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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B62M
管理番号 1317788
審判番号 不服2015-16228  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-02 
確定日 2016-08-04 
事件の表示 特願2010-288070号「自動二輪車」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月 6日出願公開、特開2011-195138号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年12月24日(優先権主張 平成22年2月24日)の出願であって、平成26年10月15日付けで拒絶理由が通知され、同年12月18日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年5月28日付けで拒絶査定がされ、平成27年9月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年9月2日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年9月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成27年9月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正を含むものであって、補正前の請求項1と、補正後の請求項1の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(補正前の請求項1)
「クランク軸を有するエンジンと、前記エンジンのクランク軸が出力する回転を変速する変速機構と、前記変速機構からの動力が伝達される出力軸とを有するエンジンユニットと、
前記出力軸に固定された第1プーリと、
駆動輪に連結された第2プーリと、
前記第1プーリと前記第2プーリとの間に巻かれ、前記出力軸からの動力を前記駆動輪へ伝達する歯付きベルトと、
前記出力軸の軸中心を中心に前記駆動輪を揺動可能に支持するスイングアームと
を備える自動二輪車。」

(補正後の請求項1)
「クランク軸を有するエンジンと、前記エンジンのクランク軸が出力する回転を変速する変速機構と、前記変速機構からの動力が伝達される出力軸と、前記出力軸を回転可能に支持するクランクケースとを有し、収納箱の下方に位置するエンジンユニットと、
前記出力軸に固定された第1プーリと、
駆動輪に連結され、前記第1プーリよりも径が大きい第2プーリと、
前記第1プーリと前記第2プーリとの間に巻かれ、前記出力軸からの動力を前記駆動輪へ伝達する歯付きベルトと、
前記クランクケースに支持されると共に前記駆動輪を揺動可能に支持するスイングアームとを備え、
前記変速機構は、
駆動軸と従動軸とを有するVベルト式の無段変速機構と、
前記従動軸と前記出力軸との間に設けられ、前記無段変速機構の前記従動軸の動力を前記出力軸へ伝達する中間軸を備える歯車減速機構とを有し、
前記出力軸は、前記歯車減速機構の後方に設けられ、
前記スイングアームは、前記第1プーリが固定された前記出力軸の軸中心を中心に揺動可能である
自動二輪車。」

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
上記補正において、「前記出力軸を回転可能に支持するクランクケースとを有し、収納箱の下方に位置するエンジンユニット」という事項は、出願当初の明細書の段落【0019】、【0020】、【0025】、【0035】、【図2】及び【図5】の記載に基いて、「エンジンユニット」が「前記出力軸を回転可能に支持するクランクケース」を有するものであることを特定し、その位置が「収納箱の下方」であることを特定するものであり、発明特定事項を限定するものであって新規事項を追加するものではない。
また、「前記第1プーリよりも径が大きい第2プーリと」という事項は、出願当初の明細書の段落【0037】及び【図7】の記載に基いて、第2プーリと第1プーリの径の関係を特定するものであり、発明特定事項を限定するものであって新規事項を追加するものではない。
そして、「前記変速機構は、
駆動軸と従動軸とを有するVベルト式の無段変速機構と、
前記従動軸と前記出力軸との間に設けられ、前記無段変速機構の前記従動軸の動力を前記出力軸へ伝達する中間軸を備える歯車減速機構とを有し、
前記出力軸は、前記歯車減速機構の後方に設けられ、
前記スイングアームは、前記第1プーリが固定された前記出力軸の軸中心を中心に揺動可能である」という事項は、出願当初の明細書の段落【0024】、【0025】、【0028】、【0033】?【0035】及び【図6】の記載に基いて、「変速機構」が「駆動軸と従動軸とを有するVベルト式の無段変速機構と、前記従動軸と前記出力軸との間に設けられ、前記無段変速機構の前記従動軸の動力を前記出力軸へ伝達する中間軸を備える歯車減速機構とを有し、前記出力軸は、前記歯車減速機構の後方に設けられ」というものであることを特定するものであり、併せて、「スイングアーム」に関して表現を改めたものであるので、発明特定事項を限定するものであって新規事項を追加するものではない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

(2)独立特許要件
ア 刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明
(ア)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の優先日前に頒布された特開2006-97644号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同様。)
(1a)「【0009】
図1?図9は本発明の第1実施例を示すものであり、図1はスクータ型自動二輪車の側面図、図2はスクータ型自動二輪車の前部を拡大して示す縦断側面図、図3はパワーユニットの平面図、図4は図3の4矢視図、図5は図3の5矢視図、図6は図1の6-6線断面図、図7はハンドルロック装置付近を拡大して示す一部切欠き側面図、図8はスクータ型自動二輪車の後部を拡大して示す縦断側面図、図9は図8の9-9線断面図である。」

(1b)「【0014】
図3?図5を併せて参照して、車体フレームFには、4サイクルであるエンジンEAと、該エンジンEAの出力を変速する無段変速機Mとから成るパワーユニットPAが、後輪WRを駆動すべく搭載される。前記エンジンEAは、たとえば水冷式単気筒に構成されるものであり、クランクケース28と、前傾したシリンダ軸線を有してクランクケース28から前方に延びるシリンダブロック29と、クランクケース28とは反対側でシリンダブロック29に結合されるシリンダヘッド30と、シリンダヘッド30の頂部に結合されるヘッドカバー31とを備える。」

(1c)「【0017】
図6において、クランクケース28に回転自在に支承されるクランクシャフト34は、一対のクランクウエブ34a,34aと、それらのクランクウエブ34a,34a間を結ぶクランクピン34bとを一体に備えるものであり、シリンダブロック29に摺動自在に嵌合されるピストン35は、前記両クランクウエブ34a,34a間のクランクピン34bにコネクティングロッド36を介して連結される。」

(1d)「【0020】
自動二輪車の進行方向に沿う右側で前記クランクケース28には、該クランクケース28から後方に延びるケース主体45が連結されており、このケース主体45の右側に締結される右カバー46と、前記ケース主体45の後部右側に締結されるギヤケース47と、前記ケース主体45とで変速機ケース48が構成され、ケース主体45および右カバー46間には変速室49が形成され、ケース主体45およびギヤケース47間にはギヤ室50が形成される。」

(1e)「【0021】
前記変速機ケース48の変速室49には、クランクシャフト34の回転動力を無段階に変速して後輪側に伝達するためのベルト式の無段変速機Mが収納される。該無段変速機Mは、変速室49内に臨むクランクシャフト34の他端部に装着されるドライブプーリ51と、クランクシャフト34と平行な軸線を有して変速機ケース48の後部に回転自在に支承される伝動軸54の変速室49内に臨む部分に装着されるドリブンプーリ52と、ドライブプーリ51およびドリブンプーリ52に巻き掛けられる無端状のベルト53とを備える。」

(1f)「【0023】
前記伝動軸54の他端側はギヤ室50に臨んで配置されており、この伝動軸54と平行な軸線を有する出力軸57がケース主体45およびギヤケース47で回転自在に支承され、ギヤ室50には、前記伝動軸54の回転動力を減速して前記出力軸57に伝達する減速ギヤ列58が収容される。また前記出力軸57の一端部は、ギヤケース47の後部を貫通してギヤケース47の後部左側に突出される。」

(1g)「【0024】
ところで後輪WRの車軸59はスイングアーム60の後部に軸支されており、このスイングアーム60の前端には、前記変速機ケース48の一部を構成するケース主体45およびギヤケース47の後部間を相互に挟む一対の支持腕部60a,60bが設けられる。而して一方の支持腕部60aは、前記出力軸57に相対回転自在に支承され、他方の支持腕部60bは、前記出力軸57と同軸にして前記ケース主体45の後部に設けられた支軸61で回動可能に支承される。すなわちスイングアーム60の前端部は前記変速機ケース48で上下に揺動可能に支承されることになる。」

(1h)「【0025】
前記出力軸57の一端は、前記スイングアーム60が備える一方の支持腕部60aから突出されており、該出力軸57の前記支持腕部60aからの突出部に駆動スプロケット62が固定される。一方、自動二輪車の進行方向に沿う左側で後輪WRの車軸59には従動スプロケット63が固定されており、駆動スプロケット62および従動スプロケット63に無端状のチェーン64が巻き掛けられる。しかも前記支持腕部60aの前端外面側には駆動スプロケット62を覆うスプロケットカバー65が取付けられる。」

(1i)「【0044】
図8および図9において、前記乗車用シート133の下方には、該乗車用シート133の底板141で上端開口部が開閉可能に閉鎖されるようにして収納ボックス140が配置され、該収納ボックス140は、前記シートレール23…およびリヤパイプ24…で支持される。」

(イ)刊行物1に記載された発明
上記(ア)の記載事項に加え、以下a?gのことがいえる。
a
【図1】、【図8】の記載より、上記摘示(1b)の「パワーユニットPA」は、上記摘示(1i)の「収納ボックス140」の下方に位置しているといえる。

b
【図6】の記載より、上記摘示(1f)の「減速ギヤ列58」は、3つのギヤを用いていることが看取され、その真ん中のギヤの軸は「中間軸」といえるものである。

c
【図1】、【図8】の記載及び自動二輪車の技術常識より、上記摘示(1h)の「従動スプロケット63」は「駆動スプロケット62」よりも径が大きいことは明らかである。

d
上記摘示(1d)の「このケース主体45の右側に締結される右カバー46と、前記ケース主体45の後部右側に締結されるギヤケース47と、前記ケース主体45とで変速機ケース48が構成され」という記載より、「ケース主体45」と「ギヤケース47」は「変速機ケース48」を構成する部材であることから、上記摘示(1f)の「出力軸57がケース主体45およびギヤケース47で回転自在に支承され」ということを言い換えれば「出力軸57が変速機ケース48で回転自在に支承され」ということになるといえる。

e
【図6】の「ベルト53」、「ドライブプーリ51」、「ドリブンプーリ52」の記載及び無段変速機の技術常識より、上記摘示(1e)の「ベルト53」は「Vベルト」であることが明らかであり、「無段変速機M」は「Vベルト式」のものであるといえる。

f
上記摘示(1f)及び【図6】の記載より、上記摘示(1f)の「出力軸57」は「減速ギヤ列58」の後方に設けられているといえる。

g
上記摘示(1g)の「一方の支持腕部60aは、前記出力軸57に相対回転自在に支承され、他方の支持腕部60bは、前記出力軸57と同軸にして前記ケース主体45の後部に設けられた支軸61で回動可能に支承される」という記載、上記(1h)の「前記出力軸57の一端は、前記スイングアーム60が備える一方の支持腕部60aから突出されており、該出力軸57の前記支持腕部60aからの突出部に駆動スプロケット62が固定される」という記載及び【図6】の記載より、「スイングアーム60」は「駆動スプロケット62」が固定された「出力軸57」の軸中心を中心に揺動可能となっているといえる。

h
以上のことから、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「クランクシャフト34を有するエンジンEAと、クランクケース28と、前記クランクケース28に連結される変速機ケース48と、前記エンジンEAのクランクシャフト34が出力する回転動力を変速する無断変速機Mと、前記無段変速機Mからの動力が伝達される出力軸57と、前記出力軸57を回転自在に支承する前記変速機ケース48とを有し、収納ボックス140の下方に位置するパワーユニットPAと、
前記出力軸57に固定された駆動スプロケット62と、
後輪WRに連結され、前記駆動スプロケット62よりも径が大きい従動スプロケット63と、
前記駆動スプロケット62と前記従動スプロケット63との間に巻き掛けられ、前記出力軸57からの動力を前記後輪WRへ伝達するチェーン64と、
前記変速機ケース48に支承されると共に前記後輪WRを揺動可能に支承するスイングアーム60とを備え、
前記無断変速機Mは、
クランクシャフト34と伝動軸54とを有するVベルト式の無段変速機Mと、
前記伝動軸54と前記クランクシャフト34との間に設けられ、前記無段変速機Mの前記伝動軸54の動力を前記出力軸57へ伝達する中間軸を備える減速ギヤ列58とを有し、
前記出力軸57は、前記減速ギヤ列58の後方に設けられ、
前記スイングアーム60は、前記駆動スプロケット62が固定された前記出力軸57の軸中心を中心に揺動可能である
スクータ型自動二輪車。」

(ウ)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として示され、本願の優先日前に頒布された米国特許出願公開第2002/0104702号明細書(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、以降、当審で作成した翻訳文の用語を用いることとする。
(2a)「[0002]The present invention relates generally to motorcycles, and more particularly, to a motorcycle having an intermediate shaft between the transmission power take-off and the rear wheel. 」
(翻訳)
「[0002] 本発明は、自動二輪車に関するものであり、詳細には、変速機の動力出力と後輪との間に中間軸を有する自動二輪車に関する。」

(2b)「[0028] ・・・However, those skilled in the art will appreciate that drive chains 56 and 58 may be replaced by flexible rubber drive belts.・・・FIGS. 6 and 7 , intermediate shaft 140 includes a power input drive pulley 144 adapted to engage a first toothed drive belt 158 that also engages a similar toothed drive pulley 127 provided at the output of transmission 36 . Likewise, intermediate shaft 140 includes a power output drive pulley 146 adapted to engage a second toothed drive belt 156 which also engages a similar toothed drive pulley 138 provided on rear wheel 28 in substitution for rear wheel drive gear 38 of FIG. 2 . ・・・ 」
(翻訳)
「[0028] ・・・しかしながら、当業者は、駆動チェーン56及び58は、柔軟なゴム製の駆動ベルトによって置換されうることが理解できるであろう。・・・図6及び7は、中間軸140は、変速機36の出力に設けられた同様の歯付きプーリ127と係合する第1の歯付き駆動ベルト158に係合するように適合されている動力入力駆動プーリ144を含んでいる。同様に、中間軸140は、図2の後輪駆動ギヤ38に代えて後輪28に設けられた同様の歯付き駆動プーリ138と係合する第2の歯付き駆動ベルト156に係合するように適合された動力出力駆動プーリ146を含んでいる。・・・」

イ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)
引用発明の「クランクシャフト34」は本願補正発明の「クランク軸」及び「駆動軸」に相当し、以下同様に、「エンジンEA」は「エンジン」に、「回転動力」は「回転」に、「無断変速機M」は「変速機構」及び「無段変速機構」に、「出力軸57」は「出力軸」に、「回転自在」は「回転可能」に、「支承」は「支持」に、「収納ボックス140」は「収納箱」に、「パワーユニットPA」は「エンジンユニット」に、「後輪WR」は「駆動輪」に、「巻き掛けられ」は「巻かれ」に、「スイングアーム60」は「スイングアーム」に、「伝動軸54」は「従動軸」に、「中間軸」は「中間軸」に、「減速ギヤ列58」は「歯車減速機構」に、「スクータ型自動二輪車」は「自動二輪車」に相当する。

(イ)
チェーン伝動及びベルト伝動はいずれも、「駆動側の伝動車」、「従動側の伝動車」及び「巻き掛け伝動節」からなる、いわゆる「巻き掛け伝動」の一形態であることから、引用発明の「駆動スプロケット62」と本願補正発明の「第1プーリ」とは「駆動側の伝動車」の限度で一致するといえ、以下同様に、「従動スプロケット63」と「第2プーリ」とは「従動側の伝動車」の限度で、「チェーン64」と「歯付きベルト」とは「巻き掛け伝動節」の限度で一致するといえる。

(ウ)
以上のことから、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「クランク軸を有するエンジンと、前記エンジンのクランク軸が出力する回転を変速する変速機構と、前記変速機構からの動力が伝達される出力軸とを有し、収納箱の下方に位置するエンジンユニットと、
前記出力軸に固定された駆動側の伝動車と、
駆動輪に連結され、前記駆動側の伝動車よりも径が大きい従動側の伝動車と、
前記駆動側の伝動車と前記従動側の伝動車との間に巻かれ、前記出力軸からの動力を前記駆動輪へ伝達する巻き掛け伝動節と、
前記駆動輪を揺動可能に支持するスイングアームとを備え、
前記変速機構は、
駆動軸と従動軸とを有するVベルト式の無段変速機構と、
前記従動軸と前記出力軸との間に設けられ、前記無段変速機構の前記従動軸の動力を前記出力軸へ伝達する中間軸を備える歯車減速機構とを有し、
前記出力軸は、前記歯車減速機構の後方に設けられ、
前記スイングアームは、前記駆動側の伝動車が固定された前記出力軸の軸中心を中心に揺動可能である
自動二輪車。」

[相違点1]
「駆動側の伝動車」、「従動側の伝動車」及び「巻き掛け伝動節」に関し、本願補正発明は、それぞれ「第1のプーリ」、「第2のプーリ」及び「歯付きベルト」であるのに対し、引用発明では、それぞれ「駆動スプロケット62」、「従動スプロケット63」及び「チェーン64」である点。

[相違点2]
「出力軸」と「スイングアーム」を支持する事項に関し、本願補正発明は、「クランクケース」であるのに対し、引用発明では、「クランクケース28に連結される変速機ケース48」である点。

相違点の判断
[相違点1]について
上記ア(ウ)より、刊行物2には、自動二輪車の後輪の駆動手段として、ギヤ及び駆動チェーンに代えて、歯付き駆動プーリ及び歯付き駆動ベルトを用いることが記載されているといえ、引用発明の「駆動スプロケット62」、「従動スプロケット63」及び「チェーン64」による手段に代えて、上記刊行物2に記載の手段を採用することは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得たことである。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

[相違点2]について
自動二輪車において、エンジンと変速機からなるユニット全体を「クランクケース」に収容することは、本願優先日前の周知技術(例えば、特開平11-342754号公報(特に段落【0012】、【0064】、【0066】、【図9】参照。)、国際公開第03/095868号(特に明細書第8ページ第10?11行、図1参照。)等。)であり、引用発明の「クランクケース28に連結される変速機ケース48」に代えて上記周知技術を採用することは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得たことである。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

エ 作用効果の検討
そして、本願補正発明の作用効果について検討しても、引用発明においてもスイングアーム60の揺動とチェーン64の揺動は同期しており、チェーン、スプロケットに代えて歯付きベルト、プーリを採用したのであれば、スイングアームの揺動と歯付きベルトの揺動が同期することになり、出力軸のプーリから歯付きベルトが外れにくくなることは構成上明らかであるので、この作用効果は当業者にとって予測可能なことといえる。
そして、軽量化、メンテナンス低減、従来と同等の車両サイズやバンク角の維持ということについても、引用発明、刊行物2に記載の技術的事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものといえる。

オ 審判請求書における主張の検討
(ア)
請求人は、審判請求書において、引用文献2は、「(D)前記第1プーリと前記第2プーリとの間に巻かれ、前記出力軸からの動力を前記駆動輪へ伝達する歯付きベルトと」という事項、及び、「(I)前記スイングアームは、前記第1プーリが固定された前記出力軸の軸中心を中心に揺動可能である」という事項の記載がない旨主張する。
しかしながら、刊行物2から当審が引用するのは、上記「ウ[相違点1]について」で述べたように「自動二輪車の後輪の駆動手段として、ギヤ及び駆動チェーンに代えて、歯付き駆動プーリ及び歯付き駆動ベルトを用いる」ということである。そして、当該事項を引用発明に適用することが容易であることは既に述べたとおりである。
したがって、この主張は採用できない。

なお、請求人は、原査定に関し、「審査官殿は引用文献2の中間軸140が本願発明の出力軸に相当すると認定されていますが、中間軸140と本願発明の出力軸とは技術的に全く異なるものです。」と主張している。
しかしながら、刊行物2に記載の「中間軸140」は、「動力出力駆動プーリ146」、「歯付き駆動プーリ138」及び「第2の歯付き駆動ベルト156」からなる伝動機構に対して動力を伝達する軸となっており、駆動輪への伝動機構に動力を伝達する軸という限度では本願補正発明の「出力軸」と格別相違するものではないし、原査定における拒絶理由通知書や拒絶査定において、刊行物2については「第2の歯付きベルト156」側の伝動機構に対して指摘していることから、刊行物2に記載される実施例そのものの伝動機構の構造を適用するという趣旨のものでないことは明らかである。
したがって、この主張も採用できない。

(イ)
また、請求人は、スクータ型車両では一般的に小径のタイヤが採用されるとして、「歯飛びを防止するには大きなプーリを採用する必要がありますが、ドライブプーリを大きくして、かつ減速比を得ようとするとドリブンプーリをさらに大きくする必要があり、バンク角が小さくなってしまいます。すなわち、プーリを用いることに対して阻害要因がありました。」とし、「当業者が、技術的意義の異なる引用文献2の中間軸140に接したとしても、引用文献1のスプロケットをプーリに変更することを想到することはできません。」と適用の困難性を主張する。
しかしながら、本願の請求項1には「スクータ型車両」であることの特定はなく、上記主張は請求項の記載に基づくものではない。また、スクータ型車両を考慮したとしても、同一ないし近似する技術分野における機能作用が共通する技術の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず、刊行物2にはチェーン伝動に代えて歯付きベルト伝動とする旨の記載があることから(上記2(2)ア(ウ)(2b))、スクータ型自動二輪車である引用発明の「駆動スプロケット62」、「従動スプロケット63」及び「チェーン64」による手段に代えて刊行物2に記載の技術的事項を採用しようとすることは、当業者が想定不可能なこととはいえず、引用発明や刊行物2に記載の技術的事項の構造上、適用を不可とするような阻害要因があるともいえない。そして、上記採用をした際、出力軸のプーリから歯付きベルトが外れにくくなる等の作用効果が当業者にとって予測可能であることは、上記エで述べたとおりである。
したがって、この主張は採用できない。

カ まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び刊行物2に記載の技術的事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成26年12月18日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1(補正前の請求項1)」に記載されたとおりである。

第4 刊行物とその記載事項等
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物とその記載事項は、上記「第2 2(2)ア(ア)、(ウ)」に記載したとおりであり、その刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された技術的事項は、上記「第2 2(2)ア(イ)、ウ[相違点1]について」に記載したとおりである。

第5 当審の判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から「エンジンユニット」が「前記出力軸を回転可能に支持するクランクケース」を有すること、「収納箱の下方に位置する」ものであること、「第2プーリ」が「前記第1プーリよりも径が大きい」ものであること、「スイングアーム」が「前記クランクケースに支持される」ものであること、「変速機構」が「駆動軸と従動軸とを有するVベルト式の無段変速機構と、前記従動軸と前記出力軸との間に設けられ、前記無段変速機構の前記従動軸の動力を前記出力軸へ伝達する中間軸を備える歯車減速機構とを有し、前記出力軸は、前記歯車減速機構の後方に設けられ」というものであることという限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2(2)イ?カ」で述べたとおり、引用発明及び刊行物2に記載の技術的事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び刊行物2に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものといえる。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-01 
結審通知日 2016-06-07 
審決日 2016-06-20 
出願番号 特願2010-288070(P2010-288070)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B62M)
P 1 8・ 121- Z (B62M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩▲崎▼ 則昌  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
平田 信勝
発明の名称 自動二輪車  
代理人 杉谷 勉  

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