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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H04M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04M
管理番号 1316878
審判番号 不服2014-13172  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-07 
確定日 2016-08-05 
事件の表示 特願2010-538356「モバイルネットワークを介したテレマティクスサービスの提供」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 2日国際公開,WO2009/080076,平成23年 3月17日国内公表,特表2011-509001,請求項の数(11)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2007年12月20日を国際出願日とする出願であって,平成24年10月11日付けで拒絶理由が通知され,平成25年1月28日付けで手続補正がされ,同年4月22日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年10月25日付けで手続補正がされ,平成26年2月27日付けで補正の却下の決定がされるとともに同日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年7月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正がされ,その後,当審において平成27年5月20日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由1」という。)が通知され,同年11月25日付けで手続補正がされ,平成28年1月7日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由2」という。)が通知され,同年6月13日付けで手続補正がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1-11に係る発明は,平成28年6月13日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定されるものと認められる。
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「アプリケーションサーバー及びユーザーターミナルを含む通信システムを制御する方法であって,
前記ユーザーターミナルが,前記ユーザーターミナルと車両のターミナルデバイスとの間のローカル通信接続の確立に基づいて,当該ユーザーターミナルが前記車両内に存在するか否かを示す設定情報を決定するステップと,
前記ユーザーターミナルが,モバイルネットワークの無線インターフェースを介してアプリケーションサーバーへ前記設定情報を送信するステップと,
前記アプリケーションサーバーが,前記ユーザーターミナルが前記車両内に存在することを前記設定情報が示している場合は,前記アプリケーションサーバーが提供する車両テレマティクスサービスにおいて前記ユーザーターミナルのロケーションを検討するように制御し,前記ユーザーターミナルが前記車両内に存在しないことを前記設定情報が示している場合は,該車両テレマティクスサービスにおいて前記ユーザーターミナルのロケーションの検討を解除するように制御するステップと
を備えることを特徴とする方法。」


第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項:1-23
・引用文献:1-4
・備考:
引用文献1には,ナビゲーション装置と携帯情報端末(本願発明における「ユーザーターミナル」に相当する)とが無線通信により接続され,携帯情報端末の車内から車外への移動又は車外から車内への移動が検出されると,前記携帯情報端末は情報センタ(本願発明における「アプリケーションサーバー」に相当する)に対し,必要な情報を送信することで,車内及び車外における前記情報センタによる経路案内を行えるようにすることが記載されている(特に,【0016】,【0141】-【0155】段落を参照)。
引用文献2には,携帯電話において,自動車内のECUに接続されたことを認識して使用者が自動車に乗車中であること(本願発明における「設定情報」に相当する)を制御管理サーバ(本願発明における「アプリケーションサーバー」に相当する)に送信することが記載されている(特に,【0035】,【0044】段落を参照)。
引用文献1に記載発明は,ユーザーターミナルが設置されている環境の環境設定に応じたサービスを行うものであるところ,引用文献2に記載発明を適用し,アプリケーションサーバーがユーザーターミナルが車内に存在するか車外に存在するかの情報を受信するようにすることは,当業者であれば容易になし得たことである。
なお,サーバーに送信する情報として,車両環境等の情報があること,サーバーにおいて,ユーザーターミナルに対する位置サービスや車両テレマティクスサービスを実施することは周知技術である(例えば引用文献3の特に,【0053】,【0057】-【0061】,【0076】-【0095】,【0145】段落,引用文献4を参照)。
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2003-240588号公報
2.特開2006-277572号公報
3.特開2004-029001号公報
4.特表2007-521712号公報

2 原査定の理由の判断
(1)刊行物の記載事項
刊行物1(特開2003-240588号公報)には,以下の事項が記載されている。
ア 「【0016】(2)第1実施形態の詳細
図1は第1実施形態にかかるナビゲーションシステムの構成を表したものである。この図1に示されるように本実施形態のナビゲーションシステムは,情報センタ10と,移動側の車両Vに搭載される車載装置であるナビゲーション装置100と,ナビゲーション装置100のユーザが携帯してナビゲーション装置100の機能を補助するための携帯情報端末(PDA)200とによって構成される。情報センタ10とナビゲーション装置100との間では無線を利用した通信が行われ,その通信形態は主としてパケット通信によるが,ナビゲーション装置100によっては回線交換による場合も存在する。一方,ナビゲーション装置100と携帯情報端末200間は,携帯情報端末が車両外にある場合には主として回線交換又はパケット通信により接続され,車両内にあるときは赤外線通信,SS(スペクトラム拡散)通信等の無線通信,又はシリアル通信,パラレル通信等の有線通信により接続される。」(6ページ)

イ 「【0141】(7)第6実施形態 次に第6実施形態について説明する。この第6実施形態では,例えば,情報センタ10が地点検索,経路検索および旅行スケジュール設定等を行い,ユーザは目的地近辺の駐車場等へ車載したナビゲーション装置100の案内によって移動し,そこから携帯情報端末200を利用して目的地まで案内するシステム(シームレスナビゲーションシステム)に適用される。第1実施形態から第5実施形態及び各変形例では,ナビゲーション装置100との間で携帯情報端末200を無線又は有線により接続して使用する場合について説明したが,第6実施形態では,これら各実施形態及び変形例において,ユーザが携帯情報端末200と共に車外へ移動する場合に,必要なデータを携帯情報端末200に送信し忘れることによる不具合を解消するようにしたものである。
【0142】この第6実施形態におけるナビゲーション装置100は,携帯情報端末200との無線又は有線による通信装置,および,携帯情報端末200の位置を補足する位置補足装置(位置補足手段)を備えている。携帯情報端末200は,様々な情報を表示するWebブラウザソフト,ナビゲーション装置100との通信装置,および,携帯電話等の移動体通信により情報センタ10とナビゲーション装置10間の通信を媒介する通信制御部208を備えている。
【0143】図29は第6実施形態におけるナビゲーション装置100が携帯情報端末200の位置を補足する処理動作を表したフローチャートである。ナビゲーション装置100の演算処理部101は,携帯端末を監視し(ステップ201),携帯情報端末200が車内から車外に移動するところか否かを判断する(ステップ202)。すなわち,携帯情報端末200が赤外線通信等により無線接続される場合,ナビゲーション装置100の演算処理装置101は,携帯情報端末200と定期的に位置確認用のデータをやり取りすることによって,携帯情報端末200の距離を算出し,あらかじめ決められた一定の距離よりも離れたとき「車外へ移動する」と認識する。この位置確認用のデータとしては,双方がそれぞれを識別するためも識別コードを含んだデータが送受信され,その電波(赤外線)の強度,又は強度の変化量等によって携帯情報端末200の距離が算出される。なお,識別コードの他に,電界強度やエラーレートをやり取りするようにしてもよく,詳細なデータフォーマットは,両者間で使用するデータ通信規格に準ずることになる。また携帯情報端末200が充電または給電のためにナビゲーション装置100と有線で接続されている場合,ナビゲーション装置100の演算処理部は,その有線接続が解除されたことを検出することによって「車外へ移動する」と認識する。
【0144】携帯情報端末200の車内から車外への移動が検出されると(ステップ202;Y),演算処理部101は,位置計測部104から現在位置を取得し(ステップ203),携帯情報端末200に特定データを送信して(ステップ204),制御プログラム154によるメインルーチンにリターンする。ここでナビゲーション装置100は,特定データとして,車両現在位置,又は車両現在位置と車両現在位置の地図データ,等を携帯情報端末200に無線により送信する。なお,ユーザの選択操作又は予め設定されたオプション設定に応じて,携帯情報端末200を通じて情報センタ200にも車両現在位置を送信するようにしてもよい。
【0145】このように携帯情報端末200は,必ず車両現在位置を自動的に取得してデータ格納領域に格納するので,例えば,第1実施形態に本実施形態を適用することで,情報センタ10とナビゲーション装置100とが通信できない場合に必ず車両現在位置が携帯情報端末200に格納されるので,ユーザは通信可能な場所まで到達した後に情報センタ10に車両現在位置等を送信できないという不都合が回避される。また,車両から離れる場合に必ず車両現在位置が自動的に携帯情報端末200に格納されるので,車両から離れた後に,車両までの非車両モードでの移動経路検索を情報センタ10に要求する場合に,格納済みの車両現在位置を非車両モード移動経路検索の最終目的地として情報センタ100に送信することができ,不案内な土地であっても安心して車両から離れることができる。携帯情報端末200から情報センタ10に送信する現在位置は,現在いる場合の施設名称や電話番号,住所等により設定する。
【0146】以上説明したように第6実施形態によれば,ユーザの特別な操作なしに現在の車両現在位置を携帯情報端末200へ自動的に無線を利用して転送することにより,ユーザによるデータ転送の操作負担を軽減することができる。また,有線接続で起こりがちな,データを転送する前に接続を解除してしまいデータの転送を行うことができくなることが防止される。
【0147】以上説明した第6実施形態では,次のように構成することが可能である。
(A)車載装置と携帯情報端末を備え,前記車載装置は,前記携帯情報端末が車内から車外へ移動しようとしているか否かを判定する判定手段と,前記判定手段により,前記携帯情報端末が車内から車外へ移動しようとしていると判定された場合に,前記携帯情報端末に対して特定のデータを送信する送信手段を備え,前記携帯情報端末は,記憶装置と,前記送信手段により送信される特定のデータを受信し,前記記憶装置に格納する受信手段を備えることを特徴とする車両データ処理システム。
(B)前記判定手段は,前記携帯情報端末と車両との距離が閾値を越えた場合に,携帯情報端末が車内から車外へ移動しようとしていると判定することを特徴とする(A)に記載の車両データ処理システム。
(C)前記判定手段は,前記携帯情報端末と車両とが給電用ケーブル又はデータ通信用ケーブルで接続されている場合に,該ケーブルによる接続が解除されたことにより,前記携帯情報端末が車内から車外へ移動しようとしていると判定することを特徴とする(A)に記載の車両データ処理システム。
(D)前記携帯情報端末は,前記受信手段によって前記記憶装置に格納されたデータを利用して,特定の処理を実行する処理手段を備えることを特徴とする(A),(B),又は(C)に記載の車両データ処理システム。
(E)前記特定のデータは,車両位置データであり,前記特定の処理は,携帯情報端末の画面に地図と併せて車両位置を表示することを特徴とする(D)に記載の車両データ処理システム。
【0148】(F)前記携帯情報端末が車内から車外へ移動しようとしているか否かを判定する判定手段と,前記判定手段により,前記携帯情報端末が車内から車外へ移動しようとしていると判定された場合に,前記携帯情報端末に対して特定のデータを送信する送信手段を備えることを特徴とする車載データ処理装置。車載データ処理装置としては,例えば,ナビゲーション装置が適用される。
(G)前記判定手段は,前記携帯情報端末と車両との距離が閾値を越えた場合に,携帯情報端末が車内から車外へ移動しようとしていると判定することを特徴とする(F)に記載の車載データ処理装置。
(H)前記判定手段は,前記携帯情報端末と車両とが給電用ケーブル又はデータ通信用ケーブルで接続されている場合に,該ケーブルによる接続が解除されたことにより,前記携帯情報端末が車内から車外へ移動しようとしていると判定することを特徴とする(F)に記載の車載データ処理装置。
(I)前記特定のデータは,車両位置データであることを特徴とする,(F), (G)又は(H)に記載の車載データ処理装置。
【0149】(J)記憶装置と,車内から車外へ移動する際に車載データ送信装置から送信される特定データを受信し,前記記憶装置に格納する受信手段を備えることを特徴とする携帯情報端末。
(K)前記受信手段によって前記記憶装置に格納されたデータを利用して,特定の処理を実行する処理手段を備えることを特徴とする(J)に記載の携帯情報端末。
(L)前記特定の処理は,携帯情報端末の画面に地図と併せて車両位置を表示することを特徴とする(K)に記載の携帯情報端末。
【0150】(8)第7実施形態
次に第7実施形態について説明する。この第7実施形態は,例えば,情報センタ10が地点検索,経路検索および旅行スケジュール設定等を行い,ユーザは目的地近辺の駐車場等へ車載したナビゲーション装置100の案内によって移動し,そこから携帯情報端末200を利用して目的地まで案内するシステム(シームレスナビゲーションシステム)に適用される。第1実施形態ではイグニッションオンによりナビゲーション装置100が,予め設定された目的地等のデータを情報センタ10から取得するように構成したが,この第7実施形態では,携帯情報端末200が車両外から車両内に移動しようとしていること,又は移動したことを検出し,情報センタ10に予め登録されている目的地データ等を自動的に取得するようにしたものである。
【0151】この第7実施形態におけるナビゲーション装置100は,携帯情報端末200との無線又は有線による通信装置,および,携帯情報端末200の位置を補足する位置補足装置(位置補足手段)を備えている。携帯情報端末200は,様々な情報を表示するWebブラウザソフト,ナビゲーション装置100との通信装置,および,携帯電話等の移動体通信により情報センタ10とナビゲーション装置10間の通信を媒介する通信制御部208を備えている。なお,本実施形態のナビゲーション装置100は,携帯情報端末200を介して情報センタ10と通信を行うようになっており,情報センタ10と単独で通信を行う通信制御部108を備えていない。
【0152】図30は,第7実施形態におけるナビゲーション装置100が携帯情報端末200の位置を補足する処理動作を表したフローチャートである。ナビゲーション装置100の演算処理部101は,携帯端末を監視し(ステップ211),携帯情報端末200が車外から車内に移動するところか否かを判断する(ステップ212)。すなわち,携帯情報端末200が赤外線通信等により無線接続される場合,ナビゲーション装置100の演算処理装置101は,携帯情報端末200と定期的に位置確認用のデータをやり取りすることによって,携帯情報端末200の距離を算出し,あらかじめ決められた一定の距離よりも近づいたとき「車内へ移動する」と認識する。この位置確認用のデータとしては,双方がそれぞれを識別するためも識別コードを含んだデータが送受信され,その電波(赤外線)の強度,又は強度の変化量等によって携帯情報端末200の距離が算出される。なお,識別コードの他に,電界強度やエラーレートをやり取りするようにしてもよく,詳細なデータフォーマットは,両者間で使用するデータ通信規格に準ずることになる。また携帯情報端末200が充電または給電のためにナビゲーション装置100と有線で接続されている場合,ナビゲーション装置100の演算処理部は,その有線接続が接続されたことを検出することによって「車内へ移動する」と認識する。
【0153】携帯情報端末200の車外から車内への移動が検出されると(ステップ212;Y),演算処理部101は,情報センタ10から設定済みの目的地情報を取得する(ステップ213)。すなわち,演算処理部101は,携帯情報端末200に設定済目的地情報を情報センタ10から取得するように依頼する。この依頼により携帯情報端末200が情報センタ10から設定済目的地情報を取得し,ナビゲーション装置100に送信する。ナビゲーション装置100の演算処理部101は,携帯情報端末200を介して情報センタ10から取得した設定済目的地情報をデータ格納領域102Bに格納して,メインルーチンにリターンする。
【0154】携帯情報端末200を介して情報センタ10から設定済目的地情報を取得したナビゲーション装置100は,車両現在位置から取得した目的地までの走行経路を探索し,走行案内を行う。
【0155】以上説明したように第7実施形態によれば,ユーザの特別な操作なしに,予め情報センタ10に設定され保存された目的情報を携帯情報端末200へ自動的に無線を利用して転送することによりユーザの目的地設定操作負担を軽減することができる。また,有線接続で起こりがちな,データ転送用ケーブル等の接続忘れ,接続ミス等によるデータの転送を行うことができなくなること等を防止することができる。更に,最も時間を要する通信が自動車に乗り込む際に行われるので,乗車後すぐにナビゲーション装置100による走行経路案内等を開始することができる。」(25?27ページ)

上記ア,イの記載によれば,刊行物1には,「ナビゲーション装置と携帯情報端末とが無線又は有線で接続され,携帯情報端末の車内から車外への移動又は車外から車内への移動が検出されると,前記携帯情報端末は情報センタに対し,必要な情報を送信することで,車内及び車外における前記情報センタによる経路案内を行えるようにする。」との発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

刊行物2(特開2006-277572号公報)には,以下の事項が記載されている。
ウ 「【0035】
携帯電話113の電源がONとなり(ステップ401),自動車へ乗る際に,携帯電話113がカーキット306経由,あるいは直接ECU120へ接続する。携帯電話113は,ECU120と接続されたことを認識し,携帯電話113の使用者が自動車に乗車中であることを,制御管理サーバ105へ送信する(ステップ403)。
(中略)
【0044】
ステップ410で得た認識結果を携帯電話113へ送信した制御管理サーバ105は,携帯電話113の半径Mm以内の他の携帯電話の存在を確認し(ステップ413),その結果を携帯電話113へ通知する。この通知内容としては,半径Mm以内に他の携帯電話が存在した場合にはその携帯電話の移動方向および移動速度,位置情報が含まれる。」(7,8ページ)

上記ウの記載によれば,刊行物2には,「携帯電話において,自動車内のECUに接続されたことを認識して使用者が自動車に乗車中であることを制御管理サーバに送信する。」との発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

刊行物3(特開2004-029001号公報)には,以下の事項が記載されている。
エ 「【0053】
図2のステップ200:VEHICLE(車両)が道路を走行中に,または,VEHICLE(車両)が駐車中に,イメージが図1のCAMERAS(カメラ)によってキャプチャされ,VEHICLE(車両)が,図1で示されるように,主要データに関連するイメージを有して,または,主要データに関するイメージを有さずに,SERVICE CENTER(サービススセンター)に主要データを送る。SERVICE CENTER(サービスセンター)は主要データを再検討し,対応するイメージが記憶装置(サービスステーションまたは他の車両)内に既に存在するか否かを決定し;現在受信されている主要データが,新しいイメージ,または,さらに最新のイメージを伴うことを示す場合には,処理がステップ205に移動する。そうでない場合には,処理はステップ210に移動する。
(中略)
【0057】
ステップ210では,イメージを表示するデータが,カメラから車両コンピュータ(図1のCOMPUTER)に送られる。車両コンピュータは,画像のデータパッケージと,関連する他のデータとを生成する。データパッケージまたはデータパケットは,イメージ;車両のGPS座標,または,車両位置に関する他の情報(たとえば,ナビゲーションシステムから検索される街路名および都市名)と;イメージがキャプチャされた時間と;目標物確認システムを使って引き出し可能なイメージ内の目標物名,たとえば,すぐ近くの建物,興味ある地点,および,ランドマーク(目印)と;イメージがキャプチャされたデータと;イメージがキャプチャされた期間と;イメージがキャプチャされた時における車両速度と;イメージがキャプチャされた時における車両方向と;イメージがキャプチャされた時におけるカメラの三次元方向と;車両周囲の環境の温度と;車両周囲の環境の湿度と;車両周囲の環境の気圧と;たとえば湿った,氷で覆われた,雪の積もった,および,でこぼこしたような道路状況と;たとえば雨,晴れ,日のよく照る,または,曇ったような天候状況と;他のセンサデータと;ドライバー,乗員,または車両のプロフィールとを含んでいる。
【0058】
図2のステップ210では,図1のCAMERAS(カメラ)が,あるイベント(たとえば,図2で後に言及するイベント,ステップ220およびステップ225)の発生時に使用するための静止イメージと動作イメージとをキャプチャする。ステップ230,ステップ240,およびステップ250の例より,さらに詳細なイベント例の一覧は次の通りである:最後のイメージを取り出してから指定時間期間が経過した時,たとえば30秒後(ステップ230);最後のイメージを取り出してから車両が指定距離を進んだ時,たとえば1マイルの4分の1の後(ステップ230);設定された時間期間内に,設定された角度より大きく車両が回転する時,たとえば,ハイウェイ上で合流する曲がり角,または,交差点で(ステップ230);目的地またはドライバーの目標に関係する標識または建物のような目標物認識を介して,ある通常環境の目標物が検知された時(ステップ230);道路の近くで特定位置に設定された目標物または送信器/再送信器のように,イメージおよびデータのキャプチャを稼動する目的で取付けられたある目標物または信号が検出される時(ステップ260);ある画像を取り出すように命令するサービスセンターからの信号を送信する時(ステップ240);車両のドライバー,乗客,または他の乗員が,イメージを取り出すように命令する時(ステップ260);ある画像を取り出すように命令する他の車両から信号が送信される時(ステップ240);センサシステムが,車両運転により車両または乗員にとっての危険を検出する時,たとえば,衝突時にまたは破壊のために,極度のブレーキング,加速,減速,急激なステアリング変更,または,車体への異常な衝撃を検出する時(ステップ250);ある危険な状況が車両の外部から検知される時,たとえば,道路上のちょうど前方の相対的に遅い対象物,または,任意の角度から車両経路にやって来る早い対象物から検知される時(ステップ250);車両への未知または望まないアクセス,または,車両への試みられたアクセスが,たとえば,キーを使用せずに施錠されたドアを開ける試み,キーを使用せずに車両を始動しようとする試み,または,車両周囲のエリアの侵入が検知された時(ステップ250)。
【0059】
図2におけるステップ210の強化として,上述のイベントの発生を決定するためのセンサを提供することに加えて,車両の乗員,所有者,または乗客以外の人に役立つデータを感知する複数のセンサ1?N(図1のSENSORS)がある。この環境センサは,車両速度,車両方向,車両位置,および,環境温度を検出する。生じた環境データは,車両コンピュータに送られる。センサは車両に組み込まれている。センサのコストはリーズナブル(相応)であり,センサ用技術は市場で利用可能である。
【0060】
図2のステップ215:車両GPSは車両の位置を自動的に決定し,イメージと一緒に,または,イメージと一緒でなく,車両位置をサービスセンターに定期的に送信する。
【0061】
図2のステップ220:車両コンピュータは,ステップ230,ステップ240,ステップ250およびステップ260におけるイベントの発生有無を調べる。1つのイベントも検出されない時に,処理は,車両コンピュータのためにステップ205に戻る(ステップ200がサービスセンターのコンピュータによって実行される)。1つのイベントが検出されると,処理はステップ225に進む。
(中略)
【0076】
図2のステップ265:車両は,その車両IDおよびリクエストイメージIDをサービスセンターまたは他の車両に直接的または間接的に送信する(ピアツーピア)。このピアツーピア送信は,他の車両に対するステップ240のイベントになるだろう。次に,通常通りに,車両はそのイメージを受信する。
【0077】
無線LAN(ピアツーピア送信)によって車両間の直接情報交換を行うことは,瞬時に変化する状況では,たとえば交通渋滞では有効である。ドライバーが交通渋滞の原因を,および,交通渋滞がどのくらい継続するのかを知りたい場合には,ドライバーは,道路上の前方を走る他の車両からイメージをリクエストし,利用可能なイメージを他の車両から直接的に受信,または,サービスセンターを介して受信する。
【0078】
図2のステップ270:イベントのイメージが表示される。ステップ270の後に,処理が車両のためにステップ205に戻る。
【0079】
サービスセンターで実行されるステップ200を除いて,車両は,図2の方法を実行する。
【0080】
サービスセンターは,サービスセンターで記憶されたイメージのディレクトリーと,サービスセンターで記憶されたイメージと,自動車で記憶されたイメージのディレクトリーと,イメージまたは位置に関連するデータと,イメージまたはデータの一方に関連する位置情報とを含むデータベースを管理する。イメージおよびデータの統計的な分析が実行および記憶される。
【0081】
情報リクエストに応答して,たとえば,図2のステップ260およびステップ265から,データベースにアクセスすることによってサービスセンターが最も適切なイメージ,または,移動体イメージ位置およびデータを検索する。サービスセンターと異なる位置に記憶されたイメージに対して,サービスセンターは,そのようなイメージの公開をリクエストし,他の車両への送信のための車両に,すなわち,図2のステップ240およびステップ245のピアツーピア送信のための車両に,目的地情報を提供する。リクエストされた車両の所有者がその公開を許可しない場合には,サービスセンターに利用可能な選択肢は,大衆に利用可能な他の当面あまり関連しないイメージを公開することである。こうして,大衆に公開された情報は何らかのプライベート情報またはパーソナル情報をも有さないので,大衆はイメージのパーソナルな起源を検出できない。
【0082】
サービスセンターは,画像イメージを使っての特定な道路または他の位置における現在の交通状況と;イメージを使っての特定な道路または他の位置での未解決な事故および建築サイトと;イメージを使っての特定な道路を取り巻く天候と;日によってまたは時間によって特定な道路または他の位置における混雑統計と;重大なイベントに関する入手イメージ,たとえば,車両破壊の発生時や車両盗難の発生時における事故でのイメージと;サービスセンターのウェブサイト上で出版された全データの統計資料へのアクセスと;ピアツーピアイメージ送信に対してディスプレイ視聴者(ビューア)とデータ所有者との間での仲裁とを含めて,分析のデータおよび結果を顧客またはメンバーに提供する。
【0083】
図3は,サービスセンターの立場からこの実施の形態における方法の一部を説明する。
【0084】
図3のステップ310:言及されたように,緊急のリクエストまたは命令が,たとえば,車両または当局から起こることもある。緊急のリクエストまたは命令の受信時に,サービスセンターは,そのリクエストまたは命令に関連するエリア内の車両の全部または選択された数台からのイメージ履歴を求めてリクエストを発信する。そのリクエストまたは命令の受信時に,各車両はそれを,図2のステップ220,ステップ225,ステップ250,ステップ255,およびステップ270に従って処理する。
【0085】
図3のステップ320:サービスセンターは,図2のステップ220,ステップ225,ステップ230,ステップ235,ステップ240,ステップ245,ステップ250,およびステップ255に従って車両が送信する何らかの環境データ(たとえば,イメージを具備したまたは具備しない主要データ)を,その車両から受信する。ステップ260およびステップ265に関してのサービスセンターの機能は,図2のステップ200およびステップ205についての検討から明らかである。さらに,ステップ320の詳細が図4に関して説明される。
【0086】
図3のステップ330:サービスセンターにとって役立つ1つまたはそれ以上のイメージを受信データが含む時に,その処理はステップ340に進み,さもなければステップ360に直接進む。サービスセンターは,その位置からのデータを殆ど持たない時に,および,図4に関する検討から明らかな他の理由のために,受信されたイメージに興味をもっても良い。
【0087】
図3のステップ340:主要データを使って受信されたイメージが識別され,その識別はディレクトリーの中で利用され,イメージが記憶される。
【0088】
図3のステップ350:サービスセンターにとって興味がない時にまたは発端の車両がイメージを記憶する時に,および,図4に関する検討から明らかな他の理由のために,受信されたイメージが廃棄される。
【0089】
図3のステップ360:必要とされる時にイメージおよび主要データが検索されるような公知の方法で,サービスセンターのデータベースが管理される。
【0090】
図3のステップ370:イメージから引き出された主要データおよび情報が検索および処理されて,公知な方法で,たとえば,天候状況および予報についての統計的なデータおよび他のデータを生成する。
【0091】
図3のステップ380:サービスセンターでの記憶装置内に,または,サービスセンターで指示されるような他の車両での記憶装置内に存在しないイメージ,または,記憶装置内に存在したとしても最新でないイメージ,または,ステップ370のために必要とされるイメージに対しての車両からのリクエストに応答して,サービスセンターは,1つまたはそれ以上の車両からのイメージを(たとえば,位置,方向,および角度によって)リクエストする。そのようなリクエストは,それぞれの車両によって受信され,図2のステップ240およびステップ245のイベントとして取り扱われる。
【0092】
図3のステップ390:リクエスト(たとえば,図2のステップ260およびステップ265に従って生成および送信されたリクエスト)を受信すると,サービスセンターは,公知の方法,たとえばディレクトリーを使って,受信されたリクエストと主要データとの適合点,たとえば特定の位置またはエリアに関しての適合点の所在位置を突き止める際に,データベースをサーチする。そのような適合点が発見された場合には,イメージがリクエスト者に送信される。そのような適合点が発見されなかった場合には,そのようなイメージのキャプチャまたは検索のために1つまたはそれ以上の車両にリクエストがなされる。そのキャプチャまたは検索は,車両の立場でステップ240およびステップ245のイベントである。それから,処理がステップ310に戻る。
【0093】
データを管理する実施の形態の方法における範囲内で一時的中止機能が,図3のステップ320のためのさらなる処理の詳細として,図4に示されている。
【0094】
図4のステップ400:主要データ,イメージ,および他のデータを含めて,環境データが,サービスセンターによって車両から受信される。そのデータは,図2のステップ235,ステップ245,およびステップ255のうちの1つに従って送信されたものである。無線送信によって複数の車両から送信されるデータは,サービスセンターで受信される。データのコンテンツは,上記で検討され,車両および乗客についての車両内の車両環境と,車両外での車両環境とに関する情報に一般的に関連する。データは,サービスセンターでちょうど受信されたという点で,最新である。また,データが,カメラを含めて車両の環境データ収集センサでちょうどキャプチャされたという点で,車両の立場から最新であることは最も好適であるが,必ずしもそうであるとは限らない。
【0095】
図4のステップ410:サービスセンターは,主要データから識別されるような環境データの発端位置を決定する。たとえば,公知の方法でパケットのヘッダーから,または,正確な位置GPS座標を有する領域を提供することから,または,GPS座標に基づいてまたは上述の物体認識などに基づいて車両コンピュータで決定されたエリアを示すコードから,車両の位置が識別される。このステップは他の目的に,たとえば,データベースを指示する際に役立つ。
(中略)
【0145】
データは有益である:一緒に運転していないが,どちらかと言えば,同一時刻または異なる時刻で同じルートに関して異なる車両で運転している家族および他人と通信すること;駐車した車両を離れてチェックすること;インターネットおよびウェブサイトを有する人によってアクセスされるようにウェブサイト上で公開するため:ドライバーが自己の経験に基づいて運転を計画または思い出すための記録として,道路および素晴らしい眺望の名前をユーザに思い出させること;持ち主に対する事故,または,データのキャプチャによって同時発生的に出会わされた他の車両に対する事故の重大な証明として:目的地への最適な方法を選択すること。他の車両から目の前のイメージを使って,所望の位置での現在の天候を知ること;一台またはそれ以上の車両によって事故現場または犯罪現場でキャプチャされ,その事故または犯罪の原因の証拠としてその時に使用されることもあるイメージを獲得すること;道路固定カメラおよび道路固定センサの下部構造を構築することによってよりむしろ,複数の車両間で分配されることによって,遙かにコスト効率的な方法でイメージを獲得すること;個々人,様々なメディア配給者,政府当局,および企業に対して,特にニュース源としての交通状況および天候状況に関しての販売のため。」(13?14,17?19,26ページ)

刊行物4(特表2007-521712号公報)には,以下の事項が記載されている。
オ 「【請求項18】
車内部の車両イベントに応じて双方向通信システムを用いて所定番号の自動ダイヤル動作を行うためのテレマチックシステムであって,
前記車内部に設置された検出システムと,
前記車から離れて設置された移動無線装置とを具備し,前記移動無線装置は,
ローカル無線送信機からのメッセージを受信できるショートレンジ無線受信機と,
前記受信機に電気的に結合され,前記送信機からのメッセージを処理するように構成された通報システムと,
前記通報システムに電気的に結合され,前記通報システムからの要求に応じて位置情報を発生させる位置決めシステムと,
前記通報システムに電気的に結合された双方向無線通信システムとを具備し,
前記通信システムは前記通報システムからの要求に応じて所定番号を呼び,この呼びの間に前記位置情報を含むデータ通信を行う,テレマチックシステム。
【請求項19】
前記検出システムは,
前記車両イベントを検知するように構成されたセンサと,
前記センサに電気的に結合され,前記センサから受信されたデータを処理するように構成された検出システムプロセッサと,
所定レンジ以内において,前記検出システムプロセッサからのメッセージを送信するように構成されたショートレンジ無線送信機とを具備する,請求項18に記載のテレマチックシステム。
【請求項20】
前記センサは,加速度計と,エアバッグ展開センサと,熱センサと,炎検知機と,衝撃
センサのうちの一つを有する,請求項19に記載のテレマチックシステム。
【請求項21】
更に,前記検出システムプロセッサに電気的に結合された複数のセンサを有する請求項19に記載のテレマチックシステム。
(中略)
【0002】
テレマチックは,ビジネスの機能を高め公共サービスを改善するためにネットワークを介して情報を効率的に伝達する為のコンピュータ及び無線通信の使用として広く定義される。このテレマチックという言葉は一般に,路側における自動援助や遠隔診断などのための全地球位置サテライトトラッキング(GPS)や他の無線通信を組み合わせた自動システムに関する。
【0003】
以下に説明する従来のテレマチックユニットは構成が複雑なこと及びコストが高いことを含む不利な点がある。例えばコストが高いことは販売価格に反映し,車両(又は他の装置)の内部への設置,および加入者サービスに反映する。更に,車両のイベント(例えば衝突のような)に自動的に対応することができる従来のテレマチックユニットは,車両内部のセンサ又は他の検出器からの情報をテレマチックユニットに送ることができるように車両に配線で接続されている。このようにテレマチックユニットを車両に取り付けることはコストを上げ,構成を複雑にする。
【0004】
ウイリアムス(Williams)の米国公開特許出願No.2001/0014863は非常路側データサービスおよび他のオンボードサービス(例えばセントラルサービスを介した食料雑貨サービス)のようなサービスを提供するテレマチック装置を開示している。このテレマチック装置は,車両またはセルラー電話機のようなテレマチック装置,PDAまたはラップトップコンピュータに内蔵され,利用者は例えば非常サービスのようなサービスを要求することができる。ウイリアムス特許のテレマチック装置は,情報とサービスとを提供するためにサーバと通信を行う必要があり,非常呼び出し(事故に遭遇した人が負傷したり無力化されたりするために困難であろう)を起動するためにユーザーによる初期動作を必要とするという欠点がある。
【0005】
ボックマン等(Bochmann et al)の米国特許No.6,282,491には自動車用のテレマチック装置が開示され,ラジオデータシステム(RDS)モジュールを具えたカーラジオや,無線電話や,測位及びナビゲーションシステムが一つのハウジング内に設けられている。このボックマン特許では,非常呼び出しがボタンを押すことあるいはチップカードに識別番号を入力することで行われ,この情報の後で,場所,事故に遭遇した人の人数,受けた負傷の内容,危険物または他の危険な状況の情報などが送信される。このボックマン特許のテレマチック装置では車両内部の標準的な内部空間に装置を設置する必要があり,更に非常呼び出しの起動のためにユーザーの初期動作が必要であるなどの欠点がある。
【0006】
エバンス(Evans)の米国特許No.6,442,485は位置決定,衝突報知,および合成音声の通信のために車両内に搭載される自動システムを開示している。この自動車両位置衝突報知システムは車両の衝突が生じたか否かを確認し,非常設備との直接通信を可能とする。このシステムは車両衝突と位置データとをデータ/音声翻訳モジュールから発生された合成音声通信を介して通信する。このシステムはメモリを持ったコントローラと,GPS受信機と,無線通信手段とを含むが,システム全体が車両内部に搭載されるのでコストが高くなり,搭載機器を交換しない限りはシステムのグレードアップは不可能である。
【0007】
オジナック等(Odinak et al)の米国公開特許出願No.2002/0173889は車両制御と,モニタリングシステムと,位置追跡と,無線通信とが,複数のテレマチック機能の一つを実行するために交換,移送,上級化が可能なモジュールを挿入するためのモジュール保持部を有する装置として一体化されて各機能が組み合わされた車両装置システムが開示されている。そのテレマチックコントロールユニット(TCU)はプロセッサと,ビルトインGPSユニットと,セルラー装置と,車両情報コンポーネントと,ユーザーインターフェースと,モジュール装置とを含む。このオジナックの特許のTCUは,車両に種々のサービスを提供するためにこの車両との間で情報通信を行うためのサーバを必要とし,車両とTCUとの間で実際に通信を行うために車両に対してプラグを差し込まなければならない,などの欠点がある。
【0008】
したがって,高価な装置を購入することなく,装置を搭載することなく,または加入者のサービスを必要とすることなく,自動で非常サービス通報を簡単に実用化できる低コストのシステムと方法とが必要とされている。
【発明の開示】
【0009】
以下に説明する移動無線装置による非常通報を行う方法と装置は,無線通信および位置決め可能なものである。この装置は,非常イベントに関するショートレンジ無線通信を受信し,E911呼び出しを,位置,事故の内容,及び他の詳細な情報とともに,公共安全応答ポイント(PSAP)又は他の非常応答サービスへ自動的に出力する。この非常通報は移動無線装置(例えば車両内にある)から離れた位置に設置されたセンサによって開始され,センサはショートレンジ無線リンクを介して移動装置と通信を行ってこの通報プロセスを開始させる。この移動無線装置はイベント情報をショートレンジ無線リンクを介して受信するので,一つの装置が複数の位置(例えば車両やビルディングなどの)で使用可能である。すなわち,一つの移動無線装置が,既に多くの利用者によって使用されている電子装置(例えばセルラー電話)を用いた従来のテレマチック装置に付随した初期費用や維持費用を必要とすることなく,多くの場所においてテレマチックサービスを遂行するのに用いることができる。」(3?6ページ)

上記エ,オの記載によれば,「サーバーに送信する情報として,車両環境等の情報があること。」,「サーバーにおいて,ユーザーターミナルに対する位置サービスや車両テレマティクスサービスを実施すること。」は,周知技術である(以下,それぞれ「周知技術1」,「周知技術2」という。)。

(2)対比
本願発明と引用発明1とを対比すると,
引用発明1の「携帯情報端末」,「情報センタ」は,それぞれ本願発明の「ユーザーターミナル」,「アプリケーションサーバー」に対応する。
引用発明1は「携帯情報端末の車内から車外への移動又は車外から車内への移動が検出されると,前記携帯情報端末は情報センタに対し,必要な情報を送信する」ものであり,図1によれば当該送信は無線を介して行われることは明らかであるから,「前記ユーザーターミナルが,当該ユーザーターミナルが前記車両内に存在するか否かを示す情報を決定するステップと,前記ユーザーターミナルが,モバイルネットワークの無線インターフェースを介してアプリケーションサーバーへ前記情報を送信するステップ」を備えるといえる点で,本願発明と共通している。
本願発明の「前記アプリケーションサーバーが,前記ユーザーターミナルが前記車両内に存在することを前記設定情報が示している場合は,前記アプリケーションサーバーが提供する車両テレマティクスサービスにおいて前記ユーザーターミナルのロケーションを検討するように制御し,前記ユーザーターミナルが前記車両内に存在しないことを前記設定情報が示している場合は,該車両テレマティクスサービスにおいて前記ユーザーターミナルのロケーションの検討を解除するように制御するステップ」と,引用発明1の「・・・必要な情報を送信することで,車内及び車外における前記情報センタによる経路案内を行えるようにする」とは,「前記アプリケーションサーバーが,前記情報に基づいて前記アプリケーションサーバーの動作を制御するステップ」といえる点で共通している。

したがって,両者は,
「アプリケーションサーバー及びユーザーターミナルを含む通信システムを制御する方法であって,
前記ユーザーターミナルが,当該ユーザーターミナルが前記車両内に存在するか否かを示す情報を決定するステップと,
前記ユーザーターミナルが,モバイルネットワークの無線インターフェースを介してアプリケーションサーバーへ前記情報を送信するステップと,
前記アプリケーションサーバーが,前記情報に基づいて前記アプリケーションサーバーの動作を制御するステップと
を備えることを特徴とする方法。」

他方,本願発明と引用発明1は,以下の点で相違する。
(相違点1)
一致点の「前記ユーザーターミナルが,当該ユーザーターミナルが前記車両内に存在するか否かを示す情報を決定するステップ」に関して,本願発明は「前記ユーザーターミナルが,前記ユーザーターミナルと車両のターミナルデバイスとの間のローカル通信接続の確立に基づいて,当該ユーザーターミナルが前記車両内に存在するか否かを示す設定情報を決定するステップ」であるのに対して,引用発明1は,赤外線通信等により無線接続される場合は,携帯情報端末200の距離を算出しあらかじめ決められた一定の距離よりも近づいたか否かにより,また,有線で接続される場合は,その有線接続が接続されたことを検出したか否かにより,車両内に存在するか否か決定することが例示されているものである点。

(相違点2)
一致点の「前記アプリケーションサーバーが,前記情報に基づいて前記アプリケーションサーバーの動作を制御するステップ」に関して,本願発明は「前記アプリケーションサーバーが,前記ユーザーターミナルが前記車両内に存在することを前記設定情報が示している場合は,前記アプリケーションサーバーが提供する車両テレマティクスサービスにおいて前記ユーザーターミナルのロケーションを検討するように制御し,前記ユーザーターミナルが前記車両内に存在しないことを前記設定情報が示している場合は,該車両テレマティクスサービスにおいて前記ユーザーターミナルのロケーションの検討を解除するように制御するステップ」であるのに対して,引用発明1は,「車内及び車外における前記情報センタによる経路案内を行えるようにする」ものである点。

(3)判断
上記相違点2について検討する。
周知技術1,2のとおり,「サーバーに送信する情報として,車両環境等の情報があること。」,「サーバーにおいて,ユーザーターミナルに対する位置サービスや車両テレマティクスサービスを実施すること。」は,周知技術である。しかしながら,これらの周知技術を引用発明1に適用したところで,「車内及び車外における前記情報センタによる位置サービスや車両テレマティクスサービスを行えるようにする」にとどまり,相違点2に係る本願発明の構成を導出することはできない。

(4)小括
したがって,相違点1について判断するまでもなく,本願発明は,当業者が引用発明1及び他の公知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また,本願発明と同様の技術的特徴を有する本願の請求項3,8,9,11に係る発明についても,同様に,当業者が引用発明1及び他の公知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また,本願の請求項2,4-7,10に係る発明は,上述の発明をさらに限定したものであるので,同様に,当業者が引用発明1及び他の公知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由1の概要
理由1(進歩性) この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2(サポート要件) この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3(明確性) この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由4(実施可能要件) この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由5(委任省令要件) この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由6(非発明) この出願の下記の請求項に記載されたものは,下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(進歩性)について
(1)請求項:1,3,7-20,22 引用文献:C,A,B
引用文献C(特に【0002】,【0007】,【0018】,【0038】?【0053】及び図1,9-11を参照されたい。)には,携帯電話(ユーザターミナルに相当。)が,駅の構内や映画館等(物理的対象に相当。)に設けられた入出場管理装置と近距離無線通信することによって,駅の構内や映画館等に入場したか出場したかを示すロケーション情報(設定情報に相当。)を入出場管理装置から受信し,該ロケーション情報をネットワーク(モバイルネットワークに相当。)を介して位置情報管理装置(アプリケーションサーバに相当。)に送信し,位置情報管理装置は,該ロケーション情報が駅の構内や映画館等に入場していることを示す場合は携帯電話の通信規制を行い,出場していることを示す場合は携帯電話の通信規制を解除する通信制御方法ついて記載されている。
ここで,情報をビットで表現することは,引用文献A(【0018】,【0019】,図6)及び引用文献B(第2頁右下欄第19行?第3頁右上欄第11行,第2図)にも示されているように普通に行われていることであるから,引用文献7において,ロケーション番号をビットで表現することは,当業者にとって容易に成し得ることである。
(2)請求項:6,21 引用文献:C,A,B
引用文献C(特に【0040】を参照されたい。)には,位置情報管理装置は,携帯電話の電話番号とロケーション番号を対応付けてロケーション情報管理テーブルに登録することについても記載されている。
引 用 文 献 等 一 覧
A.特開2000-137897号公報
B.特開平3-204098号公報
C.特開2005-191945号公報

●理由2(サポート要件)について
(1)請求項:1-22
発明の詳細な説明には,発明の課題として,「特定のモバイルターミナルが,分析すべき交通の流れの一部となっている車両内に実際にあるのか,それとも駐車中の車両内にあるのか,歩行者が持っているのか,近くのビル内にいるユーザーの元にあるのかさえも判断することができないからである。これら携帯電話(ユーザーターミナル)が,サービスに関して登録されている場合,これらのロケーション情報はサーバーによって検討されるが,このことは交通の流れの計算を歪ませてしまう。」(【0009】),「いずれのケースにおいても,これらタイプの改良された機構は複雑な決定ルーチンを必要とし,携帯電話が交通の流れ内に実際に関係しているとの基礎となる仮定が間違っている場合には,間違った結果も生じさせ得る。」(【0010】)ことが記載されている。
そして,当該課題を解決するための手段として,ユーザターミナルと車両内のターミナルデバイスとの間のローカル通信接続の設定に基づき,ユーザターミナルが車両内に存在するか否かの設定情報をユーザターミナルに設定し,ユーザターミナルからモバイルネットワークの無線インターフェースを介して設定情報をアプリケーションサーバに送信し,アプリケーションサーバは,設定情報が車両内に存在することを示している場合には,交通予測サービスアプリケーションにユーザターミナルのロケーションを検討するよう制御し,設定情報が車両内に存在しないことを示している場合には,交通予測サービスアプリケーションにユーザターミナルのロケーションの検討を解除するよう制御するようにすることについて記載されている。
しかしながら,請求項1には,ユーザターミナルと車両内のターミナルデバイスとの間のローカル通信接続の設定に基づいて,ユーザーターミナルに設定情報を設定することに関して何ら規定されておらず,発明の課題を解決するための手段が反映されていない。
更に,請求項1には,アプリケーションサーバは,設定情報が車両内に存在することを示している場合には,交通予測サービスアプリケーションにユーザターミナルのロケーションを検討するよう制御し,設定情報が車両内に存在しないことを示している場合には,交通予測サービスアプリケーションにユーザターミナルのロケーションの検討を解除するよう制御することに関しても何ら規定されておらず,発明の課題を解決するための手段が反映されていない。
したがって,請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
請求項2-22についても同様である。
なお,発明の詳細な説明には,車両テレマティクスサービス以外に設備管理サービス,機器の遠隔制御,健康に関するテレマティクスサービス,セキュリティ装置の分野におけるテレマティクスサービスなどがあることの記載(【0002】),車両テレマティクスサービスを除くサービスにも適用できるとして,「ミーティングルーム内に存在しない/存在する」旨の環境設定や「仕事中でない/仕事中である」旨の環境設定を使用する例についての記載(【0099】)がある。
しかしながら,車両テレマティクスサービス以外のテレマティクスサービスにおいて,例えば「ミーティングルーム」や「仕事」についての環境設定をユーザターミナルに設定することにより,どのような課題が解決できるのか不明である。
したがって,車両テレマティクスサービスを除くサービスにおいて,解決すべき課題があるとは認められない。
(2)請求項:1-20,22
請求項1には,「ユーザーターミナル(106)が設置されている環境の環境設定を示す設定情報(124)」及び「前記環境は物理的対象であり」と記載されているが,発明の詳細な説明には,ユーザーターミナルが環境(物理的対象)の近くあるいは内部にあるか否かを示す設定情報については記載されているものの,物理的対象の環境設定を示す設定情報についての記載があるとは認められない。
請求項2-20,22についても同様である。
(3)請求項8-16,19-20,22
請求項8には,「モバイルネットワーク(110)のターミナルデバイス(106,102’)によって実行される次のステップ」と記載されているが,ターミナルデバイスが次のステップである設定するステップと送信するステップを実行することは,第2実施形態の構成である。
しかしながら,第2実施形態の構成は,車両の位置を車両から取得するものであり,特定のモバイルターミナルが,分析すべき交通の流れの一部となっている車両内に実際にあるのか否かを判断することができないという課題を解決するものであるとはいえないから,請求項8に係る発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。(下記理由5(1)も参照されたい。)
また,ターミナルデバイスの「102’」及びユーザーターミナルの「106’」も第2実施形態における構成であるから,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。
請求項8を引用する請求項,及び請求項19-20,22も同様である。

●理由3(明確性)について
(1)請求項:1-22
各請求項には,「ユーザーターミナル(106)が設置されている環境の環境設定を示す設定情報(124)」と記載されているが,発明の詳細な説明をみても,「環境の環境設定」とは何を設定するのか定義が不明である。ユーザターミナルの環境を設定するのか,物理的対象である車両の環境を設定するのか不明である。
各請求項には,「ユーザーターミナル(106)が設置されている環境の環境設定を示す設定情報(124)」及び「前記環境は物理的対象であり」と記載されているが,環境(物理的対象)の環境設定とは,どのような設定のことなのか意味不明である。
(2)請求項:4-7,9-16
各請求項には,「前記ユーザーターミナルが設置されている環境に関連する前記ターミナルデバイス」と記載されているが,何をもって「環境に関連する」といえるのか不明確であるため,各請求項に係る発明の技術的範囲が不明確である。
(3)請求項:8-10,14-16,19-20,22
各請求項には,「設定情報(124)を設定する」と記載されているが,どのように設定するのか不明瞭である。
また,各請求項には,「前記受信した設定情報」と記載されているが,これより前に「受信」が記載されておらず不明瞭である。(ローカル通信接続を介してターミナルデバイスから受信することを明らかにする必要がある。)
(4)請求項:15-16
請求項15の「コンピュータプログラム製品」との用語は技術的範囲が不明確であるため,請求項15に係る発明を明確に把握することができない。また,請求項15の「プログラムコード部分」とは何を指すのか不明確である。
(5)請求項:20
請求項20には,「前記ターミナルデバイス」と記載されているが,これより前に「ターミナルデバイス」が記載されておらず不明瞭である。

●理由4(実施可能要件)について
(1)「ターミナル106は,通信接続120により,このターミナルが車両101内に位置すると判断する」(【0055】),「設定情報124を設定するために,次のステップを実行できる。すなわちユーザーターミナル106のユーザーが車両101に進入すると,LCU202および222は,自動的に,又はターミナル106にマニュアルで入力されるコマンドによって,通信120を設定できる。LCU202および222の双方は,例えば車両内のハンドフリーキットのためのブルートゥース規格のハンドフリーキットプロファイル(HFP)を使用し,ブルートゥース規格に従って通信をするようになっているブルートゥース通信ユニットとすることができる(明瞭にするために,図にはハンドフリーキットは示されていない)。通信設定中,LCUコンポーネント202および222の双方は,HFPに従って相互に通信することに同意する。LCU222のデバイスアドレスをモバイルターミナル106によるローカル環境設定の表示として使用できる。図2A内の矢印216が示すように,LCU202は,LCU222のデバイスアドレスを示すトリガー信号を設定決定コンポーネント204に提供するようになっている。当然ながら,LCU202は,通信リンク120を介して別のデータを送受信するように,別のデータ,例えば後述するデータ228を取り扱うことができる。」(【0063】)の記載からは,ターミナル106は,車両に進入すると通信120を設定し,ターミナルが車両内に位置すると判断するものであるが,ターミナル106のユーザが車両101に進入するだけでブルートゥースのような通信120ができるのか不明である。また,ターミナル106が通信120を設定するだけで,車両内にいるか否かがどうしてわかるのかも不明である。更に,ターミナル106が車両に入ったとき,及び通信120の設定から車両内にいることの情報を得るまでに,LCU202とLCU222がどのようなデータのやりとりをしているのかも不明であるから,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が各請求項に係る発明を実施することが出来る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(2)「メッセージ交換602および604は,図2Aに示されたLCU202と222との間のブルートゥース接続120のセットアップを示す。」(【0090】),「例えばサービスレベル接続設定手順604の間に,かかる表示をターミナル106に提供できる。」(【0091】),「メッセージ交換606および608により,ユーザーターミナル106と車両101との間のブルートゥース通信リンクは,例えばユーザーが車両101からターミナル106を外すことにより終了する。終了中,例えばサービスレベル接続が外された後に,ターミナル106は,自動的に,または車両101のトリガーにより,「車両内に存在しない」との設定情報を含む,アプリケーションサーバー108への送信610を実行できる。」(【0094】),及び図6の記載からは,「RF通信接続」及び「サービスレベル接続」は,それぞれ具体的にどのような接続を行っているのか,その結果,ターミナル106がどのような接続状態になるのか不明である。また,「RF通信接続の設定」,「サービスレベル接続の設定」,「RF通信接続の除去」及び「サービスレベル接続の除去」は,それぞれユーザが行うのか自動的に行われるのか不明である。更に,「ユーザが車両101からターミナル106を外す」ことでどの接続が除去されるのか,「サービスレベル接続が外され」るとはターミナルがどのような状態になるのかも不明である。
したがって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が各請求項に係る発明を実施することが出来る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

●理由5(委任省令要件)について
第2実施形態(【0071】?【0076】,図2B)は,ユーザターミナル106’がターミナルデバイス102’と通信120’により接続されると,ターミナルデバイス102’から設定情報がモバイルネットワークを介してアプリケーションサーバに送信されるものであるが,本願発明は,上記理由2(1)のとおり,特定のモバイルターミナルが,分析すべき交通の流れの一部となっている車両内に実際にあるのか否かを判断することができないという課題を解決するものであり,車両の位置を車両からではなくモバイルターミナルから得ることを前提としているから,第2実施形態のように車両内に固定されるターミナルデバイス102’からユーザターミナル106’が車両内にあるという設定情報を送信することの技術的意義が不明である。

●理由6(非発明)について
請求項21に係るユーザプロファイルは,ユーザプロファイルのデータ構造のみを特定するものであって,ユーザプロファイルを用いた情報処理について何ら記載されていないから,コンピュータにて実行されるソフトウエアによる情報処理が,該コンピュータの備えるハードウエア資源を用いて具体的に実現されているとはいえない。
よって請求項21に係るものは,特許法上の発明でない。
(特許・実用新案審査基準 第7部第1章 コンピュータ・ソフトウエア関連発明 2.2「発明」であること 参照)

2 当審拒絶理由1の判断
(理由1について)
(1)刊行物の記載事項
刊行物C(特開2005-191945号公報)には,以下の事項が記載されている。
ア 「【0002】
近年,携帯電話の急速な普及に伴って,ユーザのマナーが社会問題化しつつある。映画館や美術館内などの公共の場における通話やマナーモード未設定による着信音は,周囲に不快感を与えることがある。特に,電車内においては,携帯電話による通話が要因となり,乗客間でトラブルが発生することもある。また,病院内や飛行機内では,携帯電話の電源をON状態にしているだけで,周辺機器等の動作に影響を与えかねないという懸念も指摘されている。
(中略)
【0007】
そこで,本発明の課題は,着信者の場所に応じた通信規制を行うことで,ネットワークの処理負荷を低減することである。
(中略)
【0018】
以下,例示のために添付した図面を参照して,本発明の実施の形態について説明する。図1は,本発明の一実施形態における通信制御システムの構成図である。図1に示すように,通信制御システム1は,入出場管理装置40,50と,位置情報管理装置60と,留守番電話装置70とを備えて構成される。携帯電話10,20,30(移動機に対応)は,ネットワーク装置N1,N2,N3を介してネットワークNにそれぞれ有線接続された基地局B1,B2,B3との間で通信を行う。入出場管理装置40は,駅の自動改札機に内蔵または外付けで設置されており,例えば携帯電話10のユーザが駅構内に入出場する際に,携帯電話10との間で近距離無線通信を行う。近距離無線通信は,例えば,BLUETOOTH(登録商標)やRFID(Radio Frequency IDentification)により実現される非接触型の通信である。同様に,入出場管理装置50は,映画館の出入り口に設置されており,例えば携帯電話20のユーザが映画館内に入出場する際に,携帯電話20との間で近距離無線通信を行う。」(2,3,5ページ)

イ 「【0038】
次に,図9?図11のフローチャートを参照して,通信制御システム1の動作を説明する。併せて,本発明に係る通信制御方法を構成する各ステップについて説明する。
まず,携帯電話10を携帯するユーザが,入出場管理装置40の設置された自動改札機を経由して駅構内に入場する(図9のS1)。駅構内は,特定場所に対応する。入出場管理装置40は,自装置に予め登録されているロケーション番号“1”を含む入場登録要求信号を常時発信している(S2)。携帯電話10は,改札の通過に伴って当該入場登録要求信号を受信すると,入場状態に遷移したことを検知し,近距離無線通信により,その応答信号である入場登録応答信号を返信する(S3)。
【0039】
S4では,携帯電話10は,入場状態に遷移したことを契機として,S2で受信されたロケーション番号“1”を含む強制位置登録要求信号を,位置情報管理装置60宛に送信する。この強制位置登録要求信号は,従来の位置登録要求信号にロケーション番号が付与されたもの,若しくはこれと同等の信号であればよい。強制位置登録要求信号は,基地局B1,ネットワーク装置N1,ネットワークNを順次経由して,携帯電話10から位置情報管理装置60に送信される。
【0040】
強制位置登録要求信号を受信した位置情報管理装置60は,当該信号の送信元である携帯電話10の電話番号“09011111111”にロケーション番号“1”を対応付けて,ロケーション情報管理テーブル671の領域671bに登録する(S5)。同時に,位置情報管理装置60は,呼処理制御テーブル672の端末制御情報領域672cから,受信されたロケーション番号“1”に対応する端末制御情報を取得して,強制位置登録応答信号にこれを付加し,携帯電話10宛に送信する(S6)。この強制位置登録応答信号は,従来の位置登録応答信号に端末制御情報が付加されたもの,若しくはこれと同等の信号であればよい。強制位置登録応答信号は,ネットワークN,ネットワーク装置N1,基地局B1を順次経由して,位置情報管理装置60から携帯電話10に送信される。
【0041】
S7においては,携帯電話10は,強制位置登録応答信号を受信すると,該信号に含まれる端末制御情報に基づき,携帯電話端末の機能を制御する。本実施の形態では,ロケーション番号“1”に対応する端末制御情報は,“音声ベアラ:規制あり,データベアラ:規制なし,位置登録ベアラ:規制なし”である(図6参照)。したがって,携帯電話10が駅構内に存在する間は,携帯電話10からの発信による音声通信が規制される。
【0042】
入場状態にある携帯電話10に対して,携帯電話30が音声発信を試みると,図10のフローチャートに示す呼処理が,通信制御システム1を構成する各装置間で実行される。まず,携帯電話30からネットワーク装置N3宛に接続要求信号が送信されると(S21),ネットワーク装置N3は,接続応答信号の返信により,接続要求の受信を携帯電話30に通知する(S22)。
【0043】
S23では,接続要求信号を受信したネットワーク装置N3は,位置情報管理装置60に対して位置情報要求信号を送信する。この信号には,携帯電話30からの発信先である携帯電話10の電話番号(着信電話番号)が含まれており,位置情報管理装置60は,位置情報要求信号の受信を契機として,携帯電話10の現在のロケーション番号を割り出す。ロケーション番号の割出しは,位置情報管理装置60が,ロケーション情報管理テーブル671を参照して,着信電話番号“09011111111”に対応するロケーション番号を,留守番電話加入状況と共に取得することにより実現される。
【0044】
本実施の形態では,着信側の携帯電話10のロケーション番号は“1”であるので,位置情報管理装置60は,これに対応する着信制御処理を実行する(S24)。すなわち,呼処理制御テーブル672では,ロケーション番号“1”を有する携帯電話に対する音声着信は規制されているので(図6参照),位置情報管理装置60は,携帯電話10に対する音声着信を許容しない。これにより,携帯電話10を発信先とする一斉呼び出しは行われず,トラヒックや信号処理の増大は抑制される。
【0045】
S25では,携帯電話10の留守番電話加入状況である“加入”とロケーション番号“1”とを含む位置情報応答信号が,位置情報管理装置60からネットワーク装置N3に向けて送信される。ネットワーク装置N3は,留守番電話加入状況“加入”を留守番電話装置70への転送指示として受信し,同時に受信したロケーション番号“1”と共に接続要求信号を送信する(S26)。接続要求信号の送信先は留守番電話装置70である。すなわち,位置情報管理装置60を送信元とするロケーション番号が,ネットワーク装置N3にて,留守番電話装置70宛に転送される。接続要求信号を受信した留守番電話装置70は,受信を通知するための接続応答信号をネットワーク装置N3に送信する(S27)。そして,発信元の携帯電話30との間に呼を確立(接続)する(S28)。
【0046】
留守番電話装置70は,ガイダンス選択テーブル73を参照して,S26で受信されたロケーション番号を基に,携帯電話30のユーザに提供するガイダンスの内容を決定する。本実施の形態では,受信されたロケーション番号は“1”であるので,これに対応する内容のガイダンス“こちらは留守番電話装置です。ただいま電車に乗車中のため着信できません。メッセージをどうぞ。”が携帯電話30宛に送信される(S29)。これにより,発信者は,発信先の携帯電話10のユーザが現在電車に乗車中であることを把握し,これに応じた内容のメッセージを録音する(S30)ことが可能となる。
【0047】
図9に戻り,携帯電話10のユーザが駅構内から出場する際に(S8),携帯電話10は,入出場管理装置40との近距離無線通信により出場登録要求信号を受信し,これを以って出場状態に遷移したことを検知する(S9)。この出場登録要求信号には,位置情報管理装置60に登録されているロケーション番号の抹消を指示するための情報としてロケーション番号“なし”が含まれている。出場登録要求信号を受信した携帯電話10は,受信を通知するための出場登録応答信号を入出場管理装置40に返信する(S10)。同時に,携帯電話10は,ロケーション番号“なし”を含む位置登録解除信号を位置情報管理装置60宛に送信する(S11)。
【0048】
S11で送信された位置登録解除信号を受信した位置情報管理装置60は,ロケーション情報管理テーブル671の領域671bに登録されているロケーション番号“1”を“未登録”とする(S12)。この処理を以って,携帯電話10に対する着信の規制は解除される。
【0049】
図6に示したように,位置情報管理装置60の呼処理制御テーブル672には,ロケーション番号“なし”に対応する端末制御情報として,“音声ベアラ:規制なし,データベアラ:規制なし,位置登録ベアラ:規制なし”が設定されている。したがって,位置情報管理装置60は,携帯電話10に設定されている規制を解除するための端末制御情報を有する位置登録解除応答信号を,携帯電話10宛に送信する(S13)。携帯電話10は,位置登録解除応答信号を受信すると,当該信号から取得した端末制御情報に基づいて,音声ベアラの規制を解除する端末制御を行う(S14)。これにより,以後,携帯電話10からの発信及び位置登録の規制は解除される。
【0050】
以上,携帯電話10のユーザが駅構内において入出場するケースを想定し,通信制御システム1の動作を説明したが,携帯電話20のユーザが映画館内において入出場する場合にも,同様の処理が実行される。但し,この場合には,携帯電話20(電話番号09022222222)が留守番電話サービスに未加入(図5参照)であることに起因して,ガイダンスの送信元が異なる。すなわち,上述した想定では,携帯電話10に対する留守番電話ガイダンスの送信処理は,位置情報管理装置60からの指示を受けた留守番電話装置70により実行されるものとした(図10に示したS29参照)が,携帯電話20に対するガイダンスの送信は,位置情報管理装置60が直接行う。
【0051】
図11は,位置情報管理装置60が携帯電話30にガイダンスを直接的に送信する際の通信制御システム1の処理を示すフローチャートである。図11に記載の処理は,図10を参照して説明した,通信制御システム1の処理と共通のステップを複数含む。具体的には,図11のS41?S45の各処理は,図10に示したS21?S25の処理とそれぞれ同様の処理である。したがって,以下,携帯電話30との通信に特有のS46について説明する。
【0052】
S46では,位置情報管理装置60は,S44で位置情報要求信号から割り出された留守番電話加入状況とロケーション番号とを基に,ガイダンスの送信主体と送信すべきガイダンスの選択を行う。再び図5を参照すると,電話番号“09022222222”を有する携帯電話20は,留守番電話サービスに未加入であるので,留守番電話装置70によるガイダンス送信及びメッセージ録音はできず,ガイダンスの送信主体としては位置情報管理装置60が選択される。また,携帯電話20のロケーション番号は“2”であるので,これに対応するガイダンス“ただいま映画鑑賞中のため着信できません。”の送信が決定される。位置情報管理装置60は,呼処理制御テーブル672(図6参照)から上記ガイダンスを選択し,ネットワーク装置N3経由で携帯電話30宛に送信する。
【0053】
これにより,携帯電話20に対する音声発信者は,通話を所望する相手が現在映画館にいることを把握する。したがって,発信者は,例えば電子メールを利用して,通信ベアラをデータとした再発信を行うことで,携帯電話20のユーザに要件を通知することができる。なお,発信先の携帯電話が,音声通信に加えてデータ通信も規制されている場所に存在する場合には,発信された電子メール等のデータは,メールセンタに一旦蓄積される。蓄積されたデータは,携帯電話20のユーザが映画館を出場して着信規制が解除された後に,携帯電話30宛に自動転送される。」(8?10ページ)

上記ア,イの記載及び図1,9-11によれば,刊行物Cには,「携帯電話が,駅の構内や映画館等に設けられた入出場管理装置と近距離無線通信することによって,駅の構内や映画館等に入場したか出場したかを示すロケーション情報を入出場管理装置から受信し,該ロケーション情報をネットワークを介して位置情報管理装置に送信し,位置情報管理装置は,該ロケーション情報が駅の構内や映画館等に入場していることを示す場合は携帯電話の通信規制を行い,出場していることを示す場合は携帯電話の通信規制を解除する通信制御方法。」との発明(以下,「引用発明C」という。)が記載されていると認める。

刊行物A(特開2000-137897号公報)には,以下の事項が記載されている。
ウ 「【0018】即ち,ステップ51において入力インターフェイスにアクセスし,駐車位置11および12に車両が駐車しているか否かを読み取る。ステップ52で駐車状況を符号化し,ステップ53で符号化された駐車状況を通信ターミナルeに出力してこのルーチンを終了する。図6は符号化の1例の説明図であって,駐車状況は2ビットからなるデータとして表される。そして,上位ビットは駐車位置11の駐車状況を,下位ビットは駐車位置12の駐車状況を表す。
【0019】従って,駐車位置11および12の両方に車両が存在しないときはデータは "0,0" となる。駐車位置11に車両が存在し,駐車位置12に車両が存在しないときはデータは "1,0" となり,駐車位置11に車両が存在せず,駐車位置12に車両が存在するときはデータは "0,1" となる。そして,駐車位置11および12の両方に車両が存在するときはデータは "1,1" となる。」(3ページ)

刊行物B(特開平3-204098号公報)には,以下の事項が記載されている。
エ 「第2図は本発明の実施例における車両感知器からの車両感知信号と速度情報の伝送の様子を示すものである。第2図において,201は速度情報のビット同期のためのクロック,202?204は各車両感知器の車両存在信号であって,車両の存在時間に等しいパルス幅である。205?207は各車両感知器からの速度情報であり,7ビツトの速度情報と各々1ビットのスタートビット,ストップビット,パリティビットからなる調歩同期キャラクタ構成208である。209は端末伝送装置15から中央装置18への伝送符号・構成,210は伝送符号構造におけるAキャラクタ,Bキャラクタのビット情報種別である。
次に上記実施例の動作について説明する。まず車両感知器からの車両感知信号を速度信号の伝送の仕方について説明する。速度情報205?207は車両感知器よりクロックに同期して20bpsの伝送速度で車両存在信号202?204と同時に出力される。端末伝送装置15では車両感知信号を50ms毎にサンプリングし,その状態を第2図のAキャラクタ210の当該感知器番号の車両存在信号(DE_(1)?DE_(4))に割り当てる。また速度情報は車両存在信号と同様に,端末伝送装置15で50ms毎にサンプリングし,その状態を第2図のBキャラクタ210の当該車両感知番号の速度情報(D_(1)?D_(4))に割り当てる。Aキャラクタ,Bキャラクタは第2図の伝送符号構成209に示すように50ms同期で中央装置18に伝送される。中央装置18では各々の車両感知器番号の車両存在信号および速度情報のビットを読むことにより,各々の信号を再生する。また,信号制御機17の確認信号及び可変標識の確認信号は,従来どおり第1表に示すCキャラクタ,Dキャラクタ,Eキャラクタ,Fキャラクタ,Cキャラクタを用いて送信する。」(2頁右下欄19行?3頁右上欄12行)

上記ウ,エの記載によれば,「情報をビットで表現すること。」は周知技術であるといえる(以下,「周知技術A」という。)。

(2)対比
本願発明と引用発明Cとを対比すると,
引用発明Cの「携帯電話」,「ネットワーク」,「位置情報管理装置」は,それぞれ本願発明の「ユーザターミナル」,「モバイルネットワーク」,「アプリケーションサーバ」に対応する。
引用発明Cの「駅の構内や映画館等に設けられた入出場管理装置と近距離無線通信することによって,駅の構内や映画館等に入場したか出場したかを示すロケーション情報を入出場管理装置から受信し,該ロケーション情報をネットワークを介して位置情報管理装置に送信し」は,以下の相違点1は別として,「前記ユーザーターミナルが,前記ユーザーターミナルと物理的対象内のデバイスとの間のローカル通信接続の確立に基づいて,当該ユーザーターミナルが前記物理的対象内に存在するか否かを示す情報を決定するステップと,前記ユーザーターミナルが,モバイルネットワークの無線インターフェースを介してアプリケーションサーバーへ前記情報を送信するステップ」の点で,本願発明の「前記ユーザーターミナルが,前記ユーザーターミナルと車両のターミナルデバイスとの間のローカル通信接続の確立に基づいて,当該ユーザーターミナルが前記車両内に存在するか否かを示す設定情報を決定するステップと,前記ユーザーターミナルが,モバイルネットワークの無線インターフェースを介してアプリケーションサーバーへ前記設定情報を送信するステップ」と共通する。
本願発明の「前記アプリケーションサーバーが,前記ユーザーターミナルが前記車両内に存在することを前記設定情報が示している場合は,前記アプリケーションサーバーが提供する車両テレマティクスサービスにおいて前記ユーザーターミナルのロケーションを検討するように制御し,前記ユーザーターミナルが前記車両内に存在しないことを前記設定情報が示している場合は,該車両テレマティクスサービスにおいて前記ユーザーターミナルのロケーションの検討を解除するように制御するステップ」と,引用発明Cの「位置情報管理装置は,該ロケーション情報が駅の構内や映画館等に入場していることを示す場合は携帯電話の通信規制を行い,出場していることを示す場合は携帯電話の通信規制を解除する」とは,以下の相違点2は別として,「前記アプリケーションサーバーが,前記情報に基づいて前記アプリケーションサーバーの動作を制御するステップ」の点で共通している。

したがって,両者は,
「アプリケーションサーバー及びユーザーターミナルを含む通信システムを制御する方法であって,
前記ユーザーターミナルが,前記ユーザーターミナルと物理的対象内のデバイスとの間のローカル通信接続の確立に基づいて,当該ユーザーターミナルが前記物理的対象内に存在するか否かを示す情報を決定するステップと,
前記ユーザーターミナルが,モバイルネットワークの無線インターフェースを介してアプリケーションサーバーへ前記情報を送信するステップと,
前記アプリケーションサーバーが,前記情報に基づいて前記アプリケーションサーバーの動作を制御するステップと
を備えることを特徴とする方法。」の点で一致している。

他方,本願発明と引用発明とは,以下の点で相違する。
(相違点1)
一致点の「物理的対象内」に関し,本願発明は「車両」であるのに対し,引用発明Cは「駅の構内や映画館」である点。

(相違点2)
一致点の「前記アプリケーションサーバーが,前記情報に基づいて前記アプリケーションサーバーの動作を制御するステップ」に関し,本願発明は「前記アプリケーションサーバーが,前記ユーザーターミナルが前記車両内に存在することを前記設定情報が示している場合は,前記アプリケーションサーバーが提供する車両テレマティクスサービスにおいて前記ユーザーターミナルのロケーションを検討するように制御し,前記ユーザーターミナルが前記車両内に存在しないことを前記設定情報が示している場合は,該車両テレマティクスサービスにおいて前記ユーザーターミナルのロケーションの検討を解除するように制御するステップ」であるのに対し,引用発明Cは「該ロケーション情報が駅の構内や映画館等に入場していることを示す場合は携帯電話の通信規制を行い,出場していることを示す場合は携帯電話の通信規制を解除する」ものである点。

(3)判断
相違点1,2についてまとめて検討する。
引用発明Cは,車両テレマティクスサービスに関するものではなく,所定の場所では携帯電話の通信規制を行うことを目的とするものであるので,「サーバーに送信する情報として,車両環境等の情報があること。」や「サーバーにおいて,ユーザーターミナルに対する位置サービスや車両テレマティクスサービスを実施すること。」が周知技術であるとしても,引用発明Cと車両テレマティクスサービスとの接点は一切認められないから,相違点1,2を導出することはできない。

(4)小括
したがって,本願発明は,当業者が引用発明C及び他の公知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また,本願発明と同様の技術的特徴を有する本願の請求項3,8,9,11に係る発明についても,同様に,当業者が引用発明C及び他の公知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また,本願の請求項2,4-7,10に係る発明は,上述の発明をさらに限定したものであるので,同様に,当業者が引用発明C及び他の公知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,当審拒絶理由1の理由1によっては,本願を拒絶することはできない。

(理由2?6について)
平成28年6月13日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の記載は,当審拒絶理由1の理由2,3,6を解消している。また,平成27年11月25日付け意見書の釈明によれば,当審拒絶理由1の理由4は解消している。平成27年11月25日付け手続補正により第2実施形態に対応する請求項が削除されたので,当審拒絶理由1の理由5も解消している。

よって,当審拒絶理由1によっては,本願を拒絶することはできない。

3 当審拒絶理由2の概要
理由1(新規性) この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
理由2(進歩性) この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由3(明確性) この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(新規性)について
・請求項 3,4,15,16
・引用文献等 1
・備考
請求項3に係る発明は,「ユーザーターミナルを制御する方法」と認められるが,請求項3の「これにより前記アプリケーションサーバーが,・・・(中略)・・・解除するように制御することができるようにする」の記載は,上記「ユーザーターミナル」とは別の「アプリケーションサーバー」に関する事項を用いて上記「ユーザーターミナルを制御する方法」を特定しようとする記載であると認められる。
そして,該記載は,アプリケーションサーバーが,設定情報に基づいていかなる制御を行うかについて特定する一方で,ユーザーターミナルの構造,機能等を何ら特定していない。
したがって,アプリケーションサーバーに関する上記記載(「これにより前記アプリケーションサーバーが,・・・(中略)・・・解除するように制御することができるようにする」の記載)は,特許・実用新案審査基準 第III部 第2章 第4節4.1.2の『「他のサブコンビネーション」に関する事項が,「他のサブコンビネーション」のみを特定する事項であって,請求項に係るサブコンビネーションの発明の構造,機能等を何ら特定していない場合』に該当する。
他方,引用文献1(特に段落【0022】,【0030】?【0033】,【0035】,【0038】,図3参照)には,携帯電話と,自動車のECUとの接続を認識し,使用者が自動車に乗車中であることを,制御管理サーバへ送信する点が記載されている。
してみれば,請求項3に係る発明と,引用文献1記載の発明とに差異は認められない。
請求項4,15,16も同様である。

●理由2(進歩性)について
・請求項 3?6,9?12,15,16
・引用文献等 1
・備考
引用文献1には,上記理由1に記載したとおりの発明が開示されている。
そして,請求項3,4,15,16に係る発明は,引用文献1記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
また,請求項5,6に関し,引用文献1記載の発明において,使用者が自動車に乗車中であることを判断するために,自動車のECUとの接続を認識するにあたり,いかなる情報に基づいて該ECUと接続したと認識するかは適宜選択できるから,ECU側のデバイスアドレスに基づいて該認識を行うことは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
請求項9?12に関し,制御管理サーバへ車両の作動ステータスを送信すること,情報をプロファイル内に含ませること,各処理を計算デバイス及びプログラムにより実現することは当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。

●理由3(明確性)について
(1)・請求項 1?17
請求項1には,「アプリケーションサーバーが,前記ユーザーターミナルが前記車両内に存在することを前記設定情報が示している場合は,車両テレマティクスサービスが前記ユーザーターミナルのロケーションを検討するように制御し,前記ユーザーターミナルが前記車両内に存在しないことを前記設定情報が示している場合は,車両テレマティクスサービスが前記ユーザーターミナルのロケーションの検討を解除するように制御する」と記載されているが,「アプリケーションサーバー」と「車両テレマティクスサービス」との関係が明らかにされておらず,上記下線部の記載では,「アプリケーションサーバー」がこれとは別の主体によって提供される「車両テレマティクスサービス」を制御するかのようにも解されるため,「車両テレマティクスサービス」が「アプリケーションサーバー」によって提供されるのか否か,不明確である。
請求項3,7,13,15の記載も同様であるから,従属請求項を含め,請求項1?17に係る発明が不明確である。
なお,例えば,請求項1の上記「車両テレマティクスサービスが」の記載(2箇所)を,「前記アプリケーションサーバーが提供する車両テレマティクスサービスにおいて」と補正し,請求項3,7,13,15についても同様の補正を行うのであれば,この限りでない。
(2)・請求項 1?6,9?12,14?17
請求項1,3?5,15には,「設定情報を確立」と記載されているが,「確立」の記載では日本語として意味が不明確である。
従属請求項を含め,請求項1?6,9?12,14?17に係る発明が不明確である。
なお,例えば,発明の詳細な説明の段落【0016】,【0064】等に記載された「決定」の語を用いて,上記「設定情報を確立」の記載を「設定情報を決定」と補正するのであれば,この限りでない。
(3)・請求項 2,8?12,14,17
請求項2には,「前記ユーザーターミナルに関するロケーションを決定するためのローカライゼーションサービス」と記載されているが,「サービス」の記載では,ユーザー側へのサービスであるのか,アプリケーションサーバー側へのサービスであるのか,不明確である。
上記「ローカライゼーションサービス」に関し,発明の詳細な説明の段落【0020】には,「ユーザーターミナルおよび/またはユーザーターミナルが設置されている環境に関連するターミナルデバイスに関するロケーションを決定するためのローカライゼーションサービスの実施を,設定情報の受信によってトリガーすることにより開始するステップを含むことができる。」と記載されているので,「ローカライゼーションサービス」はユーザー側へのサービスであるかのように解し得る。
しかしながら,発明の詳細な説明の段落【0086】の記載のよれば,ロケーション情報はサーバー側へ提供されるものであるところ,請求項2の上記「ローカライゼーションサービス」の記載では,ユーザー側と,アプリケーションサーバー側とのいずれに対するサービスとも解することができるので,不明確である。
請求項8の記載も同様であるから,従属請求項を含め,請求項2,8?12,14,17に係る発明が不明確である。
なお,例えば,発明の詳細な説明の段落【0057】,【0086】等に記載された事項に基づき,請求項2の「前記ユーザーターミナルに関するロケーションを決定するためのローカライゼーションサービスの実行を,前記設定情報の受信によってトリガーされることにより開始する」の記載を,「前記ユーザーターミナルに関するロケーション情報のアプリケーションサーバーへの提供を,前記設定情報の受信によってトリガーされることにより開始する」と補正し,請求項8についても同様の補正を行うのであれば,この限りでない。
(4)・請求項 9?12,14,17
請求項9には,「設定情報は,前記車両の作動ステータスの表示を含む,請求項1から8のいずれか1項に記載の方法」と記載されている。
ここで,発明の詳細な説明の記載(特に【0066】参照)によれば,上記「車両の作動ステータス」情報は,車両内のセンサから決定でき,車両のターミナルデバイスを介して得られる情報であると解される。
しかしながら,請求項9が引用する請求項7,8には,車両のターミナルデバイスについて記載されていない。
したがって,請求項7,8を引用する場合に,いかに「車両の作動ステータス」情報を得るのか不明確であり,従属請求項を含め,請求項9?12,14,17に係る発明が不明確である。
なお,例えば,請求項9が請求項7,8を引用しないように補正するか,請求項7,8の発明特定事項として「車両のターミナルデバイス」に関する事項を付加する補正を行うのであれば,この限りでない。
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2006-277572号公報

4 当審拒絶理由2の判断
(1)平成28年6月13日付けの手続補正で,補正前の請求項3?6,15,16が削除され,また,補正前の請求項9?12は,補正後の請求項1又は2を引用する請求項5?8に変更された。このことにより,新規性,進歩性の拒絶理由の対象となっていた請求項は存在しないことになった。
よって,当審拒絶理由2の理由1及び理由2は解消した。

(2)平成28年6月13日付けの手続補正で,補正前の請求項1,7,13(補正後の請求項1,3,9)の「車両テレマティクスサービスが」の記載が「前記アプリケーションサーバーが提供する車両テレマティクスサービスにおいて」と補正された。このことにより,「車両テレマティクスサービス」が「アプリケーションサーバー」によって提供されることが明確になった。
よって,当審拒絶理由2の理由3(1)は解消した。

(3)平成28年6月13日付けの手続補正で,補正前の請求項1(補正後の請求項1)の「設定情報を確立」の記載が「設定情報を決定」と補正された。このことにより,日本語としての意味が明確になった。
よって,当審拒絶理由2の理由3(2)は解消した。

(4)平成28年6月13日付けの手続補正で,補正前の請求項2,8(補正後の請求項2,4)の「前記ユーザーターミナルに関するロケーションを決定するためのローカライゼーションサービスの実行を,前記設定情報の受信によってトリガーされることにより開始する」の記載が「前記ユーザーターミナルに関するロケーション情報のアプリケーションサーバーへの提供を,前記設定情報の受信によってトリガーされることにより開始する」と補正された。このことにより,「ローカライゼーションサービス」の内容の意味が明確になった。
よって,当審拒絶理由2の理由3(3)は解消した。

(5)平成28年6月13日付けの手続補正で,補正前の請求項9(補正後の請求項5)が補正前の請求項7(補正後の請求項3)を引用しないものになった。
よって,当審拒絶理由2の理由3(4)は解消した。

(6)平成28年6月13日付けの手続補正で,補正前の請求項15,16が削除されたことに伴い,補正前の請求項15,16を引用していた補正前の請求項17(補正後の請求項11)の表現が変更されたが,実質的な内容は変更されず,かつ,上記(2),(3)と同様の補正を行うものであるから,当審拒絶理由2の理由3は解消している。


第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-07-21 
出願番号 特願2010-538356(P2010-538356)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H04M)
P 1 8・ 121- WY (H04M)
P 1 8・ 113- WY (H04M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松平 英角張 亜希子  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
菅原 道晴
発明の名称 モバイルネットワークを介したテレマティクスサービスの提供  
代理人 下山 治  
代理人 大塚 康弘  
代理人 大塚 康徳  
代理人 木村 秀二  
代理人 高柳 司郎  
代理人 駒木 寛隆  

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