• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A01G
管理番号 1318346
審判番号 無効2015-800223  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-12-07 
確定日 2016-08-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第4492861号発明「緑化パネル」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成16年 9月 7日:出願(特願2004-259571号)
平成22年 4月16日:設定登録(特許第4492861号)
平成27年12月 7日:本件審判請求(差出日)
平成28年 2月18日:被請求人より答弁書提出
平成28年 4月25日:審理事項通知
平成28年 5月11日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成28年 5月26日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成28年 6月 9日:口頭審理

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5,9に係る発明は,特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5,9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる(以下、それぞれ「本件発明1」などという。AないしIの分説は請求人の主張に基づく。)。

【請求項1】(本件発明1)
「A 登攀助材(11)の表面に、
B 並行する複数の波形線材(13)の各凸部(16)の平坦部(16a)において複数の直状線材(14)が交差するように架設された格子(12)が、
C 該波形線材(13)の各凹部(15)の平坦な底部(15a)をその全長にわたり該登攀助材(11)と接触させて、形成されていることを特徴とする
D 緑化パネル(1)。」

【請求項2】(本件発明2)
「E 該登攀助材(11)は、緑化対象面(4)を区分けした際に現れる小区域を覆う大きさとなっている請求項1に記載の緑化パネル(1)。」

【請求項3】(本件発明3)
「F 該格子(12)の最上縁側(12a)及び最下縁側(12b)で該波形線材(13)は、該登攀助材(11)の上縁(11a)及び下縁(11b)に沿って配置される請求項2に記載の緑化パネル(1)。」

【請求項4】(本件発明4)
「G 該直状線材(14)は、使用される状態において鉛直方向に配置される請求項1、2又は3に記載の緑化パネル(1)。」

【請求項5】(本件発明5)
「H 該格子(12)の最上縁側(12a)及び最下縁側(12b)で該直状線材(14)は、該登攀助材(11)の上縁(11a)及び下縁(11b)に沿って配置される請求項2に記載の緑化パネル(1)。 」

【請求項9】(本件発明9)
「I 該凸部(16)の該登攀助材(11)表面からの高さ(h)は、10?80mmである請求項1?8のいずれか一つの項に記載の緑化パネル(1,10)。」


第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし5,9に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として、甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、以下の無効理由を主張した。

<主張の概要>
無効理由(進歩性欠如)
本件の請求項1ないし5並びに請求項9に係る特許発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

<具体的理由>
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平11-89420号公報、平成11年4月6日発行)の【0045】、【0059】には、本件請求項1の構成中、A及びDに相当する構成が記載され、本件請求項1の構成のB、Cではないが、b-1なる構成「複数の直状線材が交差するように架設された網状保護材(3)が、」、cなる構成「スペーサ(S)により、前記登攀助材(2)との間に登攀間隙(4)を保ち、留金具(5)によって固定されていることを特徴とする」がそれぞれ記載されている。
本件請求項1に係る特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、本件請求項1に係る特許発明の構成中、A及びDが共通し、甲第1号証に記載された発明は、本件請求項1に係る特許発明の構成中、B及びCを採用しない点で、本件請求項1に係る特許発明とは相違する。
しかしながら、甲第2号証には、格子を平面視略パルス波形状としたb-2なる点(蔓性植物又は結果植物を支持するための植物栽培用鉄筋支持具(35)を、平面視略パルス波形状に屈曲形成されて互いに並行する複数の鉄筋(11a)の各凸部の平坦部において直状の鉄筋(11)が交差するように架設された格子とした点)が記載されている。しかも、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明とは、蔓性植物の成長を助長するために、蔓を絡ませる部材を必要とする点が共通するため、蔓性植物の成長を助長する目的で、甲第2号証に記載されたb-2なる点を甲第1号証に記載された発明に適用することは、当業者であれば容易になし得る。
さらに、本願請求項1に係る特許発明の課題である、網状保護材3を、登攀助材2との間に登攀間隔4を保って固定するためにスペーサを用いると手間やコストがかかるということは、本件特許発明に限らず一般的な事項であり、当業者であれば当然に予測できる程度の事項に過ぎない。この課題を解決するために、上記b-2なる点を甲第1号証に記載された発明に適用し、登攀間隙を設ける目的で、スペーサSに代えて、平面視略パルス波形状の鉄筋11aの凸部の内側を利用することも、当業者であれば容易になし得る。
したがって、甲第2号証に記載されたb-2なる点を、甲第1号証に記載された発明に適用し、本件請求項1に係る特許発明と同様に、登攀助材2の表面に、平面視略パルス波形状とされて互いに並行する複数の鉄筋11aの各凸部の平坦部において直状の鉄筋11が交差するように架設された格子が、各鉄筋11aの平坦な底部をその全長にわたり前記登攀助材2と接触するようにした構成に到達することは、当業者にとって容易である。そして、本件請求項1に係る特許発明の効果についても、甲第1号証及び甲第2号証に記載のものから予測できる以上のものではないと認められる。
<「本願請求項1に係る特許発明の課題」が「一般的な事項」であると主張する根拠について>
緑化器の部品点数が多いということは、緑化器自体の製造にコストがかかることであり、施工する際の手間(工数)の増加にも繋がることであって、当業者には自明である。これは緑化器に限らず、機械器具を構成する部品点数が多ければ、機械器具自体の製造コストと施工の際の手間とが増加することは当然であって、当業者には容易に理解できる筈である。従って、この部品点数の増加に伴う製造コストと手間とについて、当業者が予測できる「一般的な事項」と主張したものである。
<「甲第1号証に記載された発明に適用し、登攀間隙を設ける目的で、スペーサSに代えて、平面視略パルス波形状の鉄筋11aの凸部の内側を利用することも、当業者であれば容易になし得る」とする根拠について>
スペーサの採用によって甲第1号証の緑化器が抱えている課題と、スペーサに置換可能であって当該課題の解決を示唆する形状が、関連する技術分野の甲第2号証によって公知となっている事実とが、「甲第1号証に記載された発明に適用し、登攀間隙を設ける目的で、スペーサSに代えて、平面視略パルス波形状の鉄筋11aの凸部の内側を利用することも、当業者であれば容易になし得る」根拠である。
<答弁書による被請求人の主張に対して>
(甲第1号証の緑化器において、網状保護材の代わりに甲第2号証の植物栽培用鉄筋支持具を用いたとしても、登攀助材と植物栽培用鉄筋支持具との間には、スペーサが介在することになる旨の主張に対して)
甲第1号証の緑化器において、当業者が網状保護材の代わりに甲第2号証の植物栽培用鉄筋支持具を用いた際、スペーサがなくても平面視略パルス波形状の鉄筋の凸部の内側に登攀間隙が形成されることになるため、上記課題を認識している当業者であれば、登攀助材と植物栽培用鉄筋支持具との間にはスペーサを用いない筈である。敢えてスペーサを併用する発想の方が不合理である。
そして、スペーサを省略して平面視略パルス波形状の植物栽培用鉄筋支持具を採用した場合、各凹部の平坦な底部がその全長に亘って登攀助材と接触する構成となることは当然である。
(甲第1号証の緑化器において、網状保護材の代わりに甲第2号証の植物栽培用鉄筋支持具を用いる動機付けは存在しない旨の主張に対して)
甲第2号証に開示される平面視略パルス波形状の鉄筋が、前述のように甲第1号証のスペーサに置換可能であって且つ甲第1号証の緑化器が抱えている課題の解決を示唆する形状であることは、当業者には容易に理解できるから、甲第1号証の緑化器の課題を解決するために、網状保護材に、関連する技術分野の甲第2号証の平面視略パルス波形状を当業者が採用することに困難性は認められない。すなわち、関連する技術分野に、甲第1号証の緑化器が抱えている課題の解決に繋がり、且つスペーサに置換可能な技術手段が存在していることが明らかである以上、当業者が本件特許発明1の構成Cに導かれる動機付けが存在すると言える。このように平面視略パルス波形状自体が甲第1号証の緑化器の改良への示唆になり得ることから、甲第2号証に登挙助材と植物栽培用鉄筋支持具との組み合わせが開示されていなくても、甲第1号証の緑化器への適用の妨げにはならない。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平11-89420号公報
甲第2号証:特開平9-65771号公報
甲第3号証:特開2002-330631号公報

2 被請求人の主張
被請求人は,答弁書を提出し,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,請求人の無効理由に対して以下のとおり反論した。
<主張の概要>
本件の請求項1ないし5ならびに9に係る特許発明は、甲各号証を組み合わせても容易に想到できるものではなく、特許法第29条第2項に違反してなされたものではないから、請求人が主張する無効理由には理由がない。

<具体的主張>
(答弁書)
本件特許発明1の構成C「格子(12:並行する複数の波形線材(13)の各凸部(16)の平坦部(16a)において複数の直状線材(14)が交差するように架設された格子)が、該波形線材(13)の各凹部(15)の平坦な底部(15a)をその全長にわたり該登攀助材(11)と接触させて、形成されている」は、甲第1号証ないし甲第3号証のいずれの証拠にも開示されていない。したがって、たとえ甲第1号証ないし甲第3号証を組み合わせも、本特許発明1の構成とすることはできない。
また、甲第1号証の緑化器は、登攀助材(2)を、スペーサー(S)により吸着型蔓性植物(H)の登攀間隙(4)を保ちながら、留金具(5)により網状保護材(3)に添設している。すなわち、登攀間隙(4)の形成にスペーサー(S)を用いることを前提としている。このため、この緑化器において、網状保護材(3)の代わりに仮に甲第2号証の植物栽培用鉄筋支持具35を用いたとしても、登攀助材(2)と植物栽培用鉄筋支持具35との間には、吸着型蔓性植物(H)の登攀間隙(4)を確保するためのスペーサー(S)が介在することになり、本件特許発明1の構成Cとはなり得ない。
このように、甲第1号証ないし甲第3号証には、本件特許発明1の構成Cに相当あるいは対応する構成の具体的な開示がなく、かつ、本件特許発明1の構成Cに相当あるいは対応する構成を動機付ける記載も存在しない。したがって、本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証の記載に基づいて、出願前にいわゆる当業者が容易に発明することができたものではく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。このため、本件特許発明1は、同法第123条第1項第2号に該当せず、この特許発明に無効理由は存在しない。

(口頭審理陳述要領書)
<課題が一般的事項であるとする請求人の主張に対して>
請求人の主張は、結局のところ、どのような機械器具においてもコストダウンの要請はあるだろうとの推測を述べているに過ぎず、緑化器において特にスペーサ等の存在に着目すべき何らかの示唆に基づいているわけでもないため、「本願請求項1に係る特許発明の課題」が「一般的な事項」であるとの根拠にはならない。また、緑化器において、網状保護材3と登攀助材2との間に登攀間隔4を保ちつつも、スペーサなしで両者を固定するという課題は、本件特許(特許第4492861号)の発明者が見出した課題であり、この課題がいわゆる当業者にとって自明であるとする根拠は、請求人が提示する甲第1号証?甲第3号証のいずれにも記載されていない。
<適用の根拠について>
請求人は、本来、スペーサに代えて波型・パルス波形の鉄筋を用いることを示唆する証拠上の具体的な記載を指し示した上で従来技術を起点として本願請求項1に係る発明の構成に至る容易性を説明すべきところ本願請求項1に係る発明の構成ありきで課題を事後分析的に把握し、「筈」、「理解できる」等といった推測に基づき本願請求項1に係る発明の創作の容易性を主張している。
当業者にとって自明でない本願請求項1に係る特許発明の課題を解決するために、甲第1号証の緑化器において、網状保護材(3)の代わりに甲第2号証の植物栽培用鉄筋支持具35を用いるとともに、さらにはスペーサー(S)を省略した上で、植物栽培用鉄筋支持具35の各凹部の平坦な底部をその全長にわたり該登攀助材と接触させる構成に変更するという動機付けは存在しない。

[証拠方法] なし

第4 当審の判断
1 甲第1ないし3号証に記載された事項
(1)甲第1号証に記載された発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には以下の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は吸着型蔓性植物による緑化方法及び緑化器にかかる。」

イ 「【0007】本発明は吸着型蔓性植物を起立面に、容易に、早く、剥離落下させないように登攀させることのできる吸着型蔓性植物による緑化方法及び緑化器を提供することを目的とする。」

ウ 「【0019】【発明の実施の形態】本発明の第一の緑化方法の場合、緑化しようとする起立面上に多孔質材の登攀助材と網状保護材を順次に添設する。この順次にという言葉は、登攀助材が起立面と網状保護材の間にあるという意味を表わしており、添設は登攀助材を先にして網状保護材を後にしてもよく、双方同時でもよい。この登攀助材と網状保護材の間に吸着型蔓性植物の登攀間隙を適宜のスペーサーを介して保たせておく。
【0020】この間隙は吸着型蔓性植物が登攀できかつ吸着型蔓性植物が登攀助材から完全に離脱するのを防げればよく、5?50mmが適当であるが、好ましくは10?30mmである。吸着型蔓性植物はこの登攀間隙を通って登攀助材に付着根を張りつつ登攀することが発明者によって確認されている。登攀助材と網状保護材が密着してしまうと蔓が網状保護材と登攀助材の間にうまく入り込めず、登攀速度が遅くなり、かつ風圧による剥離もし易い。起立面としては道路ののり面、構造物の壁面、更には一対とした網状保護材の一方の登攀助材との対向面が含まれる。」

エ 「【0044】【実施例】図面において、同一符号は同一もしくは相応部分を示す。 図1?図7は本発明にかかる第一の緑化方法の実施例を示してある。
【0045】1は緑化するべき起立面である。この起立面1は、図1が道路ののり面、図2は建築物の壁面、図3は登攀助材2を挟んで相対する一対の網状保護材3の一方の登攀助材2と相対する面の場合を示してある。この起立面1に多孔質材の登攀助材2と網状保護材3を順次に、かつ登攀助材2と網状保護材3の間に吸着型蔓性植物Hの登攀間隙4を保って添設する。この登攀間隙4の形成のためにスペーサーSを採用する。」

オ 図1として、




カ 図2として、




キ 図3として、




ク 図8として、




ケ 上記キ及びクの図面から、網状保護材3は、「並行する複数の直状線材同士が交差して形成された格子」であることが看て取れる。

上記の事項を総合すると、甲第1号証には下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「緑化するべき起立面1に、多孔質材の登攀助材2と、並行する複数の直状線材同士が交差して形成された格子をなす網状保護材3とを、スペーサーSにより、吸着型蔓性植物Hの登攀間隙4を保って添設した、緑化器。」

(2)甲第2号証に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には以下の記載がある。

ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、種々の植物を支持する植物栽培用鉄筋支持具に係り、更に詳しくは、土壌への設置が容易で且つ種々の植物を強固に支持することができ、更に土壌又は空気中の水分(又は湿気)に対する耐腐蝕性に優れた植物栽培用鉄筋支持具に関する。」

イ 「【0009】本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、蔓性植物や結果植物を支持することができるだけでなく、容易に畑地に設置することができ、さらに保管に際しても結束等を極力少なくすることができる耐腐蝕性や作業性、信頼性に優れた植物栽培用鉄筋支持具を提供することを目的とする。」

ウ 「【0031】図1、図2に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具10は、複数の異形鉄筋等の鉄筋11を縦横に交叉させ且つその交叉位置を溶接することで、網目状に形成されている。そして、この植物栽培用鉄筋支持具10を土壌に立設するために、縦に並べた鉄筋11の下端を横に並べた鉄筋11の最下端の鉄筋11より突出させて、脚部(又は突出し部という)11bが形成されている。また、図示しないが、鉄筋11の脚部11bには、土壌の水分に依る酸化腐蝕等を防止するために、各種防錆剤を含有する防錆塗料を塗布した防錆処理が施されている。更に、地上に露出する部位には、雨等による腐蝕を防止し且つ夏季の暑い陽射しを受けて通常黒色の鉄筋11が熱を吸収して温度が上昇して胡瓜等の植物が焼けたり枯れたりするのを防止するために、白色の防錆塗料を塗布した防錆処理が施されている。」

エ 「【0041】次に、本発明の第4の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具25について、説明する。本発明の第4の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具25が、本発明の第1の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具10と異なるのは、図5に示すように、横方向に並設された鉄筋11aが平面視略波型状(又はサインカーブ状)に屈曲形成された点である。以上のように本実施の形態によれば、横に並べた鉄筋11aを波型状に屈曲形成したので、胡瓜等の植物の蔓が巻き付く成育範囲を拡げることができ、更に植物の成育を促すことができる。更に、該植物栽培用鉄筋支持具25の剛性を極めて高めることができるので、たとえ台風等の災害にあっても倒壊等するのを更に防止することができる。そして、果実を収穫した後、倉庫等にこの植物栽培用鉄筋支持具25を上方に積み重ねて収納しても、波型状に形成されているので、互いに干渉しあって崩れ落ちるのを防止することができる。
【0042】次に、本発明の第5の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具30、30aについて、説明する。本発明の第5の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具30、30aが、本発明の第4の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具25と異なるのは、図6(a)、(b)に示すように、横方向に並設された鉄筋11aが平面視略ジグザグ状(又はギザギザ状或いは稲妻形状という)に屈曲形成された点である。以上のように本実施の形態によれば、第4の実施の形態と同様の効果が得られる他、加工性を極めて向上することができ、作業性や生産性、量産性を極めて向上することができる。
【0043】次に、本発明の第6の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具35について、説明する。本発明の第6の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具35が、本発明の第4の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具25と異なるのは、図7に示すように、横方向に並設された鉄筋11aが平面視略パルス波形状に屈曲形成された点である。以上のように本実施の形態によれば、第5の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0044】次に、本発明の第7の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具40、40a、40bについて、説明する。本発明の第7の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具40、40a、40bが、本発明の第4の実施の形態に係る植物栽培用鉄筋支持具25と異なるのは、図8(a)?(c)に示すように、横方向に並設された鉄筋11aが平面視略L字状に屈曲形成された点である。以上のように本実施の形態によれば、第5の実施の形態と同様の効果が得られる他、鉄筋11aの長さを短くしたので、更に搬送作業性や製造作業性等を向上させることができ、更に、該植物栽培用鉄筋支持具40、40a、40bを土壌に立設する作業も向上することができる。更に、植物栽培用鉄筋支持具40、40bでは図中上方から下方に向かって吹いた風によって倒れることが考えられるが、植物栽培用鉄筋支持具40aではこれを防止して倒壊を確実に防止することができる。」

オ 図1として、




カ 図5として、




キ 図6として、




ク 図7として、



キ 上記エの「横方向に並設された鉄筋11aが平面視略パルス波形状に屈曲形成された」との記載、及び、上記クの図面から、植物栽培用鉄筋支持具(35)が、「平面視略パルス波形状に屈曲形成されて互いに並行する複数の鉄筋(11a)の各凸部の平坦部において直状の鉄筋(11)が交差するように架設された格子」であるといえる。


上記の事項から、甲第2号証には下記の事項が記載されていると認められる。

「植物の蔓が巻き付く成育範囲を拡げることができ、更に植物の成育を促すことができるように、平面視略パルス波形状に屈曲形成されて互いに並行する複数の鉄筋(11a)の各凸部の平坦部において直状の鉄筋(11)が交差するように架設された格子とした、蔓性植物又は結果植物を支持するための植物栽培用鉄筋支持具(35)。」

(3)甲第3号証に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には以下の記載がある。

ア 「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、建築物や土木構造物の壁面の緑化のために、壁に取り付けたり、土地区画用の仕切フェンスとして、支柱に取り付けて生け垣として用いるための植物栽培用のプランターに関するものである。」

イ 「【0015】【課題を解決するための手段】格子体に繊維マット、木毛板、わら束、水苔など、植物が根を張って生育し得る土壌となるマットを取り付けて当該状格子体に保持させて1個の立体プランターを作り、更に散水用の小穴を設けた給水パイプおよび/または散水ノズルを当該格子網に沿って取り付けて一個の立体プランターを構成し、この立体プランターを単独にあるいは多数連結してグリーンパネルを構成するものである。」

ウ 「【0018】本発明立体プランターに用いる繊維マットに、あらかじめ植物の種子、球根、苗などを混入したものを用い、立体プランターを工場生産して植物を適宜生育させた状態にしてから、壁面に取り付けたり、古くなった物と取り替えたりする事によって、壁面における植物の植え付け、植え替えの手間と時間を軽減する。」

エ 図1として、




オ 図2として、




カ 上記アの「建築物や土木構造物の壁面の緑化のために、壁に取り付けたり、土地区画用の仕切フェンスとして、支柱に取り付けて生け垣として用いるための植物栽培用のプランターに関するものである。」との記載と、上記エ及びオの図面を参酌すれば、「繊維マット(4)」は「緑化対象面を区分けした際に現れる小区域を覆う大きさ」となっているといえる。

上記の事項から、甲第3号証には下記の事項が記載されていると認められる。

「繊維マット(4)は、緑化対象面を区分けした際に現れる小区域を覆う大きさとなっている点。」

なお、甲第3号証は、本件特許の請求項3に係る発明特定事項に関して、請求人が提示したものである。

2 本件発明1に対する無効理由について
(1)甲1発明
甲1発明は、甲1発明は、前記1(1)で認定した以下のとおりのものである。
「緑化するべき起立面1に、多孔質材の登攀助材2と、並行する複数の直状線材同士が交差して形成された格子をなす網状保護材3とを、スペーサーSにより、吸着型蔓性植物Hの登攀間隙4を保って添設した、緑化器。」

(2)対比
本件発明1と、甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「多孔質材の登攀助材2」は、本件発明1の「登攀助材(11)」に相当し、同様に、「緑化器」は「緑化パネル(1)」に相当する。

イ 甲1発明の「並行する複数の直状線材同士が交差して形成された格子をなす網状保護材3」と、本件発明1の「並行する複数の波形線材(13)の各凸部(16)の平坦部(16a)において複数の直状線材(14)が交差するように架設された格子(12)」とは、「格子」で共通する。
また、甲1発明の「(多孔質材の登攀助材2と、並行する複数の直状線材同士が交差して形成された格子をなす網状保護材3とを)スペーサーSにより、吸着型蔓性植物Hの登攀間隙4を保って添設した」構成と、本件発明1の「(格子(12)が、)該波形線材(13)の各凹部(15)の平坦な底部(15a)をその全長にわたり該登攀助材(11)と接触させて、形成されている」構成とは、「(登攀助材に、格子が)登攀間隙を保って設けられた」構成で共通する。

ウ 上記ア及びイを踏まえると、両者は、
「登攀助材に、格子が、登攀間隙を保って設けられた、緑化パネル」で一致し、
下記の点で相違する。

相違点:「格子」及び「登攀間隙」に関して、
本件発明1は、「格子」が「並行する複数の波形線材(13)の各凸部(16)の平坦部(16a)において複数の直状線材(14)が交差するように架設された」ものであり、「登攀間隙」が「該波形線材(13)の各凹部(15)の平坦な底部(15a)をその全長にわたり該登攀助材(11)と接触させて」形成されるのに対して、
甲1発明は、「格子」が「並行する複数の直状線材同士が交差して形成された格子をなす網状保護材3」であり、「登攀間隙」が「スペーサーSにより」形成される点。

(3)判断
ア 相違点について
(ア)甲第2号証に記載された事項
上記1(2)のとおり、甲第2号証には、
「植物の蔓が巻き付く成育範囲を拡げることができ、更に植物の成育を促すことができるように、平面視略パルス波形状に屈曲形成されて互いに並行する複数の鉄筋(11a)の各凸部の平坦部において直状の鉄筋(11)が交差するように架設された格子とした、蔓性植物又は結果植物を支持するための植物栽培用鉄筋支持具(35)。」が記載されている。

(イ)相違点に関する請求人の主張
上記相違点に関して、請求人は、蔓性植物の成長を助長する目的で、甲第2号証に記載された事項を甲1発明に適用することは、当業者であれば容易になし得た旨主張し、「甲第1号証の緑化器において、当業者が網状保護材の代わりに甲第2号証の植物栽培用鉄筋支持具を用いた際、スペーサがなくても平面視略パルス波形状の鉄筋の凸部の内側に登攀間隙が形成されることになるため、上記課題を認識している当業者であれば、登攀助材と植物栽培用鉄筋支持具との間にはスペーサを用いない筈である。」「甲第2号証に開示される平面視略パルス波形状の鉄筋が、甲第1号証のスペーサに置換可能であって且つ甲第1号証の緑化器が抱えている課題の解決を示唆する形状であることは、当業者には容易に理解できるから、甲第1号証の緑化器の課題を解決するために、網状保護材に、関連する技術分野の甲第2号証の平面視略パルス波形状を当業者が採用することに困難性は認められない。」などと主張する。

(ウ)判断
甲第2号証に記載された事項は、「植物の蔓が巻き付く成育範囲を拡げることができ、更に植物の成育を促すことができる」ことを目的としているから、請求人が主張するように「蔓性植物の成長を助長する目的」を有するものの、スペーサーの代替手段として、「平面視略パルス波形状に屈曲形成されて互いに並行する複数の鉄筋」を採用したのではないし、甲第2号証にはスペーサーを省略し、部品点数を少なくするとの目的・課題は記載も示唆もない。
そもそも、甲第2号証に記載された事項は、「登攀助材」と「格子」との間の「登攀間隙」を形成するためのものではない。
そうすると、甲第2号証に記載された事項には、スペーサーに代えて「平面視略パルス波形状に屈曲形成されて互いに並行する複数の鉄筋」を採用するという技術的思想は存在しないから、蔓性植物の成長を助長する目的で、甲第2号証に記載された事項を甲1発明に適用したとしても、スペーサーを省略することにはならず、相違点に係る構成とはなり得ない。

(エ)請求人の主張について
想到容易性に関して、請求人は「甲第1号証の緑化器において、当業者が網状保護材の代わりに甲第2号証の植物栽培用鉄筋支持具を用いた際、スペーサがなくても平面視略パルス波形状の鉄筋の凸部の内側に登攀間隙が形成されることになる」「甲第2号証に開示される平面視略パルス波形状の鉄筋が、甲第1号証のスペーサに置換可能であって且つ甲第1号証の緑化器が抱えている課題の解決を示唆する形状である」などと主張するので検討しておく。
まず、甲1発明は、「吸盤や、気根や付着根」を持った「吸着型蔓性植物による緑化器」に関するものであり、「吸盤や、気根や付着根」が吸着する「登攀助材」を前提としている。
一方、甲第2号証に記載の事項は、植物栽培用鉄筋支持具(35)のみで支持することが可能な「蔓性植物や結果植物」に関するものであり、「吸盤や、気根や付着根」が吸着する「登攀助材」を必要としていないのであるから、甲1発明とは対象が異なるというべきである。
したがって、甲第1号証の緑化器において、網状保護材の代わりに甲第2号証の植物栽培用鉄筋支持具を用いることは想定できないし、甲第2号証に開示される平面視略パルス波形状の鉄筋は、甲第1号証のスペーサに置換可能なものとはいえない。
以上のとおり、請求人の主張は採用できない。

(オ)まとめ
以上のとおり、甲1発明において、相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

イ 本件発明1が奏する効果について
本件発明1は、「登攀助材の表面に、並行する複数の波形線材の各凸部の平坦部において複数の直状線材が交差するように架設された格子が、該波形線材の各凹部の平坦な底部をその全長にわたり該登攀助材と接触させて、形成されているので、凹部をコ字状の綴じ針等で留めることにより、ヤシ殻繊維製のように非剛性の登攀助材と格子を容易に固定でき、スペーサーや留金具を用いることなく該登攀助材と波形線材の各凸部の平坦部間に、蔓性植物が登攀するのに十分広い登攀間隔を形成でき、製造や取り付けに手間やコストがかからないものとなる。」(本件特許明細書段落【0018】)という効果を奏するものであって、この効果は、甲第1号証ないし甲第3号証には記載も示唆もされておらず、甲第1号証ないし甲第3号証に記載の発明から予測できるものでもない。

ウ まとめ
以上のとおり、本件発明1は、当業者が、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではないし、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものでもない。

3 本件発明2ないし5,9に対する無効理由について
上記2で検討したとおり、本件発明1は、当業者が甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する、本件発明2ないし5,9については、本件発明1と同様、当業者が甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許の本件発明1ないし5,9に係る特許を、無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-22 
結審通知日 2016-06-24 
審決日 2016-07-06 
出願番号 特願2004-259571(P2004-259571)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A01G)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
赤木 啓二
登録日 2010-04-16 
登録番号 特許第4492861号(P4492861)
発明の名称 緑化パネル  
代理人 石田 正己  
代理人 上田 恭一  
代理人 大関 光弘  
代理人 石田 喜樹  
代理人 大関 光弘  
代理人 大関 光弘  
代理人 大関 光弘  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ