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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1316577
審判番号 不服2014-18354  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-16 
確定日 2016-06-29 
事件の表示 特願2012-504109号「搾乳器インサート」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月14日国際公開、WO2010/116295、平成24年 9月27日国内公表、特表2012-522614号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明
本件出願は、2010(平成22)年3月31日(パリ条約による優先権主張2009年4月7日 欧州)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月14日付けで拒絶の理由が通知され、同26年4月15日に意見書とともに特許請求の範囲について手続補正書が提出されたが、平成26年5月9日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成26年9月16日に本件審判の請求がされると同時に特許請求の範囲について手続補正書が提出され、当審において、平成27年10月23日付けで拒絶の理由が通知され、さらに、平成28年1月15日に意見書とともに特許請求の範囲について手続補正書が提出されたものである。
そして、その請求項1-10に係る発明は、平成28年1月15日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲1-10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「搾乳器のユーザの胸部を受け入れる搾乳器インサートであって、当該インサートが内側部と外側部とから形成されており、前記外側部が前記内側部よりも高い硬度を示し、前記外側部は、胸部が当該インサートに容易にスライドし得るという特性を当該インサートに与える低い摩擦係数をもち、前記外側部は、下部にある前記内側部の弾性特性を隠蔽しないよう可撓性を有することを可能にする前記外側部の厚さを適用することにより、前記内側部の動き又は変形が前記外側部を介して伝達されるように、可撓性を有し、
前記外側部の表面が、前記胸部と当該インサートとの間の摩擦を減じるための表面粗さを有する、搾乳器インサート。」

第2 引用文献の記載事項・認定事項
1 引用文献1記載事項・認定事項及び引用発明
平成27年10月23日付けの拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2007-520277号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の(1)-(6)の記載事項及び(7)-(9)の認定事項が認められる。

(1) 「【0001】
本発明は請求項1及び9の前文による搾乳器用のブレストキャップ挿入物、並びに請求項10,11及び12の前文によるブレストキャップ挿入物とともに使用するための搾乳器のブレストキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
搾乳器は公知である。搾乳器は、通常、吸入ポンプ、吸入ポンプと連結し、人間の母親の乳房の乳輪の上に取り付けられるブレストキャップ、並びに搾乳された母乳を集めるための、ブレストキャップと連結した集乳容器を有している。
【0003】
公知のブレストキャップは、実質的には硬い漏斗状のものからなっているため、異なる乳房の大きさに適応できるよう、ブレストキャップ挿入物が用いられる。」

(2) 「【0006】
WO02/17993には、快適な付け心地を保障する、ブレストキャップ挿入物が示されている。この挿入物は、内側及び外側円錐壁を持つ円錐台形状の基部を有し、この両壁が閉じたチャンバーを形成する。このチャンバーは、空気、気体、ゲル、又はシリコンで満たされ、内側円錐壁は弾性変形可能に形成されている。これによって、ブレストキャップ挿入物は、乳房に望ましくない圧力をかけることなしに、乳房の形に最適に適合する。」

(3) 「【0009】
使用の際、女性の乳房の乳輪に取り付けるようになっている本発明によるブレストキャップ挿入物は、大きい後部開口と小さい前部開口とを備える円錐台形状の基部を有しており、この基部が、ブレストキャップの漏斗部分に収容されるよう形成されている。
本発明によると、円錐台形状の基部は、少なくとも一部分が蓄熱性及び/又は熱伝導性を有する材料から製造されており、使用の際に加温される。その場合、女性の乳房の体温の伝達のみによって加温されるのでなく、ブレストキャップ挿入物を加温するための他の手段が組み込まれている。
【0010】
第1の実施形態において、挿入物は、WO02/17993に記載されたものに類似、又は同等に形成されており、チャンバーは蓄熱性の良好な充填材を備えている。この挿入物は使用前に、湯浴で、炉内で、温風により、又は伝熱面の上にのせることにより、所望する温度に加温することができる。使用の際、つまり、搾乳中に、この熱は乳房に受け渡される。」

(4) 「【0018】
図1に、本発明によるブレストキャップ挿入物の第一の実施形態を示す。
ブレストキャップ挿入物は、内側及び外側の円錐壁10,11を備えた円錐台形状の基部1を有する。この円錐壁10,11は、好ましくは、プラスチックフィルム、又は他の適当なゴム弾性材料から製造される。外側の円錐壁11のフィルムは、好ましくは、約0.4mmの厚みを有し、内側の円錐壁10のフィルムは、約0.1?25mmの厚みを有する。
【0019】
少なくとも、内側の円錐壁10は弾性変形可能であり、好ましくは、両円錐壁10,11が弾性変形可能である。この二つの円錐壁10,11は、閉じたチャンバー12を取り囲むよう、互いに間をあけて連結されている。好ましくは、二つの円錐壁10,11は互いに溶接されており、使用の際、授乳する母親の方に向けられる後ろ側の大きい開口13と、前側の小さい開口14は、空いたままになっている。この開口13,14は好ましくは円形であり、小さい開口14は、母親の乳房の乳首を自由にするように使われる。」

(5) 「【0020】
溶接線が乳房を傷つけたり、刺激したりしないように、内側の円錐壁10のフィルムが、特に、大きい開口部分で、外側の円錐壁11のフィルムを超えて折り返されていることにより、柔らかいパッド16が形成され、溶接線17が挿入物の外面にくるようになっている。それによって、パッド16は、使用の際、ブレストキャップの漏斗部分から張り出している。」

(6) 「【0022】
チャンバー12には、変形可能な充填媒体15がある。好ましくは、チャンバー12は、この媒体15で完全に充填されている。本発明によると、媒体15は、蓄熱性及び/又は熱伝導性を有する材料である。好ましくは、そのような特性を有するゲル、特に薬用パラフィン油又は白油、あるいは、濃縮流体である。」

(7) 上記(1)及び(3)の記載事項から、搾乳器がブレストキャップと集乳容器とを有し、ブレストキャップを使用する際、女性の乳房の乳輪に取り付けるブレストキャップ挿入物が用いられることが認められる。

(8) 上記(4)の記載事項から、プラスチックフィルム、ゴム弾性材料から製造される弾性変形可能なフィルムからなる内側及び外側の円錐壁10,11とでチャンバー12を形成することが認められる。
そして、上記(6)の記載事項から、このチャンバー12に、ゲル、薬用パラフィン油、白油、濃縮流体等からなる変形可能な充填媒体15が充填されていることが認められる。
よって、ブレストキャップ挿入物は、充填媒体15と円錐壁10,11とから形成され、充填媒体15は変形特性を有するものと認められる。
また、一般にプラスチックフィルム、ゴム弾性材料から製造される弾性変形可能なフィルムは、ゲル、薬用パラフィン油、白油、濃縮流体等からなる変形可能な充填媒体15よりも高い硬度を有するものと考えられるから、円錐壁10,11は、充填媒体15よりも高い硬度を示すものといえる。

(9) 上記(2)の従来技術についての記載は、上記(3)の記載からみて、引用文献1に開示されるブレストキャップ挿入物についての理解に援用されるものであることを踏まえると、弾性変形可能なフィルムからなる内側及び外側の円錐壁10,11は、乳房に望ましくない圧力をかけることなしに、乳房の形に最適に適合するような特性を持った「弾性変形可能」なものであることから、内側及び外側の円錐壁10,11から形成されるチャンバー12の内部に充填された充填媒体15の変形特性を隠蔽しないよう可撓性を有することを可能にするような厚さが適用されたものであるし、充填媒体15の動き又は変形が円錐壁10,11を介して伝達されるように可撓性を有するものといえる。

上記(1)-(6)の記載事項及び上記(7)-(9)の認定事項を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「搾乳器が有するブレストキャップを使用する際、女性の乳房の乳輪に取り付けるようになっているブレストキャップ挿入物であって、当該ブレストキャップ挿入物が充填媒体15と円錐壁10,11とから形成されており、前記円錐壁10,11が前記充填媒体15よりも高い硬度を示し、前記円錐壁10,11は、内側及び外側の円錐壁10,11から形成されるチャンバー12の内部に充填された前記充填媒体15の変形特性を隠蔽しないよう可撓性を有することを可能にする前記円錐壁10,11の厚さを適用することにより、前記充填媒体15の動き又は変形が前記円錐壁10,11を介して伝達されるように、可撓性を有する、ブレストキャップ挿入物。」

2 引用文献2及び引用文献3に記載された周知技術
平成27年10月23日付けの拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2005-516738号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の(1)の記載事項が認められる。
また、平成27年10月23日付けの拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2007-531582号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の(2)-(3)の記載事項が認められる。

(1) 「【0004】
かくして、授乳中の母親の乳首は、真空下で乳首トンネルの壁に押し付けられる場合がある。これにより、乳首が乳首トンネル内へ深く動くときに壁との摩擦が生じる場合がある。また、乳房と乳首トンネルだけでなく、円錐形部分との間にも摩擦が生じる場合がある。この結果、特に母親が既に何らかの局所的な問題、例えばあかぎれし又はひびの入った乳首状態に苦しんでいる場合、刺激が生じる場合がある。これにより、乳房からの母乳の圧送が不快になる。搾乳ポンプを用いた場合に授乳中の母親の乳房のすりむけ及び刺激を軽減し又は無くすことができれば、当該技術分野における技術進歩が得られる。
【0005】
〔発明の概要〕
本発明は、滑らかな表面を備えた乳房受入れ部分を有する搾乳ポンプ用改良型乳房シールドに関する。一実施形態では、改良型乳房シールドは、その内部の乳房接触表面に結合された摩擦係数の低いポリマー滑剤の被膜を有している。ポリマー滑剤は好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン、弗素化エチレン-プロピレンコポリマー、ポリ(ビニリジンフルオリド)、ポリパラキシレン及びシリコーン潤滑性ポリマーから成る群から選択されたものであるのがよい。かかるポリマー群のうちの好ましいポリマーは、ポリパラキシレンポリマー及びポリテトラフルオロエチレンポリマーであり、パラレンが現時点において好ましい潤滑性材料である。以下に明らかになるように、本発明の実施にあたって幾つかの他の周知の潤滑性材料を使用できることは理解されるべきである。乳房シールドとしての本発明の特定の用途に起因して、選択した特定のポリマーは身体との接触が許容できることが必要である。
【0006】
潤滑性材料を乳房シールドの硬質乳房受入れ部分に直接結合できるが、(れは、乳房シールド内に受け入れられたインサート又はアダプタであってもよく、更に、エラストマー材料で作られた軟質の乳房受入れ部分と関連して滑らかな表面を提供することが考えられる。硬質の基材を用いるにせよ軟質の基材を用いるにせよ何れにせよ、潤滑性材料を既に形成された基材(ベース)に被膜として設けるのがよい。変形例として、2つの層を同一の成形作業で又は二段式成形工程で互いに成形してもよく、これらはほんの2つの他の用途に過ぎない。」

(2) 「【0004】
恐らくは、典型的には搾乳器と関連して用いられる最もありふれた乳房シールドは、円錐形の形態をしており、通常は漏斗の形をしている。これら乳房シールドは伝統的には、定形の切頭した部分円錐形部分及び円錐形部分の下流側端部のところに設けられた乳首トンネル延長部を用いて作られている。乳首及びその周りの乳房は、乳首が乳首トンネル内に延びる状態で円錐形部分内に受け入れられる。真空下において、乳房は、乳房シールド内に更に引き込まれ、通常は次に乳首が乳首トンネル内に更に引き込まれ、それにより周囲の乳房も又、乳首の周りで圧縮される。
【0005】
かくして、授乳中の母親の乳首を真空下で乳首トンネルの壁に押し付けることができる。これにより、乳首が乳首トンネル内へ深く動くときに壁との摩擦が生じる場合がある。また、乳房と乳首トンネルだけでなく、円錐形部分との間にも摩擦が生じる場合がある。母親の乳房が押し付けられる硬質構造体は、率直に言えば赤ん坊の柔らかい口や口蓋を彷彿させるものではない。」

(3) 「【0008】
本発明の主目的は、搾乳器用の改良型乳房シールド(又はフード)を提供することにあり、この乳房シールドは、大きな一特徴では、乳首の領域が非常に軟質且つ柔軟であり、周りの乳房がどこであれ、これを一層包囲することができる。上述の目的を達成する実施形態は実質的に、乳房係合領域の全てが低ジュロメータ硬度の材料で作られる。特に望ましい形態のこの実施形態は、低ジュロメータ硬度材料から成る全体として中実の部品である。この望ましい形態では、乳房シールドは、赤ん坊の口や口蓋と非常によく似て極めて軟質且つ柔軟である。これは更に有利には、乳首及び乳房を受け入れるオリフィス(開口部)が非常に軟質の材料に照らして圧力下で(負圧及び(又は)正圧下で)縮むことができる限り、多種多様な乳房サイズに適合する(一サイズで全てのサイズに間に合う)。したがって、この形態では内部アダプタは不要である。さらに、本発明の乳房シールドは、乳房及び乳首接触部分になんら追加の構造体を設けないで用いられる。換言すると、硬質シェルと比較的柔軟性のあるライナ又はインサート、或いは袋部分の両方を有する場合のある多くの先行技術の乳房シールドとは異なり、本発明は、外側シェル又は硬質要素、或いは主シールド部分を支持する取付け状態の支持要素を用いないで働く。本発明の乳房シールドは、硬質又は外側シェル要素をなんら必要としないで機能する。
【0009】
上述の発明の特定の特徴では、乳房シールドは、約20又は20未満のショアAスケール硬さのものであるのがよい。乳房シールドは、約10又は10以下、実際には1又は1以下のショアAスケール硬さのものであってもよい。より詳細には、ショア00スケールでは、約20?約45が、現在最も望ましい範囲であると考えられる。本発明の最も重要な属性のうちの1つは、乳房シールドが非常に低いジュロメータ硬度の材料で作られていること及びその材料がこれに負圧が印加された場合にどのように挙動するかであると考えられる。低ジュロメータ硬度材料は、使用中、乳房と乳房シールドとの間の摩擦を最小限に抑えると考えられる。本明細書で明らかなように、最も好ましいジュロメータ硬度は、ショアAスケール硬さが5又は5以下、最も好ましくは、ショア00スケール硬さが約20?約45であると考えられる。上述した範囲よりも低い値でも、本発明の乳房シールドでは有用な場合がある。」

(4) 上記(1)-(3)の記載事項から、搾乳機の技術分野において、乳房の保護を考慮して、肌に接する感触を向上するために、乳房と接触する箇所の摩擦を低減させることは、従来周知の技術であると認められる。

第3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「搾乳器が有するブレストキャップを使用する際、女性の乳房の乳輪に取り付けるようになっている」は、その機能及び構成からみて、前者の「搾乳器のユーザの胸部を受け入れる」に相当する。
同様に、後者の「女性の乳房の乳輪」は前者の「胸部」に、「ブレストキャップ挿入物」は「搾乳器インサート」に、「充填媒体15」は「内側部」に、「円錐壁10,11」は「外側部」に、「内側及び外側の円錐壁10,11から形成されるチャンバー12の内部に充填された」は「下部にある」にそれぞれ相当する。
また、本願発明の内側部が有する弾性特性とは、本願明細書の段落【0020】の「柔軟な内部部分7は、容易に変形して胸部の輪郭に適応するよう圧縮可能で弾力性のある材料で形成される。」という記載を踏まえると、弾性的に変形する特性を意味するものである。
よって、後者の「円錐壁10,11」と、前者の「外側部」とは、下部にある内側部の変形特性を隠蔽しないよう可撓性を有することを可能にする厚さが適用され、内側部の動き又は変形が外側部を介して伝達されるように、可撓性を有するものである限りにおいて共通している。

してみると、両者は次の点で一致している。

(一致点)

「搾乳器のユーザの胸部を受け入れる搾乳器インサートであって、当該インサートが内側部と外側部とから形成されており、前記外側部が前記内側部よりも高い硬度を示し、前記外側部は、下部にある前記内側部の変形特性を隠蔽しないよう可撓性を有することを可能にする前記外側部の厚さを適用することにより、前記内側部の動き又は変形が前記外側部を介して伝達されるように、可撓性を有する、搾乳器インサート。」

そして、両者は次の点で相違している。

(相違点1)
本願発明では、外側部が、胸部がインサートに容易にスライドし得るという特性を当該インサートに与える低い摩擦係数を持つとともに、外側部の表面が、胸部とインサートとの間の摩擦を減じるための表面粗さを有しているのに対して、引用発明の内側の円錐壁10が、そのような摩擦係数及び表面粗さを持っているか明らかでない点。

(相違点2)
本願発明では、内側部が弾性特性を有しているのに対して、引用発明では、充填媒体15が弾性特性を有するか明らかでない点で相違する。
そして、その結果、本願発明では、外側部が、下部にある内側部の弾性特性を隠蔽しないように可撓性を有することを可能にする外側の厚さが適用されているのに対して、引用発明では、内側及び外側の円錐壁10,11は、充填媒体15の弾性特性を隠蔽しないよう可撓性を有することを可能にするような厚さが適用されているか明らかでない点でも相違する。

第4 相違点の検討
1 (相違点1)について
上記第2の2(2)及び上記第2の3(3)で認定したとおり、搾乳機の技術分野において、乳房の保護を考慮して、肌に接する感触を向上するために、乳房と接触する箇所の摩擦を低減させることは、従来周知の技術であると認められる。
そして、肌に接する感触を向上するために、乳房と接触する箇所の摩擦を低減させるという目的に応じて、乳房と接触する箇所の摩擦係数を低くすることや、表面粗さを好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。
してみると、引用発明の内側の円錐壁10も、乳房と接触するものであるから、上記従来周知の技術を適用して、乳房がブレストキャップ挿入物に容易にスライドし得るという特性を当該ブレストキャップ挿入物に与える低い摩擦係数を持ち、女性の乳房の乳輪とブレストキャップ挿入物との間の摩擦を減じるための表面粗さを有するように内側の円錐壁10を構成することは、当業者にとって容易になし得たものである。

ここで、本件明細書の段落【0026】の「外側部により提供されるスムースな感覚が、更に摩擦を減らすように当該材料の表面粗さを減じることによって更に改善されることができる点を理解されたい。代替的には、外側部の表面を粗くすることができ、同材料にシルクのような性質を与え、これによって皮膚とインサートとの間の摩擦を減じる」という記載を踏まえると、本願明細書の発明の詳細な説明には、表面粗さを減じることで摩擦を減らす手段と、表面を粗くすることで摩擦を減らす手段との2通りの手段が開示されているものとも解される。
そして、平成28年1月15日付け意見書の「[B]意見」において「外側部にシルクのような性質を与え、皮膚とインサートとの間の摩擦を減じることが可能となります」、「引用文献2,3のいずれも、皮膚と接触する表面との摩擦を最小限にするために、当該表面を滑らかにすることを開示しているに過ぎません」と主張していることから、上記相違点1に関して表面を粗くすることで摩擦を減らす手段を採用していることを主張しているとも解される。
しかしながら、本願発明は、上記相違点1について、「外側部の表面が、前記胸部と当該インサートとの間の摩擦を減じるための表面粗さを有する」という特定事項で規定されているところ、表面粗さを減じることで摩擦を減らす手段について排除しているわけではないし、その表面粗さを具体的にどのような範囲のものを採用するのかも特定されていない。
また、引用発明の内側の円錐壁を構成する材料が、肌に接触した場合、当該材料の粗面により肌へひっかかることで摩擦を生じてしまうことや、逆に全く粗面がない結果、当該材料が肌に貼り付いて摩擦を生じてしまうことは明らかであって、表面粗さを極端に減じるあるいは表面を極端に粗くすることで、材料の肌に対する摩擦を減ずることができるとはいえないことが技術常識である。
そうすると、摩擦を最小限にするために、表面を滑らかにするということは、材料の適度な粗面を形成するという意味であることが、当業者の通常の理解であるといえる。
よって、上記主張は、容易想到性についての判断を左右するものとはいえない。

2 (相違点2)について
引用発明の充填媒体15は、上記第2の1(6)の記載事項からみて、一例としてゲルから形成することが示されているが、ゲルは一般に弾性を有するものである。また、ブレストキャップ挿入物として用いるときに弾性変形可能な円錐壁に充填されるものであるから、充填媒体15についても弾性特性を持つものを選択することは、当業者にとって適宜なし得る程度のものにすぎない。
そして、引用発明の内側及び外側の円錐壁10,11は、充填媒体15の変形特性を隠蔽しないよう可撓性を有することを可能にするような厚さが適用されているものであるから、充填媒体15について弾性特性を持つものを採用した際に、円錐壁10,11を、充填媒体15の弾性特性を隠蔽しないよう可撓性を有することを可能にするような厚さを適用することは、当業者が適宜なし得る程度のものに過ぎない。

3 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、引用文献1の記載事項及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものと認められる。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献1の記載事項及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2-10に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-01 
結審通知日 2016-02-02 
審決日 2016-02-16 
出願番号 特願2012-504109(P2012-504109)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 宏之  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 関谷 一夫
竹下 和志
発明の名称 搾乳器インサート  
代理人 津軽 進  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 小松 広和  

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