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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1317860
審判番号 不服2014-20724  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-14 
確定日 2016-08-12 
事件の表示 特願2008-228848「インキ組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月18日出願公開、特開2010- 59364〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成20年9月5日の出願であって、平成24年11月29日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成25年2月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月9日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年11月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年7月11日付けで拒絶査定がなされ、同年10月14日にこの拒絶査定を不服とする審判請求がなされるとともに手続補正書が提出され、その後、当審より、平成27年12月10日付けで拒絶理由が通知され、平成28年3月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願発明は、平成28年3月11日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「少なくとも顔料、有機溶剤および重量平均分子量(Mw)が異なる2種類以上の、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂から選ばれるバインダー樹脂を含み、使用されている2種類以上のバインダー樹脂のうち重量平均分子量(Mw)が最も小さいバインダー樹脂をMwα、重量平均分子量(Mw)が大きいバインダー樹脂をMwβx(x=1,2,3・・・)とおいた場合、一般式(1)、(2)を満たし、

一般式(1): Mwβx(x=1,2,3・・・)-Mwα≧10,000

一般式(2): 1,000<Mwα<30,000 且つ
20,000<Mwβx<100,000

更に、含まれる2種以上のバインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の関係が、下記の範囲であり、
Mwαが、アクリル樹脂またはスチレン-アクリル樹脂であり、

1<Mw/Mn<3

更に、バインダー樹脂はインキ中に0.1?20重量%含み、
更に、有機溶剤として、一般式(a)、(b)および(d)で表される溶剤のいずれか1つ以上を含むことを特徴とする非吸収性基材用非水系インクジェットインキ組成物。

R_(1)CO(OR_(2))_(Z)OR_(3) (a)

R_(4)CO(OR_(5))_(Z)OCOR_(6) (b)

R_(10)COOR_(11) (d)

(式中、R_(2)、R_(5)はそれぞれ独立してエチレン基又はプロピレン基、
R_(1)、R_(3)、R_(4)、R_(6)は、それぞれ独立して炭素数1?4のアルキル基、
R_(10)は2-ヒドロキシエチル基、
R_(11)は炭素数1?8のアルキル基、
Zは1?3の整数を表す。)」(以下、「本願発明」という。)

第3 当審拒絶理由の概要

当審より平成27年12月10日付けで通知された拒絶の理由の一つは、本願発明は、国際公開第2008/47912号に記載された発明及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

なお、本願発明(請求項1に係る発明)は、平成28年3月11日付けの手続補正により補正される前の平成26年10月14日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2(以下、「旧請求項2」という。)について、有機溶剤の(1)?(4)から「R_(7)(OR_(8))_(Z)OR_(9) (3)」を削除し、「R_(1)CO(OR_(2))_(Z)OR_(3) (1)」、「R_(4)CO(OR_(5))_(Z)OCOR_(6) (2)」、「R_(10)COOR_(11) (4)」の各符号をそれぞれ「(a)」、「(b)」、「(d)」に補正するとともに、「更に、バインダー樹脂はインキ中に0.1?20重量%含み、」を追加したものであり、当該旧請求項2に係る発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由が通知されている。

第4 引用文献の主な記載事項

当審にて通知した拒絶理由通知において引用された文献は、以下のとおりである。

<引用文献>
引用文献A;国際公開第2008/47912号

1 引用文献Aの記載事項

引用文献Aには、以下の記載が認められる。(当審注:下線は当審において付記したものである。以下同じ。)

(A1) 「[0001] 本発明は、非水性インクジェットインキ、およびインキセットに関する。」

(A2) 「[0007] 本発明の一形態は、顔料、樹脂及び混合溶剤を含む非水性インクジェットインキであって、混合溶剤はジエチレングリコールジアルキルエーテルとテトラエチレングリコールジアルキルエーテルを含むことを特徴とする非水性インクジェットインキに関する。」

(A3) 「[0016] 本発明の一態様によると、低臭気で、安全衛生性に優れ、樹脂溶解性に優れ、印刷安定性に優れ、乾燥性に優れ、プリンターへの腐食がなく、非吸収性基材への密着性が良好な非水性インクジェットインキ、およびインキセットを提供することができる。
本明細書に開示された内容は、特願2006-286062(2006年10月20 日出願)の主題に関するものであって、これらを全体的に本明細書に組み込むものとする。」

(A4) 「[0026] なお、本発明の非水性インクジェットインキ中の混合溶剤はインキ全体の60重量%?95重量%であることが好ましく、より好ましくは70重量%?95重量%、さらに好ましくは80重量%?95重量%である。当然ながら混合溶剤以外の溶剤も粘度調整や乾燥性の調整のために添加することができる。添加可能な溶剤は特に限定されるものではないが以下実例を挙げる。
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノメチルエーテルブチレート、エチレングリコールモノエチルエーテルブチレート、エチレングリコールモノブチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルブチレート、プロピレングリコールモノメチルエーテルブチレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルブチレート等のグリコールモノアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、エチレングリコールプロピオネートブチレート、エチレングリコールジプロピオネート、エチレングリコールジブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールプロピオネートブチレート、ジエチレングリコールジプロピオネート、ジエチレングリコールジブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールプロピオネートブチレート、プロピレングリコールジプロピオネート、プロピレングリコールジブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールプロピオネートブチレート、ジプロピレングリコールジプロピオネート、ジプロピレングリコールジブチレート等のグリコールジアセテート類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル等の乳酸エステル類が挙げられる。」

(A5) 「[0028] 本発明では非吸収性基材への密着性向上のために樹脂を添加する。使用できる樹脂としては、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、エチレン-酢ビ系樹脂、石油樹脂、クマロンインデン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、塩酢ビ系樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂等が挙げられる。樹脂の具体例としては、荒川化学社製のスーパーエステル75、エステルガムHP、マルキッド 33、安原社製のYS ポリスター T80、三井化学社製のHiretts HRT200X、BASF社製のジョンクリル586(スチレン・アクリル酸共重合体)、ダウケミカルズ社製のユーカーソリューションビニル樹脂VYHD、VYHH、VMCA、VROH、VYLF-X、日信科学工業製のソルバイン樹脂CL、CNL、C5R、TA5Rを例示することができる。樹脂はインキ中に0.1?10重量%含まれることが好ましい。」

(A6) 「[0034] 本発明のインキの被印刷体として、非吸収性基材が挙げられる。具体的な基材としては、ポリ塩化ビニル樹脂シート、ポリオレフィン系シート、ガラス、金属等が挙げられ、特に好ましくはポリ塩化ビニル樹脂シートが挙げられる。」

(A7) 「[0036] [実施例]
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「重量部」を表す。」

(A8) 「[0041] <顔料分散体E>
更に下記のような配合で顔料分散体Eを作成した。この分散体は、溶剤中に顔料および分散剤を投入し、ハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌後、得られたミルベースを横型サンドミルで約2時間分散して作成した。
LIONOL BLUE FG-7400-G(東洋インキ製造社製、銅フタロシアニン顔料) 40.0部
アジスパーPB821(味の素ファインテクノ社製、顔料分散剤) 14.0部
ジエチレングリコールメチルエチルエーテル 46.0部」

(A9) 「[0047] [実施例5]
下記配合を混合し、1μのポリプロピレン製フィルターで濾過してシアンインクジェットインキを作成した。
顔料分散体E 10.0部
VYHD(ダウケミカル社製、塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体) 4.2部
J586(BASF社製、スチレン・アクリル酸共重合体) 2.0部
BYK-361N(BYK-Chemie社製、表面調整剤) 0.5部
テトラエチレングリコールジメチルエーテル 15.0部
N-メチルオキサゾリジノン 5.0部
ジエチレングリコールメチルエチルエーテル 63.3部」

第5 当審の判断

1 引用文献Aに記載された発明

引用文献Aの上記(A7)及び(A9)の実施例5(シアンインクジェットインキ)によれば、引用文献Aには、顔料分散体E 10.0重量部、テトラエチレングリコールジメチルエーテル 15.0重量部、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル 63.3重量部、N-メチルオキサゾリジノン 5.0重量部、BYK-361N(BYK-Chemie社製、表面調整剤) 0.5部,J586(BASF社製、スチレン・アクリル酸共重合体) 2.0重量部、及びVYHD(ダウケミカル社製、塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体) 4.2重量部を含有するシアンインクジェットインキが記載されており、当該「顔料分散体E」は、引用文献Aの上記(A8)によれば、「LIONOL BLUE FG-7400-G(東洋インキ製造社製、銅フタロシアニン顔料)」、「アジスパーPB821(味の素ファインテクノ社製、顔料分散剤)」、及び「ジエチレングリコールメチルエチルエーテル」が配合されたものであるといえ、また、当該「シアンインクジェットインキ(実施例5)」は、引用文献Aの上記(A1)、(A2)、及び(A6)によれば、「非吸収性基材用非水性インクジェットインキ」として用いられ得るものと認められる。
そうすると、引用文献Aには、「LIONOL BLUE FG-7400-G(東洋インキ製造社製、銅フタロシアニン顔料)、アジスパーPB821(味の素ファインテクノ社製、顔料分散剤)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルが配合された 顔料分散体E 10.0重量部、テトラエチレングリコールジメチルエーテル 15.0重量部、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル 63.3重量部、N-メチルオキサゾリジノン 5.0重量部、BYK-361N(BYK-Chemie社製、表面調整剤) 0.5部、J586(BASF社製、スチレン・アクリル酸共重合体) 2.0重量部、及びVYHD(ダウケミカル社製、塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体) 4.2重量部を含有する非吸収性基材用非水性インクジェットインキ。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

2 本願発明と引用発明との対比・判断

本願発明と引用発明とを対比する。

(1) 引用発明の「LIONOL BLUE FG-7400-G(東洋インキ製造社製、銅フタロシアニン顔料)」、「非吸収性基材用非水性インクジェットインキ」は、本願発明の「顔料」、「非吸収性基材用非水系インクジェットインキ組成物」に相当する。

(2) 本願明細書の【0026】によれば、「一般式(c)に該当する溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類がある。」と記載されており、ここで、当該「一般式(c)に該当する溶剤」は、本願明細書の【0029】によれば「有機溶剤」とのことであるから、引用発明の「テトラエチレングリコールジメチルエーテル」、「ジエチレングリコールメチルエチルエーテル」は、本願発明の「有機溶剤」に相当する。
また、同じく【0029】によれば、「また、本発明における有機溶剤である一般式(a)から(d)に追加して、含窒素系または含硫黄系またはラクトン系溶剤を添加すると、印刷媒体表面を溶解させることができるため定着性、耐候性等を向上させることができる。例としては、3-メチルオキサゾリジノン、3-エチルオキサゾリジノン、ジメチルスルホキシド、1-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン等が挙げられる。」と記載されており、ここで、当該「ラクトン系溶剤」が「有機溶剤」の一種であることは技術常識であるから、引用発明の「N-メチルオキサゾリジノン」も本願発明の「有機溶剤」に相当する。

(3) 上記(1)、(2)から、本願発明と引用発明とは、「顔料、有機溶剤を含む非吸収性基材用非水系インクジェットインキ組成物。」である点において一致し、以下の点において相違する。

[相違点1] バインダー樹脂について、本願発明が、「重量平均分子量(Mw)が異なる2種類以上の、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂から選ばれるバインダー樹脂を含み、使用されている2種類以上のバインダー樹脂のうち重量平均分子量(Mw)が最も小さいバインダー樹脂をMwα、重量平均分子量(Mw)が大きいバインダー樹脂をMwβx(x=1,2,3・・・)とおいた場合、一般式(1)、(2)を満たし、

一般式(1): Mwβx(x=1,2,3・・・)-Mwα≧10,000

一般式(2): 1,000<Mwα<30,000 且つ
20,000<Mwβx<100,000

更に、含まれる2種以上のバインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の関係が、下記の範囲であり、
Mwαが、アクリル樹脂またはスチレン-アクリル樹脂であり、

1<Mw/Mn<3

更に、バインダー樹脂はインキ中に0.1?20重量%含み、」と特定しているのに対し、引用発明が、「J586(BASF社製、スチレン・アクリル酸共重合体) 2.0重量部、及びVYHD(ダウケミカル社製、塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体) 4.2重量部を含有する」である点。

[相違点2] 有機溶剤について、本願発明が、「更に、有機溶剤として、一般式(a)、(b)および(d)で表される溶剤のいずれか1つ以上を含むことを特徴とする非吸収性基材用非水系インクジェットインキ組成物。

R_(1)CO(OR_(2))_(Z)OR_(3) (a)

R_(4)CO(OR_(5))_(Z)OCOR_(6) (b)

R_(10)COOR_(11) (d)

(式中、R_(2)、R_(5)はそれぞれ独立してエチレン基又はプロピレン基、
R_(1)、R_(3)、R_(4)、R_(6)は、それぞれ独立して炭素数1?4のアルキル基、
R_(10)は2-ヒドロキシエチル基、
R_(11)は炭素数1?8のアルキル基、
Zは1?3の整数を表す。)」と特定しているのに対し、引用発明が、「テトラエチレングリコールジメチルエーテル 15.0重量部、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル 63.3重量部、N-メチルオキサゾリジノン 5.0重量部」である点。

3 相違点についての検討

上記[相違点1]、[相違点2]について、順に検討する。

(1) [相違点1]についての検討

引用発明の「J586(BASF社製、スチレン・アクリル酸共重合体)」は、引用文献Aの上記(A5)によれば、BASF社製の「ジョンクリル586」であることは、当業者に明らかであり、これは、本願明細書の【0046】【表1】の「樹脂1:製品名 ジョンクリル586(BASF社製)、樹脂種 アクリル樹脂(スチレン/アクリル酸/αメチルスチレン)」そのものであり、また、引用発明の「VYHD(ダウケミカル社製、塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体)」は、本願明細書の【0046】【表1】の「樹脂3:製品名 VYHD(ダウケミカル社製)、樹脂種:塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂」そのものであり、両者のバインダー樹脂の合計が「6.2重量部」(=4.2重量部+2.0重量部)であり、ここで、「6.2重量%」と言い換えることができ、そして、両者のバインダー樹脂を併用したものが、本願発明の実施例である、実施例1、実施例4、実施例8としてインクジェットインキが製造されていることから、引用発明の「J586(BASF社製、スチレン・アクリル酸共重合体) 2.0重量部、及びVYHD(ダウケミカル社製、塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体) 4.2重量部を含有する」は、本願発明の「重量平均分子量(Mw)が異なる2種類以上の、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂から選ばれるバインダー樹脂を含み、使用されている2種類以上のバインダー樹脂のうち重量平均分子量(Mw)が最も小さいバインダー樹脂をMwα、重量平均分子量(Mw)が大きいバインダー樹脂をMwβx(x=1,2,3・・・)とおいた場合、一般式(1)、(2)を満たし、

一般式(1): Mwβx(x=1,2,3・・・)-Mwα≧10,000

一般式(2): 1,000<Mwα<30,000 且つ
20,000<Mwβx<100,000

更に、含まれる2種以上のバインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の関係が、下記の範囲であり、
Mwαが、アクリル樹脂またはスチレン-アクリル樹脂であり、

1<Mw/Mn<3

更に、バインダー樹脂はインキ中に0.1?20重量%含み、」を充足することから、上記相違点1は実質的なものでない。

(2) [相違点2]についての検討

引用文献Aには、上記(A4)によれば、「当然ながら混合溶剤以外の溶剤も粘度調整や乾燥性の調整のために添加することができる。添加可能な溶剤は特に限定されるものではないが以下実例を挙げる。」とのことであるから、インクジェットインキ組成物の粘度や乾燥性を調整するために他の溶剤を含有させても良い旨示唆されており、そして、他の溶剤の実例として、同じく上記(A4)によれば、「エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノメチルエーテルブチレート、エチレングリコールモノエチルエーテルブチレート、エチレングリコールモノブチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルブチレート、プロピレングリコールモノメチルエーテルブチレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルブチレート等のグリコールモノアセテート類」(当審注:以下、「(A4)の(a)」という。)、「エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、エチレングリコールプロピオネートブチレート、エチレングリコールジプロピオネート、エチレングリコールジブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールプロピオネートブチレート、ジエチレングリコールジプロピオネート、ジエチレングリコールジブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールプロピオネートブチレート、プロピレングリコールジプロピオネート、プロピレングリコールジブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールプロピオネートブチレート、ジプロピレングリコールジプロピオネート、ジプロピレングリコールジブチレート等のグリコールジアセテート類」(当審注:以下、「(A4)の(b)」という。)、「乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル等の乳酸エステル類」(当審注:以下、「(A4)の(d)」という。)が列挙されており、それぞれ、本願発明の「有機溶剤として、一般式(a)、(b)および(d)で表される溶剤のいずれか1つ」である
「R_(1)CO(OR_(2))_(Z)OR_(3) (a)

R_(4)CO(OR_(5))_(Z)OCOR_(6) (b)

R_(10)COOR_(11) (d)

(式中、R_(2)、R_(5)はそれぞれ独立してエチレン基又はプロピレン基、
R_(1)、R_(3)、R_(4)、R_(6)は、それぞれ独立して炭素数1?4のアルキル基、
R_(10)は2-ヒドロキシエチル基、
R_(11)は炭素数1?8のアルキル基、
Zは1?3の整数を表す。)」に包含されることから、引用発明において、上記相違点2を構成すること、すなわち、インクジェットインキ組成物の乾燥性等を考慮して「更に、有機溶剤として、一般式(a)、(b)および(d)で表される溶剤のいずれか1つを含むこと
R_(1)CO(OR_(2))_(Z)OR_(3) (a)

R_(4)CO(OR_(5))_(Z)OCOR_(6) (b)

R_(10)COOR_(11) (d)

(式中、R_(2)、R_(5)はそれぞれ独立してエチレン基又はプロピレン基、
R_(1)、R_(3)、R_(4)、R_(6)は、それぞれ独立して炭素数1?4のアルキル基、
R_(10)は2-ヒドロキシエチル基、
R_(11)は炭素数1?8のアルキル基、
Zは1?3の整数を表す。)」は、引用文献Aに記載された事項に基けば、当業者が容易になし得るものである。

なお、「有機溶剤として、一般式(a)、(b)および(d)で表される溶剤のいずれか1つ」である
「R_(1)CO(OR_(2))_(Z)OR_(3) (a)

R_(4)CO(OR_(5))_(Z)OCOR_(6) (b)

R_(10)COOR_(11) (d)

(式中、R_(2)、R_(5)はそれぞれ独立してエチレン基又はプロピレン基、
R_(1)、R_(3)、R_(4)、R_(6)は、それぞれ独立して炭素数1?4のアルキル基、
R_(10)は2-ヒドロキシエチル基、
R_(11)は炭素数1?8のアルキル基、
Zは1?3の整数を表す。)」については、下記文献Bにも記載されている。

ア 文献B:特開2008-44981号公報(要すれば、【請求項3】、【0021】?【0025】の欄等、参照。)

さらに、本願明細書の【0026】によれば、「一般式(c)に該当する溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類がある。」と記載されており、また、当該「一般式(c)」は、同じく【0023】によれば、「R_(7)(OR_(8))_(Z)OR_(9) (c)(式中、R_(8)は独立してエチレン基又はプロピレン基、R_(9)は独立して水素原子又は炭素数1?4のアルキル基、Zは1?4の整数を表す。)」であるといえるから、引用発明の「テトラエチレングリコールジメチルエーテル」及び「ジエチレングリコールメチルエチルエーテル」は、『「一般式(c)」「R_(7)(OR_(8))_(Z)OR_(9) (c)(式中、R_(8)は独立してエチレン基又はプロピレン基、R_(9)は独立して水素原子又は炭素数1?4のアルキル基、Zは1?4の整数を表す。)」』に包含されるといえ、本願明細書を参照する限り、本願発明の「有機溶剤として、一般式(a)、(b)および(d)で表される溶剤のいずれか1つ」である
「R_(1)CO(OR_(2))_(Z)OR_(3) (a)

R_(4)CO(OR_(5))_(Z)OCOR_(6) (b)

R_(10)COOR_(11) (d)

(式中、R_(2)、R_(5)はそれぞれ独立してエチレン基又はプロピレン基、
R_(1)、R_(3)、R_(4)、R_(6)は、それぞれ独立して炭素数1?4のアルキル基、
R_(10)は2-ヒドロキシエチル基、
R_(11)は炭素数1?8のアルキル基、
Zは1?3の整数を表す。)」(当審注:以下単に「有機溶剤(a)、(b)および(d)」という。)と、『「一般式(c)」「R_(7)(OR_(8))_(Z)OR_(9) (c)(式中、R_(8)は独立してエチレン基又はプロピレン基、R_(9)は独立して水素原子又は炭素数1?4のアルキル基、Zは1?4の整数を表す。)」』(当審注:以下単に「有機溶剤(c)」という。)に相当する引用発明の「テトラエチレングリコールジメチルエーテル」及び「ジエチレングリコールメチルエチルエーテル」とは、有機溶剤として同列に記載されているだけであり、また、本願明細書の実施例の記載(「有機溶剤(a)」を使用した実施例1?3と、「有機溶剤(c)」を使用した実施例4?14)を参照しても、それらの有機溶剤の違いにより印字安定性試験、印刷物性能試験、乾燥性等の評価において、有意な差が認められないこともあり、有機溶剤(a)、(b)および(d)が、有機溶剤(c)と比較して、格別顕著な効果を有するものとは認められない。

なお、審判請求人は、平成28年3月11日付けの意見書に「実験成績証明書」を添付し、当該「実験成績証明書」の表1等の記載によれば、引用発明のインキ(インキ6、引用文献A実施例5に記載のインキ)と、本願発明に相当するインキ(インキ1?5)とを印字安定性の項目で評価しているが、インキ6とインキ1?5とは、互いに顔料分散体が異なり、MOZかGBLのいずれかの有機溶剤を含んでいる点でも両者は異なっているので、「有機溶剤(c)」を含んでいるか、「有機溶剤(a)、(b)または(d)のいずれか」を含んでいるかの観点だけでは、単純に当該評価を行うことはできないとも認められる。また、インキ1とインキ4、5とを参照すると、インキ4、5は、インキ1の有機溶剤(a)のみを、それぞれ有機溶剤(b)、(d)に置き換えたものであると認められるが、例えば、インキ1の有機溶剤(a)を有機溶剤(c)に置き換えたインキの実験がなされていないので、上記「3(2)」の「さらに」の段落で述べたものと同様に、当該実験成績証明書からでも有機溶剤(a)、(b)および(d)が、有機溶剤(c)と比較して、格別顕著な効果を有すると認めることはできない。

4 小括

したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された引用文献Aに記載された発明、及び引用文献Aに記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものである。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、当審で通知した拒絶の理由により、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-13 
結審通知日 2016-06-14 
審決日 2016-06-27 
出願番号 特願2008-228848(P2008-228848)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 國島 明弘
岩田 行剛
発明の名称 インキ組成物  

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