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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16F
管理番号 1317401
審判番号 不服2014-22870  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-10 
確定日 2016-07-20 
事件の表示 特願2012-523382「車両懸架システム」拒絶査定不服審判事件〔2011年2月10日国際公開、WO2011/015828、平成25年1月10日国内公表、特表2013-501200〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯・本願発明
本願は、2010年8月6日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2009年8月6日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成26年7月2日付け(発送日:平成26年7月8日)で拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年11月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたが、その後、平成27年6月23日付けで拒絶理由が通知され(以下「当審拒絶理由」という。)、平成27年12月28日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

そして、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成27年12月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
ばねと、ダンパと、機械力の制御に用いられる装置とを備える車両懸架システムであって、
前記装置は、使用時、機械力を制御するシステムの構成要素に接続され、独立に移動可能な第1および第2端子と、
前記第1および第2端子間に接続されるとともに流体を収容する油圧手段と、を備え、
前記油圧手段は、前記流体を収容するチャンバを形成し、前記第1端子が取り付けられるハウジングと、前記第2端子が取り付けられるとともに前記チャンバ内で移動可能に構成され、移動すると前記流体の流れが少なくとも1つの流路に沿って引き起こされるピストンとを備える装置において、
前記油圧手段は、使用時、前記第1および第2端子の相対移動時に移動する流体中のエネルギーを蓄積し、前記流体の流れと前記流体の質量とによる前記第1および第2端子の相対速度の変化に対して前記第1および第2端子における前記機械力を前記第1および第2端子間の相対加速度に50kgよりも大きい比例定数で略比例するよう制御する慣性力を発生させる
ことを特徴とする車両懸架システム。」

第2 刊行物
これに対して、当審拒絶理由に引用され、本願の優先権主張の日より前に頒布された特開平9-217775号公報(以下「刊行物」という。)には、「減衰装置」に関して、図面(特に、図1、図3及び図4参照。)とともに、次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本願に係る発明は、構造物・一般機械・鉄道車輌・自動車・航空機・計測機等の振動系に用いられ、自由振動の減衰や強制振動の共振抑制等に用いられる減衰装置、いわゆるダンパに関する。
【0002】
【従来の技術】振動系のエネルギーを吸収し、減衰力を付与するダンパとして、流体の動圧抵抗を用いるもの、流体の粘性抵抗を用いるもの、固体摩擦を利用するもの、電磁力を利用するもの等がある。このうち、流体を用いるもの、つまり動圧抵抗を用いるもの又は粘性抵抗を利用するものは安価で製作することができ、耐久性にも優れていることから広く用いられている。」

(2)「【0022】
【発明の実施の形態】以下、本願に係る発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1は、請求項1又は請求項2に記載の発明の一実施形態である減衰装置を示す概略断面図である。この減衰装置は、粘性流体が充填されたシリンダ1と、このシリンダ1内を第1室5と第2室6とに仕切るともに軸線方向に往復動するピストン2と、このピストン2に外力を伝達するシリンダロッド3と、シリンダ1内の第1室5と第2室6とを連通する連通管4とを備えている。
【0023】上記シリンダロッド3はシリンダ1の一方の端部壁1aを貫通して一端が外部に突出しており、この端部に外部の固定部材または運動部材と接続するための取付部3aが形成されている。一方、シリンダロッドの他端3bはシリンダ1の隔壁1bを貫通し、控室7内に突き出している。このシリンダロッド3とこれが貫通する端部壁1a又は隔壁1bとの間には、シリンダロッド3の往復動を許容するとともに粘性流体の流出を防止するシール部材8が介挿されている。上記シリンダ1は周壁に2つの開口10,10を有し、この開口部分の外周面には、連通管4を接続するための突出部11,11が設けられている。また、シリンダ1の控室7が設けられた側の端部壁1cには外部の運動部材または固定部材と接続するための取付部1dが形成されている。
【0024】上記連通管4は、シリンダ1の外周面に設けられた突出部11,11に当接され、締め付けナット12,12で上記突出部11,11に強固に接続できるものであり、シリンダ1に設けられた開口10,10を通じて第1室5と第2室6との間で粘性流体が流動できるようにするものである。なお、図1中に示す符号13は、流体の温度上昇による膨張に対応するための緩衝室を示す。この緩衝室は、シリンダの第2室と連通するように設けられているが、この他にもう一つの緩衝室を第1室と連通するように設けてもよい。このように二つの緩衝室を設けることにより、ピストン2とシリンダ1との間に大きな加速度が作用したときに、第1室5と第2室6との間の圧力差が過大になるのを防止することができる。また、符号14はシリンダロッド3の移動によって控室7内の気圧が変動するのを防止する空気抜き孔14を示すものである。
【0025】このような減衰装置では、外力によりシリンダ1とピストン2との間に相対運動が生じると、シリンダ1内の粘性流体は周壁に設けられた開口10から連通管4を通ってシリンダ1内の第1室5と第2室6との間で移動する。このとき、流体が開口10から連通管を通って移動することによる動圧抵抗と、速度が増幅された流体の連通管4内における粘性抵抗とによって運動エネルギーが吸収される。このように流体の動圧抵抗による効果と連通管内の粘性抵抗による効果との双方によって運動を減衰するので大きな減衰力が得られる。また、外力の周波数等に応じて連通管4を交換することができ、上記動圧抵抗による効果と粘性抵抗による効果との比を調整して、広い範囲の周波数に対して適切な減衰力を付与することができる。」

(3)「【0028】図3は、請求項1、請求項3又は請求項4に記載の発明の一実施形態である減衰装置を示す概略断面図である。この減衰装置では、シリンダ31が内管31aと外管31bとを嵌め合わせた二重構造となっており、内管31aの外周面と外管31bの内周面とが圧接されている。そして、流体通路34は、内管31aの外周面の軸線方向に切削された溝と、この溝の両端に穿設された貫通口31c,31dとで形成されており、内管31aと外管31bとを嵌め合わせたときにシリンダ31内の第1室35と第2室36とを連通する管路を形成するようになっている。このシリンダ31の他の部分の構成およびこの減衰装置が有するピストン32、シリンダロッド33の構成は、図1に示す減衰装置と同じである。」

(4)「【0030】図4は、請求項1、請求項3、請求項4又は請求項5に記載の発明の一実施形態である減衰装置の概略断面図である。この減衰装置のシリンダ41は、図3に示すものと同様に内管41aと外管41bとを嵌め合わせた構造となっているが、流体通路44がシリンダ41の周壁に沿ってらせん状に形成されている。この減衰装置の他の構成は図3に示す減衰装置と同じである。このような減衰装置でも、図3に示す減衰装置と同様の効果を得るとともに、らせんのピッチの設定により流体通路44の長さを適切に設定することができる。」

(5)刊行物の「構造物・一般機械・鉄道車輌・自動車・航空機・計測機等の振動系に用いられ、自由振動の減衰や強制振動の共振抑制等に用いられる減衰装置、いわゆるダンパに関する。」(段落【0001】)との記載及び「このような減衰装置では、外力によりシリンダ1とピストン2との間に相対運動が生じると、シリンダ1内の粘性流体は周壁に設けられた開口10から連通管4を通ってシリンダ1内の第1室5と第2室6との間で移動する。」(段落【0025】)との記載から、取付部1d及び取付部3aは、使用時、振動系の構成要素に接続され、独立に移動可能であるといえる。

これらの記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合し、図4に示された実施形態に関して、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「減衰装置を備える振動系であって、
前記装置は、使用時、振動系の構成要素に接続され、独立に移動可能な取付部1d及び取付部3aと、
これらの取付部1d及び取付部3aの間に接続されるとともに粘性流体を収容するシリンダ1、ピストン2、シリンダロッド3及び流体通路44と、を備え、
前記シリンダ1、ピストン2、シリンダロッド3及び流体通路44は、前記粘性流体を収容する第1室5及び第2室6を形成し、前記取付部1dが取り付けられるシリンダ41と、取付部3aが取り付けられるとともに前記第1室5及び第2室6内で移動可能に構成され、移動すると前記粘性流体の流れが流体通路44に沿って引き起こされるピストン42とを備える装置において、
前記流体通路44がシリンダ41の周壁に沿ってらせん状に形成され、ピストン42が外力によりシリンダ41に対して相対運動すると、シリンダ41内の粘性流体は流体通路44を通って第1室5と第2室6との間を移動する振動系。」

第3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「取付部1d」及び「取付部3a」は前者の「第1端子」及び「第2端子」に相当し、以下同様に、「粘性流体」は「流体」に、「シリンダ1、ピストン2、シリンダロッド3及び流体通路44」は「油圧手段」に、「第1室5及び第2室6」は「チャンバ」に、「シリンダ41」は「ハウジング」に、「流体通路44」は「流路」に、「ピストン42」は「ピストン」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「減衰装置を備える振動系」と本願発明の「ばねと、ダンパと、機械力の制御に用いられる装置とを備える車両懸架システム」とは、「装置を備えるシステム」という限りで共通する。

本願発明と引用発明とは次の点で一致する。
[一致点]
装置を備えるシステムであって、
前記装置は、使用時、システムの構成要素に接続され、独立に移動可能な第1および第2端子と、
前記第1および第2端子間に接続されるとともに流体を収容する油圧手段と、を備え、
前記油圧手段は、前記流体を収容するチャンバを形成し、前記第1端子が取り付けられるハウジングと、前記第2端子が取り付けられるとともに前記チャンバ内で移動可能に構成され、移動すると前記流体の流れが少なくとも1つの流路に沿って引き起こされるピストンとを備える装置を備えるシステム。

一方、両者は次の点で相違する。
[相違点]
本願発明は、「ばねと、ダンパと、機械力の制御に用いられる装置とを備える車両懸架システム」であって、「前記装置は、使用時、機械力を制御するシステムの構成要素に接続され」る「装置において」、「油圧手段は、使用時、前記第1および第2端子の相対移動時に移動する流体中のエネルギーを蓄積し、前記流体の流れと前記流体の質量とによる前記第1および第2端子の相対速度の変化に対して前記第1および第2端子における前記機械力を前記第1および第2端子間の相対加速度に50kgよりも大きい比例定数で略比例するよう制御する慣性力を発生させる」のに対し、
引用発明は、「減衰装置を備える振動系」であって、「前記装置は、使用時、振動系の構成要素に接続され」、「流体通路44がシリンダ41の周壁に沿ってらせん状に形成され、ピストン42が外力によりシリンダ41に対して相対運動すると、シリンダ41内の粘性流体は流体通路44を通って第1室5と第2室6との間を移動する」点。

第4 当審の判断
そこで、相違点を検討する。
引用発明は、「ピストン42が外力によりシリンダ41に対して相対運動すると、シリンダ41内の粘性流体は流体通路44を通って第1室5と第2室6との間を移動する」ものであり、外力が粘性流体の運動エネルギーに変換されるから、「シリンダ1、ピストン2、シリンダロッド3及び流体通路44」が「使用時、前記第1および第2端子の相対移動時に移動する流体中のエネルギーを蓄積」するものといえる。

また、引用発明は、「ピストン2とシリンダ1との間に大きな加速度が作用」する(段落【0024】)との記載からみて、取付部1dと取付部3aとの相対速度が変化し、その変化に伴って、粘性流体は、流体通路44を通って第1室5と第2室6との間を移動するものである。

そして、このような場合に、粘性流体の流れと粘性流体の質量とによる取付部1d及び取付部3aの相対速度の変化に対して取付部1d及び取付部3a間の相対加速度に所定の比例定数で略比例する慣性力が発生することは、技術的に自明である(例えば、特開2007-205433号公報の「第1及び第2液室2,3及びバイパス路7内を流動する作動流体10の慣性力がピストン4に作用する。このとき、慣性力は、作動流体10の質量と加速度(外筒1とピストン4との相対加速度)に応じた力となる。そして、この慣性力は、ピストン4の移動と逆向きに発生するから、ピストン4の移動(ロッド5,6に入力)に対して抵抗力、すなわち緩衝力となる。」(段落【0010】)との記載及び図1を参照。)。

そうすると、引用発明は、「シリンダ1、ピストン2、シリンダロッド3及び流体通路44」が、「流体の流れと流体の質量とによる第1及び第2端子の相対速度の変化に対して第1及び第2端子における機械力を第1及び第2端子間の相対加速度に」所定の「比例定数で略比例するよう制御する慣性力を発生させる」ものであるといえ、引用発明の「減衰装置」に外力が作用するとき、上記慣性力が抵抗力となるから、引用発明の「減衰装置」は、本願発明の「機械力の制御に用いられる装置」に相当するといえる。

また、ばねと、ダンパと、機械力の制御に用いられる装置とを備える車両懸架システムにおいて、前記装置が、使用時、機械力を制御するシステムの構成要素と接続されることは、本願の優先日前に周知(例えば、特表2004-537009号公報の段落【0018】ないし【0029】、【0039】及び【0042】ないし【0046】並びに図1、図4及び図6、米国特許第5568847号明細書の第1欄第7行ないし第17行及び第3欄第30行ないし第67行並びにFIG.1を参照。)である。

そして、引用発明は、「機械力の制御に用いられる装置」を備える振動系といえ、さらに、刊行物には、振動系として、「自動車」が例示されている。

そうすると、引用発明の「減衰装置」を、上記周知技術を参酌して、「ばねと、ダンパと、機械力の制御に用いられる装置とを備える車両懸架システム」であって、「前記装置が、使用時、機械力を制御するシステムの構成要素に接続され」る装置として用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。
その際、引用発明の「比例定数」は、車両懸架システムにおいて適宜決定される設計事項である。
そして、本願発明の比例定数を「50kgよりも大きい」ものとすることについての臨界的意義は、本願明細書及び図面から確認できない。
そうすると、引用発明において、比例定数を「50kgよりも大きい」ものとすることは、実験的に最適化又は好適化したものであり、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。

また、本願発明が奏する効果は、全体としてみても、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-17 
結審通知日 2016-02-23 
審決日 2016-03-07 
出願番号 特願2012-523382(P2012-523382)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 博之  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 大内 俊彦
小関 峰夫
発明の名称 車両懸架システム  
代理人 特許業務法人樹之下知的財産事務所  
代理人 特許業務法人樹之下知的財産事務所  

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