ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N |
---|---|
管理番号 | 1317646 |
審判番号 | 不服2015-14074 |
総通号数 | 201 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-07-27 |
確定日 | 2016-08-02 |
事件の表示 | 特願2013-211603「サンプルの画分を収集しサンプルを分析するための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月27日出願公開、特開2014- 38105〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2008年(平成20年)12月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年12月5日、米国)を国際出願日とする特願2010-528007号の一部を平成25年10月9日に新たな特許出願としたものであって、平成26年6月5日付けで拒絶理由が通知され、同年9月3日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、平成27年3月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年7月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成27年7月27日付けの手続補正について 平成27年7月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第17条の2第5項第4号に適合するものである。 第3 本願発明について 本件補正は、上記「第2」において検討したように適法なものであるので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年7月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その請求項1に記載された下記のとおりのものと認める。 「クロマトグラフィーの実行中に、クロマトグラフィーシステムでのサンプル流れ内における1つまたはそれ以上のサンプル要素を検出および収集する方法であって、 少なくとも1つの蒸発性粒子検出器を含む少なくとも1つの破壊式検出器から、前記クロマトグラフィーの実行中に第1信号を生成するステップと、 少なくとも1つの非破壊式検出器から、前記クロマトグラフィーの実行中に第2信号を生成するステップと、を有し、 前記非破壊式検出器は、観察される光学波長の各々における検出応答値を生成するように2つまたはそれ以上の光学波長を監視し、前記第2信号は、観察される光学波長の各々からの前記検出応答値を有する複合信号であり、 前記方法はさらに、前記クロマトグラフィーの実行中の前記第1信号および前記第2信号の少なくとも1つの変化に応じて、前記クロマトグラフィーの実行中に、画分収集器内に前記流れから前記1つまたはそれ以上のサンプル要素を収集するステップを有する、方法。」 第4 引用文献の記載事項 1 引用文献1 本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2004-45263号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである)。 (引1-1) 「【請求項1】 液体クロマトグラフで時間方向に成分分離させた試料を検出器とフラクションコレクタとに導入し、該検出器による検出情報に基づき前記フラクションコレクタで各成分を分画して採取する分取液体クロマトグラフ装置において、前記検出器として質量分析計を含む複数の検出手段を併設し、 a)該複数の検出手段による検出信号に基づいてそれぞれクロマトグラムを作成するクロマトグラム作成手段と、 b)該複数のクロマトグラムをそれぞれ所定の閾値と比較し、それぞれ二値信号に変換する信号変換手段と、 c)該複数の二値信号に対して所定の論理演算処理を行う演算処理手段と、 d)該演算結果に基づいて前記フラクションコレクタの動作を制御する分取制御手段と、 を備えることを特徴とする分取液体クロマトグラフ装置。」 (引1-2) 「【0002】 【従来の技術】 従来より、高速液体クロマトグラフ(以下「HPLC」と略す)を始めとするクロマトグラフ装置を利用して、試料に含まれる複数の成分を分離して採取する、いわゆる分取クロマトグラフが知られている。 【0003】 図5は、HPLCを利用した分取クロマトグラフの構成の一例である。溶離液槽1に貯留されている溶離液(移動相)はポンプ2により吸引され、一定流量で試料導入部3を介してカラム4に流される。試料導入部3において移動相中に注入された試料溶液は移動相に乗ってカラム4に導入され、カラム4を通過する間に時間方向に成分分離されて溶出する。紫外可視分光光度計である検出器(以下「UV検出器」と称す)5はカラム4から溶出する成分を順次検出し、検出信号を信号処理部6へと送る。UV検出器5を通った溶出液はその全量又は一部がフラクションコレクタ8に導入される。信号処理部6はUV検出器5から得られる検出信号に基づいてクロマトグラムを作成し、分取制御部7はそのクロマトグラムに現れるピークに基づいて分取のための制御信号をフラクションコレクタ8に与える。フラクションコレクタ8はその制御信号に基づき電磁弁等を開閉し、溶出液を成分毎に異なるバイアル瓶に分画する。」 (引1-3) 「【0016】 【実施例】 以下、本発明の一実施例である分取液体クロマトグラフ装置(以下「分取LC」と略す)を、図面を参照して説明する。図1は本実施例の分取LCの要部の構成図である。なお、図5、図6と同一の構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。 【0017】 この実施例の分取LCでは、カラム4の出口にスプリッタ11が設けられ、カラム4から溶出した試料液はスプリッタ11において所定の分流比率で二流路に分岐され、一方はMS9及びELSD12に送られ、他方はUV検出器5を介してフラクションコレクタ8に送られる。UV検出器5、MS9及びELSD12という3種類の検出器による検出信号は、所定の処理プログラムが搭載されたパーソナルコンピュータ(図中では「PC」と略す)20などで具現化される信号処理部21に入力され、それぞれ検出信号に基づいてクロマトグラムが作成される。これらクロマトグラムは二値信号変換部22に与えられ、それぞれ所定の閾値と比較することによって「0」及び「1」の二値信号に変換される。論理演算部23はその3つの二値信号のうちの少なくとも2つに対して、予め設定された論理演算を実行し、その結果を分取制御部7へと送る。また、入力設定部30はパーソナルコンピュータ20に付設されており、オペレータの操作によって、二値信号変換部22における閾値や論理演算部23における演算式を含む、各種の分析処理条件が入力設定できるようになっている。」 (引1-4) 「図1 」 上記(引1-1)ないし(引1-4)を含む引用文献1全体の記載を総合し、方法の発明として整理すると、 「分取液体クロマトグラフ装置において、 溶離液槽1に貯留されている溶離液(移動相)はポンプ2により吸引され、 一定流量で試料導入部3を介してカラム4に流され、 試料導入部3において移動相中に注入された試料溶液は移動相に乗ってカラム4に導入され、 カラム4を通過する間に時間方向に成分分離されて溶出し、 カラム4の出口にスプリッタ11が設けられ、カラム4から溶出した試料液(溶出液)はスプリッタ11において所定の分流比率で二流路に分岐され、一方はMS9及びELSD12に送られ、他方はUV検出器5を介してフラクションコレクタ8に送られ、 UV検出器5、MS9及びELSD12という3種類の検出器による検出信号は、所定の処理プログラムが搭載されたパーソナルコンピュータ20などで具現化される信号処理部21に入力され、それぞれ検出信号に基づいてクロマトグラムが作成され、 UV検出器5を通った試料液(溶出液)はその全量又は一部がフラクションコレクタ8に導入され、 分取制御部7はそのクロマトグラムに現れるピークに基づいて分取のための制御信号をフラクションコレクタ8に与え、 フラクションコレクタ8はその制御信号に基づき電磁弁等を開閉し、 試料液(溶出液)を成分毎に異なるバイアル瓶に分画する、 方法。」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 2 引用文献2 本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平3-29850号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである)。 (引2-1) 第2頁右下欄第7行-第20行 「異なる物性量の比、例えば波長λ_(1)における吸光度α_(1)と波長λ_(2)における吸光度α_(2)との比α_(1)/α_(2)、あるいは波長λ_(1)’における屈折率n_(1)と波長λ_(2)’における屈折率n_(2)との比n_(1)/n_(2)、さらには波長λ_(1)”における吸光度α_(1)”と屈折率n_(1)”との比α_(1)”/n_(1)”といった比は、理想的には各成分ごとに一定の値をとり、その値は成分の濃度に依存しない。そこで、この物性量の比をも判定要素に加えれば、より確実に目的成分を分取できるはずである。そこで、この発明の分取クロマトグラフ装置では、第2の物性量検出手段と物性量比算出手段とを新たに備え、この物性量比算出手段で得られた物性量比をも用いて判定する構成としている。」 (引2-2) 第1図 「 」 (引2-3) 第3頁左上欄第14行-第18行 「第1図は、同液体分取クロマトグラフ装置の概略構成を説明する図である。2は、固定相を充填したカラムであり、3は、このカラム2に移動相液体を圧入するポンプ、4は試料を注入する試料注入部である。」 (引2-4) 第3頁右上欄第2行-第10行 「カラム2を流出した移動相液体は、第2の検出器5_(-2)、第1の検出器5_(-1)を順に通って、従来と同様のモータ/ノズル制御部6に流入し、容器V_(1)、V_(2)、V_(3)、…、V_(n)に目的成分X_(1)、X_(2)、X_(3)、…、X_(n)が分け取られる。第2の検出器5_(-2)、第1の検出器5_(-1)は、試料に応じて、吸光光度計(紫外、可視、赤外)、示差屈折検出器等の適切な検出器が選択使用され、容易に取りかえ可能な構成とされる。」 (引2-5) 第3頁右上欄第14行-第17行 「以下、第2の検出器5_(-2)として波長250nmの紫外吸光光度計、第1の検出器5_(-1)として波長280nmの紫外吸光光度計が適用されているとして説明を進める。」 (引2-6) 第3頁右下欄第13行-第16行 「検出器5_(-1)、5_(-2)の信号ch_(1)、ch_(2)の比Rすなわち、波長280nmの吸光度α_(1)と波長250nmの吸光度α_(2)との比を算出する(ST6)。」 第5 対比 本願発明と、引用発明とを対比する。 ア(ア) 引用発明は、「溶離液」を「カラム4」を用いて「成分分離」し、「カラム4」から「溶出した試料液」を、「溶出液」として、「成分毎に異なるバイアル瓶」に「分画する」ものであるから、クロマトグラフィーの実行中であることは明らかである。 したがって、引用発明と本願発明は、「クロマトグラフィーの実行中」の工程に関する発明である点で一致する。 (イ) 引用発明の「分取液体クロマトグラフ装置」は、本願発明の「クロマトグラフィーシステム」に相当する。 (ウ) 本願発明の「サンプル要素を検出および収集する」との記載に照らし、「サンプル要素」とは、サンプルに含まれる検出し得る成分であり、収集される対象物であると理解される。 引用発明においては「UV検出器5を通った試料液(溶出液)はその全量又は一部がフラクションコレクター8に導入され」、該フラクションコレクターでは、「試料液(溶出液)を成分毎に異なるバイアル瓶に分画する」こととなる。引用発明の該溶出液に含まれる「成分」は、UV検出器で検出され、フラクションコレクター8でバイアル瓶に収集されることから、本願発明の「サンプル要素」に相当する。 (エ) 引用発明では、「カラム4を通過する間に時間方向に成分分離されて溶出し」た「試料液(溶出液)」は、カラムから次々と流れ出てくるから、本願発明の「サンプル流れ」に相当する。 (オ) 引用発明では、「カラム4を通過する間に時間方向に成分分離されて溶出し」た「試料液(溶出液)」は、「UV検出器5、MS9及びELSD12という3種類の検出器」で成分が検出され、その「検出信号に基づいてクロマトグラムが作成され」、「分取制御部7はクロマトグラムに現れるピークに基づいて分取のための制御信号をフラクションコレクターに与え」「試料液(溶出液)を成分毎に異なるバイアル瓶に分画する」こととなる。 そうすると、引用発明の「UV検出器5、MS9及びELSD12という3種類の検出器」で成分が検出された「試料液(溶出液)を成分毎に異なるバイアル瓶に分画する」方法は、本願発明の「サンプル流れにおける一つまたはそれ以上のサンプル要素を検出および収集する方法」に相当する。 イ(ア) 引用発明の「ELSD12」は、本願発明の「蒸発性粒子検出器」に相当することから、本願発明と引用発明は、「少なくとも1つの蒸発性粒子検出器を含む少なくとも1つの破壊式検出器」を備える点で一致する。 (イ) 引用発明の「ELSD12」による「検出信号」は、本願発明の「第1信号」に相当する。また、引用発明の「ELSD12」による「検出信号」の生成が「クロマトグラフィーの実行中」に「生成」されることは明らかである。 (ウ) よって、本願発明と引用発明は、「少なくとも1つの蒸発性粒子検出器を含む少なくとも1つの破壊式検出器から、前記クロマトグラフィーの実行中に第1信号を生成するステップ」を有する点で一致する。 ウ(ア) 引用発明の「UV検出値5」は、本願発明の「非破壊式検出器」に相当し、引用発明の「UV検出値5」による「検出信号」は、本願発明の「第2信号」に相当する。そして、引用発明の「UV検出値5」による「検出信号」の生成が「クロマトグラフィーの実行中」に「生成」されることは明らかである。 (イ) よって、本願発明と引用発明は、「少なくとも1つの非破壊式検出器から、前記クロマトグラフィーの実行中に第2信号を生成するステップ」を有する点で一致する。 エ(ア) 引用発明における「UV検出器5」、「及びELSD12」の「検出器による」「それぞれ検出信号」は、本願発明の「前記第1信号」と「前記第2信号」のそれぞれに相当する。 (イ) 引用発明の「フラクションコレクタ」は、本願発明の「画分収集器」に相当し、引用発明の「分画する」は、本願発明の「収集する」に相当する。 (ウ) したがって、引用発明の「UV検出器5」、「及びELSD12」の「検出器による」「それぞれ検出信号」に基づき、「クロマトグラムが作成され、分取制御部7はそのクロマトグラムに現れるピークに基づいて分取のための制御信号をフラクションコレクタ8に与え」、「試料液(溶出液)を成分毎に異なるバイアル瓶に分画する」ことは、本願発明の「クロマトグラフィーの実行中の前記第1信号および前記第2信号の少なくとも1つの変化に応じて、前記クロマトグラフィーの実行中に、画分収集器内に前記流れから前記1つまたはそれ以上のサンプル要素を収集する」点に相当する。 オ よって、本願発明と引用発明とは、 「クロマトグラフィーの実行中に、クロマトグラフィーシステムでのサンプル流れ内における1つまたはそれ以上のサンプル要素を検出および収集する方法であって、 少なくとも1つの蒸発性粒子検出器を含む少なくとも1つの破壊式検出器から、前記クロマトグラフィーの実行中に第1信号を生成するステップと、 少なくとも1つの非破壊式検出器から、前記クロマトグラフィーの実行中に第2信号を生成するステップと、を有し、 前記方法はさらに、前記クロマトグラフィーの実行中の前記第1信号および前記第2信号の少なくとも1つの変化に応じて、前記クロマトグラフィーの実行中に、画分収集器内に前記流れから前記1つまたはそれ以上のサンプル要素を収集するステップを有する、方法。」 である点で一致し、以下の点で両者は相違する。 <相違点> 非破壊式検出器に関して、本願発明は、観察される光学波長の各々における検出応答値を生成するように2つまたはそれ以上の光学波長を監視するものであり、第2信号が、観察される光学波長の各々からの前記検出応答値を有する複合信号であるのに対して、引用発明は、そのような構成とはされていない点。 第6 当審の判断 (1)相違点について 上記相違点について検討する。 上記「第4 引用文献の記載事項」「2 引用文献2」の(引2-1)ないし(引2-6)を参照すると、より確実に目的成分を分取するために、「波長λ_(1)における吸光度α_(1)と波長λ_(2)における吸光度α_(2)との比α_(1)/α_(2)」から求められる物性量の比を採用する点が記載されている。そして、第2の検出器として、波長250nmの紫外吸光光度計、第1の検出器として波長280nmの紫外吸光光度計を採用し、波長280nmの吸光度α_(1)と波長250nmの吸光度α_(2)との比を算出する点が記載されている。 したがって、引用文献2には、「観察される光学波長の各々における検出応答値を生成するように2つまたはそれ以上の光学波長を監視する」構成が記載されており、波長280nmの吸光度α_(1)と波長250nmの吸光度α_(2)との比α_(1)/α_(2)は、「観察される光学波長の各々からの前記検出応答値を有する複合信号である」といえる。 したがって、引用発明において、より確実に目的成分を分画するという動機付けのもと、引用文献2に記載された事項を適用し、本願発明の上記相違点に係る構成を成すことは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2) 本願発明の奏する作用効果 本願発明によってもたらされる効果は、引用文献1に記載された事項、及び、引用文献2に記載された事項から、当業者が予測し得る程度のものである。 (3) 請求人の審判請求書における主張への反論 請求人は、審判請求書において、 「主引例とされる引用文献2(注:当審における引用文献1(特開2004-45263号公報)に対応する。)においては、サンプルが取得されるクロマトグラフィーを実行する前に、予備的な分析クロマトグラフィーの実行を必要としています(段落[0020]など参照)。引用文献2においては、この予備的な分析に基づいて予め設定されたタイミングで、すなわち同一のクロマトグラフィーの実行中の検出器からの信号に応じてではなく、サンプルを収集します。引用文献2においては、2つの分析器の出力の間の「時間ずれ」を決定するために、予備的な分析が行われます。これらの時間ずれはメモリに記憶され、その後に、適切な分離のための実行が行われ、ここで時間ずれが分取のためのトリガとして使用されます。これらにつき、引用文献2の段落[0024]-[0028]など参照。 独立請求項1、13において、「クロマトグラフィーの実行中に」、「前記クロマトグラフィーの実行中に」と記載されているように、本願発明では、同一のクロマトグラフィーの実行中に、破壊式検出器および非破壊式検出器からそれぞれ信号を生成させ、その信号の変化に応じてサンプルの収集が行われます。しかし、上述のように、引用文献2においては、同一のクロマトグラフィーにおいて生成される信号に基づいて分取が行われるものではありません。本願発明においては、同一のクロマトグラフィーの実行中に信号の生成と、信号の変化に基づくサンプル収集とが行われるので、引用文献2のような予備的な実行が必要ありません。そのため、本願発明においては、引用文献2に開示の技術に対して、時間を節約でき、また、予備的な分析のためにサンプルを消費しないので、ターゲット成分の収率を向上させることができます。また、一般に、2回のクロマトグラフィーの実行において、必ずしも正確に同一の時間に抽出されるわけではないので、異なるクロマトグラフィーでの時間データに基づくサンプルの収集は不正確な分取を生じさせ、サンプルを消費させたり不純物を含むサンプル成分を分取したりすることがあります。本願発明は、上述のように、本願発明はそのような不都合を回避することができます。」 と主張している。 しかしながら、引用文献1において「予備的分析」について次のように記載されている。 「【0026】 ところで、上記実施例では、各検出信号から作成されるクロマトグラムの時間軸方向のずれを考慮していないが、実際には、溶出液の流通する配管の太さ、長さ、流速、流量などによって、カラム4の出口を発した溶出液が各検出器5、6、12に導入されるまでの時間にはばらつきが生じる。もちろん、配管経路の構成によってこの時間のばらつきをなくすことは可能ではあるが、構成が複雑になってしまいコストを引き上げる要因となる。また、溶出液の到達時間のばらつきを完全になくしたとしても、各検出器における検出時の時間遅延のばらつきもあり得る。そこで、こうした時間のずれを考慮した、他の実施例による分取LCの構成を図4に示す。 【0027】 図4では、スプリッタ11以前の部分については図1と同じであるので省略している。この構成では、信号処理部21からの信号を受けて各クロマトグラムの相互の時間ずれを算出する時間ずれ量算出部24と、二値信号変換部22の後段に配置され、時間ずれ量算出部24からの信号を受けて各二値信号にそれぞれ適宜の遅延を与える時間ずれ調整部25とが追加されている。 【0028】 この分取LCで分取・分画を行うには、まず、上述したような予備的分析の際に、時間ずれ量算出部24は複数のクロマトグラムにおいて同一成分(好ましくは標準試料に含まれる既知の成分)に対するピークの出現時刻の相違から、時間ずれ量を求め、記憶する。そして、その時間ずれ量の情報を時間ずれ調整部25に与えると、時間ずれ調整部25ではその時間ずれを補正するため、時間的に先行しているクロマトグラムに対応する二値信号を所定時間だけ遅延させる。これによって、複数の二値信号は成分の検出という観点からみたときの時間が揃い、論理演算を正確に行うことができる。なお、時間ずれの補正は二値信号でなくクロマトグラムで行ってもよいが、一般には、二値信号で行ったほうが簡単である。」 引用文献1記載の実施例において「予備的分析」を行うのは、もっぱら (i)「溶出液の流通する配管の太さ、長さ、流速、流量などによって、カラム4の出口を発した溶出液が各検出器5、6、12に導入されるまでの時間にはばらつきが生じる。」こと、 (ii)「溶出液の到達時間のばらつきを完全になくしたとしても、各検出器における検出時の時間遅延のばらつきもあり得る」こと という2つの理由による。 引用文献1記載の実施例の「予備的分析」は、「時間ずれを補正」しているだけであり、請求人が主張するような「予備的な分析に基づいて予め設定されたタイミングで、すなわち同一のクロマトグラフィーの実行中の検出器からの信号に応じてでなく、サンプルを収集する」ようなものではない。 本分析の際には、引用発明のとおりクロマトグラフィーが行われ、検出器からの信号に応じてサンプルが抽出されることは明らかであるから、請求人の主張は失当である。 しかも、本願発明においても、上記(i)及び(ii)の原因で生じる「ばらつき」は原理的に生じうるものであり、本願発明の特定事項からみても、予備的な分析クロマトグラフィーの実行を排除するものでもない。 (4) 小括 よって、本願発明は、引用発明、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 結語 以上のとおり、本願発明は、引用発明、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-03-10 |
結審通知日 | 2016-03-11 |
審決日 | 2016-03-23 |
出願番号 | 特願2013-211603(P2013-211603) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01N)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 東松 修太郎、後藤 大思 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
▲高▼橋 祐介 麻生 哲朗 |
発明の名称 | サンプルの画分を収集しサンプルを分析するための方法および装置 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 竹内 茂雄 |
代理人 | 鐘ヶ江 幸男 |
代理人 | 小林 泰 |