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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1316997
異議申立番号 異議2016-700129  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-17 
確定日 2016-07-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第5765131号発明「パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール及びパワーモジュール用基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5765131号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5765131号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成23年8月12日に特許出願され、平成27年6月26日に特許の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 畠 明により特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件特許発明
特許第5765131号の請求項1ないし10に係る特許発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
絶縁基板と、この絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、を備えたパワーモジュール用基板であって、
前記回路層は、前記絶縁基板の一方の面に銅板が接合されて構成されており、
前記銅板は、接合される前において、少なくとも、アルカリ土類元素、遷移金属元素、希土類元素のうちの1種以上を合計で1molppm以上100molppm以下、又は、ボロンを100molppm以上1000molppm以下のいずれか一方を含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記絶縁基板の他方の面に金属層が形成されており、この金属層は、前記絶縁基板の他方の面に銅板が接合されて構成されており、
前記銅板は、接合される前において、少なくとも、アルカリ土類元素、遷移金属元素、希土類元素のうちの1種以上を合計で1molppm以上100molppm以下、又は、ボロンを100molppm以上1000molppm以下のいずれか一方を含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成とされていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
前記銅板は、接合される前において、少なくとも、アルカリ土類元素、遷移金属元素、希土類元素のうちの1種以上を合計で3molppm以上50molppm以下、又は、ボロンを300molppm以上1000molppm以下のいずれか一方を含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項4】
前記銅板は、酸素含有量が1質量ppm以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板と、ヒートシンクと、を備えたことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項6】
請求項5に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載された電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載された電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項8】
絶縁基板と、この絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、を備えたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記回路層は、前記絶縁基板の一方の面に銅板が接合されて構成されており、前記銅板は、接合される前において、少なくとも、アルカリ土類元素、遷移金属元素、希土類元素のうちの1種以上を合計で1molppm以上100molppm以下、又は、ボロンを100molppm以上1000molppm以下のいずれか一方を含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成とされており、
前記絶縁基板の接合面にAl_(2)O_(3)層を形成するアルミナ層形成工程と、前記絶縁基板の一方の面に銅板を接合して前記回路層を形成する回路層形成工程と、を備えており、
前記回路層形成工程においては、前記銅板と前記絶縁基板とを、銅(Cu)と亜酸化銅(Cu_(2)O)の共晶域での液相を利用したDBC法によって接合することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項9】
前記パワーモジュール用基板は、前記絶縁基板の他方の面に形成された金属層を備え、前記金属層は、前記絶縁基板の他方の面に銅板が接合されて構成されており、前記銅板は、接合される前において、少なくとも、アルカリ土類元素、遷移金属元素、希土類元素のうちの1種以上を合計で1molppm以上100molppm以下、又は、ボロンを100molppm以上1000molppm以下のいずれか一方を含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成とされており、
前記絶縁基板の接合面にAl_(2)O_(3)層を形成するアルミナ層形成工程と、前記絶縁基板の他方の面に銅板を接合して前記金属層を形成する金属層形成工程と、を備えており、
前記金属層形成工程においては、前記銅板と前記絶縁基板とを、銅(Cu)と亜酸化銅(Cu_(2)O)の共晶域での液相を利用したDBC法によって接合することを特徴とする請求項8に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項10】
前記回路層形成工程と前記金属層形成工程とを同時に実施することを特徴とする請求項9に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。」

3.申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証、及び従たる証拠として甲第2ないし6号証を提出し、
(1)本件特許発明1ないし7は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2ないし4号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(2)本件特許発明8ないし10は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2ないし6号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、請求項1ないし10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
[証拠]
甲第1号証:特開2004-221547号公報
甲第2号証:特開2008-95125号公報
甲第3号証:特開平11-293367号公報
甲第4号証:特開2002-294362号公報
甲第5号証:特開平11-268968号公報
甲第6号証:特開平10-150125号公報

4.甲第1ないし6号証の記載事項(なお、下線は当審で付与した。)
(1)甲第1号証(特開2004-221547号公報)
ア.「【請求項4】
絶縁基板と、該絶縁基板の一方の面に積層される回路層と、該絶縁基板の他方の面に積層される金属層と、前記回路層にはんだを介して搭載される半導体チップと、前記金属層に接合される放熱体とを備えたパワーモジュール用基板であって、前記回路層及び金属層を、純度が99.999%以上の銅で構成したことを特徴とするパワーモジュール用基板。」

イ.「【0001】
この発明は、大電圧、大電流を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板に関し、特に、半導体チップから発生する熱を放散させる放熱体を備えたパワーモジュール用基板に関するものである。」

ウ.「【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
図1には、本発明によるパワーモジュール用基板の一実施の形態が示されていて、このパワーモジュール用基板1は、絶縁基板2と、絶縁基板2の一方の面に積層される回路層3と、絶縁基板2の他方の面に積層される金属層4と、回路層3に搭載される半導体チップ5と、金属層4に接合される放熱体6とを備えている。
【0020】
絶縁基板2は、例えばAlN、Al_(2)O_(3)、Si_(3)N_(4)、SiC等により所望の大きさに形成されるものであって、その上面及び下面に回路層3及び金属層4がそれぞれ積層接着されるようになっている。
【0021】
回路層3及び金属層4を絶縁基板2に積層接着する方法としては、絶縁基板2と回路層3及び金属層4とを重ねた状態で、これらに荷重0.5?2kgf/cm^(2)(4.9×10^(4)?19.6×10^(4)Pa)を加え、N_(2)雰囲気中で1065℃に加熱するいわゆるDBC法(Direct Bonding Copper法)、絶縁基板3と回路層3及び金属層4との間にAg-Cu-Tiろう材の箔を挟んだ状態で、これらに荷重0.5?2kgf/cm^(2)(4.9×10^(4)?19.6×10^(4)Pa)を加え、真空中で800?900℃に加熱するいわゆる活性金属法等があり、用途に応じて適宜の方法を選択して使用すれば良い。
【0022】
回路層3及び金属層4は、純度99.999%以上のCu(5N-Cu)から構成される。5N-Cuは、再結晶温度がRT(室温)?150℃の特性を有する。従って、-40?125℃の温度サイクルで繰り返し使用しても、内部応力が蓄積するようなことはなく、温度サイクルの高温側での加工硬化を抑制することができる。」

・上記甲第1号証には「パワーモジュール用基板」について記載(上記「イ.」を参照)され、
当該「パワーモジュール用基板」は、上記「ア.」、「ウ.」の記載事項、及び図1によれば、少なくとも絶縁基板2と、絶縁基板2の一方の面に積層接着される回路層3と、絶縁基板2の他方の面に積層接着される金属層4とを備えたパワーモジュール用基板であって、前記回路層3及び金属層4を、純度が99.999%以上の銅(5N-Cu)で構成したパワーモジュール用基板である。
・また、図1等からして、絶縁基板2に対して積層接着される回路層3及び金属層4は、板状のものであることは明らかである。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「絶縁基板と、該絶縁基板の一方の面に積層接着される回路層と、該絶縁基板の他方の面に積層接着される金属層とを備えたパワーモジュール用基板であって、
前記回路層及び金属層は、純度が99.999%以上の銅(5N-Cu)板で構成されたパワーモジュール用基板。」

・さらに、上記「ウ.」の段落【0021】の記載事項によれば、上記パワーモジュール用基板は、回路層3及び金属層4を絶縁基板2に対して、例えばDBC法(Direct Bonding Copper法)によって積層接着することによって形成(製造)されるものである。

したがって、上記パワーモジュール用基板の製造方法に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明’」という。)が記載されている。
「絶縁基板と、該絶縁基板の一方の面に積層接着される回路層と、該絶縁基板の他方の面に積層接着される金属層とを備えたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記回路層及び金属層は、純度が99.999%以上の銅(5N-Cu)板で構成され、
前記回路層及び金属層を前記絶縁基板に対して、DBC法(Direct Bonding Copper法)によって積層接着するようにしたパワーモジュール用基板の製造方法。」

(2)甲第2号証(特開2008-95125号公報)
ア.「【請求項1】
質量%で、Fe:0.01?0.50%、P:0.01?0.15%、C:3?15ppmを各々含有し、O:40ppm以下、H:1.0ppm以下に各々規制したことを特徴とするメッキ性に優れた電気電子部品用銅合金板。」

イ.「【0001】
本発明は、高強度で、かつ、メッキ性に優れたCu-Fe-P系の銅合金板に関し、例えば、半導体装置用リードフレームの素材として好適な銅合金板に関する。本発明の銅合金板は、半導体装置用リードフレーム以外にも、その他の半導体部品、プリント配線板等の電気・電子部品材料、開閉器部品、ブスバー、端子・コネクタ等の機構部品など様々な電気電子部品用として好適に使用される。ただ、以下の説明では、代表的な用途例として、半導体部品であるリードフレームに使用する場合を中心に説明を進める。」

ウ.「【0059】
なお、表1に示す各銅合金とも、記載元素量を除いた残部組成はCuであり、その他の不純物元素として、Hf、Th、Li、Na、K、Sr、Pd、W、Si、Nb、Al、V、Y、Mo、In、Ga、Ge、As、Sb、Bi、Te、B、ミッシュメタルの含有量は、これらの元素全体の合計で0.1質量%以下であった。」

エ.「【0076】
【表1】



(3)甲第3号証(特開平11-293367号公報)
ア.「【請求項1】 Ni:0.05?3%(重量%、以下同じ)、Sn:0.3?2%、Zn:0.01?15%、P:0.01%未満、Si:0.01%未満を含有し、さらにCa:0.0001?0.3%、Mn:0.0001?0.3%、Mg:0.0001?0.3%からなる群から選択された1種又は2種以上の成分を総量で0.0001?0.3%含有し、残部がCu及び不可避不純物からなることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた銅合金。」

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気・電子部品用銅合金に関し、さらに詳しくは廉価でかつ耐応力緩和特性に優れた電気・電子部品用銅合金に関する。なお、ここでいう電気・電子部品には自動車車載用ジャンクションブロック通電材料及びその中継部品、端子・コネクタなどの接続部品、ICバーンインソケットのコンタクトピン、スイッチなどの電気接点・摺動部品、モーター・コピードラムなどのブラシ・アース端子などの摺動部品、ダイオード、トランジスター、光電変換素子、サイリスタ、トライアック等の半導体素子用リードフレームも含まれる。」

ウ.「【0029】
【表1】



(4)甲第4号証(特開2002-294362号公報)
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、特に端子用として好適な、耐アーク性に優れる銅合金板又は条に関する。」

イ.「【0011】P;Pは不可避不純物としてスクラップ等から混入し、あるいは脱酸補助及び湯流れ性の改善のため必要に応じて添加される。しかし、Pが含有されるとSiの作用(Fe析出物による再結晶の阻害作用を抑制する作用)が阻害されるため、含有量は0.03%未満(0%を含む)としなくてはならない。・・・・・(以下、略)」

(5)甲第5号証(特開平11-268968号公報)
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は半導体装置等に使用されるセラミックス回路基板に関する。」

イ.「【0032】本発明に係るセラミックス回路基板は、上記のように製造したセラミックス基板の表面に、前記金属回路板を直接接合して製造される。
【0033】ここで上記金属回路板は、ろう材などの接合剤を使用せずにセラミックス基板表面に直接的に一体に接合される。すなわち、金属回路板の成分と基板成分との共晶化合物(共晶融体)を加熱により発生せしめ、この共晶化合物を介して両部材を接合する、いわゆる直接接合法を使用して接合される。
【0034】そして、セラミックス基板が非酸化物系セラミックスから成り、また金属回路板が銅回路板である場合には、典型的には以下のように接合操作が実施される。すなわち酸化物層を形成したセラミックス基板の表面の所定位置に、表面酸化層としての酸化銅層を形成したタフピッチ電解銅製の銅回路板を接触配置して基板方向に押圧した状態で、銅の融点(1083℃)未満で銅-酸化銅の共晶温度(1065℃)以上に加熱し、生成したCu-O共晶化合物液相(共晶融体)を介して銅回路板がセラミックス基板表面に直接的に接合される。この直接接合法は、いわゆる銅直接接合法(Direct Bonding Copper 法)である。」

ウ.「【0040】実施例1?5
セラミックス基板として、表面粗さ(Rmax )が5μmであり、また熱伝導率が78W/m・Kであり、縦55mm×横37mm×厚さ0.8mmの窒化アルミニウム(AlN)基板を多数用意し、各AlN基板を空気雰囲気の加熱炉中で1300℃で12時間加熱することにより、基板全表面を酸化し厚さ2μmの酸化物層(Al_(2) O_(3) 皮膜)を形成した。
【0041】一方、酸素を405?744ppm含有し、厚さ0.3mmおよび0.25mmのタフピッチ電解銅から成る銅回路板および銅板を多数用意し、各銅回路板および銅板を大気に接するホットプレート上に載置した状態でそれぞれ加熱して表面酸化処理を行ない、表1および図1に示すような厚さを有する表面酸化層(酸化銅層)7を一体に形成した。
【0042】次に酸化物層を形成した各AlN基板表面側に、厚さ0.3mmのタフピッチ電解銅から成る銅回路板を接触配置する一方、背面側に厚さ0.25mmのタフピッチ銅から成る銅板を裏当て材として接触配置させて積層体とし、この積層体を窒素ガス雰囲気に調整した温度1075℃に設定した加熱炉に挿入して1分間加熱することにより、各AlN基板に銅回路板および銅板を直接接合した実施例1?5に係るセラミックス回路基板をそれぞれ製造した。」

(6)甲第6号証(特開平10-150125号公報)
ア.「【0002】
【従来の技術】近年、パワートランジスタモジュールやスイッチング電源用モジュール等の比較的高電力を扱う半導体モジュールとして、セラミックス基板の表裏に銅板等の金属回路板および金属板を接合してセラミックス回路基板とし、さらに金属板にヒートシンクを接合した半導体モジュールが用いられている。
【0003】ここで、セラミックス回路基板の製造工程におけるセラミックス基板と金属回路板あるいは金属板との接合方法としては、Ti、Zr、Hf、Nb等の活性金属をAg-Cuろう材等に1?10%含有した活性金属ろう材を用いる方法(活性金属法)や、金属回路板等として酸素を100?1000ppm 含有するタフピッチ電解銅や表面を1?10μmの厚さで酸化させた銅板を用いてセラミックス基板と銅板とを直接接合させる、いわゆる直接接合法(DBC法:ダイレクト・ボンディング・カッパー法)等が知られている。
【0004】例えば直接接合法においては、まず所定形状に打ち抜かれた銅回路板を、酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3) )焼結体や窒化アルミニウム(AlN)焼結体等からなるセラミックス基板上に接触配置させて加熱し、接合界面にCu-Cu_(2 )Oの共晶液相を生成させ、この液相でセラミックス基板の表面を濡らした後、液相を冷却固化することによって、セラミックス基板と銅回路板とが直接接合される。このような直接接合法を適用したセラミックス回路基板は、セラミックス基板と銅回路板との接合強度が強く、またメタライズ層やろう材層を必要としない単純構造なので小型高実装化が可能である等の長所を有しており、また製造工程の短縮化も図られている。」

5.当審の判断
5-1.本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、
ア.甲1発明における「絶縁基板と、該絶縁基板の一方の面に積層接着される回路層と、該絶縁基板の他方の面に積層接着される金属層とを備えたパワーモジュール用基板であって」によれば、
甲1発明における「絶縁基板」、「回路層」、「パワーモジュール用基板」は、それぞれ本件特許発明1における「絶縁基板」、「回路層」、「パワーモジュール用基板」に相当し、
本件特許発明1と甲1発明とは、「絶縁基板と、この絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、を備えたパワーモジュール用基板」である点で一致する。

イ.甲1発明における「・・該絶縁基板の一方の面に積層接着される回路層と、・・・・前記回路層及び金属層は、純度が99.999%以上の銅(5N-Cu)板で構成された・・」によれば、
甲1発明の「回路層」にあっても、銅板からなり、絶縁基板の一方の面にに積層接着、すなわち接合されて構成されているとみることができ、
本件特許発明1と甲1発明とは、「前記回路層は、前記絶縁基板の一方の面に銅板が接合されて構成されて」いる点で一致する。

よって、本件特許発明1と甲1発明とは、
「絶縁基板と、この絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、を備えたパワーモジュール用基板であって、
前記回路層は、前記絶縁基板の一方の面に銅板が接合されて構成されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
回路層を構成する銅板について、本件特許発明1では、「前記銅板は、接合される前において、少なくとも、アルカリ土類元素、遷移金属元素、希土類元素のうちの1種以上を合計で1molppm以上100molppm以下、又は、ボロンを100molppm以上1000molppm以下のいずれか一方を含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成とされている」と特定するのに対し、甲1発明では、そのような特定を有していない点。

(2)判断
上記相違点について検討すると、
甲第2号証(上記「4.(2)」を参照)には、遷移金属元素(Fe)を含有する電気電子部品用銅合金板が記載され、甲第3号証(上記「4.(3)」を参照)には、遷移金属元素(NiやMnなど)、アルカリ土類元素(Ca、Mg)を含有する電気・電子部品用銅合金が記載されている。
そして、甲第2号証の表1には「比較例20」として、遷移金属元素であるFeを0.005質量%含有するものが記載され、かかる含有量をmolppmに換算すると約57molppmであり、本件特許発明1で特定する遷移金属元素の含有量の範囲である「1molppm以上100molppm以下」を満たしてはいる。
しかしながら、甲第2号証では、比較例20を除くすべての例(発明例及び比較例)において、遷移金属元素であるFeの含有量は0.05?0.56質量%の範囲であって、換算すると少なくとも約570molppm以上であり、本件特許発明1で特定する遷移金属元素の含有量の範囲を満たしておらず、また、甲第3号証にあっては、すべての例において、遷移金属元素であるNiの含有量が多く(0.44?2.91重量%)、換算すると約4800molppm以上であり、本件特許発明1で特定する遷移金属元素の含有量の範囲を満たしていないことからして、本件特許発明1で特定する「1molppm以上100molppm以下」の範囲を満たすような遷移金属元素等の含有量の電気電子部品用銅合金(板)が一般的なものであるといえるわけでもない。
ましてや、甲第2号証や甲第3号証に記載の電気電子部品用銅合金(板)は、半導体用リードフレームなどに用いられるものであり、本件特許発明1における回路層を構成する銅板の如く絶縁基板に接合して用いることを前提としているわけではないことや、そもそも甲1発明は、銅の純度が極力高いほどよい、すなわち、銅以外の添加物や不純物が極力少ない銅板を用いようとするものであり、あえてFeなどの遷移金属元素等を添加する必然性がないことも考慮すると、甲第2号証にたまたま、しかも比較例として本件特許発明1で特定する遷移金属元素の含有量の範囲を満たす例が記載されていたからといって、甲1発明における回路層を構成する銅板として、甲第2号証の比較例20に示されるような遷移金属元素の含有量のものを採用すべき動機付けがない。
なお、甲第4号証(上記「4.(4)」を参照)には、銅合金板には不可避不純物としてPが混入することが記載されているにすぎない。
したがって、甲1発明及び甲第2ないし4号証に記載の技術事項からは、相違点に係る構成を導き出すことはできない。

よって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲第2ないし4号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5-2.本件特許発明2ないし7について
請求項2ないし7は、請求項1に従属する請求項であり、本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加するなどして限定したものであるから、上記本件特許発明1についての判断(上記「5-1.(2)」を参照)と同様の理由により、甲1発明及び甲第2ないし4号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

5-3.本件特許発明8について
(1)対比
本件特許発明8と甲1発明’とを対比すると、
ア.甲1発明’における「絶縁基板と、該絶縁基板の一方の面に積層接着される回路層と、該絶縁基板の他方の面に積層接着される金属層とを備えたパワーモジュール用基板の製造方法であって」によれば、
甲1発明’における「絶縁基板」、「回路層」、「パワーモジュール用基板」は、それぞれ本件特許発明8における「絶縁基板」、「回路層」、「パワーモジュール用基板」に相当し、
本件特許発明8と甲1発明’とは、「絶縁基板と、この絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、を備えたパワーモジュール用基板」である点で一致する。

イ.甲1発明’における「・・該絶縁基板の一方の面に積層接着される回路層と、・・・・前記回路層及び金属層は、純度が99.999%以上の銅(5N-Cu)板で構成され」によれば、
甲1発明’の「回路層」にあっても、銅板からなり、絶縁基板の一方の面にに積層接着、すなわち接合されて構成されているとみることができ、
本件特許発明8と甲1発明’とは、「前記回路層は、前記絶縁基板の一方の面に銅板が接合されて構成されて」いる点で一致する。

ウ.甲1発明’における「前記回路層及び金属層を前記絶縁基板に対して、DBC法(Direct Bonding Copper法)によって積層接着するようにした・・」によれば、
甲1発明’にあっても、絶縁基板の一方の面に銅板を積層接着、すわなち接合して回路層を形成する、本件特許発明8でいう「回路層形成工程」を備えることは明らかであり、また、その回路層形成工程としては、本件特許発明8と同様に、DBC法によるものであることから、
本件特許発明8と甲1発明’とは、「前記絶縁基板の一方の面に銅板を接合して前記回路層を形成する回路層形成工程と、を備えており、前記回路層形成工程においては、前記銅板と前記絶縁基板とをDBC法によって接合する」ものである点で共通する。
ただし、甲1発明’では、「絶縁基板の接合面にAl_(2)O_(3)層を形成するアルミナ層形成工程」を備えることや、回路層形成工程におけるDBC法が、「銅(Cu)と亜酸化銅(Cu_(2)O)の共晶域での液相を利用した」ものであることの明確な特定がない点で、本件特許発明8と相違しているといえる。

よって、本件特許発明8と甲1発明’とは、
「絶縁基板と、この絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、を備えたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記回路層は、前記絶縁基板の一方の面に銅板が接合されて構成されており、
前記絶縁基板の一方の面に銅板を接合して前記回路層を形成する回路層形成工程と、を備えており、
前記回路層形成工程においては、前記銅板と前記絶縁基板とを、DBC法によって接合することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
回路層を構成する銅板について、本件特許発明8では、「前記銅板は、接合される前において、少なくとも、アルカリ土類元素、遷移金属元素、希土類元素のうちの1種以上を合計で1molppm以上100molppm以下、又は、ボロンを100molppm以上1000molppm以下のいずれか一方を含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成とされている」と特定するのに対し、甲1発明’では、そのような特定を有していない点。

[相違点2]
本件特許発明8では、「前記絶縁基板の接合面にAl_(2)O_(3)層を形成するアルミナ層形成工程と」を備える旨特定するのに対し、甲1発明’では、そのような明確な特定を有していない点。

[相違点3]
回路層形成工程におけるDBC法について、本件特許発明8では、「銅(Cu)と亜酸化銅(Cu_(2)O)の共晶域での液相を利用した」ものであることを特定するのに対し、甲1発明’では、そのような明確な特定を有していない点。

(2)判断
上記相違点について検討すると、
上記[相違点1]は、上記「5-1.(2)」で検討した[相違点]と同じである。
したがって、上記「5-1.(2)」で検討した[相違点]についての判断と同様の理由により、甲1発明’及び甲第2ないし4号証に記載の技術事項からは、相違点1に係る構成を導き出すことはできない。
なお、当該相違点1に係る構成については、甲第5号証(上記「4.(5)」を参照)及び甲第6号証(上記「4.(6)」を参照)のいずれにも、記載も示唆もされていない。

よって、上記[相違点2]及び[相違点3]について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5-4.本件特許発明9及び10について
請求項9及び10は、請求項8に従属する請求項であり、本件特許発明9及び10は、本件特許発明8の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件特許発明8についての判断(上記「5-3.」を参照)と同様の理由により、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

5-5.まとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし7は、甲1発明及び甲第2ないし4号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本件特許発明8ないし10は、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

6.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-06-20 
出願番号 特願2011-176712(P2011-176712)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小山 和俊金田 孝之秋山 直人  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 井上 信一
森川 幸俊
登録日 2015-06-26 
登録番号 特許第5765131号(P5765131)
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール及びパワーモジュール用基板の製造方法  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 細川 文広  

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