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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1318095
異議申立番号 異議2016-700418  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-13 
確定日 2016-08-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第5818045号発明「放熱基板と、それを使用した半導体パッケージと半導体モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5818045号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第5818045号に係る出願は、平成26年12月5日に出願され、平成27年10月9日にその発明について特許の設定登録がなされたものであって、手続の概要は以下のとおりである。

特許異議申立(全請求項 角田朗):平成28年 5月13日

2.申立理由の概要

本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし9号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

本件特許の請求項2、3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし10号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

甲第1号証:特開2002-356731号公報
甲第2号証:特開2003-100967号公報
甲第3号証:特開2003-105476号公報
甲第4号証:特許第4615312号公報
甲第5号証:特開昭62-284032号公報
甲第6号証:特開2001-230350号公報
甲第7号証:特開2008-240007号公報
甲第8号証:特開2001-358266号公報
甲第9号証:特開平6-220597号公報
甲第10号証:特開平6-316707号公報

3.本件特許発明

本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
粉末粒子の90wt%以上が15μm以上200μm以下のMoまたはWとCuからなるCuMoまたはCuWの複合材を緻密処理して相対密度を向上させた後、該複合材を固相焼結し、さらにクロス圧延して、線膨張係数の最大値を低下させるとともに、熱伝導率を向上させ、安定させた、室温25℃以上800℃以下における線膨張係数の最大値が10ppm/K以下であり、温度200℃における熱伝導率が250W/m・K以上であることを特徴とする放熱基板材料の製造方法。
【請求項2】
前記固相焼結後の前記CuMo又はCuWの複合材にメッキにより金属層を形成してなる請求項1記載の放熱基板材料の製造方法。
【請求項3】
前記クロス圧延が温間、熱間、冷間もしくはこれらを組み合わせたクロス圧延である請求項1または2に記載の放熱基板材料の製造方法。」

3.甲第1号証

甲第1号証には、「半導体基板材料」について、以下の記載がある。(下線は当審で付加した。)

(1)「【請求項1】 高融点金属の大粒子または高融点金属の大粒子と高熱伝導性金属粒子とが相互に分散した混合粒子の圧粉体もしくは仮焼結体に充填金属を溶浸した複合材料からなる半導体基板材料であって、
高融点金属が、WとMoの中の何れか1種または2種よりなり、
高熱伝導性金属粒子と充填金属が、CuとAgとAlの中の1種または2種以上の合金であり、
且つ、大粒子の平均粒径が7?100μmであることを特徴とする半導体基板材料。」

(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、集積回路用に適した半導体基板材料に関する。」

(3)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、溶浸法によって得られる半導体基板材料の熱伝導率と熱膨張係数の改善にあって、電子デバイスの高集積、高速化などの高性能化及び信頼性向上の要求に応えるもので、集積回路基板から発生した熱エネルギーの放熱能をさらに向上した半導体基板材料を提供するものである。」

(4)表1に、平均粒径40μmのW粉末を使用した実施例2について、試料番号6として、配合割合がCu20重量%、W80重量%、熱伝導率が261W/m・K、熱膨張係数が7.7ppm/Kの基板材料と、試料番号7として、配合割合がCu30重量%、W70重量%、熱伝導率が325W/m・K、熱膨張係数が9.5ppm/Kの基板材料とが記載されている。

上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。

(a)甲第1号証には、「半導体基板材料」が記載されている(摘示事項(2))。

(b)「半導体基板材料」は、高融点金属の大粒子または高融点金属の大粒子と高熱伝導性金属粒子とが相互に分散した混合粒子の圧粉体もしくは仮焼結体に充填金属を溶浸した複合材料からなるものであって、高融点金属が、WとMoの中の何れか1種または2種よりなり、高熱伝導性金属粒子と充填金属が、CuとAgとAlの中の1種または2種以上の合金であり、且つ、大粒子の平均粒径が7?100μmである(摘示事項(1))。

(c)「半導体基板材料」は、平均粒径40μmのW粉末を使用した実施例として、配合割合がCu20重量%、W80重量%、熱伝導率が261W/m・K、熱膨張係数が7.7ppm/Kの基板材料と、配合割合がCu30重量%、W70重量%、熱伝導率が325W/m・K、熱膨張係数が9.5ppm/Kの基板材料とを含む(摘示事項(4))。

高融点金属の大粒子または高融点金属の大粒子と高熱伝導性金属粒子とが相互に分散した混合粒子の圧粉体もしくは仮焼結体に充填金属を溶浸して複合材料を得る点に着目し、製造方法の発明として捉え得ることを踏まえて、以上を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認める。

「高融点金属の大粒子または高融点金属の大粒子と高熱伝導性金属粒子とが相互に分散した混合粒子の圧粉体もしくは仮焼結体に充填金属を溶浸した複合材料からなる半導体基板材料の製造方法であって、
高融点金属が、WとMoの中の何れか1種または2種よりなり、
高熱伝導性金属粒子と充填金属が、CuとAgとAlの中の1種または2種以上の合金であり、
且つ、大粒子の平均粒径が7?100μmであり、
平均粒径40μmのW粉末を使用した基板材料として、配合割合がCu20重量%、W80重量%、熱伝導率が261W/m・K、熱膨張係数が7.7ppm/Kの基板材料と、配合割合がCu30重量%、W70重量%、熱伝導率が325W/m・K、熱膨張係数が9.5ppm/Kの基板材料とを含む半導体基板材料の製造方法。」

4.対比

そこで、本件特許発明1と甲第1号証発明とを対比する。

(1)放熱基板材料の製造方法
甲第1号証発明は、集積回路基板から発生した熱エネルギーの放熱能をさらに向上した半導体基板材料を提供するものである(摘示事項(3))から、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「放熱基板材料の製造方法」である点で一致する。

(2)複合材
甲第1号証発明は、高融点金属がMoまたはWであり、高熱伝導性金属粒子と充填金属がCuである態様を含むから、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「MoまたはWとCuからなるCuMoまたはCuWの複合材」を使用する点で一致する。
もっとも、「MoまたはW」について、本件特許発明1は、「粉末粒子の90wt%以上が15μm以上200μm以下の」ものであるのに対し、甲第1号証発明は、「平均粒径が7?100μmであ」る点で相違する。

(3)複合材の処理
本件特許発明1は、「複合材を緻密処理して相対密度を向上させた後、該複合材を固相焼結し、さらにクロス圧延して、線膨張係数の最大値を低下させるとともに、熱伝導率を向上させ、安定させ」るのに対し、甲第1号証発明は、「溶浸」後の「複合材料」の処理について特定がない点で相違する。

(4)線膨張係数の最大値と熱伝導率
本件特許発明1は、「室温25℃以上800℃以下における線膨張係数の最大値が10ppm/K以下であり、温度200℃における熱伝導率が250 W /m・K以上である」のに対し、甲第1号証発明は、「熱伝導率が261W/m・K、熱膨張係数が7.7ppm/Kの基板材料」と、「熱伝導率が325W/m・K、熱膨張係数が9.5ppm/Kの基板材料」とを含むものの、「室温25℃以上800℃以下における線膨張係数の最大値」と、「温度200℃における熱伝導率」については、特定がない点で相違する。

そうすると、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「MoまたはWとCuからなるCuMoまたはCuWの複合材を使用する放熱基板材料の製造方法。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

(1)「MoまたはW」について、本件特許発明1は、「粉末粒子の90wt%以上が15μm以上200μm以下の」ものであるのに対し、甲第1号証発明は、「平均粒径が7?100μmであ」る点。

(2)本件特許発明1は、「複合材を緻密処理して相対密度を向上させた後、該複合材を固相焼結し、さらにクロス圧延して、線膨張係数の最大値を低下させるとともに、熱伝導率を向上させ、安定させ」るのに対し、甲第1号証発明は、「溶浸」後の「複合材料」の処理について特定がない点。

(3)本件特許発明1は、「室温25℃以上800℃以下における線膨張係数の最大値が10ppm/K以下であり、温度200℃における熱伝導率が250 W /m・K以上である」のに対し、甲第1号証発明は、「熱伝導率が261W/m・K、熱膨張係数が7.7ppm/Kの基板材料」と「熱伝導率が325W/m・K、熱膨張係数が9.5ppm/Kの基板材料」とを含むものの、「室温25℃以上800℃以下における線膨張係数の最大値」と「温度200℃における熱伝導率」とについては、特定がない点。

5.判断

そこで、まず上記相違点(2)、(3)について検討する。

相違点(2)について
甲第4号証には、溶浸体の塑性加工によって緻密化が図られ、溶浸体に空孔がある場合にはその量を減らすことができることが記載されている(【0040】)が、溶浸体を塑性加工によって緻密化した後、該溶浸体を固相焼結し、さらにクロス圧延して、線膨張係数の最大値を低下させるとともに、熱伝導率を向上させ、安定させることまでは記載されていない。
申立人は、同証の「なお必要によっては、以上の基本工程に適宜接合・熱処理など別の工程を追加することもある。」(【0042】)との記載における「熱処理」が「固相焼結」に相当する旨主張するが、そのように解釈し得る根拠はない。
したがって、甲第1号証発明において、「溶浸」後の「複合材料」に、甲第4号証に記載された塑性加工を実施しても、複合材料を塑性加工によって緻密化した後、該複合材料を固相焼結し、さらにクロス圧延して、線膨張係数の最大値を低下させるとともに、熱伝導率を向上させ、安定させることにはならず、「溶浸」後の「複合材料」の処理について、本件特許発明1のように変更することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
また、甲第5号証には、焼結材を熱間圧延、または熱間圧延、焼鈍、冷間圧延を実施することにより密度を理論密度の98%以上とし空孔をほぼ消滅させることが可能であることが記載されている(2頁左下欄5?8行)が、焼結材を熱間圧延、または熱間圧延、焼鈍、冷間圧延した後、該焼結材を固相焼結し、さらにクロス圧延して、線膨張係数の最大値を低下させるとともに、熱伝導率を向上させ、安定させることまでは記載されていない。
申立人は、同証の「焼鈍」が、その条件(「Ar雰囲気中800 ℃、1時間」(2頁左下欄16?17行))より、「固相焼結」に相当する旨主張するが、「固相焼結」がなされていると解釈し得る根拠はない。
したがって、甲第1号証発明において、「溶浸」後の「複合材料」に、甲第5号証に記載された熱間圧延、または熱間圧延、焼鈍、冷間圧延を実施しても、複合材料を塑性加工によって緻密化した後、該複合材料を固相焼結し、さらにクロス圧延して、線膨張係数の最大値を低下させるとともに、熱伝導率を向上させ、安定させることにはならず、「溶浸」後の「複合材料」の処理について、本件特許発明1のように変更することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。

相違点(3)について
甲第2号証には、基体の線熱膨張係数を5ppm/℃乃至8ppm/℃(室温?800℃)の任意の値とすることが記載されている(【0031】)が、「室温25℃以上800℃以下における線膨張係数の最大値」と「温度200℃における熱伝導率」とを特定することまでは記載されていない。
したがって、甲第1号証発明において、甲第2号証に記載された、室温?800℃における線膨張係数を調整する技術思想を適用しても、「室温25℃以上800℃以下における線膨張係数の最大値」と「温度200℃における熱伝導率」とを特定することにはならず、線膨張係数の最大値と熱伝導率について、本件特許発明1のように変更することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
また、甲第3号証には、基体の線熱膨張係数を6ppm/℃乃至8.5ppm/℃(室温?800℃)の任意の値とすることが記載されている(【0044】)が、「室温25℃以上800℃以下における線膨張係数の最大値」と「温度200℃における熱伝導率」とを特定することまでは記載されていない。
したがって、甲第1号証発明において、甲第3号証に記載された、室温?800℃における線膨張係数を調整する技術思想を適用しても、「室温25℃以上800℃以下における線膨張係数の最大値」と「温度200℃における熱伝導率」とを特定することにはならず、線膨張係数の最大値と熱伝導率について、本件特許発明1のように変更することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
申立人は、本件特許明細書の記載と甲第1ないし3号証の記載とを比較して、甲第1ないし3号証に記載された材料の「室温25℃以上800℃以下における線膨張係数の最大値」と「温度200℃における熱伝導率」とを推測している。しかしながら、本件特許明細書の表1にRT、RT?800℃の範囲の最大線膨張係数とRTの熱伝導率が示され、表2にRT?800℃の範囲の最大線膨張係数と200℃の熱伝導率が示された既存の放熱基板については、その製造条件が同明細書に記載されておらず、甲第1ないし3号証に記載された材料の製造条件と同じであるとはいえないから、該推測が妥当であるといえるだけの根拠は見出せない。

甲第6ないし9号証は、「クロス圧延」が周知であることを示すものであり、甲第10号証は、本件特許発明2、3に対して引用されたものであり、いずれも、相違点(2)、(3)についての判断を左右するものではない。

したがって、上記相違点(1)について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証発明及び甲第2ないし9号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

本件特許発明2、3は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を付加したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2、3は、甲第1号証発明及び甲第2ないし10号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

6.むすび

以上のとおりであるから、申立理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-18 
出願番号 特願2014-246636(P2014-246636)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 木下 直哉麻川 倫広  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 関谷 隆一
森川 幸俊
登録日 2015-10-09 
登録番号 特許第5818045号(P5818045)
権利者 株式会社半導体熱研究所
発明の名称 放熱基板と、それを使用した半導体パッケージと半導体モジュール  
代理人 特許業務法人京都国際特許事務所  

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