ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J |
---|---|
管理番号 | 1316584 |
審判番号 | 不服2014-25395 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-12-11 |
確定日 | 2016-06-28 |
事件の表示 | 特願2010-209947「インクプリンタの印刷品質を改善する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月31日出願公開、特開2011- 63024〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年9月17日(パリ条約による優先権主張2009年9月18日 DE)の出願であって、平成26年1月27日に手続補正書が提出され、同年8月15日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、同年12月11日に本件審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後当審において、平成27年9月7日付けで拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月7日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は、上記の平成27年12月7日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「インクプリンタの印刷品質を改善する方法において、 印刷しようとする網点(22)に応じた所定の大きさのインク滴(17)を、プリントヘッド(10)を用いて、ノズル(11)を介して吐出し、 インク滴(17)が最後に吐出されてから経過した時間長さ(Δt_(T))を求め、 求めた時間長さ(Δt_(T))に応じて、次に吐出しようとするインク滴(17)の大きさを制御し、その際、求めた時間長さ(Δt_(T))が所定の閾値(Δt_(s))を超えた場合に、次に吐出しようとするインク滴(17)の大きさを以前に吐出された前記印刷しようとする網点(22)に応じた所定の大きさのインク滴(17)よりも大きくして、次に吐出しようとする大きくされたインク滴(17)が前記印刷しようとする網点(22)に応じた所定の大きさのインク滴(17)よりも短時間で着弾し、次に吐出しようとする大きくされたインク滴(17)が形成する網点(22)の中心が、次に吐出しようとするインク滴がサイズ変更されていない大きさであるときに形成する網点の中心よりも、目標位置により近くに位置するようにして、所定の閾値(Δt_(s))を超えた時間長さ(Δt_(T))に応じたインクの粘度の高まりに基づくインク滴(17)の着弾遅延によるインク滴(17)の着弾位置のずれを補償することを特徴とする、インクプリンタの印刷品質を改善する方法。」 第3 刊行物に記載された発明 1.刊行物1について 当審拒絶理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-254709号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。 (1)「【0001】 本発明は、インクジェット式プリンタ等の液体噴射装置、及びその制御方法に関し、特に、液量の異なる複数種類の液滴を吐出することで大きさの異なるドットを吐出対象物上に形成可能な液体噴射ヘッドを有する液体噴射装置、及びその制御方法に関する。」 (2)「【0004】 上記記録ヘッドのノズル開口におけるインクの自由表面(メニスカス)は、記録動作中では空気中に晒される。そのため、記録動作中に非吐出状態が継続するノズル開口では、非吐出時間の経過と共に溶媒が徐々に蒸発してインクが増粘し、インク滴の飛翔方向にずれが生じたり、インク滴の吐出が不能となる等の吐出不良が生じる虞がある。 【0005】 この吐出不良を未然に防止するために、この種のプリンタでは、インク滴が吐出されない程度にノズル開口に露出したインクのメニスカスを微振動させる微振動動作を行っている。この微振動動作を行うことにより、ノズル開口に露出したインクが移動して増粘していないインクと交換されるので、インクの増粘を低減することができる。しかしながら、非吐出状態が長時間継続した場合には、この微振動動作によってもインクの増粘を完全に防止することができない。そのため、上記プリンタでは、この微振動動作に加えて、記録動作(吐出動作)とは関係なくインク滴を強制的に吐出させるフラッシング動作を行っている(例えば、特許文献1参照)。このフラッシング動作では、一定の動作間隔(以下、フラッシング間隔という)毎に、吐出対象物から外れた位置にあるインク受け部材まで記録ヘッドを移動させ、その位置で全ノズルからインク滴が吐出される。このフラッシング動作により、増粘したインクが排出されるので、吐出不良をより効果的に防止することができる。 【0006】 ところで、記録動作中のノズル開口において非吐出状態(空走状態)が継続する非吐出時間の許容範囲(以下、許容時間という)は、非吐出時間経過後の最初のインク滴の吐出によって形成されるドット(以下、ファーストドットという)の大きさ、即ち、インク滴の吐出量に応じて異なる。例えば、ファーストドットが小ドットの場合、非吐出時間が約9秒までなら問題なくドットを形成できるが、9秒を超えてしまうと、インクの増粘により吐出不良が発生する虞がある。したがって、この小ドットの場合、非吐出時間についての許容時間は9秒である。そして、この小ドットよりも大きいドット、即ち、吐出量が多いドットについては、許容時間が小ドットのものよりも長くなる。このことから、従来のプリンタにおけるフラッシング間隔は、インクの増粘の影響を最も受け易い小ドットの許容時間と同じ時間に設定されている。」 (3)「【0018】 上記構成によれば、非吐出時間に応じて、非吐出時間経過後の最初の形成対象ドットのドット形成情報を、この形成対象ドットよりも大きい代替ドットの形成情報に置換するので、非吐出時間が形成対象ドットの許容時間を超えている場合においても吐出不良の虞無くドットを形成することができる。そのため、液体噴射ヘッドが形成可能な最大ドットの許容時間をフラッシング間隔として設定することができ、その結果、フラッシング動作回数を低減することができる。したがって、その分記録動作の高速化を図ることができる。また、フラッシング動作回数の低減により、その分のインクの消費量を抑えることができる。」 (4)「【0028】 次に、図2を参照して、上記記録ヘッド2について説明する。図2に例示した記録ヘッド2は、本発明の液体噴射ヘッドの一種であり、液量の異なる複数種類のインク滴を吐出することで、大きさの異なる複数種類のドットを、記録紙6上に形成可能であり、本実施形態においては、大ドット、中ドット、小ドットの合計3種類のドットを形成可能に構成されている。 この記録ヘッド2は、ケース25と、このケース25内に収納される振動子ユニット26と、ケース25の底面(先端面)に接合される流路ユニット27等を備えている。上記のケース25は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット26を収納するための収納空部28が形成されている。振動子ユニット26は、圧力発生素子として機能する圧電振動子29と、この圧電振動子29が接合される固定板30と、圧電振動子29に駆動信号等を供給するためのフレキシブルケーブル31とを備えている。圧電振動子29は、圧電体層と電極層とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であって、積層方向に直交する方向に伸縮可能な縦振動モードの圧電振動子である。」 (5)「【0033】 そして、上記の島部46には圧電振動子29の先端面が接合されているので、この圧電振動子29の自由端部を伸縮させることで圧力室38の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室38内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル開口40からインク滴を吐出させるようになっている。」 (6)「【0044】 図5に示すように、形成情報置換処理は、制御部14及び0カウンタ57が本発明における非吐出時間取得手段として機能して、各ノズル開口40における前回フラッシング動作終了時(又は記録動作開始時)からファーストドット形成時までの非吐出時間を判定対象時間Tとして取得する非吐出時間取得工程(S1)と、制御部14が本発明における時間判定手段として機能して判定対象時間Tがファーストドットの大きさに応じた許容時間を超えているか否かを判定する時間判定工程(S3,S4,S7)と、判定対象時間Tがファーストドットの許容時間を超えている場合に、制御部14が本発明における形成情報置換手段として機能して、ファーストドットの形成情報を、当該ファーストドットよりも大きい代替ドットの形成情報に置換する形成情報置換工程(S5,S6,S8)とで概略構成されている。なお、形成情報置換工程においては、置換が行われた形成情報の位置と、置換前のドット(ファーストドット)及び置換後のドット(代替ドット)の大きさとが、RAM54のワークエリアに記憶され、後述する近傍形成情報置換処理において用いられる。 【0045】 制御部14は、まず、非吐出時間取得工程S1において、0カウンタ57からの計数結果に基づき前回フラッシング動作終了後(記録動作開始後)からの非吐出時間を判定対象時間Tとして取得する。即ち、制御部14は、非形成情報の計数結果(個数)を時間に換算することで非吐出時間を判定対象時間Tとして取得する。判定対象時間Tを取得したならば、制御部14は、ファーストドット判定工程S2において、ファーストドットが大ドット、中ドット、小ドットの何れであるかを判定する。そして、ファーストドットが大ドットの場合、本実施形態においてはフラッシング間隔が大ドットの許容時間である20秒に設定されていることから非吐出時間が20秒を超えることがないので、形成情報の置換は発生せず処理は終了する。 【0046】 上記ファーストドット判定工程S2において、ファーストドットが小ドットであると判定された場合、制御部14は、まず、判定時間Tが小ドット許容時間を超えているか否かを判定し(S3)、判定対象時間Tが小ドット許容時間を超えていない場合、即ち、判定対象時間Tが小ドット許容時間である9秒以内(T≦9)である場合、今回の吐出時において、ファーストドットとして小ドットを問題なく(吐出不良の虞なく)形成することができるので、形成情報の置換を行わずに処理を終了する。一方、判定対象時間Tが小ドット許容時間である9秒を超えている(T>9)と判定された場合、制御部14は、判定対象時間Tが中ドット許容時間を超えているか否かを判定する(S3)。 【0047】 そして、判定対象時間Tが中ドット許容時間を超えていない、即ち、判定対象時間Tが中ドットの許容時間である15秒以内(9<T≦15)であると判定された場合、制御部14は、許容時間が判定対象時間Tよりも長いもののうち、大きさが小ドット(ファーストドット)により近い中ドットを代替ドットとし、小ドットの形成情報を、代替ドット(中ドット)の形成情報に置換する(S5)。これにより、判定対象時間T、即ち、前回フラッシング終了後(記録動作開始後)からの非吐出時間がファーストドットである小ドットの許容時間を超えていても、ファーストドットの代替ドットとして中ドットを問題なく形成することができる。 【0048】 しかしながら、判定対象時間Tが中ドット許容時間を超えている場合は、中ドットの形成も困難であるため、制御部14は、ファーストドットである小ドットの形成情報を、代替ドットとしての大ドットの形成情報に置換する(S5)。これにより、判定対象時間T、即ち、非吐出時間が、ファーストドットである小ドットの許容時間9秒、及び、中ドットの許容時間15秒を超えていたとしても、ファーストドットの代替ドットとして大ドットを問題なく形成することができる。 【0049】 また、上記ファーストドット判定工程S2において、ファーストドットが中ドットであると判定された場合、制御部14は、まず、判定時間Tが中ドット許容時間を超えているか否かを判定し(S7)、判定対象時間Tが中ドット許容時間を超えていない場合、即ち、判定対象時間Tが中ドット許容時間である15秒以内(T≦15)である場合、今回の吐出時において、ファーストドットとして中ドットを問題なく形成することができるので、形成情報の置換を行わずに処理を終了する。一方、判定対象時間Tが中ドット許容時間である15秒を超えている(15<T≦20)と判定された場合、中ドットの形成は難しいが、大ドットであれば問題なく形成することが可能な範囲であるので、制御部14は、ファーストドットである中ドットの形成情報を、代替ドットとしての大ドットの形成情報に置換する(S8)。これにより、判定対象時間T、即ち、前回フラッシング終了後(記録動作開始後)からの非吐出時間がファーストドットである中ドットの許容時間を超えていても、ファーストドットの代替ドットとして大ドットを問題なく形成することができる。 【0050】 以上のようにして、前回フラッシング動作終了時(記録動作開始時)からファーストドット形成時(今回吐出時)までの非吐出時間に応じて、ファーストドットの形成情報を、このファーストドットよりも大きい代替ドットの形成情報に置換するので、あるノズル開口40において非吐出時間がファーストドットの許容時間を超えている場合においても、吐出不良の虞無くドットを形成することができる。そのため、記録ヘッド2が形成可能な最大ドットの許容時間をフラッシング間隔として設定することができ、その結果、フラッシング動作回数を低減することができる。したがって、その分記録動作の高速化を図ることができる。また、フラッシング動作回数の低減により、その分のインクの消費量を抑えることができる。」 (7)「【0062】 また、上記各実施形態においては、フラッシング動作終了後(記録動作開始後)のファーストドットに対して、形成情報の置換処理を行う例を示したが、これには限らず、例えば、記録動作中における前回の吐出時から、今回の吐出時までの非吐出状態が、ファーストドットの許容時間を超えるような場合においても、今回吐出時におけるファーストドットの形成情報の置換処理を行うこともできる。」 上記の(1)ないし(6)の記載事項を総合すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「刊行物1発明」という。)。 「インクジェット式プリンタの制御方法であって、 記録ヘッド2は、液量の異なる複数種類のインク滴を吐出することで、大きさの異なる複数種類のドットを、記録紙6上に形成可能であり、ノズル開口40からインク滴を吐出させるようになっており、 各ノズル開口40における前回フラッシング動作終了時からファーストドット形成時までの非吐出時間を判定対象時間Tとして取得する非吐出時間取得工程(S1)と、判定対象時間Tがファーストドットの許容時間を超えている場合に、制御部14が形成情報置換手段として機能して、ファーストドットの形成情報を、当該ファーストドットよりも大きい代替ドットの形成情報に置換する形成情報置換工程(S5,S6,S8)とで構成され、 あるノズル開口40において非吐出時間がファーストドットの許容時間を超えている場合においても、吐出不良の虞無くドットを形成することができる、インクジェット式プリンタの制御方法。」 第4 対比 本願発明と刊行物1発明とを対比する。 1.刊行物1発明の「インクジェット式プリンタ」は、本願発明の「インクプリンタ」に相当する。以下同様に、「ドット」は「網点」に、「記録ヘッド2」は「プリントヘッド」に、「ノズル開口40」は「ノズル」に相当する。また、刊行物1発明の「大きさの異なる複数種類のドットを、記録紙6上に形成可能とする、液量の異なる複数種類のインク滴」は、形成しようとする複数種類のドットの大きさに応じた液量のインク滴であることは明らかであるから、本願発明の「印刷しようとする網点に応じた所定の大きさのインク滴」に相当する。 2.本願発明の「インク滴が最後に吐出されてから経過した時間長さ(Δt_(T))」とは、本願明細書の「先ず3つの網点22が印刷され、短い間隔(休止=デッドタイムΔtTに対応する)のあとで、再度網点22が印刷される。」(段落【0033】)との記載及び【図2】を参酌すれば、網点を印刷するためのインク滴が最後に吐出されてから経過した時間長さである。 一方、刊行物1発明の判定対象時間Tは、「前回フラッシング動作終了時からファーストドット形成時までの非吐出時間を判定対象時間Tとして取得」するものであり、網点を印刷するためのインク滴が吐出されてからの時間ではない。よって、刊行物1発明の「判定対象時間T」と本願発明の「インク滴が最後に吐出されてから経過した時間長さ(Δt_(T))」とは、前回動作終了時から経過した時間長さという概念で共通する。 3.刊行物1発明の「ファーストドットの許容時間」は、本願発明の「所定の閾値(Δt_(s))」に相当する。また、本願発明の「以前に吐出された前記印刷しようとする網点」とは、平成27年12月7日に提出の意見書3.(1)の記載によれば、元来の補償されないインク滴で形成される網点をいうのであるから、刊行物1発明において、代替ドットとしない通常のドットの形成情報で形成されるドットは、「以前に吐出された前記印刷しようとする網点」といえる。 よって、刊行物1発明の「判定対象時間Tがファーストドットの許容時間を超えている場合に、制御部14が形成情報置換手段として機能して、ファーストドットの形成情報を、当該ファーストドットよりも大きい代替ドットの形成情報に置換する」ことは、「求めた時間長さが所定の閾値を超えた場合に、次に吐出しようとするインク滴の大きさを以前に吐出された前記印刷しようとする網点に応じた所定の大きさのインク滴よりも大きくする」ことといえる。また、このことは、「求めた時間長さに応じて、次に吐出しようとするインク滴の大きさを制御」することともいえる。 4.刊行物1発明の「吐出不良の虞」とは、上記「第3 1.(2)」に示す段落【0004】の記載を参酌すれば、「ノズル開口では、非吐出時間の経過と共に溶媒が徐々に蒸発してインクが増粘し、インク滴の飛翔方向にずれが生じる等の吐出不良が生じる虞」をいうものである。ここで、インク滴の飛翔方向にずれが生じるのであれば、インク滴が着弾してドットが形成される位置が目標位置からずれることは明らかである。 そして、刊行物1発明の制御方法によりこうした「吐出不良の虞」無くドットを形成することができるのであるから、刊行物1発明のインクジェット式プリンタの制御方法は、「次に吐出しようとする大きくされたインク滴が形成する網点の中心が、次に吐出しようとするインク滴がサイズ変更されていない大きさであるときに形成する網点の中心よりも、目標位置により近くに位置する」ものであり、また、「所定の閾値を超えた時間長さに応じたインクの粘度の高まりに基づくインク滴の着弾位置のずれを補償する」ものといえる。 さらに、このことは印刷品質を改善するといえるから、刊行物1発明の制御方法は、「印刷品質を改善する方法」といえる。 したがって、本願発明と刊行物1発明とは、 「インクプリンタの印刷品質を改善する方法において、 印刷しようとする網点に応じた所定の大きさのインク滴を、プリントヘッドを用いて、ノズルを介して吐出し、 前回動作終了時から経過した時間長さを求め、 求めた時間長さに応じて、次に吐出しようとするインク滴の大きさを制御し、その際、求めた時間長さが所定の閾値を超えた場合に、次に吐出しようとするインク滴の大きさを以前に吐出された前記印刷しようとする網点に応じた所定の大きさのインク滴よりも大きくして、次に吐出しようとする大きくされたインク滴が形成する網点の中心が、次に吐出しようとするインク滴がサイズ変更されていない大きさであるときに形成する網点の中心よりも、目標位置により近くに位置するようにして、所定の閾値を超えた時間長さに応じたインクの粘度の高まりに基づくインク滴の着弾位置のずれを補償するインクプリンタの印刷品質を改善する方法」 の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 「前回動作終了時から経過した時間長さ」が、本願発明においては、「(網点を印刷するための)インク滴(17)が最後に吐出されてから経過した時間長さ」であるのに対し、刊行物1発明においては、「前回フラッシング動作終了時から経過した時間長さ」である点。 [相違点2] 本願発明においては、「次に吐出しようとする大きくされたインク滴(17)が前記印刷しようとする網点(22)に応じた所定の大きさのインク滴(17)よりも短時間で着弾し」、「インクの粘度の高まりに基づくインク滴(17)の着弾遅延によるインク滴(17)の着弾位置のずれを補償する」のに対し、刊行物1発明においては、次に吐出しようとする大きくされたインク滴が、短時間で着弾すること、インク滴の着弾遅延による着弾位置のずれを補償することが明らかではない点。 第5 判断 1.上記相違点1について検討する。上記「第3 1.(7)」に示したように、刊行物1段落【0062】には、次に吐出しようとするインク滴の大きさを制御することを、前回のフラッシング動作終了後からの非吐出時間の時間長さに応じて実行することに換えて、記録動作中における前回の吐出時からの非吐出時間の時間長さに応じて実行することが記載されている(以下、「刊行物1記載事項」という。)。記録動作中の吐出とは、網点(ドット)を印刷するためのインク滴の吐出をいうことは明らかであるから、刊行物1には相違点1に係る構成が記載されている。 そして、刊行物中に記載される事項にしたがって、具体的な実施例に種々の変更を施すことは、当業者にとって通常の創作能力を発揮する範囲内の事項であり、刊行物1発明において、刊行物1記載事項に基づいて、上記相違点1に係る構成となすことは当業者が容易に想到し得るものである。 2.上記相違点2について検討すると、インクジェット式のプリンタにおいて、インク滴の大きさが大きいほど飛翔時間が短いことは技術常識である(例えば、特開2001-018423号公報段落【0142】-【0143】、特開2003-159796号公報段落【0046】、特開2008-012782号公報段落【0075】を参照のこと。)ことからすれば、ドットをより大きくした代替ドットでインクの増粘による吐出不良の虞を無くすものに他ならない刊行物1発明においては、代替ドットはより短時間で着弾し、着弾遅延による着弾位置のずれも補償していることは明らかである。よって、当該相違点2は実質的な相違点ではない。 そして、本願発明の発明特定事項全体によって奏せられる効果も、刊行物1発明及び刊行物1記載事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。 したがって、本願発明は、当業者が刊行物1発明及び刊行物1記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、当業者が刊行物1発明及び刊行物1記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 |
審理終結日 | 2016-01-27 |
結審通知日 | 2016-02-01 |
審決日 | 2016-02-16 |
出願番号 | 特願2010-209947(P2010-209947) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
WZ
(B41J)
P 1 8・ 537- WZ (B41J) P 1 8・ 121- WZ (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山口 陽子、森次 顕 |
特許庁審判長 |
黒瀬 雅一 |
特許庁審判官 |
山本 一 吉村 尚 |
発明の名称 | インクプリンタの印刷品質を改善する方法 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 前川 純一 |
代理人 | 久野 琢也 |