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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07K
管理番号 1316995
異議申立番号 異議2016-700055  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-22 
確定日 2016-07-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第5752558号発明「プロテインAおよびイオン交換クロマトグラフィーによる抗体精製」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5752558号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5752558号の請求項1ないし10に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成16年3月1日(パリ条約による優先権主張 2003年2月28日 (GB)英国)を国際出願日とする特願2006-501980号の一部を平成23年10月21日に新たな特許出願としたものであって、平成27年5月29日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人中外製薬株式会社(外1名)により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年3月3日付けで取消理由を通知し、同年6月7日付けで意見書が提出されたものである。

2 本件発明
本件特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。
【請求項1】 (a)細胞培養物から抗体を収集する工程;
(b)前記工程(a)において収集された抗体をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製する工程、ここで、当該プロテインAは天然のプロテインAまたはその機能的誘導体である;
(c)前記プロテインAアフィニティークロマトグラフィーから結合した抗体を溶出することにおいて、プロテインA汚染物質を含む精製された抗体を得る工程;
(d)前記工程(c)において得られた当該プロテインA汚染物を含む精製された抗体を陰イオン交換材料に対してロードし、当該プロテインA汚染物を前記陰イオン交換材料に結合させて、それにより当該抗体を貫流中に維持する工程、ここにおいて、当該プロテインAを当該陰イオン交換材料に対して結合することを可能にし、且つ前記抗体を貫流中に保持する条件が、1?150mMの濃度の置換塩を有しpH6.5?9.0のローディングバッファーを使用することを含む;
(e)当該プロテインA汚染物が当該イオン交換材料に結合しているのと同時に、工程(d)において得られた当該陰イオン交換材料の貫流中の当該抗体を回収する工程;および
(f)前記抗体を、陽イオン交換材料である2番目のイオン交換材料にロードし、結合させ、溶出することによって、前記抗体を更に精製する工程;
を具備する抗体の精製方法。
【請求項2】 プロテインAが天然のプロテインAまたは組換え型プロテインAであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】 組換え型プロテインAが、前記組換え型プロテインAのアミノ酸配列のC末端の最後の30アミノ酸においてシステインを含み、これが、当該プロテインAアフィニティークロマトグラフィーにおいて使用される当該クロマトグラフィー支持体材料に対して、付着の単一点としてチオエーテル結合により前記システイン残基の硫黄原子を介して結合することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】 前記精製された抗体が単量体の抗体であり、工程(f)が凝集した抗体を除去することを可能にすることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】 当該抗体が、少なくとも7.5以上のpIを有することを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】 当該抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1?5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】 当該抗体がIgG抗体であることを特徴とする請求項1?6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】 当該IgG抗体がキメラまたはCDR移植IgG抗体であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】 当該IgG抗体が、当該抗体のFc部分に関してはヒトIgG1、IgG2およびIgG4からなる群から選択されることを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】 当該抗体が、哺乳類細胞培養物から収集されることを特徴とする請求項1?9の何れか1項に記載の方法。
(以下、これらの請求項に係る各発明をそれぞれの請求項の番号に対応させて「本件発明1」、「本件発明2」、・・・「本件発明10」といい、また、これらの発明をまとめて「本件発明」という場合がある。)

3 取消理由の概要
当審において、請求項1ないし10に係る特許に対して通知した取消理由は、次のとおりである。
(1) 本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された以下の甲第6号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2) 本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された以下の甲第1ないし4、6及び8号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

甲第1号証 BioPharm, 2002, Vol.15, pp.14-16, 18, 20, 53.
甲第2号証 Biotechnol Genet Eng Rev, 2001, Vol.18, pp.301-327.
甲第3号証 RACHER, A.J. et al, '8 Manufacture of Therapeutic Antibodies'. In: Biotechnology, Vol.5a, Edited by Mountain A. et al, WILEY-VCH Verlag GmbH, 1999, pp.245-274.
甲第4号証 Protein A Sepharose R(注:Rを円で囲んだ上付き文字)4 Fast Flow, Protein G Sepharose R(注:Rを円で囲んだ上付き文字)4 Fast Flow, QuickFacts, Pharmacia Biotech AB, 1994
甲第5号証 2012.5.7付け、BLANK, Gregory S.博士の陳述書
甲第6号証 国際公開第92/18629号
甲第7号証 HORIBAウエブサイトのプリントアウト「水の中のイオンと導電率」
甲第8号証 特表2000-500649号公報

4 証拠の記載
(1) 甲第1号証
ア 表題
「プロテインAをベースとした抗体精製プロセス開発の間の検討事項」
イ 要約部
「抗体精製プロセスにおけるスケールアップ変更により、最終製品の純度を上げ、プロセスをより安定化させ、及び、処理時間を短縮させることができる。このケーススタディは、最初の精製工程であるプロテインAクロマトグラフィーに焦点を当て、数年にわたる多くの様々な抗体に関するプロセス開発作業から集められたデータを提示するものである。」(14ページ左欄)
ウ 導入部
「この記事で、我々は、プロテインAをベースとした抗体精製プロセスの開発に関する、様々な検討事項に関する総論を提示する。その検討事項とは、操作制限(処理時間及び流速)、化学装置の適合性の検討事項(ステンレススチール)、及び、規制当局による制限(原材料源)と多岐にわたる。リツキサンが市場に現れて以来、IDEC社は、他の抗体をいくつか開発している(それらは現在、様々な臨床試験のステージにある)。抗体製品のパイプラインが拡充されることにより、精製プロセス開発も、数種類の方法で改善されている。リツキサンの精製スキームには、プロテインAセファロース(異議決定注:登録商標。以下、「セファロース」が登録商標であることの表示は省略する。)FF捕捉工程、次いで、限外ろ過/透析ろ過(UF/DF)濃縮、アニオン交換、及び、最終製剤工程が含まれていた。我々は、最近の学会で、リツキサン精製プロセスの開発に関して議論を行った(6)。そのプロセスにとって重要なことは、プロテインAクロマトグラフィー工程の間に、回収した細胞培養液からウシIgGを除去するための洗浄を行うことであり、及び、さらにDNAを除去するためのアニオン交換膜吸着体の検証である。いくつかの工程を変更することにより、再現性の改善、原材料のコスト低減、製品の純度の改善、及び、処理時間の短縮がもたらされた。」(14ページ右欄13行?15ページ左欄4行)
エ 「プロセス開発に関する検討事項」
「プロセス改善の努力は、処理時間、力価へのキャパシティ依存、樹脂コスト、エンドトキシン除去法、高い抗体濃度の凝集作用、関連する世界的な規制、ならびに、化学物質及び装置の適合性に払われるべきである。」(15ページ左欄6?11行)
オ 「プロセス変更-実例」
(ア) 「IDEC社で我々が実装した抗体精製プロセスには、以下の変更が含まれた。」(16ページ右欄27?28行)
(イ) 「プロテインA樹脂」
「我々は、当初の捕捉工程で用いられた樹脂を、圧縮性のプロテインAセファロースFFから、より固いProsep(異議決定注:登録商標。以下、「Prosep」が登録商標であることの表示は省略する。)-rA樹脂(近年の規制を満たすために、組換えプロテインAリガンドを用いて作製された)へと変更した。」(16ページ右欄29?33行)
(ウ) 「スケールアップの単純化」
「・・・典型的には、主要な操作目的は、ポンプ制約が製造中に悪化することに注意を払いながら、最初のプロテインAクロマトグラフィー工程を12時間未満で終了させることである。より浸透性の高いものを用いることにより、Prosep-rA樹脂は、その処理時間をより容易に達成させる。このスケールアップ戦略の成功は、図3及び4に図示されており、両方の開発(実験室スケール)及び臨床製造(データは約10ロットから)由来のプロセス中間物質における、2つの不純物のレベルを比較している(1ppm=製品1mg当たり不純物1ng)。両スケールでのデータの適合性から、我々のプロセスが予想通りに行われたこと、及び、我々の全体的なスケールアップ戦略が成功したことが示される。」(18ページ右欄33?47行)
(エ) 図3

(オ) 「カチオン交換クロマトグラフィー」
「プロテインAベースのクロマトグラフィープロセスは安定しており、上流の原料の変動性を低減するが、プロテインAカラムから下流の精製プロセスの安定性を上げることも重要である。我々は、カチオン交換クロマトグラフィーカラムを加えることにより、安定性を増加させることに成功した。追加カラムにより、プロテインAカラムとアニオン交換による精製を補完する。新たなプロセスと古いプロセスを比較すると、カチオン交換クロマトグラフィー工程により宿主細胞タンパク質と小分子量不純物がさらに除去されたことが示された。最終バルク薬剤中の宿主細胞タンパク質濃度は、HCCFのレベルよりも4logs低い。また、カチオン交換カラムによりウイルスがさらに除去され、最終製剤化UF/DFの前の濃縮工程としても役立つ。カチオン交換クロマトグラフィーは、抗体プールから溶出プロテインAリガンドも除去する(11)。
IDEC社の臨床パイプラインの抗体に対する我々の精製プロセスに数点の変更を行うことにより、我々は、リツキサン製造のFDA承認プロセスを改善した。この変更により、プロセスの安定性が増し、製品の最終純度が上昇した一方で、処理時間は短縮された。」(20ページ中央欄10?35行)

(2) 甲第2号証
ア 表題
「製薬抗体の工業用精製:クロマトグラフィープロセスの開発、操作、及びバリデーション」
イ 「はじめに」
(ア) 「組換えモノクローナル抗体は、バイオテクノロジー業界にとって大きな成功になってきている。これらは、現在、種々の疾患を治療するための多くの臨床試験で研究されており、最近、いくつかのものは、癌を治療するために承認されている(・・・)。異なるタイプの細胞株で産生された、いくつかのタイプの抗体があるが、最も臨床的に重要な抗体は、CHO細胞中で産生された完全長ヒトIgG_(1)である。このレビューは、クロマトグラフィープロセスに焦点を当て、工業規模でのこれらの抗体を精製するために使用する方法を記述し、特にジェネンテック社での最近の研究に関連する。」(301ページ11?19行)
(イ) 「回収の観点からは、CHO細胞中で産生された抗体を使用する最も重要な利点の一つは、ほとんど又は全く変異体を回収中に除去する必要がないように、産物に関連する変異体のレベルが、細胞培養中に効果的に制御することができるということである。細胞培養中のこのレベルの制御は、合埋化された3工程の回収プロセスの使用を可能にする。産物に関連する変異体の除去に焦点を当てる代わりに、プロセスは、ウイルス、DNA、宿主細胞タンパク質、エンドトキシン、及び小分子などの薬学的不純物のクリアランスに関係する。この回収プロセスは、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィーから成る。」(302ページ35?43行)
ウ 「抗体回収」
(ア) 「単一のクロマトグラフィー工程では必要な抗体の純度を達成することができないので、3つのプロセス工程を、純度、収量、スループットの要件を満たすために一体化しなければならない。また、プロセスは、バリデーションに対して、堅牢で、信頼性が高く、従順でなければならない。
主な考慮事項は、純度である。収量やスループットが経済的に実行可能な産物のために必要かもしれないが、生物学的医薬品に対する純度の要件を満たすことなしには、産物はあり得ない。抗体のための多くの臨床的適応は非常に高用量を必要とするので、スループットと収量がより重要になってきている。」(302ページ45行?303ページ8行)
(イ) 「純度の考慮事項」
a 「製薬抗体はいくつかのタンパク質の精製を複雑にする産物関連の変異体の除去を必要としないが、他の純度要件が極端である。製薬抗体の回収のための6つの主な純度考慮事項がある。」(303ページ11?14行)
b 「3.凝集体」
「減少させなければならない主な産物関連変異体は、凝集体の可能な免疫原性のための抗体(主に二量体)の凝集形態である。HCCF中の凝集体含量は、多くの抗体では約5?15%であり、そしてそれは、一般的には、最終的なバルクでは0.5%以下に減少される。凝集体を除去するために使用される主要な工程は、陽イオン交換クロマトグラフィーである。」(304ページ5?9行)
c 「5.浸出プロテインA」
「プロテインA親和性クロマトグラフィーの間、いくつかのプロテインAはカラムから浸出し、抗体のプールに行き着く。プロテインAは、免疫原性であることと、他の生理的反応(・・・)を引き起こすことがあるので、浸出プロテインAは、下流のクロマトグラフィーの間に除く必要がある。」(304ページ38?41行)
(ウ) 「三工程の回収プロセス」
a 「純度、収量、及びスループット要件は、三つのクロマトグラフィー手順を用いて達成することができる:プロテインAアフィニティークロマトグラフィー、次いで陽イオン交換クロマトグラフィー、次いで陰イオン交換クロマトグラフィー。プロテインA及び陽イオン交換クロマトグラフィーは結合-溶出モードで実行され、一方、陰イオン交換クロマトグラフィーは、フロースルーモードで実行される(約8より大きいpIを備えた抗体に対して)。この順序でこれらのモードで実行すると、純度の要求を満たすことができる高収量のプロセスを生成する(表12.1)。」(305ページ31?37行)
b 「プロセスの第1の工程は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーである(図12.1)。精製の大部分は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーの間に起こり(表12.1)、それは宿主細胞タンパク質、DNA、及びエンドトキシンをクリアする。また、それはインスリン及びプルロニック(異議決定注:登録商標)F-68を検出可能なレベル未満に除去する。しかしながら、それは凝集体をクリアせず、プロテインAをプールに追加する。」(306ページ5?9行)
c 「我々の3工程のプロセスでは、収集した細胞培養液は、プロテインAカラムに直接負荷される。」(307ページ11?12行)
d 「陽イオン交換クロマトグラフィー(図12.2)が第2の工程である。それはクロマトグラフィー媒体に固定化された負に荷電した基(一般にスルホプロピル)を使用する。陽イオン交換クロマトグラフィーは、宿主細胞タンパク質、凝集体、及び浸出プロテインAをクリアする(表12.2)。抗体は、カラム上の負に帯電した部位に結合し、それは塩濃度を段階的に高くする溶出法により溶出される。抗体が溶出した後、宿主細胞タンパク質、凝集体、及び浸出プロテインAは、再生期で溶出する。陽イオン交換カラムは、>40g/lでロードすることができ、それは抗体のバッチが妥当なサイズのカラム上で単一サイクルで精製されるのを可能にする。
陰イオン交換クロマトグラフィー(図12.3)は、最後のクロマトグラフィー工程である。それは、クロマトグラフィー媒体上に固定化された正に荷電した基(通常は第四級アミン)を使用する。陰イオン交換クロマトグラフィーは、フロースルーモードで実行することができ、それは不純物が結合しながら、抗体産物がカラムを通って流れることを意味する。それは、DNAと残留宿主細胞タンパク質を除去する。これらの不純物は、再生工程、一般的には0.5から1MのNaOHを用いてカラムから除去される。」(307ページ16行?308ページ8行)
エ 「陽イオン交換クロマトグラフィー」
「開発と操作
陽イオン交換クロマトグラフィーは、組換え抗体のための中間の精製工程として使用される。プロテインAアフィニティー工程は、宿主細胞タンパク質、DNA、及びエンドトキシンの量を大きく減少させるが、これらの不純物をさらに除去する必要がある。また、プロテインAアフィニティ一工程は、凝集体のレベルを低下させず、プロテインA分子を精製された抗体に導入する。陽イオン交換クロマトグラフィーは、宿主細胞タンパク質、DNA、エンドトキシン、凝集体、及び浸出プロテインAのレベルを低下させる。」(315ページ7?14行)
オ 「陰イオン交換クロマトグラフィー」
「開発と操作
多くの抗体の等電点は高い(しばしば>8そして時には>9)、従ってフロースルーモードでの陰イオン交換クロマトグラフィーの実行は、高いpIを備えた抗体の最終的な精製のための高収量の方法を提供する。約8より小さいpIを備えた抗体に対し、陰イオン交換クロマトグラフィー工程は、浸出プロテインAの付加的な除去といったフロースルーモードに勝る利点を提供し得る、結合-溶出モードで実行することができる。
フロースルーモードによる陰イオン交換クロマトグラフィーでは、ローディングバッファーのpHは抗体のpIより約0.5-1pH分下方に設定して調整し、抗体はカラムに送り込まれる。ローディングバッファーのpHは抗体のpIよりも小さいので、抗体は貫流する。ほとんどの宿主細胞タンパク質のpIはローディングバッファーのpHよりも小さいので、ほとんどの宿主細胞タンパク質はカラムに結合する。これらの条件下で、DNA及びエンドトキシンもカラムに強く結合する。精製された抗体は、それがカラムを通過後に収集され、不純物は再生期中にカラムから除去される。
フロースルー段階の開発は簡単である。抗体は、様々なpHと導電率でカラムを貫通させられる。一般に、pHの任意の値で、導電性を減少させることは、宿主細胞タンパク質のクリアランスを増加させる。陽イオン交換プールの導電率は比較的高くなることがあるので(>12mS/cm)、陰イオン交換カラムのローディングバッファーの導電率は、陽イオン交換プールの水での希釈によって制御される。希釈後、pHは適切な値に調整される。」(322ページ2?24行)
カ 「結論」
「医薬としてのモノクローナル抗体の増加する使用と共に、堅牢で、信頼性が高く、費用対効果の高いプロセスに対する必要性がある。全体の製造システムの中心部として、我々が記述した3段階の回収プロセスは、純度、スループット、及び収量の要件を満たすことができる。プロテインAアフィニティー、陽イオン交換、及び陰イオン交換クロマトグラフィー工程の統合は、宿主細胞タンパク質、DNA、エンドトキシン、ウイルス、小分子、及び凝集体の十分なクリアランスを提供することができる。」(325ページ11?17行)

(3) 甲第3号証
ア 表題
「8 治療用抗体の製造」
イ 「7 主な回収」
「主な回収は、精製プロセスに用いる細胞含有培地の収集を含む。」(262ページ右欄45?47行)
ウ 「8 抗体の精製」
(ア) 「8.1 純度要件」
「8.1.1 タンパク質汚染物質
FDAが発行した1994年草稿、『Points to Consider in the Manufacturing and Testing of Monoclonal Antibody Products for Human Use』(・・・)は、『可能なら必ず、汚染物質は、mAbに関して重量基準で表して1ppmを検出できる高感度のアッセイを使用して検出可能なレベル未満であるべきである』を提案している。・・・この手法は、任意の細胞培養培地添加剤、例えば、ウシ血清アルブミン、トランスフェリン、メトトレキセート又はクロマトグラフィーカラムから浸出したプロテインA又はG分子のようなプロセス関連汚染物質などの量を測定するために必要とされるようである。・・・幸運にも、無血清又はタンパク質を含まない培地で成長した高度に生産的な細胞系統では、純度目標を達成することは通常困難すぎることはない。これは、特に、アフィニティークロマトグラフィーが1種又はそれ以上のイオン交換分離と併せて使用される場合に真である。」(264ページ右欄2行?265ページ左欄7行)
(イ) 「8.4 精製方法」
「遺伝子工学技法によるタンパク質生成物に親和性の尾部を加えることが、精製を容易にする手段として使用されてきた(・・・)。幸運にも、IgG抗体は、広く使用可能で、十分特徴付けられたリガンドと相互作用する作り付けの親和性尾部を有し、アフィニティークロマトグラフィーを特に魅力的な選択肢にする。・・・プロテインAのアフィニティークロマトグラフィーは・・・その不利な点(例えば、高コスト及びプロテインAの漏出)の大部分は、注意深いプロセス設計により比較的容易に克服することができる。・・・プロテインAのアフィニティークロマトグラフィーのさらなる利点は、非常に広範囲のプロセス条件に対する非常に堅牢なプロセスに役立つその耐性である(・・・)。例えば、プロテインAは、伝導性、pH及び装填の変動に対して、イオン交換又は疎水性相互作用クロマトグラフィーよりもはるかに影響を受けにくい(・・・)。その結果として、治療用抗体の精製プロセスの多くは、現在プロテインA又はGマトリックスを利用している。
抗体精製のためのさらに他の一般的に使用される方法は、イオン交換クロマトグラフィーである(・・・)。多くのプロセスは、95%を超える抗体純度を得るために、アフィニティー工程を最初に使用し、漏出したアフィニティーリガンドを含む残存する痕跡量の不純物を除去するために、1回又はそれ以上のイオン交換工程を続いて使用するので、アフィニティークロマトグラフィーとイオン交換クロマトグラフィーは、相補性技法である。優れたカラム洗浄手順では、プロテインA又はプロテインGのアフィニティー工程の後に、高感度の銀染色で可視化したときでさえSDS-PAGEゲル上でただ1つの抗体に関するバンドを見ることができる非常に清浄な製剤を得ることは珍しくない。これは、細胞がタンパク質を含有する細胞培養培地で成長するときでさえ、通常可能である。細胞培養培地がウシ血清を含有する場合、ポリクローナル混合物中のこれらの抗体の一部が細胞系統により産生されるモノクローナル抗体と同様な化学的性質を有するであろうから、血清から誘導されたウシポリクローナル抗体のために提案された1ppmという目標のスペックに達することは困難であり得る。しかし、治療用抗体を生産するために使用される大部分の細胞培養培地は無血清であり、それ故、関係のない抗体の除去は必要とされないはずである。それにも拘わらず、必要とあれば、目標抗体から離れて、ウシ抗体の一部を分画することは、イオン交換又は疎水性相互作用クロマトグラフィーなどの従来のクロマトグラフィーの手段により可能である。
陰イオン交換体は、DNA、BSA、エンドトキシン及びある種のウイルスに結合するので、陰イオン交換工程は、プロテインA又はGクロマトグラフィーに続く工程の1つとしてしばしば使用される(・・・)。等電点の高い塩基性の抗体については、DEAE又は第四級アンモニウム樹脂を使用し、DNA及び他の不純物は強く結合するが抗体はカラムを貫流するpH及びイオン条件を選択することが可能である。樹脂は痕跡量の不純物のみを結合するために使用され、精製物は未結合分画中に収集されるので、単純で高容量のプロセスがもたらされる。第3のクロマトグラフィー工程は、特に、不純物又はウイルスのさらなる除去が必要な場合、又は抗体が凝集する傾向を有する場合に、しばしば追加される。ヒト抗体の凝集物でさえ免疫原性である可能性があるので、精製された抗体製剤は、抗体凝集物の含有率が非常に低くなければならない。それ故、対象とする抗体が細胞培養段階又はその後の工程で凝集する傾向があれば、その場合には、サイズ排除の第3のクロマトグラフィーの工程がしばしば含まれる。しかし、サイズ排除クロマトグラフィーは比較的大きいカラムを必要とする遅いプロセスである。それ故、可能ならば必ず最初に凝集物の形成を阻害するなどの代替戦略を探すことが勧められる。
とはいえ、治療用の抗体の比較的小さい、例えば、100gまでのバッチについては、親和性工程、イオン交換工程及びサイズ排除工程:
プロテインA/Gアフィニティークロマトグラフィー

イオン交換クロマトグラフィー

サイズ排除クロマトグラフィー
を利用する簡単な3工程のプロセスを使用することが可能である。哺乳動物細胞系統から治療用抗体を精製するために、1つ以上のウイルス除去及び不活化工程を精製スキームに導入することができる。このプロセスにより精製されたバルク生成物は、大部分の治療用途のための純度要件を満たすと思われ、剤形化及び瓶詰めに用いられる。」(267ページ左欄4行?268ページ左欄25行)

(4) 甲第4号証
「最終生成物からの浸出プロテインAの除去
多くのモノクローナル抗体の適用では、浸出プロテインA又はプロテインGを最終生成物から排除する必要がある。ファルマシア・バイオテク社は、この問題を解決するために数多くのクロマトグラフィー問題解決策を提供する。
サイズ排除クロマトグラフィーを、プロテインA除去のために2つの異なる方式で適用することができる(図4)。穏やかなpH及び導電率条件下での分離は、定量的分画を実現するのが困難な場合があるが、それを実施することにより、プロテインA-IgG凝集物を除去することができる。特定のモノクローナル抗体がプロテインAから完全に解離されることが知られているpH条件の下で、サイズ排除を実施することもできる。これは、より良好な分画を提供するが、抗体を低pH条件に長時間暴露することで、活性損失及び凝集のリスクも上昇する。
残留するプロテインAは、イオン交換クロマトグラフィーにより効果的に除去することができる(図5)。陽イオン交換クロマトグラフィーは、特定のモノクローナル抗体が強い陽イオン交換結合特性を有する場合に、非常に効果的に作用する。抗体がプロテインAを解離することが知られているpHで、分析を実施する。プロテインAは、陽イオン交換物質とわずかしか結合せず、グラジエントの早期に溶出される。この技術の相対速度、キャパシティー及びスケーラビリティーによって、この技術は低pHでのサイズ排除クロマトグラフィーに好適とされる。
陰イオン交換もまた、浸出プロテインAの混入を減少させるのに用いることができる。その有用性は、陽イオン交換と同様に、プロテインA及びモノクローナル抗体の相対的結合特性に依存する。陰イオン交換は、陰イオン交換物質に弱く保持される抗体で最良に作用する。プロテインAによる強い陰イオン交換結合特性により、プロテインA-IgG複合体は、非複合体化抗体よりも強く保持される傾向がある。これらの複合体は、一般に、分離したピークを形成せず、多くの場合、トレーリングショルダーを示す。陰イオン交換が複合体化プロテインAを除去する能力を計測するために、カラムを0.05M トリス、pH8.6に平衡化して試料をアプライし、0.25M NaCl(0.05M トリス、pH8.6)で終了するリニアグラジエントで溶出する。抗体ピークの分画を回収し、プロテインAについてスクリーニングする。」(3ページ左欄図2の下16行?4ページ右欄6行)

(5) 甲第6号証
ア 「〔発明の名称〕 組換え3F8型抗体
本発明は、一連の組換え抗体:組換えマウスモノクローナル3F8及びマウスーヒトキメラ形態の組換え3F8、並びにそれらの使用に関する。」(1ページ3?7行、異議決定注:ページ及び行の数は証拠の欄外に示された数値による。)
イ 「本発明に従って、調整培地から、まず陽イオン交換樹脂、例えばS-セファロース、次にセファロース-プロテインA、を使ったクロマト法により、活性を持った組換え3F8型抗体を精製することができる。更なる精製、濃縮、そして必要なら、陰イオン交換樹脂、例えばQ-セファロース、次にもう一度陽イオン交換体、例えばS-セファロースを使ったクロマトグラフィーと、例えばセファクリル(異議決定注:登録商標。以下、「セファクリル」が登録商標であることの表示は省略する。)S300を使ったゲルろ過により、緩衝と交換を達成することができる。キメラ3F8型抗体は、上記以外の標準的なクロマト法、例えば、疎水性相互作用、混合モード、陰イオン交換及びヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによりさらに精製することができる。」(4ページ27行?5ページ1行)
ウ 「本発明に従って、天然のマウスモノクローナル抗体3F8(mab3F8)の軽鎖及び重鎖をコードするcDNAをクローン化した。当該天然のマウス抗体はIgG3κである。」(7ページ25?28行)
エ 「実施例3 - 組換え3F8型抗体の発現
A.組換え3F8構築物のCOS細胞における一時的発現
上記の組換えマウス及びキメラ3F8軽鎖及び重鎖遺伝子をDEAEデキストランを用いて最初にCOS-1サル細胞(クローンM6)中に共発現させ、次にDMSOショック処理とクロロキンインキュベーションを連続して行った。
マウス及びキメラ3F8型抗体を二つの方法で検出した。最初に、形質導入後の2日又は3日間のインキュベーションで調整培地中に分泌された抗体を定量するために、ELISAシステムを確立した。・・・調整培地は細胞残せつを除去するためにルーチンの条件で遠心分離し、上清を-80℃で保存した。IgG3標品及び調整培地の新鮮な解凍物をELISAに使用した。」(19ページ8?31行)
オ 「実施例4 - 組換え3F8型抗体の精製
A.組換えマウス3F8型抗体の精製
本法の一例を述べると、組換えマウス3F8型抗体を含む調整培地を氷酢酸でpH5.0に調節し、次にこの培地を25mM 酢酸、0.15M NaCl、pH5.0にて平衡化したS-セファロースカラムにロードする。このカラムを平衡化バッファーで洗浄し、その後25mM 酢酸、0.5M NaCl、pH5.0にて溶出する。部分的に精製されたマウス3F8型抗体の溶出プールを、75mM 酢酸並びに総タンパク濃度0.5mg/mlまで調節することにより、pH調整前に抗体を確実に溶解させる。溶出プールは次に1M トリス塩基を用いてpH8.0になるまで滴定する。この物質を50mM グリシン、1M NaCl、pH8.8にて平衡化したセファロース-プロテインAのカラムに充填する。このカラムを50mM グリシン、pH8.8で洗浄し、次に75mM 酢酸、0.13M NaCl、pH4.0で溶出する。溶出液を総タンパク濃度0.5mg/mlに調節し抗体を確実に溶解させ、次に1M トリスHCl、pH9.0でpH8.0まで滴定する。この物質を10mM トリス、75mM 酢酸、0.1M NaCl、pH8.0で平衡化したQ-セファロースカラムにロードする。このカラムを同バッファーで洗浄し、貫流液(これにはマウス3F8型抗体が含まれる)をプールする。得られたプールを氷酢酸でpH5.0に調節し、75mM 酢酸、0.1M NaCl、pH5.0にて平衡化したS-セファロースのカラムにロードする。このカラムを最初は平衡化バッファー、次に50mM リン酸ナトリウム、pH6.0にて平衡化し、その後50mM リン酸ナトリウム、0.5M NaCl、pH6.0にて溶出する。3F8を含むフラクションをプールする。」(21ページ26行?22ページ14行)

5 取消理由(1)(特許法第29条第1項第3号違反)について
(1) 甲6発明
前記4(5)エ及びオより、甲第6号証には、
「(a)組換えマウス3F8型抗体を発現するCOS細胞をインキュベーションした調整培地の上清を得る工程;(b)前記工程(a)において得られた上清をS-セファロースカラムにロードし、抗体を溶出する工程;(c)前記工程(b)において得られた抗体を含む溶出液をセファロース-プロテインAカラムにロードし、75mM 酢酸、0.13M NaCl、pH4.0で抗体を溶出する工程;(d)前記工程(c)において得られた抗体を含む溶出液を1M トリスHCl、pH9.0でpH8.0に調整後、10mM トリス、75mM 酢酸、0.1M NaCl、pH8.0で平衡化したQ-セファロースカラムにロードし、同バッファーでカラムを洗浄し、抗体が含まれる貫流をプールする工程;及び、(e)前記工程(d)において得られた抗体を含む貫流のプールを、S-セファロースカラムにロードし、抗体を含むフラクションを溶出する工程;を具備する組換えマウス3F8型抗体の精製方法」についての発明(以下、この発明を「甲6発明」という。)が記載されているということができる。

(2) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲6発明との対比
本件発明1と甲6発明を対比する。
甲6発明におけるS-セファロースカラム及びQ-セファロースカラムは、前記4(5)イより、それぞれ、陽イオン交換材料及び陰イオン交換材料である。そして、甲6発明の工程(a)における組換えマウス3F8型抗体を発現するCOS細胞をインキュベーションした調整培地の上清は抗体を含むものであるところ、これは本件発明1の工程(a)における細胞培養物に相当する。
そうしてみると、本件発明1と甲6発明は、
「(a)細胞培養物から抗体を収集する工程;(b)抗体をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製する工程;(c)前記プロテインAアフィニティークロマトグラフィーから結合した抗体を溶出することにおいて、精製された抗体を得る工程;(d)前記工程(c)において得られた当該精製された抗体をQ-セファロースに対してロードし、当該抗体を貫流中に維持する工程、ここにおいて、前記抗体を貫流中に保持する条件が、pH8.0のバッファーを使用することを含む;(e)前記工程(d)において得られたQ-セファロースの貫流中の当該抗体を回収する工程;および(f)前記抗体を、S-セファロースにロードし、結合させ、溶出することによって、前記抗体を更に精製する工程;を具備する抗体の精製方法」である点において一致し、
プロテインAアフィニティークロマトグラフィー材料にロードする被精製物が、本件発明1では、細胞培養物から収集された抗体であるのに対し、甲6発明では、細胞培養物から収集され、その後、陽イオン交換材料であるS-セファロースにより精製された抗体である点(相違点1)、本件発明1では、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによる精製工程でプロテインA汚染物質を含む抗体が得られ、このプロテインA汚染物質は陰イオン交換材料(Q-セファロース)を使用し、当該プロテインA汚染物質を当該陰イオン交換材料に結合させるのと同時に、抗体は貫流中に維持することが可能な条件を満たすローディングバッファーを使用して除去するのに対して、甲6発明には、プロテインAによる精製工程でプロテインA汚染物質を含む抗体が得られる点及びこのプロテインA汚染物質をQ-セファロース(陰イオン交換材料)による工程で除去することは記載されていない点(相違点2)、及び、Q-セファロースによる精製工程において使用するバッファーが、本件発明1では、1?150mMの濃度の置換塩を有するのに対し、甲6発明では、直前の溶出で使用した溶液には130mMの塩素イオンを含むものの、その後、トリスHClを使用してpHを4.0から8.0に調整していることから、当該Q-セファロース精製工程において使用するバッファー中の置換塩の濃度が1?150mMの範囲内であるか不明である点(相違点3)において相違する。
イ 判断
このように、本件発明1と甲6発明の間には相違点があることから、本件発明1が甲第6号証に記載された発明ということはできない。
上記相違点1について、異議申立人は、本件明細書の実施例では、細胞培養物からの抗体の収集とプロテインAアフィニティクロマトグラフィーの間に、遠心分離、深層ろ過、及び限外ろ過による濃縮と培養液交換の工程を含むところ、これらの工程は本件発明1では明記されていないことから、本件発明1は追加の工程の存在を許容しているので、相違点1は相違点にはならないと主張する。
しかし、本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、工程(b)で「前記工程(a)において収集された抗体を」と記載されており、本件発明1の工程(a)と工程(b)の間に、陽イオン交換材料であるS-セファロースによる精製工程が存在しないことはその特許請求の範囲の記載から明らかである。したがって、申立人の主張を採用することはできない。
したがって、上記相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1が特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたということはできない。
(3) 本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は、本件発明1を更に限定するものであるところ、前述のとおり本件発明1が甲第6号証に記載された発明ということはできないので、本件発明2ないし10も甲第6号証に記載された発明ということはできず、これら発明も特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。

6 取消理由(2)(特許法第29条第2項違反)について
(1) 甲第6号証を主引用例とする場合
ア 甲6発明、及び本件発明1と甲6発明との対比
甲6発明は前記5(1)のとおりであり、本件発明1と甲6発明との相違点は前記5(2)アのとおりである。
イ 判断
相違点1について検討する。甲第6号証には、「本発明に従って、調整培地から、まず陽イオン交換樹脂、例えばS-セファロース、次にセファロース-プロテインA、を使ったクロマト法により、活性を持った組換え3F8型抗体を精製することができる。更なる精製、濃縮、そして必要なら、陰イオン交換樹脂、例えばQ-セファロース、次にもう一度陽イオン交換体、例えばS-セファロースを使ったクロマトグラフィーと、例えばセファクリルS300を使ったゲルろ過により、緩衝と交換を達成することができる。」(前記4(5)イ)と記載されているように、甲第6号証では、甲6発明として認定した精製工程中、最初のS-セファロースによる精製(工程(b))及びセファロース-プロテインAによる精製(工程(c))を必須の工程として認識し、その後の、Q-セファロースによる精製(工程(d))及びS-セファロースによる精製(工程(e))は必要であれば行う工程として認識している。そうしてみると、甲第6号証に接した当業者は、甲6発明における必須の工程である最初のS-セファロースによる工程を省いて抗体の精製を行うことを想到することはなく、上記相違点1を当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1が甲第6号証に記載された発明から容易に想到することができたということはできない。
本件発明2ないし10は、本件発明1を更に限定するものであるところ、前述のとおり本件発明1が甲第6号証に記載された発明から容易に想到することができたということはできないので、本件発明2ないし10も甲第6号証に記載された発明から容易に想到することができたということはできない。
(2) 甲第1号証を主引用例とする場合
ア 甲1発明
甲第1号証には、「カチオン交換クロマトグラフィーは、抗体プールから溶出プロテインAリガンドも除去する」と記載されており、「溶出プロテインAリガンド」が不純物として認識されているところ、このプロテインAリガンドは、プロテインAクロマトグラフィー工程においてプロテインAカラムから溶出したものと認められる。また、甲第1号証の図3におけるHCCFは、甲第1号証16ページ右欄51行の記載から収集した細胞培養液を意味する。そうしてみると、甲第1号証には、
「(a)細胞培養液(HCCF)を収集する工程;(b)組換えプロテインAリガンドを用いて作製されたProsep-rA樹脂を使用するプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製する工程;(c)前記プロテインAアフィニティークロマトグラフィーから結合した抗体を溶出することにおいて、溶出プロテインAリガンドを含む精製された抗体を得る工程;(d)アニオン交換クロマトグラフィーにより精製する工程;及び、(e)カチオン交換クロマトグラフィーで精製することにより抗体プール中の溶出プロテインAリガンドを除去する工程;を具備する抗体の精製方法。」についての発明(以下、この発明を「甲1発明」という。)が記載されているということができる。
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明におけるアニオン交換、カチオン交換及び溶出プロテインAリガンドは、それぞれ、本件発明1における陰イオン交換、陽イオン交換及びプロテインA汚染物質に相当する。また、本願の請求項2は、「プロテインAが天然のプロテインAまたは組換え型プロテインAである」と記載されているので、甲1発明における組換えプロテインAリガンドを用いて作製されたProsep-rA樹脂は、本件発明1におけるプロテインAアフィニティークロマトグラフィーで使用する材料に包含される。
そうしてみると、本件発明1と甲1発明は、
「(a)細胞培養物から抗体を収集する工程;(b)前記工程(a)において収集された抗体をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、プロテインA汚染物質を含む精製された抗体を得る工程;(c)前記工程(b)において得られた抗体を陰イオン交換材料によるクロマトグラフィーにより精製する工程;(d)前記工程(c)において得られた抗体を陽イオン交換材料によるクロマトグラフィーにより精製する工程;を具備する抗体の精製方法。」である点において一致し、
プロテインAアフィニティークロマトグラフィーの工程で生成したプロテインA汚染物質が、本件発明1では陰イオン交換材料を使用し、当該汚染物質が陰イオン交換材料に結合し、かつ、抗体は貫流中に保持することによる精製工程において除去され、また、本件発明1では、当該工程において使用するローディングバッファーが「1?150mMの濃度の置換塩」を有し、「pH6.5?9.0」であると特定しているのに対して、甲1発明ではプロテインA汚染物質は陽イオン交換材料による精製工程において除去されるものの、甲1発明における陰イオン交換材料による精製工程ではプロテインA汚染物質が除去されるか不明であり、また、その際のローディングバッファーの条件も不明である点において相違する。
(イ) 判断
甲第1号証には、プロテインA汚染物質は陽イオン交換材料によるクロマトグラフィーの工程で除去されることが明記されている(前記4(1)オ(オ))ので、甲第1号証に接した当業者は、甲1発明の陰イオン交換(アニオン交換)クロマトグラフィーによる工程でプロテインA汚染物質を除去することを想到しない。そうしてみると、上記相違点を当業者が容易に想到することができたということはできない。
この点について、申立人は、甲第2ないし4号証の教示から、陰イオン交換クロマトグラフィーを使用することにより抗体中のプロテインA汚染物質が除去できることは自明であると主張する。しかし、甲第2号証においても、陽イオン交換クロマトグラフィーの工程でプロテインA汚染物質を除去する旨が記載されている(前記4(2)ウ(ウ)d及びエ)し、甲第2号証では、陰イオン交換クロマトグラフィー工程によりプロテインA汚染物質を除去できるのは、約8より小さいpIを備えた抗体であって、かつ、本件発明1のフロースルーモードとは異なる結合-溶出モードで実行する場合である(前記4(2)オ)。また、甲第3号証では、プロテインA汚染物質をイオン交換クロマトグラフィーにより除去することは記載されている(前記4(3)ウ(イ))が、陰イオン交換クロマトグラフィーの工程で除去することは甲第3号証には明記されていない。加えて、甲第4号証には、陽イオン交換クロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィーのいずれを使用しても、プロテインA汚染物質を減少させることが可能である旨は記載されているものの、いずれのクロマトグラフィーによるかは、「プロテインA及びモノクローナル抗体の相対的結合特性に依存する」と記載されているところ、先に述べたように、甲第1号証では陽イオン交換クロマトグラフィーによりプロテインA汚染物質を除去することが記載されているのであるから、当業者が甲第4号証の記載に接したとしても、甲1発明の陰イオン交換クロマトグラフィーによる工程でプロテインA汚染物質を除去するとは考えない。
以上のとおりであるから、甲第1号証に記載された発明に甲第2ないし4号証の記載を参酌しても、本件発明1を当業者が容易に想到することができたということはできない。
ウ 本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は、本件発明1を更に限定するものであるところ、前述のとおり本件発明1が甲第1号証に記載された発明から容易に想到することができたということはできないので、本件発明2ないし10も甲第1号証に記載された発明から容易に想到することができたということはできない。

(3) 甲第2号証を主引用例とする場合
ア 甲2発明
前記4(2)のイ(イ)、ウ(イ)c、ウ(ウ)、エないしカより、甲第2号証には、
「(a)細胞培養液を収集する工程;(b)工程(a)において収集された細胞培養液をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製する工程;(c)前記プロテインAアフィニティークロマトグラフィーから結合した抗体を溶出することにおいて、浸出プロテインAを含む精製された抗体を得る工程;(d)前記工程(c)において得られた当該浸出プロテインAを含む精製された抗体を陽イオン交換材料に対してロードし、抗体及び浸出プロテインAを前記陽イオン交換材料に結合させ、まず、抗体を溶出し、その後、浸出プロテインAを溶出することにより、浸出プロテインAのレベルを低下させる工程;及び、(e)前記抗体を、陰イオン交換材料に対してロードし、不純物が結合しながら抗体がカラムを通って流れるフロースルーモードで抗体を更に精製する工程、ここにおいて、抗体を貫流中に保持する条件が、導電率が7.5mS/cm未満に、pHが抗体のpIより約0.5-1pH分下方に調整したローディングバッファーを使用する;を具備する抗体の精製方法。」についての発明(以下、この発明を「甲2発明」という。)が記載されているということができる。
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における浸出プロテインAは本件発明1におけるプロテインA汚染物質に相当するので、両者は、
「(a)細胞培養物から抗体を収集する工程;(b)前記工程(a)において収集された抗体をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製する工程;(c)前記プロテインAアフィニティークロマトグラフィーから結合した抗体を溶出することにおいて、プロテインA汚染物質を含む精製された抗体を得る工程;により抗体を精製し、次いで、抗体を陽イオン交換材料に結合させた後に溶出する陽イオン交換材料による精製工程と、不純物を陰イオン交換材料に結合させ抗体は貫流中に維持する陰イオン交換材料による精製工程を組み合わせて行う、抗体の精製方法」である点において一致し、
本件発明1では、陰イオン交換材料による精製を行った後に、陽イオン交換材料による精製を行うのに対し、甲2発明では、陽イオン交換材料による精製を行った後に、陰イオン交換材料による精製を行う点(相違点1)、及び、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーの工程で生成したプロテインA汚染物質が、本件発明1では陰イオン交換材料を使用し、当該汚染物質が陰イオン交換材料に結合し、かつ、抗体は貫流中に保持することによる精製工程において除去され、また、本件発明1では、当該工程において使用するローディングバッファーが「1?150mMの濃度の置換塩」を有し、「pH6.5?9.0」であると特定しているのに対して、甲2発明ではプロテインA汚染物質は陽イオン交換材料による精製工程において除去され、甲2発明における陰イオン交換材料による精製工程ではプロテインA汚染物質が除去されるか不明であり、また、その際のローディングバッファーの置換塩の条件も不明である点(相違点2)で相違する。
(イ) 判断
まず、相違点1について検討する。
甲2発明は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィーの順序で精製を行うことにより、ウイルス、DNA、宿主細胞タンパク質、エンドトキシン及び小分子といった不純物を除去することができ、生物学的医薬品に対する純度の要件を満たす抗体が得ることが可能なものである(前記4(2)のイ(イ)及びカ)ところ、甲2発明には、そこで特定された工程の順序を入れ替えるという課題は存在しない。また、申立人が提出した証拠には、陽イオン交換クロマトグラフィーと陰イオン交換クロマトグラフィーの順序を入れ替えることにより、プロテインA汚染物質に対する精製度が向上することを示すものはない。そうしてみると、甲第2号証に接した当業者が、甲2発明において、陽イオン交換材料による精製工程と陰イオン交換材料による精製工程の順序を入れ替えた抗体の精製方法を想到するものではなく、本件発明1が容易に想到可能であるということはできない。
この点について、申立人は、タンパク質を生成する場合、より精製度を向上させるために、各工程の順序を入れ替えてみることは常道手段で、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー工程で既に汚染物質の大半が除去されているという状況下で、後の二つの工程の順番を入れ替えることは当業者に自明であると主張する。しかし、甲2発明で、陽イオン交換クロマトグラフィーと陰イオン交換クロマトグラフィーの順序を入れ替えた場合に精製度が向上するという合理的な根拠はないことから、当業者は、甲2発明における各工程の順序を入れ替えることを想到するものではなく、申立人の主張を採用することはできない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、甲第2号証を主引用例とした場合に、本件発明1を容易に想到することができたということはできない。
ウ 本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は、本件発明1を更に限定するものであるところ、前述のとおり本件発明1が甲第2号証に記載された発明から容易に想到することができたということはできないので、本件発明2ないし10も甲第2号証に記載された発明から容易に想到することができたということはできない。

(4) 甲第3号証を主引用例とする場合
ア 甲3発明
前記4(3)より、甲第3号証には、
「(a)細胞含有培地から抗体を収集する工程;(b)抗体をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製する工程、(c)前記プロテインAアフィニティークロマトグラフィーから結合した抗体を溶出することにおいて、漏出したプロテインAを含む精製された抗体を得る工程;及び、(d)漏出したプロテインAを含む不純物を除去するために、1回又はそれ以上のイオン交換クロマトグラフィーにより精製する工程;ここで、イオン交換クロマトグラフィーとして、DNA、BSA、エンドトキシン及びある種のウイルスに結合する陰イオン交換体を使用する場合には、DEAE又は第四級アンモニウム樹脂を使用し、DNA及び他の不純物は強く結合するが抗体はカラムを貫流するバッファーのpH及びイオン条件を選択する;を具備する抗体の精製方法」についての発明(以下、この発明を「甲3発明」という。)が記載されているということができる。
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における漏出したプロテインAは本件発明1におけるプロテインA汚染物質に相当するので、両者は、
「(a)細胞培養物から抗体を収集する工程;(b)前記工程(a)において収集された抗体をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製する工程;(c)前記プロテインAアフィニティークロマトグラフィーから結合した抗体を溶出することにおいて、プロテインA汚染物質を含む精製された抗体を得る工程;(d)前記工程(c)において得られた当該プロテインA汚染物質を含む精製された抗体をイオン交換材料に対してロードし、プロテインA汚染物質を除去する工程;を具備する抗体の精製方法。」である点において一致し、
イオン交換材料による精製工程として、本件発明1では、陰イオン交換材料を用いた抗体を貫流中に保持する条件による精製を行った後に陽イオン交換材料を用いた抗体を結合させ、その後溶出させる条件による精製を行うのに対して、甲3発明では、1回又はそれ以上のイオン交換材料による精製を行うのであって、その具体的な精製手法は不明である点(相違点1)、及び、本件発明1では、プロテインA汚染物質は陰イオン交換材料による精製工程で除去し、その際に使用するローディングバッファーを「1?150mMの濃度の置換塩」を有し、「pH6.5?9.0」であると特定しているのに対して、甲3発明では、プロテインA汚染物質は陽イオン交換材料又は陰イオン交換材料のいずれかにより除去が可能であるということはできるものの、陰イオン交換材料によりプロテインA汚染物質が除去が可能であるかは不明であるし、仮に、陰イオン交換材料によりプロテインA汚染物質の除去が可能であるとしても、甲3発明において特定された陰イオン交換材料による精製の際のバッファーのpH及びイオン条件により、プロテインA汚染物質が除去可能であるか不明である点(相違点2)において相違する。
(イ) 判断
甲3発明では、プロテインA汚染物質は陽イオン交換材料又は陰イオン交換材料のいずれかにより除去が可能であるということはできるものの、陰イオン交換材料によりプロテインA汚染物質が除去が可能であるかは、甲第3号証の記載からは不明である点は前記(ア)で述べたとおりである。そして、甲第1号証及び甲第2号証では、陽イオン交換材料と陰イオン交換材料を併用して抗体を精製する方法が記載されているが、いずれの証拠でもプロテインA汚染物質は陽イオン交換材料で除去しているし、前記(2)イ(イ)で述べたとおり、甲第4号証には、陽イオン交換材料及び陰イオン交換材料のいずれを使用しても、プロテインA汚染物質を減少させることが可能である旨は記載されているものの、いずれの交換材料を使用したクロマトグラフィーによるかは、「プロテインA及びモノクローナル抗体の相対的結合特性に依存する」と記載されていることから、これらの証拠に接した当業者は、甲3発明におけるプロテインA汚染物質のイオン交換材料による除去を、陰イオン交換材料を使用したクロマトグラフィーで行うと想到するものではない。
以上のとおりであるから、甲第3号証に記載された発明に甲第1、2又は4号証の記載を参酌しても、本件発明1を当業者が容易に想到することができたということはできない。
なお、申立人は、甲第3号証の「第3のクロマトグラフィー工程は、特に、不純物又はウイルスのさらなる除去が必要な場合、又は抗体が凝集する傾向を有する場合に、しばしば追加される。」との記載における「第3のクロマトグラフィー」が、本件発明1における「陽イオン交換材料である2番目のイオン交換材料」によるクロマトグラフィーに相当する旨を主張するが、甲第3号証における上記記載の後の記述から、上記「第3のクロマトグラフィー」はサイズ排除クロマトグラフィーであることは明らかであることから、申立人の斯かる主張を採用することはできない。
ウ 本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は、本件発明1を更に限定するものであるところ、前述のとおり本件発明1が甲第3号証に記載された発明から容易に想到することができたということはできないので、本件発明2ないし10も甲第3号証に記載された発明から容易に想到することができたということはできない。

(5) 小括
以上に述べたように、甲第1ないし3及び6号証を主引用例とした場合に、本件発明1ないし10が特許法第29条第2項の規定に違反してされたということはできない。

7 むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-06-28 
出願番号 特願2011-231797(P2011-231797)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C07K)
P 1 651・ 121- Y (C07K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野村 英雄  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 大宅 郁治
新留 素子
登録日 2015-05-29 
登録番号 特許第5752558号(P5752558)
権利者 ロンザ・バイオロジクス・ピーエルシー
発明の名称 プロテインAおよびイオン交換クロマトグラフィーによる抗体精製  
代理人 中濱 明子  
代理人 峰 隆司  
代理人 中濱 明子  
代理人 福原 淑弘  
代理人 河野 哲  
代理人 河野 直樹  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 鵜飼 健  
代理人 寺地 拓己  
代理人 白根 俊郎  
代理人 中村 誠  
代理人 寺地 拓己  

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