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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1317958
審判番号 不服2015-5979  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-01 
確定日 2016-08-10 
事件の表示 特願2012-500247「複合歯車ブランクおよび複合歯車ブランクの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月23日国際公開、WO2010/106120、平成24年 9月10日国内公表、特表2012-520979〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、2010年3月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年3月17日、ヨーロッパ特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成25年12月13日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成26年6月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月28日付け(発送日:同年12月2日)で拒絶査定がなされ、平成27年4月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成26年6月20日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
複合歯車ブランクであって、
硬質のセンターピース(2)とプラスチック材料で作られた外側部(8)とを備え、前記センターピースは互いに平行な2つの円板面を有する円盤形であり、前記外側部は前記センターピースの周囲面(6)の周りに成型されており、
前記複合歯車ブランクは下記の特性を有すること、すなわち
a)25℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度S_(N)が少なくとも17MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度S_(S)が少なくとも16MPaであり、
かつ、
b)120℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度S_(N)が少なくとも11MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度S_(S)が少なくとも16MPaであること
を特徴とし、
前記垂直接着強度S_(N)は5mm/分の一定速度で半径方向外向きの荷重をかけることによって決定され、前記剪断接着強度S_(S)は、
i)3rad/分の一定速度で接線方向荷重をかけることによって得られる接線方向接着強度S_(T)、および、
ii)1mm/分の一定速度で軸方向荷重をかけることによって得られる軸方向接着強度S_(A)
のうちの低い方の値を選択することによって決定される、複合歯車ブランク。」

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特許第4182978号公報(以下、「刊行物」という。)には、「電動パワーステアリング装置及びそれに使用する樹脂歯車」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア.「【0001】
この発明は、電動パワーステアリング装置、特に樹脂歯車をパワーアシスト部を構成する歯車減速機構に使用した電動パワーステアリング装置、及びそれに使用する動力伝達に適した樹脂歯車に関する。」

イ.「【0036】
図3は、この発明の実施の形態のウォーム歯車減速機構30のウォームホイール31及びウォーム32の構成を示す斜視図で、ウォームホイール31は、金属製のハブ、即ち芯金42の外周面に、適宜クロスローレット加工を施すなどの加工を行い、その加工面に直径5?9μmの範囲のガラス繊維を10?50重量%含有するポリアミド樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物からなり、その外周端面にギア歯44を形成し樹脂部43を一体形成して構成されている。」

ウ.「 【0038】
[ウォームホイールの材料]
ウォームホイール31の樹脂部43は、耐疲労性に優れるポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46をベース樹脂とすることが好ましい。ポリアミド樹脂の分子量は、ガラス繊維含有状態で射出成形できる範囲、具体的には数平均分子量で13000?28000、より好ましくは、耐疲労性、成形性を考慮すると、数平均分子量で18000?26000の範囲である。
【0039】
数平均分子量が13000未満の場合は分子量が低すぎて耐疲労性が悪く、実用性が低い。それに対して数平均分子量が28000を越える場合は、ガラス繊維の実用的な含有量15?35重量%を含ませると、溶融粘度が高くなりすぎ、樹脂歯車を精度良く射出成形で製造することが難しくなり、好ましくない。」

エ.「【0056】
また、接着力の増加を含めて、芯金42と樹脂部43との密着性の向上と芯金42との境界部の滑り抜け防止を目的にして、芯金42の外周面には、予めショットブラストやローレット加工等を施しておいてもよく、特にローレット加工が好ましい。ローレット加工のV字状の溝の深さは0.2?0.8mm、特に0.3?0.7mmが適当である。」

オ.「【0069】
a.樹脂ギア部
(1)構成1
芯金:溝の深さ0.5mmのローレット加工を施した外径65mm、幅16mmのスチール鋼(材料記号S45C)
樹脂:ポリアミド6(直径6μmのガラス繊維(GF)を30重量%含有、宇部興産(株)製UBEナイロン(登録商標)、ヨウ化銅系熱安定剤含有)、直径6μmのガラス繊維とは、平均直径が概ね6μmのガラス繊維のことであり、直径で5?7μmの範囲のガラス繊維が含まれる
樹脂部成形:芯金をコアにしてインサート成形
成形時樹脂部外径形状:切削代を残したはすば形状を有し、内径64mm、外径83mm、幅15.5mm
成形後、樹脂部の歯を更に切削加工し、最終的にウォームホイール形状に仕上げた。」

カ.記載事項オ.における「樹脂:ポリアミド6(直径6μmのガラス繊維(GF)を30重量%含有、宇部興産(株)製UBEナイロン(登録商標)、ヨウ化銅系熱安定剤含有)、直径6μmのガラス繊維とは、平均直径が概ね6μmのガラス繊維のことであり、直径で5?7μmの範囲のガラス繊維が含まれる 樹脂部成形:芯金をコアにしてインサート成形」との記載によれば、芯金をコアにして樹脂をインサート成形したものが作成されることが分かる。

キ.記載事項イ.における「金属製のハブ、即ち芯金42の外周面に」との記載及び記載事項オ.における「芯金:溝の深さ0.5mmのローレット加工を施した外径65mm、幅16mmのスチール鋼(材料記号S45C)」との記載並びに図3によれば、芯金42は、外径65mm、幅16mmであって、互いに平行な2つの円板面を有する円盤形であることが分かる。

ク.記載事項イ.における「ウォームホイール31は、金属製のハブ、即ち芯金42の外周面に、適宜クロスローレット加工を施すなどの加工を行い、その加工面に直径5?9μmの範囲のガラス繊維を10?50重量%含有するポリアミド樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物からなり」との記載及び記載事項オ.における「樹脂部成形:芯金をコアにしてインサート成形」との記載によれば、樹脂部43は芯金42の外周面の周りに成型されていることが分かる。

上記記載事項、認定事項及び図示内容を総合して、本願発明に則って整理すると、刊行物には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「芯金をコアにして樹脂をインサート成形したものであって、
金属製の芯金42と樹脂部43とを備え、前記芯金42は互いに平行な2つの円板面を有する円盤形であり、前記樹脂部43は前記芯金42の外周面の周りに成型されている、芯金をコアにして樹脂をインサート成形したもの。」

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「金属製」は、その技術的意義及び機能からみて、本願発明における「硬質」に相当し、以下同様に、「芯金42」は「センターピース」に、「樹脂部43」は「プラスチック材料で作られた外側部」及び「外側部」に、「外周面」は「周囲面」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「芯金をコアにして樹脂をインサート成形したもの」は、その後の工程で、切削加工されウォームホイール形状に仕上げられるものであるから、本願発明における「複合歯車ブランク」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「複合歯車ブランクであって、
硬質のセンターピースとプラスチック材料で作られた外側部とを備え、前記センターピースは互いに平行な2つの円板面を有する円盤形であり、前記外側部は前記センターピースの周囲面の周りに成型されている、複合歯車ブランク。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本願発明は、「複合歯車ブランクは下記の特性を有すること、すなわち
a)25℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度S_(N)が少なくとも17MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度S_(S)が少なくとも16MPaであり、
かつ、
b)120℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度S_(N)が少なくとも11MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度S_(S)が少なくとも16MPaであることを
特徴とし、
前記垂直接着強度S_(N)は5mm/分の一定速度で半径方向外向きの荷重をかけることによって決定され、前記剪断接着強度S_(S)は、
i)3rad/分の一定速度で接線方向荷重をかけることによって得られる接線方向接着強度S_(T)、および、
ii)1mm/分の一定速度で軸方向荷重をかけることによって得られる軸方向接着強度S_(A)
のうちの低い方の値を選択することによって決定される」ものであるのに対し、引用発明は、これらの特性を有するかどうかが明らかでない点(以下、「相違点」という。)。

4.当審の判断
相違点について検討する。
本願発明で特定される特性は、「外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度S_(N)」、「外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度S_(S)」、「外側部とセンターピースとの間の接線方向接着強度S_(T)」及び「外側部とセンターピースとの間の軸方向接着強度S_(A)」の大きさにより決定されるものであって、これらの特性を決定するための接着強度は、いずれも外側部(引用発明における「樹脂部43」に相当。)とセンターピース(引用発明における「芯金42」に相当。)との間の接着強度である。
一方、引用発明は、記載事項エ.における「また、接着力の増加を含めて、芯金42と樹脂部43との密着性の向上と芯金42との境界部の滑り抜け防止を目的にして、芯金42の外周面には、予めショットブラストやローレット加工等を施しておいてもよく」との記載から、樹脂部43と芯金42との接着強度を持たせるという課題を有することは明らかである。
また、本願発明においては、センターピースと外側部の接着強度を高くするためにセンターピースと外側部との間の接着面の形状等の工夫も特になされていないことは、下位の請求項5及び6で、センターピースや外側部の形状を限定して機械的ロックを提供していること(本願明細書の段落【0050】参照。)からみて明らかであるから、本願発明においては、単にセンターピースと外側部の接着強度の所望の下限値を設定したものにすぎないと解される。
そして、接着強度を高くして、部品全体の強度を持たせるようにすることは部品を作成する上で部品に求められる強度を考慮して当業者が通常の創作能力で行い得る事項といえるから、センターピースと外側部の接着強度を決定するための特性として、
「a)25℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度S_(N)が少なくとも17MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度S_(S)が少なくとも16MPaであり、
かつ、
b)120℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度S_(N)が少なくとも11MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度S_(S)が少なくとも16MPaであることを
特徴とし、
前記垂直接着強度S_(N)は5mm/分の一定速度で半径方向外向きの荷重をかけることによって決定され、前記剪断接着強度S_(S)は、
i)3rad/分の一定速度で接線方向荷重をかけることによって得られる接線方向接着強度S_(T)、および、
ii)1mm/分の一定速度で軸方向荷重をかけることによって得られる軸方向接着強度S_(A)
のうちの低い方の値を選択することによって決定される」ものと設定して、相違点に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願発明は、全体としてみても、引用発明から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するとも認められない。

したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、請求人は、審判請求書の6ページ5ないし9行において、「本願請求項1の物に係る発明については、本発明の直接成型法に基づく方法によってのみ、請求項1において特定される機械的特性を全て備える複合歯車ブランクが製造可能である。なお、請求項1の『前記外側部は前記センターピースの周囲面(6)の周りに成型されており』という記載は、歯車ブランクが直接成型法により製造されたものであることを意図した表現である。」旨主張するが、「前記外側部は前記センターピースの周囲面(6)の周りに成型されており」という記載は、センターピースの周囲面に樹脂が成型されているという状態を表しているのにすぎず、請求人のいうような「歯車ブランクが直接成型法により製造されたものである」とは解されないから、請求人の主張を採用することはできない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-09 
結審通知日 2016-03-15 
審決日 2016-03-28 
出願番号 特願2012-500247(P2012-500247)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 広瀬 功次  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 中川 隆司
大内 俊彦
発明の名称 複合歯車ブランクおよび複合歯車ブランクの製造方法  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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