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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 F16B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16B
管理番号 1317504
審判番号 不服2015-18158  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-06 
確定日 2016-08-16 
事件の表示 特願2011-251972「溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法および溶融金属めっき座金組込みねじ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年6月6日出願公開、特開2013-108531、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月17日の出願であって、平成26年12月22日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月19日付けで手続補正がされ、平成27年6月30日付けで拒絶査定(以下「原査定」という)がされ、これに対し、平成27年10月6日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成28年4月11日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という)が通知され、平成28年5月24日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-6に係る発明は、平成28年5月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法であって、
座金組込みねじを溶融金属めっき浴に浸漬するめっき処理工程と、該溶融金属めっき浴から座金組込みねじを取り出し、余剰溶融金属めっきを除去する余剰めっき除去工程と、室温まで冷却する冷却工程とを備え、
上記冷却工程が、該座金組み込みねじが転動または揺動する状態を保ちつつ、その表面温度が(溶融金属めっきの凝固開始温度+溶融金属めっきの凝固終了温度)×0.51以下の温度域になるまで放冷する工程であることを特徴とする溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法。」

第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2007-182635号公報
2:特開2002-250326号公報
3:特開昭62-2014号公報
4:実願平1-18942号(実開平2-110715号)の
マイクロフィルム
5:特開2000-266023号公報
6:特開2000-64009号公報
ねじを、座金組込みねじとすることは、例えば、先に示した刊行物2、刊行物3-4に記載されているように、本願出願前に周知の技術である。
また、めっきの凝固を放冷で行うことは、例えば、刊行物5-6に記載されているように、本願出願前に周知の技術である。そして、上記周知技術に鑑みれば、刊行物1に記載された発明の冷却工程を、放冷とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、上記各周知技術に鑑みれば、刊行物1に記載された発明を、本願発明のような構成のものとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

2.原査定の理由の判断
(1)刊行物
ア 刊行物1
刊行物1の段落【0002】、段落【0013】?段落【0028】の記載を総合して、本願発明に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「溶融亜鉛メッキボルトの製造方法であって、ボルトを溶融亜鉛メッキ浴に浸漬するメッキ処理工程と、該溶融亜鉛メッキ浴からボルトを取り出し、余剰溶融亜鉛メッキを除去する余剰メッキ除去工程と、室温まで冷却する冷却工程とを備え、
上記冷却工程が、該ボルトが微振動する状態を保ちつつ、冷却水により冷却する工程である溶融亜鉛メッキボルトの製造方法。」

イ 刊行物2
刊行物2には「座金組込みボルト」に関して、次の事項が記載されている。
ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、座金の脱落を防ぐために、座金をボルトのブランクに組込んだ後にネジ部を転造する、座金組込みボルトに関するものである。」

イ)「【0023】さらに、座金組込みボルト5を実際に使用して、座金6のメッキに剥がれや傷が生じたり、座金6に変形を生じる等の不具合が生じたときには、座金6のみ交換することが可能であることから、座金組込みボルト5の全体を交換する必要が無くなる。また、座金組込みボルト5を実際に使用して、ボルト本体2に傷等の不具合が生じた場合にも、ボルト本体2のみ交換することで、座金組込みボルト5の全体を交換する必要が無くなる。したがって、本発明の第1の実施の形態に係る座金組込みボルト5によれば、ボルト自体の製造コストや、メンテナンスコストを低減することができる。」

ウ)【図1】には、座金組込みボルトの模式図が示されている。

ウ 刊行物3
刊行物3には「座金組込みタッピンねじの製造方法」に関して、次の事項が記載されている。
ア)「〔産業上の利用分野〕
本発明はタッピンねじと座金とを組合せた座金組込みタッピンねじに関するもので、特にこれの製造工程における無駄をなくし、コストの低減を可能にした座金組込みタッピンねじの製造方法に関するものである。」(2ページ左上欄2-7行)

イ)「〔作用〕
素材1をヘッディングして頭部21が形成されたリベットの脚部22にねじ山を転造してタッピンねじ20を形成し、このタッピンねじ20に浸炭焼入れを施す。この後、このタッピンねじ20を亜鉛メッキ処理し、この処理により生ずる水素脆性を除去するためにベーキング処理を施す。一方、このタッピンねじ20の首部23に嵌合する座金10をあらかじめ皿状に形成するとともに亜鉛メッキ処理を施し、この座金10に前記タッピンねじ20を嵌合させて皿状の座金10をほぼ平坦にしてタッピンねじ20と座金10とを組合せてクロメート処理を施して仕上げるようにしたものである。」(2ページ右下欄18行-3ページ左上欄11行)

ウ)第5図には、座金組込みタッピンねじの要部の断面図が示されている。

エ 刊行物4
刊行物4には「座金組み込みボルト」に関して、次の事項が記載されている。
ア)「(1) ボルトの頭部とねじ部との間の円柱部に座金が嵌め込まれ、その座金が前記ねじ部の山によって抜け止めされている座金組み込みボルトにおいて;
前記ボルトの円柱部が挿通される前記座金のボルト挿通孔の内周面に、前記ボルトのねじ部側に向かって径が拡大し、その最大径が前記ねじ部の外径より大きいテーパが形成されている、
座金組み込みボルト。
(2) 前記ボルト及び座金にめっきが施され、そのめっき被膜の厚さが、互いに対向する座面部分において他部より薄くされている、
請求項1記載の座金組み込みボルト。」(実用新案登録請求の範囲)

イ)「そこで、第2図のような状態として、この座金組み込みボルト1にめっきを施す。その場合、そのめっきは、一般面におけるめっき被膜の厚さが8μm程度となるような条件で行う。」(明細書15ページ6-9行)

ウ)第2図には、座金組み込みボルトの要部拡大縦断面図が示されている。

オ 刊行物5
刊行物5には「ドリルネジの製造方法」に関して、次の事項が記載されている。
ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、亜鉛又は亜鉛合金メッキが施されたドリルネジとその製造方法に関する。」

イ)「【0035】実施例1
鋼製ドリリングタッピングネジ(呼び4.8×19、切り刃先)を、脱脂処理、塩酸による酸洗浄処理した後、塩化亜鉛30g/L、塩化アンモニウム100g/Lを含む水溶液フラックスに浸漬しフラックス浸漬処理した。上記ドリリングタッピングネジを図1に示す着脱可能なバスケット1に入れ、バスケットごと、温度410℃の亜鉛-スズ合金浴[スズ/亜鉛=60/40(重量比)]に約90秒浸漬した。ドリリングタッピングネジが収容されたバスケット1を溶融メッキ浴から取り出し、図1の内カゴ2に装着し、加熱装置5(燃焼ユニット)により内筒3内を410℃に維持しながら、約300r.p.m.(周速約16m/秒)で15秒遠心処理し、放冷することにより、溶融メッキ処理されたドリルネジを得た。溶融メッキ処理されたドリルネジを2?5重量%の塩化アンモニウム水溶液により洗浄処理した。」

カ 刊行物6
刊行物6には「溶融亜鉛-アルミニウム合金めっき方法」に関して、次の事項が記載されている。
ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は鉄鋼材料を溶融フラックスを使用して一段めっきにより溶融亜鉛-アルミニウム合金めっきする方法に関する。」

イ)「【0014】
【実施例】〔実施例1〕板厚2.3mmの一般構造用圧延鋼板から板幅70mm、板長さ150mmの鋼片を5個切り取り、一端に8mm径の吊り手用穴をあけ、試験片とした。これらの試験片を、加熱した水酸化ナトリウムの10wt%水溶液に5分間浸漬して脱脂し水洗した後、15wt%の塩酸水溶液中に15分間浸漬して酸洗し、湯洗した。この前処理によって清浄化された試験片を、温度480℃の表1の組成に調製された5種類のフラックス槽の溶融フラックス浴に、1分間浸漬してフラックス処理して引き上げ、直ちに、600?630℃に保った1.6wt%けい素-55wt%アルミニウム-残部亜鉛からなる溶融めっき浴に3分間浸漬してめっきした後、めっき浴の表面酸化物を除去して引き上げ、放冷した。これらの試験片について目視により不めっきの有無を観察し、また、0T折り曲げ試験によりめっきの密着性を調査した。」

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「溶融亜鉛メッキ」は前者の「溶融金属めっき」に相当する。
そして、後者の「ボルト」は前者の「座金組込みねじ」と「ワーク」という限りで共通するから、後者の「溶融亜鉛メッキボルト」は「溶融金属めっき座金組込みねじ」と「溶融金属めっきワーク」で共通し、以下同様に、
「ボルトを溶融亜鉛メッキ浴に浸漬するメッキ処理工程」は「座金組込みねじを溶融金属めっき浴に浸漬するめっき処理工程」と「ワークを溶融金属めっき浴に浸漬するめっき処理工程」で共通し、
「該溶融亜鉛メッキ浴からボルトを取り出し、余剰溶融亜鉛メッキを除去する余剰メッキ除去工程」は「該溶融金属めっき浴から座金組込みねじを取り出し、余剰溶融金属めっきを除去する余剰めっき除去工程」と「該溶融金属めっき浴からワークを取り出し、余剰溶融金属めっきを除去する余剰めっき除去工程」で共通する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「溶融金属めっきワークの製造方法であって、
ワークを溶融金属めっき浴に浸漬するめっき処理工程と、該溶融金属めっき浴からワークを取り出し、余剰溶融金属めっきを除去する余剰めっき除去工程と、室温まで冷却する冷却工程とを備える
溶融金属めっきワークの製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本願発明では、ワークが「座金組込みねじ」であって、冷却工程が「該座金組み込みねじが転動または揺動する状態を保ちつつ、その表面温度が(溶融金属めっきの凝固開始温度+溶融金属めっきの凝固終了温度)×0.51以下の温度域になるまで放冷する工程」であるのに対し、引用発明では、ワークが「ボルト」であって、冷却工程が「該ボルトが微振動する状態を保ちつつ、冷却水により冷却する工程」である点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
めっきを施した座金組込みねじは刊行物2-4に記載のように周知技術であると認められ、引用発明において、ワークとして座金組込みねじを採用することに困難性があるとはいえない。しかしながら、引用発明は冷却工程において、ワークであるボルトを微振動する状態を保ちつつ、冷却水により冷却するものであり、刊行物1の「その第1の目的は、複数のワークを収納容器内に収納した状態で後処理液に浸漬することに基づく、各ワークにおけるメッキ膜の損傷を防止できる溶融亜鉛メッキ処理方法を提供することにある」(段落【0004】)及び「上記溶融亜鉛メッキ処理においては、収納容器3を冷却水中に浸漬する際に、該収納容器3に微振動を付与することから、溶融亜鉛メッキ液よりも温度が低い冷却水によってメッキ膜が凝固傾向を高めるとしても、各ワークに対して微振動が伝達されることになり、各ワークのメッキ膜が接触した状態で凝固して該各ワークが結合しようとすることが防止される」(段落【0027】)との記載からみて、冷却工程において、冷却水を用いた冷却を行う際の課題を解決するためにワークを微振動を採用したものである。そうすると、冷却水を用いた冷却とワークを微振動させることは密接に関連する事項であるから、刊行物5,6にめっき処理工程において「放冷する」ことが記載されているように、めっきの冷却工程において「放冷する」ことが周知技術であるとしても、引用発明を起点としてその冷却工程における冷却水を用いた冷却の部分のみを冷却速度の遅い放冷に代えることは当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項2-6に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、同様に、当業者が引用発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
本件出願は、特許請求の範囲及び明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


ア 請求項1の「冷却工程が、・・・その表面温度が(溶融金属めっきの凝固開始温度+溶融金属めっき凝固終了温度)×0.51以下の温度域になるまで放冷する工程である」との記載は、明細書の段落【0043】の記載によれば、温度域は540℃であるから、請求項1の「室温まで放冷する冷却工程」と、整合しておらず請求項1に係る発明は明確でない。
イ 請求項6に係る発明は、「溶融金属めっき座金組込み座金」という物の発明であるが、当該請求項には、「請求項1?5までのいずれかに記載の方法によって製造された」と記載されており、製造方法の発明を引用する場合に該当するため、請求項6に係る発明は明確でない。
ウ 段落【0064】に記載の「表3」において、試験No.2の「OD_(1)-ID_(1)」の値は「1」と記載されているが、段落【0065】には「試験No.2は、「OD_(1)-ID_(1)」が0.07と低く、」と記載されており、両者が整合しておらず不明瞭である。

2.当審拒絶理由の判断
(1)平成28年5月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)によって、本願の請求項1の「室温まで放冷する冷却工程」は「室温まで冷却する冷却工程」と補正された。このことにより、請求項1に係る発明は明確となった。
また、本件補正によって、請求項6に係る発明は製造方法の発明に補正された。
よって、当審拒絶理由ア、イは解消した。

(2)本件補正によって、段落【0064】に記載の「表3」の試験No.2の「OD_(1)-ID_(1)」の値が「0.07」に補正された。
よって、当審拒絶理由ウは解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-01 
出願番号 特願2011-251972(P2011-251972)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (F16B)
P 1 8・ 121- WY (F16B)
P 1 8・ 537- WY (F16B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩田 健一  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 森川 元嗣
内田 博之
発明の名称 溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法および溶融金属めっき座金組込みねじ  
代理人 特許業務法人ブライタス  

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