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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1317024
異議申立番号 異議2016-700437  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-16 
確定日 2016-07-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第5815970号発明「口腔用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5815970号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5815970号の発明についての出願は、平成23年4月6日の出願であって、平成27年10月2日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、平成28年5月16日に宇佐美 貴史より特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
特許第5815970号の請求項1ないし5に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下、「本件発明1」、「本件発明2」などともいう。

「【請求項1】
次の成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E):
(A)フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化スズ、フッ化ケイ素酸ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化アルミニウム、フッ化銀、フッ化水素酸ヘキシルアミン、フッ化水素酸デカノールアミン、及びフッ化水素酸オクタデセニルアミンから選ばれる1種又は2種以上のフッ素イオン供給化合物 フッ素原子換算で0.002?5質量%、
(B)マンニトール、グルコピラノシルソルビトール、グルコピラノシルマンニトール及び還元パラチノースから選ばれる1種又は2種以上の糖アルコール、
(C)水 10?25質量%、
(D)グリセリン 及び
(E)粘結剤 0.1?1.2質量%
を含有し、成分(C)と成分(D)の質量比(C:D)が3:1?1:3であり、成分(C)と成分(B)の質量比(C:B)が3:2?1:3.5であり、かつキシリトール、及びソルビトールから選ばれる1種又は2種の糖アルコール(F)の含有量と水(C)の含有量との質量比(F/C)が0.75未満である口腔用組成物。
【請求項2】
成分(D)の含有量が4?40質量%である請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
成分(F)を含有しない請求項1又は2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
成分(B)が、マンニトールである請求項1?3のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項5】
組成物100質量部に対して25質量部の水を加えて希釈したときの粘度が、希釈前の組成物の粘度の10%以下である請求項1?4のいずれか1項に記載の口腔用組成物。」

第3 申立ての理由の概要
異議申立人 宇佐美 貴史(以下、「異議申立人」という。)は、証拠方法として以下の甲第1ないし3号証を提示し、本件発明1ないし5は、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するので取り消されるべきものであると主張している。

証拠方法
甲第1号証:特開2001-2540号公報
甲第2号証:特開2005-29484号公報
甲第3号証:特開2000-247852号公報

第4 判断
異議申立人の申立ての理由は、甲第1号証記載の発明又は甲第2号証記載の発明と甲第3号証の記載事項から容易想到というものである(異議申立書1頁3(1)申立ての理由の要約)。そこで、順に検討する。

1 甲第1号証に記載の発明に基づく容易想到性についての検討
(1)甲第1号証は、
「【請求項1】(a)パラチニット10?50重量%と(b)パラチニット以外の多価アルコールの1種以上を配合し、パラチニットを含む多価アルコールの総量60?95重量%、かつ組成物中の水分量が5?22重量%であることを特徴とする透明歯磨剤。
【請求項2】上記パラチニット以外の多価アルコールがグリセリン、ソルビトール、キシリトールから選ばれる1種又は2種以上である請求項第1項記載の透明歯磨剤。」
に関するものである。
そして、「パラチニットのような、水溶性の低い多価アルコールを配合する場合、透明性の高い歯磨剤を得ることは困難である」(【0002】)という課題に基づき、「パラチニットを含有する非常に透明性の高い透明歯磨剤を提供することをその目的とする」(【0003】)ものであって、その解決手段として、上記請求項1ないし2のとおり、特定の成分を特定の量で含有するものである。

(2)甲第1号証には、本件発明1の(B)?(E)成分を含有する歯磨剤の実施例が記載されているところ、特に、実施例3には、「無水ケイ酸 20.0重量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0重量%、グリセリン 25.0重量%、パラチニット 30.0重量%、ソルビトール70%水溶液 10.重量%、ラウリル硫酸ナトリウム 1.5重量%、サッカリンナトリウム 0.1重量%、香料 1.0重量%、精製水 11.4重量%」からなる歯磨剤が記載されている。(なお、パラチニットは、本件発明1の(B)成分の還元パラチノースと同じものである。甲第3号証【0007】参照。)
実施例3の歯磨剤については、本件発明1で特定されている(A)成分が配合されていないことを除けば、各成分の含有量や質量比の関係は満たされている。しかしながら、甲第1号証に記載の実施例には、上記実施例3を含め、本件発明1の(A)成分をも含有したものはない。

(3)これについて、甲第1号証には、「本発明の歯磨剤は、その用途に応じて、適宜処方され、常法に従って練歯磨、液状歯磨、ゲル歯磨剤などとすることができる。他の配合成分は特に限定されるものではなく、公知の有効成分、研磨剤、粘結剤、発泡剤、保存剤、香味剤、甘味剤、着色剤等の他、歯磨剤に用いられる添加物、甘味料、抗酸化剤等を本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。有効成分としては、・・・、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化第一スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のフッ化物、・・・が挙げられる。」(【0008】?【0009】)のように、本件発明1の(A)成分に該当する成分を配合してもよいことが記載されている。

(4)そして、甲第3号証は、パラチニットと再石灰化促進成分としてフッ化ナトリウムなどのフッ素化合物を含有する口腔用組成物が記載されており(【請求項1】?【請求項4】)、フッ素とパラチニットを組み合わせて配合することにより、両成分の相乗効果により再石灰化を促進することも記載されている(【0006】、【0023】?【0030】の試験例1)。

(5)そうしてみると、甲第1号証の歯磨剤も、歯磨剤であるから当然に齲蝕予防をも課題とし、有効成分としてフッ化物を配合し得ることが記載されていること、甲第3号証には、甲第1号証における必須成分であるパラチニットが、フッ化ナトリウムなどのフッ素化合物と併用すると再石灰化が促進されることが記載されていることによれば、甲第1号証に記載の歯磨剤についてフッ素化合物をも配合することは容易になし得たこととはいえる。
しかしながら、甲第1号証は、あくまでもパラチニットを含有する透明歯磨剤を目的とし、それに適した成分の組み合わせ及び含有量を定めているものであるから、仮に上記実施例3の歯磨剤にフッ素化合物をも配合するとしても、透明な歯磨剤が得られるような含有量を検討するのであって、それを措いて、再石灰化の促進や、本件発明1の目的とするフッ素取り込み量の向上を目的として、各成分の最適な量を決定することまでが、容易になし得ることとはいえない。
そして、本件発明1で特定された各成分を、それらの含有量の条件を満たすように配合した口腔用組成物とすれば、そうでないものに比べてフッ素取り込み量が向上することを当業者が予測し得たものともいえない。

(6)したがって、本件発明1は、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明1をさらに特定した本件発明2ないし5についても同様に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 甲第2号証に記載の発明に基づく容易想到性についての検討
(1)甲第2号証は、
「【請求項1】糖アルコールおよび/またはアミノ酸を含むバイオフィルム形成阻害用またはバイオフィルム除去促進用口腔用組成物。
【請求項2】前記糖アルコールが、エリスリトール、キシリトール、グルコピラノシルソルビトールまたはグルコピラノシルマンニトールである請求項1記載の口腔用組成物。」
に関するものである。
そして、甲第2号証には、「本発明は、バイオフィルムを形成する細菌の共凝集を抑制することにより、バイオフィルムの形成を阻害し、すなわち、う触、歯周病等の原因となる細菌の生育する場の形成を抑制する。また、すでに形成され細菌の付着体や共凝集体を分解する。さらに、すでに成熟したバイオフィルムに対してもバイオフィルム内部構造を変化させることで物理化学的作用によるバイオフィルムの除去を促進することによって、う触、歯周病口臭等の口腔疾患の原因となる細菌の生育・繁殖の場を壊し除去することができる口腔用組成物を提供することにより、う蝕、歯周病、口臭などの口腔疾患の予防を図ることを目的とする。」(【0011】)こと、「本発明は、口腔用組成物に糖アルコールおよび/またはアミノ酸を配合することにより、歯や義歯などの硬組織、舌や頬などの軟組織、歯周ポケットなどの硬組織と軟組織の隙間に形成されるバイオフィルムの形成過程において細菌の付着や凝集などを抑制またはすでに形成した付着体や共凝集体を分解することによってバイオフィルムの形成を阻害し、かつすでに成熟したバイオフィルムにおいてもバイオフィルム内部構造を変化させることでバイオフィルムの除去を促進することを可能にしたものである。」(【0012】)ことが記載されている。

(2)甲第2号証の実施例1には、本件発明1の(A)?(E)成分に該当する成分(フッ化ナトリウム、グルコピラノシルソルビトール、精製水、グリセリン、カルボキシメチルセルロースナトリウム(粘結剤、本件特許明細書【0024】参照))が配合された練り歯磨きが記載されている。

(3)上記「1 甲第1号証に記載の発明に基づく容易想到性についての検討」の(4)のとおり、甲第3号証には、フッ素化合物とパラチニットを組み合わせて配合することにより、両成分の相乗効果により再石灰化を促進することが記載されており、甲第2号証の糖アルコールの選択肢のうち、「グルコピラノシルソルビトール」又は「グルコピラノシルマンニトール」は、パラチニットの構成成分であることも知られている(甲第3号証【0007】参照)。
そうすると、甲第2号証の口腔用組成物が、齲蝕予防も課題とし、実施例1に、フッ化ナトリウムとグルコピラノシルソルビトールを配合した練り歯磨きが記載されており、甲第3号証の記載から、これらを併用すると再石灰化が促進されることは予測されるといえる。

(4)しかしながら、甲第2号証における糖アルコールは、「エリスリトール、キシリトール、グルコピラノシルソルビトールまたはグルコピラノシルマンニトール」であるところ、この選択肢のうち、「グルコピラノシルソルビトール」又は「グルコピラノシルマンニトール」は、本件発明1の(B)成分の糖アルコールに該当するが、「キシリトール」は(F)成分の糖アルコールに該当するものであり、甲第2号証では、本件発明1では区別されている糖アルコールを区別することなく、いずれも「バイオフィルム形成阻害用」又は「バイオフィルム除去促進用」の成分として記載するものである(【0012】)。
そして、フッ素化合物、グリセリン、精製水及び粘結剤とともに、特定の条件で組み合わせて配合された場合に、甲第2号証では区別することなく「バイオフィルム形成阻害用」又は「バイオフィルム除去促進用」の成分として記載されている「エリスリトール、キシリトール、グルコピラノシルソルビトールまたはグルコピラノシルマンニトール」のうち、「グルコピラノシルソルビトール」又は「グルコピラノシルマンニトール」を採用すると、「キシリトール」に比べてフッ素の取り込み量が向上するという本件特許明細書の表1で示された効果までを当業者が予測し得たこととはいえない。
したがって、甲第2号証の口腔用組成物において、フッ素の取り込み量を向上させる目的で、糖アルコールとして「グルコピラノシルソルビトール」又は「グルコピラノシルマンニトール」を選択し、本件発明1の(A)、(C)?(E)成分と特定の条件で組み合わせて配合した口腔用組成物とすることを動機づけられるものとはいえない。

(5)よって、本件発明1は、甲第2号証及び甲第3号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明1をさらに特定した本件発明2ないし5についても同様に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-07-14 
出願番号 特願2011-84219(P2011-84219)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 真一橋本 憲一郎松村 真里  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 齊藤 光子
関 美祝
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5815970号(P5815970)
権利者 花王株式会社
発明の名称 口腔用組成物  
代理人 山本 博人  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 高野 登志雄  
代理人 村田 正樹  

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