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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1317635
審判番号 不服2013-17591  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-11 
確定日 2016-08-02 
事件の表示 特願2008-534777「クリアコート塗料組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 4月19日国際公開、WO2007/044736、平成21年 3月19日国内公表、特表2009-511678〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2006年10月6日(パリ条約に基づく優先権主張:2005年10月7日、2006年10月5日、米国)の国際出願日に出願されたものとみなされる国際特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成20年 4月 7日 国内書面(願書)提出
平成20年 6月 6日 翻訳文(明細書等)提出
平成21年10月 6日 出願審査請求
平成24年 2月24日付け 拒絶理由通知
平成24年 8月 9日 意見書・手続補正書
平成25年 5月23日付け 拒絶査定
平成25年 9月11日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成25年 9月25日付け 前置審査移管
平成25年11月22日付け 前置報告書
平成25年11月29日付け 前置審査解除
平成26年 6月26日付け 拒絶理由通知
平成26年 9月25日 意見書・手続補正書
平成27年 9月 9日付け 拒絶理由通知
平成28年 1月 8日 意見書・手続補正書

第2 本願の請求項に記載された事項
平成28年1月8日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
(a)Foxの方程式によって算出された40℃以上92℃以下のTgを有する最初のアクリルポリマー樹脂上の反応性官能基の少なくとも一部と、
(b)それぞれ、少なくとも2炭素原子の長さであり内部へテロ原子を含有してよい、少なくとも2つのアルキレン基、シクロアルキレン基又はアリーレン基によってポリマー主鎖から分離された、ブロックされる又はブロックされなくてよい、活性水素官能基、エポキシド基、カルボキシル基及びそれらの混合物から選択される硬化性官能基を前記最初のアクリルポリマー樹脂に提供する反応物と
の反応によって製造されたアクリルポリマー樹脂と、
アミノプラスト樹脂、イソシアネート架橋剤、ブロックトイソシアネート架橋剤及びそれらの混合物から選択されたアクリルポリマー樹脂上の硬化性官能基と反応する少なくとも1つの架橋性樹脂と、
を含有するクリアコートを形成するための塗料組成物であって、
得られたアクリルポリマー樹脂が、40℃以上92℃以下のTgを有し、
アクリルポリマー樹脂は、硬化性官能基を有さないモノマー単位が、得られたアクリルポリマー樹脂を基準とした合計ポリマー配合物量の少なくとも45質量%を含み、
硬化性官能基を有さない前記モノマー単位が、60℃以下のTgを有するモノマーA’と、残りが60℃超えのTgを有するモノマーA”とからなり、
モノマーA’の含有量が、得られたアクリルポリマー樹脂を基準とした合計ポリマー配合物量に対して最大で5質量%であるクリアコートを形成するための塗料組成物。
【請求項2】
アクリルポリマー樹脂が、(b)の反応物により提供されたもの以外の硬化性官能基を他に有する、請求項1に記載のクリアコートを形成するための塗料組成物。
【請求項3】
(b)の反応物によって提供されたもの以外の硬化性官能基が、(b)の反応物によって提供されるものとは異なる官能性である、請求項2に記載のクリアコートを形成するための塗料組成物。
【請求項4】
(b)の反応物によって提供されたもの以外の硬化性官能基が、(b)の反応物によって提供されるものと同一の官能性である、請求項2に記載のクリアコートを形成するための塗料組成物。
【請求項5】
(b)の反応物によって提供された硬化性官能基が、アクリルポリマー樹脂の硬化性官能基の合計数の少なくとも50%である、請求項2に記載のクリアコートを形成するための塗料組成物。
【請求項6】
アクリルポリマー樹脂は、硬化性官能基を有さないモノマー単位の一部、及び次の構造式I:
【化1】


[式中、R^(1)及びR^(2)は、場合により置換されている及び場合により内部のヘテロ原子を含み、独立してL^(1)及びL^(2)並びにL^(2)及びF^((b))を(別々に)分離している少なくとも2炭素原子を有するアルキレン基、シクロアルキレン基又はアリーレン基であり;L^(1)及びL^(2)が、それぞれが独立して、エステル基、エーテル基、尿素基及びウレタン基からなる群から選択された架橋基であり;F^((b))が、硬化性官能基(b)であり;かつR^(3)が、H又はメチルであり、nは、1以上8以下である。]によって示されるモノマー単位の一部を含む請求項1に記載のクリアコートを形成するための塗料組成物。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載のクリアコートを形成するための塗料組成物の硬化された層を有する被覆製品。
【請求項8】
ベースコート層の上に請求項1から6までのいずれか1項に記載のクリアコートを形成するための塗料組成物の硬化された層を有する被覆製品。」
(以下、請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明」という。)

第3 当審がした拒絶理由通知の概要
当審は、平成26年6月26日付け及び平成27年9月9日付けの2回にわたり、拒絶理由通知を行ったが、それらの概要はそれぞれ以下のとおりのものである。

1.平成26年6月26日付け拒絶理由通知(以下「第1拒絶理由通知」という。)について
「理 由

1)・・(中略)・・
2)本件出願の下記の請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
3)本件出願の下記の請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.特開平1-308463号公報(引用例1)
2.特開平6-220397号公報(引用例2)
・・(中略)・・
(3-3)対比・判断
<本願発明1>
本願発明1は、発明特定事項の「(a)Foxの方程式によって算出された40℃以上92℃以下のTgを有する最初のアクリルポリマー樹脂上の反応性官能基と、(b)それぞれに少なくとも2炭素の、少なくとも2つのアルキレン基、シクロアルキレン基又はアリーレン基によってポリマー主鎖から分離された硬化性官能基を提供する反応物との反応によって製造されたアクリルポリマー樹脂」が不明確であるものの、明細書の記載からして、「アクリルポリマー樹脂および架橋剤(硬化剤)を含有するクリアコート塗料組成物であって、得られたアクリルポリマー樹脂が、40℃以上92℃以下のTgを有し、アクリルポリマー樹脂は、硬化性官能基を有さないモノマー単位が、合計ポリマー配合物量の少なくとも45質量%を含み、硬化性官能基を有さない前記モノマー単位が、60℃以下のTgを有するモノマーA’と、残りが60℃超えのTgを有するモノマーA"とからなり、モノマーA’の含有量が、合計ポリマー配合物量に対して最大で10質量%であるクリアコート塗料組成物。」に当たるということができ、これと、上記(3-2-1)(3-2-2)で示した引用例1、2記載の発明とは、クリアコート塗料組成物の構成として同じであることから、引用例1、2には、本願発明1が記載されているということができる。

そして、本願発明1の硬化性官能基が「カプロラクトン」である場合、引用例1の上記(イ)には、マクロモノマーとして、アクリル酸2-ヒドロキシエチルにε-カプロラクトンを付加したものを用いることの記載があることから、上記の場合の本願発明1は、引用例1記載の発明に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものであり、
また、引用例2記載の発明において、アクリル樹脂(アクリルポリマー樹脂)樹脂を構成するモノマー単位の量を変更したとしても、本願発明1に相当するものになり得る可能性があるということができることから、本願発明1は、引用例2記載の発明に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものである。
・・(後略)」

2.平成27年9月9日付け拒絶理由通知(以下「第2拒絶理由通知」という。)
「第2 拒絶理由
・・(中略)・・
・本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項(柱書)の規定を満たしていない。



1.特許法第36条第6項第2号(いわゆるクレームの明確性)について
・・(中略)・・
2.特許法第36条第6項第1号(いわゆる明細書のサポート要件)について

(1)本願発明の解決課題
本願請求項1ないし7に係る発明・・の解決しようとする課題は、本願明細書の発明の詳細な説明(特に【0002】?【0006】)の記載からみて、「得られた硬化された塗装は、ガソリンへの曝露に対して膨潤に適応するための順応性を有し、それは特に優れた掻き傷及び擦傷の耐性に必要とされる硬度を犠牲にすることなく、」「ガソリン浸漬試験を受ける場合に順応性を有する」「低いVOC含量を保つ一方で、滑らかな外観のための優れた噴霧適性及びフロー特性を有する」「塗料組成物」及び当該塗料組成物から構成される「優れた硬度、腐食耐性並びに掻き傷及び擦傷の耐性を有する硬化塗装」の提供にあるものと認められる。

(2)検討

ア.前提
検討するにあたり前提となる当業者の技術常識につき検討すると、硬化性官能基を有するポリマー主剤とその硬化性官能基と反応することができる官能基を有する(外部)架橋剤との組合せからなる硬化型塗料組成物において、ポリマー主剤が有する硬化性官能基の量の大小により、ポリマー分子内及び分子間の(架橋)硬化の度合が有意に変化し、硬化塗膜の硬度及び耐溶剤性(膨潤性)などの物性が大きく変化することが、当業者の技術常識であるものと認められる。

イ.検討
上記前提となる当業者の技術常識を踏まえて、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、実験例に係る部分以外の部分(【0005】?【0028】)には、アクリルポリマーに関する分子量、Tg、構成する各モノマー単位の構造及び(そのホモポリマーの)Tg並びに導入される硬化性官能基の種類などについて説明・記載されているものの、アクリルポリマーにおける硬化性官能基の存在量については具体的に記載されておらず、例えば請求項1に記載された事項を具備することにより、上記解決課題に対応する効果(塗膜硬度の維持と耐膨潤性の確保)を得ることができると当業者が認識できるような作用機序につき、記載されているとはいえない。
また、実験例に係る部分(【0029】?【0036】)には、ポリマーのTgのみが異なり同一のヒドロキシ当量及び酸当量を有する「樹脂2」(実施例)及び「比較樹脂3」(比較例)を使用し、「ポリマーメラミン架橋剤」及び「ブロックトイソシアネート架橋剤」と組み合わせることにより、塗料組成物の「塗料例1」ないし「塗料例4」を構成して、その各塗料組成物の硬化塗膜につき、「Tukon硬度」及び「E10ガソリン浸漬」の試験結果が記載されているのみであって、極めて限られた実験例とその対比結果が記載されているのみである。
さらに、上記ア.で示したとおり、主剤ポリマーが有する硬化性官能基の存在量により硬化塗膜の硬度及び耐溶剤性(膨潤性)などの物性が大きく変化することは、当業者の技術常識であるから、「硬化性官能基を有さないモノマー単位が、合計ポリマー配合物量の少なくとも45質量%を含み」、すなわち、硬化性官能基を有するモノマー単位が合計ポリマー量の55質量%未満であるアクリルポリマーを使用した本願発明に係る全ての場合において、上記各物性を有する硬化塗膜を構成できるものとすべき技術常識が存するものとは認められない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載では、たとえ本願出願時の当業者の技術常識に照らしたとしても、本願請求項1及び同項を引用する請求項2ないし7に記載された事項で特定される本願発明が、全ての場合において、上記解決課題を解決できると当業者が認識することができる程度に記載したものということはできない。
したがって、本願請求項1及び同項を引用する請求項2ないし7に記載された事項で特定される本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるということができない。

ウ.小括
よって、本願請求項1ないし7の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

3.まとめ
以上のとおり、本願請求項1ないし7は、特許法第36条第6項第1号及び同条同項第2号に適合するものではないから、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていない。

(なお、本願については、上記のとおり、特許請求の範囲の記載が不備であり、本願に係る発明が明確でないから、当該発明の特許性(新規性進歩性等)についての判断につき、現時点では行わない。)」

第4 当審の判断
当審は、上記補正された本願請求項の記載及び本願発明について、上記第1拒絶理由通知における「理由3)」及び第2拒絶理由通知における「理由」(以下「理由I」という。)が成立するか否かにつき再度検討すると、その余につき検討するまでもなく、依然としてそれらいずれの理由をも成立するものと判断する。以下詳述する。

1.第2拒絶理由通知における理由Iについて
事案に鑑み、第2拒絶理由通知における理由Iにつき、まず検討する。

(1)本願発明の解決課題
本願請求項1に係る発明(本願発明)及び同項を引用する請求項2ないし8に係る発明の解決しようとする課題は、本願明細書の発明の詳細な説明(特に【0002】?【0006】)の記載からみて、「得られた硬化された塗装は、ガソリンへの曝露に対して膨潤に適応するための順応性を有し、それは特に優れた掻き傷及び擦傷の耐性に必要とされる硬度を犠牲にすることなく、」「ガソリン浸漬試験を受ける場合に順応性を有する」「低いVOC含量を保つ一方で、滑らかな外観のための優れた噴霧適性及びフロー特性を有する」「塗料組成物」及び当該塗料組成物から構成される「優れた硬度、腐食耐性並びに掻き傷及び擦傷の耐性を有する硬化塗装」の提供にあるものと認められる。

(2)検討

ア.前提
検討するにあたり前提となる当業者の技術常識につき検討すると、硬化性官能基を有するポリマー主剤とその硬化性官能基と反応することができる官能基を有する(外部)架橋剤との組合せからなる硬化型塗料組成物において、ポリマー主剤が有する硬化性官能基の量の大小により、ポリマー分子内及び分子間の(架橋)硬化の度合が有意に変化し、硬化塗膜の硬度及び耐溶剤性(耐膨潤性)などの物性が大きく変化することが、当業者の技術常識であるものと認められる。

イ.検討
上記前提となる当業者の技術常識を踏まえて、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、実験例に係る部分以外の部分(【0005】?【0028】)には、アクリルポリマーに関する分子量、Tg、構成する各モノマー単位の構造及び(そのホモポリマーの)Tg並びに導入される硬化性官能基の種類などについて説明・記載されているものの、アクリルポリマーにおける硬化性官能基の存在量については具体的に記載されておらず、例えば請求項1に記載された事項を具備することにより、上記解決課題に対応する効果(塗膜硬度の維持と耐膨潤性の確保)を得ることができると当業者が認識できるような作用機序につき、記載されているとはいえない。
また、実験例に係る部分(【0029】?【0036】)には、ポリマーのTgのみが異なり同一のヒドロキシ当量及び酸当量を有する「樹脂2」(実施例)及び「比較樹脂3」(比較例)を使用し、「ポリマーメラミン架橋剤」及び「ブロックトイソシアネート架橋剤」と組み合わせることにより、塗料組成物の「塗料例1」ないし「塗料例4」を構成して、その各塗料組成物の硬化塗膜につき、「Tukon硬度」及び「E10ガソリン浸漬」の試験結果が記載されているのみであって、極めて限られた実験例とその対比結果が記載されているのみである。
(なお、本願明細書に記載された上記各実験例で製造されている「樹脂1」、「樹脂2」及び「比較樹脂3」は、いずれも、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、スチレン、アルキル(メタ)アクリレート、アクリル酸などの不飽和モノマー混合物にε-カプロラクトンを更に混合してなる混合物を、過酸化物重合開始剤により有機溶剤中でラジカル重合して製造されているものと理解されるが、上記製造中に、重合により生じた不飽和モノマー混合物に由来するアクリル樹脂とε-カプロラクトンとが反応しているか否かは、技術常識に照らしても不明であるから、上記「樹脂1」、「樹脂2」及び「比較樹脂3」は、いずれも、請求項1に記載された「(a)」の「アクリルポリマー樹脂上の反応性官能基」と「(b)」の「ε-カプロラクトン」なる「反応物」との反応によって製造されたアクリルポリマー樹脂」に該当するのか否かさえ不明である。)
さらに、上記ア.で示したとおり、主剤ポリマーが有する硬化性官能基の存在量により硬化塗膜の硬度及び耐溶剤性(膨潤性)などの物性が大きく変化することは、当業者の技術常識であるから、「硬化性官能基を有さないモノマー単位が、合計ポリマー配合物量の少なくとも45質量%を含み」、すなわち、硬化性官能基を有するモノマー単位が合計ポリマー量の55質量%未満であるアクリルポリマーを使用した本願発明に係る全ての場合において、上記各物性を有する硬化塗膜を構成できるものとすべき技術常識が存するものとは認められない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載では、たとえ本願出願時の当業者の技術常識に照らしたとしても、本願請求項1に記載された事項で特定される本願発明が、全ての場合において、上記解決課題を解決できると当業者が認識することができる程度に記載したものということはできない。
したがって、本願請求項1に記載された事項で特定される発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができない(知財高裁平成17年(行ケ)10042号判決参照)。

(3)小括
以上のとおり、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではなく、本願は、他の請求項につき検討するまでもなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていない。

2.第1拒絶理由通知における「理由3)」について

引用刊行物:
1.特開平1-308463号公報
2.特開平6-220397号公報
(以下、それぞれ「引用例1」及び「引用例2」という。)

(1)各引用例に記載された事項

ア.引用例1(特開平1-308463号公報)
上記引用例1には、以下の事項が記載されている。

(1a)
「2.特許請求の範囲
(1)[I](a)マクロモノマー 3?30重量%、
(b)スチレン 10?50重量%
および
(c)その他のエチレン性不飽和単量体
20?87重量%
を共重合させてなる水酸基価60?120
の水酸基含有グラフト共重合体、および
[II]ポリイソシアネート化合物
を含有することを特徴とする被覆用組成物。
(2)[I]グラフト共重合体が重量平均分子量6000?40000で、かつガラス転移温度が0?80℃の範囲である請求項1記載の被覆用組成物。」
(1頁左欄4行?17行)

(1b)
「[産業上の利用分野]
本発明は被覆用塗料組成物に関し、さらに詳しくは特定のグラフト共重合体とポリイソシアネート化合物とを含有する、常温硬化型として特に有効な被覆用組成物に関する。
[従来の技術]
従来、自動車の補修や、産業機械、建造物、構築物、家具(鋼製も含む)等の塗装、補修に際し、アクリルラッカー、アクリルウレタン塗料およびアミノ-アクリル樹脂塗料などが用いられているが、常温乾燥性、塗り肌、耐候性などの点から自動車補修用塗料の分野ではアクリルウレタン塗料が主流となっている。
アクリルウレタン塗料においては、乾燥性の向上が強く望まれており、その目的のため本出願人はセルロースアセテートブチレートをグラフト重合させてなるアクリル系グラフト共重合体をバインダー成分として含有する被覆用組成物を先に提案した(特開昭57-85862号公報)、この公報の組成物によって、塗膜の乾燥性が飛躍的に向上し作業性が良くなるが、一方、塗膜の高光沢に大きく寄与するスチレンと、セルロースアセテートブチレートとの相溶性が悪いためスチレンの使用が制限され、塗膜の光沢の向上に限界が生じるという問題があり、また塗膜の平滑性が劣るという問題があった。
[発明の開示]
そこで本発明者らは、両立の困難な乾燥性と塗膜の高光沢や平滑性などの仕上り外観を満足するアクリルウレタン系被覆用組成物を得るべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、
[I](a)マクロモノマー 3?30重量%、
(b)スチレン 10?50重量%
および
(c)その他のエチレン性不飽和単量体
20?87重量%
を共重合させてなる水酸基価60?120
の水酸基含有グラフト共重合体、および
[II]ポリイソシアネ一ト化合物
を含有することを特徴とする被覆用組成物に係わる。」
(1頁左欄19行?2頁左上欄18行)

(1c)
「本発明における(a)マクロモノマーの構成単位は公知のエチレン性不飽和単量体であり、代表例を示すと、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸のC_(1)?C_(18)アルキルエステル;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート;アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸のC_(3)?_(18)アルコキシアルキルエステル;アリルアクリレート、アリルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のC_(2)?_(8)のアルケニルエステル;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のC_(2)?_(8)ヒドロキシアルキルエステル;市販品としてはダイセル化学工業(株)の製品であるプラクセルFA-1(アクリル酸2-ヒドロキシエチル1モルにε-カプロラクトン1モルを付加したモノマー)、プラクセルFM-1、プラクセルFM-3、プラクセルFM-5(メタアクリル酸2-ヒドロキシエチル1モルにε-カプロラクトンをそれぞれ1モル、3モル、5モル付加したモノマー)、ユニオンカーバイド社(米)の商品であるTONE M-100(アクリル酸2-ヒドロキシエチル1モルにε-カプロラクトン2モルを付加したモノマー)などが挙げられる水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル1モルとラクトン類1?5モルとの付加物;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド;アクリル酸、メタクリル酸;等のアクリル系不飽和単量体、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクロレイン、メタアクロレイン、ブタジエン、イソプレンなどアクリル系不飽和単量体以外の不飽和単量体を挙げることができ、これらは所望の物性に応じて適宜使用される。」
(2頁右下欄16行?3頁左下欄2行)

(1d)
「上記(a)?(c)成分を共重合して得られるグラフト共重合体は水酸基価60?120の範囲内である必要があり、(a)成分および/又は(c)成分に水酸基を有するものを使用して上記範囲内のグラフト共重合体とする。水酸基価が60より小さいと乾燥性が悪くなるとともに塗膜の架橋密度も低くなり、一方、水酸基価が120より大きいとグラフト共重合体の粘度が高くなり塗装時の不揮発分が低くなって仕上り外観に悪影響を及ぼす。
また、水酸基含有グラフト共重合体は重量平均分子量(Mw)6000?40000の範囲内であることが望ましい。Mwが6000未満であると満足な初期乾燥性が得られ難く、一方Mwが40000を超えるとスプレー塗装時の微粒化が悪く、また塗装後のレベリング性が劣るため塗面の平滑性に悪影響を及ぼす傾向がある。
さらに水酸基含有グラフト共重合体はガラス転移温度(Tg)が0?80℃の範囲内にあることが望ましい。Tgが0℃未満であると初期乾燥性の低下ならびに塗膜硬度の低下を招く傾向があり、一方Tgが80℃を超えると乾燥が速すぎ仕上り外観を低下させるとともに耐候性に悪影響を及ぼす傾向がある。」
(3頁右下欄2行?4頁左上欄4行)

(1e)
「本発明における(a)マクロモノマーの市販品としては東亜合成化学(株)の、下記第1表に示す製品AA-2、AA-6、AB-2、AB-6などを挙げることができる。


(4頁右上欄の4行?「第1表」)

(1f)
「本発明組成物は前記水酸基含有グラフト重合体および上記ポリイソシアネート化合物を必須成分とするものであるが、その他必要に応じて、有機溶剤、有機もしくは無機の着色顔料、体質顔料、アクリルポリオールなどの添加樹脂および紫外線吸収剤、酸化防止剤、表面調整剤、分散剤、反応促進剤などの塗料用添加剤などを含有してもよい。」
(4頁左下欄20行?右下欄6行)

(1g)
「本発明組成物はマクロモノマーを共重合したことによって優れた乾燥性が得られ、またスチレンの共重合量を高めることができることから高光沢の塗膜が得られ、しかも平滑性の良好な塗膜を得ることができるものであって、従来のアクリルウレタン塗料の特性である優れた物性及び耐候性の塗膜を形成できるものであり、特に自動車補修塗料分野に非常に有用な被覆用組成物である。」
(5頁左上欄2行?10行)

(1h)
「[実施例]
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、以下、「部」および「%」はそれぞれ「重量部」および「重量%」を意味する。
水酸基含有グラフト共重合体の製造
製造例1
反応器に温度計、サーモスタット、かくはん機、還流冷却器、滴下用ポンプを備えつけ、それにトルエン25部、キシレン43部を仕込み、かくはんしながら110℃まで昇温し、後記第3表に示す単量体および重合開始剤の混合物104.6部を110℃下まで滴下用ポンプを利用して3時間かけて一定速度で滴下した。滴下終了後60分間110℃に保ち、かくはんを続けた。その後、追加触媒アゾビスジメチルバレロニトリル0.5部をキシレン10部に溶解させたものを60分間で一定速度で滴下した。そして、滴下終了後60分間110℃に保持し、反応を終了した。得られた水酸基含有グラフト共重合体溶液は不揮発分54.3%、ガードナー粘度V^(-)の均一で透明な溶液であった。また共重合体の重量平均分子量は13500、水酸基価は82であった。
製造例2?10および比較製造例1?6
製造例1において、単量体および重合開始剤の混合物、および追加触媒を第3表に示す配合とする以外は同様に行ない水酸基含有共重合体溶液を得た。得られた共重合体溶液および共重合体の性状値を第4表に示す。
比較製造例7
温度計、かくはん機、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応器に下記の成分を仕込んだ。
トルエン 20部
ブチルセロソルブアセテート 13部
EAB-551-0.2(注1) 33部
合 計 66部
(注1)EAB-551-0,2・・・イーストマ
ン・コダック社製品、セルロースアセ
テートブチレート(CAB)。
上記の混合物66部を窒素ガス雰囲気下で加熱し、約1時間かけて100℃まで加熱した。100℃となり、CABが完全に溶解したことを確認したのち、下記第2表のエチレン性不飽和単量体混合物溶剤、および重合開始剤の混合液を100℃に保持したCAB溶液中に3時間にわたって滴下した。


滴下終了30分後、アゾビスジメチルバレロニトリルを0.5部加え、さらに窒素雰囲気下で2時間、100℃に保ち、その後キシレンを加え、固形分含有率50.1%の変性ビニル系共重合体溶液を得た。この共重合体溶液は、無色透明であった。




実施例
製造例および比較製造例で得た共重合体溶液を用い、第5表に示す配合で白塗料用主剤を作成し、また第6表に示す配合でクリヤ塗料用主剤を作成した。




第5表又は第6表に示した白塗料用主剤又はクリヤ塗料用主剤と硬化剤であるポリイソシアネート化合物とを第7表に示す配合で混合撹拌し、白塗料又はクリヤ塗料を作成した。
次いで白塗料又はクリヤ塗料を、トルエン/キシレン/酢酸エチル/酢酸ブチル= 50/20/10/20の組成のシンナーにて、白塗料については15?16秒(フォードカップ#4/25℃)、クリヤ塗料については13?14秒(フォードカップ#4/25℃)に粘調し、室温(約25℃)にて市販ラッカープライマー?ラッカーブライマーサーフェーサーの工程板上にスプレー塗装を行なった後、評価を行なった。塗膜性能及び仕上り外観の評価結果を第8表に示す。












第8表における試験方法は次のとおりである。
(1)乾燥性
塗装直後に試験板を温度20℃、湿度75%RHの恒温恒湿室中に静置し、静置8時間後及び16時間後の塗膜表面にガーゼを8枚重ねたものを載せ、その上に接触面積12.56cm^(2)である200gの重りを1分間だけ載せる。その直後のガーゼ跡を目視で判定する。
判定評価基準は以下に示す。
○・・・ガーゼ跡全くなし
△・・・ガーゼ跡が少しあり
×・・・ガーゼ跡が著しい
(2)エンピツ硬度
試験板を20℃、75%RHの恒温恒温室中に1,2,7日間放置後、同温度において鉛筆引っかき試験を行ない、塗膜にきずがつく鉛筆の硬さを調べた。
(3)光沢
20℃、75%RHの恒温恒温室中で24時間放置後の塗板の20°鏡面反射率を測定した。
(4)仕上り外観
塗膜の平滑性と塗り肌を目視判定した。
○:良好
△:少し肌あれ(審決注:左記「△」は実際は○印の中に△印が入ったも のである。)
×:かなり肌あれ
(5)耐ガソリン性
20℃で7日間乾燥させた塗板を水平に固定し、4つ折りにしたガーゼ(50×50mm)にレギュラータイプのガソリンを約5ccしみこませ、そのまま3分間放置する。その後、ガーゼを取り除き、ガソリンを別のガーゼでふきとった後の塗面の状態を観察する。
○:異常なし
×:塗面の光沢低下および軟化が発生
(6)耐水性
上記(5)と同様にして作成した塗板を20℃の水道水に7日間浸漬後の塗面状態を調べた。
○:異常なし
×:フクレ発生
(7)促進耐候性
上記(5)と同様にして作成した塗板をサンシャインウェザオメーター500時間試験した後の塗面の変化の有無を確認した。
○:塗面に変化がほとんどない
(8)耐ワレ性
上記(5)と同様にして作成した塗板を「70℃で1時間放置→20℃の水道水中に1時間浸漬→-20℃で1時間放置」を1サイクルとするテストを20サイクル連続して行なった後の塗面状態を調べた。
○:異常なし
△:一部にワレ発生
×:全面にワレ発生」
(5頁左上欄11行?10頁左下欄末行)

イ.引用例2(特開平6-220397号公報)
上記引用例2には、以下の事項が記載されている。

(2a)
「【0025】
【実施例】次に本発明の実施例を比較例との対比において説明する。以下において、部および%は特に断わりのない限り、全て重量基準であるものとする。
【0026】(1)アクリル樹脂(第1成分)の合成
まず撹拌装置、不活性ガス導入口、温度計および冷却機を備えた4つ口フラスコに、キシレン40部を入れて130°Cに昇温した後、ダイセル化学工業社の商品名「プラクセルFM-2」31.9部と、スチレン13.3部、エチルヘキシルメタアクリレート3.1部と、2-ヒドロキシエチルメタクリレート11.7部、ter-ブチルパーオキシ2エチルヘキサノエート0.7部の混合物を3時間かけて滴下させる。さらにキシレン4部と2-ヒドロキシエチルメタクリレート0.1部とを加え、上記温度で3時間保持して反応させることにより、不揮発分60%のアクリル樹脂溶液を合成する。これによって、本発明に係る塗料組成物を構成する第1成分の第1実施例(分子量7200)が得られる。
【0027】また、同様にして下記の表1に示す組成割合で各成分を混合することにより、ガラス転移温度が0?50℃、水酸基価が140?280、重量平均分子量が5000?20000の範囲内にある第1成分(アクリル樹脂)の実施例2?9が得られることになる。
【0028】
【表1】




(2b)
「【0037】(5)クリヤー塗料の作成
上記アクリル樹脂の実施例1?9および比較例1?5と、オリゴエステルの実施例10?14および比較例1?3と、所定の硬化剤、硬化触媒および溶剤とを下記の表4?表6に示すように配合して常法により、クリヤー塗料A?Yを作成した。なお、表4?6においてスミジュールN3500は、住友バイエルウレタン社製の硬化剤(イソシアネートプレポリマー)の商品名である。また、表4?6において、NCO/OHは、上記第1成分(アクリル樹脂)および第2成分(オリゴエステル)が含有する水酸基に対する第3成分(イソシアネートプレポリマー)が含有するイソシアネート基の割合を示している。
【0038】
【表4】


・・(中略)・・
【0041】(6)塗板の作成
電着塗装、中塗塗装が施されたプレートにキシレン50部と、酢酸ブチル50部との混合溶剤でFC(フォードカップ)#4で12秒に稀釈された上記ベースコートを塗布する。そして、10分間放置後に上記クリヤー塗料A?Yからなる二液型ウレタン塗料組成物を、キシレン-シクサヘキノン(重量比=60/40)からなる溶剤によりFC(フォードカップ)#4で18秒になるように粘度調整した後、上記プレートに塗布して10分間放置した後に、140℃の温度下で15分間乾燥させた。
【0042】(7)比較および評価
以上のようにしてクリヤー塗料A?Yによる仕上げの塗膜が形成された塗板を自動車の天井部に固定して洗車機により洗車を繰り返して行なった。そして、洗車用ブラシの擦過によって塗膜に生じる擦傷を目視観察し、傷の状態によって耐擦傷性を評価したところ、下記の表7に示す評価結果が得られた。なお、洗車の回数はそれぞれ20回とした。
【0043】また、上記クリヤー塗料A?Yの塗布面に、濃度5%の硫酸を1cc滴下して50°Cの温度で乾燥させた後に塗面の状態を目視することにより、塗膜の耐酸性を評価するとともに、上記クリヤー塗料A?Yの塗布面の肌を目視観察することにより、塗装の作業製の良否を評価したところ、下記の表7に示す評価結果が得られた。
【0044】
【表7】


【0045】この表7から分かるように所定の割合で配合された実施例1?9のアクリル樹脂(第1成分)および実施例10?14のオリゴエステル(第2成分)と、イソシアネートプレポリマーからなる硬化剤(スミジュールN3500)を使用した本発明に係る塗料A?Pにおいては、擦傷がほとんど発生していなかった。これに対し、比較例1?5のアクリル樹脂および比較例6?8のオリゴエステルを使用した比較例に係る塗料Q?Yにおいては、それぞれ目立つ擦傷の発生が認められた。
・・(中略)・・
【0048】上記のように本実施例に係る二液型ウレタン塗料組成物は、特定のアクリル樹脂からなる第1成分およびオリゴエステルからなる第2成分を所定の割合で配合するとともに、これらの両成分の水酸基と反応するイソシアネート基を所定の割合で含有したイソシアネートプレポリマーからなる第3成分を使用することにより、塗料を硬化させるように構成したため、優れた耐酸性を有するという二液型ウレタン塗料の特性を損なうことなく、塗膜の耐擦傷性を効果的に向上させることができるとともに、塗装作業性を良好状態に維持することができるものであることが分かる。」

(2)引用例1に記載された発明
上記引用例1には、「(a)マクロモノマー3?30重量%、(b)スチレン10?50重量%および(c)その他のエチレン性不飽和単量体20?87重量%を共重合させてなる水酸基価60?120の水酸基含有グラフト共重合体、およびポリイソシアネート化合物を含有することを特徴とする被覆用組成物」が記載され、上記「グラフト共重合体」が「重量平均分子量6000?40000で、かつガラス転移温度が0?80℃の範囲であることも記載されている(摘示(1a)参照。)。
そして、上記引用例1には、上記「水酸基含有グラフト共重合体」として、ポリメタクリル酸メチルを主成分とする「AA-6」なる商品名のマクロモノマー7.5重量部、スチレン12重量部、メタクリル酸メチル15.5重量部、アクリル酸n-ブチル4重量部、メタクリル酸t-ブチル30重量部、アクリル酸2-エチルヘキシル6重量部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル24重量部及びアクリル酸1重量部の単量体混合物を過酸化物重合開始剤により重合してなる、重量平均分子量13500、水酸基価104及びTg70℃である共重合体が記載されており(摘示(1h)の「製造例5」に係る記載参照。)、当該共重合体とポリイソシアネート化合物とを組み合わせてクリア塗料を構成すること及び当該クリア塗料により得られた塗膜が、エンピツ硬度、耐ガソリン性、耐ワレ性などの物性の点に優れることも記載されている(摘示(1h)の「実施例19」に係る各記載参照。)。
してみると、上記引用例1には、上記(1a)ないし(1h)の記載からみて、
「(a)ポリメタクリル酸メチルを主成分とする「AA-6」なる商品名のものである場合を含むマクロモノマー3?30重量%、(b)スチレン10?50重量%および(c)メタクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル及びアクリル酸などのその他のエチレン性不飽和単量体20?87重量%を共重合させてなる水酸基価60?120の水酸基含有グラフト共重合体およびポリイソシアネート化合物を含有することを特徴とするクリア被覆用組成物。」
に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(3)本願発明に対する対比・検討

ア.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「(a)ポリメタクリル酸メチルを主成分とする「AA-6」なる商品名のものである場合を含むマクロモノマー3?30重量%、(b)スチレン10?50重量%および(c)メタクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル及びアクリル酸などのその他のエチレン性不飽和単量体20?87重量%を共重合させてなる水酸基価60?120の水酸基含有グラフト共重合体」は、スチレン以外の単量体がいずれも(メタ)アクリル系のものであることが明らかであって、上記「水酸基」は、本願発明における「活性水素官能基」である「硬化性官能基」であると認められるから、本願発明における「硬化性官能基」を有する「アクリルポリマー樹脂」に相当し、引用発明における「ポリイソシアネート化合物」は、「水酸基含有グラフト共重合体」の「水酸基」なる硬化性官能基と反応するイソシアネート基を有するものであるから、本願発明における「イソシアネート架橋剤・・から選択されたアクリルポリマー樹脂上の硬化性官能基と反応する・・架橋性樹脂」に相当することも明らかである。
また、引用発明における「クリア被覆用組成物」は、被塗物表面の最外層に塗布・硬化され、クリアコート層を形成するものであることが明らかであるから、本願発明における「クリアコートを形成するための塗料組成物」に相当する。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「硬化性官能基を有するアクリルポリマー樹脂とイソシアネート架橋剤であるアクリルポリマー樹脂上の硬化性官能基と反応する架橋性樹脂とを含有するクリアコートを形成するための塗料組成物。」
である点で一致し、下記の3点でのみ一応相違する。

相違点1:「硬化性官能基を有するアクリルポリマー樹脂」につき、本願発明では、「(a)Foxの方程式によって算出された40℃以上92℃以下のTgを有する最初のアクリルポリマー樹脂上の反応性官能基の少なくとも一部と、(b)それぞれ、少なくとも2炭素原子の長さであり内部へテロ原子を含有してよい、少なくとも2つのアルキレン基、シクロアルキレン基又はアリーレン基によってポリマー主鎖から分離された、ブロックされる又はブロックされなくてよい、活性水素官能基、エポキシド基、カルボキシル基及びそれらの混合物から選択される硬化性官能基を前記最初のアクリルポリマー樹脂に提供する反応物との反応によって製造されたアクリルポリマー樹脂」であるのに対して、引用発明では「(a)ポリメタクリル酸メチルを主成分とする「AA-6」なる商品名のものである場合を含むマクロモノマー3?30重量%、(b)スチレン10?50重量%および(c)メタクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル及びアクリル酸などのその他のエチレン性不飽和単量体20?87重量%を共重合させてなる水酸基価60?120の水酸基含有グラフト共重合体」である点
相違点2:本願発明では、「得られたアクリルポリマー樹脂が、40℃以上92℃以下のTgを有」するのに対して、引用発明では水酸基含有グラフト共重合体のTgにつき特定されていない点
相違点3:「硬化性官能基を有するアクリルポリマー樹脂」につき、本願発明では、「アクリルポリマー樹脂は、硬化性官能基を有さないモノマー単位が、得られたアクリルポリマー樹脂を基準とした合計ポリマー配合物量の少なくとも45質量%を含み、硬化性官能基を有さない前記モノマー単位が、60℃以下のTgを有するモノマーA’と、残りが60℃超えのTgを有するモノマーA”とからなり、モノマーA’の含有量が、得られたアクリルポリマー樹脂を基準とした合計ポリマー配合物量に対して最大で5質量%である」のに対して、引用発明では「(a)ポリメタクリル酸メチルを主成分とする「AA-6」なる商品名のものである場合を含むマクロモノマー3?30重量%、(b)スチレン10?50重量%および(c)メタクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル及びアクリル酸などのその他のエチレン性不飽和単量体20?87重量%を共重合させてなる水酸基価60?120の水酸基含有グラフト共重合体」である点

イ.相違点に係る検討

(ア)相違点1について
上記相違点1につき検討する。
引用発明における「水酸基含有グラフト共重合体」を構成する「メタクリル酸2-ヒドロキシエチル」なるモノマー(単位)を例として説示すると、引用発明のように当該「メタクリル酸2-ヒドロキシエチル」なるモノマーを直接的に重合したポリマーにおけるモノマー単位の場合と、本願発明のように「カルボキシル基」なる反応性官能基を有する「メタクリル酸」なるモノマー単位を含む最初のアクリルポリマー樹脂に対して2炭素原子長を有する位置に「水酸基」なる硬化性官能基を提供する「エチレンオキサイド」又は「エチレングリコール」なる反応物を反応させたモノマー単位の場合とは、モノマー単位の化学構造に差異が存するものではないことが当業者に自明である。
(なお、引用発明において使用できるとされる「プラクセル」なる商品名のモノマーを使用した場合(摘示(1c)参照)と、本願発明における「(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル」をモノマー単位として含む最初のアクリルポリマー樹脂につき「ε-カプロラクトン」を反応物として反応させた場合との間についても、同様のことがいえる。
さらに、本願発明において、「ε-カプロラクトン」なる「反応物」が(最初の)アクリルポリマー樹脂に反応するものであると仮定すると、技術常識からみて、「メタクリル酸2-ヒドロキシエチル」なるモノマー単位に反応するかはさておき、「カルボキシル基」なる反応性官能基を有する「メタクリル酸」なるモノマー単位に対しても反応するものと解される。)
また、本願発明における「得られたアクリルポリマー樹脂」に相当するものと認められる引用発明における「水酸基含有グラフト共重合体」は、Tg0?80℃の範囲が好適であり、具体的に40℃である場合(摘示(1h)「製造例4」等)、60℃である場合(同「製造例3」)及び70℃である場合(同「製造例5」)がそれぞれ開示されている(摘示(1a)及び(1h)参照)から、引用発明において、「水酸基含有グラフト共重合体」の「Tg」の範囲に係る事項は、一応の技術的意義をもってTg0?80℃の範囲、特に40?70℃の範囲が好適であるとされているものの、本願発明における「反応物」に相当する「エチレンオキサイド」、「ε-カプロラクトン」などの成分を反応させる前のアクリルポリマー樹脂(最初のアクリルポリマー樹脂)の「Tg」の範囲については、この樹脂が「水酸基含有グラフト共重合体(得られたアクリルポリマー樹脂)」を構成する前のものである以上、「最初のアクリルポリマー樹脂」の「Tg」の範囲を規定することに技術的意義が存するものとは解することができない。
してみると、引用発明において、「最初のアクリルポリマー樹脂」に相当する樹脂の「Tg」の範囲について、例えば「40?80℃」の範囲に規定することは、単に所望に応じて規定した程度のものであって、この点に格別な技術的意義が存するものではなく、当業者が適宜なし得ることと認められる。
したがって、以上を総合すると、引用発明における「(a)ポリメタクリル酸メチルを主成分とする「AA-6」なる商品名のものである場合を含むマクロモノマー3?30重量%、(b)スチレン10?50重量%および(c)メタクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル及びアクリル酸などのその他のエチレン性不飽和単量体20?87重量%を共重合させてなる水酸基価60?120の水酸基含有グラフト共重合体」に代えて、本願発明における「(a)Foxの方程式によって算出された40℃以上92℃以下のTgを有する最初のアクリルポリマー樹脂上の反応性官能基の少なくとも一部と、(b)それぞれ、少なくとも2炭素原子の長さであり内部へテロ原子を含有してよい、少なくとも2つのアルキレン基、シクロアルキレン基又はアリーレン基によってポリマー主鎖から分離された、ブロックされる又はブロックされなくてよい、活性水素官能基、エポキシド基、カルボキシル基及びそれらの混合物から選択される硬化性官能基を前記最初のアクリルポリマー樹脂に提供する反応物との反応によって製造されたアクリルポリマー樹脂」を使用することは、「水酸基含有グラフト共重合体」と「得られたアクリルポリマー樹脂」との間に製造方法に係る相違はあるものの化学構造上の実質的な差異はなく、本願発明における「最初のアクリルポリマー樹脂」の「Tg」の範囲を規定した点についても格別な技術的意義が存するものではなく、当業者が所望に応じて適宜なし得ることであるから、当業者が所望に応じて適宜なし得ることと認められる。
よって、上記相違点1は、当業者が適宜なし得ることである。

(イ)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、引用発明において、ポリイソシアネート化合物と組み合わせる「水酸基含有グラフト共重合体」として、Tg0?80℃の範囲が好適であり、具体的に40℃である場合(摘示(1h)「製造例4」等)、60℃である場合(同「製造例3」)及び70℃である場合(同「製造例5」)がそれぞれ開示されているのである(摘示(1a)及び(1h)参照)から、引用発明における「水酸基含有グラフト共重合体」として、「0?80℃」、例えば「40?80℃」の範囲のTgを有するものに規定した点は、上記引用例1に記載されているに等しい事項であるか、当業者が上記技術常識に照らし所望に応じて適宜なし得ることと認められる。
してみると、上記相違点2は、実質的な相違点であるものとはいえないか、引用発明に基づき、当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)相違点3について
上記相違点3につき検討する。
(a)上記引用例1には、上記(2)で指摘したとおり、引用発明に係る実施例19(製造例5)として、ポリメタクリル酸メチルを主成分とする「AA-6」なる商品名のマクロモノマー7.5重量部、スチレン12重量部、メタクリル酸メチル15.5重量部、アクリル酸n-ブチル4重量部、メタクリル酸t-ブチル30重量部、アクリル酸2-エチルヘキシル6重量部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル24重量部及びアクリル酸1重量部の単量体混合物を過酸化物重合開始剤により重合してなる、重量平均分子量13500、水酸基価104及びTg70℃である共重合体とポリイソシアネート化合物とを組み合わせてクリア塗料を構成した場合につき記載されている。
しかるに、上記の場合、エステル交換などのエステル基が化学変化するような硬化反応がないことを前提とするならば、上記「ポリメタクリル酸メチルを主成分とするマクロモノマー」、「スチレン」、「メタクリル酸メチル」及び「メタクリル酸t-ブチル」は、本願発明における「硬化性官能基を有さない60℃超えのTgを有するモノマーA”」であり、「アクリル酸n-ブチル」及び「アクリル酸2-エチルヘキシル」は、本願発明における「硬化性官能基を有さない60℃以下のTgを有するモノマーA’」であり、そして、「メタクリル酸2-ヒドロキシエチル」及び「アクリル酸」は、「硬化性官能基を有するモノマー」であるものと認められるから、上記引用発明に係る実施例の場合には、「硬化性官能基を有さない60℃超えのTgを有するモノマーA”」が合計65重量%、「硬化性官能基を有さない60℃以下のTgを有するモノマーA’」が合計10重量%(すなわち、「硬化性官能基を有さないモノマーが合計75重量%)及び「硬化性官能基を有するモノマー」が合計25重量%であるものと認められる。
してみると、上記相違点3に係る事項のうち、「アクリルポリマー樹脂は、硬化性官能基を有さないモノマー単位が、得られたアクリルポリマー樹脂を基準とした合計ポリマー配合物量の少なくとも45質量%を含み、硬化性官能基を有さない前記モノマー単位が、60℃以下のTgを有するモノマーA’と、残りが60℃超えのTgを有するモノマーA”とからな」る点については、実質的な相違点であるとはいえない。
(b)また、上記相違点3に係る事項のうち、「モノマーA’の含有量が、得られたアクリルポリマー樹脂を基準とした合計ポリマー配合物量に対して最大で5質量%である」点につき検討すると、上記引用例2にも記載されているとおり、クリアコート剤として使用されるアクリル(ポリオール)樹脂とイソシアネート(プレポリマー)架橋剤とを含有する塗膜の耐酸性及び耐擦傷性に優れた二液硬化型ウレタン塗料組成物において、アクリル(ポリオール)樹脂のTgを40℃以上のものとするためにエチルヘキシルメタクリレートなどの低Tgモノマーの量を例えば5重量%以下とすることは、当業者が所望に応じて行う周知技術であるものと認められる(摘示(2a)及び(2b)の「実施例4」、「実施例5」、「クリア塗料D」及び「クリア塗料E」を参照。)。
さらに、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討すると、本願明細書の発明の詳細な説明には、「非架橋性であるモノマーは、モノマーA’及びA”を含み、その際、A’モノマーは、Foxの方程式により決定された60℃以下のTgを有し、かつ合計ポリマー配合物量に対して、10質量パーセント以下、有利には5質量パーセント以下の量でポリマー配合物中に存在する。」(【0008】)と記載されているのみであり、例えば、10質量%の場合に比して5質量%以下の場合が優位な効果を奏すること、すなわち、「5質量%以下」とした点に係る臨界的意義が存するものと認めることができない。
してみると、上記相違点3に係る事項のうち、「モノマーA’の含有量が、得られたアクリルポリマー樹脂を基準とした合計ポリマー配合物量に対して最大で5質量%である」とした点は、引用発明において、当業者がアクリルポリマーのTgを高いものとすることを意図し、上記周知技術に基づいて、適宜なし得ることである。
(c)したがって、上記相違点3については、当業者が適宜なし得ることである。

ウ.本願発明の効果について
本願発明の効果につき、本願発明において上記各相違点に係る事項を全て具備することにより、先行技術(引用発明)に比して特段の所定の効果を奏しているものか否か、いわゆる選択発明であるのか否かにつき検討すると、上記引用例1には、引用発明の被覆用組成物から構成される塗膜が、「エンピツ硬度」、「耐ガソリン性」、「耐水性」などの物性に優れることが記載されているから、本願発明の効果は、上記引用発明の効果に基づき、当業者が予期することができないような格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。
してみると、本願発明が、上記各相違点に係る事項を全て具備することにより、先行技術(引用発明)に比して特段の所定の効果を奏しているものということはできず、いわゆる選択発明が成立しているものとは認められない。

エ.小括
したがって、本願発明は、引用発明及び当業者の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)「理由3)」についてのまとめ
よって、本願発明は、上記引用例1に記載された発明及び当業者の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願は、本願の請求項1の記載が特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、同法第49条第4号の規定に該当するとともに、また、本願請求項1に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、本願は、同法第49条第2号の規定に該当するものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第49条第2号又は第4号の規定に該当し、いずれにしても拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-17 
結審通知日 2016-02-22 
審決日 2016-03-23 
出願番号 特願2008-534777(P2008-534777)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09D)
P 1 8・ 121- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阿川 寛樹福井 美穂  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 橋本 栄和
日比野 隆治
発明の名称 クリアコート塗料組成物  
代理人 来間 清志  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  

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