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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1317862
審判番号 不服2014-24377  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-28 
確定日 2016-08-12 
事件の表示 特願2010-190844「アンテナ装置及び無線通信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月 8日出願公開、特開2012- 49873〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成22年8月27日の出願であって、平成26年8月29日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月28日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年11月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は出願時の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「第1及び第2給電部を有し、誘電体製の基板と、
互いに異なる長さであり異なる方向に延びた第1及び第2辺を有し、前記基板に設けられたグランドと、
前記第1給電部に接続し第1波長を使用する第1アンテナ素子と、
前記第2給電部に接続し第2波長を使用する第2アンテナ素子と、
給電されず、前記グランドに接続された無給電素子と、を備え、
前記第1及び第2波長のそれぞれの4分の1は、前記第2辺の長さよりも前記第1辺の長さに近似し、
前記無給電素子と前記第2給電部との間隔は、前記第2波長の4分の1以下であり、
前記無給電素子と前記第1辺とは、平行ではなく、
前記第1及び第2波長は、同一であってもよいし異なっていてもよい、アンテナ装置。」
という発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「第1及び第2給電部を有し、誘電体製の基板と、
互いに異なる長さであり異なる方向に延びた第1及び第2辺を有し、前記基板に設けられたグランドと、
前記第1給電部に接続し第1波長を使用する第1アンテナ素子と、
前記第2給電部に接続し第2波長を使用する第2アンテナ素子と、
給電されず、前記グランドに接続された無給電素子と、を備え、
前記第1及び第2波長のそれぞれの4分の1は、前記第2辺の長さよりも前記第1辺の長さに近似し、
前記無給電素子と前記第2給電部との間隔は、前記第2波長の4分の1以下であり、
前記無給電素子と前記第1辺とは、平行ではなく、
前記第1辺と前記第2給電部との間隔は、前記無給電素子と前記第2給電部との間隔よりも大きく、
前記第1及び第2波長は、同一であってもよいし異なっていてもよい、アンテナ装置。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2.新規事項の有無、シフト補正、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の「第2給電部」の取り付け位置の構成を「前記第1辺と前記第2給電部との間隔は、前記無給電素子と前記第2給電部との間隔よりも大きく」という構成に限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び特許法第17条の2第4項(シフト補正)の規定に適合すると共に、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明と公知技術等
ア.原審の拒絶理由に引用された特開2008-17047号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「無給電素子を備えたマルチアンテナ」(発明の名称)として、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチアンテナに関し、特に複数の給電素子及び無給電素子を備えた移動通信端末用マルチアンテナに関するものである。」(2頁)

(イ)「【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の第1実施例に従ったマルチアンテナ8の基本構成を示す概略図である。マルチアンテナ8は基本的に、回路基板10、回路基板10上の複数の給電点11、及び複数の給電素子12を備えている。各給電素子12は一端が開放され、他端が対応する給電点11にそれぞれ接続されている。マルチアンテナ8はさらに、一端が開放され他端が回路基板10に接続された単数または複数の無給電素子13を備えている。給電素子12および無給電素子13は、使用周波数帯の波長で換算して0.2波長乃至0.3波長の長さを有する。無給電素子13は任意の給電点11の近傍において回路基板10と接続されている。
【0020】
携帯端末用のアンテナとしては、小型化および内蔵化が可能な1/4波長モノポール方式のアンテナを採用することが多く、本実施例においても素子長約1/4波長のモノポールアンテナを用いている。
【0021】
また、図1の実施例では、給電素子12は2本あり、回路基板10の端部に配置され、それぞれ給電点11に接続されている。無給電素子13は1本であり、回路基板の端部において片方の給電点の近傍に接続されている(給電点には接続されていない)。」(4頁)

(ウ)「【0032】
給電素子82または無給電素子83を分岐構造とすることで、同一のアンテナ構成を用いながらも複数の周波数帯へ適用可能なマルチバンドを実現することができ、複数の周波数帯における相互結合の低減効果と放射効率の改善効果を得ることができる。」(6頁)

(エ)「【実施例8】
【0041】
図13は、本発明の第8実施例に従ったマルチアンテナ138の基本構成を示す概略図である。この実施例は、信号の合成により利得の増大効果が得られるダイバーシティに対して本発明に係るマルチアンテナを応用した例である。
この実施例は、第1乃至第5実施例のいずれかのマルチアンテナを用いて構成され、信号の合成を行うダイバーシティ回路134を具備している。本実施例におけるマルチアンテナ装置138は、アンテナとして第1から第5実施例に記載のマルチアンテナを使用しているため、アンテナ間の相互結合の影響が小さく、高い放射効率を得ることができる。また、アンテナ間相互結合の低減に伴い、ダイバーシティ利得と密接な関係にあるアンテナ間相関も十分低く抑えされている。したがって、信号の合成を行うダイバーシティにおいても、高い利得の増大効果を得ることができる。」(7頁)

上記摘記事項(ア)?(エ)の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、

a 上記摘記事項(ア)の【0001】の記載より、引用文献1には、「マルチアンテナ」が記載されている。

b 上記摘記事項(イ)の【0019】の「マルチアンテナ8は基本的に、回路基板10、回路基板10上の複数の給電点11、及び複数の給電素子12を備えている。」の記載と、同【0021】の「給電素子12は2本あり、回路基板10の端部に配置され、それぞれ給電点11に接続されている。無給電素子13は1本であり、回路基板の端部において片方の給電点の近傍に接続されている(給電点には接続されていない)。」の記載と、図1とから、回路基板10は短辺と長辺を有し、単独の給電素子と無給電素子に近接配置される給電素子とを有し、二つの給電素子の長さは基板の長辺の長さよりも短辺の長さに近似し、無給電素子は回路基板の端部において片方の給電点の近傍に接続され、無給電素子と回路基板の短辺は平行でなく、また二つの給電点は短辺上の両端に配置される、ことが読み取れる。
そして、上記二つの給電点と二つの給電素子及び二つの給電素子の使用周波数帯を区別するために、単独の給電素子を第1の給電素子、その使用周波数帯を第1周波数帯、無給電素子に近接配置される二つ目の給電素子を第2の給電素子、その使用周波数帯を第2周波数帯、前記二つの給電素子が接続される給電点をそれぞれ第1及び第2の給電点、と呼ぶことは任意であるから、引用文献1に記載された「マルチアンテナ」は、
「第1及び第2の給電点を有し、短辺と長辺を有する回路基板と、
前記第1の給電点に接続し第1周波数帯を使用する第1給電素子と、
前記第2の給電点に接続し第2周波数帯を使用する第2給電素子と、
給電点には接続されずに、前記回路基板に接続された無給電素子と、を備え、
給電素子の長さは、回路基板の長辺の長さよりも短辺の長さに近似し、
前記無給電素子は回路基板の端部において前記第2の給電点の近傍に接続され、
前記無給電素子と回路基板の短辺は平行ではなく、
前記第1及び第2の給電点は、前記短辺上の両端に配置された
マルチアンテナ。」であるといえる。

c 上記摘記事項(エ)の【0041】の「アンテナ間の相互結合の影響が小さく、高い放射効率を得ることができる。また、アンテナ間相互結合の低減に伴い、ダイバーシティ利得と密接な関係にあるアンテナ間相関も十分低く抑えされている。したがって、信号の合成を行うダイバーシティにおいても、高い利得の増大効果を得ることができる。」の記載と、上記bの検討の結果を踏まえると、第1給電素子と第2給電素子とは、ダイバーシティに利用できる関係にあるから、「第1周波数帯」と「第2周波数帯」は、「同一である」といえる。

d 上記摘記事項(イ)の【0020】の「携帯端末用のアンテナとしては、小型化および内蔵化が可能な1/4波長モノポール方式のアンテナを採用することが多く、本実施例においても素子長約1/4波長のモノポールアンテナを用いている。」の記載より、「給電素子の長さは約1/4波長であり」といえる。

上記a?dの検討を総合すると、上記引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「第1及び第2の給電点を有し、短辺と長辺を有する回路基板と、
前記第1の給電点に接続し第1周波数帯を使用する第1給電素子と、
前記第2の給電点に接続し第2周波数帯を使用する第2給電素子と、
給電点には接続されずに、前記回路基板に接続された無給電素子と、を備え、
給電素子の長さは使用周波数帯の約1/4波長であり、給電素子の長さは回路基板の長辺の長さよりも短辺の長さに近似し、
前記無給電素子は回路基板の端部において前記第2の給電点の近傍に接続され、
前記無給電素子と回路基板の短辺は平行ではなく、
前記第1及び第2の給電点は、前記短辺上の両端に配置され、
前記第1周波数帯と前記第2周波数帯は、同一である、マルチアンテナ。」

イ.同じく原審の拒絶理由に引用された特開2004-147351号(以下、「引用文献2」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
(オ)「【0097】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る無線通信端末用内蔵アンテナの構成を示す模式図である。なお、同図に示す各要素は、無線通信端末の筐体内に搭載されるものであるが、無線通信端末の全体図については、説明を簡単にするために省略する。
【0098】
本実施の形態に係る無線通信端末用内蔵アンテナは、地板11と、ダイポールアンテナ12と、平衡不平衡変換回路13と、給電端14とを有して構成されている。以下、各構成要素について説明する。
【0099】
地板11は、板状の接地導体であり、無線通信端末における図示しない操作ボタン、ディスプレイ及びスピーカ等が設けられた面(鉛直面)と平行になるように取り付けられている。
【0100】
ダイポールアンテナ12は、矩形波状(櫛刃状)に形成された2本のアンテナ素子によって構成されている。これにより、ダイポールアンテナは小型化されることになる。ダイポールアンテナ12を構成する2本のアンテナ素子は、それぞれの長手方向の中心線が同一直線上になるように配置されている。
【0101】
また、ダイポールアンテナ12は、アンテナ素子の長手方向が無線通信端末の上面(水平面)と垂直になるように取り付けられている。結果として、ダイポールアンテナ12は、アンテナ素子の長手方向が水平面に対して垂直になるように設けられたことになる。これにより、ダイポールアンテナ12は、自由空間においては、主に、このダイポールアンテナ12の長手方向と平行な垂直偏波を受信する。さらに、通話時においては、人体が反射板として動作するので、ダイポールアンテナ12は、人体方向と逆の方向の指向性を有する。
【0102】
平衡不平衡変換回路13は、1対1又はn対1(nは整数)のインピーダンス変換比を有する変換回路であり、ダイポールアンテナ12の給電端14に取り付けられている。つまり、平衡不平衡変換回路13の一方の端子は、図示しない送受信回路に接続され、また、もう一方の端子は、地板11に取り付けられている。これにより、平衡不平衡変換回路13は、ダイポールアンテナ12と上記送受信回路との間のインピーダンス変換を行うので、両者間のインピーダンス整合を適正にとることができる。さらに、平衡不平衡変換回路13は、上記送受信回路の不平衡信号を平衡信号に変換してダイポールアンテナ12に供給するので、地板11に流れる電流を極力抑えることができる。これにより、地板11のアンテナとしての作用が防止されるので、人体の影響に起因するダイポールアンテナ12の利得低下を抑えることができる。
【0103】
次いで、上記構成の無線通信端末用内蔵アンテナの動作について説明する。上記送受信回路からの不平衡信号は、平衡不平衡変換回路13により平衡信号に変換された後、ダイポールアンテナ12に送られる。このように給電されたダイポールアンテナ12により、主に、このダイポールアンテナ12の長手方向と平行な垂直偏波が送信される。また、受信の際には、上記長手方向と平行な垂直偏波が受信される。したがって、自由空間においては、ダイポールアンテナ12を中心としてあらゆる方向からの垂直偏波が受信され、また、通話時においては、上述したように人体が反射板となるので、上記垂直偏波のうち、人体と反対の方向からの垂直偏波が主に受信される。
【0104】
ダイポールアンテナ12により受信された上記信号(平衡信号)は、平衡不平衡変換回路13を介して、上記送受信回路に送られる。ここで、上述した平衡不平衡変換回路13により、地板11に流れる電流は極力抑えられるので、地板11によるアンテナ動作が防止される。これにより、人体の影響に起因する利得の低下が最小限に抑えられる。
【0105】
ここで、上記構成の無線通信端末用内蔵アンテナの受信特性について、図2を参照して説明する。図2は、本実施の形態に係る無線通信端末用内蔵アンテナの通話時における受信特性の実測値を示す図である。なお、ここでは、地板11の大きさを120×36mm、ダイポールアンテナ12の大きさを63×5mm、人体面からダイポールアンテナ12までの距離を5mm、周波数を2180MHzとした。また、図2において、原点から見て270度の方向が、図1におけるダイポールアンテナ12から見た人体の方向に相当する。
【0106】
図2から明らかなように、ダイポールアンテナ12は、人体が反射板として作用することによる影響を受けて、人体方向とは逆の方向に指向性を有するとともに、上述した理由により指向性の割れが防止されただけでなく、図95(B)に示した従来例と比べて、利得の劣化が抑えられた高い利得の特性を有している。
【0107】
このように、本実施の形態によれば、平衡不平衡変換回路13において不平衡信号を平衡信号に変換することにより、地板11に流れるアンテナ電流を極力抑えることができるので、ダイポールアンテナ12の、人体の影響に起因する利得劣化を抑えることができる。さらに、ダイポールアンテナ12を矩形波状のアンテナ素子により構成したので、無線通信端末用内蔵アンテナを小型化することができる。したがって、人体の影響が少ない高利得で小型の無線通信端末用内蔵アンテナを提供することができる。
【0108】
(実施の形態2)
実施の形態2は、実施の形態1においてダイポールアンテナ12の取り付け方法を変更した場合の形態である。実施の形態2は、ダイポールアンテナの取り付け方法以外については、実施の形態1と同様であるので、詳しい説明を省略する。以下、本実施の形態に係る無線通信端末用内蔵アンテナにおいて、実施の形態1と相違する点について、図3を用いて説明する。なお、実施の形態1と同様な部分については、同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0109】
図3は、本発明の実施の形態2に係る無線通信端末用内蔵アンテナの構成を示す模式図である。この図に示すように、実施の形態2に係る無線通信端末用内蔵アンテナは、地板11と、ダイポールアンテナ12aと、平衡不平衡変換回路13と、給電端14とを有して構成されている。
【0110】
ダイポールアンテナ12aは、アンテナ素子の長手方向が無線通信端末の上面(水平面)と平行になるように取り付けられている。すなわち、本実施の形態は、ダイポールアンテナ12aの長手方向が無線通信端末の上面(水平面)と平行であるという点で、実施の形態1と相違している。
【0111】
これにより、ダイポールアンテナ12aは、利得の劣化を抑えることができるとともに、主に、このダイポールアンテナ12aの長手方向と平行な水平偏波を受信することができる。ところで、通信相手から送られる信号は、反射等の様々な要因により、垂直偏波と水平偏波が混在したものになる。したがって、水平偏波が多い場合には、アンテナの長手方向と信号の偏波面とが一致するので、受信利得を高くすることができる。
【0112】
このように、本実施の形態によれば、ダイポールアンテナ12aは、上記長手方向が無線通信端末の上面と平行になるように取り付けられているので、人体の影響に起因する利得劣化を抑えるだけでなく、主に水平偏波を受信することができる。したがって、アンテナの長手方向と通信相手からの信号の偏波面とが一致しないことに起因する利得劣化を防止することができ、人体の影響が少ない高利得で小型の無線通信端末用内蔵アンテナを提供することができる。
【0113】
(実施の形態3)
実施の形態3は、実施の形態1においてダイポールアンテナ12の構成及び取り付け方法を変更した場合の形態である。実施の形態3は、ダイポールアンテナの構成及び取り付け方法以外については、実施の形態1と同様であるので、詳しい説明を省略する。以下、本実施の形態に係る無線通信端末用内蔵アンテナにおいて、実施の形態1と相違する点について、図4を用いて説明する。なお、実施の形態1と同様な部分については、同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0114】
図4は、本発明の実施の形態3に係る無線通信端末用内蔵アンテナの構成を示す模式図である。この図に示すように、実施の形態3に係る無線通信端末用内蔵アンテナは、地板11と、ダイポールアンテナ21と、平衡不平衡変換回路13と、給電端14とを有して構成されている。ダイポールアンテナ21を構成する2本のアンテナ素子は、互いにそれぞれの長手方向が垂直になるように配置されている。
【0115】
また、ダイポールアンテナ21は、一方のアンテナ素子の長手方向が無線通信端末の上面(水平面)と垂直になり、かつ、他方のアンテナ素子の長手方向が無線通信端末の上面(水平面)と平行になるように取り付けられている。
【0116】
次いで、上記構成の無線通信端末用内蔵アンテナの動作について説明する。上記送受信回路からの不平衡信号は、平衡不平衡変換回路13により平衡信号に変換された後、ダイポールアンテナ21に送られる。このように給電されたダイポールアンテナ21を構成する、無線通信端末の上面(水平面)と垂直に配置されたアンテナ素子により、主に、このアンテナ素子の長手方向と平行な垂直偏波が送信される。また、受信の際には、上記長手方向と平行な垂直偏波が受信される。一方、同様に給電されたダイポールアンテナ21を構成する、無線通信端末の上面(水平面)と平行に配置されたアンテナ素子により、主に、このアンテナ素子の長手方向と平行な水平偏波が送信される。また、受信の際には、上記長手方向と平行な水平偏波が受信される。したがって、自由空間においては、ダイポールアンテナ21を中心としてあらゆる方向からの垂直偏波及び水平偏波が受信され、また、通話時においては、上述したように人体が反射板となるので、上記垂直偏波及び水平偏波のうち、人体と反対の方向からの垂直偏波及び水平偏波が主に受信される。
【0117】
これにより、ダイポールアンテナ21は、利得の劣化を抑えることができるとともに、各アンテナ素子の長手方向とそれぞれ平行な垂直偏波と水平偏波のいずれをも受信することができる。ところで、通信相手から送られる信号は、反射等の様々な要因により、垂直偏波と水平偏波が混在したものになる。したがって、垂直偏波と水平偏波のいずれが多い場合であっても、本実施の形態に係る無線通信端末用内蔵アンテナは、ダイポールアンテナ21の各アンテナ素子の長手方向のいずれかが通信相手から送られる信号の偏波面と一致するので、受信利得を高くすることができる。
【0118】
このように、本実施の形態によれば、平衡不平衡変換回路13により、地板11に流れるアンテナ電流を極力抑えることができるので、ダイポールアンテナ21の人体の影響に起因する利得劣化を抑えることができる。さらに、ダイポールアンテナ21を矩形波状のアンテナ素子により構成したので、無線通信端末用内蔵アンテナを小型化することができる。したがって、人体の影響が少ない高利得で小型の無線通信端末用内蔵アンテナを提供することができる。」(18?20頁)

(カ)「【0125】
(実施の形態5)
実施の形態5は、実施の形態1における無線通信端末用内蔵アンテナを用いてダイバーシチアンテナを実現する場合の形態である。以下、本実施の形態に係る無線通信端末用ダイバーシチアンテナについて、図6を用いて説明する。なお、実施の形態1と同様な構成については、同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0126】
図6は、本発明の実施の形態5に係る無線通信端末用ダイバーシチアンテナの構成を示す模式図である。図6において、実施の形態1に係る無線通信端末用内蔵アンテナの構成に加えて、モノポールアンテナ41がさらに設けられている。
【0127】
ここで、ダイバーシチアンテナを構成する一方のアンテナを、実施の形態1におけるダイポールアンテナ12とし、かつ、受信専用とする。また、ダイバーシチアンテナを構成するもう一方のアンテナを、モノポールアンテナ41とし、かつ、送受信共用とする。
【0128】
上記構成の無線通信端末用ダイバーシチアンテナにおいて、送信時には、モノポールアンテナ41のみが動作し、受信時には、ダイポールアンテナ12とモノポールアンテナ41の両方が動作して、ダイバーシチ受信が行われる。」(21?22頁)

上記摘記事項(オ)及び引用文献2の図1、図3、図4から、地板に対するダイポールアンテナ(給電点を含む)の位置は、地板の短辺や長辺を含めて、自由に選択できることが読み取れ、更に、特に図6及び上記摘記事項(カ)の段落【0125】?【0128】から、無線通信端末用ダイバーシチアンテナにおいて、地板11の上辺の一端に設けられたモノポールアンテナ(第1のアンテナ)とダイポールアンテナ(第2のアンテナ)を組み合わせる場合に、ダイポールアンテナ(給電点を含む)をモノポールアンテナを設けた側とは反対の長辺上であって、短辺から離れた位置に設けることが読み取れる。
よって、引用文献2には、「地板の短辺の端に設けられた第1のアンテナ(モノポールアンテナ)と第2のアンテナ(ダイポールアンテナ)を組み合わせた場合に、第2のアンテナを第1のアンテナと反対側の長辺上であって短辺から離れた位置に設けること。」という発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

ウ.原審の拒絶査定に引用された特開2008-199688号公報(以下、「周知例1」という。)、特開2009-4847号公報(以下、「周知例2」という。)、特開2002-353719号公報(以下、「周知例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(周知例1)
(キ)「【0010】
(第1の実施形態)
図1は、この発明に係わる無線モジュールの第1の実施形態である携帯端末用無線モジュールの構成を示す斜視図である。
無線モジュールは、携帯端末の筐体を構成するフロントカバーとリアケース(いずれも不図示)との間に収容される。その収容状態は、図中“前面”と記載した側がフロントカバー側、つまり通話中におけるユーザの頭部側となり、図中“背面”と記載した側がリアケース側となるように設定される。
【0011】
無線モジュールは回路基板1を備える。回路基板1は、表面および裏面の両方に印刷配線パターンを形成した両面印刷配線基板からなり、裏面には無線回路3が実装される。またこの回路基板1の裏面には、アンテナ接続端子41と、このアンテナ接続端子と上記無線回路3との間を接続する信号線パターン42がそれぞれ形成され、上記アンテナ接続端子41にはアンテナ5が接続される。接続方法としては、例えばハンダ付けやバネ接続が用いられる。アンテナ5はL型に形成され、その全長は送受信対象となる無線周波信号の波長の1/4(λ/4)に相当する実効電気長に設定されている。
【0012】
さらに上記回路基板1の裏面には、上記信号線パターン42の形成部位を除いてほぼ全面に接地パターン2が形成されている。なお、回路基板1が多層基板からなる場合には、接地パターンはその大半が第2及び第3層に形成される。この場合、回路基板1の裏面には接地パターンの一部が形成される。また、無線回路3には図示しないシールドキャップが装着され、これにより無線回路3の内部を外部から電磁的に遮蔽している。
【0013】
ところで、上記回路基板1には、主放射波(主偏波)を生成する辺に沿って略平行に導電体6が配置される。導電体6はL型に形成され、その基端部は上記回路基板1の裏面に形成された接地パターン2に電気的に接続され、先端部は開放される。上記接地パターン2に対するこの導電体6の接続位置は、図2に示すように上記アンテナ接続端子41に対するアンテナ5の接続点、つまり給電点BPから、上記無線周波信号の1/4波長(λ/4)離間した位置に設定される。また導電体6の全長は送受信対象となる無線周波信号の波長の1/4(λ/4)に設定される。すなわち、上記アンテナ5の給電点BPから上記導電体6の先端部までの実効電気長は、上記無線周波信号の1/2波長(λ/2)となるように設定されている。」(4?5頁)

(周知例2)
(ク)「【0007】
図3に示す携帯電話端末用のアンテナにおいては、放射素子(アンテナ素子)101が給電回路103を介して図示しないRF回路に接続されており、さらに回路基板102が地板となることにより、アンテナとして動作するようになされている。
【0008】
ここで、当該アンテナにおける動作時の無線周波数帯(共振周波数帯)は、放射素子101のサイズと回路基板102のサイズ(地板サイズ)に依存して決まる。なお、携帯電話端末の場合は、小型化への要求のために、それら放射素子101と回路基板102について十分なサイズを確保できないことが多い。このようなことから、従来は、給電回路103内の整合回路を調整することなどにより、アンテナを所望の無線周波数帯で動作させるような手法が採られている。なお、例えば整合回路の調整等による共振周波数調整については従来より一般的に行われている。
【0009】
但し、上述したように整合回路の調整等を行ったとしても、例えば放射素子と地板が十分なサイズを有しているアンテナと比較すると、動作時の無線周波数帯域幅は狭く、必ずしも十分な放射特性を得ることはできない。特に、所望の無線周波数帯の中央部分付近の周波数帯の性能に比べて、当該所望の無線周波数帯周波数の両端での性能が劣化してしまう。
【0010】
図4には、従来の携帯電話端末のアンテナ部分の他の概略的な構成例を示す。なお、当該図4の構成において、図3と同じ構成要素には図3と同じ指示符号を付している。
【0011】
この図4の構成例では、短絡回路105を介して回路基板102の地板と接続された無給電素子104が、放射素子101と電磁結合するような最適な位置に配置されている。この図4の構成によれば、無給電素子104が、所望の無線周波数帯よりも低い周波数帯で共振するように、短絡回路105が調整されている。これにより、無給電素子104が補助的なアンテナとして動作し、結果としてアンテナの動作する無線周波数帯域幅を広げ、所望の無線周波数帯の両端での性能が改善されている。」(3?4頁)

(周知例3)
(ケ)「【0018】第一の実施形態
図1は、本発明の第一の実施形態にかかる携帯電話(携帯無線機)10の斜視図(図1(a))、側面図(図1(b))である。
【0019】携帯電話10は、回路基板11、スピーカ(放射低減部)12、シールドケース14、アンテナ16、アンテナ給電部(電流源)18、導電性部材20、導電性短絡部材22を備える。
【0020】回路基板11は、携帯電話10が基地局と通信するための送受信回路その他の種々な回路が実装されている。回路基板11に実装された送受信回路は、所定の信号形式の送信信号を生成する。さらに、受信信号を取り込み復調する。なお、送受信回路のかわりに送信回路を回路基板11に実装してもよい。
【0021】スピーカ(放射低減部)12は、携帯電話10の通話をユーザが聞き取るためのものであり、通信内容が音声として出力される。スピーカ12はユーザの耳に接触するものであり、局部平均SAR(Specific Absorption Rate:比吸収率)を低減させるために、電磁波の放射が低減されることが望ましい。
【0022】シールドケース14は、携帯電話10のケーシングである。シールドケース14は、取付面14a、裏面14bを有する。取付面14aにはスピーカ12が取り付けられる(図1(b)参照)。裏面14bは取付面14aに対向する、いわば取付面14aの裏の面である。なお、シールドケース14は、携帯電話10のグランドでもあり、送受信回路その他の種々な回路が相互に影響を及ぼしあったり、アンテナ16や他の機器に影響を与えないように回路基板11をシールドする。ただし、シールドケース14は、回路基板11に実装されたグランド導体であってもよい。
【0023】アンテナ16は、携帯電話10が通信を行なう際に使用するアンテナである。なお、図1に示したアンテナ16は棒状であるが、他にもヘリカル(螺旋)状のものや、棒状およびヘリカル状を複合した伸縮式のものなどでもよい。
【0024】アンテナ給電部18は、アンテナ16に高周波電流を与えて通信を行なう。なお、アンテナ給電部18は、シールドケース14の上部にに取り付けられている。また、シールドケース14もまた、アンテナとしての機能を果たすため、アンテナ給電部18は、シールドケース14にも高周波電流を与える。さらに、アンテナ給電部18は、アンテナ16の根本に配置されている。
【0025】導電性部材20は、裏面14bに対向している。導電性部材20は下端20aおよび上端20bを有する。導電性部材20は下端20aにおいては携帯電話10には接続されておらず、下端20aは開放端となっている。上端20bは、携帯電話10を図1(a)に示す姿勢で立てた場合に、下端20aよりも上に位置している。上端20bは、導電性短絡部材22によりシールドケース14に接続されている。ここで、導電性部材20の長さL=λ/4とする。ただし、λは、携帯電話10が通信を行なう際に使用する周波数に対応する波長である。L=λ/4とすれば、携帯電話10が通信を行なう際に使用する周波数において共振を起こす。なお、共振を起こすならば、L=λ/4以外(例えば3λ/4)でも構わない。
【0026】導電性短絡部材22は、導電性部材20の上端20bをシールドケース14に接続する。導電性短絡部材22とシールドケース14とが接続されている接続点22aは、アンテナ給電部18付近とする。なお、ここでいう、「アンテナ給電部18付近」とは、アンテナ給電部18から流れる電流が、ほぼ導電性部材20に流れることとなる程度にアンテナ給電部18に近いという意味である。」(4頁)

上記周知例1?周知例3に開示されているように、
「無給電素子を備えるアンテナにおいて、アンテナを接続する回路基板の全面にグランドを設け、無給電素子は回路基板のグランドに接続されること。」は周知技術(以下、「周知技術」という。)である。

(3)対比
以下、補正後の発明と引用発明とを対比する。

ア.引用発明の「第1及び第2の給電点」は、補正後の発明の「第1及び第2給電部」に相当する。
引用発明の「第1周波数帯を使用する第1給電素子」及び「第2周波数帯を使用する第2給電素子」は、それぞれ、補正後の発明の「前記第1給電部に接続し第1波長を使用する第1アンテナ素子」、「前記第2給電部に接続し第2波長を使用する第2アンテナ素子」に相当する。
したがって、引用発明の「前記第1の給電点に接続し第1周波数帯を使用する第1給電素子と、前記第2の給電点に接続し第2周波数帯を使用する第2給電素子」は、補正後の発明の「前記第1給電部に接続し第1波長を使用する第1アンテナ素子と、前記第2給電部に接続し第2波長を使用する第2アンテナ素子」に相当する。

イ.引用発明の「短辺と長辺を有する回路基板」と、補正後の発明の「誘電体製の基板」とは、後述する(相違点1)を除いて、いずれも「基板」である点で共通する。

ウ.引用発明の「給電点には接続されずに回路基板に接続された無給電素子」と、補正後の発明の「給電されず、前記グランドに接続された無給電素子」とを対比すると、引用発明の「給電点には接続されず」は、補正後の発明の「給電されず」に相当し、また、引用発明の「回路基板に接続された」は、技術常識に照らして、無給電素子を基板に設けられた何らかの導体に電気的に接続されると解するのが自然であり、補正後の発明の「前記グランドに接続された」は、(無給電素子が)基板に設けられたグランドと電気的に接続されると解されるので、後述する(相違点3)を除いて、「給電されず、所定の基板部材に接続された無給電素子」という点で共通する。

エ.引用発明の「回路基板」の「短辺」と補正後の発明の(グランドの)「第1辺」は、「所定の基板部材上辺の長さ」で共通し、同様に「長辺」と「第2辺」は「所定の基板部材の側辺の長さ」で共通しているから、引用発明の「給電素子の長さは使用周波数帯の約1/4波長であり、給電素子の長さは回路基板の長辺よりも短辺に近似し」と補正後の発明の「前記第1及び第2波長のそれぞれの4分の1は、前記第2辺の長さよりも前記第1辺の長さに近似し」は、後述する(相違点4)を除いて、いずれも「前記第1及び第2波長のそれぞれの4分の1は、所定の基板部材の側辺の長さよりも所定の基板部材の上辺の長さに近似し」という点で共通している。

オ.引用発明の「前記無給電素子は回路基板の端部において前記第2の給電点の近傍に接続され」における「近傍」は、図面の記載から明らかに給電素子の長さである4分の1波長よりも十分に狭いものであると解されるので、引用発明の当該構成と補正後の発明の「前記無給電素子と前記第2給電部との間隔は、前記第2波長の4分の1以下であり」に含まれる。

カ.引用発明の「前記無給電素子と回路基板の短辺は平行でなく」の「回路基板の短辺」と、補正後の発明の「前記無給電素子と前記第1辺とは、平行でなく」の「第1辺」とは、「所定の基板部材の上辺」で共通するから、引用発明と補正後の発明とは「前記無給電素子と所定の基板部材の上辺とは、平行でなく」という点で共通する。

キ.引用発明の「前記第1及び第2の給電点は、前記短辺上の両端に配置され」と、補正後の発明の「前記第1辺と前記第2給電部との間隔は、前記無給電素子と前記第2給電部との間隔よりも大きく」とは、後述する(相違点5)を除いて、「前記第2給電部は基板の所定位置に配置され」という点で共通する。

ク.引用発明の「前記第1周波数帯と前記第2周波数帯は、同一である」と、補正後の発明の「前記第1及び第2波長は、同一であってもよいし異なっていてもよい」とは、「前記第1及び第2波長は、同一であってもよい」の点において共通する。

ケ.引用発明の「マルチアンテナ」は、補正後の発明の「アンテナ装置」に含まれる。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致し、相違する。

(一致点)
「第1及び第2給電部を有し、基板と、
前記第1給電部に接続し第1波長を使用する第1アンテナ素子と、
前記第2給電部に接続し第2波長を使用する第2アンテナ素子と、
給電されず、所定の基板部材に接続された無給電素子と、を備え、
前記第1及び第2波長のそれぞれの4分の1は、所定の基板部材の側辺の長さよりも所定の基板部材の上辺の長さに近似し、
前記無給電素子と前記第2給電部との間隔は、前記第2波長の4分の1以下であり、
前記無給電素子と所定の基板部材の上辺とは、平行ではなく、
前記第2給電部は基板の所定位置に配置され、
前記第1の波長及び第2波長は、同一であってもよい、アンテナ装置。」

(相違点1)一致点の「基板」に関し、補正後の発明は、「誘電体製の基板」であるのに対して、引用発明の「回路基板」は、誘電体製か否か明確でない点。

(相違点2)補正後の発明は「互いに異なる長さであり異なる方向に延びた第1及び第2辺を有し、前記基板に設けられたグランド」を備えているのに対して、引用発明は、「回路基板」については、「短辺と長辺を有する」が、「互いに異なる長さであり異なる方向に延びた第1及び第2辺を有し、回路基板に設けられたグランド」を備えているか否かは明らかでない点。

(相違点3)一致点の「給電されず、所定の基板部材に接続された無給電素子」に関し、補正後の発明は「(基板の)グランドに接続された無給電素子」であるのに対し、引用発明は単に「回路基板に接続された無給電素子」である点。

(相違点4)一致点の「前記第1及び第2波長のそれぞれの4分の1は、所定の基板部材の側辺の長さよりも所定の基板部材の上辺の長さに近似し」に関し、補正後の発明は「前記第1及び第2波長のそれぞれの4分の1は、前記第2辺の長さよりも前記第1辺の長さに近似し」であるのに対し、引用発明は「該長さは回路基板の長辺よりも短辺の長さに近似し」である点。

(相違点5)一致点の「前記第2給電部は基板の所定位置に配置され」に関し、補正後の発明は「前記第1辺と前記第2給電部との間隔は、前記無給電素子と前記第2給電部との間隔よりも大きく」を備えているのに対し、引用発明は「前記第1及び第2の給電点は、前記短辺上の両端に配置され」ており、該構成を有しない点。

(4)相違点の検討・判断

(相違点1)について検討する。
アンテナに用いられる基板として誘電体製の基板を用いることは周知の技術であるから、引用発明の「回路基板」を誘電体製の回路基板とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2)(相違点3)について合わせて検討する。
上記「(2)引用発明と周知技術」の「ウ.」の項で検討したように、「無給電素子を備えるアンテナにおいて、アンテナを接続する回路基板の全面にグランドを設け、無給電素子は回路基板のグランドに接続されること。」は、周知技術である。
引用発明に周知技術を参酌することによって、「回路基板の全面にグランドを設け」とし、基板サイズをグランドのサイズで表現することにより、引用発明の無給電素子の接続先である「短辺と長辺を有する回路基板」を、補正後の発明のような「互いに異なる長さであり異なる方向に延びた第1及び第2辺を有し、前記基板に設けられたグランド」とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
その際に、引用発明の「回路基板の長辺の長さよりも短辺の長さに近似し」を補正後の発明のように「前記第2辺の長さよりも前記第1辺の長さに近似し」に変更する程度のことも単に寸法の基準となる対象を「回路基板」から、「回路基板に設けられたグランド」に変更しただけであるから、当業者が容易に想到し得たことである。
更に、周知技術の「無給電素子は当該回路基板のグランドに接続される」
ことにより、引用発明の「給電点には接続されずに回路基板に接続された無給電素子」を補正後の発明のような「給電されず、前記グランドに接続された無給電素子」とすることも当業者であれば適宜なし得ることである。

(相違点4)について検討する。
上記(相違点2)(相違点3)の検討の結果を踏まえると、
引用発明の「給電素子の長さは使用周波数帯の約1/4波長であり、給電素子の長さは回路基板の長辺よりも短辺の長さに近似し」を、補正後の発明のように、「前記第1及び第2波長のそれぞれの4分の1は、前記第2辺の長さよりも前記第1辺の長さに近似し」とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(相違点5)について検討する。
補正後の発明の「前記第1辺と前記第2給電部との間隔は、前記無給電素子と前記第2給電部との間隔よりも大きく」に関し、本願出願当初の図3、、図5から、グランド30の短辺32aから離れた位置に給電部25が設けられ、給電部25に隣接した位置に無給電素子60が設けられることが読み取れ、また、審判請求人は、その点を上記記載の補正の根拠に含ませていることから、上記記載は、第1辺より離れた位置に第2給電部が設けられ、第2給電部に隣接した位置に無給電素子が設けられる構成を含み得ると解される。
他方、引用文献2には、「地板の短辺の端に設けられた第1のアンテナ(モノポールアンテナ)と第2のアンテナ(ダイポールアンテナ)を組み合わせた場合に、第2のアンテナを第1のアンテナと反対側の長辺上であって短辺から離れた位置に設けること。」という引用発明2が記載されている。
そして、引用発明の「第1の給電素子」がモノポールアンテナ、引用発明の「第2の給電素子」と「第2の給電素子」の近傍に配置された「無給電素子」とが、ダイポールアンテナを構成することは、当業者にとって自明のことである。
してみると引用発明と引用発明2とは、モノポールアンテナと、ダイポールアンテナとを組み合わせたマルチアンテナであることで技術が共通する。そこで、引用発明に引用発明2を適用し、引用発明の「第2の給電手段」と「第2の給電素子」の近傍に配置された「無給電素子」とを、「第1の給電素子を反対側の側辺上に設けること、すなわち、補正後の発明のような「前記第1辺と前記第2給電部との間隔は、前記無給電素子と前記第2給電部との間隔よりも大きく」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして補正後の発明の作用・効果も、引用発明及び引用発明2に基づいて、周知技術を参酌することにより、当業者が予測できる範囲のものである。


以上のとおりであるから、補正後の発明は、引用発明及び引用発明2に基づいて、周知技術を参酌することにより容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明と公知技術等
引用発明及び引用発明2、周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明と公知技術等」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び引用発明2に基づいて、周知技術を参酌することにより当業者が容易に発明できたものであるから、上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用発明2に基づいて、周知技術を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-02 
結審通知日 2016-06-07 
審決日 2016-06-29 
出願番号 特願2010-190844(P2010-190844)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01Q)
P 1 8・ 121- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 角田 慎治高橋 宣博  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 林 毅
山中 実
発明の名称 アンテナ装置及び無線通信装置  
代理人 片山 修平  

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