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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1317602
審判番号 不服2015-8679  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-11 
確定日 2016-07-28 
事件の表示 特願2013-523060「通信システムおよび基地局装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月10日国際公開、WO2013/005818〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成24年6月29日(優先権主張 平成23年7月1日)を国際出願日とする出願であって、平成27年2月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月11日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正がなされたもので、平成28年1月6日付けで当審により拒絶理由が通知された。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年5月11日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「第1の通信装置に対してデータを送信する第2の通信装置と、前記第2の通信装置に対してデータを送信する第3の通信装置とを有し、PDCP(P
acket Data Convergence Protocol)に対応する通信システムであって、
前記第2の通信装置に設けられ、前記第1の通信装置に対して送信するために前記第3の通信装置から送信されるデータを一時的に保存するバッファ部と、
前記第2の通信装置に設けられ、前記バッファ部に保存されているデータ量を計測するデータ計測部と、
前記第3の通信装置に設けられ、前記第2の通信装置に送信するための
データを保存する送信データ蓄積部と、
前記第3の通信装置に設けられ、前記送信データ蓄積部に保存されているデータを前記第2の通信装置へ送信する送信部と、
前記第2の通信装置に設けられ、前記データ計測部により計測された前記データ量の計測値に基づいて、前記バッファ部が輻輳している状態か否かを判定する輻輳状態判定部と、
前記第2の通信装置に設けられ、前記輻輳状態判定部が前記バッファ部が輻輳している状態であると判定した場合、前記バッファ部が輻輳している状態にあることを、S1 Application protocol(S1?AP)またはGPRS Tunneling Protocol for User Plane(GTP?u)の新規メッセージまたは新
規パラメータを介して、輻輳状態情報として前記第3の通信装置に通知する輻輳状態通知部とを備え、
前記送信部は、前記輻輳状態通知部により送信される前記輻輳状態情報に基づいて、前記送信データ蓄積部に保存されているデータを前記第2の通信装置へ送信する通信システム。」

3.拒絶理由
平成28年1月6日付けで当審により通知された拒絶理由の概要は以下のとおりである。

本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項1-6に対して
引用文献1

引 用 文 献 等 一 覧

1.NEC, KDDI, Deutsche Telekom,The u-plane overflowing handling,3GPP TSG-RAN WG3#71 R3-110895,2011年 2月25日,<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG3_Iu/TSGR3_71/Docs/R3-110895.zip> 」

4.引用発明
上記引用文献1には、以下の記載がなされている。

(1)「「2.1 Buffer overflowing in eNB for DL
The PDCP window size has a limitation. For example the Maximum_PDCP_SN is 4095 if the PDCP entity is configured for the use of 12 bit SNs. This means it can accommodate up to 6,142,500 bytes provided the size of PDCP-SDU is always 1500 bytes. If within a period of time there will be more than 4095 of PDCP-SDU received from the EPC, the PDCP in eNB may need to discard some PDCP SDU, if the local buffer is temporary full.
The problem of short-term buffer overflow at the eNB is anticipated in practical deployments especially when some UEs which receive high-data rate services move to into an area with worse coverage and the high-rate transmission is continuing.
……
2.2 Possible solutions
A straightforward solution is to introduce a congestion indication for u-plane in the S1 interface. This will tell the EPC from eNB to slow down the DL transmission packet even thought its bandwidth is still relaxing. This will have a benefit to save bandwidth in S1-u because the packets will not be sent over S1-u when eNB is facing congestion in the air.
We consider the following solution alternatives for the u-plane congestion indication:
Alt.1) Congestion Indication in the S1AP
Alt.2) Congestion Indication in the GTP-U
Alt.3) Congestion Indication in higher layer」

当審訳
2.1 eNBのダウンリンクにおけるバッファのオーバフロー
PDPCのウィンドウの大きさには制限がある。たとえば、PDPCの
シーケンス番号の最大値は、PDPCのエンティティが12ビットのシーケンス番号を使用するように構成されている場合には、4095である。これは、常に1500バイトの大きさで供給されるPDCP-SDUが、6,142,500バイトまで格納できることを意味する。ある時間内に、EPCから4095以上のPDCP-SDUが受信され、ローカルのバッファが一時的に一杯になると、eNBのPDPCはいくつかのPDCP-SDUを廃棄する必要があるかもしれない。
eNBおける短期のバッファのオーバフローの問題は、実際の配置において、特に、高データレートのサービスを受信している、いくつかのUEが、高データレートの通信を続けたまま、前より状態の悪い通信区域に移動したとき、起こることが予測される。
……
2.2 可能な解決策
簡単な解決策は、S1インタフェースのuプレーンに輻輳状態の指示を導入することである。これにより、バンド幅が依然として減少していることを考慮しても、eNBからEPCへ、ダウンリンクの伝送パケットの伝送速度を低下するよう通知する。このことは、eNBが無線で輻輳しているとき
に、S1-uでパケットを送信しなくてもよいので、S1-uのバンド幅の節約のためになる。
uプレーンで輻輳状態を指示する代わりに、以下の解決策について検討する。
代案1)S1APでの輻輳状態の指示
代案2)GTP-Uでの輻輳状態の指示
代案3)より高位層での輻輳状態の指示

したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

UEに対してデータを送信するeNBと、eNBに対してデータを送信するEPCを有し、PDCPに対応する通信システムであって、
eNBのダウンリンクのためのバッファのオーバフローを解決するため
に、eNBからEPCへ、S1APまたはGTP-Uによって輻輳状態を通知して、ダウンリンクの伝送パケットの伝送速度を低下させるようにした通信システム。

5.対比
引用発明のUE、eNB、及びEPCは、本願発明の第1の通信装置、第2の通信装置、及び第3の通信装置に対応する。
引用発明のeNBのダウンリンクのためのバッファは、本願発明のバッ
ファ部に対応する。
引用発明のEPCは、eNBに対してデータを送信するので、その送信するためのデータを保存する手段、及びその保存されているデータをeNBへ送信する手段を有することは当然のことであるから、本願発明の送信データ蓄積部及び送信部と同様の手段を有するものといえる。
引用発明は、eNBのダウンリンクのためのバッファのオーバフローを解決するために、輻輳状態を通知するので、バッファ部が輻輳している状態か否かを判定することは当然のことであり、バッファ部が輻輳している状態か否かを判定する点で、本願発明の輻輳状態判定部と同様な手段を有するといえる。
引用発明は、eNBからEPCへ、S1APまたはGTP-Uによって輻輳状態を通知するので、輻輳状態判定部がバッファ部が輻輳している状態であると判定した場合、バッファ部が輻輳している状態にあることを、S1 Application protocol(S1?AP)またはGPRS Tunneling Protocol for User Plane(GTP?u)を介して、輻輳状態情報として通知する点で、本願
発明の輻輳状態通知部と同様な手段を有するといえる。
引用発明は、eNBからEPCへ、S1APまたはGTP-Uによって輻輳状態を通知して、ダウンリンクの伝送パケットの伝送速度を低下させるようにしたので、輻輳状態通知部により送信される輻輳状態情報に基づいて、送信データ蓄積部に保存されているデータを送信する点で、本願発明の送信部と同様な手段を有するといえる。
したがって、本願発明と引用発明とを対比すると、次の点で一致する。

第1の通信装置に対してデータを送信する第2の通信装置と、前記第2の通信装置に対してデータを送信する第3の通信装置とを有し、PDCP(Packet Data Convergence Protocol)に対応する通信システムであって、
前記第2の通信装置に設けられ、前記第1の通信装置に対して送信するために前記第3の通信装置から送信されるデータを一時的に保存するバッファ部と、
前記第3の通信装置に設けられ、前記第2の通信装置に送信するための
データを保存する送信データ蓄積部と、
前記第3の通信装置に設けられ、前記送信データ蓄積部に保存されているデータを前記第2の通信装置へ送信する送信部と、
前記第2の通信装置に設けられ、前記バッファ部が輻輳している状態か否かを判定する輻輳状態判定部と、
前記第2の通信装置に設けられ、前記輻輳状態判定部が前記バッファ部が輻輳している状態であると判定した場合、前記バッファ部が輻輳している状態にあることを、S1 Application protocol(S1?AP)またはGPRS Tunneling Protocol for User Plane(GTP?u)を介して、輻輳状態情報と
して前記第3の通信装置に通知する輻輳状態通知部とを備え、
前記送信部は、前記輻輳状態通知部により送信される前記輻輳状態情報に基づいて、前記送信データ蓄積部に保存されているデータを前記第2の通信装置へ送信する通信システム。

また、次の点で相違する。

相違点1
本願発明がバッファ部に保存されているデータ量を計測するデータ計測部を備え、輻輳状態判定部が、そのデータ量の計測値に基づいて、バッファ部が輻輳している状態か否かを判定するのに対して、引用発明はデータ量について特定がない点。

相違点2
本願発明は、輻輳状態通知部による輻輳状態情報の通知が、S1 Application protocol(S1?AP)またはGPRS Tunneling Protocol for User Plane(GTP?u)の新規メッセージまたは新規パラメータを介して通知され
るのに対して、引用発明は新規メッセージまたは新規パラメータについて特定がない点。

6.判断
相違点1について
引用発明は、eNBのダウンリンクのためのバッファのオーバフローを解決するために、輻輳状態を通知するのであるから、バッファ部に保存されているデータ量を計測して、そのデータ量の計測値に基づいてバッファ部が輻輳している状態か否かを判定することに困難な点はない。

相違点2について
情報の通知を行うのであるから、何らかのメッセージまたはパラメータを介して行うのは当然のことであり、そのためのメッセージまたはパラメータを新規なものとすることに格別の点はない。

なお、平成28年3月4日付けの意見書で、請求人は以下のように主張している。

「(2)引用発明の説明
引用文献1には、UEに対してデータを送信するeNBと、eNBに対してデータを送信するEPCを有し、PDCPに対応する通信システムが開示されています。また、eNBのダウンリンクのためのバッファのオーバフ
ローを解決するために、eNBからEPCへ、S1APまたはGTP-Uによって輻輳状態を通知して、ダウンリンクの伝送パケットの伝送速度を低下させています。

(3)本願発明と引用文献に記載された発明との対比
請求項1に係る発明(以下、本件発明)と、引用文献1に記載の発明(以下、引用発明)とを対比します。なお、引用文献は、出願人が3GPPに提出したディスカッションパーパーです。審判官殿のご指摘の通り、引用発明のUE、eNB、及びEPCは、本願発明の第1の通信装置、第2の通信装置、及び第3の通信装置に対応します。また、引用発明のeNBのダウンリンクのためのバッファは、本願発明のバッファ部に対応します。さらに、引用発明は、本件発明の送信データ蓄積部、送信部、輻輳状態判定部、輻輳状態通知部および送信部と同等の構成を有します。
一方、審判官殿の指摘の通り、以下の2つの相違点で、本件発明と引用発明は互いに相違します。
相違点1:本願発明がバッファ部に保存されているデータ量を計測するデータ計測部を備え、輻輳状態判定部が、そのデータ量の計測値に基づいて、
バッファ部が輻輳している状態か否かを判定するのに対して、引用発明は
データ量について特定がない点。
相違点2:本願発明は、輻輳状態通知部による輻輳状態情報の通知が、S1 Application protocol(S1?AP)またはGPRS Tunneling Protocol for User Plane(GTP?u)の新規メッセージまたは新規パラメータを介して
通知されるのに対して、引用発明は新規メッセージまたは新規パラメータについて特定がない点。
……
しかしながら、本件発明では、無線基地局側のバッファ管理の状況に応じて、コアネットワーク側に対して、GTP-uのプトロコルに新規なパラ
メータまたはメッセージを追加することにより、バックプレッシャーを実施しようとするものです。また、本件発明は、引用発明と異なり、UDP(User Datagram Protocol)プトロコルをベースにした送達確認機能のないGTP-uプロトコルに、新たな機能を追加するものです。これにより、通信装置の間で通信されるデータが損失されることを低減することができるという有利な効果を奏します。一方、これらについては、引用文献1に開示も示唆もございません。したがいまして、本件発明は、引用発明に基づいて容易に想到できたとは到底思えません。」

引用発明は、バッファのオーバフローを解決するためのもので、それにより「ローカルのバッファが一時的に一杯になると、eNBのPDPCはいくつかのPDCP-SDUを廃棄する必要があるかもしれない」という問題を低減することができるものである。これは、請求人が主張する「通信装置の間で通信されるデータが損失されることを低減することができるという有利な効果」と変わらないものである。
このことは、引用発明も、本願発明と同様に、輻輳状態を通知しているからであって、輻輳状態を通知できれば、新規メッセージまたは新規パラメータを介するものでなくても、上記効果は得られるものである。
したがって、本願発明が、輻輳状態を新規メッセージまたは新規パラメータを介して通知することに格別な点はないから、請求人の上記「本件発明
は、引用発明に基づいて容易に想到できたとは到底思えません。」という主張は採用できない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-26 
結審通知日 2016-05-31 
審決日 2016-06-13 
出願番号 特願2013-523060(P2013-523060)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠山 敬彦  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 吉田 隆之
加藤 恵一
発明の名称 通信システムおよび基地局装置  
代理人 机 昌彦  
代理人 下坂 直樹  

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