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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02C
管理番号 1316758
審判番号 不服2015-13518  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-16 
確定日 2016-07-05 
事件の表示 特願2010-163594「ガスタービンエンジンの制御のための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月10日出願公開、特開2011- 27106〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、特許法第36条の2第1項の規定による平成22年7月21日(パリ条約による優先権主張2009年7月21日、欧州特許庁)の出願であって、平成22年9月21に外国語明細書、外国語特許請求の範囲、外国語図面及び外国語要約書の日本語による翻訳文(以下、「翻訳文」という。)が提出され、平成26年3月24日付けで拒絶理由が通知され、平成26年10月7日に意見書が提出され、同日に特許請求の範囲について誤訳の訂正を目的として補正する誤訳訂正書が提出されたが、平成27年3月16日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年7月16日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1ないし16に係る発明は、翻訳文の明細書及び図面並びに平成26年10月7日に提出された誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
ベース負荷及び/又は高部分負荷においてガスタービンエンジンシステム(1)を運転する方法において、該ガスタービンエンジンシステム(1)が、
ガスタービンエンジン(2)を有しており、該ガスタービンエンジン(2)に、
入口空気質量流を制御するための少なくとも1つの列の調整可能な可変翼(8)を備えた少なくとも1つの圧縮機(5)と、
少なくとも1つの燃焼器(6)と、
少なくとも1つのタービン(7)と、が設けられており、
制御システム(10)を有しており、該制御システム(10)が、
圧縮機(5)の上流において測定された少なくとも1つの測定された温度値(T_(amb))又は当該温度値に直接に機能的に関連して測定可能な量に基づいてかつ関数として、可変翼(8)の位置を制御して、これにより、可変翼(8)の角度位置と共に変化する少なくとも1つの測定された圧力値(P_(cd))が、前記第1の温度(T_(amb))の関数である所定の目標圧力となるようにすることを特徴とする、ベース負荷及び/又は高部分負荷においてガスタービンエンジンシステム(1)を運転する方法。」

3 刊行物
ア 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-156086号公報(以下、「刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア) 「【0001】
本発明は、圧縮機からの圧縮空気をエネルギとしてエンジン外部に取り出す抽気型のガスタービンエンジンの制御装置に関する。

【0003】
さらに、ガスタービンエンジンには、エンジンの性能を向上させるために、コンプレッサの入口流路に可変入口案内翼(VIGV[Variable Inlet Guide Vane])を設けたものがある。可変入口案内翼は、コンプレッサの容量を変化させ、コンプレッサの流量特性を可変にするデバイスである。

【0006】
本発明に係るガスタービンエンジンの制御装置は、圧縮機の入口流路に設けられた可変入口案内翼で流量が調整された空気を圧縮機に流入させ、圧縮機で圧縮した空気を燃焼器に流入させるとともにエネルギとして取り出し、燃焼器における燃焼ガスによってタービンを回転させるガスタービンエンジンの制御装置であって、可変入口案内翼の角度に応じて可変入口案内翼の基準角度における圧縮機の過給空気流量を補正することを特徴とする。」(段落【0001】ないし【0006】)
(イ) 「【0013】
図1?図3を参照して、ガスタービンエンジンシステム1について説明する。図1は、本実施の形態に係るガスタービンエンジンシステムの構成図である。図2は、図1のガスタービンエンジンの模式図である。図3は、図1の負荷装置の一例である。
【0014】
ガスタービンエンジンシステム1では、エンジン制御ECU2によってガスタービンエンジン3を燃焼制御するとともに放風制御弁4及び可変入口案内翼18を駆動制御する。そして、ガスタービンエンジンシステム1では、ガスタービンエンジン3で生成した圧縮空気をエンジン外部に取り出して利用するとともにエンジン内での燃焼に利用する。また、ガスタービンエンジンシステム1では、負荷制御ECU5によって複数の流量制御弁6,・・・を駆動制御する。そして、ガスタービンエンジンシステム1では、各流量制御弁6,・・・で調整された圧縮空気によって複数の負荷装置7,・・・を駆動する。例えば、このガスタービンエンジンシステム1は、垂直離着陸機に適用される。
【0015】
ガスタービンエンジン3は、コンプレッサ(圧縮機)10、燃焼器11、タービン12を備えており、コンプレッサ10とタービン12とが回転軸13によって連結されている。コンプレッサ10では、回転軸13の回転によって回転駆動して空気を取り込み、その取り込んだ空気を圧縮する。この高温高圧の圧縮空気は、内部配管14を介して燃焼器11に供給されるとともに、抽気配管15を介して外部に取り出される。この抽気配管15は、放風制御弁4側の排気用配管15aと負荷装置7側の負荷用配管15bに分岐する。燃焼器11では、コンプレッサ10から圧縮空気が供給されるとともに燃料噴射装置16から燃料が供給され、圧縮空気と燃料が混合して燃焼する。この高温高圧の燃焼ガスは、内部配管17を介してタービン12に供給される。タービン12では、供給された燃焼ガスによって回転駆動して回転軸13を回転させ、燃焼ガスを排気する。燃料噴射装置16は、燃焼器11に設けられ、エンジン制御ECU2からの燃料制御信号を受信し、燃料制御信号に応じて燃料を燃焼器11内に噴射する。
【0016】
さらに、ガスタービンエンジン3は、可変入口案内翼18を備えている。可変入口案内翼18は、コンプレッサ10に空気を取り込むための円筒状の入口配管19内に配置され、入口配管19の全周にわたって等間隔で多数の案内翼を有している。可変入口案内翼18は、アクチュエータ18aによって案内翼の角度が変化する。可変入口案内翼18の角度が0°(基準角度に相当)の場合に入口配管19が全開状態となり、可変入口案内翼18の角度が大きくなるほど入口配管19が閉じてゆく。可変入口案内翼18の角度は、実用上、60°程度まで変化する。アクチュエータ18aは、エンジン制御ECU2から案内翼制御信号を受信し、その案内翼制御信号に応じて駆動する。アクチュエータ18aのモータには位置センサが設けられ、この位置センサの検出値から可変入口案内翼18の角度を算出できる。
【0017】
ガスタービンエンジン3及びその周辺には、エンジン制御ECU2での制御に必要な各種状態量を検出するために、各種センサ(図示せず)が設けられている。例えば、大気温度T0(コンプレッサ10に吸気される空気の温度)を検出するための温度センサ、大気圧力P0(コンプレッサ10に吸気される空気の圧力)を検出するための圧力センサ、コンプレッサ10の出口圧力(燃焼器11の入口圧力)P3を検出するための圧力センサ、燃焼器11の入口空気温度(コンプレッサ10の出口空気温度)T3を検出するための温度センサ、回転軸13の回転数(エンジン回転数)Nを検出するための回転数センサがある。
【0018】
放風制御弁4は、コンプレッサ10からの圧縮空気を大気中に排気する量を調整し、コンプレッサ10から外部に取り出される圧縮空気の量(抽気流量)を調整するための制御弁である。この放風制御弁4による調整によって、負荷装置7側で使用する抽気流量に対してガスタービンエンジン3側から見た抽気流量を最適化する。放風制御弁4は、排気用配管15aの下流端に設けられる。放風制御弁4は、電動モータなどからなるアクチュエータを備えており、アクチュエータによって弁の開度が変化する。放風制御弁4では、エンジン制御ECU2から抽気流量制御信号を受信し、その抽気流量制御信号に応じてアクチュエータが駆動して弁が開閉する。
【0019】
流量制御弁6は、複数の負荷装置7に対してそれぞれ設けられ、負荷装置7に供給する圧縮空気流量を調整するための制御弁である。流量制御弁6は、分岐配管15cの中間部に設けられる。分岐配管15cは、負荷用配管15bから分岐された配管であり、負荷装置7の数に応じた数分ある。流量制御弁6は、電動モータなどからなるアクチュエータを備えており、アクチュエータによって弁の開度が変化する。流量制御弁6では、負荷制御ECU5から負荷流量制御信号を受信し、その負荷流量制御信号に応じてアクチュエータが駆動して弁が開閉する。
【0020】
負荷装置7は、分岐配管15cの下流端に設けられ、高温高圧の圧縮空気をエネルギとして利用することが可能な負荷装置である。例えば、垂直離着陸機の場合、機体に対して垂直方向に推力を発生する推力発生用ファン20に適用され、前後左右に複数個配備される。推力発生用ファン20は、図3に示すように、タービン21、減速機22、プロペラ23を備えている。供給された圧縮空気は、タービン21に導入されて膨張する。タービン21は、圧縮空気が膨張したときに発生するエネルギによって回転駆動する。そのタービン21の回転駆動力は、減速機22によって所定の減速比で減速され、プロペラ23に伝達される。この減速された回転駆動力によって、プロペラ23は、高速回転する。このプロペラ23の回転によって機体下方への空気流が発生し、機体に対して垂直方向に推力が発生する。
【0021】
負荷制御ECU5は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[ReadOnly Memory]、RAM[Random Access Memory]などからなり、負荷装置7の駆動を制御する電子制御ユニットである。負荷制御ECU5には、制御に必要な状態量を検出するための各種センサ(図示せず)からの検出信号が取り入れられる。例えば、垂直離着陸機に適用される場合、垂直離着陸機のパイロットによって入力される要求推力を検出するセンサからの検出信号(スロットル信号など)、機体の姿勢を検出するためのセンサからの検出信号(ジャイロ信号など)である。負荷制御ECU5では、各検出信号に基づいて各負荷装置7に発生させる目標推力をそれぞれ設定し、その各目標推力とするための各流量制御弁6の目標開度(すなわち、目標空気流量)をそれぞれ設定する。さらに、負荷制御ECU5では、その目標開度とするための負荷流量制御信号をそれぞれ生成し、各負荷流量制御信号を対応する流量制御弁6にそれぞれ送信する。また、負荷制御ECU5では、目標推力に基づいて要求出力を設定し、その要求出力を示す要求出力信号をエンジン制御ECU2に送信する。なお、負荷制御ECU5のROMには目標推力などを設定するための各種マップ又は関数が記憶されている。
【0022】
エンジン制御ECU2は、CPU、ROM、RAMなどからなり、ガスタービンエンジン3の燃焼及び抽気流量などを制御する電子制御ユニットである。エンジン制御ECU2には、上記した各種センサからの検出信号が取り入れられる。そして、エンジン制御ECU2では、負荷制御ECU5からの要求出力信号及び各検出信号に基づいて燃焼器11に供給する燃料流量を設定する。さらに、エンジン制御ECU2では、その燃料流量とするための燃料制御信号を設定し、その燃料制御信号を燃料噴射装置16に送信する。また、エンジン制御ECU2では、各検出信号に基づいて放風制御弁4の目標開度を設定する。さらに、エンジン制御ECU2では、その目標開度とするための抽気流量制御信号を生成し、抽気流量制御信号を放風制御弁4に送信する。また、エンジン制御ECU2では、エンジン状態などに基づいて可変入口案内翼18の目標角度を設定する。さらに、エンジン制御ECU2では、その目標開度とするための案内翼制御信号を生成し、案内翼制御信号をアクチュエータ18aに送信する。例えば、エンジン始動時や加速時にはコンプレッサ10の作動点がサージ領域に入り易くなるので、サージ領域を低流量側に移動させるために可変入口案内翼18の角度を大きくする。なお、エンジン制御ECU2のROMには流量、補正係数などを設定するための各種マップ又は関数が記憶されている。
【0023】
特に、ガスタービンエンジンシステム1では、負荷装置7のエネルギ源となる高温高圧の圧縮空気をガスタービンエンジン3の過給空気を利用するので、ガスタービンエンジン3によって負荷側で要求する空気流量を安定して供給する必要がある。このように安定して圧縮空気を供給するために、エンジン制御ECU2によってガスタービンエンジン3を最適制御する必要がある。そのために、エンジン制御ECU2では、燃焼器空気流量検出処理、抽気流量検出処理を行う。」(段落【0013】ないし【0023】)
(ウ) 「【0044】
図7には、横軸を修正全空気流量とし、縦軸を圧力比(=コンプレッサ出口空気圧力P3/大気圧力P0)として、各修正回転数におけるコンプレッサマップを示している。図7において、θ=大気温度T0/標準大気温度であり、δ=大気圧力P0/標準大気圧力であり、Nはエンジン回転数である。修正回転数はθを用いてエンジン回転数を無次元化したものであり、横軸の修正全空気流量はθとδを用いて全空気流量Ga_tを無次元化したものであり、縦軸の圧力比も無次元である。このように無次元にするのは、大気温度T0や大気圧力P0が変化すれば、空気の密度が変化し、コンプレッサ特性が変わるので、大気温度T0や大気圧力P0が変化してもコンプレッサ特性が変わらないようにするためである。また、図7において、斜線で示す領域はコンプレッサのサージングが発生する領域であり、コンプレッサのサージングを回避するようにガスタービンエンジンを運転する必要がある。このコンプレッサマップは、実験などによって予め設定される。なお、図7に示すコンプレッサ特性は、可変入口案内翼が基準角度である0°の場合(全開状態)のときの基本特性である。」(段落【0044】)
(エ) 「【0063】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0064】
例えば、本実施の形態ではガスタービンエンジンシステムとして一基の一軸式のガスタービンエンジンを用いて垂直離着陸機に適用する例を示したが、複数のガスタービンエンジンによって構成されるシステムにも適用可能であり、複数の軸式のガスタービンエンジンにも適用可能であり、1つの負荷装置しか備えないシステムにも適用可能であり、抽気した圧縮空気をエネルギとして利用する様々な他の負荷装置に適用可能である。」(段落【0063】及び【0064】)

イ 刊行物発明
上記アの記載及び図面の記載を総合すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。
<刊行物発明>
「ガスタービンエンジンシステム1を運転する方法において、該ガスタービンエンジンシステム1が、
ガスタービンエンジン3を有しており、該ガスタービンエンジン3に、
コンプレッサ10に空気を取り込むための円筒状の入口配管19内に配置され、入口配管19の全周にわたって等間隔で配置された多数の案内翼を有する可変入口案内翼18を備えたコンプレッサ10と、
燃焼器11と、
タービン12と、が設けられており、
エンジン制御ECU2を有しており、該エンジン制御ECU2は、エンジン状態などに基づいて可変入口案内翼18の目標角度を設定し、
エンジン制御ECU2での制御に必要な状態量を検出するために、例えば、大気温度T0(コンプレッサ10に吸気される空気の温度)を検出するための温度センサ、大気圧力P0(コンプレッサ10に吸気される空気の圧力)を検出するための圧力センサ、コンプレッサ10の出口圧力(燃焼器11の入口圧力)P3を検出するための圧力センサ、燃焼器11の入口空気温度(コンプレッサ10の出口空気温度)T3を検出するための温度センサ、回転軸13の回転数(エンジン回転数)Nを検出するための回転数センサが設けられている、ガスタービンエンジンシステム1を運転する方法。」

4 対比・判断
本願発明と刊行物発明とを対比すると、後者における「コンプレッサ10」は前者における「圧縮機」に相当し、同様に、「可変入口案内翼18」は「調整可能な可変翼」に、「コンプレッサ10に空気を取り込むための円筒状の入口配管19内に配置され、入口配管19の全周にわたって等間隔で配置された多数の案内翼を有する可変入口案内翼18」は「入口空気質量流を制御するための少なくとも1つの列の調整可能な可変翼」に、「エンジン制御ECU2」は「制御システム」に、「可変入口案内翼18の目標角度を設定」することは「可変翼の位置を制御」することに、それぞれ相当する。
以上から、本願発明の用語に倣って整理すると、本願発明と刊行物発明とは、
「ガスタービンエンジンシステムを運転する方法において、該ガスタービンエンジンシステムが、
ガスタービンエンジンを有しており、該ガスタービンエンジンに、
入口空気質量流を制御するための少なくとも1つの列の調整可能な可変翼を備えた少なくとも1つの圧縮機と、
少なくとも1つの燃焼器と、
少なくとも1つのタービンと、が設けられており、
制御システムを有しており、該制御システムが、
可変翼の位置を制御する、ガスタービンエンジンシステムを運転する方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本願発明においては、「ベース負荷及び/又は高部分負荷においてガスタービンエンジンシステム(1)を運転する方法」であって、「制御システム(10)を有しており、該制御システム(10)が、圧縮機(5)の上流において測定された少なくとも1つの測定された温度値(T_(amb))又は当該温度値に直接に機能的に関連して測定可能な量に基づいてかつ関数として、可変翼(8)の位置を制御して、これにより、可変翼(8)の角度位置と共に変化する少なくとも1つの測定された圧力値(P_(cd))が、前記第1の温度(T_(amb))の関数である所定の目標圧力となるようにする」のに対し、
刊行物発明においては、「ガスタービンエンジンシステム1を運転する方法」であって、「エンジン制御ECU2を有しており、該エンジン制御ECU2は、エンジン状態などに基づいて可変入口案内翼18の目標角度を設定」する点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。
まず、ガスタービンエンジンは、その型式・用途等を問わず、一般に、少なくともある時間にわたって所定の負荷において運転されるものであり、そのことは、刊行物発明のガスタービンエンジン3においても何ら異なるものではない。その所定の負荷は、定常・定格運転や部分負荷運転など種々の運転状況等に応じて変わり得るが、ベース負荷ないし高部分負荷において運転することは普通にみられる運転状況であって、特別なものではない。
次に、本願発明の「圧縮機(5)の上流において測定された少なくとも1つの測定された温度値(T_(amb))又は当該温度値に直接に機能的に関連して測定可能な量に基づいてかつ関数として、可変翼(8)の位置を制御して、これにより、・・・」における「圧縮機の上流において測定された・・・温度値(T_(amb))」に関して、本願明細書の特に、段落【0026】には、該温度値の一例としてガスタービンの周囲空気温度や圧縮機入口空気温度が挙げられている(さらに本願明細書の段落【0045】及び図1参照。)。一方、刊行物発明は、エンジン制御ECU2により、エンジン状態などに基づいて可変入口案内翼18の目標角度を設定するものであり、該「エンジン状態など」がガスタービンの周囲空気温度や圧縮機入口空気温度を含むかどうかは必ずしも明らかではないが、空気流量(質量流量)ないし圧力比がガスタービンの周囲空気温度(特に、大気温度)や圧縮機入口空気温度に依存することは、例えば刊行物(特に、段落【0044】)に示されているように技術常識であり、このような依存関係等を考慮して、刊行物発明等のガスタービンエンジンにおいては一般に、圧縮機の入口案内翼や初段静翼を所定の角度に設定する場合、ガスタービンエンジンの周囲空気温度ないし圧縮機入口空気温度に基づいて制御している。そのような技術(以下、「周知技術」という。)は、例えば、特開2003-120325号公報(特に、段落【0008】。なお、図2(b)の横軸の修正コンプレッサ速度が大気温度等により無次元化されたものであって大気温度の関数であることは、例えば刊行物の段落【0044】に記載されているように常識である。)、特開昭60-222531号公報(特に、第2ページ左上欄第18行ないし右上欄第12行及び第3ページ左上欄第19行ないし右上欄第7行)、特開平8-82228号公報(特に、段落【0037】及び【0040】)に記載されているように広く知られており、特別な技術ではない。そして、刊行物発明におけるガスタービンエンジン3においても、その周囲空気温度ないし圧縮機入口空気温度に基づいて可変入口案内翼18の角度を制御することが望ましいことに何ら変わりはなく、刊行物発明に周知技術を適用することは適宜なし得ることである。また、刊行物発明は、エンジン制御ECU2での制御に必要な状態量を検出するために、例えば、大気温度T0(コンプレッサ10に吸気される空気の温度)を検出するための温度センサを設けていることから、「エンジン状態など」として例えば大気温度、すなわちガスタービンエンジン3の周囲空気温度ないし圧縮機入口空気温度を用いることは、当業者であれば容易に想到できたことである。
また、本願発明の「・・・これにより、可変翼(8)の角度位置と共に変化する少なくとも1つの測定された圧力値(P_(cd))が、前記第1の温度(T_(amb))の関数である所定の目標圧力となるようにする」における「可変翼の角度位置と共に変化する・・・圧力値(P_(cd))」に関して、本願明細書の特に、段落【0027】には、該圧力値の一例として圧縮機の下流のプレナムにおける圧力が挙げられている(さらに本願明細書の段落【0045】及び図1参照。)。このことからみて、刊行物発明において、可変入口案内翼18の角度に応じてコンプレッサ10の空気流量が所定の関係で変化し、かつ該空気流量に応じて圧力比(特に、コンプレッサ出口圧力/コンプレッサ入口圧力)が所定の関係で変化することは、刊行物(特に、段落【0003】、【0006】及び【0010】並びに図7)に示されているとともに当然の物理的因果であって、その程度のことは当業者に自明である。してみると、刊行物発明において可変入口案内翼18の角度を制御することは、コンプレッサ10の圧力比ないし出口圧力を制御することと実質的に同等であるといえる。
以上を総合すると、刊行物発明に周知技術を適用して、可変入口案内翼18(可変翼)の角度(位置)を、ガスタービンエンジン3の周囲空気温度や圧縮機入口空気温度に基づいて(すなわち、その関数として)制御して、これにより、可変入口案内翼18の角度と共に変化するコンプレッサ出口圧力が、ガスタービンエンジン3の周囲空気温度や圧縮機入口空気温度の関数である所定の値(すなわち、所定の目標圧力)になるように構成し、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
そして、本願発明は、全体としてみても、刊行物発明及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

なお、本願明細書には、課題解決手段等に関して、例えば、「【0021】本発明は、時間が経過するに従って予測不可能な組成変動を特徴とする燃料を用いた運転において、特に、主燃料として溶鉱炉ガスを用いる又は低位発熱量の低い平均値又はその組成におけるH_(2)及びCOの高い可変の量を特徴とするその他の燃料を用いる用途において、1つのガスタービン構成部材の最適なサイジングに関連したより高い平均電力出力及び/又はより低いコストを提供する。本発明による制御が用いられる場合、燃料の組成及び/又はエネルギ量の変化を補償するために燃料のこのような複雑な混合は必要とされない。実際には、可変翼の列の下流の測定圧力が、圧縮機の上流の温度に基づいて目標圧力値に制御されるならば、使用燃料から本質的に独立した、可変翼の列の下流の測定圧力の制御が可能であることが分かったのは驚くべきことである。【0022】本発明による制御方法を使用することにより、使用燃料組成が、その燃料のための設計組成のために使用される範囲から外れて変動したとしても、この制御システムがそれを自動的に検出し、結果を分析した後に可変翼設定を自動的に再規定し、ガスタービンエンジンの停止後に可変翼設定の手作業での再規定は必要とされない。したがって、本質的に制御システムは特定の燃料組成から独立して作用するが、制御システムは、燃料組成の決定を必要とすることなく、それを間接的に考慮する。」(段落【0021】及び【0022】)と記載されている。
しかし、少なくとも、方法に係る発明の最上位の請求項である請求項1及びシステムに係る発明の最上位の請求項である請求項10には、主燃料として、その組成が時間的に変動する溶鉱炉ガス等を用いるという請求人が主張する「本発明」の「特徴」については何ら記載されておらず、例えばそのような主燃料の組成の(予測不可能な)時間的変動と圧縮機上流の温度(例えばガスタービンの周囲空気温度や圧縮機入口空気温度)の変動とがどのように関連するのか、特に説明がないとともに、主燃料の組成の時間的変動と圧縮機上流の温度(例えばガスタービンの周囲空気温度や圧縮機入口空気温度)の変動とが連関する(少なくとも、明確に、ないし有意的に連関する)とは考えられず、したがって、本願の請求項1に記載されているように、圧縮機上流の温度(例えばガスタービンの周囲空気温度や圧縮機入口空気温度)に基づいてかつ関数として、可変翼の位置を制御して、これにより、可変翼の角度位置と共に変化する圧力値(P_(cd))が、前記温度の関数である所定の目標圧力となるようにすることによって、どのようにして、主燃料の組成の(予測不可能な)時間的変動に起因する出力等の変動を補償できるのか、不明であるといわざるを得ない。これに関して、本願明細書には、「【0047】・・・。このスケジュールにおいて、圧縮機排出圧力(P_(cd))の目標値は、測定された入口圧力(T_(amb))とシャフト回転速度(n)とに関して決定される。・・・」との記載がみられるが、本願の請求項1にはシャフト回転速度についての記載はなく、したがって本願発明においては、シャフト
回転速度を考慮するかどうかは任意的である。本願の請求項10には、シャフトの速度について言及されているが、請求項10の「好適にはロータシャフト速度(n)を測定する別の測定装置(11)とが設けられており、前記制御システムが、温度(T_(amb))及び/又はロータシャフト速度(n)に関して圧力値(P_(cd))を所定の圧力値に制御する」の記載(特に、「好適には」、「及び/又は」の記載)から了解されるように、シャフトの速度を考慮しない発明を許容ないし包含しており、シャフトの速度を考慮することが特定されているわけではない。さらにいえば、圧縮機入口空気温度(圧縮機入口圧力に連関して求められる)とシャフト回転速度とに基づいて圧縮機出口圧力が決められることは、例えば、刊行物(特に、図7)、特開平8-82228号公報(特に、図3及び図6)に記載されており、シャフトの速度を考慮することは、特別なことではない。
また、念のため付言すると、請求人が審判請求書(特に、「(b)引用文献に記載された発明の説明」の欄)において指摘するとおり、刊行物には特に抽気型のガスタービンエンジンについて記載されている。しかし、本願発明においてはガスタービンエンジンの型式や用途については特に記載されておらず任意的であるが、それはひとまず措くとして、刊行物等の特許文献には、通常、当該発明者が「発明」であるとする事項以外に従来技術や一般的技術・関連技術等、階層的に広狭さまざまな技術事項が開示されており、その中から、本願発明と対比すべき発明を、本願発明の特定事項等との関係において適切に把握し認定することを要し、かつそれで足りるのであって、刊行物発明はそのようにして認定された発明にほかならない。そして、以上に述べた刊行物発明のガスタービンエンジン3に関する技術事項及び検討内容は特に抽気型に固有のものではなく、抽気型や軸出力型を含めてガスタービンエンジン一般について妥当するものであることはいうまでもない。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 結語
以上に述べたとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-15 
結審通知日 2016-01-18 
審決日 2016-02-18 
出願番号 特願2010-163594(P2010-163594)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 弘  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 伊藤 元人
金澤 俊郎
発明の名称 ガスタービンエンジンの制御のための方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  

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