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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01D
管理番号 1316703
審判番号 不服2015-15414  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-19 
確定日 2016-07-07 
事件の表示 特願2012-505623「光学式エンコーダ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月22日国際公開、WO2011/114938〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年3月8日(優先権主張 平成22年3月15日)に出願したものであって、平成26年12月8日付けの拒絶理由通知に対して平成27年1月30日付けで手続補正がなされたが、平成27年5月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年8月19日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成27年8月19日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成27年8月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前に、
「【請求項1】
投光部と、受光部と、上記投光部と受光部との間に配置されるスケールと、を有する光学式エンコーダにおいて、
上記スケール(12)は、光透過可能な導光部(24)を有し、
上記導光部は、上記投光部(10)が投光した光の少なくとも一部を、上記スケールの厚み方向に対向するように上記導光部内に配置された反射部(34)による多重反射を介して、上記スケールの厚み方向に垂直な方向に向けて導光する導光機能を有し、
上記受光部(14;74,76)は、上記スケールにより導光した光を受光し、上記スケールに対して相対的に移動する、
ことを特徴とする光学式エンコーダ。」
とあったところを、

「【請求項1】
投光部と、受光部と、上記投光部と受光部との間に配置されるスケールと、を有する光学式エンコーダにおいて、
上記スケール(12)は、光透過可能な導光部(24)を有し、
上記導光部は、上記投光部(10)が投光した光の少なくとも一部を、上記スケールの厚み方向に対向するように上記導光部内に配置された反射部(34)による光路が特定されない多重反射を介して、上記スケールの厚み方向に垂直な方向に向けて導光する導光機能を有し、
上記受光部(14;74,76)は、上記スケールにより導光した光を受光し、上記スケールに対して相対的に移動する、
ことを特徴とする光学式エンコーダ。」
とすることを含むものである(下線は、補正箇所を示す。)。

本件補正について検討する。

本件補正は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「多重反射」について、「光路が特定されない多重反射」と限定するものである。

よって、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)について以下に検討する。


2 引用例及びその記載事項

(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の基礎となる出願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-256641号公報(平成20年10月23日公開、以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

a「【0014】
図2において、光学式エンコーダ10は、フォトセンサ11とプリズム12と固定スリット板13と回転スリット板14と面導光円板15で構成される。回転スリット板14と面導光円板15はこの順番でスプロケット1に取り付けられ、中心軸a周りの回転するスプロケット1と同期して回転するように構成される。これに対し、フォトセンサ11とプリズム12と固定スリット板13は中心軸aに対する位置が変わらないようにテープフィーダ4に固定される。なお、スプロケット1はステンレスなどの金属材で形成されており、スプロケット1の表面1aは光を反射する反射面として機能するが、より反射率の高い素材で形成した反射シートを反射面として設けてもよい。
【0015】
フォトセンサ11は、発光部である1つの発光素子11aに対し受光部であるアレイ状の6つの受光素子11bを備えた反射型フォトセンサであり、発光素子11aから発せられた光の反射光を受光素子11bで受けて検知する。フォトセンサ11は、回転スリット板14を挟んで面導光円板15と対向する側に発光方向および受光方向が中心軸aと直交するように配置されている。プリズム12は、発光素子11aから発せられた光の進行方向を中心軸aと同方向になるように90度変更させて面導光円板15に入射させる1つの発光プリズム12aと、
面導光円板15により反射された光の進行方向を90度変更させて各受光素子11bにそれぞれ受光させる6つの受光プリズム12bで構成される。
【0016】
回転スリット板14は、中心軸aを中心とした等角上に形成した複数のスリット群14aなどのスリットにより面導光円板15により反射された光の一部を通過させ、それ以外を遮光する遮光円板である。各スリット群14aには透光部と遮光部が径方向に並設されており、全てのスリット群14aの間で透光部と遮光部の組み合わせパターンが異なるように構成されている。透光部は回転スリット板14に開設したスリット14bで形成されており、このスリット14bの数および位置に差異を設けることで透光部と遮光部の組み合わせパターンをスリット群14a毎に変化させている。従って、回転スリット板14の回転角毎にスリット14bを通過する反射光のパターンが変化し、反射光を受光する受光素子11bの組み合わせパターンが回転スリット板14の回転角毎に異なることになるので、各受光素子11bにおける受光状態を把握することで回転スリット板14の回転角、すなわちスプロケット1の回転角を検出することができる。
【0017】
回転スリット板14の外縁部には各スリット群14aに対応する入射スリット14cが形成されており、発光素子11aから発光プリズム12aを経た光を回転スリット板14の回転角に関係なく面導光円板15に入射させるための透光部となっている。
【0018】
固定スリット板13は、発光プリズム12aおよび受光プリズム12bと回転スリット板14の間に配置され、光を面導光円板15に入射させるための入射スリット13aと、面導光円板15からの反射光を通過させるための反射スリット群13bが形成されている。反射スリット群13bは受光素子11bの数に対応する6箇所に形成されたスリットで構成されている。入射スリット13aは、発光プリズム12aを経た光を回転スリット板14の入射スリット14bに確実に入射させ、隣接するスリット群14aへの入射を阻止する役割を有し、反射スリット群13bは、スリット群14aを通過した反射光を対応する受光プリズム12bに確実に入射させ、対応しない受光プリズム12bへの入射を阻止する役割を果たす。
【0019】
面導光円板15は、発光プリズム12aを経て入射された光を受光プリズム12bに向けて反射するプリズム体であり、ポリアセタール(POM)やメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等の光透過率の高い樹脂を素材として回転スリット板14と略同径の円板状に形成されている。
【0020】
図3において、面導光円板15は、平行をなす第1面20と第2面21を有し、それぞれの外周が第2面21から第1面20に向けて拡径するテーパ面22で連続されている。なお、第1面20が回転スリット板14に取り付けられる側であり、第2面21がスプロケット1に取り付けられる側である(図1参照)。第2面21には、中心軸aを中心とした同心円上に第2面21から第1面20に向けて縮径するように複数のテーパ面23が略同間隔で形成されている。」

b 図3には、面導光円板15の径方向の断面図が示され(【図面の簡単な説明】)、面導光円板15の第1面20の外径部に入射された入射光が、テーパー面22において複数方向に反射され、さらに、面導光円板15の第1面20(以下「表面」という。)と第2面21(以下「裏面」という。)とにおいて反射されて、内径方向に導光され、「表面」側に反射光として出射されることが示されている。


ア 上記aの「【0014】‥‥‥光学式エンコーダ10は、フォトセンサ11とプリズム12と固定スリット板13と回転スリット板14と面導光円板15で構成される。」との記載から、引用例1には、「フォトセンサ11とプリズム12と固定スリット板13と回転スリット板14と面導光円板15で構成される光学式エンコーダ10」が記載されているということができる。

イ 上記aの「【0014】‥‥‥回転スリット板14と面導光円板15はこの順番でスプロケット1に取り付けられ、中心軸a周りの回転するスプロケット1と同期して回転するように構成される。‥‥‥スプロケット1は‥‥‥より反射率の高い素材で形成した反射シートを反射面として設けてもよい。」との記載から、引用例1には、「回転スリット板14と面導光円板15はこの順番でスプロケット1に取り付けられ、中心軸a周りの回転するスプロケット1と同期して回転するように構成され、スプロケット1に反射率の高い素材で形成した反射シートを反射面として設ける」ことが記載されているということができる。

ウ 上記aの段落【0015】の記載から、「フォトセンサ11は、発光部である1つの発光素子11aに対し受光部であるアレイ状の6つの受光素子11bを備えた反射型フォトセンサであり、発光素子11aから発せられた光の反射光を受光素子11bで受けて検知する」ことが記載されているということができる。

エ 上記aの「【0015】‥‥‥プリズム12は、発光素子11aから発せられた光の進行方向を中心軸aと同方向になるように90度変更させて面導光円板15に入射させる1つの発光プリズム12aと、面導光円板15により反射された光の進行方向を90度変更させて各受光素子11bにそれぞれ受光させる6つの受光プリズム12bで構成される。」との記載において、面導光円板15に着目すると、引用例1には、「面導光円板15には、発光プリズム12aを介して発光素子11aから発せられた光が入射され、面導光円板15より反射され、反射された光は、受光プリズム12bを介して受光素子11bで受光される」ことが記載されているということができる。

オ 上記aの段落【0016】の記載から、「回転スリット板14は、複数のスリット群14aなどのスリットにより面導光円板15により反射された光の一部を通過させ、それ以外を遮光する遮光円板であって、各スリット群14aには透光部と遮光部が径方向に並設され、各受光素子11bにおける受光状態を把握することで回転スリット板14の回転角、すなわちスプロケット1の回転角を検出する」ことが記載されているということができる。

カ 上記aの段落【0019】の記載から、「面導光円板15は、発光プリズム12aを経て入射された光を受光プリズム12bに向けて反射するプリズム体であり、光透過率の高い樹脂を素材として回転スリット板14と略同径の円板状に形成される」ことが記載されているということができる。

キ 上記bの図3の記載から、「面導光円板15の第1面20の外径部に入射された入射光が、テーパー面22において複数方向に反射され、さらに、面導光円板15の第1面20(以下「表面」という。)と第2面21(以下「裏面」という。)とにおいて反射されて、内径方向に導光され、表面側に反射光として出射される」ことが示されている。


上記アないし上記キから、引用例1には、次の事項が記載されているということができる。

「フォトセンサ11とプリズム12と固定スリット板13と回転スリット板14と面導光円板15で構成される光学式エンコーダ10であって、
回転スリット板14と面導光円板15はこの順番でスプロケット1に取り付けられ、中心軸a周りの回転するスプロケット1と同期して回転するように構成され、スプロケット1に反射率の高い素材で形成した反射シートを反射面として設け、
フォトセンサ11は、発光部である1つの発光素子11aに対し受光部であるアレイ状の6つの受光素子11bを備えた反射型フォトセンサであり、発光素子11aから発せられた光の反射光を受光素子11bで受けて検知し、
面導光円板15には、発光プリズム12aを介して発光素子11aから発せられた光が入射され、面導光円板15より反射され、反射された光は、受光プリズム12bを介して受光素子11bで受光され、
回転スリット板14は、複数のスリット群14aなどのスリットにより面導光円板15により反射された光の一部を通過させ、それ以外を遮光する遮光円板であって、各スリット群14aには透光部と遮光部が径方向に並設され、各受光素子11bにおける受光状態を把握することで回転スリット板14の回転角、すなわちスプロケット1の回転角を検出し、
面導光円板15は、発光プリズム12aを経て入射された光を受光プリズム12bに向けて反射するプリズム体であり、光透過率の高い樹脂を素材として回転スリット板14と略同径の円板状に形成され、
面導光円板15の第1面20の外径部に入射された入射光が、テーパー面22において複数方向に反射され、さらに、面導光円板15の第1面20(以下「表面」という。)と第2面21(以下「裏面」という。)とにおいて反射されて、内径方向に導光され、表面側に反射光として出射される、
光学式エンコーダ10。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の基礎となる出願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-84448号公報(平成18年3月30日公開、以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

「【要約】
【解決手段】
相対変位する図示しない一方の部材に固定される、表面に主格子12が形成され裏面に反射手段18形成された透明材料からなるメインスケール11と、相対変位する図示しない他方の部材に固定される、照射光を射出する光源13と、光源13から照射され主格子12によって制限された光をさらに制限するための位相が互いに異なる複数の受光格子15が形成されたインデックススケール16と、主格子12および受光格子15によって制限された照明光を検出する複数の受光素子17とを備える。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、相対変位する2つの物体の機械的変位を電気的信号に変換する光学的変位検出器に関し、特に3種類の格子によって制限された光の強度の変化から2つの物体の機械的相対変位を検出する光学式エンコーダに関する。」

「【0010】
図1は、本発明の光学式エンコーダの側面図である。
図1において、11はガラス製メインスケールであり、相対変位する一方の部材(図示せず)に固定されている。12はメインスケール11の上面に形成された主格子であり、ピッチP1の反射パターンが形成されている。10はセンサヘッドであり、相対変位する図示しない他方の部材に固定されている。13は光源であり、照明光を照射する発光ダイオード(LED)またはランプ等からなる。20は開口穴であり、光源13からの照明光を主格子12に照射するための光学的開口である。
15は受光格子であり、スリットパターンが形成されている。16はガラス製インデックススケールであり、開口穴20と受光格子15が形成されている。また、17は受光素子であり、主格子12と受光格子15によって制限された光を検出する。」

「【0018】
図6は第3実施例を示すメインスケールの側面図である。
図6において12cは高反射材料で構成した主格子の非透過部である。
本発明が実施例1と異なる部分は、主格子12の非透過部12cを高反射材料で構成した点である。高反射材料としては、クロム膜を用いることができる。
【0019】
次に動作について説明する。
メインスケール11を照明した照明光の内、主格子12の透過部12bを通過した光は、非透過部12aと反射手段18の間で反射を繰り返し、再び主格子12の透過部12bを通過して、インデックススケール16(図示せず)に到達する。」

上記記載から引用例2には、次の事項が記載されているということができる(なお、上記段落【0018】の「非透過部12c」は、「非透過部12a」の誤記と認められる。)。

「光学式エンコーダにおいて(【0001】)、
表面に主格子12が形成され裏面に反射手段18形成された透明材料からなるメインスケール11を有し(【要約】)、
主格子12の非透過部12aは高反射材料で構成され(【0018】)、
発光ダイオード(LED)またはランプ等からなる光源13からの照明光を主格子12に照射し(【0010】)、
主格子12の透過部12bを通過した光は、非透過部12aと反射手段18の間で反射を繰り返し、再び主格子12の透過部12bを通過して、インデックススケール16(図示せず)に到達する(【0019】)、
光学式エンコーダ。」

3 対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「光学式エンコーダ10」は、本願補正発明の「光学式エンコーダ」に相当する。

(2)引用発明の「発光部である1つの発光素子11a」、「受光部であるアレイ状の6つの受光素子11bを備えた反射型フォトセンサ」は、それぞれ、本願補正発明の「投光部」、「受光部」に相当する。

(3)引用発明において、「回転スリット板14は、複数のスリット群14aなどのスリットにより面導光円板15により反射された光の一部を通過させ、それ以外を遮光する遮光円板であって、各スリット群14aには透光部と遮光部が径方向に並設され、各受光素子11bにおける受光状態を把握することで回転スリット板14の回転角、すなわちスプロケット1の回転角を検出」するものであって、ここで、「回転スリット板14」は、回転量を測定するスケールを有するものであるから、本願補正発明の「スケール」に相当する。

また、「面導光円板15には、発光プリズム12aを介して発光素子11aから発せられた光が入射され、面導光円板15より反射され、反射された光は、受光プリズム12bを介して受光素子11bで受光される」ものであり、面導光円板15は、光の光路から見て発光素子11aと、受光素子11bの間に配置されているということができる。
ここで、「回転スリット板14は、複数のスリット群14aなどのスリットにより面導光円板15により反射された光の一部を通過させ、それ以外を遮光する遮光円板であって、各スリット群14aには透光部と遮光部が径方向に並設され、各受光素子11bにおける受光状態を把握することで回転スリット板14の回転角、すなわちスプロケット1の回転角を検出」するから、回転スリット板14は、面導光円板15により反射された光の一部を通過させ、各受光素子11bに受光されるということができ、回転スリット板14は、光路から見て、面導光円板15を介して発光素子11aと、受光素子11bの間に配置されているということができる。
したがって、引用発明の「回転スリット板14」は、本願補正発明の「上記投光部と受光部との間に配置されるスケール」に相当する。

(4)引用発明は、「回転スリット板14と面導光円板15はこの順番でスプロケット1に取り付けられ、中心軸a周りの回転するスプロケット1と同期して回転するように構成され」るものであるから、回転スリット板14と面導光円板15を一体と捉えて面導光円板を備える回転スリット板をみることができる。
ここで、引用発明の「面導光円板15」は、「発光プリズム12aを経て入射された光を受光プリズム12bに向けて反射するプリズム体であり、光透過率の高い樹脂を素材として回転スリット板14と略同径の円板状に形成される」ものであって、光透過可能なものであるということができるから、上記面導光円板付き回転スリット板は光透過可能な導光部を有するといえ、本願補正発明の「上記スケール(12)は、光透過可能な導光部(24)を有」することに相当する。

(5)引用発明の「面導光円板15の第1面20の外径部に入射された入射光が、面導光円板15の第1面20(以下「表面」という。)と第2面21(以下「裏面」という。)とにおいて反射されて、内径方向に導光され、表面側に反射光として出射される」ことにおいて、入射光は、「発光素子11aから発せられた光」であり、また、入射光は、面導光円板15の内径方向に導光されるものということができるから、面導光円板15の厚み方向に垂直な方向に向けて導光するものであるということができる。
また、「面導光円板15の」「表面側に反射光として出射される」光は、面導光円板を備える回転スリット板(上記(4))において、その裏面側において、反射されるものと捉えることができ、一方、「回転スリット板14と面導光円板15はこの順番でスプロケット1に取り付けられ、中心軸a周りの回転するスプロケット1と同期して回転するように構成され、スプロケット1に反射率の高い素材で形成した反射シートを反射面として設け」るものであるから、面導光円板を備える回転スリット板(上記(4))は、その裏面側において、反射されるか、または、反射率の高い反射シートにより反射がなされて、発光素子11aから発せられた光が、面導光円板15の厚み方向に垂直な方向に向けて導光するものであるといえる。
よって、面導光円板を備える回転スリット板(上記(4))と、本願補正発明の「上記導光部は、上記投光部(10)が投光した光の少なくとも一部を、上記スケールの厚み方向に対向するように上記導光部内に配置された反射部(34)による光路が特定されない多重反射を介して、上記スケールの厚み方向に垂直な方向に向けて導光する導光機能を有」することとは、「上記導光部は、上記投光部(10)が投光した光の少なくとも一部を、反射部による反射を介して、上記スケールの厚み方向に垂直な方向に向けて導光する導光機能を有」する点で共通する。

(6)引用発明は、「回転スリット板14は、複数のスリット群14aなどのスリットにより面導光円板15により反射された光の一部を通過させ、それ以外を遮光する遮光円板であって、各スリット群14aには透光部と遮光部が径方向に並設され、各受光素子11bにおける受光状態を把握することで回転スリット板14の回転角、すなわちスプロケット1の回転角を検出」するものであって、各受光素子11bからみて、回転スリット板14のスリットにより面導光円板15により反射された光の一部を通過した光を各受光素子11bが受光し、これにより、回転スリット板14の回転角を検出するものであるから、回転スリット板14に対して相対的に移動するものと捉えることができる。
したがって、引用発明の「各受光素子11b」は、本願補正発明の「上記スケールにより導光した光を受光し、上記スケールに対して相対的に移動する」「上記受光部(14;74,76)」に相当する。

すると、本願補正発明と引用発明とは、次の<一致点>及び<相違点>を有する。

<一致点>
「投光部と、受光部と、上記投光部と受光部との間に配置されるスケールと、を有する光学式エンコーダにおいて、
上記スケール(12)は、光透過可能な導光部(24)を有し、
上記導光部は、上記投光部(10)が投光した光の少なくとも一部を、反射部による反射を介して、上記スケールの厚み方向に垂直な方向に向けて導光する導光機能を有し、
上記受光部(14;74,76)は、上記スケールにより導光した光を受光し、上記スケールに対して相対的に移動する、
ことを特徴とする光学式エンコーダ。」

<相違点>ア
本願補正発明は、「上記スケールの厚み方向に対向するように上記導光部内に配置された反射部(34)」を有するのに対し、引用発明は、このような特定がない点。

<相違点>イ
本願補正発明が、「光路が特定されない多重」反射を介して、上記スケールの厚み方向に垂直な方向に向けて導光するのに対し、引用発明は、このような特定がない点。

4 判断

<相違点>アについて
引用発明は、「回転スリット板14と面導光円板15」が一体的に取り付けされた「面導光円板15」において(上記3(4))、「面導光円板15の第1面20(以下「表面」という。)と第2面21(以下「裏面」という。)とにおいて反射され」るものであって、反射される面である、導光円板15の表面と裏面は、引用発明における面導光円板を備える回転スリット板(上記3(4))の厚み方向に対応するように導光部内に配置された反射部ということができ、この点に格別な相違を有さない。

また、引用発明は、面導光円板を備える回転スリット板(上記3(4))とスプロケット1との間に、反射率の高い素材で形成した反射シートを設けたものと捉えることができ、一方、一般に反射する部分に、反射部材を設けることも普通になし得ることであるから、導光円板15の表面における反射部において反射シートを設けることは、当業者が適宜なし得る事項である。
したがって、この点からも、面導光円板を備える回転スリット板(上記3(4))の厚み方向に対向するように面導光円板15に反射部を配置することに格別の困難性を有しない。

さらに、引用例2には、「表面に主格子12が形成され裏面に反射手段18形成された透明材料からなるメインスケール11」について、「主格子12の非透過部12aは高反射材料で構成され、発光ダイオード(LED)またはランプ等からなる光源13からの照明光を主格子12に照射し、主格子12の透過部12bを通過した光は、非透過部12aと反射手段18の間で反射を繰り返し、再び主格子12の透過部12bを通過」することが記載されており(上記2(2))、メインスケール11は、反射が繰り返される導光部材ということができ、また、表面に形成された、高反射材料で構成され主格子12及び裏面に形成された反射手段18は、メインスケール11の厚み方向に対応するように導光部内に配置された反射部ということができるから、この点からも、スケールの厚み方向に対向するように上記導光部内に配置された反射部を設けることに格別の困難性を有しない。

よって、本願補正発明の<相違点>アに係る構成のようにすることは格別なことではない。

<相違点>イについて
引用発明において「面導光円板15の第1面20の外径部に入射された入射光が、テーパー面22において複数方向に反射され、さらに、面導光円板15の第1面20(以下「表面」という。)と第2面21(以下「裏面」という。)とにおいて反射されて、内径方向に導光され」ることから、面導光円板15の内部において、テーパー面22において反射されることにより、導光部内においては、種々の方向に発散しながら進むものであるから、「光路が特定されない」多重反射により、内径方向に導光されているということができ、この点に格別の相違を有しない。

また、相違があるとしても、引用例2に記載のメインスケール11は反射が繰り返される導光部材ということができ(上記<相違点>アについて 第3段落)、ここで、引用例2の「光源13」は「発光ダイオード(LED)またはランプ等からなる光源13」であるから、反射が繰り返される導光部材において、光路が特定されない多重反射を繰り返しているということができるから、引用発明の「発光部である1つの発光素子11a」として、発光ダイオード(LED)またはランプ等を用いて、「光路が特定されない」多重反射とすることに格別の困難性を有しない。

よって、本願補正発明の<相違点>イに係る構成のようにすることは格別なことではない。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願補正発明が奏する効果は、引用発明、引用例2に記載の発明、及び周知技術から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載の発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1本件補正」の本件補正前の「請求項1」として記載したとおりのものである。

2 引用例及びその記載事項

原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2[理由]2 引用例及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は、本願補正発明から、上記「第2[理由]1 本件補正」で検討した本件補正に係る限定を削除するものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2[理由]4 判断」に示したとおり、引用発明、引用例2に記載の発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例2に記載の発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-28 
結審通知日 2016-05-10 
審決日 2016-05-26 
出願番号 特願2012-505623(P2012-505623)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01D)
P 1 8・ 113- Z (G01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 眞岩 久恵  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 酒井 伸芳
関根 洋之
発明の名称 光学式エンコーダ  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 直樹  
代理人 堀内 美保子  
代理人 岡田 貴志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 野河 信久  
代理人 佐藤 立志  
代理人 砂川 克  

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