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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1318088
異議申立番号 異議2016-700219  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-15 
確定日 2016-08-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第5780308号発明「電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5780308号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5780308号の請求項1?4に係る特許についての出願は、2011年9月27日を国際出願日とする出願であって、平成27年7月24日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人大佐田宏良により特許異議の申立てがなされたものである。

2 本件発明
特許第5780308号の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
開口を有し、この開口をなす開口縁部を含むケース本体部材、及び、
自身を貫通する貫通孔を有し、上記ケース本体部材の上記開口縁部に自身の周縁部を結合させて、上記開口を封口するケース蓋部材からなる
電池ケースと、
上記貫通孔に挿通された軸部、及び、
上記電池ケースの外側で上記軸部に連なり、上記軸部より径大な外鍔部を有し、
上記貫通孔に係合するリベットと、
環状で熱可塑性樹脂又はゴム状弾性体からなるガスケットと、を備え、
上記電池ケースの外側を向く上記ケース蓋部材の外表面のうち上記貫通孔の周縁に位置する周縁外表面と上記リベットの上記外鍔部との間に、これらに密着する上記ガスケットを介在させて、上記貫通孔を気密に封止してなる電池であって、
上記ケース蓋部材は、
自身の上記周縁部を上記ケース本体部材の上記開口縁部に結合させた状態において、
上記周縁外表面が、上記周縁部から上記貫通孔の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に突出し、上記周縁部及び上記開口縁部よりも、上記貫通孔の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置する形態を有する
電池。
【請求項2】
請求項1に記載の電池であって、
前記電池ケースよりも前記軸線の径方向外側から、上記軸線の径方向内側に向かって、上記電池ケースを観察したとき、前記周縁外表面と前記外鍔部との間に介在した状態における前記ガスケットの外周面のうち、上記周縁外表面に接する端縁である外表面側端縁を視認しうる位置を、第1位置とし、
上記電池ケースよりも上記軸線の径方向外側で、上記第1位置と上記軸線の周方向について同じ角度位置で、上記第1位置よりも上記軸線外側方向の位置から、上記軸線の径方向内側に向かって、上記電池ケースを観察したとき、上記周縁外表面と上記外鍔部との間に介在した状態における上記ガスケットの上記外周面のうち、上記外鍔部に接する端縁である外鍔部側端縁を視認しうる位置を、第2位置としたとき、
上記電池ケースの上記ケース本体部材及び上記ケース蓋部材、並びに、上記リベットの上記外鍔部は、
上記第1位置及び上記第2位置が存在する形態とされてなる
電池。
【請求項3】
請求項2に記載の電池であって、
前記ケース蓋部材の前記周縁外表面は、
前記軸線に直交する平坦な面であり、
前記リベットの前記外鍔部のうち、上記周縁外表面と対向する外鍔部内側面は、前記ガスケットに当接する当接部を含み、
上記外鍔部内側面のうち、少なくとも上記当接部は、
上記軸線に直交する平坦な面である
電池。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の電池であって、
前記リベットの前記外鍔部は、
前記ガスケットの前記外鍔部側端縁よりも径方向外側の部位が、全周に亘り、上記外鍔部側端縁よりも前記軸線外側方向に位置する形態とされてなる
電池。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人大佐田宏良は、主たる証拠として特開2010-277936号公報(以下、「刊行物1」という。)、並びに、従たる証拠として特開平9-129215号公報(以下、「刊行物2」という。)、特開平11-135082号公報(以下、「刊行物3」という。)、特開2008-78053号公報(以下、「刊行物4」という。)、及び、実願昭57-140640号(実開昭59-44027号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物5」という。)を提出し、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4 刊行物の記載
(1)刊行物1の記載
刊行物1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液注入孔をパッキン(ガスケット)を介在させてブラインドリベットで封止するようにした密閉電池に関し、特に、電解液注入工程の際に電解液注入孔の周縁部表面に付着残留した電解液が、電解液注入孔の周縁部表面とガスケットとの間から浸み出すことを抑制できるようにした密閉電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、携帯型パーソナルコンピュータ、携帯型音楽プレイヤー等の携帯型電子機器の駆動電源には、ニッケル水素電池に代表されるアルカリ二次電池やリチウムイオン電池に代表される非水電解質二次電池などの密閉電池が多く使用されている。
【0003】
従来の一般的な密閉電池50は、図5に示されるように、電極体等の発電要素が収容された外装缶1と、外装缶1の上方開口部を封口する封口板2と、封口板2の両側からそれぞれ突出される2本の外部電極端子3a,3bとを備えている。更に、封口板2には、外装缶1内の圧力が高まったときに内圧を開放するガス排出弁4が設けられていると共に、外装缶1内に電解液を注入するための電解液注入孔5が設けられている。
【0004】
なお、図5においては、電解液注入孔5は直接示されておらず、電解液注入孔5を封止するブラインドリベット(以下単に「リベット」という)6の鍔部のみが示されている。このように、電解液注入孔5はリベット6により開口を封止されており、これにより、注入した電解液が外装缶1から漏れ出さないようにされている(例えば特許文献1、2参照)。
【0005】
このような従来例の密閉電池におけるリベットによる電解液注入孔の封止構造を図6に示す。なお、図6Aは従来例の密閉電池50の平面図であり、図6Bは図6AのVIB-VIB線で示される電解液注入孔付近の断面図であり、図6Cは注液口に取り付けられたリベットをカシメる前の図6Bに対応する部分の断面図である。この電解液注入孔5の周縁部表面には、電解液注入孔5を取り囲むようにして缶軸方向にせり出す環状凸部7が形成されている。
【0006】
図6Bに示されているように、リベット6は、アルミニウム製であり、電解液注入孔5に挿通された軸部6aと、電解液注入孔5の周縁部表面を覆う鍔部6bと、かしめ部6cを有しており、鍔部6bと封口板2との間に環状のガスケット8を挟んで封口板2にカシメ固定されている。そして、電解液注入孔5とリベット6との間には、環状のガスケット8が介在されている。このガスケット8の内周部分8aは環状凸部7とリベット6の鍔部6bにより部分的に強く圧縮されているため、電解液注入孔5のシール性が高く維持されている。
【0007】
なお、このリベット6のカシメ部6cの形成は、例えば下記特許文献2にも開示されているように、以下のようにして行われる。すなわち、図6Cに示したように、先端に拡径部6dが、この拡径部6dの上部に縮径部6eがそれぞれ形成されたステンレススチール製の芯軸部6fが内部に配置されていると共に鍔部6bが形成されたリベット6を用意する。このリベット6は、電解液注入口5内に挿入される筒状の軸部6aを有し、軸部6aの先端部は袋状となっている。このリベット6の軸部6aの外周に環状のガスケット8を嵌合させ、鍔部6bと封口板2との間に環状ガスケット8が配置されるように、リベット6の軸部6aを電解液注入口5内に挿入する。
【0008】
次いで、リベット6の鍔部6bを封口板2側に押圧しながら芯軸部6fを上方に引っ張ると、芯軸部6fの先端の拡径部6dが上方に移動するので、リベット6の軸部6aの先端の袋状の部分が拡径してカシメ部6cが形成され、リベット6が電解液注入孔5内に固定されるとともに、リベット6の芯軸部6fが拡径部6dの上部に形成された縮径部6eで切断される。その結果、リベット6によって電解液注入口5を液密に封止することができるようになる。なお、図6Bにおいては、本来リベット6の内部には空隙が形成されていると共に、芯軸部6fの拡径部6dが残留しているが、図示省略してある。」
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、電解液注入孔5の周縁部表面に環状凸部7を形成すると、この環状凸部7とガスケット8の内周部分8aは環状凸部7とリベット6の鍔部6bにより部分的に強く圧縮されるので、電解液注入孔5のシール性が高まる。しかしながら、図6Bに示したように、環状凸部7で部分的に圧縮されていないガスケットの外周部分8bが下方へと屈曲し、側端部のみが封口板2に当接した状態となる場合がある。そうするとガスケットの外周部分8bと封口板2の表面との間に密閉空間Sが形成されてしまう。
【0011】
通常、電解液の注入工程においては電解液注入孔5の周縁部表面に電解液が付着して残
留するため、この付着した電解液を除去するために電解液注入孔5の封止後に洗浄が行われるが、上記密閉空間S内に電解液が残留した場合にはかかる洗浄によって除去することができない。しかも、洗浄後にも密閉空間Sに残留した電解液は、洗浄工程後に徐々にガスケット8の外側に浸み出てくるので、ガスケット8の外側に変色部が生じてしまい、密閉電池10の外観を損ねる要因となる。」

イ 図面の記載
「【図5】


「【図6】



ウ 上記アの記載事項の【0003】?【0004】には、「従来の一般的な密閉電池50」についての記載があり、この記載に続き、上記アの記載事項の【0005】?【0008】には、「このような従来例の密閉電池におけるリベットによる電解液注入孔の封止構造」が記載されているから、【0003】?【0004】の記載と【0005】?【0008】の記載とは、同じ密閉電池50についての記載であるということができる。

エ 「密閉電池50」は、上記アの記載事項の【0003】より、上方開口部を有する外装缶1と、外装缶1の上方開口部を封口し、電解液注入孔5が設けられている封口板2とを備えているといえる。

オ 「密閉電池50」は、上記イの記載事項の図6Bより、リベット6の軸部6aは鍔部6bにつながっていることが視認できるところ、上記アの記載事項の【0007】の「リベット6の軸部6aの外周に環状のガスケット8を嵌合させ」るとの記載、及び、上記アの記載事項の【0006】の「鍔部6bと封口板2との間に環状のガスケット8を挟んで封口板2にカシメ固定されている」との記載からすると、リベット6の軸部6aは封口板2の上方まで伸びているといえるから、リベット6の軸部6aが鍔部6bとつながっている箇所は、封口板2の上方であるといえる。

カ 「密閉電池50」は、上記アの記載事項の【0006】及びオより、電解液注入孔5に挿通された軸部6aと、電解液注入孔5の周縁部表面を覆い、軸部6aと封口板2の上方でつながっている鍔部6bと、かしめ部6cを有しており、鍔部6bと封口板2との間に環状のガスケット8を挟んで封口板2にカシメ固定されているリベット6を備えているといえる。

キ 「密閉電池50」は、上記アの記載事項の【0005】より、電解液注入孔5を取り囲むようにして缶軸方向にせり出す環状凸部7が形成されており、かつ、上記エより、電解液注入孔5は封口板2に設けられているから、電解液注入孔5を取り囲むようにして缶軸方向にせり出す、封口板2に設けられた環状凸部7を備えているといえる。

ク 「密閉電池50」は、上記アの記載事項の【0006】より、ガスケット8の内周部分8aは環状凸部7とリベット6の鍔部6bにより部分的に強く圧縮されているため、電解液注入孔5のシール性が高く維持されているといえる。

ケ 上記ウ?クから、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「上方開口部を有する外装缶1と、外装缶1の上方開口部を封口し、電解液注入孔5が設けられている封口板2とを備え、
電解液注入孔5に挿通された軸部6aと、電解液注入孔5の周縁部表面を覆い、軸部6aと封口板2の上方でつながっている鍔部6bと、かしめ部6cを有し、鍔部6bと封口板2との間に環状のガスケット8を挟んで封口板2にカシメ固定されているリベット6を備え、
電解液注入孔5を取り囲むようにして缶軸方向にせり出す、封口板2に設けられた環状凸部7を備え、
ガスケット8の内周部分8aは環状凸部7とリベット6の鍔部6bにより部分的に強く圧縮されているため、電解液注入孔5のシール性が高く維持されている、
密閉電池50。」

(2)刊行物2の記載
刊行物2には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、蓄電池に関し、特に、蓄電池の蓋の構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から、蓄電池は広く知られている。図4は、従来の蓄電池の一例を示す斜視図である。図4を参照して、蓄電池1は、電槽(二点鎖線で示す)と、蓋6とを備える。蓋6の上面には、プラスチックからなる液口栓が螺合されるねじ部2が立上がるように形成される。そして、ねじ部2の上面2aは、ほぼ平坦な形状を有する。また、蓋6の所定位置には、端子3が取付けられる。
【0003】次に、図5および図6を用いて、上記のねじ部2に螺合されていた従来の液口栓4について説明する。図5は、電解液の漏れ防止用のゴムパッキン5を有する従来の液口栓4をねじ部2に螺着している様子を示す断面図である。図6は、頭部4aの下面に電解液の漏れ防止用の突起部4cが設けられた液口栓4をねじ部2に螺着している様子を示す断面図である。」

イ 図面の記載
「【図4】


「【図5】



ウ 上記アの記載事項の【0002】及び【0003】には、図4?6を引用して「蓄電池1」について説明されているから、上記イの記載事項の図4及び図5に示されたものも、「蓄電池1」に関するものであることは明らかである。

エ 「蓄電池1」に関し、上記アの記載事項の【0002】には、「蓄電池1は、電槽(二点鎖線で示す)と、蓋6とを備える」と記載されているから、上記イの記載事項の図4において、蓋6の下方に設けられ、二点鎖線で示された略直方体のものが「電槽」であると認められる。
そして、「蓄電池1」は、上記イの記載事項の図4からすると、電槽の開口縁部が蓋6の上面よりもねじ部2の上面2aの突出方向にあることはありえないから、ねじ部2の上面2aが、蓋6の上面から突出しており、蓋6の上面と同じ高さの蓋6の周縁部及び電槽の開口縁部よりも、ねじ部2の軸線に沿い電槽の外側を向く軸線外側方向に位置することが視認できるといえる。

オ 「蓄電池1」は、上記アの記載事項の【0002】及び【0003】より、電槽と蓋6を備える蓄電池1において、蓋6の上面には、電解液の漏れ防止用のゴムパッキン5を有する液口栓4が螺合されるねじ部2が形成されるものといえる。

カ 上記エ及びオからすると、刊行物2には以下の事項が記載されている。
「電槽と蓋6を備える蓄電池1において、蓋6の上面には、電解液の漏れ防止用のゴムパッキン5を有する液口栓4が螺合されるねじ部2が形成され、
ねじ部2の上面2aが、蓋6の上面から突出しており、蓋6の上面と同じ高さの蓋6の周縁部及び電槽の開口縁部よりも、ねじ部2の軸線に沿い電槽の外側を向く軸線外側方向に位置する事項。」

(3)刊行物3の記載
刊行物3には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、角形電池と円筒形電池とでは、電解液の注入方法が大きく異なり、円筒形電池の場合、予め電解液を注入した後に蓋体を取り付けて密閉するのに対して、角形電池の場合、蓋体や外装缶に電解液注入口を設けておき、蓋体を取り付けた後にこの注入口から電解液を注入するという方法が採用されている。
【0006】例えば、角形密閉式電池では、発電要素を内蔵した金属製の外装缶の開口部に金属製の蓋体をレーザにより溶接して固定し、蓋体に設けた注液口から電解液を注入した後、注液口を溶接封口するという方法が広く行われている。このとき、封口の方法としては、金属球を押圧して抵抗溶接する方法が一般的である。
【0007】しかしながら、蓋体の注液口に金属球を押圧して抵抗溶接する方法では、溶接部に微小なピンホールが発生して、電池を密閉できない場合がある。
【0008】この原因としては、注液口に金属球を押圧したときに蓋体が変形し、溶融した金属が均一に周囲に広がらず偏りを生ずることが挙げられる。
【0009】これを解消するために、溶接封口工程において、押圧力や溶接条件を調整したり、蓋体の板厚を大きくして蓋体の変形を抑えることが考えられるが、前者では例えば製造現場で電池の機種毎に条件設定をしなければならず煩雑であるという問題が、後者では電池重量が増大するという問題がある。
【0010】本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであって、工数の増加や電池重量の増大をもたらすことなく、封口工程における溶接不良を確実に防止することができる角形密閉式電池を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するために、本発明は、外装缶内に発電要素を収容し、蓋体により密閉してなる角形密閉式電池において、上記外装缶または蓋体に電解液の注入口が設けられ、上記外装缶または蓋体の注入口形成部分が外方に向かって突出する突部とされていることを特徴とするものである。
【0012】外装缶または蓋体の注入口形成部分を突部とすることにより、この部分の強度が確保され、溶接封口工程で電極に押圧されることによる変形が抑えられる。その結果、溶接封口工程において溶融した金属球が偏り無く周囲に広がり、微小なピンホールの発生等が抑制される。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明を適用した電池の構成について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】図1は、本発明を適用した角形密閉式電池の一例を示すものである。この電池の基本構造は通常の角形密閉式電池と同じであり、外装缶1内に発電要素(正極及び負極をセパレータを介して積層したもの。図示は省略する。)を収容し、当該外装缶1の開口部を蓋板2で塞いでなるものである。
【0015】上記蓋板2は、鋼板を打ち抜いた後、絞り加工等によって外装缶1の開口部に合わせた形状に成形され、対極の端子3を挿入する端子孔4と、電解液の注入口5とを備える。
【0016】そして、この蓋板2の端子孔4には、ガスケット6を介して端子3が挿入され、先端をかしめることで蓋板2に固定一体化され、電池の一方の電極を構成している。例えば、電池缶1内に収容される発電要素のうちの正極と電気的に接続することで、正極端子として機能する。
【0017】なお、端子3の取り付け構造はこれに限られるものではなく、蓋板2に対して電気的な絶縁が保たれ、電池内部の密閉を保つような構造であれば構わない。また、蓋板2の作製方法も、上記絞り加工に限定されるものではなく、任意の作製方法を採用することができる。
【0018】一方、電解液の注入口5の周縁の形状は、外方(図中上方)に向かって突出する凸形状とされており、この蓋板2の突部7に注入口5が形成された形になっている。したがって、電解液の注入口5は、蓋板2の板面2aよりも少し高いところに位置する。
【0019】上記蓋板2の突部7は、例えば蓋板2を外装缶1の開口部に合わせて絞り加工する際に同時に形成することができ、機械加工により蓋板2を叩き出すことにより容易に形成することができる。
【0020】また、上記突部7の形状は任意であるが、ここでは円錐台形状とし、その中心に注入口5が形成されるようにした。
【0021】上述の電池を作製する際には、先ず、上記外装缶1内に発電要素を入れた後、その開口部に蓋板2をレーザ溶接法により溶接固定する。そして、蓋板2に設けた注入口5より電解液を注入し、不織布等により余分な電解液を拭き取った後、図1に示すように、注入口5に金属球8を載せ、電極棒9で押圧しながら電流を流し、金属球8を溶かして溶接封口する。」

イ 図面の記載
「【図1】



ウ 上記アの記載事項の【0005】?【0021】には、「角形密閉式電池」に関することが記載されており、これらの記載から、上記イの記載事項の図1に示されたものも、「角形密閉式電池」に関するものであるといえる。

エ 「角形密閉式電池」は、上記アの記載事項の【0014】及び【0015】より、外装缶1の開口部を蓋板2で塞いでなる角形密閉式電池において、蓋板2は、電解液の注入口5を備えるものといえる。

オ 上記アの記載事項の【0018】の「外方(図中上方)に向かって突出する凸形状」は、上記アの記載事項の【0012】からすると、外装缶または蓋体の注入口形成部分の部分の強度が確保され、溶接封口工程で電極に押圧されることによる変形が抑えられるためのものといえる。
そうすると、「角形密閉式電池」は、強度を確保し、溶接封口工程で電極に押圧されることによる変形を抑えるために、電解液の注入口5の周縁の形状は、外方に向かって突出する凸形状とされており、この蓋板2の突部7に注入口5が形成された形になっているものといえる。

カ 「角形密閉式電池」は、上記アの記載事項の【0021】より、電池を作製する際には、蓋板2に設けた注入口5より電解液を注入した後、注入口5に金属球8を載せ、電極棒9で押圧しながら電流を流し、金属球8を溶かして溶接封口するものといえる。

キ 「角形密閉式電池」に関し、上記イの記載事項の図1から、突部7は、蓋板の上面と同じ高さの蓋板2の周縁部及び外装缶1の開口縁部よりも、注入口5の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置することが視認できる。

ク 上記エ?キからすると、刊行物3には以下の事項が記載されている。
「外装缶1の開口部を蓋板2で塞いでなる角形密閉式電池において、蓋板2は、電解液の注入口5を備え、
強度を確保し、溶接封口工程で電極に押圧されることによる変形を抑えるために、電解液の注入口5の周縁の形状は、外方に向かって突出する凸形状とされており、
この蓋板2の突部7に注入口5が形成された形になっており、突部7は、蓋板の上面と同じ高さの蓋板2の周縁部及び外装缶1の開口縁部よりも、注入口5の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置し、
電池を作製する際には、蓋板2に設けた注入口5より電解液を注入した後、注入口5に金属球8を載せ、電極棒9で押圧しながら電流を流し、金属球8を溶かして溶接封口する事項。」

(4)刊行物4の記載
刊行物4には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【0001】
本発明は、電槽蓋の注液口に螺着して装着する液栓を備えた鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車用の液式の鉛蓄電池の一例を図4に示す。この鉛蓄電池は、電槽1の上端開口部を電槽蓋2で塞いだものである。電槽1は、樹脂製の方形の容器状であり、内部が隔壁によって6箇所のセル室に仕切られている。電槽蓋2は、この電槽1の上端開口部に熱溶着等により接合することにより、この電槽1の内部を各セル室ごとに封止するようになっている。また、この電槽蓋2の上面には、インサート成形によって埋め込まれた鉛や鉛合金等からなる正極端子3と負極端子4の上端部が突出している。
【0003】
上記電槽蓋2には、6箇所の注液口2aが開口している。注液口2aは、開口部の内周面に雌ねじ部2bが形成され、その奥が電槽1内のセル室に通じるようになっている。この注液口2aは、電槽1内のセル室に電解液を注液するためものであり、鉛蓄電池の使用中に電解液が減少した場合にも、ここから補水を行うようになっている。
【0004】
上記注液口2aには、液栓5が装着される。液栓5は、上端部の円盤状の頭部5aと、この頭部5aの下方に突出する筒部5bと、この筒部5bの上部外周に形成された雄ねじ部5cとからなる。頭部5aの上面には、液栓5を締め付けたり緩めるためのコイン溝と、排気口(極めて小さいため図示を省略)とが形成されている。筒部5bは、下端が開口する筒状の部分であり、この筒内の空間は頭部5aの排気口に通じるようになっている。また、この筒部5bの筒内には、電解液が頭部5aの排気口から漏れ出すのを防ぐための図示しない防沫体が収納される。雄ねじ部5cは、上記注液口2aの雌ねじ部2bに螺着するための雄ねじが形成された部分である。
【0005】
上記構成の液栓5は、図5(a)に示すように、筒部5bを電槽蓋2の注液口2aに挿入し、頭部5aを回すことにより雄ねじ部5cを注液口2aの雌ねじ部2bにねじ込んで装着する。そして、これにより、液栓5は、図5(b)に示すように、頭部5aをパッキン6を介して注液口2aの周縁部に圧接することにより封口する。」

イ 図面の記載
「【図4】


「【図5】



ウ 上記アの記載事項の【0002】?【0005】には、「鉛蓄電池」に関することが記載されており、これらの記載から、上記イの記載事項の図4及び図5に示されたものも、「鉛蓄電池」に関するものであるといえる。

エ 「鉛蓄電池」は、上記アの記載事項の【0002】から、電槽1の上端開口部を電槽蓋2で塞いだ鉛蓄電池であるといえる。

オ 「鉛蓄電池」は、上記アの記載事項の【0003】から、電槽蓋2には、6箇所の注液口2aが開口しているものといえる。

カ 「鉛蓄電池」は、上記アの記載事項の【0004】から、液栓5が、上端部の円盤状の頭部5aと、この頭部5aの下方に突出する筒部5bと、この筒部5bの上部外周に形成された雄ねじ部5cとからなるものといえる。

キ 「鉛蓄電池」は、上記アの記載事項の【0005】から、液栓5が、筒部5bを電槽蓋2の注液口2aに挿入し、頭部5aを回すことにより雄ねじ部5cを注液口2aの雌ねじ部2bにねじ込んで装着し、頭部5aをパッキン6を介して注液口2aの周縁部に圧接することにより封口するものといえる。

ク 「鉛蓄電池」は、上記イの記載事項の図4からすると、電槽蓋2の注入口2aの周辺部が、電槽蓋2の表面よりも突出しており、電槽蓋2の上面と同じ高さの電槽蓋2の周縁部及び電槽1の開口縁部よりも、注入口2aの軸線に沿い電槽蓋2の外側を向く軸線外側方向に位置することが視認できる。

ケ 上記エ?クからすると、刊行物4には以下の事項が記載されている。
「電槽1の上端開口部を電槽蓋2で塞いだ鉛蓄電池において、電槽蓋2には、6箇所の注液口2aが開口しており、
注液口2aには、液栓5が装着され、液栓5は、上端部の円盤状の頭部5aと、この頭部5aの下方に突出する筒部5bと、この筒部5bの上部外周に形成された雄ねじ部5cとからなり、液栓5は、筒部5bを電槽蓋2の注液口2aに挿入し、頭部5aを回すことにより雄ねじ部5cを注液口2aの雌ねじ部2bにねじ込んで装着し、頭部5aをパッキン6を介して注液口2aの周縁部に圧接することにより封口し、
電槽蓋2の注入口2aの周辺部は、電槽蓋2の表面よりも突出しており、電槽蓋2の上面と同じ高さの電槽蓋2の周縁部及び電槽1の開口縁部よりも、注入口2aの軸線に沿い電槽蓋2の外側を向く軸線外側方向に位置する事項。」

5 対比・判断
(1)本件特許発明1について
まず、本件特許発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「上方開口部を有する外装缶1」、「外装缶1の上方開口部を封口」する「封口板2」、「電解液注入孔5」、「封口板2に設けられた環状凸部7」及び「密閉電池50」は、本件特許発明1の「開口を有」する「ケース本体部材」、「ケース本体部材」の「開口を封口するケース蓋部材」、「貫通孔」、「ケース蓋部材」の「貫通孔の周縁に位置する周縁外表面」及び「電池」にそれぞれ相当する。
(イ)引用発明の「外装缶1」及び「封口板2」の両方で、本件特許発明1の「電池ケース」に相当する。
また、引用発明の「外装缶1」は、「上方開口部を有する」からその開口部に開口縁部を含むことは明らかである。
さらに、引用発明の「外装缶1の上方開口部を封口」する「封口板2」は、「外装缶1」の開口縁部に自身の周縁部を結合させていることは自明である。
そうすると、引用発明の「上方開口部を有する外装缶1と、外装缶1の上方開口部を封口し、電解液注入孔5が設けられている封口板2とを備えて」いることは、本件特許発明1の「開口を有し、この開口をなす開口縁部を含むケース本体部材、及び、自身を貫通する貫通孔を有し、上記ケース本体部材の上記開口縁部に自身の周縁部を結合させて、上記開口を封口するケース蓋部材からなる電池ケース」「を備え」ていることに他ならない。
(ウ)引用発明の「リベット6」の「電解液注入孔5に挿通された軸部6a」は、本件特許発明1の「リベット」の「貫通孔に挿通された軸部」に相当する。
(エ)引用発明の「リベット6」の「鍔部6b」は、「軸部6aと封口板2の上方でつながっている」から、本件特許発明1の「電池ケースの外側で上記軸部に連な」る構成を有する。
また、引用発明の「リベット6」の「鍔部6b」は、「電解液注入孔5の周縁部表面を覆」うものであって、「電解液注入孔5に挿通された軸部6a」よりも径大であるといえるから、本件特許発明1の「軸部より径大な」構成を有する。
そうすると、引用発明の「リベット6」の「電解液注入孔5の周縁部表面を覆い、軸部6aと封口板2の上方でつながっている鍔部6b」は、本件特許発明1の「リベット」の「電池ケースの外側で上記軸部に連なり、上記軸部より径大な外鍔部」に相当する。
(オ)引用発明の「リベット6」は、「電解液注入孔5に挿通された軸部6aと、」「軸部6aと封口板2の上方でつながっている鍔部6bと、かしめ部6cを有し、」「封口板2にカシメ固定されている」ものであるから、本件特許発明1の「貫通孔に係合する」構成を有する。
(カ)上記(ウ)?(オ)より、引用発明の「電解液注入孔5に挿通された軸部6aと、電解液注入孔5の周縁部表面を覆い、軸部6aと封口板2の上方でつながっている鍔部6bと、かしめ部6cを有し、鍔部6bと封口板2との間に」「封口板2にカシメ固定されているリベット6を備え」ていることは、本件特許発明1の「貫通孔に挿通された軸部、及び、上記電池ケースの外側で上記軸部に連なり、上記軸部より径大な外鍔部を有し、上記貫通孔に係合するリベット」「を備え」ることに相当する。
(キ)引用発明の「環状のガスケット8」と、本件特許発明1の「環状で熱可塑性樹脂又はゴム状弾性体からなるガスケット」とは、「環状」の「ガスケット」である点で一致する。
(ク)引用発明の「電解液注入孔5を取り囲むようにして缶軸方向にせり出す、封口板2に設けられた環状凸部7を備え、ガスケット8の内周部分8aは環状凸部7とリベット6の鍔部6bにより部分的に強く圧縮されている」ことにおいて、「ガスケット8の内周部分8a」が「環状凸部7とリベット6の鍔部6bにより」「強く圧縮されている」のは「部分的」ではあるが、引用発明と本件特許発明1とは、「貫通孔の周縁に位置する周縁外表面と上記リベットの上記外鍔部との間に、これらに密着する上記ガスケットを介在させ」ることで共通するものといえるから、引用発明の「電解液注入孔5を
取り囲むようにして缶軸方向にせり出す、封口板2に設けられた環状凸部7を備え、ガスケット8の内周部分8aは環状凸部7とリベット6の鍔部6bにより部分的に強く圧縮されている」ことは、本件特許発明1の「電池ケースの外側を向く上記ケース蓋部材の外表面のうち上記貫通孔の周縁に位置する周縁外表面と上記リベットの上記外鍔部との間に、これらに密着する上記ガスケットを介在させ」ることに含まれる。
(ケ)引用発明の「電解液注入孔5のシール性が高く維持されている」ことは、本件特許発明1の「貫通孔を気密に封止してなる」ことに相当する。
(コ)引用発明の「環状凸部7」が、「封口板2」の周縁部及び「外装缶1の上方開口部」よりも、「電解液注入孔5」の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置するか否か、すなわち、引用発明が、本件特許発明1の「ケース蓋部材は、自身の上記周縁部を上記ケース本体部材の上記開口縁部に結合させた状態において、」「周縁部及び上記開口縁部よりも、上記貫通孔の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置する形態を有する」ことを含むものか否かを、以下、検討する。
引用発明は、「上方開口部を有する外装缶1と、外装缶1の上方開口部を封口し、電解液注入孔5が設けられている封口板2とを備えて」いるものであるが、「外装缶1」と「封口板2」とがどのように結合しているのか不明であるから、「環状凸部7」と「封口板2」の周縁部及び「外装缶1の上方開口部」との「電解液注入孔5」の軸線に沿う位置関係が不明である。
すなわち、刊行物1には、図5が「従来の密閉電池の全体外観図である」(【0027】)と記載されているものの、図5は明らかに細部を正確に表現した図ではないし、引用発明において、例えば、特開2011-76865号公報(図1及び図4参照。)や特開2011-212711号公報(図1?3参照。)に示されているように、「封口板2」の外縁部が突出しているのか、それとも、特開2012-79476号公報の図1及び図2に示されているように、「封口板2」の外縁部が平坦であるのか、「外装缶1」と「封口板2」とが具体的にどのように結合しているのか不明であるから、引用発明は、「環状凸部7」と「封口板2」の周縁部及び「外装缶1の上方開口部」との「電解液注入孔5」の軸線に沿う位置関係が不明である。
そうすると、引用発明は、本件特許発明1の「ケース蓋部材は、自身の上記周縁部を上記ケース本体部材の上記開口縁部に結合させた状態において、」「周縁部及び上記開口縁部よりも、上記貫通孔の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置する形態を有する」ことを含むとまではいえないが、引用発明は、「電解液注入孔5を取り囲むようにして缶軸方向にせり出す、封口板2上に設けられた環状凸部7を備え」るものであるから、本件特許発明1の「ケース蓋部材は、自身の上記周縁部を上記ケース本体部材の上記開口縁部に結合させた状態において、上記周縁外表面が、」「上記貫通孔の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向」に突出することを含むものである。

上記(ア)?(コ)によれば、本件特許発明1と引用発明とは、
「開口を有し、この開口をなす開口縁部を含むケース本体部材、及び、
自身を貫通する貫通孔を有し、上記ケース本体部材の上記開口縁部に自身の周縁部を結合させて、上記開口を封口するケース蓋部材からなる
電池ケースと、
上記貫通孔に挿通された軸部、及び、
上記電池ケースの外側で上記軸部に連なり、上記軸部より径大な外鍔部を有し、
上記貫通孔に係合するリベットと、
環状のガスケットと、を備え、
上記電池ケースの外側を向く上記ケース蓋部材の外表面のうち上記貫通孔の周縁に位置する周縁外表面と上記リベットの上記外鍔部との間に、これらに密着する上記ガスケットを介在させて、上記貫通孔を気密に封止してなる電池であって、
上記ケース蓋部材は、
自身の上記周縁部を上記ケース本体部材の上記開口縁部に結合させた状態において、
上記周縁外表面が、上記貫通孔の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に突出する
電池。」で一致し、以下ア及びイの点で相違する。

(相違点)
ア 「ガスケット」が、本件特許発明1では、「熱可塑性樹脂又はゴム状弾性体からなる」のに対し、引用発明では、どのような材料からなるか不明である点。
イ 「ケース蓋部材は、自身の上記周縁部を上記ケース本体部材の上記開口縁部に結合させた状態において、」本件特許発明1では、「周縁外表面が、上記周縁部から上記貫通孔の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に突出し、上記周縁部及び上記開口縁部よりも、上記貫通孔の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置する形態を有する」のに対し、引用発明では、「環状凸部7」が、「電解液注入孔5を取り囲むようにして缶軸方向にせり出」しているものの、「封口板2」の周縁部との位置関係が不明であり、該周縁部及び「外装缶1の上方開口部」よりも、「電解液注入孔5」の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置する形態を有するか不明である点。

以下、上記ア及びイの相違点について検討するに、まず上記イの相違点から検討する。
刊行物2には、「電槽と蓋6を備える蓄電池において、蓋6の上面には、電解液の漏れ防止用のゴムパッキン5を有する液口栓4が螺合されるねじ部2が形成され、ねじ部2の上面2aが、蓋6の上面から突出しており、蓋6の上面と同じ高さの蓋6の周縁部及び電槽の開口縁部よりも、ねじ部2の軸線に沿い電槽の外側を向く軸線外側方向に位置する事項」(上記「4」「(2)」「カ」参照。)が記載されている。
ここで、刊行物2に記載された事項の「液口栓4」は、その名称から「液口」を塞ぐものであることは明らかであるから、引用発明の「リベット6」と、「液口」(引用発明の「電解液注入孔5」に相当。)を塞ぐ点で共通するものである。
そこで、引用発明の「電解液注入孔5」において、刊行物2に記載された事項の「ねじ部2」の如く、「ねじ部2の上面2aが、蓋6の上面から突出しており、蓋6の上面と同じ高さの蓋6の周縁部及び電槽の開口縁部よりも、ねじ部2の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置する」ことを適用できるか否かを検討する。
まず、引用発明の「リベット6」と刊行物2に記載された事項の「液口栓4」との固定方法を比較するに、引用発明の「リベット6」は、その「軸部6a」が「電解液注入孔5に挿通され」、「カシメ固定され」るものであって、一度封止するとそのまま封止しておくことが前提となるものであるのに対し、引用例2に記載された事項の「液口栓4」は、「ねじ部2」に「螺合される」ものであるから、開栓及び閉栓自在のものといえる。つまり、刊行物2に記載された事項の「ねじ部2」は、ねじにより開栓及び閉栓をするために作られたものであって、引用発明のようにリベットにより封止するために設けられたものではないから、両者の封止方法は大きく異なるものである。
そうすると、引用発明において、刊行物2に記載された事項の「ねじ部2の上面2aが、」「蓋6の周縁部及び電槽の開口縁部よりも、ねじ部2の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置する」事項を採用することは、引用発明の「リベット6」と刊行物2に記載された事項の「液口栓4」との固定方法の違いに照らせば、その動機があるとはいえないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
また、仮に上記採用が可能だったとしても、上記(コ)で検討したとおり、引用発明は、「封口板2」の外縁部が突出しているのか平坦であるのか不明であって、「蓋6の上面」と「蓋6の周縁部」が同じ高さのものである刊行物2に記載された事項とは、この点でも相違するものであるから、引用発明の「環状凸部7」を、「封口板2」の周縁部及び「外装缶1の上方開口部」よりも、「電解液注入孔5」の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

刊行物3には、「外装缶1の開口部を蓋板2で塞いでなる角形密閉式電池において、蓋板2は、電解液の注入口5を備え、強度を確保し、溶接封口工程で電極に押圧されることによる変形を抑えるために、電解液の注入口5の周縁の形状は、外方に向かって突出する凸形状とされており、この蓋板2の突部7に注入口5が形成された形になっており、突部7は、蓋板の上面と同じ高さの蓋板2の周縁部及び外装缶1の開口縁部よりも、注入口5の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置し、電池を作製する際には、蓋板2に設けた注入口5より電解液を注入した後、注入口5に金属球8を載せ、電極棒9で押圧しながら電流を流し、金属球8を溶かして溶接封口する事項」(上記「4」「(3)」「ク」参照。)が記載されている。
まず、引用発明の「リベット6」と刊行物3に記載された事項の「溶接封口」とを比較するに、前者は、その「軸部6a」が「電解液注入孔5に挿通され」、「カシメ固定され」るものであるのに対し、後者は、「注入口5に金属球8を載せ、電極棒9で押圧しながら電流を流し、金属球8を溶か」すためのものであり、両者の封止方法は大きく異なるものである。
また、引用発明の「環状凸部7」と刊行物3に記載された事項の「突部7」とを比較するに、前者は、「ガスケット8の内周部分8aが部分的に強く圧縮」するためのものであるのに対し、後者は、「強度を確保し、溶接封口工程で電極に押圧されることによる変形を抑えるため」に設けられたものであり、両者の目的は大きく異なるものである。
そうすると、引用発明において、刊行物3に記載された「突部7は、」「蓋板2の周縁部及び外装缶1の開口縁部よりも、注入口5の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置」事項を採用することは、引用発明の「リベット6」と刊行物3に記載された事項の「溶接封口」との封止方法及び目的の違いに照らせば、その動機があるとはいえないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
また、仮に上記採用が可能だったとしても、上記(コ)で検討したとおり、引用発明は、「封口板2」の外縁部が突出しているのか平坦であるのか不明であって、「蓋板の上面」と「蓋板2の周縁部」が同じ高さである刊行物3に記載された事項とは、この点でも相違するから、引用発明の「環状凸部7」を、「封口板2」の周縁部及び「外装缶1の上方開口部」よりも、「電解液注入孔5」の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

刊行物4には、「電槽1の上端開口部を電槽蓋2で塞いだ鉛蓄電池において、電槽蓋2には、6箇所の注液口2aが開口しており、注液口2aには、液栓5が装着され、液栓5は、上端部の円盤状の頭部5aと、この頭部5aの下方に突出する筒部5bと、この筒部5bの上部外周に形成された雄ねじ部5cとからなり、液栓5は、筒部5bを電槽蓋2の注液口2aに挿入し、頭部5aを回すことにより雄ねじ部5cを注液口2aの雌ねじ部2bにねじ込んで装着し、頭部5aをパッキン6を介して注液口2aの周縁部に圧接することにより封口し、電槽蓋2の注入口2aの周辺部は、電槽蓋2の表面よりも突出しており、電槽蓋2の上面と同じ高さの電槽蓋2の周縁部及び電槽1の開口縁部よりも、注入口2aの軸線に沿い電槽蓋2の外側を向く軸線外側方向に位置する事項」(上記「4」「(4)」「ケ」参照。)が記載されている。
ここで、刊行物4に記載された事項の「液栓5」と引用発明の「リベット6」とは、「注液口2a」(引用発明では、「電解液注入孔5」に相当。)を塞ぐ点で共通するものである。
そこで、引用発明の「電解液注入孔5」において、刊行物4に記載された事項の「注入口2aの周辺部」の如く、「電槽蓋2の注入口2aの周辺部は、電槽蓋2の表面よりも突出しており、電槽蓋2の高さと同じ高さの電槽蓋2の周縁部及び電槽1の開口縁部よりも、注入口2aの軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置する」ことを適用できるか否かを検討する。
まず、引用発明の「リベット6」と刊行物4に記載された事項の「液栓5」との固定方法を比較するに、引用発明の「リベット6」は、その「軸部6a」が「電解液注入孔5に挿通され」、「カシメ固定され」るものであって、一度封止するとそのまま封止しておくことが前提となるものであるのに対し、刊行物4に記載された事項の「液栓5は、筒部5bを電槽蓋2の注液口2aに挿入し、頭部5aを回すことにより雄ねじ部5cを注液口2aの雌ねじ部2bにねじ込んで装着」するものであって、ねじによる固定であるから開栓及び閉栓自在のものである。つまり、刊行物4に記載された事項の「液栓5」は、ねじにより開栓及び閉栓をするために作られたものであって、引用発明のようにリベットにより封止するために設けられたものではない。
そうすると、引用発明において、刊行物4に記載された「電槽蓋2の注入口2aの周辺部は、」「電槽蓋2の周縁部及び電槽1の開口縁部よりも、注入口2aの軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置する」事項を採用することは、引用発明の「リベット6」と刊行物4に記載された事項の「液栓5」との固定方法の違いに照らせば、その動機があるとはいえないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
また、仮に上記採用が可能だったとしても、上記(コ)で検討したとおり、引用発明は、「封口板2」の外縁部が突出しているのか平坦であるのか不明であって、「電槽蓋2の上面」と「電槽蓋2の周縁部」が同じ高さのものである刊行物4に記載された事項とは、この点でも相違するものであるから、引用発明の「環状凸部7」を、「封口板2」の周縁部及び「外装缶1の上方開口部」よりも、「電解液注入孔5」の軸線に沿い外側を向く軸線外側方向に位置することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
以上から、上記イの相違点に係る構成は、刊行物2?4に記載された事項から、当業者が容易になし得たものということはできない。

したがって、上記アの相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明及び刊行物2?4に記載された事項から、当業者が容易になし得たものではない。

(2)本件特許発明2?4について
本件特許発明2?4は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記「(1)本件特許発明1について」で述べた理由と同様の理由により、引用発明及び刊行物2?5に記載された事項から、当業者が容易になし得たものではない。

以上のとおり、本件特許発明1?4は、引用発明及び刊行物2?5に記載された事項から、当業者が容易になし得たものではない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-07-22 
出願番号 特願2013-535680(P2013-535680)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡部 朋也  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
板谷 一弘
登録日 2015-07-24 
登録番号 特許第5780308号(P5780308)
権利者 トヨタ自動車株式会社
発明の名称 電池  

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