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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21D
管理番号 1317877
審判番号 不服2015-11635  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-19 
確定日 2016-08-12 
事件の表示 特願2010-115639「ハイドロフォーム成形品の製造装置および製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月1日出願公開、特開2011-240381〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成22年5月19日の出願であって、主な手続は以下のとおりである。
平成26年 1月15日付け:拒絶理由通知
平成26年 3月14日 :意見書及び手続補正書の提出
平成26年 8月15日付け:拒絶理由通知(最後)
平成26年10月20日 :意見書及び手続補正書の提出
平成27年 3月13日付け:補正の却下の決定及び拒絶査定
平成27年 6月19日 :本件審判請求及びこれと同時に手続補正
平成27年11月 9日付け:当審からの拒絶理由通知
平成28年 1月 7日 :意見書及び手続補正書の提出

そして、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成28年1月7日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1の記載は、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
天井面および床面を有し、上成形型および下成形型を有するとともに内部に素材を配置する成形型を、前記天井面および床面により構成される空間に、前記上成形型および下成形型の型締め方向への隙間を有さずに、収容するための、幅方向の寸法よりも高さ方向の寸法が小さい成型型収容部と、該成形型収容部への前記成形型の搬入、および前記成形型収容部からの前記成形型の搬出を行うための開口部とを有するフレームを備える、金属板を素材とするハイドロフォーム成形品の製造装置であって、
前記天井面は、その高さが前記開口部から前記成形型収容部へ向かう方向につれて低くなる傾斜平面であること、および/または
前記床面は、その高さが前記開口部から前記成形型収容部へ向かう方向につれて高くなる傾斜平面であること、および
前記フレームは、前記成形型を挿入する方向の垂直断面が閉断面であるとともに、ハイドロフォーム加工時における前記成形型の型開きを剛性により解消する矩形フレームであること
を特徴とするハイドロフォーム成形品の製造装置。」(以下「本願発明」という)

2 当審が通知した拒絶の理由
一方、当審が平成27年11月9日付けで通知した拒絶の理由の「理由2」の概要は、以下のとおりである。

本件出願の請求項1?8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特公昭46-10660号公報
刊行物2:特開昭56-148421号公報
刊行物3:特開2002-346797号公報(周知文献)
刊行物4:特開平11-309521号公報(周知文献)

3 刊行物の記載事項
(1)当審が通知した上記拒絶の理由で引用した刊行物1(特公昭46-10660号公報)には、「バルジ加工装置」について、図とともに次の事項が記載されている。

a 「この発明は、型体内へ作動油を供給すると、型体における成型孔の基端部に内挿してある圧子体が、被加工用パイプの基端部へしつかりと嵌合するとともに、パイプ基端縁をも押圧し、もつてパイプ内に圧入された作動油とにより、パイプに正確な膨出成型を施すことができるようにしたバルジ加工装置に関する。」(1頁1欄14?20行)

b 「1は横方向に2分された上型1aと下型1bを適宜締め合わせてなる型体で、その対向面に刻設した軸線方向の各溝で、被加工用パイプ2を挿入するための成型孔19を形成するようにしてあり、成型孔19の基端入口(図示で左端)は、成型孔19よりも小径の連通孔4で油圧発生装置5におけるピストン6を備えた油圧力発生室7へ連通してある。」(1頁1欄22?29行)

c 「35は、型体1の先細りテーパー外側1へ嵌合して、上下型体1a,1bを締着するテーパー状嵌合孔36を有する外筒で油圧装置により水平移動させられる摺動杆37によつて、型体1へ嵌脱するようにしてある。さらに型体1は、下型1bを油圧発生装置5の一側に固定し、上型1aの基端部を、油圧発生装置5へ水平ピン38で軸着して、上型1aを軸38まわりに上方へ回動させることにより開成できるようにしてある。」(2頁3欄4?12行)

d 「まず上型1aを取り外し、下型1bの成型孔用溝内へ被加工用パイプ2を入れる。
この際パイプ2の基端を、圧子体8の嵌合口10へ若干挿入しておき、先端を遮壁部或は前記先端圧子体25で受止させる。このようにしておいて上型1aをかぶせ、締着用外筒35により、上下の型1a,1bを締め合わせる。
次いで油圧発生装置5の開閉弁32,34を開いて給油管33から油圧発生室7、連通孔4へと作動油を送入する。」(2頁3欄18?27行)

e 「すると、パイプ2は、内部の作動油の圧力によつて、成型孔19に応じた所要の膨出成型がなされる。
この際、パイプ2の基端縁には圧子体8における嵌合口10が嵌合しており、しかも嵌合口10の内底面11´が、パイプ2の基端縁を押圧しているので、パイプ2の膨出成型部を、型の膨出型部39の内側へしつかりと密着させて、型に応じた正確な膨出成型することができるのである。
なお膨出成型後は、復帰用給油管23より、圧子体8の小径外側部18と成型孔3内側間の前記空室aへ、作動油を供給することにより、圧子体8の外側段部17端面に掛ると作動油の圧力で、圧子体8を戻し、あとはパイプ2内等から作動油を抜き、外筒35を外してから上型1aを開いて、成型されたパイプを取り出す。」(2頁4欄15?30行)

(2)上記記載事項cの「35は、型体1の先細りテーパー外側1へ嵌合して、上下型体1a,1bを締着するテーパー状嵌合孔36を有する外筒」からみて、刊行物1に記載された「締着用外筒35」は、外形は不明であるものの、嵌合孔である内部空間を有し、該空間が上下型体とそれぞれ接する「上面および下面」を有していることは自明である。
そうすると、上記記載事項cの「35は、型体1の先細りテーパー外側1へ嵌合して、上下型体1a,1bを締着するテーパー状嵌合孔36を有する外筒で油圧装置により水平移動させられる摺動杆37によつて、型体1へ嵌脱するようにしてある。」、上記記載事項dの「まず上型1aを取り外し、下型1bの成型孔用溝内へ被加工用パイプ2を入れる。・・・このようにしておいて上型1aをかぶせ、締着用外筒35により、上下の型1a,1bを締め合わせる。」、上記記載事項eの「・・・外筒35を外してから上型1aを開いて、成型されたパイプを取り出す。」及び図からみて、刊行物1には「上面および下面を有し、上型および下型を有するとともに内部に被加工用パイプを配置する型体を、前記上面および下面により構成される空間に、前記上型および下型の型締め方向への隙間を有さずに、収容するためのテーパー状嵌合孔と、該テーパー状嵌合孔へ前記型体を嵌め合せ、および前記テーパー状嵌合孔から前記型体の嵌め外しを行うための開口部とを有する締着用外筒を備えるバルジ加工品の製造装置」が記載されている。

(3)刊行物1に記載されたような「先細りテーパ」は、テーパ部分が「傾斜面」となることを意味しているから、上記記載事項cの「35は、型体1の先細りテーパ外側1へ嵌合して、上下型体1a,1bを締着するテーパー状嵌合孔36を有する外筒」及び図からみて、刊行物1には「上面は、その高さが開口部からテーパー状嵌合孔へ向かう方向につれて低くなる傾斜曲面であること、および下面は、その高さが前記開口部から前記テーパー状嵌合孔へ向かう方向につれて高くなる傾斜曲面である」ことが記載されている。

(4)刊行物1に記載された「締着用外筒35」のような「筒」が、軸方向に直交する断面が閉断面を形成していることは自明であり、上記記載事項dの「締着用外筒35により、上下の型1a,1bを締め合わせる。」からみて、刊行物1には「締着用外筒は、型体を挿入する方向の垂直断面が閉断面であるとともに、バルジ加工時における前記型体の型開きを剛性により解消する締着用外筒である」ことが記載されている。

(5)上記(1)の記載事項及び上記(2)?(4)を総合すると、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「上面および下面を有し、上型および下型を有するとともに内部に被加工用パイプを配置する型体を、前記上面および下面により構成される空間に、前記上型および下型の型締め方向への隙間を有さずに、収容するためのテーパー状嵌合孔と、該テーパー状嵌合孔へ前記型体を嵌め合せ、および前記テーパー状嵌合孔から前記型体の嵌め外しを行うための開口部とを有する締着用外筒を備えるバルジ加工品の製造装置であって、
前記上面は、その高さが前記開口部から前記テーパー状嵌合孔へ向かう方向につれて低くなる傾斜曲面であること、および
前記下面は、その高さが前記開口部から前記テーパー状嵌合孔へ向かう方向につれて高くなる傾斜曲面であること、および
前記締着用外筒は、前記型体を挿入する方向の垂直断面が閉断面であるとともに、バルジ加工時における前記型体の型開きを剛性により解消する締着用外筒である
バルジ加工品の製造装置。」(以下「引用発明」という)

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「上型」、「下型」、「型体」及び「テーパー状嵌合孔」が、その機能・構成からみて、それぞれ、本願発明の「上成形型」、「下成形型」、「成形型」及び「成形型収容部」に相当する。
また、引用発明の「被加工用パイプ」は、成形を行うための「素材」である。

(2)本願発明の「天井面」及び「床面」は、それぞれ、内部空間の「上面」及び「下面」の一種であるといえるから、引用発明の「上面および下面を有し、上型および下型を有するとともに内部に被加工用パイプを配置する型体を、前記上面および下面により構成される空間に、前記上型および下型の型締め方向への隙間を有さずに、収容するためのテーパー状嵌合孔」と、本願発明の「天井面および床面を有し、上成形型および下成形型を有するとともに内部に素材を配置する成形型を、前記天井面および床面により構成される空間に、前記上成形型および下成形型の型締め方向への隙間を有さずに、収容するための、幅方向の寸法よりも高さ方向の寸法が小さい成型型収容部」とは、「上面および下面を有し、上成形型および下成形型を有するとともに内部に素材を配置する成形型を、前記上面および下面により構成される空間に、前記上成形型および下成形型の型締め方向への隙間を有さずに、収容するための成型型収容部」という点で共通する。

(3)引用発明の「締着用外筒」を水平方向に移動させることで「テーパー状嵌合孔へ型体を嵌め合せ、および前記テーパー状嵌合孔から前記型体の嵌め外しを行う」ことは、本願発明の「フレーム」において「成形型収容部への成形型の搬入、および前記成形型収容部からの前記成形型の搬出を行う」ことに相当するものと認められる。
また、引用発明の「締着用外筒」と本願発明の「フレーム」とは、「中空構造物」である点で共通する。

(4)引用発明の「テーパー状嵌合孔」の「上面」及び「下面」が「傾斜曲面」であることと、本願発明の「成形型収容部」の「天井面」及び「床面」が「傾斜平面」であることとは、両者とも「傾斜面」である点で共通する。

(5)引用発明の「バルジ加工」と本願発明の「ハイドロフォーム加工」が、共に流体を用いた「成形加工」であり、鋼材等の伸びの良い金属材料の成形を行うことは、当業者にとって技術常識であって、引用発明の「成形品」に「金属を素材とする」ものが含まれていることは自明である。

(6)そうすると、両者は、以下の点で一致し、また相違する。
<一致点>
「上面および下面を有し、上成形型および下成形型を有するとともに内部に素材を配置する成形型を、前記上面および下面により構成される空間に、前記上成形型および下成形型の型締め方向への隙間を有さずに、収容するための成型型収容部と、該成形型収容部への前記成形型の搬入、および前記成形型収容部からの前記成形型の搬出を行うための開口部とを有する中空構造物を備える、金属を素材とする成形品の製造装置であって、
前記上面は、その高さが前記開口部から前記成形型収容部へ向かう方向につれて低くなる傾斜面であること、および
前記下面は、その高さが前記開口部から前記成形型収容部へ向かう方向につれて高くなる傾斜面であること、および
前記中空構造物は、前記成形型と相対移動する方向の垂直断面が閉断面であるとともに、成形加工時における前記成形型の型開きを剛性により解消する中空構造物である
成形品の製造装置。」である点。

<相違点1>
「中空構造物」が、本願発明では「平面である」「天井面および床面」を有する「矩形フレーム」であるのに対して、引用発明では「曲面である」「上面および下面」を有する「締着用外筒」である点。

<相違点2>
「成形品」が、本願発明では「金属板を素材とするハイドロフォーム成形品」であるのに対して、引用発明では「被加工用パイプを素材とするバルジ加工品」である点。

<相違点3>
「成形型収容部」が、本願発明では「幅方向の寸法よりも高さ方向の寸法が小さい」ものであるのに対して、引用発明ではそのような構成とされているか不明である点。

5 当審の判断
(1)<相違点1>について
当審が通知した上記拒絶の理由で周知技術を示す文献として引用した刊行物3(特開2002-346797号公報)に、「【0013】図4に示す第2の実施形態では、装置フレーム1が中央に成形型挿入孔5を持つ形状をしており、上金型6と下金型7とからなる成形型2を挿入して液圧成形が行われる。・・・【0014】そこでこの実施形態では、装置フレーム1を厚さと強度レベルの異なる5枚の鋼板3を積層することにより構成している。・・・」と記載されているように、「バルジ成形装置やハイドロフォーム装置において、製造コストを抑制する等のために、中央に成形型挿入孔を持つ形状の積層矩形フレームを採用する」ことは、従来周知の事項であるといえる。そして、該「成形型挿入孔」は、本願発明の「成型型収容部」に相当し、「平面である」「天井面および床面により構成される空間」を有している。
そうすると、引用発明において、一般的な課題である「製造コストを抑制する等」のために、上記周知の技術を適用して、相違点1における本願発明の構成とすることは、十分動機付けが存在し、何ら困難性・阻害要因が存在せず、当業者が容易に想到し得る事項である。

(2)<相違点2>について
当審が通知した上記拒絶の理由で周知技術を示す文献として引用した刊行物4(特開平11-309521号公報)に、「【0012】バルジ成形方法としては、成形型内に配置した筒形部材内に油圧等による内圧を加え、製品の外形に対応した形状に常温でバルジ成形する。または、このように筒形部材内に油圧等による内圧を加えるとともに、筒形部材の長手方向両端部から圧力を付加する、軸圧を加えて成形するバルジ成形方法、いわゆるハイドロフォーム加工(成形)によって成形することができる。」と記載されているように、「ハイドロフォーム成形」とは「加工筒形部材内に油圧等による内圧を加えるとともに、筒形部材の長手方向両端部から圧力を付加する成形方法」であることは従来周知の事項である。
一方、上記記載事項aの「圧子体が、被加工用パイプの基端部へしつかりと嵌合するとともに、パイプ基端縁をも押圧し、もってパイプ内に圧入された作動油とにより、パイプに正確な膨出成型を施す」という記載からみて、引用発明においても、膨出成型時に「被加工用パイプが長手方向両端部から圧力を付加されている」と解される。そうすると、引用発明の「バルジ加工品」は、本願発明の「ハイドロフォーム成形品」と同様のものといえる。
また、ハイドロフォーム加工において、金属管だけでなく金属板を素材にするものも周知であり(例えば、特開2007-61829号公報の段落【0006】の記載を参照)、引用発明において、上記周知の技術を適用して、相違点2における本願発明の構成とすることは、十分動機付けが存在し、何ら困難性・阻害要因が存在せず、当業者が容易に想到し得る事項である。

(3)<相違点3>について
「成形型収容部」の形状は、一般的に成形型の形状に応じて適宜選択・設計されるものと認められるが、「幅方向の寸法よりも高さ方向の寸法が小さい」形状の成形型を用いることは、例えば、特開2007-61829号公報(例えば、段落【0028】や図5(b)、(c)の記載を参照)にも示されているように、ハイドロフォーム加工においては従来周知の事項であり、引用発明の成形加工に用いる成形型として、上記従来周知の事項を適用することにも格別困難性があるものとは認められない。

(4)効果について
本願発明が奏する効果も、引用発明及び従来周知の事項から、当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものではない。

6 むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、拒絶をすべきものである。
よって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-07 
結審通知日 2016-06-14 
審決日 2016-06-27 
出願番号 特願2010-115639(P2010-115639)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宇田川 辰郎水野 治彦  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 渡邊 真
栗田 雅弘
発明の名称 ハイドロフォーム成形品の製造装置および製造方法  
代理人 特許業務法人ブライタス  

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