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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G |
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管理番号 | 1317866 |
審判番号 | 不服2015-2116 |
総通号数 | 201 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-02-03 |
確定日 | 2016-08-12 |
事件の表示 | 特願2010-215541「画像形成装置およびプロセスカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月 5日出願公開、特開2012- 68589〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 (1)手続の経緯 本願は、平成22年9月27日の出願であって、平成26年7月11日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月19日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出され、同年10月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年2月3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、平成28年3月8日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年4月22日に手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。 (2)本願発明 本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成28年4月22日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載の事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲に記載されたとおりの次のものであると認める。 「少なくとも静電荷像現像用トナーと電子写真感光体を有する画像形成装置において、該トナーは少なくとも第1の重合体と第2の重合体を含有するトナーであって、第1の重合体を海とし、該第1の重合体中に結晶性を有する結晶性ポリエステルを主体とする第2の重合体が分散する海島構造を有し、該トナーが少なくともビニル系樹脂で変性されたポリエステル樹脂100質量部に対して、結晶性ポリエステル樹脂を5?40質量部、及びワックスを3?20質量部含有し、かつ該感光体の最表面層の弾性変形率が42%以上48%以下、ユニバーサル硬度が180N/mm^(2)以上225N/mm^(2)以下であることを特徴とする画像形成装置。」(以下「本願発明」という。) 2 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由は概ね次のとおりである。 本件出願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用例1.特開2008-116613号公報 引用例2.特開2008-102390号公報 引用例3.特開2010-164962号公報 引用例4.特開2007-33485号公報 引用例5.特開2010-19990号公報 引用例6.特開2009-37229号公報 引用例7.特開2010-39263号公報 引用例8.特開2005-300743号公報 引用例9.特開2005-128491号公報 引用例10.特開2005-215207号公報 3 引用例の記載事項 本願出願前に頒布され、当審拒絶理由で引用例2として引用された刊行物である特開2008-102390号公報には、次の事項が図とともに記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。 (1)「【発明の効果】 【0026】 本発明によれば、定着性、耐高温オフセット性、現像性及び耐ブロッキング性に優れたトナーを提供することが可能である。 【0027】 更に、本発明によれば、画像形成スピードの速いマシンに適用された場合においても、定着画像尾引きの抑制、ハーフトーン画像のガサツキの低減が可能なトナーを提供することが可能である。」 (2)「【発明を実施するための最良の形態】 【0028】 本発明者らは、少なくとも、結着樹脂、着色剤及び結晶性ポリエステルを含有するトナー粒子を有するトナーであり、該トナーは、結着樹脂由来のテトラヒドロフラン不溶分を3?50質量%含有し、該テトラヒドロフラン不溶分は、ハイブリッド樹脂を含有し、該テトラヒドロフラン不溶分を加水分解し、その後、濾過して濾別される成分のテトラヒドロフラン可溶分が、GPCで測定される分子量分布において、分子量10000?1000000の範囲にメインピークを有し、該結晶性ポリエステルは、示差走査熱量計(DSC)により測定されるDSC曲線において、50℃以上130℃以下に、最大吸熱ピークを有することを特徴とするトナーによれば、本発明の目的を達成しうることを見出した。 【0029】 本発明においては、該結着樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂の存在下で、ビニル系モノマーを塊状重合することにより得られるハイブリッド樹脂成分を含有することが好ましい。 【0030】 本発明者らは、不飽和ポリエステル樹脂の存在下で、ビニル系モノマーを塊状重合することにより、テトラヒドロフラン不溶分(ゲル成分)中に含まれるビニル系樹脂成分の分子量分布を制御することで、ポリエステル樹脂成分に由来する定着性とビニル系樹脂成分に由来する耐高温オフセット性とを良好に両立できる構成を見出した。 【0031】 塊状重合法では、テトラヒドロフラン不溶分(ゲル成分)中に含まれるビニル系樹脂成分の分子量分布を制御し、ゲル成分中に含まれるビニル系樹脂成分のメインピーク分子量を大きくすることが可能になる。 【0032】 また、塊状重合法は、溶液重合法と比較して溶媒の留去などの工程が必要ないため低コストで結着樹脂を得ることができる。更に、塊状重合法で製造された結着樹脂は、懸濁重合法で製造された結着樹脂と比較して、分散剤等の不純物が少ない為、トナーの帯電性などへの影響が少なく、トナー用結着樹脂として非常に好ましい。 【0033】 このような不飽和線状ポリエステル樹脂の存在下でビニル系モノマーを塊状重合することで、分子量が大きくて直鎖性の高いビニル系樹脂成分を主鎖として、低分子量ポリエステル樹脂成分がビニル系樹脂成分から分岐した形の分子構造を有するハイブリッド樹脂を得ることができる。更に、この分岐構造を持つハイブリッド樹脂中の酸基や水酸基が、分子間でエステル結合を形成することによりゲル化が促される。 【0034】 こうして得られたハイブリッド樹脂により形成されるゲル成分は、架橋点間分子量が大きく、熱により軟化しやすい。また、分子構造にポリエステル系樹脂成分を多量に含むため、ハイブリッド化していない結晶性ポリエステルや低分子量ポリエステル系樹脂成分、またはワックス成分をゲル成分内部に多量に取り込むことができる。その結果、軟化点の低い低分子量ポリエステル系樹脂成分を多量に添加しても、トナーの機械的強度を維持することが可能となり、優れた定着性と現像耐久性を両立させることが可能になる。 【0035】 特に、本発明者らは特定の結晶性ポリエステルをゲル成分内部に取り込ませることにより、後述する理由で優れた迅速定着性を達成することが可能になることを見出した。また同時に、結晶性ポリエステルはトナー製造条件によっては、結着樹脂に相溶しやすく、保存性や粉砕性を低下させる場合があったり、意図する効果が得られにくい場合があったが、本発明におけるゲル成分内部に取り込ませることにより、相溶化を抑制することが可能であることを見出した。 【0036】 さらに、架橋点間分子量が大きく、直鎖性の高いゲル成分は、分子構造に柔軟性があるため剪断力に強く、トナー化の混練工程でゲル成分の分子切断が起こりにくい。そのため、混練条件によらず一定のゲル成分をトナーに含有させることが可能となり、すなわち結晶性ポリエステルやワックス成分を保持したゲル成分を維持するため、本発明の目的とする効果が得られやすい。 【0037】 特に、プロセススピードが速かったり、低温環境において使用する紙が冷えている場合には、定着時にトナーが散りやすかった。上述のように、特定の結晶性ポリエステルを特定のゲル成分内部に取り込ませることにより、トナーの迅速定着性が向上する。このため、プロセススピードの速いマシンにおいても定着時のトナーの散りが抑制され、定着画像尾引きやハーフトーン画像ガサツキの少ない画像を得ることが可能になった。 【0038】 本発明に用いられるトナーに含まれる結着樹脂は、良好な定着性を確保する為に、少なくともポリエステル系樹脂成分を30質量%以上含有することが好ましい。ポリエステル系樹脂ユニットの含有量が30質量%未満であると、充分な定着性が得られにくい。本発明におけるポリエステル系樹脂ユニットの含有量とは、ポリエステル樹脂として存在するものと、ハイブリッド樹脂等の中においてポリエステル系樹脂成分として存在する成分とを合わせたものである。一方のビニル系樹脂成分は、結着樹脂中に70質量%以下で含有され、好ましくは10?70質量%で含有されていることが、良好な耐オフセット性を得ることができるという点で好ましい。 【0039】 また、本発明のトナーは、結着樹脂由来のテトラヒドロフラン不溶分(ゲル成分)を3?50質量%することが重要である。より好ましくは5?40質量%、さらに好ましくは5?30質量%、特に好ましくは10?30質量%含有することが好ましい。さらに本発明のトナーはこのようなゲル成分中にハイブリッド樹脂を含有していることが重要である。テトラヒドロフラン不溶分が3質量%未満であると、良好な耐高温オフセット性を得にくい。テトラヒドロフラン不溶分が50質量%より多いと、着色剤などの材料をトナー中に均一に分散させることが難しくなり、トナーの帯電性が悪化し、カブリや画像濃度の低下が生じやすい。 【0040】 ハイブリッド樹脂は同一分子内にポリエステル系樹脂成分とビニル系樹脂成分の両方を有しているために、ポリエステル成分に混ざり易い原材料(親水性の高い成分、例えば磁性体などの着色剤)とビニル系樹脂に混ざり易い原材料(極性の低い成分、例えばワックス成分)の両方の成分の分散性を同時に向上させることができる。 【0041】 特に、テトラヒドロフラン不溶分(ゲル成分)中にハイブリッド樹脂を含有させることで、トナー中においてワックス成分や磁性体等の着色剤がゲル成分の近傍に存在しやすくなったり、ゲル成分中に入り込むようになったりする。ワックスがゲル成分の近傍に存在する場合には、定着時にワックス成分が溶融することでゲル成分も軟化しやすくなり、トナーのシャープメルト性が高くなり、定着性が大幅に向上する。特に、本発明における特定の結晶性ポリエステルを併用すると、さらに定着性が向上することが判明した。この理由は定かではないがゲル成分内に取り込まれた結晶性ポリエステルが、外部からの熱的な刺激に応答し、より迅速にゲル成分内に取り込まれていたポリエステル成分やワックス成分をゲル成分外に押出すためと考えられる。特に、ゲル成分外にワックス成分を押出すことで、ワックスを効率よく機能させることと、結晶性ポリエステルがゲル成分内部に入ることにより、ゲル構造が広がり、ゲルの柔軟性が増すため定着性が大幅に向上すると考えられる。同時に、この結晶性ポリエステルによるワックスの押出し効果により、トナーの離型性も向上し、耐高温オフセット性も向上する。 【0042】 さらに、本来ゲル成分中には入り込みにくい磁性体などの着色剤がゲル成分中に取り込まれた場合には、材料の均一分散性が向上してトナーの帯電性が安定する為、現像性や画質が向上する。」 (3)「【0108】 本発明の結着樹脂は、上述した如く、前記のような不飽和ポリエステル樹脂成分存在下で、溶媒などを使わずにビニル系モノマーを重合する、塊状重合法によりハイブリッド樹脂を得ることが好ましい。特に、重合開始剤として、10時間半減期温度が100?150℃のものを用い、重合開始剤の10時間半減期温度よりも30℃低い温度から、10時間半減期温度よりも10℃高い温度の範囲で、ビニル系モノマーの重合転化率が60%、好ましくは80%に達するまで重合反応を行い、塊状重合により生成するビニル系樹脂成分の分子量を大きくすることが好ましい。さらに、重合転化率が60%(好ましくは80%)に達した後に、10時間半減期温度よりも10℃以上高い温度で重合反応を行い、反応を終了させることが良い。このようにして得られた結着樹脂は酸価が0.1?50mgKOH/g(好ましくは1?40mgKOH/g、より好ましくは1?30mgKOH/g)、水酸基価が5?80mgKOH/g(好ましくは5?60mgKOH/g、より好ましくは10?50mgKOH/g)の範囲であることが、トナーの帯電性を安定させる点で好ましい。 【0109】 上述した塊状重合において、ビニル系樹脂成分及び/またはポリエステル樹脂成分は複数の異なる分子量、架橋度を有する重合体成分を使用することができる。 【0110】 本発明に用いられる結着樹脂のガラス転移温度(Tg)は、50?75℃であることが好ましい。結着樹脂のガラス転移温度が50℃未満であるとトナーの保存安定性が不十分となることがあり、75℃よりも大きいとトナーの定着性が不十分となることがある。結着樹脂のガラス転移温度は、一般的には出版物ポリマーハンドブック第2版III-p139?192(John Wiley&Sons社製)に記載の理論ガラス転移温度が45?80℃を示すように、結着樹脂の構成物質(重合性単量体)を選択することにより調整することができる。また結着樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計、例えばパーキンエルマー社製のDSC-7やTAインスツルメンツジャパン社製のDSC2920を用いて、ASTM D3418-82に準じて測定することができる。 【0111】 本発明におけるトナーは、上述したポリエステル成分の他に、さらに結晶性ポリエステル成分を含有することが重要である。ここで結晶性ポリエステルとは、示差走査熱量(DSC)測定において昇温時に吸熱ピークがあり、かつ降温時に発熱ピークがあるポリエステルをいう。ここでDSC測定は「ASTM D 3417-99」に準じて行う。 【0112】 本発明では、示差走査熱量計(DSC)測定より得られる吸熱曲線において、結晶性ポリエステルは50?130℃の範囲に吸熱ピークのピークトップを有することが重要である。より好ましくは55?120℃、さらに好ましくは、60℃?110℃である。結晶性ポリエステルの融点が50℃未満であると、トナーの保存安定性が劣る傾向にある。一方、結晶性ポリエステルの融点が130℃よりも高いと迅速な定着性が低下する傾向があり好ましくないだけでなく、トナーの粉砕性が悪化する傾向がある。 【0113】 結晶性ポリエステルの示差走査熱量(DSC)測定における最大吸熱ピークのピークトップの温度は、例えば用いるモノマーの種類や分子量を適宜選択することにより調整することができる。 【0114】 前記DSC測定は、ASTM D 3417-99に準じて行うことができる。例えばパーキンエルマー社製DSC-7、TAインストルメント社製DSC2920、TAインストルメント社製Q1000を用いて測定される。装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。測定サンプル(ポリエステル)はアルミニウム製のパンに入れられて測定され、対照として空のパンをセットして測定する。 【0115】 本発明のトナーに含まれる結晶性ポリエステルは、加熱されると結着樹脂と相溶することがある。通常のDSCの測定モードでは、昇温、降温、昇温の過程を含み、2回目の昇温時におけるDSC曲線からピークトップ温度を求める。その際、一回目の昇温の段階で180℃までゆっくりと加熱すると、結晶性ポリエステルの一部が結着樹脂と相溶することがある。そのため、本発明のトナーに含まれる結晶性ポリエステルのDSC測定を、通常の測定モードで行うことは好ましくない。 ・・・略・・・ 【0118】 本発明のトナーは、結着樹脂に対して結晶性ポリエステルを2?30質量%含有することが好ましく、3?25質量%含有することがより好ましい。結晶性ポリエステルの含有量が2質量%未満では上述した本発明の効果が十分に得られ難い。また、結晶性ポリエステルは吸湿し易いため、その含有量が結着樹脂に対して30質量%よりも多いとトナーの帯電の均一性が損なわれ易く、カブリの増加等を招く傾向があるために好ましくないだけでなく、理由は定かではないが、トナーの粉砕性が低下する傾向があり好ましくない。」 (4)「【0143】 特に、本発明では、不飽和ポリエステル樹脂の存在下で、ビニル系モノマーを塊状重合することが特徴であるが、さらに、ワックス及び/又は結晶性ポリエステル存在下で、ビニル系モノマーを塊状重合することにより、ゲル成分の形成とゲル成分内部への結晶性ポリエステルやワックスの取り込みが並行して行われるために、より効率的にゲル成分内部に取り込まれやすい。 【0144】 ワックスと結晶性ポリエステルの添加のタイミングは異なっていても良く、例えば樹脂製造時にワックスもしくは、結晶性ポリエステルのどちらか一方を添加して、トナー製造時に残る一方を添加する方法でもよい。ワックスは、樹脂へのワックス分散の点で、結晶性ポリエステルはゲル成分内部への取り込みの点で、少なくとも一部は樹脂製造時、とくにビニル系モノマーの塊状重合前に添加することが好ましい。ワックスの分散が十分でないと、カブリなどの問題を起こしやすい。 【0145】 一般的に塊状重合の重合温度は、ポリエステルの重合温度よりも低い設定であるために、結晶性ポリエステルの分解などが起こりにくい点でも、結着樹脂に結晶性ポリエステルを含有させるうえでは、塊状重合により結着樹脂を重合することは非常に有効である。 【0146】 本発明のトナーはワックスを含有するが、1種又は2種以上のワックスを併用してもよい。ワックスの添加効果とトナーの長期保存性とを両立の観点から、その含有量は結着樹脂に対し2?20質量%であることが好ましく、より好ましくは2?10質量%である。ワックスの含有量が2質量%未満では上述したようなワックスの添加効果が十分に得られない。一方、20質量%を超えてしまうと長期間の保存性が悪化すると共に、ワックスや着色剤、荷電制御剤等のトナー材料の分散性が悪化する傾向があり、カブリの増大につながりやすい。 【0147】 本発明においては、上記のように複数のワックスをトナーに含有させてもよいが、少なくとも1種のワックスが下記式を満たすことが好ましい。すなわち、ワックスの示差走査熱量(DSC)測定における最大吸熱ピークのピークトップの温度を、Tm1、結晶性ポリエステルの示差走査熱量(DSC)測定における最大吸熱ピークのピークトップの温度を、Tm2としたときに以下の式を満たすことが好ましい。 Tm1≦Tm2+10[℃] 【0148】 ここで、トナー定着時におけるワックスと結晶性ポリエステルの挙動を詳細に検討したところ、ワックスは溶融すると結着樹脂への染み込みが起こり、トナー外部へ染み出すことによりワックスによる定着助剤効果、離型効果を発揮する。 【0149】 一方、結晶性ポリエステルは融点付近の温度領域ではワックス、結着樹脂のいずれとも相溶せず、定着時に熱を受けた結晶性ポリエステルは溶融してドメインとして存在すると考えられる。」 (5)「【実施例】 【0216】 以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これは本発明を何ら限定するものではない。 【0217】 〈結晶性ポリエステル1の製造例〉 攪拌器、温度計、流出用冷却機を備えた反応装置に、1,10-デカンジカルボン酸230.3質量部(1.0モル部)と、ジエチレングリコール106.1質量部(1.0モル部)、テトラブチルチタネート0.50質量部を入れ、190℃でエステル化反応を行った。その後、220℃に昇温すると共に系内を徐々に減圧し、150Paで重縮合反応を行い、結晶性ポリエステル1を得た。結晶性ポリエステル1の融点は80.3℃、数平均分子量は3,600であった。 ・・・略・・・ 【0219】 〈結晶性ポリエステル3の製造例〉 結晶性ポリエステル1の製造において、テトラブチルチタネートの添加量を0.42質量部に変更し、重縮合反応の時間を長くしたこと以外は、上記結晶性ポリエステル1の製造と同様にして結晶性ポリエステル3を得た。結晶性ポリエステル3の融点は83.3℃、数平均分子量は6,300であった。 ・・・略・・・ 【0224】 [結着樹脂製造例] ・・・略・・・ 【0231】 (ハイブリッド樹脂製造例1) 不飽和ポリエステル樹脂P-1:75質量部と、ビニル系モノマーとして、スチレン:18質量部、アクリル酸n-ブチル:6.5質量部、マレイン酸モノn-ブチル:0.5質量部、結晶性ポリエステル1:7質量部、パラフィンワックス(Mn450、Mw520、メインピーク分子量500、DSCピーク温度75.0℃):2質量部、開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)へキシン-3(10時間半減期温度128℃):0.08質量部を混合した。このビニル系モノマー/ポリエステル樹脂混合物を120℃で20時間かけてビニル系モノマーの重合転化率が96%になるまで重合後、さらに150℃に温度を上げて5時間保持して未反応のビニル系モノマーを重合させ、ハイブリッド樹脂を得た。これを結着樹脂1とする。 【0232】 得られた結着樹脂1は、テトラヒドロフラン可溶分に関して、GPCで測定される分子量分布において、メインピーク分子量が7050であり、分子量40000?1000000の範囲の成分を7.5質量%含有し、テトラヒドロフラン不溶分を20質量%含有していた。テトラヒドロフラン不溶分を加水分解し、濾過し、濾別される成分のテトラヒドロフラン可溶分を分析したところ、ビニル系樹脂を含むものであった。一般的には、ハイブリッド樹脂が含有されていない場合には、加水分解してもテトラヒドロフラン可溶分が生じない。このことより、テトラヒドロフラン不溶分中にハイブリッド樹脂が含有されていたことが確認された。 【0233】 (ハイブリッド樹脂製造例2) ハイブリッド樹脂製造例1において、結晶性ポリエステル1を使用しない以外は、ハイブリッド樹脂製造例1と同様にして、ハイブリッド樹脂を得た。これを結着樹脂2とする。 【0234】 得られた結着樹脂2は、テトラヒドロフラン可溶分に関して、GPCで測定される分子量分布において、メインピーク分子量が7080であり、分子量40000?1000000の範囲の成分を7.7質量%含有し、テトラヒドロフラン不溶分を21質量%含有していた。テトラヒドロフラン不溶分を加水分解し、濾過し、濾別される成分のテトラヒドロフラン可溶分を分析したところ、ビニル系樹脂を含むものであった。一般的には、ハイブリッド樹脂が含有されていない場合には、加水分解してもテトラヒドロフラン可溶分が生じない。このことより、テトラヒドロフラン不溶分中にハイブリッド樹脂が含有されていたことが確認された。 【0235】 (ハイブリッド樹脂製造例3) ハイブリッド樹脂製造例2において、ワックスを使用しない以外は、ハイブリッド樹脂製造例2と同様にして、ハイブリッド樹脂を得た。これを結着樹脂3とする。 【0236】 得られた結着樹脂3は、テトラヒドロフラン可溶分に関して、GPCで測定される分子量分布において、メインピーク分子量が7100であり、分子量40000?1000000の範囲の成分を7.8質量%含有し、テトラヒドロフラン不溶分を22.2質量%含有していた。テトラヒドロフラン不溶分を加水分解し、濾過し、濾別される成分のテトラヒドロフラン可溶分を分析したところ、ビニル系樹脂を含むものであった。一般的には、ハイブリッド樹脂が含有されていない場合には、加水分解してもテトラヒドロフラン可溶分が生じない。このことより、テトラヒドロフラン不溶分中にハイブリッド樹脂が含有されていたことが確認された。 ・・・略・・・ 【0261】 (実施例1) ・結着樹脂1 100質量部 ・磁性酸化鉄: 95質量部 (組成:Fe_(3)O_(4)、形状:球状、平均粒子径0.21μm、795.8kA/mにおける磁気特性;Hc=5.4kA/m、σs=83.8Am^(2)/kg、σr=7.0Am^(2)/kg) ・前記アゾ系鉄錯体化合物(1)(カウンターイオンはNH_(4)^(+)) 2質量部 ・ハイブリッド樹脂製造例1で使用したパラフィンワックス 2質量部 上記原材料をヘンシェルミキサーで予備混合した後、130℃、200rpmに設定した二軸混練押し出し機(PCM-30:池貝鉄工所社製)によって混練した。得られた混練物を冷却しカッターミルで粗粉砕した後、得られた粗粉砕物を、ターボミルT-250(ターボ工業社製)を用いて微粉砕し、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級し、重量平均粒径(D4)6.0μmの負帯電性のトナー粒子を得た。 【0262】 このトナー粒子100質量部に、ヘキサメチルジシラザンで処理した負帯電性疎水性シリカ(BET比表面積120m^(2)/g)1.2質量部をヘンシェルミキサーで外添混合しトナー1を得た。トナー1の物性を表1に示す。このトナーを以下の項目について評価した。評価結果を表2に示す。 【0263】 [評価1:定着試験] ヒューレットパッカード社製レーザービームプリンタ:LaserJet4350の定着器を取り出し、定着装置の定着温度を任意に設定できるようにし、かつプロセススピードを410mm/secとなるようにした外部定着器を用いた。この外部定着器を140?220℃の範囲で5℃おきに温調し、FOX RIVER BOND紙(90g/m^(2))紙に現像したハーフトーン(画像濃度が0.8?0.85に設定)未定着画像の定着を行い、得られた画像を4.9kPaの荷重をかけたシルボン紙で5往復摺擦し、摺擦前後の画像濃度の濃度低下率が、5点平均値で15%以下になる点を定着温度とした。この温度が低いほど低温定着性に優れたトナーである。 【0264】 低温定着性の判断基準を以下に示す。 A:145℃で濃度低下率が15%以下。 B:155℃で濃度低下率が15%以下。 C:165℃で濃度低下率が15%以下。 D:165℃で濃度低下率が15%より大きい。 【0265】 耐高温オフセット性については、プロセススピードを100mm/secにし、200?240℃の範囲で5℃おきに温調し、未定着画像の定着を行い、画像上のオフセット現象による汚れを目視で確認し、発生した温度を耐高温オフセット性とした。この温度が高いほど耐高温オフセット性に優れたトナーである。評価紙は普通紙(64g/m^(2))を使用した。 【0266】 耐高温オフセット性の判断基準を以下に示す。 A:240℃で汚れが全くない。 B:240℃でやや汚れるが、230℃で汚れが全くない。 C:230℃でやや汚れるが、225℃で汚れが全くない。 D:225℃で汚れが目立つ。 【0267】 [評価2:高温高湿環境評価] 市販のLBPプリンタ(Laser Jet 4300、HP社製)を改造して、A4サイズ65枚/分とした。この改造機に対して、トナー製造例1で得た磁性トナー1を充填し、トナー担持体として、内部に現像極の磁極が750ガウスのマグネットを有し、表面粗さRaが1.0μmで、直径がΦ20のスリーブを組み込み、また、現像ブレードの当接圧を50%アップさせた。トナー充填部の容量を2倍とした改造プロセスカートリッジを搭載させた。 【0268】 これを画出し試験機として、32.5℃、80%RHの高温高湿環境に一晩放置後、印字率3%となる横線パターンを2枚/1ジョブとして、ジョブとジョブの間にマシンがいったん停止してから次のジョブが始まるように設定したモードで、A4普通紙(75g/m^(2))を使用して3万枚のプリント耐久試験を行った。 【0269】 このプリント耐久試験中もしくは3万枚の耐久試験後に、以下の評価を行った。 【0270】 画像濃度は、反射濃度計であるマクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルターを使用して、5mm角のベタ黒画像の反射濃度を測定することにより測定し評価した。 【0271】 画像濃度の評価基準を以下に示す。低下率は、1000枚耐久後に対する3万枚耐久後の反射濃度の低下率を算出したものである。 A:低下率が3%未満。 B:低下率が3%以上5%未満。 C:低下率が5%以上10%未満。 D:低下率が10%以上。 【0272】 [評価3:低温低湿環境評価] 評価2で使用したLBPプリンタと改造プロセスカートリッジを使用して、これを画出し試験機として、15℃、10%RHの低温低湿環境に一晩放置後、以下の項目について、評価を行った。 【0273】 (1)定着画像尾引き 一晩放置後、マシンの電源を入れた直後に、FOX RIVER BOND紙(90g/m^(2))紙に、幅4ドットのヨコ線画像を1枚プリントし、ヨコ線の定着画像尾引きを評価した。ヨコ線を光学顕微鏡で観察し、以下の基準で判定した。 A:尾引きは未発生。 B:わずかに尾引きは発生しているものの、良好な画像。 C:尾引きは発生しているものの、実用的には問題のない画質。 D:尾引きがひどく、実用上好ましくない画像。 【0274】 (2)ハーフトーンのガサツキ (1)の定着画像尾引きの評価に引き続いて、孤立ドットパターン(直径50μmのドットが、200μm離れて均等に配置されたパターン)を出力して、プリント画像を目視、または定着画像のドットを顕微鏡で観察することによって、ガサツキを評価し、以下の評価基準に基づいて評価した。 A:非常に良好(欠損2個以下/100個) B:良好(欠損3?5個/100個) C:普通(欠損6?10個/100個) D:悪い(欠損11個以上/100個) 【0275】 (3)カブリ (1)と(2)の評価に引き続いて、印字率3%となる横線パターンを2枚/1ジョブとして、ジョブとジョブの間にマシンがいったん停止してから次のジョブが始まるように設定したモードで、A4普通紙(75g/m^(2))を使用して1000枚のプリント耐久試験を行った。その後、べた白を2枚プリントし、2枚目のカブリを以下の方法により測定した。 【0276】 反射濃度計(リフレクトメーター モデル TC-6DS 東京電色社製)を用いて画像形成前後の転写材を測定し、画像形成後の反射濃度最悪値をDs、画像形成前の転写材の反射平均濃度をDrとし、Ds-Drを求め、これをカブリ量として評価した。数値の少ない方がカブリが少ないことを示す。 【0277】 カブリの評価基準(紙面内のカブリ最悪値に関して)を以下に示す。 A:0.8未満。 B:0.8以上1.5未満。 C:1.5以上3.0未満。 D:3.0以上。 【0278】 [保存性試験] トナー10gを、50℃で5日間放置し、トナーのブロッキング状態を評価した。 A:流動性に優れている。 B:凝集塊があるが、すぐにほぐれる。 C:凝集塊があるが、ややほぐれにくい。 D:ブロッキングしている。実用上好ましくない。 【0279】 (実施例2) ・・・略・・・ 【0280】 (実施例3) ・結着樹脂3 100質量部 ・実施例1で使用した磁性酸化鉄 95質量部 ・実施例1で使用したアゾ系鉄錯体化合物 2質量部 ・ハイブリッド樹脂製造例1で使用したパラフィンワックス 4質量部 ・結晶性ポリエステル3 7質量部 上記原材料を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、トナー3を得た。トナー3の物性を表1に示す。また、実施例1と同様に評価試験を行い、その結果を表2に示す。 ・・・略・・・ 【0295】 【表1】 【0296】 【表2】 」 (6)引用例2において、トナーは、画像形成スピードの速いマシン(【0027】)、すなわち、画像形成装置に適用されるものである。ここで、引用例2の実施例3のトナー(【0280】)は、実施例1(【0261】、【0262】)における原材料を換えて得た「トナー3」である。また、該トナー3の原材料中の「結着樹脂3」は、結晶性ポリエステル1及びワックスを使用しない以外は、結着樹脂1の製造(ハイブリッド樹脂製造例1)と同様にして得られたものである(【0231】、【0233】及び【0235】)。そうしてみると、上記(1)ないし(5)から、引用例2には次の発明(段落番号はそのまま併記する。)が記載されているものと認められる。 「【0231】不飽和ポリエステル樹脂P-1:75質量部と、ビニル系モノマーとして、スチレン:18質量部、アクリル酸n-ブチル:6.5質量部、マレイン酸モノn-ブチル:0.5質量部、開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)へキシン-3(10時間半減期温度128℃):0.08質量部を混合し、このビニル系モノマー/ポリエステル樹脂混合物を120℃で20時間かけてビニル系モノマーの重合転化率が96%になるまで重合後、さらに150℃に温度を上げて5時間保持して未反応のビニル系モノマーを重合させ、ハイブリッド樹脂である結着樹脂3を得て、 【0280】結着樹脂3が100質量部、磁性酸化鉄が95質量部、アゾ系鉄錯体化合物が2質量部、パラフィンワックスが4質量部及び結晶性ポリエステル3が7質量部からなる原材料を 【0261】ヘンシェルミキサーで予備混合した後、130℃、200rpmに設定した二軸混練押し出し機(PCM-30:池貝鉄工所社製)によって混練し、得られた混練物を冷却しカッターミルで粗粉砕した後、得られた粗粉砕物を、ターボミルT-250(ターボ工業社製)を用いて微粉砕し、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級し、重量平均粒径(D4)6.0μmの負帯電性のトナー粒子を得て、このトナー粒子100質量部に、ヘキサメチルジシラザンで処理した負帯電性疎水性シリカ(BET比表面積120m^(2)/g)1.2質量部をヘンシェルミキサーで外添混合しトナー3を得て、 【0027】該トナー3を適用した画像形成装置。」(以下「引用発明」という。) 4 周知の事項 (1)特開2007-33485号公報の記載 本願出願前に頒布され、当審拒絶理由で引用例4として引用された刊行物である特開2007-33485号公報(以下「周知例1」という。)には次の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、電子写真法において、電子写真感光体、或いは静電記録誘導体等の静電潜像担持体上に形成された静電潜像を現像剤で現像して、静電潜像担持体上にトナー像を形成すると同時に、転写後の静電潜像担持体上に残留するトナーを回収する現像兼回収工程と、静電潜像担持体上のトナー像を中間転写体又は転写材に転写する転写工程とを少なくとも含む画像形成方法に関するものである。」 イ 「【0074】 また本発明に用いられる電子写真感光体の表面は、25℃湿度50%の環境下でビッカース四角錐ダイヤモンド圧子を用いて硬度試験を行い,最大荷重6mNで押し込んだときのHU(ユニバーサル硬さ値)が150N/mm^(2)以上220N/mm^(2)以下であり、且つ弾性変形率Weが45%以上65%以下であることが好ましい。 【0075】 感光体表面のユニバーサル硬さ値HUは、フィッシャー・インストルメンツ社製フィッシャースコープH100Vを用い、表面皮膜物性試験から得られる硬さ値であり、測定においては、対面角度が136°に規定されている四角錘のダイヤモンド圧子を使用し、測定荷重を段階的にかけて皮膜に押し込んでいった際の、荷重をかけた状態での押し込み深さを電気的に検出して読み取り、硬さ値は試験荷重をその試験荷重で生じた圧痕の表面積で除した比率で表示され、ユニバーサル硬さ値HUは、下記式に示したように、圧子の最大押し込み深さでの硬さ値で表される。 ユニバーサル硬さ値HU=K×F/h^(2)[N/mm^(2)] [但し、K:定数(1/26.43)、F:試験荷重(N)、h:圧子の最大押し込み深さ(mm)] 【0076】 上記硬さ値は、その他の硬度測定等よりも微小な荷重で測定できるとともに、弾性、塑性を有する材料に関しても、弾性変形や塑性変形分を含んだ硬度が得られるので、好ましく用いられる。 【0077】 感光体表面のユニバーサル硬さ値HUが150N/mm^(2)未満の場合は、感光体表面の耐磨耗性が十分ではなく、長期に渡る耐久においては、表面のキズや削れが原因となって、スジ画像や画像濃度低下が生じてしまいやすい。又、ユニバーサル硬さ値HUが220N/mm^(2)を超える場合は、上述したような硬化型の表面層を製造する際のハンドリング性が悪くなる傾向がある。 【0078】 また、弾性変形率Weについても45%未満の場合は、画像形成プロセスにおける各工程での感光体表面と各部材の物理的作用によりキズ等が入り易くなる。また、感光体表面の弾性力が不足しており、トナーが感光体表面に圧着し融着の原因になったりする場合がある。一方、弾性変形率Weが65%を超える場合は、感光体表面の脆性が大きくなり過ぎ、クラックや、瞬間的な外的衝撃により致命的な傷を生じやすくなる。」 ウ 「【実施例】 【0253】 以下、具体的製造例及び実施例をもって本発明を更に詳しく説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。なお、「部」は「質量部」を意味する。 【0254】 <感光体の製造例> ・・・略・・・ 【0260】 その後窒素中において加速電圧110kV、線量1.5Mradの条件で前記アルミニウムシリンダを回転させながら3秒間電子線照射を行い、引き続いて窒素中において25℃から120℃までおよそ100秒かけて昇温させ硬化反応を行った。なお電子線照射及び加熱硬化反応中の酸素濃度は10ppmであった。その後大気中において、100℃で30分の後加熱処理を行って膜厚5μmの保護層を形成し、電子写真感光体を得た。得られた電子写真感光体のユニバーサル硬さ値HUは210N/mm^(2)であり、弾性変形率Weは54%であった。」 (2)特開2010-19990号公報の記載 本願出願前に頒布され、当審拒絶理由で引用例5として引用された刊行物である特開2010-19990号公報(以下「周知例2」という。)には次の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、電子写真法、静電記録法、及び磁気記録法を利用した画像形成方法に関する。詳しくは、本発明は、感光体上にトナー像を形成後、トナー像を転写材上に転写して画像形成する、複写機、プリンター、ファックスの如き画像形成装置に用いられる画像形成方法に関する。」 イ 「【0073】 本発明に用いられる感光体の表面は、後述する方法により測定された弾性変形率が、好ましくは44%以上65%未満、より好ましくは50%以上65%未満である。弾性変形率を上記範囲とすることにより、耐久時における感光体の表面への傷の発生、現像剤等の融着が抑制され得る。また、感光体の表面は、後述する方法により測定・算出されたユニバーサル硬さ値(HU)が、150N/mm^(2)以上240N/mm^(2)未満であることが好ましく、160N/mm^(2)以上210N/mm^(2)未満であることがより好ましい。それにより、傷に対して抑制効果が得られる場合がある。 なお、上記ユニバーサル硬さ値(HU)及び弾性変形率は、保護層を構成する材料の選定と、乾燥、重合、硬化など保護層を形成する際の、温度や照射強度など、また保護層形成装置内の雰囲気などの、表保護形成各条件を適宜調整することで、上記範囲に調整することが可能である。 より具体的には、たとえば後述する感光体A-1の製造例では、たとえば保護層への電子線照射出力を上げる、また電子線照射後の加熱処理時の温度を上げることなどにより、ユニバーサル硬さ値(HU)ならびに弾性変形率は上がる傾向にある。ユニバーサル硬さ値(HU)または弾性変形率の一方のみを変化させたい場合は、保護層を構成する樹脂材料の変更や、樹脂材料に添加剤を加えるなど、公知の方法により調整することができる。」 ウ 「【実施例】 【0094】 以下、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下の配合における部数は特に説明が無い場合は質量部である。 ・・・略・・・ 【0111】 【表2】 」 (3)特開2009-37229号公報の記載 本願出願前に頒布され、当審拒絶理由で引用例6として引用された刊行物である特開2009-37229号公報(以下「周知例3」という。)には次の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 導電性支持体上に少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、当該感光層が、ポリシロキサン成分を有する樹脂を含有し、且つポリアリレート樹脂を含有することを特徴とする電子写真感光体。 ・・・略・・・ 【請求項8】 導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、当該感光層表面の表面自由エネルギーが20mN/m以上、35mN/m以下であり、且つ、温度25℃、相対湿度50%の環境下で、ビッカース圧子を用いて、最大押込み深さ1μm、負荷所要時間20s、除荷所要時間20sの条件で測定したときの弾性変形率が43%以上であることを特徴とする電子写真感光体。 【請求項9】 導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、当該感光層表面の表面自由エネルギーが20mN/m以上、35mN/m以下であり、且つ、温度25℃、相対湿度50%の環境下で、ビッカース圧子を用いて、最大押込み深さ1μm、負荷所要時間20s、除荷所要時間20sの条件で測定したときの最大押込み深さにおけるユニバーサル硬度が150N/mm^(2)以上、200N/mm^(2)以下であることを特徴とする電子写真感光体。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、表面滑り性、耐摩耗性、電気特性に優れている電子写真感光体、およびそれを用いた電子写真感光体に関するものである。」 ウ 「【0104】 <弾性変形率、及びユニバーサル硬度> 本発明の電子写真感光体の弾性変形率は、通常43%以上、好ましくは45%以上であり、また通常60%以下、好ましくは50%以下である。弾性変形率を前記範囲とすることにより、クリーニング部材との密着がよくなり、円形度の高いトナーを用いた場合でもクリーニング不良の発生を抑制することが可能となる。また本発明におけるユニバーサル硬度は通常150N/mm^(2)以上、好ましくは160N/mm^(2)以上、より好ましくは170N/mm^(2)以上であり、また通常200N/mm^(2)以下、好ましくは190N/mm^(2)以下、より好ましくは185N/mm^(2)以下である。ユニバーサル硬度を前記範囲とすることにより、同様に、クリーニング部材との密着性がよくなり、円形度の高いトナーを用いた場合でもクリーニング不良の発生を抑制することが可能となる。 【0105】 本発明における弾性変形率、及びユニバーサル硬度は、微小硬度計(Fischer社製:FISCHERSCOPE H100C)を用いて、温度25℃、相対湿度50%の環境下で測定した値である。測定には対面角136°のビッカース四角錐ダイヤモンド圧子を用いる。測定条件は以下の通りに設定して行い、圧子にかかる荷重とその荷重下における押し込み深さを連続的に読み取り、それぞれY軸、X軸にプロットした図3に示すようなプロファイルを取得する。 【0106】 測定条件 最大押込み深さ 1μm 負荷所要時間 20s 除荷所要時間 20s 【0107】 本発明における弾性変形率は、下記式により定義される値であり、押し込みに要した全仕事量に対して、除荷の際に膜が弾性によって行う仕事の割合である。 弾性変形率(%)=We/Wt * 100 上記式中、全仕事量Wt(nJ)は図3中のA-B-D-Aで囲まれる面積を示し、弾性変形仕事量We(nJ)はC-B-D-C で囲まれる面積を示している。 弾性変形率が大きいほど、負荷に対する変形が残留しにくく、100の時には変形が残らないことを意味する。 【0108】 本発明において、ユニバーサル硬度は、最大押込み深さ1μmまで押し込んだ時の値であり、その時の荷重から以下の式により定義される値である。 ユニバーサル硬度(N/mm^(2))=試験荷重(N)/試験荷重下でのビッカース圧子の表面積(mm^(2)) 【0109】 本発明の範囲内の弾性変形率、ユニバーサル硬度を有する感光体であれば、その構成に制限はないが、<ポリアリレート樹脂>の欄で説明した樹脂を用いることが好ましい。ポリアリレート樹脂を用いた場合の好ましい範囲は、<ポリアリレート樹脂>の欄で説明した場合と同様である。ポリアリレート樹脂として、式(1)で表される化合物のn=1の樹脂を用いた場合、弾性変形率、ユニバーサル硬度ともに特に好ましい特性を示す。」 エ 「【実施例】 【0277】 以下実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例によって限定されるものではない。 ・・・略・・・ 【0345】 <感光体ドラムの製造> [実施例7] 以下の手順に従い、電子写真感光体の1形態である感光体ドラムを作製した。・・・略・・・ 【0348】 この電荷輸送層形成用塗布液に、先に電荷発生層を形成したシリンダーを浸漬塗布して、乾燥後の膜厚22μmの電荷輸送層を形成し、感光体ドラムを作製した。この感光体ドラムの、表面自由エネルギー、弾性変形率、ユニバーサル硬度を測定し、結果を表3に示した。 ここで作製した感光体ドラム、および、上記現像用トナーAをカラープリンター((株)沖データ社製MICROLINE Pro 9800PS-E)のブラックドラムカートリッジ、および、ブラックトナーカートリッジにそれぞれ搭載し、該カートリッジを上記プリンターに装着した。 ・・・略・・・ 【0356】 【表3】 」 オ 【0356】の【表3】(上記エ)の記載からみて、感光体の感光層表面の弾性変形率及びユニバーサル硬度は、それぞれ、実施例8において、44.2%、183N/mm^(2)、実施例9において、43.9%、186N/mm^(2)である。 (4)上記(1)ないし(3)の周知例1ないし3の記載からみて、 「感光体の最表面層において、感光体の表面への傷の発生や現像剤等の融着を抑制するために、弾性変形率を45%以上60%以下とし、ユニバーサル硬度を150N/mm^(2)以上200N/mm^(2)以下にすること。」は、本願出願前に周知(以下「周知技術」という。)であったと認められる。 5 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「トナー3」、「結晶性ポリエステル」、「パラフィンワックス」及び「画像形成装置」は、それぞれ、本願発明の「静電荷像現像用トナー」、「結晶性ポリエステル樹脂」、「ワックス」及び「画像形成装置」に相当する。 (2)引用発明は、「トナー3」(本願発明の「静電荷像現像用トナー」に相当。以下「」に続く()内の用語は対応する本願発明の用語を示す。)を適用した「画像形成装置」(画像形成装置)であり、該画像形成装置が電子写真感光体を有することは技術常識であるから、引用発明は、本願発明の「少なくとも静電荷像現像用トナーと電子写真感光体を有する画像形成装置」の構成を備える。 (3)ア 引用発明において、「結着樹脂3」は、不飽和ポリエステル樹脂P-1:75質量部と、ビニル系モノマーとして、スチレン:18質量部、アクリル酸n-ブチル:6.5質量部、マレイン酸モノn-ブチル:0.5質量部、開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)へキシン-3(10時間半減期温度128℃):0.08質量部を混合し、このビニル系モノマー/ポリエステル樹脂混合物を120℃で20時間かけてビニル系モノマーの重合転化率が96%になるまで重合後、さらに150℃に温度を上げて5時間保持して未反応のビニル系モノマーを重合させて得られたものであるから、引用発明の「結着樹脂3」は、本願発明の「ビニル系樹脂で変性されたポリエステル樹脂」に相当する。 イ 引用発明の「結晶性ポリエステル」(結晶性ポリエステル樹脂)が「重合によってできた化合物」すなわち「重合体」であることは、技術常識である(引用例2の【0217】及び【0219】(上記3(5))からも理解できる事項である。)。また、引用発明の「結着樹脂3」も「重合体」であるから、引用発明の「結着樹脂3」及び「結晶性ポリエステル」は、それぞれ、「第1の重合体」及び「第2の重合体」と区別して称することができる。 ウ 上記ア及びイからみて、引用発明は、本願発明の「トナーは少なくとも第1の重合体と第2の重合体を含有するトナーであ」るという構成を備えるものである。 (4)引用発明の「トナー3」(静電荷像現像用トナー)は、「結着樹脂3」(ビニル系樹脂で変性されたポリエステル樹脂)が100質量部、「パラフィンワックス」(ワックス)が4質量部及び「結晶性ポリエステル3」(結晶性ポリエステル樹脂)が7質量部からなる原材料を混練し、得られた混練物を冷却しカッターミルで粗粉砕した後、得られた粗粉砕物を微粉砕し、分級して、トナー粒子を得て、このトナー粒子に、ヘキサメチルジシラザンで処理した負帯電性疎水性シリカを外添混合して得られているのであるから、引用発明の「トナー3」(静電荷像現像用トナー)は、本願発明の「少なくともビニル系樹脂で変性されたポリエステル樹脂100質量部に対して、結晶性ポリエステル樹脂を5?40質量部、及びワックスを3?20質量部含有する」という構成を備えている。 (5)上記(1)ないし(4)から、本願発明と引用発明とは、 「少なくとも静電荷像現像用トナーと電子写真感光体を有する画像形成装置において、該トナーは少なくとも第1の重合体と第2の重合体を含有するトナーであって、該トナーが少なくともビニル系樹脂で変性されたポリエステル樹脂100質量部に対して、結晶性ポリエステル樹脂を5?40質量部、及びワックスを3?20質量部含有する画像形成装置。」の点で一致し、次の点で相違する。 相違点1: 本願発明では、第1の重合体を海とし、該第1の重合体中に結晶性を有する結晶性ポリエステルを主体とする第2の重合体が分散する海島構造を有するのに対し、 引用発明では、第1の重合体を海とし、該第1の重合体中に結晶性を有する結晶性ポリエステルを主体とする第2の重合体が分散する海島構造を有することが明らかでない点。 相違点2: 本願発明では、感光体の最表面層の弾性変形率が42%以上48%以下、ユニバーサル硬度が180N/mm^(2)以上225N/mm^(2)以下であるのに対し、 引用発明では、感光体の最表面層の弾性変形率及びユニバーサル硬度が明らかでない点。 6 判断 (1)上記相違点1について検討する。 ア 引用例2には、【0033】ないし【0035】(上記3(2))に「ハイブリッド樹脂中の酸基や水酸基が、分子間でエステル結合を形成することによりゲル化が促される。・・・ハイブリッド樹脂により形成されるゲル成分は、・・・、ハイブリッド化していない結晶性ポリエステル・・・をゲル成分内部に多量に取り込むことができる。・・・本発明者らは特定の結晶性ポリエステルをゲル成分内部に取り込ませることにより、後述する理由で優れた迅速定着性を達成することが可能になることを見出した。また同時に、結晶性ポリエステルはトナー製造条件によっては、結着樹脂に相溶しやすく、保存性や粉砕性を低下させる場合があったり、意図する効果が得られにくい場合があったが、本発明におけるゲル成分内部に取り込ませることにより、相溶化を抑制することが可能であることを見出した。」と、【0149】(上記3(4))に「結晶性ポリエステルは融点付近の温度領域ではワックス、結着樹脂のいずれとも相溶せず、定着時に熱を受けた結晶性ポリエステルは溶融してドメインとして存在すると考えられる。」と記載されている。 イ 「ドメイン」なる語が「領域」を意味することを考慮すれば、上記アにおいて、引用例2の結晶性ポリエステルのドメインは、結着樹脂を「海」とした場合の「島」といえるところ、前記結晶性ポリエステルが結着樹脂と相溶しないことを考慮すれば、「海」である結着樹脂中に「島」が1つだけ存在するということは引用発明の製造工程からみて考えられず、「島」が複数存在することは当業者に自明である。 ウ 上記アからみて、引用発明において、結晶性ポリエステルは、ハイブリッド樹脂である結着樹脂のゲル成分内部に取り込まれ、且つ、前記結着樹脂と相溶せず、特に融点付近の結晶性ポリエステルは溶融しても「ドメイン」(島)として存在するものといえるから、前記結晶性ポリエステルは、溶融しない状態でも「ドメイン」(島)として存在することは明らかである。 エ 上記イ及びウからみて、引用発明において、結晶性ポリエステルの「島」は、「海」である結着樹脂中に複数存在するのであれば、「海」である結着樹脂中に分散しているといえるから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。 オ あるいは、引用例2の【0039】(上記3(2))には、「テトラヒドロフラン不溶分が50質量%より多いと、着色剤などの材料をトナー中に均一に分散させることが難しくなり、トナーの帯電性が悪化し、カブリや画像濃度の低下が生じやすい。」と記載されているから、引用例2には、トナー中の材料は均一に分散されていた方が好ましいことが開示されている。さらに、引用例2の【0041】(上記3(2))には、「結晶性ポリエステルがゲル成分内部に入ることにより、ゲル構造が広がり、ゲルの柔軟性が増すため定着性が大幅に向上すると考えられる。同時に、この結晶性ポリエステルによるワックスの押出し効果により、トナーの離型性も向上し、耐高温オフセット性も向上する。」と記載されているから、引用例2に記載された結晶性ポリエステルは、ゲル構造の広がりやワックスの押し出し等を生じさせるためのものと理解できる。そうしてみると、引用発明において、結晶性ポリエステルを結着樹脂中に分散させるようになすこと、すなわち、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは当業者であれば容易に想到し得ることである。 (2)上記相違点2について検討する。 ア 引用例2には、【0039】及び【0041】(上記3(1))、【0146】(上記3(4))に、カブリが好ましくなく、また、トナーの離型性を向上させることが好ましいことが記載されている。また、カブリ及びトナーの離型性が感光体へのトナーの融着に関係があることは技術常識である。そうしてみると、引用発明の画像形成装置において、感光体に対してトナーが融着しないようにすることは、当業者が当然考慮すべき課題である。 イ 上記アを踏まえると、引用発明において、感光体に対してトナーが融着しないようにするために、トナーの特性だけでなく、感光体自体の特性も考慮することは当業者に自明な事項であるから、現像剤等の融着を抑制するために、感光体の最表面層において、弾性変形率を45%以上65%以下とし、ユニバーサル硬度を150N/mm^(2)以上200N/mm^(2)以下にした周知技術(上記4(4))を引用発明に適用することは当業者が適宜なし得たことである。 ウ 本願明細書には、次の記載がある。 (ア)「【0096】 次に、本発明に用いられる電子写真感光体に関して説明する。 <感光体最表層の機械物性> 本発明の画像形成装置に用いられる電子写真感光体の最表層は、トナーの固着(フィルミング)を防止する観点から、弾性変形率の下限は、好ましくは40%以上であり、より好ましくは42%以上であり、更に好ましくは44%以上である。弾性変形率の上限は特に制限が無い場合も多いが、好ましくは70%以下、より好ましくは65%以下、更に好ましくは60%以下である。弾性変形率が高過ぎると、感光層の摩耗量が少な過ぎ、感光層の劣化部分の除去、リフレッシュがされ難くなるため、画像特性、電気特性が経時的に悪化することがある。 【0097】 本発明に用いられる海島構造を有するトナーの成分が感光体にフィルミングした際に、付着物を剥離して顕微鏡観察しても、感光層表面に傷は見当たらないことが多い。そのような場合、トナー成分の付着は、感光層が塑性変形し、トナーとの接触面積が大きくなることによってファンデルワールス力のような非静電的な付着力が大きくなり、転写による静電的剥離力、クリーニングブレード等による非静電的剥離力を上回るため結果として感光体表面に残留し、画像欠陥を継続的に引き起こすと考えられる。本発明に用いられる海島構造を有するトナーは、貯蔵弾性率が高く、その分感光体は十分な弾性変形率が無いと、繰返し疲労時に塑性変形し、上述のフィルミングを発生し易くなると考えられる。特に、感光体の弾性変形率が40%より小さい場合、フィルミングが発生し易くなる虞がある。なお、トナー成分が感光体上に持続的に付着するフィルミングに至る前に、転写プロセス後に転写されずに感光体上に残る、いわゆる転写残トナーが増加することがある(PCかぶりと呼称)。このような残留トナーが増えると、潜在的にフィルミングへと進展する可能性が大きくなると推定される。感光体の弾性変形率を大きくすることによって、上述の場合と同様に非静電的な付着を減少させ、そのような転写残トナーを減らす効果が有ると考えられる。 【0098】 また、トナー成分による傷発生を予防する観点から、最表面のユニバーサル硬度は、下限が通常、180N/mm^(2)以上であり、195N/mm^(2)以上が好ましく、より好ましくは210N/mm^(2)以上である。表面硬度が180N/mm^(2)より小さい場合、感光体に傷が入りやすくなる恐れがある。また、顕微鏡観察で見られないような傷は無くても、例えばトナーの外添剤が感光体にめり込むようなことが起きれば、フィルミングのきっかけになる可能性があるため、表面硬度は高い方が好ましい。一方、表面硬度が高過ぎると、感光層の劣化部分の除去、リフレッシュがされ難くなって画像特性、電気特性が経時的に悪化したり、クリーニングブレードの劣化を促進する可能性があるため、上限は、通常、300N/mm^(2)以下であり、好ましくは290N/mm^(2)以下、より好ましくは280N/mm^(2)以下である。」 (イ)「【0225】 【表3】 ・・・略・・・ 【0235】 <フィルミングの測定方法> 画像形成装置を用いて、印字後の、感光体のトナーフィルミング、印字紙上にフィルミングによる画像地汚れを観察して評価した。 ◎(良好) :感光体、印字紙上のいずれにもフィルミング無し ○(わずかに発生):感光上にはわずかにフィルミングが発生するが、印字紙上の地汚れ無し ×(発生) :フィルミングにより印字紙上に地汚れが発生 ・・・略・・・ 【0239】 【表5】 」 エ 上記ウ(ア)の記載のように、本願明細書では、感光体最表面において、弾性変形率の上限を「更に好ましくは60%」とし、ユニバーサル硬度の上限を「より好ましくは280N/mm^(2)」とし、各上限をそのようにしたことで従来の課題を解決できていたものである。これに対して、本願発明では、弾性変形率の上限が48%、ユニバーサル硬度の上限が225N/mm^(2)以下となっている。しかしながら、本願明細書には、弾性変形率及びユニバーサル硬度の上限を、それぞれ、48%及び225N/mm^(2)とすることが、なお一層好ましいことは開示されていない。すなわち、本願発明は、この各上限にしたことにより改めて従来の課題を解決したものではない。 オ 上記ウ(イ)の特に表5の記載からみて、本願発明の範囲内である感光体P1(弾性変形率45%、ユニバーサル硬度185N/mm^(2))を用いた実施例7と、本願発明の範囲外である感光体P5(弾性変形率40%、ユニバーサル硬度198N/mm^(2))及びP6(弾性変形率46%、ユニバーサル硬度174N/mm^(2))をそれぞれ用いた実施例13及び14とをフィルミングの評価で比較すると、いずれも評価は同じ「○」である。このように、本願発明の範囲内である実施例7は、本願発明の範囲外である実施例13及び14に比べて格別顕著な効果を奏するものとはいえない。そして、上記エを踏まえれば、本願発明の感光体自体において、最表面層の弾性変形率が42%以上48%以下、ユニバーサル硬度が180N/mm^(2)以上225N/mm^(2)以下である、各範囲の内外で効果に顕著な差は見出せず、各境界値に臨界的意義が見出せない。 カ 引用発明のトナーは、「定着性、耐高温オフセット性、現像性及び耐ブロッキング性に優れたトナー」(【0026】)であるから、周知の感光体と組み合わせて、良好な結果が得られると期待される。また、周知技術の適用の際に、最表面層の弾性変形率を42%以上48%以下、ユニバーサル硬度を180N/mm^(2)以上225N/mm^(2)以下となすことは、周知技術の範囲内での単なる設計値の選択にすぎない。加えて、上記アないしオで述べたとおり、本願発明の数値範囲の各境界値に、臨界的意義を見出せない。したがって、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは当業者が周知技術に基づいて適宜なし得たことである。 キ なお、周知例3には、具体例として、感光体の感光層表面の弾性変形率及びユニバーサル硬度が、それぞれ、44.2%及び183N/mm^(2)である実施例8、43.9%及び186N/mm^(2)である実施例9が記載されており(上記4(3)オ)、これらの弾性変形率及びユニバーサル硬度は、本願発明で特定された数値範囲の内にある。 (3)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から当業者が予測することができた程度のことである。 (4)したがって、本願発明は、当業者が引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。 7 むすび 本願発明は、当業者が引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-06-13 |
結審通知日 | 2016-06-14 |
審決日 | 2016-06-27 |
出願番号 | 特願2010-215541(P2010-215541) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G03G)
P 1 8・ 113- WZ (G03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石附 直弥 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
鉄 豊郎 河原 正 |
発明の名称 | 画像形成装置およびプロセスカートリッジ |