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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
管理番号 1318087
異議申立番号 異議2015-700314  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-16 
確定日 2016-08-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第5738505号「イオン交換体を含む充填材の充填方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5738505号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5738505号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成13年7月10日に特許出願され、平成27年5月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 所 智恵子により特許異議の申立てがされ、当審より平成28年2月23日に取消理由が通知され、平成28年5月25日に意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
特許第5738505号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明4」と記載し、全体を総称して「本件発明」と記載する。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
イオン交換体を含む充填材を、その使用状態よりもみかけの体積が収縮した状態で電気再生式脱塩装置の脱塩室内又は濃縮室内に収納し、使用環境における充填材の体積膨張に伴う寸法変化を室壁により機械的に制限することによって充填材と室壁の間に発生する圧力を増大させる充填材の充填方法において、該充填材の飽和状態での重量含水率に対する該充填材の収縮状態の重量含水率の比率を0.3?0.7とすることを特徴とする充填材の充填方法。
【請求項2】
充填材が、互いに分離した材料の集積体からなる請求項1記載の充填材の充填方法。
【請求項3】
充填材が、成形体からなる請求項1記載の充填材の充填方法。
【請求項4】
充填材を乾燥により収縮させる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の充填材の充填方法。

第3 取消理由について
特許異議の申立ての取消理由を検討した結果、当審は、それらの内から、以下の概要の取消理由を通知すべきであると判断し、取消理由を通知した。

<取消理由(実施可能要件及びサポート要件違反)の概要>
特許異議申立書第7頁の下から6行?同第11頁最下行、特に第11頁にまとめて記載されるように、本件発明1-4に係る特許は、同発明が発明の詳細な説明に記載されたものでなく、また、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されているものでもないので、特許法第36条第6項第1号または同条第4項第1号の規定に適合しない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
すなわち、特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、「イオン交換体を含む充填体」として、【0014】や【0025】に記載されるように特定の種類の充填材が用いられることが示されているが、本件発明1は「該充填材の飽和状態での重量含水率に対する該充填材の収縮状態の重量含水率の比率を0.3?0.7とする」という特定事項により特定されるものであって、イオン交換体を含む充填材の種類を特定していないから、「イオン交換体」にはあらゆる種類の充填材が含まれる。
ここで、イオン交換体を含む充填体には種々の物性の物があり、イオン交換体の飽和状態での重量含水率や膨潤度は、合成樹脂に結合している酸性基や塩基性基の種類と濃度及び対立イオンの種類、架橋度及び温度などによって異なることから、飽和状態と収縮状態の重量含水率の比率を特定しただけでは、収縮状態の充填体の体積も、収縮状態から使用状態への膨潤過程における膨張の程度も特定できないことは技術常識といえる。
すると、本件発明1は、飽和状態に対する収縮状態の重量含水率の比率のみを規定しただけだから、上記のように、使用される充填剤によっては、例えば特許明細書【0040】に記載の「供給水のショートパスを防」ぎ、「充填材を確実に収納し、充填材の充填密度を高くし、該室を構成するイオン交換膜に損傷を与えることなく、かつイオン交換性能を有する充填材を短時間で充填」できるという効果を必ずしも奏し得ない。
したがって、特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び上記技術常識を参酌すると、充填材の種類を特定しない本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2-4についても同様である。
また、上記の技術常識を参酌すれば、特許明細書には、特定の種類の充填材が示されているだけであり、それ以外の種類の充填材についてどのようにすれば実施できるのか明らかでない。

第4 取消理由についての判断
意見書の2頁でも主張されるように、本件発明1は「イオン交換体を含む充填材を、その使用状態よりもみかけの体積が収縮した状態で電気再生式脱塩装置の脱塩室内又は濃縮室内に収納」することを発明特定事項とするものだから、「イオン交換体を含む充填材」は「電気再生式脱塩装置の脱塩室内又は濃縮室内」に用いられるべきものであることを要することは明らかであり、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2-4についても同様である。
そして、同じく意見書の2頁でも主張されるように、例えば、甲第5号証(特開平10-216729号公報)の【0003】【0023】には、「イオン交換樹脂とイオン交換膜を組み合せた自己再生型電気透析脱イオン水製造方法」の装置に用いられる「イオン交換体のイオン交換基は、陽イオン交換基としては強酸であるスルホン酸型が、陰イオン交換基としては強塩基である4級アンモニウム塩型又はピリジニウム塩型が、イオン交換性と化学的安定性の観点から好ましい。」ことが記載され、甲第6号証(特開平10-277557号公報)の【0003】【0023】には、「イオン交換樹脂とイオン交換膜を組み合せた自己再生型電気透析脱イオン水製造方法」の装置に用いられる「イオン交換樹脂粒子のイオン交換基としては、陽イオン交換基は強酸であるスルホン酸型が、陰イオン交換基は強塩基である4級アンモニウム塩型又はピリジニウム塩型が、イオン交換性と化学的安定性の観点から好ましい。」ことが記載されることから、電気再生式脱塩装置に充填されるイオン交換体は、「陽イオン交換基としては強酸であるスルホン酸型」「強塩基である4級アンモニウム塩型又はピリジニウム塩型」が用いられることは技術常識といえる。
また、このことは、本件特許明細書の【0025】に、実施例1として「球状陽イオン交換樹脂(三菱化学製、商品名ダイヤイオンSK1B、重量含水率43?50質量%)」および「球状陰イオン交換樹脂(三菱化学製、商品名ダイヤイオンSA10A、重量含水率43?47質量%)」を用いることが記載されており、これは甲第5号証の【0032】に「スルホン酸ナトリウム型(Na型)陽イオン交換樹脂(三菱化学社製、商品名:ダイヤイオンSKー1B)」、「4級アンモニウム塩型(Cl型)陰イオン交換樹脂(三菱化学社製、商品名:ダイヤイオンSAー10A)」と記載されることから、本件特許明細書に記載される「電気再生式脱塩装置の脱塩室内又は濃縮室内」に用いられる「イオン交換体を含む充填材」も上記技術常識に沿うイオン交換体を用いるものといえる。
そうであれば、本件発明1は「該充填材の飽和状態での重量含水率に対する該充填材の収縮状態の重量含水率の比率を0.3?0.7」とする「イオン交換体を含む充填材」を「電気再生式脱塩装置の脱塩室内又は濃縮室内に収納」するものと特定しているのだから、「イオン交換体を含む充填材」は上記技術常識に沿う「電気再生式脱塩装置の脱塩室内又は濃縮室内に収納」するのに適したものを意味するものと認められ、あらゆる種類の充填材が含まれるものとはいえない。
また、「電気再生式脱塩装置の脱塩室内又は濃縮室内に収納」するのに適した上記技術常識に沿うものを「イオン交換体を含む充填材」として用いることが特許明細書には実施例等として記載されており、本件発明は実施できないものともいえない。
よって、本件発明1-4に係る特許は、同発明が発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されているものでもあるので、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号の規定に適合する特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものでない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-02 
出願番号 特願2001-209213(P2001-209213)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C02F)
P 1 651・ 537- Y (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小久保 勝伊  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 後藤 政博
中澤 登
登録日 2015-05-01 
登録番号 特許第5738505号(P5738505)
権利者 ジーイー ウォーター アンド プロセス テクノロジーズ カナダ
発明の名称 イオン交換体を含む充填材の充填方法  
代理人 荒川 聡志  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  

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