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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08G
管理番号 1316719
審判番号 不服2015-5528  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-24 
確定日 2016-07-06 
事件の表示 特願2012-515413「接岸支援方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 2日国際公開、WO2010/136490、平成24年11月12日国内公表、特表2012-528417〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2010年5月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年5月26日、独国)を国際出願日とする出願であって、平成26年2月5日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成26年2月12日)、これに対し、平成26年4月30日付で意見書及び手続補正書が提出され、平成26年5月29日付で最後の拒絶の理由が通知され(発送日:平成26年6月3日)、これに対し、平成26年8月25日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年11月28日付で平成26年8月25日付の手続補正を却下するとともに拒絶査定がなされ(発送日:平成26年12月2日)、これに対し、平成27年3月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2.平成26年11月28日付の補正の却下の決定の適否
平成26年11月28日付での平成26年8月25日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)の却下の決定の適否を検討する。

[理由I]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
接岸する岸壁を基準とする港湾画像を取得する画像取得部と、
自船周辺の他の物体の位置を認識する位置認識システムと、
前記港湾画像上において目標位置の指定を受け付ける指定手段と、
前記港湾画像に前記他の物体を重畳して画面に表示する制御部と、
を備え、
前記制御部は自船を現在位置から前記目標位置まで導くための適切又は最適なルートを算出し、当該算出結果に基づいて、接岸に関する所定の処理を実行することを特徴とする接岸支援方法。
【請求項2】
自船の船首側の座標を特定する第1のGPS受信機と、船尾側の座標を特定する第2のGPS受信機と、を備え、前記制御部は、第1のGPS受信機及び第2のGPS受信機から取得した座標位置に基づいて算出される船首-船尾間の距離と、船首-船尾間の距離に関する設計上の公証値とを比較して第1のGPS受信機及び第2のGPS受信機の確実性又は正確性を判定する請求項1に記載の接岸支援方法。
【請求項3】
前記制御部は、前記判定の結果、第1のGPS受信機及び第2のGPS受信機が不確実又は不正確と判定されたときは、不確実性又は不正確性を示す情報を前記港湾画像に重畳して前記画面に表示する請求項2に記載の接岸支援方法。
【請求項4】
前記所定の処理は、自船の操縦を自動的に実行可能な制御/駆動システムの運転である請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の接岸支援方法。
【請求項5】
前記制御部は、算出した適切又は最適なルートによる接岸が、前記制御/駆動システムの能力では不十分である場合に、その旨、或いは、曳航船による操船方法についてのアドバイスを前記画面に表示する請求項4に記載の操船操縦方法。
【請求項6】
前記所定の処理は、手動により自船の操縦を行う場合における自船の制御/駆動システムの適切な運転方法についてのアドバイスを前記画面に表示することである請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の接岸支援方法。
【請求項7】
自船のローリング、ピッチング、ヨーイングを検出する動き検出手段を備え、前記制御部は、前記動き検出手段による実際の自船の動き情報と、航行時において通常起こり得ると予測される自船の動き情報と、に基づいて自船の周期的な動きを抑制するための前記制御/駆動システムの運転方法を特定し、特定した運転方法を考慮して自動的に前記制御/駆動システムを運転し、或いは、特定した運転方法についてのアドバイスを前記画面に表示する請求項4?請求項6のいずれか1項に記載の接岸支援方法。
【請求項8】
前記制御部は、自船に対する風圧及び水流を示す干渉情報を取得し、前記干渉情報にも基づいて前記適切又は最適なルートを算出する請求項1?請求項7のいずれか1項に記載の接岸支援方法。」

これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
接岸する岸壁を基準とする港湾画像を取得する画像取得部と、
自船周辺の他の物体の位置を認識する位置認識システムと、
前記港湾画像上において目標位置の指定を受け付ける指定手段と、
前記港湾画像に前記他の物体を重畳して画面に表示する制御部と、
を備え、
前記制御部は、自船の船首側の座標を特定する第1のGPS受信機と、船尾側の座標を特定する第2のGPS受信機と、を備え、
前記制御部は、第1のGPS受信機及び第2のGPS受信機から取得した座標位置に基づいて自船の現在位置を前記画面に表示し、
前記制御部は、第1のGPS受信機及び第2のGPS受信機から取得した座標位置に基づいて算出される船首-船尾間の距離と、船首-船尾間の距離に関して設計時に予め設定された距離とを比較して第1のGPS受信機及び第2のGPS受信機の確実性又は正確性を判定し、前記判定結果に基づいて、前記自船の現在位置の周りで自船が存在し得る不確実範囲を前記画面に表示し、
前記制御部は自船を前記自船の現在位置から前記目標位置まで導くための適切又は最適なルートを算出し、当該算出結果に基づいて、接岸に関する所定の処理を実行することを特徴とする接岸支援方法。
【請求項2】
前記所定の処理は、自船の操縦を自動的に実行可能な制御/駆動システムの運転である請求項1に記載の接岸支援方法。
【請求項3】
前記制御部は、算出した適切又は最適なルートによる接岸が、前記制御/駆動システムの能力では不十分である場合に、その旨、或いは、曳航船による操船方法についてのアドバイスを前記画面に表示する請求項2に記載の操船操縦方法。
【請求項4】
前記所定の処理は、手動により自船の操縦を行う場合における自船の制御/駆動システムの適切な運転方法についてのアドバイスを前記画面に表示することである請求項1に記載の接岸支援方法。」


(2)新規事項について
本件補正後の請求項1には、「前記判定結果に基づいて、前記自船の現在位置の周りで自船が存在し得る不確実範囲を前記画面に表示し」と記載されているから、本件補正後の請求項1に記載された接岸支援方法は、不確実範囲を画面に表示すれば如何なる表示方法でも良いこととなる。

そこで、当該補正が、国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く)(以下、「翻訳文等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

翻訳文等には、
a「前記画像表示上に前記船舶の最も確実な位置が不確実範囲とともにグラフィカルに再現されることを特徴とする請求項1?請求項4のいずれか1項に記載のコンピュータ支援による船舶操縦方法。」(【請求項5】)

b「また本発明は、上記構成のコンピュータ支援による船舶操縦方法において、前記画像表示上に前記船舶の最も確実な位置が不確実範囲とともにグラフィカルに再現されることが望ましい。」(【0015】)

c「画面10上でこれを明示することができる。たとえば、船舶5の最も確実な位置を表示する一方で、その周りで船舶5が存在し得る不確実範囲をグラフィカルに表示するとよい。」(【0030】)

と記載されているにすぎず、不確実範囲をグラフィカルに表示することの記載はあるものの、不確実範囲を画面に表示すれば如何なる表示方法でも良いことは、図面を参照しても記載も示唆もない。

したがって、接岸支援方法が、不確実範囲を画面に表示すれば如何なる表示方法でも良いことは、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(3)むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


[理由II]
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるが、更に本件補正が、平成26年8月25日付意見書において主張されたように「特許請求の範囲の限定的減縮及び請求項の削除を目的とする補正のみ」であったとして、削除されなかった本件補正後の前記請求項1に記載されたものが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討しておく。

(1)第36条第4項第1号及び第6項第2号について
(1-1)請求項1に、「接岸する岸壁を基準とする港湾画像を取得する画像取得部」とあるが、地図データから接岸する岸壁を基準とする港湾画像を抽出(取得)することを意味するのか、既に存在する接岸する岸壁を基準とする港湾画像を画面に表示するために取得することを意味するのか、それ以外か、構成を特定できず不明であり、また、発明の詳細な説明を参照しても明確な説明は存在せず、当該記載に対応する箇所が何処であるのか特定できず不明である。

(1-2)請求項1に、「前記制御部は、第1のGPS受信機及び第2のGPS受信機から取得した座標位置に基づいて算出される船首-船尾間の距離と、船首-船尾間の距離に関して設計時に予め設定された距離とを比較して第1のGPS受信機及び第2のGPS受信機の確実性又は正確性を判定し、前記判定結果に基づいて、前記自船の現在位置の周りで自船が存在し得る不確実範囲を前記画面に表示し」と記載されている。また、請求項1の記載において、自船の大きさは特定されていないから、小型船舶も含まれることとなる。
自船の第1のGPS受信機及び第2のGPS受信機から取得した座標位置に基づいて船首-船尾間の距離を算出する場合、自船の第1のGPS受信機及び第2のGPS受信機が受信する衛星からの信号から求められる位置のデータに含まれる誤差は同一である。即ち、2つの受信機にもとづいて算出される位置データは、誤差分だけ正確な位置から平行移動したデータであるから、このデータから算出される船首-船尾間の距離は、船首-船尾間の距離に関して設計時に予め設定された距離と同じである。
そうすると、当該方法では、そもそも自船の第1のGPS受信機及び第2のGPS受信機の確実性又は正確性を判定することはできず、不確実範囲が表示できるとは理解できない。したがって、どの様にして自船の第1のGPS受信機及び第2のGPS受信機の確実性又は正確性を判定し不確実範囲を表示するのか、発明の詳細な説明を参照しても不明であるといわざるを得ない。

(1-3)したがって、この出願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件補正後の請求項1に記載されたものを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、かつ、本件補正後の請求項1の記載は明確ではないから、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。


(2)特許法第36条第6項第1号について
本件補正後の請求項1の記載は、上記「[理由I](2)」に示したように、本願の優先権主張の日前の技術常識に照らしても、本件補正後の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
したがって、本件補正後の請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明
平成26年11月28日付の補正の却下の決定は適切なものと認められるので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記した平成26年4月30日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。


4.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された、国際公開第2004/019302号(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

1-a「図2に示されるように、この操船支援システムは、操船者及び支援者に携帯される複数の端末装置1と、各端末装置1が接続される通信網2と、操船を支援するための操船支援情報及び操船者により決定された操船指令情報を各端末装置1より収集するホスト装置3とから構成されている。
端末装置1は、海図画像を表示する画面部11と、操船支援情報や操船指令情報を入力する入力部12と、通信網へのインタフェースである通信部13と、入力及び配信された操船支援情報、操船指令情報、海図画像情報を記憶するメモリ14とを備える。画面部11は、ホスト装置3から配信された海図画像情報を海図画像に復元して表示すると共に、操船支援情報及び操船指令情報を画像化して海図画像上に重ねることができる。」(第4頁8-17行)

1-b「ホスト装置3は、コンピュータで構成されており、船内に設けられている。ホスト装置3には、海図データを記憶する海図データベース31、操船支援情報を記憶する第一のメモリ32、操船指令情報を記憶する第二のメモリ33などが付随している。海図データベース31は、海岸線、等深線の地形的なデータ及び浮標、物標、灯台等の標識配置に関するデータを記憶したものである。ホスト装置3は、海図データベース31から自船位置によって検索した航行予定海域の海図データを読み取り、海図画像に復元することが容易かつ情報容量を節約できる情報形態に加工して端末装置1に配信することになる。第一のメモリ32には、各種センサから提供された操船支援情報と、端末装置から収集された操船支援情報とが記憶される。第二のメモリ33には、操船者用の端末装置1aから収集された予定コース、指令針路、指令速度等の操船指令情報が記憶される。」(第5頁17-27行)

1-c「また、ホスト装置3には、測位システム、ジャイロ、速度計、レーダ等の各種センサ34が接続されている。これらのセンサ34からホスト装置3に提供される操船支援情報は、自船位置、自船針路、自船速力、他船位置、他船針路、他船速力、行先などである。ホスト装置3では、センサ34から提供された操船支援情報や海図データを総合することにより、対岸距離等の相対的位置、自他船の航跡を算出して操船支援情報に加えることができる。」(第5頁28行-第6頁5行)

1-d「以下、操船支援システムの動作を説明する。
ここでは、入港の場合を例にとる。各端末装置1は、ホスト装置3から配信された自船周囲の海図画像情報をもとに、画面部11に海図画像を表示する。即ち、図4に示されるように、海岸線(突堤も含む)41、等深線(図示せず)、バース42、物標43、灯台44、浮標45などが画面に表示される。また、各端末装置1は、操船支援情報である自船位置、自船針路にもとづいて、自船の画像を作成して海図画像に重畳させる。自船46は、海図画像上の自船位置に先端を自船針路に向けたシンボルで示される。航跡情報からは航跡47の画像が作成される。他船位置、他船針路からは、他船48の画像が作成される。また、他船針路、他船速力からはベクトルが計算され、ベクトル49の画像が他船の画像に付け加えられる。さらに、浮標45や物標43にもとづいて航路線50の画像が表示される。」(第7頁6-17行)

1-e「一方、操船者である船長は、端末装置1aに予定コース、指令針路、指令速度等の操船指令情報を入力する。例えば、予定コースは、ポインティングデバイスを用いて海図画像上に描線することで入力ができる。端末装置1aで決定された操船指令情報が通信網2を介してホスト装置3に収集され、ホスト装置3は、この操船指令情報を各端末装置1に配信する。
各端末装置1は、操船指令情報に基づいて予定コースの画像を作成して海図画像に重畳させる。」(第7頁25行-第8頁3行)

1-f「なお、本実施形態では、操船支援情報や操船指令情報に関する画像を各端末装置1で形成するようにしたが、この画像をホスト装置3で作成して海図画像に合成したものを配信するようにしてもよい。」(第8頁7-9行)

1-g「図7aに示されるように、ホスト装置3は、各種センサ34及び端末装置1a,1bから操船支援情報を収集し、計算の必要な操船支援情報を計算する。」(第9頁16-17行)

上記記載及び図面を参照すれば、操船支援方法が示されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「海図データベースから自船位置によって検索した航行予定海域の海図データを読み取って、海図画像に復元することが容易かつ情報容量を節約できる情報形態に加工して端末装置1に配信するホスト装置と、入港の場合にホスト装置から配信された自船周囲の海図画像情報をもとに、画面部に、海岸線(突堤も含む)、バース、物標、灯台、浮標などの海図画像が表示される前記端末装置1と、
自船位置、自船針路、自船速力、他船位置、他船針路、他船速力、行先などの操船支援情報を提供する測位システム、ジャイロ、速度計、レーダ等の各種センサと、
操船者が操船指令情報のうちの予定コースを、ポインティングデバイスを用いて前記海図画像上に描線することで入力する端末装置1aと、
前記操船支援情報を画像化して前記海図画像上に重ねる前記端末装置1と、
を備える操船支援方法。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。

同じく、原査定の拒絶の理由で引用された、特開2004-42884号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

2-a「目標点を設定し、移動体特有の非線形の条件も考慮された、前記目標点に到達するための移動体の状態量及び推力に関する評価関数を最小化又は最大化する推力値をリアルタイムで算出し、該算出した推力値に基づいて移動体を移動させる、移動体の操縦方法。」(【請求項1】)

2-b「移動体の自動操縦方法として、例えば、自動操船方法がある。従来の自動操船方法として、例えば以下のものがある(特許文献1参照)。この自動操船方法では、計画航路上に現在位置から所定の距離だけ離れた点に目標点をおき、その目標点から航路偏差及び方位偏差を算出し、その算出した偏差から複数個の推進器(以下、アクチュエータという)が出力すべき推力を算出する。また、ルートは複数の線分と一定半径の円弧とで構成される連続な計画航路である。」(【0002】)

2-c「本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、所与の制約条件内でパワーを最小にしつつ、所与の目標点に沿うよう最適な移動経路で自動操縦可能な移動体の操縦方法及び装置を提供することを目的としている。」(【0007】)

2-d「上記課題を解決するために、本発明に係る移動体の操縦方法及び装置は、目標点を設定し、移動体特有の非線形の条件も考慮された、前記目標点に到達するための移動体の状態量及び推力に関する評価関数を最小化又は最大化する推力値をリアルタイムで算出し、該算出した推力値に基づいて移動体を移動させる(請求項1,20)。かかる構成とすると、従来例のように事前に移動経路を計算しておく必要がなく、実際の位置制御において、目標点までの最適なルートをリアルタイムで計算しつつ移動体を制御するので、外乱が作用しても所与の条件内でパワーを最小にしつつ最適なルートを自動的に移動することができる。」(【0009】)

2-e「図4に示すように、本実施の形態では、仮想の平面上に複数の経由点(以下、ウエイポイントという)WPを想定し、その複数のウエイポイントWP間を直線で結んだものをルート101として定義する。そして、このようにルート101上に複数想定されたウエイポイントWPを順次切り換えて目標点としながら最適化制御を行う。」(【0037】)

2-f「次に、自動着桟を、シミュレーションによる実施例に従って説明する。」(【0068】)

2-g「図17(a)に示すように、本実施の形態では、まず、表示装置にルート設定画面を表示し、その設定画面上でマウス等を操作して、障害物301,302等の進入禁止区域を手動で設定する。なお、GPS情報やMAP(地図)の情報を制御装置3に入力して自動的に進入禁止区域を設定するようにしてもよい。」(【0074】)


5.対比
そこで、本願発明と引用発明とを比較する。
船舶が港湾において停泊するために設けられた接岸施設はバースという単位に区分されるから、引用発明の「バース」は、本願発明の「接岸する岸壁」に相当する。
引用発明のホスト装置は、航行予定海域の海図データを読み取って海図画像に復元することが容易かつ情報容量を節約できる情報形態に加工して端末装置1に配信しており、端末装置1は、入港時ホスト装置から配信された自船周囲の海図画像情報をもとに、画面部に、海岸線(突堤も含む)、バース、物標、灯台、浮標などの海図画像が表示されるので、接岸する岸壁に対する海図画像が取得されていることとなるから、引用発明の「海図データベースから自船位置によって検索した航行予定海域の海図データを読み取って、海図画像に復元することが容易かつ情報容量を節約できる情報形態に加工して端末装置1に配信するホスト装置と、入港の場合にホスト装置から配信された自船周囲の海図画像情報をもとに、画面部に、海岸線(突堤も含む)、バース、物標、灯台、浮標などの海図画像が表示される前記端末装置1」は、本願発明の「接岸する岸壁を基準とする港湾画像を取得する画像取得部」に相当する。
引用発明の各種センサは、他船位置、他船針路を提供するから、引用発明の「自船位置、自船針路、自船速力、他船位置、他船針路、他船速力、行先などの操船支援情報を提供する測位システム、ジャイロ、速度計、レーダ等の各種センサ」は、本願発明の「自船周辺の他の物体の位置を認識する位置認識システム」に相当する。
引用発明の予定コースはバースを目指しているから、引用発明の「操船者が操船指令情報のうちの予定コースを、ポインティングデバイスを用いて前記海図画像上に描線することで入力する端末装置1a」は、本願発明の「前記港湾画像上において目標位置の指定を受け付ける指定手段」に相当する。
引用発明の操船支援情報には、自船位置、自船針路、自船速力、他船位置、他船針路、他船速力、行先などが含まれるから、引用発明の「前記操船支援情報を画像化して前記海図画像上に重ねる前記端末装置1」は、本願発明の「前記港湾画像に前記他の物体を重畳して画面に表示する制御部」に相当する。
引用発明の「操船支援方法」は、バースまでの予定コースを海図画像上に描画するから、本願発明の「接岸支援方法」に相当する。

したがって、両者は、
「接岸する岸壁を基準とする港湾画像を取得する画像取得部と、
自船周辺の他の物体の位置を認識する位置認識システムと、
前記港湾画像上において目標位置の指定を受け付ける指定手段と、
前記港湾画像に前記他の物体を重畳して画面に表示する制御部と、
を備える接岸支援方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本願発明は、制御部は自船を現在位置から目標位置まで導くための適切又は最適なルートを算出し、当該算出結果に基づいて、接岸に関する所定の処理を実行するのに対し、引用発明は、操船者が予定コースを海図画像上に描線してはいるが、この様な処理を実行してはいない点。


6.判断
引用例2にもみられるように、制御部が自船を現在位置から目標位置まで導くための適切又は最適なルートを算出し、当該算出結果に基づいて、接岸に関する所定の処理を実行することは周知の事項(更に必要があれば特開2007-230455号公報等参照)である。
そうであれば、引用発明においても、操船者の負担等を考慮して、周知の事項のように制御部が自船を現在位置から目標位置まで導くための適切又は最適なルートを算出し、当該算出結果に基づいて、接岸に関する所定の処理を実行することは、当業者が容易に考えられることと認められる。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


7.むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、他の請求項を検討するまでもなく、本願を拒絶すべきであるとした原査定は妥当である。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-03 
結審通知日 2016-02-09 
審決日 2016-02-23 
出願番号 特願2012-515413(P2012-515413)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上野 力  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 矢島 伸一
堀川 一郎
発明の名称 接岸支援方法  
復代理人 特許業務法人 佐野特許事務所  

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