粒子径であり、平均一次粒子径dx1は0.001≦dx1≦10.000(μm)であることが好ましく、より好ましくは0.001≦dx1≦5.000(μm)、さらに好ましくは0.001≦dx1≦1.000(μm)、最も好ましくは0.001≦dx1≦0.5000(μm)である。dx1が0.001μm未満では、該無機顔料を配合した水系樹脂組成物を調製する際、必要以上に増粘し作業上悪影響を及ぼす場合があり、一方、10.000μm を超えると、該無機顔料を配合した水系樹脂組成物は、耐チッピング性に代表されるような最終的な塗膜物性を低下させる場合があり、好ましくない。
【0012】上記式(b)は本発明の無機顔料に使用する無機粒子の平均二次粒子径であり、該無機粒子の水スラリー中での挙動を示すもので、数値的に明確である粒度分布の指標を取り入れて規定されている。平均二次粒子径dx2は0.005≦dx2≦20.000(μm)であることが好ましく、より好ましくは0.005≦dx2≦10.000(μm)、さらに好ましくは0.005≦dx2≦3.000(μm)、最も好ましくは0.005≦dx2≦1.000(μm)である。dx2が0.005μm 未満では、該無機顔料を配合した水系樹脂組成物を調製する際、必要以上に増粘し作業上悪影響を及ぼす場合があり、一方、20.000μmを超えると、該無機顔料を配合した水系樹脂組成物は、乾燥時の水抜け性が悪化し、乾燥後の塗膜に膨れ・亀裂を生じさせる原因となることがあるため好ましくない。
【0013】上記式(c)は本発明の無機顔料に使用する無機粒子の窒素吸着法によるBET比表面積であり、BET比表面積Swは、0.1(m^(2)/g)≦Swであることが好ましく、より好ましくは0.2(m^(2)/g)≦Sw、さらに好ましくは0.5(m^(2)/g)≦Sw、最も好ましくは2.0(m^(2)/g)≦Swである。Swが0.1m^(2)/g未満では、該無機顔料と水系樹脂成分との馴染み性が悪く、両者の界面が剥離しやすく亀裂の原因になる。上限は特に制限されないが、Swが大きくなると水系樹脂組成物を調製する際に投入する分散剤、消泡剤、増粘剤等の他成分を該無機粒子が吸着しその効果を減衰させる場合があるため200m^(2)/g以下程度のものが好ましい。」

(1d)
「【0014】本発明の(A)のグラフト共重合体及びその塩は、マクロモノマーを利用したラジカル重合法によって得ることができる。すなわち疎水部分を有する重合体の片末端にラジカル重合性基を持つマクロモノマーに、親水性単量体をラジカル共重合によってグラフトさせることにより得ることができる。
【0015】マクロモノマーの合成における原料単量体として疎水性単量体は必須であり、全原料単量体中10重量%以上、好ましくは20重量%以上共重合させることが望ましい。疎水性単量体が10重量%未満では、その疎水性単量体に由来する効果が不十分になる場合がある。また、上限は特に制限はなく、100重量%でも差し支えない 。疎水性単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、ビニルトルエン、αーメチルスチレン等のスチレン系単量体、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル等が例示できる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。さらに、上記疎水性単量体と共重合可能な親水性単量体も併用でき、・・(中略)・・などが例示できる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0016】次に、上記マクロモノマーにグラフト共重合させる、親水部分を構成する親水性単量体は、特に制限はなく、例えばカルボン酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびこれらの塩、スルホン酸系単量体としてはスチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-スルホエチルメタクリレート、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸およびこれらの塩、ノニオン系単量体としては、メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリルアミド、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が例示できる。塩は特に限定されないが、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が好ましい。
【0017】全単量体中のマクロモノマーの使用量は0.5?60重量%が好ましく、より好ましくは1?40重量%である。0.5重量%未満では、マクロモノマーの性能に由来する吸着性能が低下し、増粘性が悪くなる傾向があり、一方、60重量%を超えると、グラフト部分が過大となり分散性が低下する傾向がある。
・・(中略)・・
【0021】・・(中略)・・グラフト共重合体の分子量は広い範囲の分子量のものが使用でき、1000?100万が好ましく、分散性および増粘性の点から1万?50万の範囲がより好ましい。」

(1e)
「【0025】次に、本発明の(C)は、3級カチオン基を有する単量体と、不飽和モノカルボン酸及び不飽和ジカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種を重合して得られる。3級カチオン基を有する単量体は特に制限されないが、ラジカル重合のしやすさから、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノエチル、ジアルキルアミノプロピルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミドが好ましく、これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびこれらの塩などが挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いられるが、特にアクリル酸、マレイン酸およびこれらの塩などが好ましい。塩は特に限定されないが、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が好ましい。また、共重合体の50重量%を超えない範囲で、これらと共重合可能な単量体を共重合させることも可能である。本重合体の重合方法は特に制限されず、例えば、前述のグラフト共重合体の重合方法と同様な方法を用いることができる。」

(1f)
「【0026】上記(A)、(B)、(C)から選ばれる少なくとも1種(以下、表面処理剤と記す)を無機粒子に添加、吸着させ表面処理した無機顔料を得る方法については特に制限はなく、例えば、無機粒子と水とのスラリーに表面処理剤を添加し、攪拌等により均一に混合して無機粒子に該表面処理剤を吸着させた後フィルタープレス等にて脱水し、乾燥、解砕し粉末化する方法、粉末化した無機粒子を流動化させておき、この流動床に上記表面処理剤の水溶液を噴霧吸着させる方法、表面処理剤をマイクロカプセル化し、乾燥時にカプセルを崩壊させることで無機粒子表面へ付着させる方法、などが操作の容易さから好ましい。
【0027】更に、用途、目的に応じて無機顔料をスラリー荷姿で供給することも容易であり、例えば無機粒子の水懸濁液をフィルタープレス等により脱水し、得られる無機粒子プレスケーキに前記表面処理剤を添加し強力に攪拌することにより製造される。これらの常法により該表面処理剤を吸着させることにより、本発明の効果は十分に発揮されるが、更に大きな効果を得ようとするならば湿式であればサンドグラインダーミル等の分散機を、乾式であれば、振動ボールミル・ミキサー等の粉砕機中を、該表面処理剤を吸着させた後、通過させる方法等が好ましい。
【0028】該表面処理剤を無機粒子に添加、吸着させる量は特に限定されないが、無機粒子100重量部に対して0.01?30重量部が好ましく、より好ましくは0.1?20重量部、さらに好ましくは0.3?10重量部である。(A)と(B)と(C)を2種以上併用する場合は、それらの合計添加量である。添加量が0.01重量部未満ではその表面処理効果が無処理品と比較し顕著となりにくく、30重量部を超えると超えた分の吸着率が低下すると共に、表面処理剤の更なる顕著な効果が期待しにくく、経済的にも不利であることが多い。また表面処理剤は、脂肪酸、樹脂酸、アルキルベンゼンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩等に代表される公知の他の表面改質剤と併用することも可能であり、この場合、該表面処理剤(A)、(B)、(C)の添加量が、表面改質剤との合計100重量部に対し10重量部以上添加することが好ましい。添加量が10重量部未満ではその表面処理効果が顕著となりにくく、あるいは効果が発揮されない場合がある。」

(1g)
「【0033】
【実施例】以下に実施例、比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、これらに何ら制限されるものではない。
【0034】実施例1?25
比重1.070の石灰乳(Ca(OH)_(2)含有量11.8%)を13℃に調整し、水酸化カルシウム1Kgあたり35L/分の炭酸ガス(CO_(2)濃度20%)を導通し炭酸化反応を行い、系のPH8.0で炭酸化反応を停止し、55℃PH10.0で20時間攪拌し、系の粘度が2500cpsに達した時再び炭酸ガスを導通して系のPHを6.9とした。これにより凝集粒子の少ない、平均一次粒子径(dx1)0.10μm、平均二次粒子径(dx2)0.60μm、BET比表面積(Sw)10.0m^(2)/gのコロイド炭酸カルシウムスラリーを得た。このコロイド炭酸カルシウムスラリーをフィルタープレスを用いて脱水し、該プレスケーキに表1に示す(A)、(B)、(C)より選ばれる表面処理剤を、コロイド炭酸カルシウム固形分100重量部に対し1.5重量部添加した。その後、ディスパーにて強力に攪拌し、表面処理剤をコロイド炭酸カルシウム表面に十分吸着せしめることにより、コロイド炭酸カルシウムスラリーを得た。該コロイド炭酸カルシウムスラリーを常法により乾燥・粉末化し、無機顔料を得た(表1)。
・・(中略)・・
【0039】実施例32
無機粒子として、平均一次粒子径(dx1)0.04μm、平均二次粒子径(dx2)1.00μm、BET比表面積(Sw)50.0m^(2)/gシリカ(アエロジル株式会社製 アエロジルOX50)を使用し、10重量%に希釈した実施例1に使用したものと同一の表面処理剤をシリカ固形分100重量部に対し5.0重量部を噴霧吸着させた以外は実施例30と同様にして、無機顔料を得た(表1)。
【0040】実施例33
無機粒子として、平均一次粒子径(dx1)0.016μm、平均二次粒子径(dx2)0.86μm、BET比表面積(Sw)130.0m^(2)/gのシリカ(アエロジル株式会社製 アエロジル130)を使用し、10重量%に希釈した実施例1に使用したものと同一の表面処理剤をシリカ固形分100重量部に対し10.0重量部を噴霧吸着させた以外は実施例30と同様にして、無機顔料を得た(表1)。」

2.検討

(1)引用例に記載された発明
上記引用例には、「無機粒子を、(A)疎水性単量体を必須成分とする重合体の片末端にラジカル重合性反応基を有するマクロモノマーに親水性単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体及びその塩、・・及び(C)3級カチオン基を有する単量体と、不飽和モノカルボン酸及び不飽和ジカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種を重合して得られる共重合体及びその塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤で表面コーティングしたことを特徴とする無機顔料」が記載されている(摘示(1a)【請求項1】)。
そして、(a)当該「無機粒子」としてシリカが例示されるとともに、その「平均一次粒子径dx1」が「0.001≦dx1≦10.000(μm)」、すなわち1?10000nmであること及び「平均二次粒子径dx2」が「0.005≦dx2≦20.000(μm)」、すなわち5?20000nmであること(摘示(1c))、
(b)当該「(A)」の「グラフト共重合体」における「疎水性単量体」として、「(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル」などの「(メタ)アクリル酸アルキル」「エステル」が使用でき、「疎水性単量体」を「マクロモノマー」中の10?100重量%を占める量で使用すべきこと、「親水性単量体」として(メタ)アクリルアミドなどの含窒素基含有モノマーを使用できること及び「(A)」の「グラフト共重合体の分子量」は広い範囲の分子量のものが使用でき、「1000?100万が好ましい」こと(摘示(1d))、
並びに
(c)当該「(C)」の「共重合体」における「3級カチオン基を有する単量体」として「(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノエチル、ジアルキルアミノプロピルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミドが好まし」く、また、当該「(C)」の「共重合体」は、「重合方法は特に制限されず、例えば、前述のグラフト共重合体」、すなわち「(A)」の「グラフト共重合体」の重合方法と同様な方法を用いることができること(摘示(1e))、もそれぞれ記載されている。
また、上記引用例には、「表面処理剤を無機粒子に添加、吸着させる量」につき「無機粒子100重量部に対して0.01?30重量部が好まし」いことが記載され、その添加、吸着させる方法につき、「無機粒子と水とのスラリーに表面処理剤を添加し、攪拌等により均一に混合して無機粒子に該表面処理剤を吸着させ」ることも記載されている(摘示(1f))。
さらに、上記引用例には、無機粒子として、「アエロジルOX50」又は「アエロジル130」なる商品名のシリカを使用する実験例が記載されている(摘示(1g))ところ、当該シリカは、平均粒子径数十nmの非晶質シリカであることが当業者に自明である(必要ならば下記参考文献1ないし3参照)。
してみると、上記引用例には、上記(1a)ないし(1g)の記載からみて、
「平均一次粒子径が1?10000nmの非晶質シリカ粒子に対して、疎水性単量体を10?100重量%含有する重合体の片末端にラジカル重合性反応基を有するマクロモノマーに親水性単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体からなる表面処理剤を粒子100重量部に対して0.01?30重量部表面に吸着させコーティングした無機顔料であって、グラフト共重合体が、疎水性単量体として(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むマクロモノマーを0.5?60重量%含み、親水性単量体として(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノエチルなどの3級カチオン基に変換できる窒素基含有単量体を含む分子量1000?100万のものである無機顔料。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

参考文献1:「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品」2003年12月2日、株式会社ポリマーダイジェスト発行、202?207頁(「(1)ホワイトカーボン;シリカ(silica)」の項)
参考文献2:「顔料の事典」2000年9月25日、株式会社朝倉書店発行、177?179頁(「3.2.3 ホワイトカーボン」の項)及び432?433頁(「c.顔料の基本的な処理(III)」の項)
参考文献3:日本アエロジル株式会社のホームページにおける製品情報(URL:http://www.aerosil.com/product/aerosil/ja/products/hydrophilic-fumed-silica/pages/default.aspx)のうち「アエロジル130」及び「アエロジルOX50」なる親水性フュームドシリカ製品に係るもの

(2)対比・検討

ア.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「平均一次粒子径が1?10000nmの非晶質シリカ粒子」は、その粒子径の範囲が一部重複するから、本願発明における「1?400ナノメートルの平均直径を有する非晶質シリカナノ粒子」に相当する。
そして、引用発明における「疎水性単量体を・・含有する重合体の片末端にラジカル重合性反応基を有するマクロモノマーに親水性単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体からなる表面処理剤」は、上記「疎水性単量体を含有する重合体」である「マクロモノマー」の片末端に存在するラジカル重合性反応基(ビニル基、(メタ)アクリロイル基など)に対して、親水性単量体を重合して親水性重合体(部分)を形成したものであって、上記「ラジカル重合性反応基」を基点として「親水性単量体」を重合した場合、その基点から「親水性単量体」からなる重合体鎖が一方向又は二方向に形成されることが当業者に自明であるから、「疎水性単量体を必須成分とする重合体の片末端にラジカル重合性反応基を有するマクロモノマー」の部分、すなわちセグメントと、「親水性単量体をグラフト重合してなる」重合体の部分、すなわちセグメントの1個又は2個とが、マクロモノマーの片末端で結合しているものと認められ、よって、本願発明における「セグメント化コポリマー」及び「セグメント化ブロックコポリマー」に相当するとともに、引用発明における『「疎水性単量体を必須成分とする重合体の片末端にラジカル重合性反応基を有するマクロモノマー」の部分』は、本願発明における「疎水性表面活性セグメント」に、また、引用発明における『「親水性単量体をグラフト重合してなる」重合体の部分』は、親水性を有することにより、極性を有するシリカ粒子の表面に吸着できる点で、本願発明における「吸着セグメント」に、それぞれ相当するものと認められる。
さらに、引用発明における「表面処理剤を粒子100重量部に対して0.01?30重量部表面に吸着させ(る)」は、実質的に重量比範囲が一部重複する点で、本願発明における「ナノ粒子上のセグメント化コポリマーの量がナノ粒子の合計固形分重量に対して10?80重量%であり」に相当し、引用発明における「マクロモノマーを0.5?60重量%含み」は、親水性単量体のグラフト重合量が40?99.5重量%であることを意味するから、本願発明における「セグメント化コポリマーはセグメント化コポリマー重量に対して最大で40重量%の吸着セグメントを含んでおり」と40重量%である点で相当するとともに、引用発明における「グラフト共重合体が、・・分子量1000?100万のものである」は、分子量範囲が一部重複する点で、本願発明における「セグメント化コポリマーがGPCによって測定された重量平均分子量1000?10000g/モルを有するものであり」に相当する。
また、引用発明における「疎水性単量体として」の「(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル」は、本願発明における「(メタ)アクリル酸のC5?C15アルキルエステル」に相当することが明らかであり、引用発明における「疎水性単量体を10?100重量%含有する重合体の片末端にラジカル重合性反応基を有するマクロモノマー」は、当該「疎水性単量体」として上記「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」を使用する態様を含むことが明らかであるから、本願発明における「疎水性セグメントが、該疎水性セグメントの重量当たり(メタ)アクリル酸のC5?C15アルキルエステル10重量%?90重量%を含む」に相当するとともに、引用発明における「親水性単量体として」の「(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノエチルなどの3級カチオン基に変換できる窒素基含有単量体」は、3級カチオン基に変換できる窒素基(例えばジアルキルアミノ基)が種々の酸基と塩を形成する「塩基性」を有することが当業者に自明であるから、本願発明における「塩基性アミノ官能基」(を有する単量体)に相当する。
なお、引用発明における「非晶質シリカ粒子に対して、・・グラフト共重合体(セグメント化コポリマー)からなる表面処理剤を・・表面に吸着させコーティングした無機顔料」は、非晶質シリカ粒子の表面にグラフト共重合体(セグメント化コポリマー)からなる表面処理剤分子を吸着させて非晶質シリカ粒子の表面を修飾しているものと理解できるから、本願発明における「非晶質シリカナノ粒子の上に吸着されたセグメント化コポリマーを・・有する非晶質シリカナノ粒子を含んでいる修飾されたナノ粒子」に相当する。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「非晶質シリカナノ粒子の上に吸着されたセグメント化コポリマーを有し且つ1?400ナノメートルの平均直径を有する非晶質シリカナノ粒子を含んでいる修飾されたナノ粒子であって、該セグメント化コポリマーが吸着セグメントおよび疎水性表面活性セグメントを含んでいる修飾されたナノ粒子において、該吸着セグメントが1以上の塩基性アミノ官能基を有し、該セグメント化コポリマーがGPCによって測定された重量平均分子量1000?10000g/モルを有するものであり、ナノ粒子上のセグメント化コポリマーの量がナノ粒子の合計固形分重量に対して10?80重量%であり、該セグメント化コポリマーはセグメント化コポリマー重量に対して40重量%の吸着セグメントを含んでおり、該セグメント化コポリマーの残部は疎水性セグメントであり、該セグメント化コポリマーがセグメント化ブロックコポリマーであり、少なくとも該疎水性セグメントがエチレン性不飽和モノマーの制御されたラジカル重合によって作られたマクロモノマーであり、且つ、該セグメント化ブロックコポリマー上の該疎水性セグメントが、該疎水性セグメントの重量当たり(メタ)アクリル酸のC5?C15アルキルエステル10重量%?90重量%を含む、上記の修飾されたナノ粒子。」
の点で一致し、以下の2点でのみ一応相違するものといえる。

相違点1:本願発明では、「該シリカナノ粒子が非プロトン性有機溶媒中のコロイド分散物中の非晶質シリカ粒子であ」るのに対して、引用発明では、「非晶質シリカ粒子」及び「無機顔料」が存在する環境につき特定されていない点
相違点2:本願発明では、「該ナノ粒子が非晶質シリカ粒子上のシラノール基がモノアルコールにより部分的にエステル化されることにより化学的に修飾された表面を有」するのに対して、引用発明では、当該エステル化による修飾につき特定されていない点

イ.検討

(ア)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、本願発明は、請求項2の記載からみて「ナノ粒子」自体に係るものであって、「非プロトン性有機溶媒中に当該ナノ粒子がコロイドとして分散してなる分散物」に係る発明であるとは認められない。
そして、当該「ナノ粒子」は、技術常識からみて、非プロトン性有機溶媒中のコロイド分散物中から、微小コロイドを分散液から分別するための当業者の周知慣用方法(例えば限外ろ過、遠心分離等)により分別できないものとも認められず、当該「ナノ粒子」は、その存在する環境(例えば非プロトン性有機溶媒中)を問わず、独立して存在することができるものと認められる。
してみると、本願発明における「該シリカナノ粒子が非プロトン性有機溶媒中のコロイド分散物中の非晶質シリカ粒子であ」る点は、同発明に係る「ナノ粒子」を特定するための技術事項であるとは認められず、実質的な技術的相違点であるものとはいえない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であるものとはいえない。

(イ)相違点2について
上記相違点2につき検討するにあたり、技術的前提として、シリカ微粒子の表面に存在する官能基とそのシリカ微粒子単独の水性分散物のpHとの関係につき整理すると、例えば、「スノーテックス O」の商品名で当業者に周知の水性コロイダルシリカなどの湿式法で製造された非晶質シリカ微粒子の水性分散物、特にアルコキシシラン縮合物のオルガノゲルから加水分解で製造されたシリカ微粒子水性分散物の場合、その微粒子の表面には、シラノール基とアルコキシシリル基、すなわち遊離ケイ酸基(Si-OH)とケイ酸アルキルエステル基(Si-OR(Rはアルキル基))とが存在し、その遊離ケイ酸基の水中における電離によりプロトン(水素イオン)が放出され、そのプロトンの濃度の大小によりシリカ微粒子の水性分散液のpHが決定されることとなる。
してみると、水性分散物中のシリカ微粒子の表面におけるシラノール基の相対的な存在量が多く、アルコキシシリル基の存在量が少ないと、水中のプロトン量が増大し、pHは小さくなり、逆に、当該シラノール基存在量が少なく、アルコキシシリル基の存在量が多いと、水中のプロトン量が減少し、pHは大きくなるものと理解するのが自然である。
以上を技術的前提として相違点2につき検討すると、上記引用例には、引用発明に係る具体例として、原料の無機粒子として「アエロジルOX50」又は「アエロジル130」なる商品名のシリカを使用する実験例が記載されているところ、当該各シリカはいずれもシリカ単独のpH値が4程度と「スノーテックス O」などに比して大きいものである(上記参考文献1参照)から、そのシリカ微粒子の表面には、アルコキシシリル基、すなわちケイ酸のアルキルエステル基が存するものと理解するのが自然である。
してみると、引用発明に係る「無機顔料」においても、その表面にアルコキシシリル基、すなわちケイ酸のアルキルエステル基が存するものであり、「シラノール基がモノアルコールにより部分的にエステル化されることにより化学的に修飾された表面を有する」状態となっているものと認められる。
なお、相違点2に係る事項について、本願明細書(平成27年4月10日付け手続補正後のもの)の発明の詳細な説明の記載を検討すると、実施例に係る記載においては、確かにいずれの実施例(及び比較例)においても、セグメント化ポリマー(又は他のポリマー)による修飾に先立ってアルコール組成物とシリカ微粒子の水性分散体とを共沸蒸留に付し、水を除去すると共にアルコールによるエステル化修飾を施した「ブチル-ナノシリカ」を使用した場合のみであり、さらに、実施例における最終生成物である「ナノ粒子」のエステル化修飾の有無及び量比についても開示されていないから、当該エステル化修飾の有無により、いかなる技術上の差異があるのか不明である。
また、エステル化修飾がなされるシリカ微粒子表面のシラノール基は、セグメント化ポリマー(又は他のポリマー)による修飾において、当該ポリマーが結合される部位であるところ、上記エステル修飾が行われた場合、シラノール基が減少し、ポリマーの結合が阻害されるものと理解されるのに対して、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を総合しても、意図的にエステル修飾が行われたシリカナノ微粒子を構成することの技術的意義を理解することができる記載ないし示唆もない。
してみると、上記相違点2に係る事項に格別な技術的意義が存するものとも認められない。
したがって、上記相違点2については、実質的な相違点であるものとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本願発明と引用発明とは同一であり、本願発明は、上記引用例に記載された発明である。

3.理由3についてのまとめ
よって、本願の請求項2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではない。

II.上記理由4について

1.先願明細書に記載された事項
上記拒絶理由通知で引用した先願(特願2007-36200号)の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下併せて「先願明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)
「【請求項1】
顔料(A)、非水系溶媒(B)、並びに下記の主鎖とグラフト鎖とを有するポリマー(C)を含有する非水系顔料分散組成物。
主鎖:溶解度パラメーター〔SP値(cal/cm^(3))^(1/2)〕が10.0以下であるモノマー由来の構成単位(c3)を含むポリマー鎖
グラフト鎖:窒素原子を含有する重合体由来の構成単位(c1)を含むポリマー鎖、及び窒素原子を含有しない重合体由来の構成単位(c2)を含むポリマー鎖
【請求項2】
ポリマー(C)中の全構成単位に対する構成単位(c3)の割合が、3?50重量%である、請求項1に記載の非水系顔料分散組成物。
【請求項3】
構成単位(c1)が、片末端(メタ)アクリロイル型の窒素原子含有重合性マクロモノマー由来の構成単位である、請求項1又は2に記載の非水系顔料分散組成物。
【請求項4】
構成単位(c2)が、片末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー由来の構成単位である、請求項1?3のいずれかに記載の非水系顔料分散組成物。
【請求項5】
構成単位(c3)が、フッ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位である、請求項1?4のいずれかに記載の非水系顔料分散組成物。
・・(中略)・・
【請求項7】
非水系溶媒(B)がプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである、請求項1?6のいずれかに記載の非水系顔料分散組成物。
・・(中略)・・
【請求項9】
ポリマー(C)が顔料(A)の表面に固定化されている、請求項1?8のいずれかに記載の非水系顔料分散組成物。」

(2b)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系顔料分散組成物に関する。
・・(中略)・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、非水系顔料分散組成物の特性向上において、顔料の微細化に伴い、加熱工程で顔料の結晶析出が問題であることを見出した。
本発明は、加熱工程の際に顔料の結晶析出のない高耐熱性でかつ微細化された非水系顔料分散組成物を提供することを課題とする。」

(2c)
「【0009】
[顔料(A)]
本発明に用いられる顔料としては、無機顔料及び有機顔料いずれであってもよい。また必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えばカーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム及びタルク等が挙げられる。・・(中略)・・
【0013】
[非水系溶媒(B)]
本発明に用いられる非水系溶媒(B)としては、特に限定はされないが、特にカラーフィルター用の油性インクとして用いる場合、沸点が100℃以上の高沸点の有機溶媒を用いることが好ましい。
このような非水系溶媒(B)としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールアルキルエーテル類(セロソルブ類)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールアルキルエーテル類(カルビトール類)、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等のアルカンジイルグリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアルカンジイルグリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類等が挙げられる。
これらの非水系溶媒(B)の中では、アルカンジイルグリコールモノアルキルエーテルアセテート類が好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)が特に好ましい。」

(2d)
「【0014】
[ポリマー(C)]
本発明に用いられるポリマー(C)は、下記の主鎖とグラフト鎖とを有する。
主鎖:溶解度パラメーター〔SP値(cal/cm^(3))^(1/2)〕が10.0以下であるモノマー由来の構成単位(c3)、及び好ましくは溶解度パラメーターが10.5以上であるモノマー由来の構成単位(c4)を更に含むポリマー鎖
グラフト鎖:窒素原子を含有する重合体由来の構成単位(c1)を含むポリマー鎖、及び窒素原子を含有しない重合体由来の構成単位(c2)を含むポリマー鎖
以下、これらの各構成単位について説明する。
【0015】
[構成単位(c1)]
構成単位(c1)は、窒素原子を含有する重合体由来の構成単位であり、好ましくは、片末端にエチレン性不飽和二重結合を有し、更に窒素原子を含有する重合性マクロモノマー(以下「含窒素マクロモノマー(c1)」ということがある)由来の構成単位である。構成単位(c1)は、ポリマー(C)を顔料(A)に吸着させる機能を有すると考えられる。
含窒素マクロモノマー(c1)としては、片末端に(メタ)アクリロイル基やスチリル基を有する窒素原子含有重合性マクロモノマーが好ましい。かかる含窒素マクロモノマー(c1)としては、エチレン性不飽和二重結合と窒素原子を有するモノマーの重合体、片末端にエチレン性不飽和二重結合を有するポリ(N-アシルアルカンジイルイミン)が挙げられる。
【0016】
エチレン性不飽和二重結合と窒素原子を有するモノマーとしては、ビニルピリジン類、含窒素スチレン系モノマー、(メタ)アクリルアミド類、含窒素(メタ)アクリル酸エステル;N-ビニルピロリドン等が挙げられる。
・・(中略)・・
含窒素(メタ)アクリル酸エステルとしては、炭素数1?8、好ましくは炭素数1?4のアルキル基を有するN,N-ジアルキルアミノアルキル(アルキル基の好ましい炭素数1?6)(メタ)アクリレート、炭素数1?8、好ましくは炭素数1?4のアルキル基を有する1-(N,N-ジアルキルアミノ)-1,1-ジメチルメチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート、ピペリジノエチル(メタ)アクリレート、1-ピロリジノエチル(メタ)アクリレート、N,N-メチル-2-ピロリジルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-メチルフェニルアミノエチル(メタ)アクリレート等の含窒素(メタ)アクリル酸エステル;N-ビニルピロリドン等が挙げられる。」

(2e)
「【0021】
[構成単位(c2)]
構成単位(c2)は、窒素原子を含有しない重合体由来の構成単位であり、好ましくは、片末端にエチレン性不飽和二重結合を有し、窒素原子を含有しない重合性マクロモノマー(以下「マクロモノマー(c2)」ということがある)由来の構成単位である。構成単位(c2)は、非水系溶媒(B)中で、ポリマー(C)を安定に分散させる機能を有すると考えられる。
マクロモノマー(c2)としては、片末端に(メタ)アクリロイル基又はスチリル基を有するマクロモノマーが好ましい。その好適例としては、ポリスチレンや、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸n-ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸i-ブチル等のポリ(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数1?4)の分子の片末端に(メタ)アクリロイル基が結合したマクロモノマーを挙げることができる。
マクロモノマー(c2)の重量平均分子量は、500?30,000が好ましく、500?20,000がより好ましく、500?15,000が特に好ましい。
このような重合性マクロモノマーの市販品としては、片末端メタクリロイル型ポリスチレン(数平均分子量6,000、商品名AS-6、東亜合成株式会社製)、片末端メタクリロイル型ポリメタクリル酸メチル(数平均分子量6,000、重量平均分子量12,000、商品名AA-6、東亜合成株式会社製)、及び片末端メタクリロイル型ポリアクリル酸n-ブチル(数平均分子量6,000、商品名AB-6、東亜合成株式会社製)を挙げることができる。」

(2f)
「【0022】
[構成単位(c3)]
構成単位(c3)は、溶解度パラメーター〔SP値(cal/cm^(3))^(1/2)〕が10.0以下であるモノマー由来の構成単位であり、好ましくは、含窒素マクロモノマー(c1)及びマクロモノマー(c2)と共重合可能なエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーであって、該モノマーの溶解度パラメーター〔SP値(cal/cm^(3))^(1/2)〕が10.0以下のモノマー(以下「モノマー(c3)」ということがある)由来の構成単位である。構成単位(c3)は、顔料の溶解を抑制する機能を有すると考えられる。構成単位(c3)は、ポリマー(C)中の基幹ユニットであり、一方に構成単位(c1)を結合し、他方に構成単位(c2)を結合していると考えられる。
ここで溶解度パラメーター(SP値)とは、下記式で示すように、凝集エネルギー密度と分子容の比の平方根で表されるものである。
SP値((cal/cm^(3))^(1/2))=(△E/△V)^(1/2)
上式において、△Eは凝集エネルギー密度を表し、△Vは分子容を表す。その値は、Fedorsの方法〔Robert F.Fedors, Polymer Engineering and Science,14,147-154(1974)〕により計算することができる。
モノマー(c3)の溶解度パラメーター〔SP値(cal/cm^(3))^(1/2)〕は、好ましくは9.0以下であり、より好ましくは8.8以下であり、更に好ましくは8.0以下である。
【0023】
モノマー(c3)は、疎水基を有することが好ましく、かかる疎水基としては、フッ素含有アルキル基、炭素数4以上、好ましくは炭素数6以上のアルキル基、及びアルキルシロキシ基が挙げられる。
フッ素含有アルキル基を有するモノマーとしては、フルオロ(メタ)アクリレート、パーフルオロ(メタ)アクリレート等が挙げられる。より具体的には、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート(SP値7.44)が特に好ましい。
炭素数4以上のアルキル基を有するモノマーとしては、炭素数4以上のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。より具体的には、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。特に、気液界面への配向性が低く、顔料結晶が析出するのを抑制する効果が大きいステアリルメタクリレート(SP値8.67)が特に好ましい。
・・(後略)」

(2g)
「【0027】
本発明に用いられるポリマー(C)は、上記構成単位(c3)、好ましくは更に構成単位(c4)を含むポリマー鎖を主鎖とし、前記構成単位(c1)を含むポリマー鎖、及び前記構成単位(c2)を含むポリマー鎖をグラフト鎖とするものであり、更に他の構成単位を含むグラフト鎖を有することができる。
ポリマー(C)は、例えば、含窒素マクロモノマー(c1)、マクロモノマー(c2)、モノマー(c3)、及びモノマー(c4)を含むモノマー混合物を共重合して得ることができる。
ポリマー(C)の製造方法としては、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法等が挙げられるが、その中でも特に溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族化合物、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
【0028】
ポリマー(C)中の全構成単位に対する構成単位(c1)の割合は、顔料への吸着性を高め、良好な顔料の分散安定性を得る観点から、2?50重量%が好ましく、3?45重量%がより好ましく、4?40重量%が更に好ましい。
ポリマー(C)中の全構成単位に対する構成単位(c2)の割合は、非水系溶媒(B)への分散性を高める観点から、20?90重量%が好ましく、30?85重量%がより好ましく、40?80重量%が更に好ましい。
ポリマー(C)中の全構成単位に対する構成単位(c3)の割合は、ポリマー(C)の顔料表面への固定化を促進させる観点から、3?50重量%が好ましく、5?40重量%がより好ましく、7?35重量%が更に好ましい。
ポリマー(C)中の全構成単位に対する構成単位(c4)の割合は、ポリマー(C)が顔料表面から脱離するのを抑制させる観点から、2?50重量%が好ましく、3?45重量%がより好ましく、4?40重量%が更に好ましい。
ポリマー(C)の重量平均分子量は、5,000?100,000が好ましく、10,000?70,000がより好ましい。
なお、含窒素マクロモノマー(c1)、ポリマー(C)の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。」

(2h)
「【0029】
[非水系顔料分散組成物]
本発明の非水系顔料分散組成物は、顔料(A)、非水系溶媒(B)、及びポリマー(C)を含有し、それらの割合は次のとおりである。
顔料分散組成物中の顔料(A)の割合は、良好な着色性及び粘度を得る観点から、1?30重量%が好ましく、2?20重量%がより好ましい。
非水系溶媒(B)の割合は、着色性及び粘度の観点から、顔料(A)に対して、0.3?30重量倍が好ましく、1?20重量倍がより好ましい。
また、ポリマー(C)の割合は、良好な粘度及び塗膜物性を得る観点から、顔料(A)に対して、5?200重量%が好ましく、10?100重量%がより好ましい。」

(2i)
「【0031】
[非水系顔料分散組成物の製造法]
本発明に用いられる非水系顔料分散組成物の製造方法に特に制限はなく、顔料(A)、非水系溶媒(B)及びポリマー(C)を含む混合物を公知の分散機、混練機等を用いて分散させて配合する方法が挙げられる。例えば、ニーダー、ロールミル、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドミル、アトライタ、スーパーミル、ディゾルバ、エクストルーダ、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー等により、前記(A)?(C)成分を湿式分散させることにより得ることができる。
これらの中では、サンドミル等のメディア式分散機が好ましい。メディア式分散機は、分散室(ミル)内にメディア粒子を滞留させ、そこを流通する顔料の予備分散体にメディア粒子による粉砕、剪断、衝突という分散エネルギーを与えながら分散を行い、必要に応じて、メディア粒子と分散処理物とを遠心分離等により分離し、分散処理物のみを分散室外に流出させるものである。サンドミルとしては、連続式が好ましく、ローラミルタイプ、ニーダータイプ、ピンミキサータイプ等を用いることができる。
【0032】
メディア式分散機に用いるメディア粒子の材質としては、例えば、ガラス、スチール、クロム合金等の高硬度金属、アルミナ、ジルコニア、ジルコン、チタニア等の高硬度セラミックス、超高分子量ポリエチレン、ナイロン等の高分子材料等が挙げられる。メディア粒子の粒径(直径)は、有機顔料の分散性向上の観点から、通常30?500μm、好ましくは30?300μmである。
顔料(A)を含有する顔料分散組成物中の顔料(A)の体積中位粒径D50は、カラーフィルター用色材とした際に良好なコントラストを得るために、100nm以下とする。D50は、20?100nmがより好ましく、25?90nmが更に好ましく、30?85nmが特に好ましい。」

(2j)
「【実施例】
【0033】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り、「重量部」及び「重量%」である。
製造例1〔片末端メタクリロイル型ポリ(2-エチルオキサゾリン)の合成〕
ナスフラスコ中に脱水酢酸エチル300gと2-エチルオキサゾリン132gを仕込み、更に合成ゼオライト系吸着剤(東ソー株式会社製、商品名「ゼオラムA-4」)65gを入れ、室温で4時間撹拌後、濾過して前記吸着剤を除去し、脱水2-エチルオキサゾリン溶液を得た。
次に、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管及び撹拌装置を取り付けた四つ口フラスコに、調製した脱水2-エチルオキサゾリン溶液380g、ジエチル硫酸17.9gを仕込み、乾燥窒素にて置換した後、80℃で12時間撹拌した。反応液を40℃以下まで冷却した後に、予め前記吸着剤により脱水しておいたメタクリル酸N,N-ジメチルアミノエチルを加え、室温で4時間撹拌後、大量のヘキサンにて再沈、回収し、片末端メタクリロイル型ポリ(2-エチルオキサゾリン)を得た。このマクロモノマーのGPC(溶媒:クロロホルム)法により求めた重量平均分子量(Mw)は1,000であった。
【0034】
製造例2〔片末端メタクリロイル型ポリメタクリル酸メチルの合成〕
還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管及び撹拌装置を取り付けた2Lセパラブルフラスコに、メタクリル酸メチルモノマー200g、3-メルカプトプロピオン酸7.07g、トルエン100gを仕込み、乾燥窒素にて置換を行った。
次に、窒素導入管をメタクリル酸メチル800g、3-メルカプトプロピオン酸28g、トルエン400g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製、商品名「V-65」)8gを仕込んだ滴下ロートに付け替えた後、75℃で撹拌しながら、モノマー溶液を3時間かけて滴下した。更に1時間、75℃で撹拌後、3-メルカプトプロピオン酸3.6g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)8g、トルエン200gを加えた。更に2時間、75℃で撹拌後、冷却した。
次に、空気バブリング下、テトラブチルアンモニウムブロミド18.2g、p-メトキシフェノール1.87gを添加し、110℃に昇温し、メタクリル酸グリシジル53.6gを添加し、8時間撹拌した。撹拌後、冷却し、大量のヘキサンにて再沈、回収し、片末端メタクリロイル型ポリメタクリル酸メチルを得た。このポリマーのGPC(溶媒:ジメチルホルムアミド)法により求めた重量平均分子量(Mw)は5,000(ポリスチレン換算)であった。
【0035】
製造例3〔ポリマー(C-1)の製造〕
ビーカーに、製造例1で合成した片末端メタクリロイル型ポリ(2-エチルオキサゾリン)5gと、製造例2で合成した片末端メタクリロイル型ポリメタクリル酸メチル35g、2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート(FMA、クラリアントジャパン社製)10g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1gとトルエン38.3gを均一に混合、溶解し、モノマー溶液を得た。
次に、還流冷却器、温度計、窒素導入管、撹拌装置を取り付けたセパラブルフラスコに上記モノマー溶液8.9gを仕込み、窒素置換を行った。窒素導入管を上記モノマー溶液80.4gを仕込んだ滴下ロートに付け替えたあと、70℃で撹拌しながら、モノマー溶液を1時間かけて滴下した。更に1時間、70℃で撹拌後、75℃に加熱し、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1gとトルエン5gを加えた。更に75℃で3時間撹拌した後、冷却し、大量のヘキサンにて再沈、回収し、ポリ(2(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート-g-(2-エチルオキサゾリン)-g-メタクリル酸メチル)を得た。このポリマー(C-1)のGPC(溶媒:クロロホルム)法により求めた重量平均分子量(Mw)は59,000(ポリスチレン換算)であった。
【0036】
製造例4〔ポリマー(C-2)の製造〕
製造例3において、2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレートの代りにステアリルメタクリレート(SMA、新中村化学株式会社社製)を用い、トルエンの代りにメチルエチルケトンを用いた以外は製造例3と同様の操作を行い、ポリ(ステアリルメタクリレート-g-(2-エチルオキサゾリン)-g-メタクリル酸メチル)を得た。このポリマー(C-2)のGPC(溶媒:クロロホルム)法により求めた重量平均分子量(Mw)は37,000(ポリスチレン換算)であった。
【0037】
製造例5〔ポリマー(C-3)の製造〕
ビーカーに、N,N-ジメチルアクリルアミド23.4g、片末端メタクリロイル化ポリメタクリル酸メチル(PMMA、東亜合成株式会社製、商品名AA-6、重量平均分子量12,000)のマクロモノマー45%トルエン溶液165.9g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2gとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)67.1gを均一に混合、溶解し、モノマー溶液を得た。
次に、還流冷却器、温度計、窒素導入管、攪拌装置を取り付けたセパラブルフラスコに上記モノマー溶液25.8gを仕込み、窒素置換を行った。窒素導入管を上記モノマー溶液232.6gを仕込んだ滴下ロートに付け替えたあと、80℃で攪拌しながら、モノマー溶液を3時間かけて滴下した。続いて、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2gとPGMEA20gを加え、更に80℃で2時間攪拌し、ポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド-g-メタクリル酸メチル)の40%溶液を得た。このポリマー(C-3)のGPC(溶媒:ジメチルホルムアミド)法により求めた重量平均分子量(Mw)は51000(ポリスチレン換算)であった。
【0038】
製造例6〔ポリマー(C-4)の製造〕
ビーカーに、製造例1で合成した片末端メタクリロイル型ポリ(2-エチルオキサゾリン)2.5gと、製造例2で合成した片末端メタクリロイル型ポリメタクリル酸メチル42.5g、グリセリンモノメタクリレート(GLMA、日本油脂株式会社社製、商品名ブレンマーGLM)2.5g、ステアリルメタクリレート(SMA、新中村化学株式会社社製)2.5g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1gとメチルエチルケトン/イソプロパノール=1/1(重量比)混合液38.3gを均一に混合、溶解し、モノマー溶液を得た。
次に、還流冷却器、温度計、窒素導入管、撹拌装置を取り付けたセパラブルフラスコに上記モノマー溶液8.9gを仕込み、窒素置換を行った。窒素導入管を上記モノマー溶液80.4gを仕込んだ滴下ロートに付け替えたあと、70℃で撹拌しながら、モノマー溶液を1時間30分かけて滴下した。更に1時間、70℃で撹拌後、75℃に加熱し、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1gとメチルエチルケトン/イソプロパノール=1/1(重量比)混合液5gを加えた。更に75℃で3時間撹拌した後、冷却し、大量のヘキサンにて再沈、回収し、ポリ(グリセリンモノメタクリレート-co-ステアリルメタクリレート-g-(2-エチルオキサゾリン)-g-メタクリル酸メチル)を得た。このポリマー(C-4)のGPC(溶媒:ジメチルホルムアミド)法により求めた重量平均分子量(Mw)は60000(ポリスチレン換算)であった。
【0039】
製造例7〔ポリマー(C-5)の製造〕
製造例6において、製造例2で合成した片末端メタクリロイル型ポリメタクリル酸メチルを40.0g、グリセリンモノメタクリレート(GLMA)を5.0g用いた以外は、製造例6と同様の操作を行い、ポリ(グリセリンモノメタクリレート-co-ステアリルメタクリレート-g-(2-エチルオキサゾリン)-g-メタクリル酸メチル)を得た。このポリマー(C-5)のGPC(溶媒:ジメチルホルムアミド)法により求めた重量平均分子量(Mw)は108000(ポリスチレン換算)であった。
製造例8〔ポリマー(C-6)の製造〕
製造例6において、製造例2で合成した片末端メタクリロイル型ポリメタクリル酸メチルを41.25g、グリセリンモノメタクリレート(GLMA)を3.75g用いた以外は、製造例6と同様の操作を行い、ポリ(グリセリンモノメタクリレート-co-ステアリルメタクリレート-g-(2-エチルオキサゾリン)-g-メタクリル酸メチル)を得た。このポリマー(C-6)のGPC(溶媒:ジメチルホルムアミド)法により求めた重量平均分子量(Mw)は81000(ポリスチレン換算)であった。
【0040】
【表1】


【0041】
実施例1
ジケトピロロピロール系顔料(A)(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ株式会社製、C.I.ピグメントレッド254、商品名「IRGAPHOR BT-CF」、平均一次粒径30nm(カタログ値))10部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)80部、製造例3で合成されたポリマー(分散剤)10部、0.3mmジルコニアビーズ200部をポリビンに入れ、予備解砕としてペイントシェーカーにて3時間振とうし、次いでその分散液80部と粒径50μmのジルコニアビーズ160部をポリビンに入れ、同様に本解砕としてペイントシェーカーにて4時間振とうし、ジケトピロロピロール系顔料(A)のD50が73nmの顔料分散組成物を得た。
得られた顔料分散組成物の顔料濃度を5%に調整したものを2.00部、メタクリル酸/ベンジルメタクリレート共重合体(モル比:30/70、重量平均分子量:14000、固形分40重量%のPGMEA溶液)0.15部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製、DPHA)0.046部、2-メチル-4'-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン(和光純薬工業株式会社製)0.035部、PGMEA0.15部を均一になるまで混合し、非水系顔料分散組成物を得た。結果を表2に示す。
【0042】
実施例2
実施例1において、製造例3のポリマー添加量10部を4部に変更し、PGMEA添加量80部を86部に変更した以外は、実施例1と同様にして、ジケトピロロピロール系顔料(A)のD50が73nmの顔料分散組成物を得た。
得られた顔料分散組成物の顔料濃度を5%に調整したものを用いて、実施例1と同様にして非水系顔料分散組成物を得た。
実施例3
実施例1において、製造例3のポリマーの代わりに製造例4のポリマー10部を用いた以外は、実施例1と同様にして、ジケトピロロピロール系顔料(A)のD50が80nmの顔料分散組成物を得た。
得られた顔料分散組成物の顔料濃度を5%に調整したものを用いて、実施例1と同様にして非水系顔料分散組成物を得た。
【0043】
実施例4及び5
実施例2において、製造例3のポリマーの代わりに製造例6のポリマーを表2に示す所定量用い、PGMEA添加量をそれぞれ86部、84部とした以外は、実施例2と同様にして、顔料分散組成物及び非水系顔料分散組成物を得た。
実施例6及び7
実施例2において、製造例3のポリマーの代わりに製造例7のポリマーを表2に示す所定量用い、PGMEA添加量をそれぞれ86部、84部とした以外は、実施例2と同様にして、顔料分散組成物及び非水系顔料分散組成物を得た。
実施例8
実施例7において、粒径50μmのジルコニアビーズによる解砕時間を4時間から12時間に変更した以外は、実施例7と同様にして、顔料分散組成物及び非水系顔料分散組成物を得た。
実施例9及び10
実施例2において、製造例3のポリマーの代わりに製造例8のポリマーを表2に示す所定量用い、PGMEA添加量をそれぞれ86部、84部とした以外は、実施例2と同様にして、顔料分散組成物及び非水系顔料分散組成物を得た。
【0044】
比較例1
実施例1で用いたジケトピロロピロール系顔料(A)10部、PGMEA86部、アジスパーPB-822(味の素株式会社社製)4部、0.3mmジルコニアビーズ200部をポリビンに入れ、予備解砕としてペイントシェーカーにて3時間振とうし、次いでその分散液80部と粒径50μmのジルコニアビーズ160部をポリビンに入れ、同様に本解砕としてペイントシェーカーにて12時間振とうし、ジケトピロロピロール系顔料(A)のD50が75nmの顔料分散組成物を得た。
得られた顔料分散組成物の顔料濃度を5%に調整したものを用いて、実施例1と同様にして非水系顔料分散組成物を得た。
【0045】
比較例2
実施例1で用いたジケトピロロピロール系顔料(A)10部、製造例5の40%ポリマー溶液25部、PGMEA65部を0.3mmジルコニアビーズ200部をポリビンに入れ、予備解砕としてペイントシェーカーにて3時間振とうし、次いでその分散液80部と粒径50μmのジルコニアビーズ160部をポリビンに入れ、同様に本解砕としてペイントシェーカーにて4時間振とうし、ジケトピロロピロール系顔料(A)のD50が86nmの顔料分散組成物を得た。
得られた顔料分散組成物の顔料濃度を5%に調整したものを用いて、実施例1と同様にして非水系顔料分散組成物を得た。
【0046】
実施例1?10及び比較例1?2で得られた非水系顔料分散組成物について、下記方法によりD50及び結晶析出数を測定した。結果を表2に示す。
<顔料分散組成物のD50>
製造直後の顔料分散組成物をPGMEAで300倍に希釈し、粒度分析計(HONEYWELL社製、Microtrac UPA MODEL:9340-UPA)を用いてD50(体積中位粒径)を測定した。測定条件として、ジケトピロロピロール系顔料粒子屈折率:1.51、ジケトピロロピロール系顔料密度:1.45g/cm^(3)、PGMEA屈折率:1.40、PGMEA粘度:1.081cPを入力した。
【0047】
<結晶析出数>
ガラス基板上に顔料分散組成物をスピンコーターで塗布した後、水平台にて6分間静置し、80℃で3分間ホットプレートにより乾燥した。次いで、得られた塗膜に紫外線ファイバースポット照射装置(モリテックス社製、MUV-202U)を用いて60mJ/cm^(2)まで紫外線を照射した。次いで、260℃のクリーンオーブン内で30分間加熱(ポストベイク)を行い硬化膜を作製した。
得られた硬化膜を1000倍のデジタルマイクロスコープVHX-500(キーエンス社製)で観察し、0.1×0.1mmの視野で確認される長さ1μm以上の結晶析出数を計数した。
【0048】
【表2】


【0049】
表2において、実施例1?10と比較例1?2の対比から明らかなように、実施例により得られた非水系顔料分散組成物の硬化膜は、顔料が微細化されているにも拘わらず、比較例により得られた硬化膜に比べて、結晶析出数が明らかに少ないことが分かる。」

2.検討

(1)先願明細書等に記載された発明
上記先願明細書等には、
「顔料(A)、非水系溶媒(B)、並びに下記の主鎖とグラフト鎖とを有するポリマー(C)を含有する非水系顔料分散組成物。
主鎖:溶解度パラメーター〔SP値(cal/cm^(3))^(1/2)〕が10.0以下であるモノマー由来の構成単位(c3)を含むポリマー鎖
グラフト鎖:窒素原子を含有する重合体由来の構成単位(c1)を含むポリマー鎖、及び窒素原子を含有しない重合体由来の構成単位(c2)を含むポリマー鎖」
が記載され、「ポリマー(C)が顔料(A)の表面に固定化されている」ことも記載されている(摘示(2a)【請求項1】及び【請求項9】)。
また、上記先願明細書等には、上記「顔料(A)」として体質顔料としての「シリカ」が使用できること(摘示(2c)【0009】)、上記「非水系溶媒(B)」としてアルコール類、エーテル類などの種々の(非プロトン性)有機溶媒が使用できること(摘示(2c)【0013】)、上記「窒素原子を含有する重合体由来の構成単位(c1)」に係るモノマーとして、N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートを使用できること(摘示(2d))及び上記「溶解度パラメーター〔SP値(cal/cm^(3))^(1/2)〕が10.0以下であるモノマー由来の構成単位(c3)」に係るモノマーとして、疎水基を有する炭素数4以上のブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートが使用できること(摘示(2f))がそれぞれ記載されている。
さらに、上記先願明細書等には、「ポリマー(C)」において、ポリマー(C)中の全構成単位に対して「構成単位(c1)の割合は、顔料への吸着性を高め、良好な顔料の分散安定性を得る観点から、2?50重量%が好まし」く、「構成単位(c3)の割合は、ポリマー(C)の顔料表面への固定化を促進させる観点から、3?50重量%が好まし」いことが記載されており、「ポリマー(C)の重量平均分子量は、5,000?100,000が好まし」いことも記載されている(摘示(2g))。
そして、上記先願明細書等には、「ポリマー(C)の割合は、良好な粘度及び塗膜物性を得る観点から、顔料(A)に対して、5?200重量%が好まし」いこと(摘示(2h))及び非水系顔料分散物となった時点で「顔料分散組成物中の顔料(A)の体積中位粒径D50は、カラーフィルター用色材とした際に良好なコントラストを得るために、100nm以下とする」こと(摘示(2i))もそれぞれ記載されている。
してみると、上記先願明細書等には、上記(2a)ないし(2j)の記載事項からみて、
「シリカ顔料の表面に固定された主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーを有し且つ100ナノメートル以下の体積中位粒径を有するシリカ顔料粒子において、該グラフト鎖が、N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類などの窒素原子を含有するモノマー由来の塩基性アミノ官能基を有し、該シリカ顔料粒子が非プロトン性有機溶媒中の分散物となっている粒子であり、該主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーが重量平均分子量5000?100000を有するものであり、顔料粒子に固定された主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーの量が顔料粒子の固形分重量に対して5?200重量%であり、該主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーはその重量に対して2?50重量%のグラフト鎖を含んでおり、該主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーの残部は主鎖であり、且つ、該主鎖とグラフト鎖とを有するポリマー上の該主鎖が、該主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーの重量当たり、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル3?50重量%を含む、上記シリカ顔料粒子。」
に係る発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。

(2)対比・検討

ア.対比
本願発明と先願発明とを対比すると、先願発明における「100ナノメートル以下の体積中位粒径を有するシリカ顔料粒子」は、その粒径範囲が一部重複するから、本願発明における「1?400ナノメートルの平均直径を有する非晶質シリカナノ粒子」に相当する。
そして、先願発明における「主鎖とグラフト鎖とを有するポリマー」は、例えば、「片末端メタクリロイル型ポリ(2-エチルオキサゾリン)」、「片末端メタクリロイル型ポリメタクリル酸メチル」及び「2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート」を共重合してなる「ポリ(2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート-g-(2-エチルオキサゾリン)-g-メタクリル酸メチル)」である(摘示(2j)【0035】参照)ところ、「ポリ(2-エチルオキサゾリン)」なる親水性の「グラフト鎖」の部分と「ポリ(2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート」なる疎水性の「主鎖」の部分及び「ポリメタクリル酸メチル」なる疎水性の「グラフト鎖」の部分とが結合したものであって、前者の「親水性」の「グラフト鎖」、すなわち親水性のセグメントと、「疎水性」の「グラフト鎖」を含む疎水性の「主鎖」の部分、すなわち後者の疎水性のセグメントとが、「親水性」の「グラフト鎖」の端部、すなわち、親水性のセグメントの端部で疎水性の「主鎖」の部分、すなわち疎水性のセグメントに結合しているものであるから、本願発明における「セグメント化コポリマー」及び「セグメント化ブロックコポリマー」に相当するとともに、先願発明における「2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル・・を含む」「主鎖」は、本願発明における「疎水性表面活性セグメント」に、また、先願発明における「N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類などの窒素原子を含有するモノマー由来の塩基性アミノ官能基を」有する「グラフト鎖」は、当該塩基性アミノ官能基を有することにより、極性を有するシリカ粒子の表面に吸着できる点で、本願発明における「吸着セグメント」に、それぞれ相当するものと認められる。
さらに、先願発明における「シリカ顔料の表面に固定された主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーを・・有するシリカ顔料」は、ポリマー(分子)がグラフト鎖によりシリカ顔料表面に固定され、実質的に「吸着」されているのであるから、本願発明における「非晶質シリカナノ粒子の上に吸着されたセグメント化コポリマーを・・有する非晶質シリカナノ粒子」に相当するとともに、先願発明における「顔料粒子に固定された主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーの量が顔料粒子の固形分重量に対して5?200重量%であり」は、ポリマーが固定された後の顔料粒子において、ポリマーが4.7?66.7重量%を占めることを意味し、その範囲が一部重複するから、本願発明における「ナノ粒子上のセグメント化コポリマーの量がナノ粒子の合計固形分重量に対して10?80重量%であり」に相当し、また、先願発明における「該主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーはその重量に対して2?50重量%のグラフト鎖を含んでおり、該主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーの残部は主鎖であり」は、グラフト鎖が2?50重量%でありその余が主鎖であるから、40重量%以下の範囲重複する点で、本願発明における「セグメント化コポリマーはセグメント化コポリマー重量に対して最大で40重量%の吸着セグメントを含んでおり」に相当し、先願発明における「主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーが重量平均分子量5000?100000を有するものであり」は、分子量範囲が一部重複する点で、本願発明における「セグメント化コポリマーがGPCによって測定された重量平均分子量1000?10000g/モルを有するものであり」に相当する。
また、先願発明における「2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル」は、本願発明における「(メタ)アクリル酸のC5?C15アルキルエステル」に相当することが明らかであり、先願発明における「該主鎖が、該主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーの重量当たり、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル3?50重量%を含む」は、当該ポリマーの50重量%以上を占める「主鎖」に上記「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」をポリマーの3?50重量%の量比で使用する広範な態様を含むことが明らかであって、その使用量比の範囲が一部重複するから、本願発明における「疎水性セグメントが、該疎水性セグメントの重量当たり(メタ)アクリル酸のC5?C15アルキルエステル10重量%?90重量%を含む」に相当するとともに、先願発明における「該シリカ顔料粒子が非プロトン性有機溶媒中の分散物となっている粒子であり」は、シリカ顔料粒子が有機溶媒中に微粒子、すなわちコロイドとなって分散しているものと理解するのが自然であるから、本願発明における「該シリカナノ粒子が非プロトン性有機溶媒中のコロイド分散物中の・・シリカ粒子であり」に相当する。
なお、先願発明における「シリカ顔料の表面に固定された主鎖とグラフト鎖とを有するポリマーを有し且つ100ナノメートル以下の体積中位粒径を有するシリカ顔料粒子」は、シリカ顔料粒子の表面に主鎖とグラフト鎖とを有するポリマー(分子)を固定、すなわち吸着させてシリカ粒子の表面を修飾しているものと理解できるから、本願発明における「シリカナノ粒子の上に吸着されたセグメント化コポリマーを・・有する・・シリカナノ粒子を含んでいる修飾されたナノ粒子」に相当する。
してみると、本願発明と先願発明とは、
「シリカナノ粒子の上に吸着されたセグメント化コポリマーを有し且つ1?100ナノメートルの平均直径を有するシリカナノ粒子を含んでいる修飾されたナノ粒子であって、該セグメント化コポリマーが吸着セグメントおよび疎水性表面活性セグメントを含んでいる修飾されたナノ粒子において、該吸着セグメントが1以上の塩基性アミノ官能基を有し、該シリカナノ粒子が非プロトン性有機溶媒中のコロイド分散物中のシリカ粒子であり、該セグメント化コポリマーがGPCによって測定された重量平均分子量5000?10000g/モルを有するものであり、ナノ粒子上のセグメント化コポリマーの量がナノ粒子の合計固形分重量に対して10?66.7重量%であり、該セグメント化コポリマーはセグメント化コポリマー重量に対して最大で40重量%の吸着セグメントを含んでおり、該セグメント化コポリマーの残部は疎水性セグメントであり、該セグメント化コポリマーがセグメント化ブロックコポリマーであり、且つ、該セグメント化ブロックコポリマー上の該疎水性セグメントが、該疎水性セグメントの重量当たり(メタ)アクリル酸のC5?C15アルキルエステル10重量%?90重量%を含む、上記の修飾されたナノ粒子。」
の点で一致し、以下の3点でのみ一応相違するものといえる。

相違点2’:本願発明では、「該ナノ粒子が非晶質シリカ粒子上のシラノール基がモノアルコールにより部分的にエステル化されることにより化学的に修飾された表面を有」するのに対して、先願発明では、当該エステル化による修飾につき特定されていない点
相違点3:本願発明では、「非晶質シリカ粒子」であるのに対して、先願発明では、シリカ粒子につき「非晶質」であるか否か特定されていない点
相違点4:本願発明では、「少なくとも該疎水性セグメントがエチレン性不飽和モノマーの制御されたラジカル重合によって作られたマクロモノマーであ」るのに対して、先願発明では、主鎖につきマクロモノマーであることが特定されていない点

イ.相違点に係る検討

(ア)相違点2’について
上記相違点2’につき検討すると、上記相違点2’は、上記I.2.(2)ア.で示した相違点2と同一の事項であるところ、上記I.2.(2)イ.(イ)で示した技術的前提のとおり、体質顔料等として使用されるコロイダルシリカなどのナノオーダーの粒径を有するシリカの従来上市の製品は、微量といえども、アルコキシシリル基、すなわちケイ酸のアルキルエステル基を有するものであり、先願発明におけるシリカ顔料についても同様であるものと認められる(必要ならば上記参考文献1ないし3参照のこと。)。
また、仮に、当該アルコキシシリル基を実質的に含まないシリカ顔料であったとしても、先願発明における顔料粒子は、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのモノアルコール類を非水系溶媒として使用し、「振とう」という強いせん断条件下で混合し顔料組成物を製造するものである(上記摘示(2c)及び(2j)参照)から、先願発明における顔料粒子においても、遊離のシラノール基又はアルコキシシリル基がエステル化又はエステル交換により、顔料分散組成物の状態で顔料粒子の表面がエステル化修飾される蓋然性が極めて高いものとも認められる。
そして、上記I.2.(2)イ.(イ)で具体的に説示したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討しても、上記相違点2’(相違点2)に係る事項に格別な技術的意義が存するものとも認められない。
したがって、上記相違点2’については、実質的な相違点であるものとはいえない。

(イ)相違点3について
上記相違点3につき検討すると、体質顔料等として使用されるコロイダルシリカなどのナノオーダーの粒径を有するシリカの従来上市の製品は、通常非晶質のものであり、先願発明におけるシリカ顔料についても同様であるものと認められる(必要ならば上記参考文献1ないし3参照のこと。)。
してみると、上記相違点3についても、実質的な相違点であるものとはいえない。

(ウ)相違点4について
上記相違点4につき検討すると、先願明細書等には、先願発明における主鎖及びグラフト鎖を有するポリマーの製造において、主鎖又はグラフト鎖を構成する「(c2)」又は「(c1)」の各構成単位を構成するモノマーを重合して片末端重合基含有マクロモノマーとした上で他のモノマーと重合する方法が実施例として記載されており(摘示(2j)参照)、また、「(c2)」及び「(c3)」の各構成単位の共重合体を構成した後、「(c1)」などの他のモノマーとを重合する方法についても記載されている(摘示(2g)参照)から、主鎖を構成する「(c3)」の構成単位に係るモノマーを重合してマクロモノマーとして、グラフト鎖を構成する他のモノマーを重合する態様についても、記載されているに等しいものと理解するのが自然である。
なお、上記相違点4の点につき、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、本願発明が「少なくとも該疎水性セグメントがエチレン性不飽和モノマーの制御されたラジカル重合によって作られたマクロモノマーであ」ることを具備することにより、何らかの特異な効果を奏するであろうと認識すべき事項は記載されておらず、格別な技術的意義が存するものと認めることはできない。
してみると、上記相違点4についても、実質的な相違点であるものとはいえない。

(エ)小括
以上を総合すると、本願発明と先願発明との間には、実質的な相違点が存するものとはいえないから、本願発明と先願発明とは、実質的に同一である。

(3)理由4に係る検討のまとめ
以上のとおり、本願発明と先願明細書等に記載された発明とは同一であるから、本願請求項2に係る発明は、特許法第29条の2第1項の規定により、特許を受けることができるものではない。

III.まとめ
以上のとおりであるから、本願請求項2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同法第29条の2第1項の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではないから、その他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、本願は、特許法第49条第2号の規定に該当するものである。

第5 むすび
したがって、本願は、特許法第49条第2号の規定に該当するから、その余につき検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-27 
結審通知日 2016-02-02 
審決日 2016-02-15 
出願番号 特願2009-543461(P2009-543461)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C09D)
P 1 8・ 161- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 國島 明弘
橋本 栄和
発明の名称 修飾されたナノ粒子を含んでいる膜形成組成物および修飾されたナノ粒子を膜形成組成物中に使用する方法  
代理人 松井 光夫  
代理人 村上 博司  

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