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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 取り消して特許、登録 H05K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1317698
審判番号 不服2015-22135  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-15 
確定日 2016-08-23 
事件の表示 特願2013-502259「新規な絶縁膜及び絶縁膜付きプリント配線板」拒絶査定不服審判事件〔2012年9月7日国際公開、WO2012/117915、請求項の数(19)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年2月22日(優先権主張2011年3月3日(特願2011-46765)、2011年4月25日(特願2011-97504)、2011年4月25日(特願2011-97506)、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年6月16日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年8月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月24日付けで拒絶査定(発送日:9月29日)がされ、これに対し、同年12月15日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 平成27年12月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
本件補正は、補正前請求項1及び13に、補正前請求項7及び16の特定事項のすべてをそれぞれ追加するとともに、補正前請求項7及び16を削除し、それに伴って、請求項の項番を繰り上げ、請求項の引用関係を整えるものである。

2 補正の適否
本件補正は、その内容からみて、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

3 むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合する。

第3 本願発明について
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし19に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明19」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願発明1及び12は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)バインダーポリマーを含有する絶縁膜であって、
前記絶縁膜は少なくとも(B)球状有機ビーズ、及び(C)リン、アルミニウム及びマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する微粒子を含有しており、
前記(B)球状有機ビーズ及び前記(C)リン、アルミニウム及びマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する微粒子は、前記絶縁膜中に分散しており、
前記(B)球状有機ビーズが、分子内にウレタン結合を含有する架橋球状有機ビーズであり、
前記絶縁膜の厚み方向の断面の任意の125μm×15μmの範囲において、前記(B)球状有機ビーズが20?50%の面積を占めることを特徴とする絶縁膜。」

「【請求項12】
(A)分子内にウレタン結合を有する化合物を含有する絶縁膜であって、
前記絶縁膜は少なくとも(B)球状有機ビーズ、及び(C)リン元素を含有する微粒子を含有しており、
前記(B)球状有機ビーズ及び前記(C)リン元素を含有する微粒子は、前記絶縁膜中に分散しており、
前記(B)球状有機ビーズが、分子内にウレタン結合を含有する架橋球状有機ビーズであり、
前記絶縁膜の厚み方向の断面中で絶縁膜表面の任意の点から基材面に向かって基材面と直交するように引いた線上において、絶縁膜領域の長さに対して前記(B)球状有機ビーズ領域の合計の長さが20?80%であることを特徴とする絶縁膜。」

第4 原査定の理由の概要
本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項1?6 /刊行物1
請求項7、8 /刊行物1?3
請求項9?21/刊行物1?5

刊行物1:国際公開第2007/125806号
刊行物2:特開2009-16671号公報
刊行物3:特開2007-270137号公報
刊行物4:国際公開第2008/108357号
刊行物5:特開2009-271445号公報

請求項1及び13に係る発明を刊行物1に記載された発明とを比較すると、請求項1における「前記絶縁膜の厚み方向の断面の任意の125μm×15μmの範囲において、前記(B)球状有機ビーズが20?50%の面積を占めること」及び請求項13における「前記絶縁膜の厚み方向の断面中で絶縁膜表面の任意の点から基材面に向かって基材面と直交するように引いた線上において、絶縁膜領域の長さに対して前記(B)球状有機ビーズ領域の合計の長さが20?80%であること」が刊行物1に記載された発明では規定されていない点で相違している。
上記相違点により生じる作用効果は、いずれも刊行物1において示されている。
したがって、請求項1?21に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。

第5 当審の判断
1 本願発明1について
(1)刊行物
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された国際公開第2007/125806号(以下「刊行物1」という。)には、「熱硬化性樹脂組成物」に関して、次の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。以下同じ。

(ア)「[0001] 本発明は、熱硬化性樹脂、コアシェル多層構造をもつ有機微粒子を必須成分として含有する熱硬化性樹脂組成物に関する。より詳しくは、印刷性、タック性、つや消し性、電気絶縁特性および被塗物との密着性などのバランスに優れ、ソルダーレジストおよび層間絶縁膜などの保護膜もしくは電気絶縁材料、ICや超LSI封止材料、積層板等の用途に好適に利用できる熱硬化性樹脂組成物、該組成物からなる硬化物およびその用途に関する。」

(イ)「[0022] 本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)熱硬化性樹脂および(B)コアシェル多層構造をもつ有機微粒子を含有し、必要に応じて(C)硬化促進剤などを含んでいてもよい。以下、本発明の熱硬化性樹脂組成物を構成する成分について説明する。
[0023](A)熱硬化性樹脂
本発明で用いられる(A)熱硬化性樹脂としては、たとえば、ウレタン樹脂と熱硬化性成分の組み合わせ、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート樹脂などが挙げられる。可とう性および電気絶縁特性の観点から、ウレタン樹脂と熱硬化性成分の組み合わせが好ましくカルボキシル基含有ポリウレタンと熱硬化性成分の組み合わせがより好ましい。」

(ウ)「[0025] <カルボキシル基含有ポリウレタン >
本発明において好ましく用いられるカルボキル基含有ポリウレタンは、・・・たとえば、(a)ポリイソシアネート化合物、(b)ポリオール化合物(ただし、(c) カルボキシル基含有ジヒドロキシ化合物を除く)および(c)カルボキシル基含有ジヒドロキシ化合物を反応させることにより合成することができる。反応に際しては末端封止剤として(d)モノヒドロキシ化合物および/または(e)モノイソシアネート化合合物を加えてもよい。」

(エ)「[0027] 上記(b)ポリオール化合物(ただし、(c)カルボキシル基含有ジヒドロキシ化合物を除く)としては、たとえば、低分子量ジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエーテルジオール、両末端水酸基化ポリブタジエン、ポリエステルジオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、柔軟性や電気絶縁特性、耐熱性の観点から、ポリカーボネートジオールを用いることが好ましい。」

(オ)「[0035] 本発明の熱硬化性樹脂組成物において、上記熱硬化性成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、上記カルボキル基含有ポリウレタンのカルボキシル基当量に対する硬化性成分のエポキシ当量の比が1. 0 ?3. 0となる量であることが望ましい。エポキシ当量の比が前記範囲よりも低いと、熱硬化性樹脂組成物からなる硬化膜の電気絶縁性が不十分となる場合があり、一方、前記範囲を超えると硬化膜の収縮量が多くなり、フレキシブルプリント配線基板(FPC)の絶縁保護膜として使用した場合に低反り性が悪化する傾向にある。」

(カ)「[0036](B)コアシェル多層構造をもつ有機微粒子
本発明で用いられる(B)コアシェル多層構造をもつ有機微粒子としては、たとえば、ゴム状ポリマーからなるコア層をガラス状ポリマーのシェル層で被覆したもの、また、その逆に、ガラス状ポリマーからなるコア層をゴム状ポリマーのシェル層で被覆したもの、あるいは、それらのシェル層の外側にさらに最外層を設けた3層構造のものなどを用いることができる。さらに、・・・シェル層の表面をカルボキシル基変性したものが、密着性の観点から好ましい。このようなコアシェル多層構造をもつ有機微粒子は無機フィラーとは異なり、熱硬化による硬化収縮歪みをコア層のゴム状ポリマーが緩和してくれることと、さらに無機フィラーに比べ熱硬化性成分との相溶性がよいことの2つの理由で、粒子界面で空気層などの欠陥を生じさせないために電気絶縁特性を低下させない。また、シェル層ポリマーが無機フィラーに比べ被塗物との密着性が良く、かつ、コア層のゴム状ポリマーが外的応力を緩和するため、結果として被塗物との密着性を低下させない。さらに、微粒子であるために組成物の増粘、チクソ性向上効果も期待でき、無機フィラーを用いることなく印刷性を向上できる。さらに、有機微粒子は無機フィラーに比べ比重が大きくないために塗膜中で沈みにくく表面に凹凸が形成されやすい。さらに、微粒子表面がガラス状ポリマーであるために塗膜表面に微粒子に由来する凹凸が形成された場合でもベタツキがなくタック性改善効果も期待できる。このように、該コアシェル多層構造をもつ有機微粒子を用いることにより、印刷性、タック性、艶消し性、電気絶縁特性、被塗物との密着性のバランスに優れた熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。」

(キ)「[0038] 上記(B)コアシェル多層構造をもつ有機微粒子は、凝集しにくいという点で球状または略球状であることが好ましい。ここで略球状とは任意の楕円形断面において長径/短径が1?10を意味する。また、上記コアシェル多層構造をもつ有機微粒子(B)の平均粒子径は、好ましくは 0. 01?10μm、より好ましくは 0.1?5μmである。平均粒子径が前記範囲よりも小さいと、艶消し性、タック性に対する効果が充分に発現しないことがあり、一方、前記範囲よりも大きいと、電気絶縁特性、被塗物との密着性に悪影響を及ぼす場合がある。本発明において平均粒子径とは、(長軸+短軸)/2で表される2軸平均粒子径を意味する。平均粒子径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定法によって求められる。
[0039] 上記(B)コアシェル多層構造をもつ有機微粒子は、1種単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。上記(B)コアシェル多層構造をもつ有機微粒子の配合量としては、特に制限されるものではないが、上記(A)熱硬化性樹脂100質量%に対して、好ましくは1?40質量%、より好ましくは5?30質量%となる量が好ましい。(B)コアシェル多層構造をもつ有機微粒子の配合量が少なすぎると、印刷性、艶消し性、タック性が低下する傾向にあり、一方、配合量が多すぎると、均一分散が難しくなって塗工性が低下する傾向にある。」

(ク)「[0045] (E)添加剤
本発明の熱硬化性組成物は、公知の各種添加剤、たとえば、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、ガラス粉、石英粉、シリカ等の無機フィラー;ガラス繊維、炭素繊維、窒化ホウ素繊維等の繊維強化材;酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、鉄黒、有機顔料、有機染料等の着色剤;ヒンダードフエノール系化合物、リン系化合物、ヒンダードアミン系化合物等の酸化防止剤;ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等の紫外線吸収剤などを含有していてもよい。また、用途に合わせてイオン交換体、粘度調整剤、難燃剤、抗菌剤、防黴剤、老化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、発泡剤、消泡剤、レべリング剤などを配合してもよい。(E)添加剤を配合する場合には、(E)添加剤の配合量としては、特に制限されるものではない、上記熱硬化性樹脂 100質量%に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは 20質量%以下となる量が好ましい。」

(ケ)「[0050] 〔実施例1〕
合成例1で得られたポリウレタン溶液(固形分濃度50質量%)に、該ポリウレタン固形分100質量%に対して、エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート828EL」)を、該ポリウレタンのカルボキシル基に対してエポキシ基が1. 1当量となる37. 5質量%、硬化促進剤としてメラミンを4質量%、コアシェル多層構造をもつ有機微粒子としてガンツ化成 (株)製「スタフイロイドAC-3816」(平均粒子径 0.5μm。低弾性率タイプ)を20質量%の割合で配合した。次いで、これらの成分が配合された組成物を、三本ロールミル((株)小平製作所製、型式: RIII 1RM 2)に3回通して混練りすることにより、ソルダーレジストインキを調製した。」

(コ)「[0055]〔比較例3〕
実施例1のコアシェル多層構造をもつ有機微粒子の代わりに根上工業(株)製「ウレタン微粒子:アートパールC-400」を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてソルダーレジストインキを得た。」

(サ)「[0060]〔評価〕
実施例1?3および比較例1?7で得られたソルダーレジストインキを用いて、以下のようにして印刷性、つや消し性、タック性、電気絶縁特性および被塗物との密着性を評価した。評価結果を表1に示す。」

(シ)表1には、比較例3が電気絶縁性の項目で「×」であることが記載されている。

上記記載事項を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「ウレタン樹脂と熱硬化性成分の組み合わせからなる熱硬化性樹脂を含有する保護膜であって、
前記保護膜は少なくとも球状または略球状である有機微粒子を含有しており、
前記有機微粒子は、前記保護膜中に分散している保護膜。」

イ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された特開2009-16671号公報(以下「刊行物2」という。)には、「テープキャリアパッケージ用柔軟性配線板」に関して、次の事項が記載されている。

(ア)「【0041】
本発明のテープキャリアパッケージ用柔軟性配線板は、オーバーコート層がフィラーとして多孔性微粒子と、樹脂硬化物とを少なくとも含有する。この多孔性微粒子はオーバーコート層表面のタック性を低減する役割を有する。しかも、タック性を低減し、且つオーバーコート層として要求される諸特性を維持または改良する。」

(イ)「【0046】
多孔性微粒子はオーバーコート層を形成する樹脂組成物に含有される樹脂成分に対して実質的に不活性な材料が好適である。多孔性微粒子の材質としては、例えばシリカ、ガラス、アルミナ、ゼオライト、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、珪藻土、ケイ酸カルシウム等のケイ酸塩、リン酸カルシウム等のリン酸塩、炭酸カルシウム等の炭酸塩、セオピライトなどのマグネシウムシリケート、活性炭、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、キトサン樹脂、ポリシロキサン樹脂、シリコーンゴム、酢酸セルロース樹脂など、そしてこれらの複合体が挙げられる。」

ウ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された特開2007-270137号公報(以下「刊行物3」という。)には、「熱硬化性樹脂組成物」に関して、次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂と、リン原子を含有する有機フィラーとを必須成分として含有する熱硬化性樹脂組成物に関する。詳しくは、可撓性、低反り性、長期信頼性および難燃性などに優れた硬化物を製造でき、ソルダーレジストおよび層間絶縁膜などの保護膜もしくは電気絶縁材料、ICや超LSI封止材料、積層板等の用途に好適に利用できる熱硬化性樹脂組成物、該組成物からなる硬化物およびその用途に関する。」

エ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された国際公開第2008/108357号(以下「刊行物4」という。)には、「感光性組成物」に関して、次の事項が記載されている。

「[0023]4.(D)成分
(D)成分は、リン原子を含むフィラーである。本発明においてフィラーとは感光性組成物中で溶解することなく分散される、常温(10?30℃)で固体のものを意味する。成分(D)は組成物に難燃性を付与するための成分である。
難燃成分としてリン原子を含むフィラーのように組成物中の樹脂成分、有機溶剤等に相溶しない微粒子を用いる事により、樹脂[成分(A)、(B)、(C)]に由来する組成物または硬化物の物性、特に感光性や現像液に対する溶解性への悪影響を小さくでき、レジストとして用いたときに高い解像性を発現可能となる。さらにリン原子を含むことで無機水酸化物のようなフィラーと比較して低配合量で高い難燃性が得られる。・・・
[0024](D)成分としては、感光性組成物が高い解像性を有し、硬化物が高い難燃性および絶縁信頼性を有するものとなるため、リンのオキソ酸の金属塩が好ましく、ホスフィン酸類の金属塩がより好ましい。・・・
[0025](D)成分としては、平均粒子径が0.5から15μm、特に1?5μmであるものが好ましい。平均粒子径が15μmを越えると柔軟性等を悪化させる場合がある。また、特に膜厚が50μm以下の薄膜の感光性ドライフィルムとして用いたときにフィルムの表面状態を悪化させる場合がある。一方、平均粒子径が0.5μm未満であるとリン原子を含むフィラーの嵩比重が小さくなることから、リン原子を含むフィラーを他の成分に分散させることが困難になる場合がある。
[0026](D)成分の配合量は、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計100質量部を基準として1?150質量部が好ましく、10?100質量部がより好ましい。1質量部未満であると難燃性向上効果が不十分となる場合があり、一方、150質量部を越えると硬化物の柔軟性や絶縁信頼性等の物性を低下させることがある。」

オ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された特開2009-271445号公報(以下「刊行物5」という。)には、「新規な感光性樹脂組成物」に関して、次の事項が記載されている。

「【0132】
<(F)室温で固体であり、且つ(A)?(E)成分に不溶である難燃剤>
本願発明における(F)室温で固体であり、且つ(A)?(E)成分に不溶である難燃剤とは、室温で固体であり、且つ(A)?(E)成分に不溶である微粒子であり、これが配合されることにより、組成物が難燃性を示す化合物のことである。例えば、金属水酸化物、金属酸化物、金属塩系難燃剤、赤燐系難燃剤、ホスフィン酸塩、メラミン系難燃剤、金属粉などが挙げられるが、これに限定されるものではない。特に好ましくは、金属水酸化物及びホスフィン酸塩である。
【0133】
本願発明における金属水酸化物とは、分子内に結晶水を含有する化合物であり、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ホウ酸亜鉛、亜鉛ヒドロキシ錫酸塩等を挙げることができ、これらは単独であるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。中でも特に水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムを用いた場合、高い難燃性が得られるため好ましい。」

(2)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「ウレタン樹脂と熱硬化性成分の組み合わせからなる熱硬化性樹脂」は、刊行物1の「(B)コアシェル多層構造をもつ有機微粒子の配合量としては、・・・上記(A)熱硬化性樹脂100質量%に対して、好ましくは1?40質量%、より好ましくは5?30質量%となる量が好ましい。・・・配合量が多すぎると、均一分散が難しく」(段落[0039])との記載からみて、前者の「(A)バインダーポリマー」に相当し、以下同様に、「保護膜」は「絶縁膜」に、「球状または略球状である有機微粒子」は「(B)球状有機ビーズ」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「(A)バインダーポリマーを含有する絶縁膜であって、
前記絶縁膜は少なくとも(B)球状有機ビーズを含有しており、
前記(B)球状有機ビーズは、前記絶縁膜中に分散している絶縁膜。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願発明1は、絶縁膜が「(C)リン、アルミニウム及びマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する微粒子」を含有し、「前記(C)リン、アルミニウム及びマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する微粒子」が前記絶縁膜中に分散しているのに対し、
引用発明は、保護膜がかかる構成を備えていない点。

〔相違点2〕
本願発明1は、「前記(B)球状有機ビーズが、分子内にウレタン結合を含有する架橋球状有機ビーズ」であるのに対し、
引用発明は、有機微粒子がかかる構成を備えていない点。

〔相違点3〕
本願発明1は、「前記絶縁膜の厚み方向の断面の任意の125μm×15μmの範囲において、前記(B)球状有機ビーズが20?50%の面積を占める」のに対し、
引用発明は、かかる構成を備えていない点。

(3)判断
ア 相違点1について
刊行物1には、添加剤としてリン系化合物を配合すること、及び添加剤の用途として難燃剤を配合することがそれぞれ記載されている((ク))。

本願の優先権主張の日前に、リン原子を含むフィラーが難燃性に寄与することが周知技術(例えば、刊行物3及び4参照。)である。

そうすると、引用発明において、前記周知技術を適用して、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
刊行物1には、コアシェル多層構造をもつ有機微粒子の代わりにウレタン微粒子を用いることが記載されている((コ))が、ウレタン微粒子を用いた場合、電気絶縁性の点で、引用発明に劣ることが記載されている((シ))。

そうすると、刊行物2に、オーバーコート層がフィラーとしてウレタン樹脂を材質とする多孔性微粒子と、樹脂硬化物とを少なくとも含有することが記載されていたとしても、引用発明に刊行物2に記載された事項を適用する阻害要因があるといえる。

したがって、引用発明において、刊行物2に記載された事項を適用して、相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ 相違点3について
本願発明1の「前記絶縁膜の厚み方向の断面の任意の125μm×15μmの範囲において、前記(B)球状有機ビーズが20?50%の面積を占める」との事項は、本願明細書の「本願発明の第一の態様の絶縁膜は、タックフリー性に優れ、繰り返し折り曲げに耐え得る柔軟性、難燃性、電気絶縁信頼性に優れ、反りが小さい。」(段落[0037])との記載、表2及び表3、並びに平成27年8月17日付け意見書に添付した実験成績証明書の表Cからみて、タックフリー性、柔軟性、難燃性、電気絶縁信頼性、反りのすべての項目で優れた効果を生じるさせるものである。

これに対して、引用発明は、刊行物1の「印刷性、タック性、艶消し性、電気絶縁特性、被塗物との密着性のバランスに優れた熱硬化性樹脂組成物を得る」((カ))との記載及び表1からみて、印刷性、タック性、艶消し性、電気絶縁特性、密着性のすべての項目で優れたものである。

また、刊行物1には「可とう性および電気絶縁特性の観点から、ウレタン樹脂と熱硬化性成分の組み合わせが好ましく」((イ))との記載、「柔軟性や電気絶縁特性、耐熱性の観点から、ポリカーボネートジオールを用いることが好ましい。」((エ))との記載、「カルボキル基含有ポリウレタンのカルボキシル基当量に対する硬化性成分のエポキシ当量の比が1. 0 ?3. 0となる量であることが望ましい。・・・一方、前記範囲を超えると硬化膜の収縮量が多くなり、フレキシブルプリント配線基板(FPC)の絶縁保護膜として使用した場合に低反り性が悪化する傾向にある。」((オ))との記載があり、これらの記載からみて、柔軟性及び反りの項目でも好適であることが示唆されているが、本願発明1の上記すべての項目で一括して優れたものするための具体的条件は示されていない。

また、刊行物2ないし5に、本願発明1の上記事項に関する記載はない。

そうすると、引用発明において、相違点3に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(4)まとめ
したがって、本願発明1は、当業者が引用発明及び刊行物2ないし5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明12について
(1)対比
本願発明12と引用発明とを対比すると、後者の「ウレタン樹脂と熱硬化性成分の組み合わせからなる熱硬化性樹脂」は前者の「(A)分子内にウレタン結合を有する化合物」に相当し、以下同様に、「保護膜」は「絶縁膜」に、「球状または略球状である有機微粒子」は「(B)球状有機ビーズ」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「(A)分子内にウレタン結合を有する化合物を含有する絶縁膜であって、
前記絶縁膜は少なくとも(B)球状有機ビーズを含有しており、
前記(B)球状有機ビーズは、前記絶縁膜中に分散している絶縁膜。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点4〕
本願発明12は、絶縁膜が「(C)リン元素を含有する微粒子」を含有し、「前記(C)リン元素を含有する微粒子」は前記絶縁膜中に分散しているのに対し、
引用発明は、保護膜がかかる構成を備えていない点。

〔相違点5〕
本願発明12は、「前記(B)球状有機ビーズが、分子内にウレタン結合を含有する架橋球状有機ビーズ」であるのに対し、
引用発明は、有機微粒子がかかる構成を備えていない点。

〔相違点6〕
本願発明12は、「前記絶縁膜の厚み方向の断面中で絶縁膜表面の任意の点から基材面に向かって基材面と直交するように引いた線上において、絶縁膜領域の長さに対して前記(B)球状有機ビーズ領域の合計の長さが20?80%である」のに対し、
引用発明は、かかる構成を備えていない点。

(2)判断
相違点4及び5についての判断は、前記相違点1及び2と同様である。

また、本願発明12の「前記絶縁膜の厚み方向の断面中で絶縁膜表面の任意の点から基材面に向かって基材面と直交するように引いた線上において、絶縁膜領域の長さに対して前記(B)球状有機ビーズ領域の合計の長さが20?80%である」との事項は、本願明細書の「本願発明の第二の態様の絶縁膜は、タックフリー性に優れ、繰り返し折り曲げに耐え得る柔軟性、難燃性、電気絶縁信頼性に優れ、反りが小さい。」(段落[0038])との記載、表5、並びに平成27年8月17日付け意見書に添付した実験成績証明書の表Dからみて、タックフリー性、柔軟性、難燃性、電気絶縁信頼性、反りのすべての項目で優れた効果を生じさせるものである。

これに対して、前記「ウ 相違点3について」で述べたように、刊行物1には、柔軟性及び反りの項目でも好適であることは示唆されているが、本願発明12の上記すべての項目で一括して優れたものするための具体的条件は示されていない。

また、刊行物2ないし5に、本願発明12の上記事項に関する記載はない。

そうすると、引用発明において、相違点6に係る本願発明12の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、本願発明12は、当業者が引用発明及び刊行物2ないし5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

3 本願発明2ないし11、13ないし19について
本願発明2ないし11、13ないし19は、本願発明1又は12を直接又は間接的に引用するものであるので、本願発明1又は12と同様に、当業者が引用発明及び刊行物2ないし5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし19に係る発明は、当業者が引用発明及び刊行物2ないし5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-09 
出願番号 特願2013-502259(P2013-502259)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05K)
P 1 8・ 571- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 冨岡 和人
小関 峰夫
発明の名称 新規な絶縁膜及び絶縁膜付きプリント配線板  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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