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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C01G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C01G
管理番号 1317997
審判番号 不服2015-10492  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-03 
確定日 2016-08-08 
事件の表示 特願2010- 54215「薄片状チタン酸化物を配合した有機溶媒分散体及びその製造方法並びにそれを用いたチタン酸化物薄膜及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月22日出願公開、特開2011-184274〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成22年3月11日の出願であって、平成26年7月14日付けで拒絶理由が通知され、同年9月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年3月3日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年6月3日に審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年6月3日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年6月3日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成27年6月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成26年9月10日付けでした手続補正後の特許請求の範囲のうち「有機溶媒分散体」についての請求項1ないし請求項6である、
「 【請求項1】
アセトニトリル、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エタノール、2-プロパノール、ホルムアミド、メチルエチルケトン及び1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の有機溶媒及び前記有機溶媒に分散された少なくとも一種の第三元素を含む薄片状チタン酸化物粒子を含む有機溶媒分散体。
【請求項2】
薄片状チタン酸化物粒子の一部又は全部がナノシートの形状である、請求項1に記載の有機溶媒分散体。
【請求項3】
ナノシートの重量が薄片状チタン酸化物粒子の重量に対し50重量%以上である、請求項2に記載の有機溶媒分散体。
【請求項4】
薄片状チタン酸化物の組成式がTi_(1-x)M_(x)O_(2)(0<x<0.5,MはFe,Co,Ni,Mnから選ばれる少なくとも一種)である、請求項1に記載の有機溶媒分散体。
【請求項5】
薄片状チタン酸化物の組成式がTiNbO_(5)、Ti_(2)NbO_(7)及びTi_(5)NbO_(14)からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の有機溶媒分散体。
【請求項6】
有機溶媒の誘電率が5以上である、請求項1に記載の有機溶媒分散体。」
を、請求項1ないし請求項5である、
「 【請求項1】
アセトニトリル、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エタノール、2-プロパノール、ホルムアミド、メチルエチルケトン及び1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の誘電率が5以上である、有機溶媒及び前記有機溶媒に分散された少なくとも一種の第三元素を含む薄片状チタン酸化物粒子を含む有機溶媒分散体であって、
(1) 少なくとも一種の第三元素を含む前記薄片状チタン酸化物粒子は、その組成式が、Ti_(1-x)M_(x)O_(2)(0<x<0.5、MはFe、Co、Ni、Mnから選ばれる少なくとも一種)又はTiNbO_(5)、Ti_(2)NbO_(7)及びTi_(5)NbO_(14)からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
(2) 前記薄片状チタン酸化物粒子は、その一部又は全部がナノシートの形状で、前記ナノシートの重量が前記薄片状チタン酸化物粒子の重量に対して50重量%以上であり、
(3) 前記薄片状チタン酸化物粒子は、幅方向のサイズが0.1?500μmで、厚さが0.5?100nmであり、
(4) 前記薄片状チタン酸化物粒子は、その粒子表面に、炭素数が7以上である有機カチオンを含有し、前記有機カチオンの含有量が、剥離して前記薄片状チタン酸化物粒子とする前段階の化合物である層状チタン酸化物に含まれる水素に対して0.05?3当量の範囲であり、
(5) 前記薄片状チタン酸化物粒子は、その含有量が前記有機溶媒分散体の重量に対して0.001?10重量%である、
前記有機溶媒分散体。
【請求項2】
前記有機カチオンの含有量が、剥離して薄片状チタン酸化物粒子とする前段階の化合物である層状チタン酸化物に含まれる水素に対して0.1?3当量の範囲である、請求項1に記載の有機溶媒分散体。
【請求項3】
前記有機溶媒が、アセトニトリル及びジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の有機溶媒分散体。
【請求項4】
前記有機溶媒がジメチルスルホキシドで、薄片状チタン酸化物粒子の含有量が有機溶媒分散体の重量に対して0.02?0.1重量%であり、成膜温度を10?35℃、その際の湿度を60%以上として緻密単層チタン酸化物薄膜を製造するために用いられる、請求項1に記載の有機溶媒分散体。
【請求項5】
前記有機溶媒がN,N-ジメチルホルムアミドで、薄片状チタン酸化物粒子の含有量が有機溶媒分散体の重量に対して0.02?0.1重量%であり、成膜温度を15?35℃、その際の湿度を90%以上として緻密単層チタン酸化物薄膜を製造するために用いられる、請求項1に記載の有機溶媒分散体。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
上記補正のうち、補正後の請求項1において、
「(4) 前記薄片状チタン酸化物粒子は、その粒子表面に、炭素数が7以上である有機カチオンを含有し、前記有機カチオンの含有量が、剥離して前記薄片状チタン酸化物粒子とする前段階の化合物である層状チタン酸化物に含まれる水素に対して0.05?3当量の範囲であり、」とする補正、
及び、
補正後の請求項2における、
「前記有機カチオンの含有量が、剥離して薄片状チタン酸化物粒子とする前段階の化合物である層状チタン酸化物に含まれる水素に対して0.1?3当量の範囲である、」とする補正は、
補正前の請求項1ないし請求項6に記載された、いずれの発明を特定するために必要な事項を限定するものともいえない。
よって、請求項1及び請求項2についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものには該当しない。
さらに、特許法第17条第5項第2号は、「特許請求の範囲の減縮」について、括弧書きで「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前に記載された発明とその補正後に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。」と規定しているから、同号にいう「特許請求の範囲の減縮」は、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請されるものというべきであって、補正前の請求項と補正後の請求項とは,一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
しかし、補正後の請求項2の記載により特定される発明は、上述したような一対一又はこれに準ずるような対応関係にないから、同号にいう「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものには該当しないというべきである。
以上によれば、請求項1及び請求項2についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえず、さらに、同項他の各号に掲げる事項を目的とするものともいえないことも明らかである。
以上のとおり、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 付記
上記のとおり、本件補正は却下されるべきものである。
ここで、仮に、請求項1についての補正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するとしても、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、以下の理由1、理由2のとおり、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである、ということはできず、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反し、同第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであることを付記する。

(1) 引用例
ア 引用例1
特開2009-292680号公報(本件出願日である平成22年3月11日より前の平成21年12月17日に頒布されたもの。審査の拒絶理由において引用した「引用文献1」である。以下、「引用例1」という。)

イ 引用例2
国際公開第2009/031622号(本件出願日である平成22年3月11日より前の平成21年3月12日に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったもの。審査の拒絶理由において引用した「引用文献5」である。以下、「引用例2」という。)

ウ 引用例3
特開2006-206426号公報(本件出願日である平成22年3月11日より前の平成18年8月10日に頒布されたもの。本願明細書に先行技術文献として挙げられた【特許文献3】。以下、「引用例3」という。)

エ 引用例4
特開2008-220001号公報(本件出願日である平成22年3月11日より前の平成17年8月18日に頒布されたもの。本願明細書に先行技術文献として挙げられた【特許文献4】。以下、「引用例4」という。)

(2)引用例に記載された事項
ア 引用例1
引用例1は、名称を「光触媒ナノシート、光触媒材料、および、それらの製造方法」とする発明に関して記載する特許文献であって、以下に摘示する事項が記載されている。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
NbO_(6)および/またはTiO_(6)八面体ユニットからなる光触媒ナノシートであって、Nb_(3)O_(8)、Nb_(6)O_(17)、TiNbO_(5)、Ti_(2)NbO_(7)、Ti_(5)NbO_(14)、Ca_(2)Nb_(3)O_(10)およびLaNb_(2)O_(7)からなる群から選択されたナノシートからなることを特徴とする、光触媒ナノシート。
…略…
【請求項3】
光触媒ナノシートの製造方法であって、
MNb_(3)O_(8)、M_(4)Nb_(6)O_(17)、MTiNbO_(5)、MTi_(2)NbO_(7)、M_(3)Ti_(5)NbO_(14)、MCa_(2)Nb_(3)O_(10)およびMLaNb_(2)O_(7)からなる群から選択されたアルカリ金属を含有する層状化合物(ここで、Mはアルカリ金属)を、酸水溶液を用いて酸処理し、前記層状化合物中の前記アルカリ金属が交換された水素イオン交換体を生成するステップと、
前記水素イオン交換体と塩基性物質とを反応させ、前記水素イオン交換体が剥離されたナノシートからなるコロイド溶液を得るステップと
からなることを特徴とする、方法。」

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒ナノシート、それを用いた光触媒材料、および、それらの製造方法に関し、より詳しくは結晶がNbO_(6)および/またはTiO_(6)八面体ユニットからなる光触媒ナノシート、それを用いた光触媒材料、および、それらの製造方法に関する。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のような実情に鑑み、本願発明は、酸化チタンナノシート同様に優れた平滑性を有しつつ、二酸化チタンと同様、または、それより優れた光触媒性および光誘起親水化特性を発現する光触媒ナノシートを提供することを課題とする。
【0009】
さらに、このような機能を持ちながら、部材との密着性に優れたナノシートからなる光触媒ナノシートを提供することを課題とする。
【0010】
また、このような機能をもった光触媒ナノシートを用いた光触媒材料とそれを高収率で製造できる方法とを提供することを課題とする。」

・「【0025】
図2に示される本発明による各光触媒ナノシートは、Nb_(3)O_(8)(図2(A))、Nb_(6)O_(17)(図2(B))、TiNbO_(5)(図2(C))、Ti_(2)NbO_(7)(図2(D))、Ti_(5)NbO_(14)(図2(E))、Ca_(2)Nb_(3)O_(10)(図2(F))およびLaNb_(2)O_(7)(図2(G))である。いずれの光触媒ナノシートも、NbO_(6)および/またはTiO_(6)の八面体のユニット200に基づいており、ユニット200が所定の配列をした二次元結晶である。このようなユニット200に基づく本発明による光触媒ナノシートは、元素が規則正しく配列しており、なおかつ、バラエティに富んだ種々の構造を有している。」

・「【0027】
これらのナノシートは、いずれも、既存のアナターゼ等の酸化チタンと同様に、光触媒性および光誘起親水化特性を示す。中でも、TiNbO_(5)、LaNb_(2)O_(7)、Nb_(3)O_(8)およびCa_(2)Nb_(3)O_(10)は、酸化チタンよりも高い光誘起親水化特性を示すことが確認され、セルフクリニーニング機能、防塵機能および冷却機能に有効である。これらの特性については後述の実施例において詳述する。
【0028】
上述したように、アルカリ金属含有層状化合物を剥離して得られるナノシートの厚さ(シート厚)は、分子レベルであるのに対して、横方向の大きさはミクロンオーダである。結晶構造から得られる理論的なシート厚は、1?2nm程度であり、このような光触媒ナノシートを薄膜化すれば、シート厚を反映した凹凸のない光触媒薄膜が得られるので、初期防汚性の向上に有利である。詳細には、後述するように、光触媒薄膜は、光触媒ナノシートの単層構造または多層構造からなる。光触媒薄膜の凹凸(表面粗さ)は、その表面となる光触媒ナノシートの部分的な重なり、または、光触媒ナノシート間に生じ得る隙間によって決まるが、一部光触媒ナノシートの重なりがあっても凹凸は最大で2nmとなる。なお、このような光触媒薄膜の製造方法については実施の形態2で詳述する。」

・「【0045】
水素イオン交換体中のプロトンと、塩基性物質とのモル比は、好ましくは、1?10の範囲である。モル比が1未満または10を超えると、剥離が十分に進行しない場合がある。なお、最適なモル比は、用いるアルカリ金属含有層状化合物によって異なることに留意されたい。」

・「【0052】
(1)交互吸着法
図5は、交互吸着法を用いた光触媒材料の製造プロセスを示す図である。
【0053】
ステップS510:基材310にカウンターイオンとしてカチオン性ポリマー540を付与する。カチオン性ポリマー540は、基材310の表面をカチオン性にする任意のポリマーを適用できるが、例示的には、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDDA)、ポリエチレンイミン(PEI)、塩酸ポリアリルアミン(PAH)である。中でもPDDAおよびPEIは汎用性があるため、好ましい。
【0054】
カチオン性ポリマー540を基材310に付与することにより、基材310の表面がカチオン性になり、アニオン性の光触媒ナノシート100とより強固に結合する。
【0055】
ステップS520:カチオン性ポリマー540が付与された基材310に、光触媒ナノシート100を含有するコロイド溶液(例えば、ステップS420で得られたコロイド溶液)を付与する。コロイド溶液は必要に応じて濃度調整される。静電相互作用により、カチオン性ポリマー540上に光触媒ナノシート100が結合、自己整合することによって、光触媒薄膜320が形成される。
【0056】
ステップS530:必要に応じて、ステップS510およびステップS520を繰返し、光触媒薄膜320が所望の厚さを有するまで繰り返す。光触媒薄膜320が光触媒ナノシート100の単層構造を有する場合には、ステップS530を省略してよい。
【0057】
このようにして、単層構造または多層構造からなる光触媒薄膜320を備えた光触媒材料300が得られる。交互吸着法であれば、光触媒薄膜320の膜厚をナノオーダ(分子レベル)で制御できるため、好ましい。交互吸着法であれば、高価な装置を必要としないので、光触媒材料300を安価に提供できる。また、基材310の大きさ、および、コロイド溶液の容量によっては、光触媒材料300の大面積化も可能である。
【0058】
なお、ステップS530に続いて、紫外線等の光を照射してカチオン性ポリマー540を除去してもよい。」

・「【実施例3】
【0126】
基材310(図3)として石英ガラス基板およびSi基板上に、交互吸着法を用いて、TiNbO_(5)ナノシートからなる光触媒薄膜320(図3)が付与された光触媒材料300(図3)を製造した。光触媒材料の製造に先立って、アルカリ金属がKであるKTiNbO_(5)のアルカリ金属含有層状化合物を合成した。
【0127】
K_(2)CO_(3)(5.5839g、レアメタリック製、純度99.99%)と、TiO_(2)(6.1473g、レアメタリック製、純度99.99%)と、Nb_(2)O_(5)(10.2281g、レアメタリック製、純度99.99%)とを混合し、原料混合物を得た(図7のステップS710)。KTiNbO_(5)の化学量論比よりもK_(2)CO_(3)をモル比で5%過剰に添加し、K_(2)CO_(3)とTiO_(2)とNb_(2)O_(5)とのモル比は1.05:2:1であった。原料混合物は、アルミナ乳鉢を用いて60分間、粉砕・混合された。
【0128】
次いで、原料混合物を仮焼成した(図7のステップS720)。原料混合物を白金るつぼに移し、900℃に加熱した電気炉に入れ、1時間保持した。その後、白金るつぼを電気炉から取り出し、室温で急冷した。
【0129】
室温にて約10分間除熱し、白金るつぼ中の試料をアルミナ乳鉢で粉砕・混合を行った。粉砕・混合された試料を再度白金るつぼに移し、1100℃に加熱した電気炉に入れ、20時間本焼成した(図7のステップS720)。その後、白金るつぼを電気炉から取り出し、室温で急冷し、アルカリ金属含有層状化合物110(図1)を得た。このようにして得られたアルカリ金属含有層状化合物110について粉末XRD測定を行い、KTiNbO_(5)単相であることを確認した。なお、本焼成において、1000℃および1150℃と変化させた場合、および、KTiNbO_(5)の化学量論比の原料混合物を用いた場合には、K_(2)Ti_(6)O_(13)の不純物が生成した。このことからも、KTiNbO_(5)単相で得るためには、原料混合物中のK_(2)CO_(3)の蒸発を抑制すること、および、1050℃以上1150℃未満の温度範囲の本焼成が好ましいことが分かった。
【0130】
次に、このようにして得られたアルカリ金属含有層状化合物KTiNbO_(5)を用いて、光触媒ナノシートTiNbO_(5)を合成した。
【0131】
アルカリ金属含有層状化合物KTiNbO_(5)を、実施例2と同様に酸水溶液として塩酸水溶液(12規定、和光純薬工業製、特級)を用いて酸処理し、水素イオン交換体を生成した(図4のステップS410)。
【0132】
次いで、水素イオン交換体0.4gと塩基性物質として水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液(TBAOHaq.)100mL(和光純薬工業製、特級;濃度10%)とを反応させ、水素イオン交換体を剥離し、TiNbO_(5)ナノシートからなるコロイド溶液を得た(図4のステップS420)。
【0133】
具体的な反応は、TBAOHaq.中のTBA^(+)と水素イオン交換体中のH^(+)とのモル比が5:1となるように調整した。200mL三角フラスコに超純水77.3mLを入れ、次いで、TBAOHaq.22.7mLを加え、合計100mLの溶液を得た。この溶液に水素イオン交換体0.4gを加え、シェイカーで180rpm、10日間振盪させた。三角フラスコ中の溶液が乳白色の溶液となり、水素イオン交換体の剥離が完全に行われたことを確認した。このようにして、TiNbO_(5)ナノシートからなるコロイド溶液(以降ではTiNbO_(5)コロイド溶液と呼ぶ)を得た。
【0134】
交互吸着法を用いてTiNbO_(5)コロイド溶液を石英ガラス基板およびSi基板に付与した。TiNbO_(5)コロイド溶液の石英ガラス基板およびSi基板への付与は、実施例1と同じ濃度に調整したTiNbO_(5)コロイド溶液を用い、同様の手順によって行ったため、説明を省略する。実施例1と同様に、得られた光触媒材料を、(TiNbO_(5)/PDDA)_(n)/ガラス、および、(TiNbO_(5)/PDDA)_(n)/Siと称する。なお、ここで、nは図5のステップ530の繰返し回数を示す。
【0135】
実施例1と同様に、試料として(TiNbO_(5)/PDDA)_(1)/ガラスを用いて、TiNbO_(5)ナノシートの光触媒性および光誘起親水化特性を評価した。それぞれの結果を図8、図9および表2?表5に示し詳述する。
【0136】
実施例1と同様に、交互吸着法による多層構造のUV-vis吸収スペクトル測定、(TiNbO_(5)/PDDA)_(10)/SiのXRD測定、(TiNbO_(5)/PDDA)_(10)/ガラスの光触媒性、および、(TiNbO_(5)/PDDA)_(10)/SiのAFM測定により評価した。これらの結果を、図11、図14、図16、図21および表6に示し後述する。」

・「【実施例9】
【0185】
基材310(図3)としてシリコン(Si)基板上に、LB法を用いて、TiNbO_(5)ナノシートからなる単層構造の光触媒薄膜320(図3)が付与された光触媒材料300(図3)を製造した。
【0186】
実施例3で作製したTiNbO_(5)コロイド溶液を濃度16mgL^(-1)になるように調製し、トラフに展開した。表面圧力を15mNm^(-1)とした以外は、実施例8と同様の手順により光触媒材料を得た。
【0187】
このようにして得られた光触媒材料TiNbO_(5)/Siの表面状態をAFMによって観察した。結果を図25に示し、後述する。」

イ 引用例2
引用例2は、名称を「薄片状酸化チタンを配合した有機溶媒分散体及びその製造方法並びにそれを用いた酸化チタン膜及びその製造方法」とする発明に関して記載する特許文献であって、以下に摘示する事項が記載されている。

・「技術分野
[0001]本発明は、薄片状酸化チタン粒子、特に薄片状酸化チタンナノシートを有機溶媒に配合した分散体及びその製造方法に関する。また、前記の有機溶媒分散体を用いた酸化チタン膜及びその製造方法に関する。更に、前記の酸化チタン膜の用途、特に光触媒としての使用に関する。」

・「[0003]…略…また、特開2005-220001号公報には、層状金属酸化物を有機極性溶剤中において、炭素数の合計が6以下のアルキルアミン又はアルキルアンモニウム化合物と接触させ、これをインターカレーションすることにより層間間隔を拡大させたのち、剪断力を印加して劈開させ、厚さ1nm以下の金属酸化物ナノシートを形成させてなる金属酸化物薄膜形成用塗布液が開示されている。」

・「[0005]…略…一方、酸化チタンナノシートが単層で稠密に配列した膜(稠密単層膜)の作製方法としては、交互積層法と超音波処理を組み合わせた方法、Langmuir-Blodgett法等が知られているが、これらの方法は装置上の問題から大きなスケールの成膜が難しく、工業的に不向きである。また、従来の酸化チタンナノシートを配合した水分散体では表面張力の高さなど種々の影響で基材とのなじみが悪いことから、基材にコートすることは難しく、稠密単層膜は得られなかった。
[0006]そこで、本発明は、工業的に有利に実施でき、収率の高い薄片状酸化チタン粒子を配合した有機溶媒分散体及びその製造方法を提供する。また、本発明は、工業的に有利に実施でき、しかも広範囲の基材に適用できる酸化チタン膜、特に酸化チタンナノシートが単層で稠密に配列した膜(稠密単層膜)、その稠密単層膜が積層した酸化チタン膜及びその製造方法を提供する。更に、前記の酸化チタン膜を用いた用途を提供する。」

・「発明の効果
[0009]本発明の有機溶媒分散体によれば、結晶性を有する薄片状酸化チタン粒子を有機溶媒に長期間にわたって安定して分散させることができる。このため、薄片状酸化チタン粒子を種々の用途に用いることができ、水性分散体よりも塗料、インキ、プラスチック、ゴム、潤滑剤、摩擦材等への配合の際に有利であり、薄片状酸化チタン粒子の適用拡大を図ることができる。また、溶媒を有機溶剤とすることで基材とのなじみが良くなり、基材へコートすることができるため、酸化チタン膜、特に酸化チタンナノシートの稠密単層膜、その稠密単層膜が積層した酸化チタン膜、酸化チタン膜とポリマー膜との交互積層膜などが得られる。しかも、このような酸化チタン膜の製造も有機溶媒の使用により低温度で行うことができ、温度に脆弱な基材への適用が可能となる。
具体的な用途としては、紫外光の吸収が250?280nmの短波長側にシフトし、波長300?800nmでは光の吸収ピークがないため、光の透過性が高く、可視光の透明性も高いことから、透明性材料として用いられる。また、波長250?280nmの紫外光の吸収が高いために、光触媒、紫外線遮蔽剤、透明性材料、反射防止材料、ガスバリヤー性材料等の種々の用途に用いることができる。特に、光触媒性材料として用いた場合に、防汚性、防曇性、超親水性等の効果が利用できる。また、プラスチック等の樹脂に薄片状酸化チタン粒子を配合して、機械的強度等を付与することができる。
また、本発明の有機溶媒分散体は、有機カチオンを含有した薄片状酸化チタン粒子の水性分散体を遠心分離するか、凍結乾燥した後、有機溶媒と混合して得られるため、水分をほとんど含まない有機溶媒分散体を比較的簡便に製造することができる。
また、前記の有機溶媒分散体を基材にコートし、次いで、5?500℃、好ましくは室温?500℃の範囲の温度下で成膜するなどの比較的簡便な方法により酸化チタン膜を製造することができる。」

・「[0011]薄片状酸化チタン粒子は、一般に板状、シート状、フレーク状と呼ばれるものを包含する。薄片状酸化チタンは結晶性を有するものであるが、その結晶形は、単層構造を有する場合には(厚みが0.5?1nm程度)、高さ方向(c軸方向)の結晶量が少ないために、結晶学的にA型(アナタース型)ともR型(ルチル型)とも特定できない。十分な厚みがある場合は(厚みが1nm以上)、種々の結晶構造を持つものが確認されるが、レピドクロサイト型の結晶構造を有するものが好ましい。薄片状酸化チタンとしては式Ti_(2-x/3)O_(4)^((4x/3)-)(式中のxは0.57?1.0)、具体的にはTi_(1.81)O_(4)^(0.76-)?Ti_(1.67)O_(4)^(1.33-)で表される、結晶性酸化チタンがより好ましい。薄片状酸化チタンの大きさは、後述する薄片状酸化チタン粒子の製造条件、剥離条件等を変更して適宜調整することができる。薄片状酸化チタン粒子が大きすぎると自重で沈降が生じて、容器底部において部分的に濃度が高くなって凝集を生じ易い。このため、大きさを薄片状酸化チタンの薄片面の長さ(最長幅)、幅(最短幅)と薄片面に対する垂直方向の厚みで規定すると、例えば幅及び長さが0.1?500μm程度、厚さが0.5?100nm程度のものが分散性の観点から好ましく、幅及び長さのそれぞれが0.1?30μm程度、厚さが0.5?50nm程度がより好ましい。また、薄片状酸化チタン粒子の厚みは、薄膜を作製し易いため薄いものが好ましく、0.5?10nmのナノシートがより好ましく、0.5?2nmがより好ましく、0.5?1nmが更に好ましい。長さ(最短幅)/厚みは10以上が好ましく、30以上がより好ましい。また、薄片状酸化チタン粒子の長さと幅で規定される薄片の表面は平滑であるのが好ましく、具体的に薄片の表面の凹凸差が1nm以内にあるのがより好ましい。薄片の形状や大きさは、走査型プローブ顕微鏡によって求めることができる。
[0012]薄片状酸化チタン粒子に後述する有機カチオンが含まれていると、有機カチオン同士の電荷反発により薄片状酸化チタン粒子が分散し易くなるため好ましい。しかし、有機カチオンの含有量が多すぎると反対に薄片状酸化チタン粒子の凝集を招く場合があるため、有機カチオンの含有量は、薄片状酸化チタンに含まれるチタン(Ti)に対して0.05?3当量の範囲が好ましく、0.1?3当量の範囲がより好ましく、0.9?1.5当量が更に好ましい。有機カチオンとしては、4級アンモニウムイオンが好ましく、テトラブチルアンモニウムイオン等の炭素数の合計が9以上の4級アンモニウムイオンが更に好ましい。炭素数の合計が9以上の4級アンモニウムイオンを含有すると、多くの有機溶媒にも分散が可能となる。また、薄片状酸化チタンの粒子表面には、有機溶媒への分散性、樹脂の親和性等の観点から、従来の界面活性剤、カップリング剤等の有機化合物やシリカ、アルミナ等の無機化合物を被覆しても良い。

・「[0014]有機溶媒としては、用途に応じて適宜選択することができるが、誘電率が5以上の有機溶媒であると薄片状酸化チタン粒子が分散し易いため好ましく、誘電率が10以上の有機溶媒がより好ましい。このような有機溶媒としてはアセトニトリル(誘電率37、沸点82℃)、メタノール(誘電率33、沸点65℃)、ジメチルスルホキシド(誘電率47、沸点189℃)、エタノール(誘電率24、沸点78.3℃)、2-プロパノール(誘電率18、沸点82.5℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(誘電率38、沸点153℃)、メチルエチルケトン(誘電率18.5、沸点80℃)、1-ブタノール(誘電率17.8、沸点118℃)及びホルムアミド(誘電率109、沸点210℃)からなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。また、有機溶媒としては低温度での乾燥が容易になることから、低沸点のものが好ましく、沸点が200℃以下のものがより好ましく、150℃以下のものが更に好ましく、100℃以下のものが更に好ましい。」

・「[0018]前記の有機カチオンを含有した薄片状酸化チタン粒子の水性分散体を製造するには、例えばWO99/11574パンフレットなどに記載の方法を用いることができる。具体的には、WO99/11574パンフレットは(1)チタン酸セシウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸カリウムマグネシウムなどの層状チタン酸金属塩を合成し、次いで、得られた層状チタン酸金属塩を水溶媒に懸濁した後、塩酸、硫酸、硝酸などの酸を添加し、金属イオンを抽出すると層状構造を有するチタン酸が得られること、(2)前記の(1)の方法で製造した層状チタン酸を媒液に懸濁した後、アミン化合物、アンモニウム化合物などの有機カチオン源である塩基性化合物を添加すると、層間が膨潤した構造を有し、有機カチオンを含有する薄片状酸化チタン粒子が得られること、(3)前記の(2)の方法で層間を膨潤させた薄片状酸化チタン粒子を振とうなどにより、層間を剥離すると、薄片状酸化チタンナノシートが得られることなどを開示しており、前記の(2)の薄片状酸化チタン粒子が分散した水性分散体、(3)の層間を剥離した薄片状酸化チタンナノシートが分散した水性分散体を好適に用いることができる。」

・「[0020]前記の(2)の工程において、この層状チタン酸に含まれる水素(H)に対して好ましくは0.05?3中和当量の範囲の有機カチオン源である塩基性化合物を媒液中で混合して、層状チタン酸に含まれる水素を脱離させるとともに塩基性化合物を層間に挿入させ、次いで、(3)に記載の通り、層を剥離させて薄片状酸化チタン粒子を製造するのが好ましい。塩基性化合物の量が前記範囲より少ないと水素イオンが十分脱離せず、多いと膨潤して却って層間の剥離が困難になる。より好ましい量は0.1?3中和当量、更に好ましくは0.9?1.5中和当量である。塩基性化合物の量は層状チタン酸に含まれるチタン(Ti)に対しては0.05?3当量の範囲が好ましく、0.1?3当量の範囲がより好ましく、0.9?1.5当量が更に好ましい。塩基性化合物の量は前記の水素(H)に対する好ましい範囲及びチタン(Ti)に対する好ましい範囲の両者を満たすことが好ましい。このような塩基性化合物の一部は有機カチオンとして薄片状酸化チタンに、好ましくは粒子表面に含まれる。
[0021]塩基性化合物としては、(1)水酸化4級アンモニウム化合物(水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等)、(2)アルキルアミン化合物(プロピルアミン、ジエチルアミン等)、(3)アルカノールアミン化合物(エタノールアミン、アミノメチルプロパノール等)等が挙げられ、中でも水酸化4級アンモニウム化合物が反応性に優れ好ましく、水酸化テトラブチルアンモニウム化合物等の炭素数の合計が9以上の水酸化4級アンモニウム化合物を用いると有機溶媒分散体としたときにも薄片状酸化チタン粒子の分散剤として有効に働くためより好ましい。(2)の工程で使用される媒液としては、水又はアルコール等の有機溶媒、あるいはそれらの混合物が挙げられ、工業的には水を主体とする水性媒液を用いるのが好ましい。媒液への層状チタン酸及び塩基性化合物の添加の順序は特に限定されず、例えば水に層状チタン酸と塩基性化合物を加え、撹拌して混合することができる。また層状チタン酸を水に分散させたスラリーに塩基性化合物を加えても、塩基性化合物水溶液に層状チタン酸を加えても良い。次いで、撹拌を続けると層状チタン酸の層が剥離して、薄片状酸化チタン粒子が得られる。その際の反応温度に特に制限は無いが、層状チタン酸が分解し難いように、1?20日かけて室温下で行うのが好ましい。また、層間剥離の程度をより高めるため、前記(3)の工程のように溶液を入れた容器を振とうしても良い。この振とうにより、長さ及び幅がそれぞれ0.1?30μm程度、厚みが0.5?10nm程度、好ましくは0.5?2nm程度、より好ましくは0.5?1nm程度のナノシートを製造することができる。振とうには、振とう器、ペイントコンディショナー、シェーカー等を用いることができる。
[0022]薄片状酸化チタン粒子は、好ましくは組成式Ti_(2-x/3)O_(4)^((4x/3)-)(式中のxは0.57?1.0)、具体的にはTi_(1.81)O_(4)^(0.76-)?Ti_(1.67)O_(4)^(1.33-)で表される。この薄片状酸化チタン粒子は、TiO_(6)八面体が稜共有により連鎖して二次元骨格構造を形成しているが、さらに、Ti^(4+)席の9.5?17%が欠陥になっているため、薄片状粒子の負電荷が大きい構造となっている。」

・「[0035]製造例1
炭酸カリウム(K_(2)CO_(3))と炭酸リチウム(Li_(2)CO_(3))と二酸化チタン(TiO_(2))をK/Li/Tiのモル比にして3/1/6.5で混合し、十分に摩砕した。これを白金るつぼに移し、800℃の温度で5時間焼成し、白色のチタン酸混合アルカリ金属塩粉末を得た。
前記の白色粉末1gに対して、1規定の塩酸100cm^(3)を加え、1日間室温で攪拌しながら反応させた。その後、濾過、水洗、乾燥して、層状チタン酸化合物の粉末を得た。
次いで、層状チタン酸化合物の粉末(TiO_(2)換算で0.4g分)を、層状チタン酸中のH^(+)量に対して1中和当量の水酸化テトラブチルアンモニウムを溶解した水溶液0.1リットルに加え、シェーカーで150回転/分程度の振とうを10日間行うことにより、TiO_(2)濃度0.4重量%の薄片状酸化チタン水性分散体(試料a)を得た。
[0036]実施例1
製造例1で得た試料aを、遠心分離機(日立工機株式会社製、CP 100MX)を使用して、15,000rpmで30分間遠心分離すると、ほぼ透明な上澄み液と、ペースト状の沈降物に分かれた。透明な上澄み液の部分を捨て、捨てた溶液と同量のアセトニトリルを追加して軽く振とうすることで分散液を得た。さらに同じ条件の遠心分離操作、上澄み透明溶液の排出、アセトニトリルの追加、分散を行った。合計3回の上記操作を行い、最終的にTiO_(2)濃度0.4重量%の、市販のアセトニトリル特級試薬の含水量(0.07重量%)と同等の含水率である、本発明の有機溶媒分散体(試料A)を得た。」

・「[0039]実施例4
実施例1で得た試料Aをアセトニトリルで100倍に希釈し、シリコンウエハー基板上に滴下した後、室温、大気中で10分間静置、乾燥して溶媒除去した酸化チタン膜(試料D)を得た。」

・「[0047]評価1
…略…
[0048]また製造例1にて作製した水性分散体試料aについて、純水を加えて200倍に希釈した水溶液について、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、U-4000)を用いて吸光度を測定した。結果を図2に示す。260nm付近にピークを示し、300nmから800nmの範囲ではピークを示さないことが確認された。この結果は図1と同様の結果であり、本発明の有機溶媒分散体は、前駆体である水性分散体中の薄片状酸化チタン粒子のバンドギャップ構造を変化させず、凝集体なども生じていない分散体であると判断できる。
[0049]評価2
実施例4の酸化チタン膜(試料D)に含まれる粒子を走査型プローブ顕微鏡(セイコーインスツル株式会社製、SPA-400)を用いて観察した写真を図3(観察範囲:2μm×2μm)に示す。図3から本発明で得られた実施例1の有機溶媒分散体(試料A)には約0.2μm?1.0μmの幅及び長さを有する薄片状酸化チタン粒子が分散していることが判る。
また図3にて観察された薄片状酸化チタン粒子の厚さを解析するためにラインプロット解析を行った結果を図4に示す。図4は、図3中の左上の粒子について、横断的に薄片表面の凹凸を解析した結果である。この結果から、薄片状酸化チタン粒子の最大高低差(P-V)が1.48(=1.87-0.39)nmであることから、本発明で得られた粒子の基板シリコンウエハーからの高さ(厚みに相当する)が最大で約1.5nmであることが判った。」

・「請求の範囲
[1]紫外可視光吸収スペクトルにおいて、波長250?280nmの範囲に吸光ピークを有し、波長300?800nmの範囲では吸光ピークを有さない薄片状酸化チタン粒子を有機溶媒に配合した分散体。
[2]薄片状酸化チタン粒子の薄片表面の凹凸差が1nm以内であることを特徴とする請求項1に記載の有機溶媒分散体。
[3]有機溶媒が、アセトニトリル、メタノール、ジメチルスルホキシド、エタノール、2-プロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、1-ブタノール及びホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の有機溶媒分散体。
[4]含水率が10重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機溶剤分散体。
[5]薄片状酸化チタン粒子の含有量が0.1重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機溶剤分散体。
[6]有機カチオンを含有した薄片状酸化チタン粒子の水性分散体を遠心分離して、得られた沈降物を有機溶媒と混合し、分散させることを特徴とする有機溶媒分散体の製造方法。」

ウ 引用例3
引用例3は、名称を「層状チタン酸ナノシート有機溶媒分散液」とする発明に関して記載する特許文献であって、以下に摘示する事項が記載されている。

・「【実施例】
【0026】
以下の実施例及び比較例において、「%」は特記しない限り「質量%」である。
実施例1
イソプロピルアルコール10mLにチタンテトライソプロポキシド33.54g(118mmol)を溶解させてチタン源を得た。
10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(和光純薬工業株式会社製)352.88g(テトラブチルアンモニウムヒドロキシド:136mmol)を室温下、攪拌しながら、前記チタン源を徐々に滴下した。滴下とともにチタン源は加水分解して白濁するが、攪拌を続けるとやがて無色透明溶液となった。このときのTiO_(2)換算濃度は約2%であり、Ti/テトラブチルアンモニウムヒドロキシドのモル比は0.87であった。
得られた無色透明溶液をガラス板上に数滴滴下し、乾燥させた膜を用いてX線回折分析を行った。その結果、図1に示すX線回折パターンが得られた。このX線パターンでは、d値で16.60(角度2θで5.32°)付近に主ピーク(第1ピーク)が認められ、次いで第2ピークがd=8.56(10.33°)付近に、第3ピークがd=5.71(15.51°)付近に認められた。第1ピークに対して第2ピーク、第3ピークのd値はそれぞれ約1/2及び1/3になっていることから層構造であることが確認でき、第1ピークの層間距離がテトラブチルアンモニウムヒドロキシドの分子サイズに相当することより、層間に有機カチオンが挟まれた構造と推定された。また、無色透明溶液をラマン分光分析した結果、層状チタン酸(レピドクロサイト型層状酸化チタン)に特有の278cm^(-1)、442cm^(-1)、702cm^(-1)付近にピークが得られた。
前記無色透明溶液を、真空乾燥機を用いて60℃で乾燥し、白色粉体を得た。この粉体0.1gに対して水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフランの各溶媒を9.9g添加して攪拌した。攪拌後の様子を目視観察した結果、全ての溶液で透明溶液となっており、チタン酸ナノシートが十分に分散した分散溶液が得られたことを確認できた。」

エ 引用例4
引用例4は、名称を「金属酸化物薄膜形成用塗布液」とする発明に関して記載する特許文献であって、以下に摘示する事項が記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状金属酸化物を極性媒質中において、炭素数の合計が6以下のアルキルアミン又はアルキルアンモニウム化合物と接触させ、これをインターカレーションすることにより層間間隔を拡大させたのち、剪断力を印加して劈開させ、厚さ1nm以下の金属酸化物ナノシートを形成させてなる金属酸化物薄膜形成用塗布液。
【請求項2】
層状金属酸化物が、層状構造をもつモリブデン、バナジウム、タングステン、チタン、マンガン及びジルコニウムの中から選ばれた少なくとも1種の金属の層状構造をもつ酸化物である請求項1記載の金属酸化物薄膜形成用塗布液。」

・「【0011】
このナノシートを形成させる場合、これらの原料は、通常、粉末で用いるが、この粒径や粒子形状については特に制限はない。大きい粒径の粉末を用いても、また小さい粒径の粉末を用いても同じようにナノシートを得ることができる。
【0012】
本発明の塗布液の調製は、極性媒質中で行うことが必要である。この極性媒質としては、通常、水のような無機極性媒質やジメチルホルムアミドやアルコール、例えばジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メチルアルコール、エチルアルコールのような有機極性溶剤を用いるのが好ましい。また水以外の液体二酸化炭素や液化亜硫酸ガスを用いることもできる。
この媒質として、脂肪族、脂環族及び芳香族炭化水素のような非極性溶剤を用いると厚さ1nm以下のナノシートを得ることができない。」

(3)理由1(引用例1を主たる引用例とする進歩性)
ア 引用例1に記載された発明
引用例1は、「結晶がNbO_(6)および/またはTiO_(6)八面体ユニットからなる光触媒ナノシート、それを用いた光触媒材料、および、それらの製造方法」(【0001】)に関するものであって、例えば、
「光触媒ナノシートの製造方法であって、
MNb_(3)O_(8)、M_(4)Nb_(6)O_(17)、MTiNbO_(5)、MTi_(2)NbO_(7)、M_(3)Ti_(5)NbO_(14)、MCa_(2)Nb_(3)O_(10)およびMLaNb_(2)O_(7)からなる群から選択されたアルカリ金属を含有する層状化合物(ここで、Mはアルカリ金属)を、酸水溶液を用いて酸処理し、前記層状化合物中の前記アルカリ金属が交換された水素イオン交換体を生成するステップと、
前記水素イオン交換体と塩基性物質とを反応させ、前記水素イオン交換体が剥離されたナノシートからなるコロイド溶液を得るステップと
からなることを特徴とする、方法。」(【請求項3】)、
などについて記載するものである。
引用例1における「ナノシート」とは、「NbO_(6)および/またはTiO_(6)の八面体のユニット…が所定の配列をした二次元結晶」(【0025】)であって、「厚さ(シート厚)は、分子レベルであるのに対して、横方向の大きさはミクロンオーダである」(【0028】)シートであると認められる。
上記【請求項3】の製造方法で、例えばチタンを含む物質であるTiNbO_(5)、のナノシートからなるコロイド溶液の製造方法の具体例を示す実施例3には、概略、アルカリ金属含有層状化合物KTiNbO_(5)を、酸水溶液として塩酸水溶液を用いて酸処理して生成した水素イオン交換体と水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液(TBAOHaq.)とをTBA^(+)と水素イオン交換体中のH^(+)とのモル比が5:1となるように、超純水にTBAOHaq.を加えた溶液100mlに水素イオン交換体0.4gを加え、シェイカーで溶液が乳白色の溶液となるまで振盪させて製造する方法(【0126】?【0133】)が記載されている。
この実施例3の製造方法で得られたコロイド溶液は、「水素イオン交換体の剥離が完全に行われた」TiNbO_(5)ナノシートからなるコロイド溶液(【0133】)とされているから、ナノシート、すなわち、厚さ(シート厚)は、分子レベルであるのに対して、横方向の大きさはミクロンオーダであるTiNbO_(5)ナノシートが、概ね0.4wt%(概ね0.4g/100g)水に分散された、水分散体ということができる。
そうすると、引用例1には、
「TBA^(+)と水素イオン交換体中のH^(+)とのモル比が5:1となるように加えた水酸化テトラブチルアンモニウムの存在下に製造した、水素イオン交換体の剥離が完全に行われた、厚さ(シート厚)は、分子レベルであるのに対して、横方向の大きさはミクロンオーダであるTiNbO_(5)ナノシートが、概ね0.4wt%分散された水分散体」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているということができる。

イ 本件補正発明と引用発明1との対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「水素イオン交換体の剥離が完全に行われた、…TiNbO_(5)ナノシート」は、「TiNbO_(5)」が本件補正発明の「少なくとも一種の第三元素を含む薄片状チタン酸化物粒子」が、「その組成式が、Ti_(1-x)M_(x)O_(2)(0<x<0.5、MはFe、Co、Ni、Mnから選ばれる少なくとも一種)又はTiNbO_(5)、Ti_(2)NbO_(7)及びTi_(5)NbO_(14)からなる群より選ばれる少なくとも一種」に包含される物質であり、剥離が完全に行われたナノシートからなるから、本件補正発明の「その一部又は全部がナノシートの形状で、前記ナノシートの重量が前記薄片状チタン酸化物粒子の重量に対して50重量%以上」に包含されるものといえる。
また、引用発明1は水を溶媒とする分散体であり本件補正発明は特定の有機溶媒を溶媒とする分散体であるから、ともに溶媒分散体であるといえ、引用発明1の溶媒分散体の濃度0.4wt%は、本件補正発明の溶媒分散体の「その含有量が前記…溶媒分散体の重量に対して0.001?10重量%」に包含される。
そうすると、本件補正発明と引用発明1とは、
「溶媒及び溶媒に分散された少なくとも一種の第三元素を含む薄片状チタン酸化物粒子を含む溶媒分散体であって、
(1) 少なくとも一種の第三元素を含む前記薄片状チタン酸化物粒子は、TiNbO_(5)であり、
(2) 前記薄片状チタン酸化物粒子は、その一部又は全部がナノシートの形状で、前記ナノシートの重量が前記薄片状チタン酸化物粒子の重量に対して50重量%以上であり、
(5) 前記薄片状チタン酸化物粒子は、その含有量が前記溶媒分散体の重量に対して0.001?10重量%である、
前記溶媒分散体。」
の点において一致し、以下の点AないしCにおいて一応相違すると認められる。

A 薄片状チタン酸化物粒子の大きさが、本件補正発明は、「幅方向のサイズが0.1?500μmで、厚さが0.5?100nm」であるのに対して、引用発明1は、「厚さ(シート厚)は、分子レベルであるのに対して、横方向の大きさはミクロンオーダ」である点

B 本件補正発明は、「薄片状チタン酸化物粒子は、その粒子表面に、炭素数が7以上である有機カチオンを含有し」かつ「前記有機カチオンの含有量が、剥離して前記薄片状チタン酸化物粒子とする前段階の化合物である層状チタン酸化物に含まれる水素に対して0.05?3当量の範囲」であるのに対して、引用発明1は、「TBA^(+)と水素イオン交換体中のH^(+)とのモル比が5:1となるように加えた水酸化テトラブチルアンモニウムの存在下に製造した」ものであって、炭素数が7以上である有機カチオンが粒子表面にあるかは、明らかではない点

C 溶媒が、本件補正発明は、「アセトニトリル、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エタノール、2-プロパノール、ホルムアミド、メチルエチルケトン及び1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の誘電率が5以上である、有機溶媒」であるのに対して、引用発明1は「水」である点

ウ 相違点についての判断
(ア)相違点Aについて
引用発明1に分散したTiNbO_(5)ナノシートは、「剥離が完全に行われた」(【0133】)ものであること、さらに、このコロイド溶液を用いて「シリコン(Si)基板上に、LB法を用いて、TiNbO_(5)ナノシートからなる単層構造の光触媒薄膜320(図3)が付与された」(【0185】)ことから、単層TiNbO_(5)ナノシートであると認められる。
単層TiNbO_(5)ナノシートについては、「TiNbO_(5)(図2(C))」(【0025】)に示されるような、「NbO_(6)および/またはTiO_(6)の八面体のユニット200に基づいており、ユニット200が所定の配列をした二次元結晶」(【0025】)であるから、少なくともその厚さは、nm程度であって、本件補正発明の「0.5?100nm」の範囲内にあると認められる。
また、実施例3のTiNbO_(5)ナノシートコロイド溶液(引用発明1)から形成された膜の表面の原子間力顕微鏡(AFM)像を示す図21、25、30から、その幅方向のサイズは、明瞭ではないものの、本件補正発明の「0.1?500μm」の範囲内にはあると認められる。
そうすると、本件補正発明と引用発明1とは、一応の相違点Aにおいて、相違するということはできない。
仮に、その幅方向のサイズにおいて相違するとしても、ナノシートの幅方向のサイズとして本件補正発明の範囲内のものが一般的であるから(例えば、引用例2【0011】、【0021】等参照)、引用発明1の幅方向のサイズを一般的な大きさのものとすることは、当業者が容易になし得る設計事項に過ぎないと認められる。
そして、その効果が格別顕著であるとも認めることはできない。

(イ)相違点Bについて
引用発明1は、剥離前の前段階の化合物である層状チタン酸化物の水性分散体に「水酸化テトラブチルアンモニウム」(炭素数16の有機カチオン源。以下「TBA」と略記する。)を所定量添加するものであり、TBAが層間にインターカレーションすることにより層間間隔が拡大され、層間が膨潤した構造の有機カチオンを含有する薄片状酸化チタン粒子が得られ、これを振とうなどにより、層間が剥離される(必要であれば、引用例2【0003】、【0018】参照)ものであり、酸化チタンの「Ti^(4+)席の9.5?17%が欠陥になっているため、薄片状粒子の負電荷が大きい構造」(引用例2【0022】)であるから、薄片状粒子の負電荷と剥離に使用した有機カチオンの陽電荷とが粒子表面において電気的な結合を形成していると認められる。
そうすると、引用発明1のTiNbO_(5)ナノシート表面にも「炭素数が7以上である有機カチオンが存在すると認められる。
また、引用例1には、「剥離して前記薄片状チタン酸化物粒子とする前段階の化合物である層状チタン酸化物に含まれる水素に対する割合」について、剥離の進行の観点から「好ましくは、1?10の範囲」(【0045】)と、より少ない使用も可能であることが示されているし、さらに、引用例2には、有機カチオン源の「塩基性化合物の量が前記範囲より少ないと水素イオンが十分脱離せず、多いと膨潤して却って層間の剥離が困難になる」とされ「0.05?3当量の範囲が好ましく」(【0020】)ことが示唆されている。
そうすると、引用発明1におけるモル比(当量)を、剥離率やコスト等を勘案して、より少ない「0.05?3」の範囲とすることは、当業者が剥離率の必要性等に応じて適宜なし得る設計事項に過ぎないと認められる。
そして、その効果が格別顕著であるとも認めることはできない。

(ウ)相違点Cについて
従来知られた「酸化チタンナノシートを配合した水分散体」について、「表面張力の高さなど種々の影響で基材とのなじみが悪いことから、基材にコートすることは難しく、稠密単層膜は得られなかった」などの問題があることが知られていた(引用例2【0005】等を参照)。
そして、酸化チタンナノシートを配合した水分散体から誘電率5以上の極性溶媒の分散体を形成することにより、
「粒子を有機溶媒に長期間にわたって安定して分散させることができ」、「粒子を種々の用途に用いることができ、水性分散体よりも塗料…等への配合の際に有利であり、薄片状酸化チタン粒子の適用拡大を図ることができる」こと、
「溶媒を有機溶剤とすることで基材とのなじみが良くなり、基材へコートすることができるため、酸化チタン膜、特に酸化チタンナノシートの稠密単層膜、その稠密単層膜が積層した酸化チタン膜、酸化チタン膜とポリマー膜との交互積層膜などが得られ」ること、
「膜の製造も有機溶媒の使用により低温度で行うことができ、温度に脆弱な基材への適用が可能となる」こと、
などの効果があることが知られている(引用例2【0009】)。
そうすると、引用発明1の水分散体を、このような効果を奏するものとするために、引用例2に示された有機溶媒の分散体とすることは、当業者が容易になし得ることであると認められる。
そして、引用例2に記載される他、引用例3や引用例4にも記載されているとおり、極性溶媒である水に分散する金属酸化物は、同様の極性溶媒である本件補正発明の有機溶媒にも分散することが知られている。
すなわち、引用例2【0048】に、
「有機溶媒分散体は、前駆体である水性分散体中の薄片状酸化チタン粒子のバンドギャップ構造を変化させず、凝集体なども生じていない分散体であると判断できる。」
と記載されている。
引用例3【0026】には、「層間に有機カチオンが挟まれた構造」の「層状チタン酸(レピドクロサイト型層状酸化チタン)」粉体に「水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフランの各溶媒を9.9g添加して攪拌した」結果、「全ての溶液で透明溶液となっており、チタン酸ナノシートが十分に分散した分散溶液が得られたことを確認できた。」
と記載されている。なお、これらの有機溶媒は、いずれも誘電率5以上の極性溶媒である。
引用例4【0012】には、層状構造をもつモリブデン、チタン等の金属の層状構造をもつ酸化物ナノシート(【請求項1】、【請求項2】)の塗布液は「極性媒質」を用いて作成されるものであり、「極性媒質としては、通常、水のような無機極性媒質やジメチルホルムアミドやアルコール、例えばジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メチルアルコール、エチルアルコールのような有機極性溶剤を用いるのが好ましい」と記載されている。なお、これらの極性有機溶媒の誘電率5はいずれも以上である。
そうすると、本件補正発明に係る水分散体を形成できることが知られた「少なくとも一種の第三元素を含む薄片状チタン酸化物粒子」は、誘電率5以上の極性有機溶媒に分散できることは、予測される範囲内の効果であって、格別の効果である、ということはできない。

エ 理由1のまとめ
以上によれば、本件補正発明は、その出願前頒布された引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
よって、仮に、請求項1についての補正が、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するとしたとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反し、本件補正は、同第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(4)理由2(引用例2を主たる引用例とする進歩性)
ア 引用例2に記載された発明
引用例2は、「薄片状酸化チタン粒子、特に薄片状酸化チタンナノシートを有機溶媒に配合した分散体及びその製造方法」([0001])などに関するものであって、「有機カチオンを含有した薄片状酸化チタン粒子の水性分散体を遠心分離して、得られた沈降物を有機溶媒と混合し、分散させることを特徴とする有機溶媒分散体の製造方法」(請求の範囲[6])及びその製造方法によって得られる薄片状酸化チタン粒子有機溶媒分散体などについて記載するものである。
具体的な薄片状酸化チタン粒子有機溶媒分散体が、「製造例1」([0035])によって得た薄片状酸化チタン水性分散体を、「実施例1」([0036])の方法、すなわち、
「炭酸カリウム(K_(2)CO_(3))と炭酸リチウム(Li_(2)CO_(3))と二酸化チタン(TiO_(2))をK/Li/Tiのモル比にして3/1/6.5で混合し、十分に摩砕した。これを白金るつぼに移し、800℃の温度で5時間焼成し、白色のチタン酸混合アルカリ金属塩粉末を得た。
前記の白色粉末1gに対して、1規定の塩酸100cm^(3)を加え、1日間室温で攪拌しながら反応させた。その後、濾過、水洗、乾燥して、層状チタン酸化合物の粉末を得た。
次いで、層状チタン酸化合物の粉末(TiO_(2)換算で0.4g分)を、層状チタン酸中のH^(+)量に対して1中和当量の水酸化テトラブチルアンモニウムを溶解した水溶液0.1リットルに加え、シェーカーで150回転/分程度の振とうを10日間行うことにより、TiO_(2)濃度0.4重量%の薄片状酸化チタン水性分散体(試料a)を得」([0035])、
「製造例1で得た試料aを、遠心分離機(日立工機株式会社製、CP 100MX)を使用して、15,000rpmで30分間遠心分離すると、ほぼ透明な上澄み液と、ペースト状の沈降物に分かれた。透明な上澄み液の部分を捨て、捨てた溶液と同量のアセトニトリルを追加して軽く振とうすることで分散液を得た。さらに同じ条件の遠心分離操作、上澄み透明溶液の排出、アセトニトリルの追加、分散を行った。合計3回の上記操作を行い、最終的にTiO_(2)濃度0.4重量%の、市販のアセトニトリル特級試薬の含水量(0.07重量%)と同等の含水率である、本発明の有機溶媒分散体(試料A)を得」([0036])られたことが記載されている。
そうすると、引用例2には、
「K/Li/Tiのモル比3/1/6.5で混合、摩砕し、800℃の温度で5時間焼成して得た白色のチタン酸混合アルカリ金属塩粉末に塩酸を反応後、濾過、水洗、乾燥して、層状チタン酸化合物の粉末を得、次いで、この粉末(TiO_(2)換算で0.4g分)を、層状チタン酸中のH^(+)量に対して1中和当量の水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液に加え、振とうして、TiO_(2)濃度0.4重量%の薄片状酸化チタン水性分散体とし、この水性分散体に遠心分離操作、上澄み透明溶液の排出、アセトニトリルの追加、分散を行い、TiO_(2)濃度0.4重量%の0.07重量%の含水率である、有機溶媒分散体」
が記載されているといえる。
その有機溶媒分散体から実施例4において形成された酸化チタン膜(試料D)に含まれる酸化チタン粒子を示す図3、及び図3にて観察された薄片状酸化チタン粒子の厚さを解析するためにラインプロット解析を行った結果である図4によれば、薄片状酸化チタン粒子は、「約0.2μm?1.0μmの幅及び長さ」であって、高さ(厚みに相当する)が最大で約1.5nm」である([0049])ことが示されている。この厚さ、大きさからして、この粒子は「ナノシート」であるということができるから、その有機溶媒分散体は、約0.2μm?1.0μmの幅及び長さであって、厚さが最大で約1.5nmである薄片状酸化チタンナノシートの有機溶媒分散体であるということができる。
そうすると、引用例2には、
「K/Li/Tiのモル比3/1/6.5で混合、摩砕し、800℃の温度で5時間焼成して得た白色のチタン酸混合アルカリ金属塩粉末に塩酸を反応後、濾過、水洗、乾燥して、層状チタン酸化合物の粉末を得、次いで、この粉末(TiO_(2)換算で0.4g分)を、層状チタン酸中のH^(+)量に対して1中和当量の水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液に加え、振とうして、TiO_(2)濃度0.4重量%の薄片状酸化チタン水性分散体とし、この水性分散体に遠心分離操作、上澄み透明溶液の排出、アセトニトリルの追加、分散を行い、TiO_(2)濃度0.4重量%の0.07重量%の含水率である、約0.2μm?1.0μmの幅及び長さであって、厚さが最大で約1.5nmである薄片状酸化チタンナノシートの有機溶媒分散体」
の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているということができる。

イ 本件補正発明と引用発明2との対比
本件補正発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2における「薄片状酸化チタンナノシート」も、本件補正発明における「少なくとも一種の第三元素を含む薄片状チタン酸化物粒子」は、ともに、「薄片状のチタン含有酸化物粒子」であるといえる。
そして、引用発明2における「アセトニトリル」は、本件補正発明における「アセトニトリル、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エタノール、2-プロパノール、ホルムアミド、メチルエチルケトン及び1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の誘電率が5以上である、有機溶媒」に包含される。
さらに、「薄片状酸化チタンナノシート」は、引用発明2において全てが「約0.2μm?1.0μmの幅及び長さであって、厚さが最大で約1.5nmである薄片状酸化チタンナノシート」なのであるから、本件補正発明における、「その一部又は全部がナノシートの形状で、前記ナノシートの重量が前記薄片状チタン酸化物粒子の重量に対して50重量%以上であり、」及び「幅方向のサイズが0.1?500μmで、厚さが0.5?100nmであり、」に包含される。
また、引用発明2は「TiO_(2)濃度0.4重量%」の薄片状酸化チタンナノシートの有機溶媒分散体であるから、本件補正発明の「その含有量が前記有機溶媒分散体の重量に対して0.001?10重量%である」に包含される。
さらに、引用発明2において、「層状チタン酸中のH^(+)量に対して1中和当量の水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液に加え」ることは、本件補正発明の炭素数が7以上である有機カチオンを「剥離して前記薄片状チタン酸化物粒子とする前段階の化合物である層状チタン酸化物に含まれる水素に対して0.05?3当量添加する」ことに包含される。
そうすると、本件補正発明と引用発明2とは、
「アセトニトリル、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エタノール、2-プロパノール、ホルムアミド、メチルエチルケトン及び1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の誘電率が5以上である、有機溶媒及び前記有機溶媒に分散された薄片状のチタン含有酸化物粒子を含む有機溶媒分散体であって、
(2) 前記薄片状のチタン含有酸化物粒子は、その一部又は全部がナノシートの形状で、前記ナノシートの重量が前記薄片状のチタン含有酸化物粒子の重量に対して50重量%以上であり、
(3) 前記薄片状のチタン含有酸化物粒子は、幅方向のサイズが0.1?500μmで、厚さが0.5?100nmであり、
(4) 炭素数が7以上である有機カチオンの含有量が、剥離して前記薄片状チタン酸化物粒子とする前段階の化合物である層状チタン酸化物に含まれる水素に対して0.05?3当量の範囲であり、
(5) 前記薄片状のチタン含有酸化物粒子は、その含有量が前記有機溶媒分散体の重量に対して0.001?10重量%である、
前記有機溶媒分散体。」
の点において一致し、以下の点a及びbにおいて一応相違すると認められる。

a チタン含有酸化物が、本件補正発明は、「少なくとも一種の第三元素を含む前記薄片状チタン酸化物粒子は、その組成式が、Ti_(1-x)M_(x)O_(2)(0<x<0.5、MはFe、Co、Ni、Mnから選ばれる少なくとも一種)又はTiNbO_(5)、Ti_(2)NbO_(7)及びTi_(5)NbO_(14)からなる群より選ばれる少なくとも一種」であるのに対して、引用発明2は、「チタン酸化物」である点(以下、「相違点a」という。)

b 薄片状のチタン含有酸化物粒子は、本件補正発明は、「その粒子表面に、炭素数が7以上である有機カチオンを含有」するのに対して、引用発明2は、そのようなものか、明らかではない点(以下、「相違点b」という。)

ウ 相違点についての判断
(ア)相違点aについて
薄片状のチタン含有酸化物粒子は様々な用途で用いられているものであり、それぞれの用途に対応して、チタン酸化物をより好適なチタン含有酸化物に改変することが行われていることである。
例えば、引用例1には、「酸化チタンナノシート同様に優れた平滑性を有しつつ、二酸化チタンと同様、または、それより優れた光触媒性および光誘起親水化特性を発現する光触媒材料」(【0008】)等を提供する課題のもと、既存のアナターゼ等の酸化チタンよりも、高い光誘起親水化特性を示すことが確認され、セルフクリニーニング機能、防塵機能および冷却機能に有効であるTiNbO_(5)ナノシートなどを提供したことが知られている(【0027】)。
このように、引用発明2の薄片状のチタン酸化物ナノシートを、優れた光触媒性および光誘起親水化特性を発現させるために、TiNbO_(5)ナノシートに代えてみることは、当業者の通常の創作力の範囲内のことであると認められる。
そして、引用例2に記載される他、引用例3や引用例4にも記載されているとおり、極性溶媒である水に分散する金属酸化物は、同様の極性溶媒である本件補正発明の有機溶媒にも分散することが知られていることは、上記(3)理由1の項ウ(ウ)において述べたとおりである。
そうすると、本件補正発明に係る水分散体を形成できることが知られた「少なくとも一種の第三元素を含む薄片状チタン酸化物粒子」が、極性有機溶媒に分散できることは、予測される範囲内の効果であって、格別の効果である、ということはできない。

(イ)相違点bについて
引用発明2は、剥離前の前段階の化合物である層状チタン酸化物の水性分散体に「水酸化テトラブチルアンモニウム」(炭素数16の有機カチオン源。「TBA」)を所定量添加するものであり、TBAが層間にインターカレーションすることにより層間間隔が拡大され、層間が膨潤した構造の有機カチオンを含有する薄片状酸化チタン粒子が得られ、これを振とうなどにより、層間が剥離される(必要であれば、【0003】、【0018】参照)ものであり、酸化チタンの「Ti^(4+)席の9.5?17%が欠陥になっているため、薄片状粒子の負電荷が大きい構造」(【0022】)であるから、薄片状粒子の負電荷と剥離に使用した有機カチオンの陽電荷とが粒子表面において電気的な結合を形成していると認められる。
そうすると、引用発明2のナノシート表面にも「炭素数が7以上である有機カチオンが存在すると認められる。
よって、本件補正発明と引用発明2とは、一応の相違点bにおいて、相違するということはできない。

エ 理由2のまとめ
以上によれば、本件補正発明は、その出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
よって、仮に、請求項1についての補正が、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するとしたとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反し、本件補正は、同第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4 補正却下の決定のむすび
本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえず、さらに、同項他の各号に掲げる事項を目的とするものともいえないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

仮に、請求項1についての補正が、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するとしても、補正後の請求項1に記載された発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである、とはいえず、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反し、同第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、その特許請求の範囲は、平成26年9月10日付けの手続補正により補正されたとおりのものであるところ、その請求項11は、
「請求項1?6のいずれか一項に記載の有機溶媒分散体を用いて成膜されたチタン酸化物薄膜。」
であり、引用する「請求項1?6」のうち、請求項1である、
「アセトニトリル、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エタノール、2-プロパノール、ホルムアミド、メチルエチルケトン及び1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の有機溶媒及び前記有機溶媒に分散された少なくとも一種の第三元素を含む薄片状チタン酸化物粒子を含む有機溶媒分散体。」
を引用する発明を、独立形式で記載すると、
「アセトニトリル、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エタノール、2-プロパノール、ホルムアミド、メチルエチルケトン及び1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の有機溶媒及び前記有機溶媒に分散された少なくとも一種の第三元素を含む薄片状チタン酸化物粒子を含む有機溶媒分散体を用いて成膜されたチタン酸化物薄膜。」
と記載することができる(以下、「本願発明」という。)。

第4 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成26年 7月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって、拒絶をすべきものです。」というものである。
その「理由1,2」は、
「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」
及び
「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものである。
そして、原査定の備考には、
「・請求項11-13
・引用文献等1-4
引用文献1-4には、チタン骨格を第三の元素(ニオブ、コバルト等)で置換した薄片状チタン化合物を用いたチタン酸化物薄膜等が記載されている(引用文献1:特許請求の範囲、実施例、図19-24、…略…)。特に、引用文献1の図19-24には、本願の図5-8と同様に、隙間なくチタン化合物が敷き詰められた状態となっていることが示されている。
チタン薄膜が製造される際には、分散媒である有機溶媒は揮発しているので(【0045】)、本願請求項11-15に係る発明は、引用文献1-4に記載された発明に物としての差異はない。」
と記載されている。
ここで、「本願請求項11」は、「本願発明」であり、「引用文献1」は、「特開2009-292680号公報」(前記第2の3(1)アにおける「引用例1」)である。

第5 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は引用例1に記載された発明である、と判断する。

1 引用例1の記載事項
引用例1には、前記第2の3(2)アに摘示の事項が記載されている。

2 引用例1に記載された発明
引用例1の実施例3には、前記第2の3(3)アに認定した引用発明1、すなわち、
「TBA^(+)と水素イオン交換体中のH^(+)とのモル比が5:1となるように加えた水酸化テトラブチルアンモニウムの存在下に製造した、水素イオン交換体の剥離が完全に行われた、厚さ(シート厚)は、分子レベルであるのに対して、横方向の大きさはミクロンオーダであるTiNbO_(5)ナノシートが、概ね0.4wt%分散された水分散体」
を「交互吸着法を用いて…石英ガラス基板およびSi基板に付与し」て、「光触媒材料」を得たこと(【0134】)が記載されている。「交互吸着法」(【0052】?【0058】)によれば、「単層構造または多層構造からなる光触媒薄膜…を備えた光触媒材料…が得られる」(【0057】)。
また、引用例1の実施例9には、上記引用発明1を濃度調整して「シリコン(Si)基板上に、LB法を用いて、TiNbO_(5)ナノシートからなる単層構造の光触媒薄膜320(図3)が付与された光触媒材料300(図3)を製造した」こと(【0185】)が記載されている。

そうすると、引用例1には、
「引用発明1の分散体を交互吸着法あるいはLB法を用いて基板に付与して得た、TiNbO_(5)ナノシートからなる膜」
の発明(以下、「引用発明1’」という。)が記載されているということができる。

3 本願発明と引用発明1’との対比
引用発明1’と、本願発明とを対比する。
引用発明1’の原料分散液である引用発明1における「TBA^(+)と水素イオン交換体中のH^(+)とのモル比が5:1となるように加えた水酸化テトラブチルアンモニウムの存在下に製造した、水素イオン交換体の剥離が完全に行われた、厚さ(シート厚)は、分子レベルであるのに対して、横方向の大きさはミクロンオーダであるTiNbO_(5)ナノシート」は、本願発明の「少なくとも一種の第三元素を含む薄片状チタン酸化物粒子」に包含される。
また、引用発明1’の原料分散液である引用発明1は水を溶媒とする分散体であり、本願発明は特定の有機溶媒を溶媒とする分散体であるから、ともに溶媒分散体であるといえ、引用発明1の溶媒分散体の濃度0.4wt%は、濃度の規定のない本願発明の溶媒分散体に包含される。
引用発明1’の溶媒分散液を「交互吸着法あるいはLB法を用いて基板に付与して得た…膜」は、本願発明の溶媒分散液を「用いて成膜された…薄膜」に包含される。

そうすると、本願発明と引用発明1’とは、
「溶媒に分散された少なくとも一種の第三元素を含む薄片状チタン酸化物粒子を含む溶媒分散体を用いて成膜されたチタン酸化物薄膜」
である点において一致し、次の相違点C’において、一応相違する。

C’溶媒が、本願発明は「アセトニトリル、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エタノール、2-プロパノール、ホルムアミド、メチルエチルケトン及び1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の有機溶媒」であるのに対して、引用発明1’は「水」である点

しかし、これらの溶媒分散体を用いて成膜された「チタン酸化物薄膜」においては、溶媒である有機溶媒や水は揮発して存在しないと認められる。
そうすると、一応の相違点C’は、両者の相違点ではない。
よって、本願発明と引用発明1’とに相違はない。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は引用例1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上によれば、本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、この出願は、同法第49条第1項第2号に該当し、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-13 
結審通知日 2016-06-14 
審決日 2016-06-28 
出願番号 特願2010-54215(P2010-54215)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C01G)
P 1 8・ 113- Z (C01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 延平 修一  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 山本 雄一
板谷 一弘
発明の名称 薄片状チタン酸化物を配合した有機溶媒分散体及びその製造方法並びにそれを用いたチタン酸化物薄膜及びその製造方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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