• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施  B65D
審判 全部無効 2項進歩性  B65D
審判 全部無効 特29条の2  B65D
管理番号 1318350
審判番号 無効2015-800215  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-11-19 
確定日 2016-08-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第5376697号発明「包装用シート及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5376697号の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成18年12月18日 基礎出願(特願2006-339786)
平成19年12月14日 原出願(特願2007-324047、優先権主張)
平成24年 7月 3日 本件分割出願
平成25年10月 4日 設定登録(特許第5376697号)
平成27年11月19日 審判請求書
平成28年 2月17日 被請求人・上申書
平成28年 3月22日付け 審決の予告(期間内に応答なし)

第2.本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1?7」という。)は、以下のとおりである。
なお、A1.等の符号は、請求書による。

「【請求項1】
A1.アルミニウム箔と、
A2.前記アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層である、透明ないし半透明の下地層と、
A3.前記下地層上に設けた白着色層と、
A4.前記白着色層上に位置するバーコード部と、を備え、
A5.薬品、食品又は化粧品の包装を用途とすることを特徴とする、包装用シート。
【請求項2】
前記下地層が、前記バーコード部の読み取りの、少なくともシンボルコントラスト(SC)値を高めるためのものである、ことを特徴とする、請求項1に記載の包装用シート。
【請求項3】
前記白着色層は、20重量%?30重量%の白色顔料を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の包装用シート。
【請求項4】
前記白着色層が、単位面積当たり1.0g/m^(2)?4.0g/m^(2)で前記アルミニウム箔上に設けられていることを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の包装用シート。
【請求項5】
前記バーコード部は、フレーム処理されたグラビア版を用いて、印刷されていることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の包装用シート。
【請求項6】
前記バーコード部のインキ層の中心線から公称幅分を越えてはみ出たはみ出し幅ΔWが、その他の印刷部または裏面印刷部のインキ層の上記はみ出し幅ΔWと比較して、10%以上小さいことを特徴とする、請求項1?5のいずれかに記載の包装用シート。
【請求項7】
アルミニウム箔の少なくとも一方の面に透明ないし半透明の下地層を塗布によって設け、さらに該下地層上に白着色層を設け、次いで、該白着色層上に、フレーム処理が施されたグラビア版によるバーコード印刷部を設け、薬品、食品又は化粧品の包装を用途とすることを特徴とする、包装用シートの製造方法。」

第3.請求人の主張
1.主張の要点
本願は、優先権の主張を伴う分割出願であるが、請求項1、7で特定する「アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層である、透明ないし半透明の下地層」については、優先権の基礎となる出願(特願2006-339786)の明細書等に記載されていない。
よって、優先権の主張は認められず、以下の無効理由は原出願(特願2007-324047)の実際の出願日を基準に判断されるべきである(請求書の10ページ(4-2))。

請求人は、以下の理由により、本件特許は、特許法(以下、特記なきは「特許法」である。)第123条第1項第2号に該当し、無効とするとの審決を求めている(請求書の2ページ7.(1))。
以下、「甲第1号証」を「甲1」のように略記する。

無効理由1:29条の2
請求項1?2 甲1
無効理由2:29条1項1号及び2号
請求項1 甲9?16から導かれる甲12と同構造の「実施品シート」
無効理由3:29条2項
請求項1 甲2に甲3、4、6、7、29?32の周知技術
請求項2 さらに甲5
請求項3 さらに甲26?28
請求項4、6 請求項1に同じ
請求項5、7 さらに甲8

2.証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。

甲1 特願2007-191194(特開2009-23717)
甲2 特開平10-24944号公報
甲3 「月刊 自動認識」日本工業出版株式会社、2007年7月、第40頁?第43頁「医薬品用PTPアルミ箔のバーコード表示」
甲4 「医薬品情報とバーコード」株式会社薬事日報社、平成19年7月31日、第19頁?第37頁、第52頁?第80頁、第125頁
甲5 「創包工学研究会第32回講演会 要旨集」創包工学研究会、2007年1月24日、第23頁?43頁
甲6 「塩化ビニル樹脂」日刊工業新聞社、昭和47年2月20日、第396頁
甲7 「エポキシ樹脂」日刊工業新聞社、昭和44年5月30日、第17頁
甲8 実公平2-13154号公報
甲9 奥田稔氏 報告書、平成26年4月22日
甲10 昭和63年8月19日に日箔において改正された製品仕様書
甲11 平成2年1月25日に日箔において改正された製品仕様書
甲12 昭和63年11月10日に日箔において作製された刷見本
甲13 1989年明治乳業製品カタログ
甲14 甲13の「デザート」の頁の「ババロア(チョコレート)」の外観写真を拡大した写し
甲15 甲13の「デザート」の頁の表の部分の拡大した写し
甲16 富士インキ株式会社による証明書、平成26年3月25日
甲17 甲12の刷見本におけるSC値等の測定結果報告書、平成26年4月24日
甲18 本件特許の優先権の基礎出願(特願2006-339786)の明細書
甲19 本件原出願の審査過程において提出された意見書
甲20 無効2014-800070における奥田稔証人に対する証人尋問の反訳書面
甲21 無効2014-800070審決
甲22 厚生労働省医薬食品局安全対策課長名の文書、平成18年9月15日
甲23 「食品・医薬品包装ハンドブック」株式会社幸書房、2000年7月15日、第147頁?第161頁
甲24 「三極【日本・FDA・EU】法規制の違いと対応 医薬品・食品包装における設計・表示・材料規格と包装工程の品質確
甲25 アルミニウム箔上に、直接白着色層のみを印刷したサンプル、及びアルミニウム箔上に透明のプライマー層を塗布しその上に白着色層を印刷したサンプルを台紙に貼り付けもの
甲26 「印刷インキハンドブック」印刷インキ工業連合会、昭和53年6月、第1頁?第3頁、第50頁
甲27 特開2005-313938号公報
甲28 特開2007-253949号公報
甲29 富士インキ工業株式会社による証明書
甲30 メラミン樹脂が透明であることを示すウェブサイト(http://mh.rgr.jp/memo/sa0079.htm)の写し(写しの取得日:平成:27年7月27日)
甲31 「最新・工業塗装ハンドブック」株式会社テクノシステム、2008年2月29日、第255頁
甲32 「塗料と塗装技術」株式会社日本理工出版会、2001年11月25日、第2頁?第3頁
甲33 株式会社UACJ製箔(旧日箔)滋賀工場内における「刷見本等の保管棚」を示す写真
甲34 甲33に示された「刷見本等の保管棚」に保管された「色見本 資料 No.300 No.499」と表記されたボックスファイルを示す写真
甲35 株式会社UACJ製箔(旧日箔)滋賀工場内における「製品仕様書ファイルの保管棚」を示す写真
甲36 甲35に示された「製品仕様書ファイルの保管棚」に保管されていた「製品製造仕様書 東京TM001?」と表記されたファイルを示す写真
甲37 株式会社UACJ製箔(旧日箔)滋賀工場内における「廃棄仕様書ファイルの保管棚」を示す写真
甲38 甲37に示された「廃棄仕様書ファイルの保管棚」に保管されていた「廃止分 製品製造仕様書 TM001?120」と表記されたボックスファイルを示す写真
甲39 甲34に示されたボックスファイル内に収容されていた8冊のファイルを示す写真
甲40 甲39に示された上から3番目のファイル内に収容されていたNo.353と表示された食品容器の蓋用シートの刷見本
甲41 甲39に示された上から4番目のファイル内に収容されていたNo.380と表示された食品容器の蓋用シートの刷見本
甲42 甲39に示された上から4番目のファイル内に収容されていたNo.389と表示された食品容器の蓋用シートの刷見本
甲43 甲39に示された上から4番目のファイル内に収容されていたNo.391と表示された食品容器の蓋用シートの刷見本
甲44 甲39に示された上から5番目のファイル内に収容されていたNo.404と表示された食品容器の蓋用シートの刷見本
甲45 甲39に示された上から6番目のファイル内に収容されていたNo.443と表示された食品容器の蓋用シートの刷見本

3.主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)優先権主張の効果
本件の優先権基礎出願(特願2006-339786)の出願明細書(甲18)には、本件特許発明の構成要素であるA2「アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層である、透明ないし半透明の下地層」に関する記載は全くない。
そのため、本件特許の請求項1?7の発明に対しては、優先権基礎出願の出願の時にされたものとみなす規定(第41条第2項)は適用されない。
本件特許の請求項1?7に記載の各発明に対する特許要件は、実際の出願日、すなわち平成19年12月14日を基準として判断されるべきである。
(請求書の10ページ(4-2))

(2)無効理由1(第29条の2)
甲1に基づいて再現したシート構造を示す参考図2からも知られるように、甲1のPTP包装用積層体は、本件請求項1における、A1(アルミニウム箔)と、A2(前記アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層である、透明ないし半透明の下地層)と、A3(前記下地層上に設けた白着色層)とを備え、さらに、A4(前記白着色層上に位置するバーコード部)と、を備えるA5(薬品、食品又は化粧品の包装を用途とすることを特徴とする、包装用シート)である。
請求項2で特定した点も、実質的に甲1に記載されている。
したがって、本件請求項1、2の発明は、本件特許の出願日前に出願され出願後に公開された特許出願に係る甲1に記載された発明と同一である。
(請求書の40ページ(4-4))

(2)無効理由2(第29条第1項第1、2号)
甲9の13頁4?10行の記載から、甲12の刷見本は、日箔において、甲10の製品仕様書に基づいて作製された。
甲9の10頁6行?13頁3行の記載、並びに甲10の製品仕様書の「改正」の欄の「63年8月19日」という記載及び甲10の改正版である甲11の製品仕様書の「改正」の欄の「平成2年1月25日」という記載から、昭和63年8月19日以降に甲10の製品仕様書に基づく製品の製造が開始され、平成2年1月25日頃まで、甲10の製品仕様書に基づく製品の製造が行われていた。すなわち、昭和63年8月19日から平成2年1月25日頃まで、甲10の製品仕様書に基づいて作製された刷見本(甲12)と同構造のシート材(「実施品シート」)が製造されていた。
甲9、甲10から、この仕様書に基づいて日箔が作製した「実施品シート」が、明治乳業に納入されていた。
日箔が作製した甲12の刷見本の図柄は、甲13の明治乳業カタログに記載された商品名「ババロア(チョコレート)」の容器の蓋材の図柄(甲14)と同じである。また、甲13の明治乳業カタログに記載された商品名「ババロア(チョコレート)」の「JANコード」(甲15)と刷見本(甲12)のバーコードシンボルの下に印刷された「JANコード」がいずれも「49722123」で一致する。
これらのことから、日箔が作製した「実施品シート」が、少なくとも、明治乳業カタログ(甲13)の有効年と認められる1989年に、商品名「ババロア(チョコレート)」として一般消費者に向けて販売されていた容器の蓋材に使用され、公知となっていた。
「実施品シート」は、甲10の製品仕様書における「構成」、「工程名」及び「機械名」の欄の記載、及び甲9の11頁8行?13頁21行の記載、並びに甲16の「FAC-3」が透明であるという証明書から、アルミニウム箔の上の全面に透明のAC層(アンカーコート層)が配置され、その上に部分的に6C印刷(白色層上のバーコード部を含む6色印刷層)が配置され、その上に全面に透明のOP層(オーバープリント層)が配置された構成を有していることが明らかである。また、刷見本(甲12)の複数の図柄の間にはアルミ箔の光沢が見える部分が存在するが、この部分にも、少なくとも、AC層(アンカーコート層)及びOP層(オーバープリント層)が塗装されていると認められるから、この点からも、AC層(アンカーコート層)及びOP層(オーバープリント層)が透明の層であることは明らかである。
これら事実から、甲10の製品仕様書に基づいて作製された「実施品シート」は、アルミニウム箔のツヤ面上に、透明のAC層(アンカーコート層)が配置され、その上に6C印刷(白色層上のバーコード部を含む6色印刷層)が配置され、その上に透明のOP層(オーバープリント層)が配置された構成のシート、つまり、本件請求項1のA1(アルミニウム箔)と、A2(前記アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層である、透明ないし半透明の下地層)と、A3(前記下地層上に設けた白着色層)と、A4(前記白着色層上に位置するバーコード部)と、を備え、A5(薬品、食品又は化粧品の包装を用途とすることを特徴とする、包装用シート)であると認定することができる。ここで、「実施品シート」が、A5における「食品の包装を用途とする包装用シート」の1種に該当することは、疑う余地がない。
そして、甲33?甲45からしても、更に、本件特許の出願日(平成19年12月14日)より前の甲13の明治乳業カタログの有効年(1989年(昭和64年))の記載よりしても、請求項1のA1?A5要件を全て満たす「実施品シート」が、昭和64年当時に日箔により製造されて明治乳業に納入され、明治乳業が一般消費者向けに販売するババロアの蓋材として使用されていたこと、更には、明治乳業が当該ババロアを一般消費者向けの市場で多数販売していたことは明らかである。従って、当該構成を有する「実施品シート」は、公然実施されたものと言うべきものであり、その結果当該構成が公知となっていたことも明らかである。
したがって、本件請求項1の発明は、本件特許の出願前に公然知られ、かつ、公然実施をされた「実施品シート」に係る発明と同一である。
(請求書の41ページ(4-5))

(3)無効理由3(第29条第2項)のうち甲2を主とするもの
甲2には、本件請求項1の発明のA1、A2、A3及びA5が記載されている。一方、甲2には、「マーク及び文字等」がA4の「バーコード」であるか否かについては、明確な記載がない。
しかしながら、当業者であれば、甲3及び甲4またはこれらに引用されている甲22に記載の周知技術を参照することにより、甲2における「マーク及び文字等」として「バーコード」を採用し、本件請求項1の発明を導くことは容易である。
甲3及び甲4には、本件請求項1の発明のA1及びA3?A5が記載されている。
また、甲3及び甲4には、PTPシートへのバーコード表示が、医療過誤防止を最終目的にしていることが示されている。さらに、1990年代後半より医療事故問題が話題となり、その後、様々な施策の経緯をたどり、2006年3月には、医薬品へのバーコード表示案が出され、同年6月のパブリックコメント収集を経て、2006年9月に甲22の“医療用医薬品へのバーコ一ド表示実施について”が通知され、PTPへのバーコード表示の義務化が当業者に周知されたことが示されている。
また、甲3及び甲4には、PTPシートへのバーコード印字の具体例が示されていると共に、バーコードの読み取り性を向上させるために、白ベタ印刷の上にバーコードを表示することが、読み取り性を向上させる事実が示されている。
甲2の記載に戻ると、そこには、甲2のPTP用蓋材が、「投薬間違いや服薬間違いの問題を解決するために、アルミニウム箔に施された商品名や内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を際立たせて、視認性を高めたPTP用蓋材」である旨が記載されている。この甲2の出願日である1996年7月9日以前の時期は、甲3及び甲4の記載からも明らかなように、PTPへのバーコード表示の義務化が議論される前であり、PTPに記載されたマークや文字等の印刷を際立たせて、視認性を高めることが、医療過誤防止の主眼にあったことが理解できる。
かかるPTPの技術分野における背景技術を鑑みると、PTPにおける医療事故防止のために開発されていた視認性向上可能な甲2の構成を基礎とし、甲22の通知によって医療事故防止のために義務化されたバーコード表示を実施すべく、甲2における「マークや文字等の印刷」の一部を「バーコード」に変更し、同じ印刷層として印刷することは、当業者においては、何ら困難性がなく、容易である。
まして、甲2には、PTP用蓋材におけるアルミニウム箔面への印刷層の下塗りとして、「白色の塗工層」が施されることが示され、甲3及び甲4にも、「白ベタ印刷」の有効性が示され、両号証には、下塗り層として白色の層を用いるという技術的共通点もある。
したがって当業者であれば、甲2と、甲3及び甲4の少なくとも一方との組合せと、更には甲22等に記載の周知技術との組合せに基づき、A1?A5を具備する本件請求項1の発明を容易に導くことができる。

請求項2の発明は、「前記下地層が、前記バーコード部の読み取りの、少なくともシンボルコントラスト(SC)値を高めるためのものである」という要件を具備するが、この要件は、SC値を高めるという課題(目的)あるいは願望を表現したものに過ぎない。
また、甲5には、シンボルコントラスト(SC)を向上させることが、PTPアルミ箔のバーコード品質において必要な要件であるということが示されており、これは周知技術といえる。
請求項3の発明は、「前記白着色層は、20重量%?30重量%の白色顔料を含む」という要件を具備するものである。
甲2には、「白着色層は、40重量%の白色顔料を含む」旨の実施例が記載されている。かかる白色顔料の含有量を、工業的な製造上の理由によって若干少ない20重量%?30重量%に変更することは、単なる設計事項であり当業者においては容易である。
また、甲26?甲28から知られるように、グラビア印刷用インキは、顔料の配合比率としては非常に広い範囲の中から、種々の設計上あるいは製造上の理由によってその下限値及び上限値を決めて選択されるものである。
請求項3の発明は、白色顔料の含有量として、コントラストという光学的な理由からは甲2に示された白色顔料の含有量を含む広い範囲を選択した上で、製造上の理由から、その上限を甲2から外れる範囲に調整しただけのものであり、単なる設計事項に該当、あるいは周知技術であると言える。
請求項4の発明は、「前記白着色層が、単位面積当たり1.0g/m^(2)?4.0g/m^(2)で前記アルミニウム箔上に設けられている」という要件を具備するものである。
甲2には、白着色層に相当する「塗工層」の塗工量の例として、「0.1?5g/m^(2)位の範囲内」及び「3g/m^(2)」という記載がある。これらの記載は、上記要件の範囲に重複する記載である。
請求項5の発明は、「前記バーコード部は、フレーム処理されたグラビア版を用いて、印刷されている」という要件を具備するものである。
グラビア印刷に関しては、例えば、甲2の段落【0012】等に記載がある。また、甲8には、例えば、第2図に、上記細溝71に相当する「連続凹部3」が示されている。すなわち、甲8には、E1における「フレーム処理されたグラビア版」が示されている。
請求項6の発明は、「前記バーコード部のインキ層の中心線から公称幅分を越えてはみ出たはみ出し幅ΔWが、その他の印刷部または裏面印刷部のインキ層の上記はみ出し幅ΔWと比較して、10%以上小さい」という要件を具備するものである。
上記要件は、「公称幅」という人為的な取り決め要素に基づく内容であり、その技術的意義が不明である。また、たとえ、技術的に理解し得たとしても、単に印刷寸法を規定しただけの設計事項にすぎず、かかる要件に進歩性を担保させることはできない。
さらに、上記要件は、印刷されたインキ層が、フレーム処理されたグラビア版で印刷されたものかどうかを特定する一つの基準を示したものに過ぎない。フレーム処理は、甲8に示されており、グラビア版に関する周知技術に過ぎない。
請求項7の発明は、「アルミニウム箔の」、「少なくとも一方の面に透明ないし半透明の下地層を塗布によって設け」、「さらに該下地層上に白着色層を設け」、「次いで、該白着色層上に、フレーム処理が施されたグラビア版によるバーコード印刷部を設け」、及び「薬品、食品又は化粧品の包装を用途とすることを特徴とする、包装用シートの製造方法」という要件を具備するものである。
これらは、いずれも前記要件のいずれかに相当するものである。
したがって、上記と同様の理由により、本件請求項7の発明は、甲2?4及び周知技術に基づき、容易に導くことができる。
(請求書の43ページ(4-6)(a))

(4)無効理由3(第29条第2項)のうち甲12を主とするもの
「実施品シート」は、本件請求項1のA1?A5を全て具備するものであり、請求項1の発明の新規性を否定する証拠である。
本件請求項2の発明は、「前記下地層が、前記バーコード部の読み取りの、少なくともシンボルコントラスト(SC)値を高めるためのものである」という要件を具備するものであるが、請求項1に記載された構成を超える特別な構成を備えるものとはいえない。また、「下地層」(A2)は、「実施品シート」が備えている。
さらに、甲5には、シンボルコントラスト(SC)を向上させることが、PTPアルミ箔のバーコード品質において必要な要件であるということが示され、これは周知常識といえる。
また、甲17に示されたSC値の測定結果から、「実施品シート」のSC値が最高グレードであること、つまり、最も高いレベルにあることからも、SC値を向上させることが周知技術であることが認められる。
請求項3?7の発明は、前述の(3)?(7)と同様の理由により、当業者であれば、「実施品シート」及び周知技術に基づき、容易に導くことができる。
(請求書の54ページ(b))

第4.被請求人の主張
これに対し、被請求人は、指定期間内に何ら主張がない。また、平成28年2月17日付け上申書において、「答弁書及び訂正請求書は提出いたしません」と述べている。

第5.優先権主張についての当審の判断
本件発明1?7は、いずれも「アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層である、透明ないし半透明の下地層」を含むものである。
しかしながら、優先権の基礎となる出願の明細書等(甲18)に、「下地層」は、何ら記載も示唆もない。
よって、優先権の主張の効果は認められない。

第6.甲1を主とする第29条の2の無効理由についての当審の判断
1.甲1記載事項
甲1には、以下が記載されている。

「【請求項1】
成形された透明プラスチックシートの底材及びアルミ箔の蓋材からなるPTP包装において、透明プラスチックシートとは反対側のアルミ箔上にレーザ発色層及び表面保護層を有することを特徴とするレーザ発色性PTP包装用積層体。
【請求項2】
アルミ箔上に、アンカーコート層、白インキ層、レーザ発色層及び表面保護層が順次積層されていることを特徴とする請求項1記載のレーザ発色性PTP包装用積層体。」

「【0002】
PTP包装(プレススルーパッケージ)は透明なプラスチックフイルム、シートを熱間真空成形、熱間圧空成形、熱間真空圧空成形等により、深さ20mm以内のポケット、または小さな深絞り成形容器を作り、その中に固形の医薬品、食品またはガラスアンプル等を充填し、その開口部をアルミ箔、フイルム等にて密封包装したものであり、医薬品、健康食品の錠剤、カプセル等の包装に多く使用されている。
【0003】
特に医薬品用途については取り違え事故の防止、トレーサビリテイ確保のためPTP包装体にバーコード表示が義務付けられた。・・・。
【0004】
・・・。
【0005】
しかしながら、このような方法でも印字は可能であるが、可変文字、シリアル番号等を打つ場合、印字内容を順次変える必要があるため、一般の有版方法では困難である。また、2次元コード類、例えばRSSコード、QRコードについては読み取り精度の点から高精細な印刷、印字を必要とし、通常の印刷方法では問題が多かった。
・・・。」

「【0010】
また、本発明は、アルミ箔上に、アンカーコート層、白インキ層、レーザ発色層及び表面保護層が順次積層されていることを特徴とする上記のレーザ発色性PTP包装用積層体に関するものである。
【0011】
さらに、本発明は、表面保護層がOPニス層であることを特徴とする上記のレーザ発色性PTP包装用積層体に関するものである。
また、本発明は、上記のレーザ発色性PTP包装用積層体のレーザ発色層にレーザを照射することにより、バーコードまたは2次元コードを描画することを特徴とするレーザ記録方法に関するものである。」

「【0015】
PTP包装では底材に形成されたポケット部(凹部)を外側より指で押して蓋材であるアルミニウム箔を破って錠剤やカプセルを取り出すのが一般的な方法である。実際のPTP包装体は錠剤やカプセルの入ったポケットが多数連結され、シートを構成している。それぞれのポケット部はミシン目、ハーフカットにより1個づつ切り離すことが出来るようになっている。」

「【0042】
印刷においては、レーザ発色性印刷インキを直接、アルミ箔上に印刷することも可能であるが、アルミ箔の地色によりレーザ印字部分とのコントラストが低下し、視認性が劣る。そのため好ましくは、樹脂、ワニス等を主成分とするアンカーコート剤を前もって印刷し、更に白インキを重ね、その上にレーザ発色性印刷インキを印刷することである。それにより印字部分と下地とのコントラストが高まり、視認性の優れた印字が得られる。
・・・。」

「【0046】
2)アルミ箔への印刷
印字部分と下地とのコントラストを向上させるため、アンカーコート剤、白インキ、レーザ発色性印刷インキの順に印刷することが好ましい。アンカーコート剤としては、透明、半透明なコート剤が好ましい。そのバインダー樹脂としては、前述のインキのバインダー樹脂に用いたものがそのまま使用可能である。白インキは、酸化チタンからなる通常の白インキをそのまま使用できる。」

「【0056】
レーザによる印字は、英数字、ひらがな、漢字等で目的とする内容を表示する他、バーコード、或いは2次元コードとして、更に多量の各種情報を書き込むことも可能である。2次元コードとしては、QR(モデル1)、QR(モデル2)、マイクロQR、DataMatrix等がある。
RSSコードは省スペース型の一次元コード(Reduced Space Symbology)であり、PTP包装用積層体において小面積部分にも印字できる。RSSコードにより医薬品のPTP包装体一個にも表示が可能となる。RSSコードは細かく分類されているが、RSSスタックドはバーコードを2段重ねにしているため、超小型のコードとなるため、更に省スペース型となる。」

「【0065】
[調製例2]白インキの調製
白色顔料(酸化チタン、チタニックスJR805、テイカ社製)30部、合成例1で得たウレタン樹脂80部、メチルエチルケトン10部の混合物をペイントシェーカで練肉し、印刷インキを得た。得られた印刷インキを更に、メチルエチルケトン、酢酸エチル及びイソプロピルアルコールの混合溶剤(重量比50:40:10)で希釈し、ザーンカープ#3(離合社製)で17秒(25℃)に調整し、印刷用希釈インキを得た。」

これらを本件発明1に照らし整理すると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「アルミ箔と、
前記アルミ箔上に積層される、透明、半透明なアンカーコート層と、
前記アンカーコート層上に設けた白インキ層と、
前記白インキ層上に位置し、バーコードが印字されるレーザ発色層と、を備え、
医薬品、健康食品の錠剤、カプセル等の包装に多く使用される、PTP包装用積層体。」

2.対比・判断
甲1発明の「アルミ箔」は本件発明1の「アルミニウム箔」に相当し、同様に「アルミ箔上に積層される」は「アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層である」に、「アンカーコート層」は「下地層」に、「白インキ層」は「白着色層」に、「バーコードが印字されるレーザ発色層」は「バーコード部」に、「医薬品、健康食品の錠剤、カプセル等の包装に多く使用される」は「薬品、食品又は化粧品の包装を用途とする」に、「PTP包装用積層体」は「包装用シート」に、相当する。

そうすると、両者は、以下の点で一致し、相違点はない。
「アルミニウム箔と、
前記アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層である、透明ないし半透明の下地層と、
前記下地層上に設けた白着色層と、
前記白着色層上に位置するバーコード部と、を備え、
薬品、食品又は化粧品の包装を用途とする、包装用シート。」

本件発明2が限定する点については、下地層がシンボルコントラスト(SC)値を高めることは明らかである(甲1【0042】、【0046】)。
よって、この点は実質的相違点ではない。

また、甲1、2発明の発明者は本件発明1の発明者と同一ではなく、本件発明1の出願人と甲1、2発明の出願人とが同一でもない。

3.小括
本件発明1、2に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

第7.甲12を主とする第29条第1項の無効理由についての当審の判断
1.本件発明
本件発明1は、上記第2.のとおりと認められる。

2.甲12蓋材
(1)甲12記載事項
甲12は、上部に「TECHNICAL INFORMATION」、下部に「NIPPON FOIL MFG.CO.,LTD.」なる表記、右上部に「No390」、下右部に「63.11.10」なるスタンプ表記がある紙に、シートがその上部で貼付されたものである。
シートは、それぞれに「明治乳業」、「ババロアチョコレート」、及び「49722123」なるバーコードの記載があり全体が白色である円形状のものが4つ、「明治乳業」、「ババロア」と記載があり全体が白色である上半円形状のものが2つある。

(2)甲10記載事項
甲10には、以下の記載がある。
「製品仕様書(加工品)」(左欄左上)
「制定年月日 改正 63年8月19日」(左欄右上)
「上項目 メイジ、ババロア、チョコレート、6C」(左欄右上)
「質別 O」(左欄右上)
「得意先 12021 明治乳業(株)」(左欄左上)
「明治乳業」、「ババロアチョコレート」、及び「49722123」なるバーコードの記載がある円形状のもの(甲12のものに同じ)(左欄右中)
「構成
OP
6C 印刷
AC
Al(斜線とともに)
PE20μ
HM(#65)」(左欄左中)
表形式で、「工程順」、「工程名」として、順に「1 PE」、「2 AC」、「3 印刷」、「4 OP」、「5 HM」、「6 断裁」(左欄下)
表形式で、「2 AC」に対応し「樹脂名 FAC-3」(左欄下)
「技術課」欄に「奥田」の印(左欄下)

(3)甲9記載事項
甲10は、「奥田」印があるとおり、奥田が確認したものである。
甲12に貼付されたシートは、甲10の「製品仕様書」により製造された、明治乳業向け「ババロアチョコレート」容器の蓋材の刷見本である。
甲10の表形式の部分は、「構成」として記載されるものを製造するため、「構成」の斜線で示される「Al」層に、順次積層していく「工程」を示している。
「OP」は「オーバープリント層」、「6C 印刷」は「印刷層」、「AC」は「アンカーコート層」、「Al」は「アルミニウム箔」を意味する。
「FAC-3」なる樹脂は透明であるから、「AC」は「アンダーラッカーRLによるアンカーコート層」と言える。

(4)甲20記載事項
別件無効審判(無効2014-800070)における、証人奥田稔の証言として、以下の記載がある。

請求人復代理人
「0010 甲12号証を示します。甲12号証にある図柄の蓋材を、あなたは日箔の社員として、具体的にその製造にかかわったわけですね。
はい、そうです。
0011 この蓋材の図柄や色調、バーコードの種類やサイズというのは、客先である明治乳業から指定されるのですか。
はい、そうです。
0012 当時、この蓋材の製造は、蓋材の構成やデザインが確定した後、例えば常に少しずつでも製造して在庫として保有しておいて、明治乳業から注文があれば、それを出荷するという態勢なのか、それとも注文があってから製造して納入するという態勢なのか、どちらでしょうか。
これは、明治さんから御注文いただいた都度に製造いたしておりました。」

「0018 今、お手元にある甲12号証を見てください。今ここでお尋ねするに際して、甲12号証のようなアルミシートが台紙に貼られたもの全体を「刷り見本」とこれから言います。台紙に貼られたアルミシートを、「刷り見本用のアルミシート」と言いますけれども、刷り見本用のアルミシートというのは、その製造仕様書に基づいて最初に少量印刷されたものだということですか。
はい、そうです。
0019 刷り見本の台紙の右下には、「63.11.10」という判子が押されていますけれども、これはどういう意味ですか。
これは、この刷り見本を作成して、いわゆるここに、台紙に貼りつけた日付でございまして、下の「63.11.10」というのは、昭和63年11月10日に作成したということでございます。
0020 作成したというか、アルミシートを台紙に貼りつけた日ということですか。
そうです。台紙に貼りつけた日にちが11月10日。
0021 この刷り見本について、客先の承認は受けていますか。
はい、受けております。
0022 それはどうやってわかるのですか。
我々は、お客様から御承認をいただいたもののみを残すようにいたしております。こうして残っておるということは、承認を受けたということでございます。
0023 そうすると、承認を受けたのがいつかということになりますけれども、それは昭和63年の11月10日ということになるのですか、それともそうとはならないのですか。
御承認いただくのは63年11月10日の日、もしくは持参した場合は、これに近い状況の日にちになっていると思います。
0024 この刷り見本というのは、どのような目的で作成されるのですか。
これは次回の製造の見本とするために作成いたしております。
0025 一つの図柄、例えば甲12号証であれば、一つの図柄ですけれども、その一つの図柄について、刷り見本は1枚しかつくらないのですか。それとも複数枚つくるのですか。
これは複数枚、作成いたします。
0026 複数枚存在するのは、なぜですか。
これは各工程に配付するためでございます。
0027 各工程への配付というのは、今お手元にある甲12号証のように、台紙に刷り見本用アルミシートが貼られた状態で配付するのですか。
はい、そうです。
0028 当時は、どの部署で刷り見本が作成されたのですか。
技術課で作成いたしておりました。
0029 そうすると、この日付は、技術課の担当者が押すということになるのですか。
はい、そうです。
0030 そうすると、この甲12号証の刷り見本及びそこに貼られた刷り見本用アルミシートというのは、昭和63年当時に作成されたものだというふうにお聞きしてよろしいですか。
はい、そうです。」

「0033 甲10号証にあわせて甲12号証を示します。そうすると、確認ですけれども、昭和63年11月10日という日付が押されている甲12号証の刷り見本の刷り見本用アルミシートというのは、甲10号証の製品仕様書に基づいて作成されたものだというようにお聞きしてよろしいですか。
はい。
0034 それでは、甲10号証の製品仕様書の改正日付が63年8月19日で、甲12号証の日付印が63年11月10日と、3ヵ月ほど開いていますけれども、そのように日付が離れている原因として、何か考えられますか。
あまり記憶はないんですけれども、こういう日付が離れているというときは、多分、最初に提出させていただいた刷り見本が、お客様の仕様と少し違ったために、再度つくりかえを行って、最終11月10日の日に作成になった、そのために約3ヵ月ぐらいのずれができたのではないかと思っております。
0035 刷り見本の保管期間についての社内規則はありますか。
今現在はございますけれども、当時はそのような規定はございませんでした。
0036 甲10号証を示します。ところで、この製品仕様書の左側半分には構成欄がありますけれども、この構成欄の記載は何を記載しているのですか。
左側の構成は、ここに書かれていますように、ババロアチョコレートという蓋材の全体の構成を示しております。
0037 この構成欄を見ますと、左側には、真ん中に斜線部分があって、その横に小さく「Al」とありますが、この部分がアルミ箔部分を示しているのですか。
はい、そうです。
0038 そうすると、この構成欄の右側のほうに記載されているもので、アルミ箔より上の部分に「ツヤ面」、また下側には「ケシ面」と印刷されていますけれども、ババロアの蓋材の図柄やバーコードなどが印刷されるのは、どちら側ですか。
この図のとおりで、ツヤ面でございます。
0039 この構成欄の斜線の部分、すなわちアルミ箔のすぐ上に「AC」とあり、その上に「6C印刷」、さらにその上に「OP」となっていますけれども、これはどういう意味ですか。
これはアルミ箔のツヤ面のほうに、アルミから順番にAC、アンカーコーティングを行って、6色の印刷をし、さらにその上にOP、オーバープリンティングをしたものだということであります。
0040 バーコードとか、あるいはババロアという文字や図柄というのは、これらの層の、どの層に属するのですか。
この図の中では「6C印刷」のところに該当いたします。
0041 その「6C印刷」と記載された部分の右側に、「ZGタイプ」という記載がされていますけれども、これはどういう意味ですか。
これはインキのグレードを示しております。
0042 AC、すなわちアンカーコート層は、透明の樹脂であると考えていいですか。
はい、ここに書いています「FAC-3」という樹脂を使っていまして、この樹脂自身は透明な樹脂でございます。
0043 このアンカーコートは、アルミ箔の全面に塗布されているのですか。
はい、そうです。
0044 そのことは、この製品仕様書の記載からわかりますか。
はい。右の下の「工程順」という欄の2番目に「AC」と書いてある工程がございます。その下のほうに「版」と書いていまして、「♯150」という記載がされております。これは、この図柄を印刷する指定版ではございませんで、150メッシュの全体を掘った版だということですので、こういう全体の版を使った場合については、アルミ箔全面にACが施されているということがわかります。
0045 このババロアチョコレートの蓋材において、アンカーコートはどのような目的で塗布されるのですか。
アンカーコーティングの目的は二つございまして、一つは、アルミニウム箔とペイントの密着性、接着を向上させるというもの。もう一つは、二つ目は、アルミニウム箔は、その上に印刷をかけた場合、特に薄い、白い色なんかの場合には、アルミ地の色が出てグレーっぽくなります。そのため本来の白い色とか、正しい色を印刷するために、アンカーコーティングを施します。」

被請求人代理人
「0058 あなたは、ババロアの蓋材の製造にかかわっていたということですが、課長さんというポストで、具体的にはどういうかかわり方をするのでしょう。
技術の課長としては、新しい商品が出てきたときの構成の検討であったり、樹脂やフィルムとかの選定、また色のインキの配合等の指示とかを、スタッフと一緒に行っておりました。
0059 具体的に仕様書の原案をつくったり、刷り見本となるようなもの、こういったものをつくる案というのは、あなたですか、それとも部下の方がされるのですか。
そのときによって違いますけれども、お客様が重要なときについては、私が出ていってやっておりました。
0060 明治乳業ですかね、ババロアの。この場合は。
私がやっていました。
0061 あなたが直接やられた。
はい。
0062 刷り見本を保管するという話がありましたけれども、これもあなたがやっておられた。保管するというのは、ファイルに入れて、棚に入れてということですか。
0063 そうです。
多分、人数が少ないから、私がやっていたんじゃないかと思います。
0064 あそこの、ナンバリングしますよね、台紙に。これは誰がやるのですか。
そのときですから、私がやったと思います。
0065 やられた。
はい。
0066 ナンバーというのは通しナンバーで、順番につけていく。
はい、そうです。
0067 刷り見本を作成して、後に残すものごとにつくっていくというお話でしたね。刷り見本をつくって、後でそれを、一度使うということでやったけれども、やはり変更したという場合には、前に保存したものは廃棄されるのでしょうか。
はい、廃棄します。
0068 そうすると、欠番が生じるわけですか。
いえ、その番号を使います。つくりかえた場合は、その番号を使いますので、欠番ではございません。
0069 そうすると、一旦つくった刷り見本と同じ番号で、違う日付のファイルをつくるということですか。
そうです。
0070 そうすると、先ほど、本件の場合、仕様書から刷り見本の作成まで3ヵ月ほどの間があると。おそらく刷り見本についてお客さんのほうが、これでは駄目と言われたので、変えましたということですが、このケースでいうと、本当はもう一つ前に刷り見本があったということでしょうか。
これだけ空いているときというのは、多分、その前に、作成したものがあったと思っております。
0071 そういう刷り見本の変更について、記録は残らないのですか。
特に記録としては、立会とかの記録はありますけれども、ここの色見本のところには記録は残っていません。
0072 ちょっと待ってください、ゆっくり。まず、ここには記録はないけれども、別に記録があるんですね。
製造の記録のところには残っていますけれども、この色見本には残りません。
0073 ですから、製造のところには残っているわけですね。
製造には、はい。
0074 わかりました。それと、刷り見本をつくる目的について、先ほど、後に製造するための、次回の製造の見本として残すんだというお話がありましたね。ということは、刷り見本は一度保存しても、ずっとそのまま誰もあけないんじゃなくて、次のときにまた開いて見るということですか。
これは、御承認いただいたら、複数部つくっておりますので、各工程に配っております。だから、おのおのの部分で、これが見られるような状況になっております。
0075 それもお聞きしたんですけれども、次回の見本でというお話があったので、次回つくるときにですよ、増刷するときですか、それをまた見るんじゃないのですか。
はい、見ます。
0076 その出し入れについては、どういう管理がされているのですか。
これは、現場でクリアファイルに入って保管しておりました。
0077 例えば誰がいつ借り出して、いつ返却したというような記録は残さないのですか。
残っておりません。
0078 残っていないというのは、そもそもつくっていないということなのですか。
そうじゃなくて、配付していますから。各部門、製造部門の印刷部門であったり、次の工程であったり、そういう部門に配付をしていますから、現場で必ず見られるような状況にはなっておりますということです。
0079 現場以外にはどこにあるのですか。
現場以外には、品証が持っております。品質保証。
0080 今回、証拠として出された刷り見本は、どこにあったものですか。
これは、ちょっと私が取りに行ったわけじゃなかったんですけれども、今回のこのものは品質保証のところにあったということです。」

審判官
「0127 それでは合議体のほうから幾つか質問させていただきます。先ほど甲12号証、刷り見本をごらんいただいて、あと甲10号証の製品仕様書というのをごらんいただいたのですが、8月と11月ですか、若干、時期にずれがあると。そのずれについては、多分、刷り見本が1回でOKにならなかったので、つくり直したのではないかという御証言をいただいたのですが、そうしますと、刷り見本として保存されていたものは、当然、承認を受けた、つくり直されたものということになりますよね。
はい。
0128 その場合に、OKの出たものはつくり直されたものですから、仕様書との関係でいうと、仕様をどこか変えたからOKになったということなのか、どういう事情でその変更が生じたのか、そこはいかがですか。
仕様書の構成とかには一切変更はございませんで、図柄の色だけの変更ですから、あくまでもインキの配合の変更になります。
0129 図柄の色の変更。
ココナツが、もっと明るくないといけないよとかいうような御指示をいただいたときに、つくりかえるということ。だから仕様書は、全然、変更はございません。
0130 技術主任、もしくは技術課長として、ずっと御経験されていた中で、そういったケースというのはかなり頻繁に起きていたものなのですか。それとも珍しいケースだったのですか。その辺は。
立会に来ていただいたときは、その日で、OK出るまで、印刷の修正を行いますので、決着がつくんですけれども、立会に来られなくて、持って、提示してくれということのときは、場合によっては、我々が良いと思って提出した色見本がお客様の意向とちょっと合わないということがたまに起こることがございました。」

(5)甲12と同構造の蓋材の構成
刷見本の性格、蓋材の構造、略記号の説明等に関し、甲9と甲20との間に、矛盾、不自然な点はない。
よって、甲12に貼付されたシートは、甲10の「製品仕様書」により、製造された刷見本であり、刷見本と同構造の蓋材が製造されたものと認められる。

甲12の刷見本の円形状部分と同構造の蓋材の構成(以下「甲12蓋材」という。)を、本件発明1に照らし整理すると、以下のとおりである。

「アルミニウム箔と、
前記アルミニウム箔の一方の面への塗布層である、アンダーラッカーRLによるアンカーコート(AC)層と、
前記AC層上に設けた白の印刷層と、
前記印刷層上に位置する6C印刷による商品名、バーコード部等と、を備え、
ババロアチョコレート容器の蓋に用いる、ババロアチョコレート容器の蓋材。」

(6)甲12蓋材の公然実施
甲12蓋材は、甲10の「得意先 12021 明治乳業(株)」なる記載、甲9の15ページの記載、甲20の記載からみて、明治乳業に納品されたものと解される。
甲13には、表紙に「‘89・商品のご案内」、最後のページに「明治乳業株式会社」との記載がある。また、「デザート」なるページの中部に「22」という番号の付された写真、下部に表形式で「商品名」「22 ババロア(チョコレート)」、「種類」「一般食品」、「容量」「100ml」、「JANコード」「49722123 短縮」との記載がある。
甲13の「商品名」「22 ババロア(チョコレート)」についてみると、その図柄(甲14)、JANコード「49722123」(甲15)が、甲10のものと同一であるから、甲12蓋材は、明治乳業株式会社の「ババロア(チョコレート)」の蓋材として使用されたものである。
「ババロア(チョコレート)」の容量が100mlであることから、「ババロア(チョコレート)」は、1989年頃、一般消費者に販売されていたものである。
その結果、甲12蓋材は、公然と実施されたと認められる。

3.本件発明1との対比・判断
本件発明1と、甲12蓋材とを対比する。
甲12蓋材の「アンダーラッカーRLによるアンカーコート(AC)層」は、用いられる「FAC-3」なる樹脂が透明であるから、本件発明1の「透明の下地層」に相当する。
甲12蓋材の「白の印刷層」は、本件発明1の「白着色層」に相当し、同様に、「6C印刷による商品名、バーコード部等」は「バーコード部」に、「ババロアチョコレート容器の蓋に用いる」は「薬品、食品又は化粧品の包装を用途とする」に相当する。
甲12蓋材はシート状であるから、甲12蓋材の「ババロアチョコレート容器の蓋材」は、本件発明1の「包装用シート」に、相当する。

したがって、両者は、以下の点で一致し、相違点はない。
「アルミニウム箔と、
前記アルミニウム箔の一方の面への塗布層である、透明ないし半透明の下地層と、
前記下地層上に位置する白着色層と、
前記白着色層上に位置するバーコード部と、を備え、
薬品、食品又は化粧品の包装を用途とする、包装用シート。」

4.小括
本件発明1は、特許法第29条第1項第2号の発明に該当するから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。

第8.甲2を主とする第29条第2項の無効理由についての当審の判断
1.本件発明
本件発明1?7は、上記第2.のとおりと認められる。

2.刊行物記載事項
(1)甲2
甲2には、以下が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プレススルーパック(以下「PTP」という)用蓋材に関し、更に詳しくは、医薬品等の錠剤の包装体に使用されるPTP用蓋材に関するものである。」

「【0008】そこで本発明は、蓋材であるアルミニウム箔の表面の光の反射をなくして、アルミニウム箔に施された商品名や内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を際立たせて、視認性を高めるPTP用蓋材を提供することである。」

「【0011】
【発明の実施の形態】上記の本発明について、図面等を用いて以下に更に詳しく説明する。まず、上記の本発明において、アルミニウム箔としては、硬質性であって、厚みが15?30μmのものを使用することができる。すなわち、アルミニウム箔としては、軟質性のものと硬質性のものがあるが、軟質性のものは、硬質性のものに比較して、機械的強度が劣るため、PTP用蓋材といった本目的には、内容物を保護する観点から適していない。また、硬質性のものであっても、15μmより薄いものは、ピンホールが内在しており、上記軟質性のものと同様な理由で適していないし、逆に30μmより厚いものは、機械的強度が強くなり過ぎることにより、PTPの本来機能である押圧破断が困難になる一方で、経済性の点でも悪くなる。」

「【0013】また、上記方法は、アルミニウム箔に直接塗工層を設ける方法であるが、アルミニウム箔と塗工層との間に、必要ならば、例えば、各層の密着性等を高めるためにプライマー層等を設けることができる。プライマー層としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、エステル系樹脂等の一種ないしそれ以上のビヒクルに所望の添加剤を任意に加えて充分に混練してなる樹脂組成物を用い、上記の印刷法ないしコーティング法で印刷ないし塗工することにより、該樹脂組成物によるプライマー層を得ることができ、そのドライの場合の塗工量としては、1mg?1g/m2位が好ましい。
【0014】しかるのちに、本発明においては、上記の一色の塗工層の上に、商品名・内容物の取り出し方法などのマ-クや文字等の印刷を施す。該印刷は、・・・樹脂組成物を用い、グラビア印刷方式で印刷することで得られる。これに使用する着色顔料は、一般的には有彩色を用い、塗工層に使用する着色顔料は無彩色、基本的には白色を用いる。しかし、この組み合わせは、商品名・内容物の取り出し方法などのマ-クや文字等の印刷が際立ち、視認性が高まる組み合わせであれば、いかなる組み合わせでも良い。
【0015】その後更に、上記の印刷層の上に、・・・樹脂組成物を用い、前記同様の印刷法ないしコーティング法で印刷ないし塗工することにより、該樹脂組成物によるオーバーコート層を得ることができる。・・・。」

「【0018】前記のような視認性の高いPTP用蓋材の層構成について、図面を用いて示すと、図1、図2は本発明のPTP用蓋材の層構成を示す断面図である。まず、本発明にかかるPTP用蓋材は、図1に示すように、アルミニウム箔1の片面に、商品名・内容物の取り出し方法などの印刷を際立たせ、視認性を高める塗工層2を設け、該塗工層2の上に、商品名・内容物の取り出し方法などの印刷層3を設け、更に、該印刷層3の上に、該印刷層3を保護するオーバーコート層4を設け、他方、上記アルミニウム箔1の他方の面に、内容物収納用の凹部が賦形されている底材を該蓋材で閉塞するための接着剤層5を形成した構成からなるものである。
【0019】また、本発明にかかるPTP用蓋材は、図2に示すように、アルミニウム箔1の片面に、商品名・内容物の取り出し方法などの印刷を際立たせ、視認性を高める塗工層2を設け、該塗工層2の上に、商品名・内容物の取り出し方法などの印刷層3を設け、更に、該印刷層3の上に、該印刷層3を保護するオーバーコート層4を設ける構成は、上記の図1に示す構成と同じであるが、他方、上記アルミニウム箔1の他方の面にも、商品名・内容物の取り出し方法などの印刷を際立たせ、視認性を高める塗工層2' を設け、該塗工層2' の上に、商品名・内容物の取り出し方法などの印刷層3' を設け、しこうして、該印刷層3' の上に、内容物収納用の凹部が賦形されている底材を該蓋材で閉塞するための接着剤層5を形成し、アルミニウム箔の両面に印刷層を形成した構成からなるものである。」

甲2に記載された事項を、図面を参照し、技術常識を勘案しつつ、本件発明に照らして整理すると、甲2には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

「アルミニウム箔1と、
前記アルミニウム箔1と塗工層2との間に設けられる塩化ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂等からなる樹脂組成物によるプライマー層と、
前記プライマー層上に設けた白色の前記塗工層2と、
前記塗工層2上に位置するグラビア印刷方式による商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷層3と、を備え、
医薬品等の錠剤の包装体に使用される、プレススルーパック用蓋材。」

(2)甲3
甲3には、医薬品のバーコードによる識別が求められている点(40ページ左欄)、PTPアルミ箔の構成(41ページ第1図)、バーコード印刷において、総合グレードC以上を推奨すること(42ページ左欄)、SCのBグレード以上の確保が望ましいこと(42ページ右欄)が、記載されている。

(3)甲4
甲4には、医薬品のバーコードによる識別が求められている点(56?57、69?70、77ページ)、バーコードの読み取り性においてレベル「C」以上が求められること(78ページ)、白ベタ印刷の上にバーコードを表示することが望ましいこと(80ページ)が、記載されている。

(4)甲5
甲5には、バーコードの印刷品質はグレードC以上が推奨されること(30ページ)、総合グレード判定の手法(36ページ)が、記載されている。

(5)甲6
甲6には、塩化ビニル塗料が無色透明であること(396ページ)が、記載されている。

(6)甲7
甲7には、通常硬化エポキシ樹脂、可撓性付与硬化エポキシ樹脂、いずれも透明から半透明であること(17ページ)が、記載されている。

(7)甲8
甲8には、グラビア印刷に用いられるグラビア版が記載されている。

(8)甲22
甲22には、厚生労働省医薬食品局安全対策課長名で、医薬品の取り違えによる事故防止及び医薬品のトレーサビリティーの確保の観点から、バーコード表示を行うよう求める旨(最初のページ)が、記載されている。

(9)甲26
甲26には、包装用インキの顔料含有量が5?35%であること、かかる配合例が「重量%」であることが、記載されている。

(10)甲27
甲27には、PTP蓋材に関し、顔料含有量がインキ中1?30重量%程度であることが、記載されている(【0015】)。

(11)甲28
甲28には、PTP蓋材に関し、顔料または染料の含有量が10?20重量%が良いこと、顔料として酸化チタンが、記載されている(【0022】)。

(12)甲29
甲29には、塗料のベース樹脂として用いられるニトロセルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂が一般的に透明である点が、記載されている。

(13)甲30
甲30には、メラニン樹脂が透明である点が、記載されている。

(14)甲31
甲31には、工業塗料に関し、「顔料・染料」は「色をつけるもの(透明塗料には入っていない)」である点が、記載されている。

(15)甲32
甲32には、塗料と塗装技術に関し、塗料が「透明塗料(ワニス、クリアー)」であり、ビヒクルに「顔料」を加えたものが「着色塗料(エナメル・カラークリヤー)」である点が、記載されている。

3.本件発明1との対比
本件発明1と、甲2発明とを対比する。
甲2発明の「プライマー層」は、「アルミニウム箔1と塗工層2との間に設けられる」ことから、本件発明1の「アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層」である「下地層」に相当する。
甲2発明の「白色の塗工層2」は、本件発明1の「白着色層」に相当し、同様に、「医薬品等の錠剤の包装体に使用される」は「薬品、食品又は化粧品の包装を用途とする」に、「プレススルーパック用蓋材」は「包装用シート」に、相当する。
甲2発明の「グラビア印刷方式による商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷層3」と、本件発明1の「バーコード部」とは、「印刷表示」である限りにおいて一致する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
「アルミニウム箔と、
前記アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層である、下地層と、
前記下地層上に設けた白着色層と、
前記白着色層上に位置する印刷表示と、を備え
薬品、食品又は化粧品の包装を用途とする、包装用シート。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1:印刷表示について、本件発明1は「バーコード部」であるが、甲2発明は「商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等」である点。
相違点A:下地層について、本件発明1は「透明ないし半透明の」と特定されているが、甲2発明は明らかでない点。

4.相違点の判断
(1)相違点1
相違点1について検討する。
医療用医薬品においては、平成18年9月15日の厚生労働省医薬食品局安全対策課長名の「医療用医薬品へのバーコード表示の実施について」なる文書(甲22)により、バーコード表示を実施することとされ、かかる課題は、業界において、当然に対応すべき課題として認識されていた(甲3の40ページ、甲4の56?57ページ)。
甲2発明は、「医薬品等の錠剤の包装体に使用される」(2.(1)の【0001】)ものであるから、甲2発明において、上記の当然に対応すべき課題を踏まえ、バーコード表示を試みることは、当然に検討すべき事項である。
甲2発明は、印刷による「商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等」を有しているところ、「マークや文字等」と、甲3又は甲4記載の「バーコード表示」とは、いずれも「印刷表示」であるから、印刷という同様の手段により形成可能である(甲3の41ページ第2図、甲4の72ページ図15?17、79ページ図2?3、甲5の28ページ)。
してみると、医薬品における当然に対応すべき課題を踏まえ、甲2発明の「商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等」に代え、又はこれに加えて、「バーコード表示」を行うようにすることは、自然なことである。
したがって、甲2発明を、相違点1に係るものとすることに、困難性は認められない。

(2)相違点A
相違点Aについて検討する。
甲2発明の下地層(プライマー層)は、「塩化ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂等からなる樹脂組成物」によるものである。
塩化ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂は、いずれも「透明」であることは技術常識(甲6、甲7)である。
そうすると、甲2発明の下地層である「塩化ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂等からなる樹脂組成物」は、「透明」と解することが自然である(甲29?32)。
よって、この点は実質的相違点ではない。

また、両相違点を総合勘案しても、格別の技術的意義が生じるとは認められない。
よって、本件発明1は、甲2発明、甲3又は4記載事項、周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。

5.本件発明2?8
(1)本件発明2
本件発明2と甲2発明とを対比すると、上記相違点1、相違点Aに加え、以下の点で相違する。
相違点B:本件発明2は、「下地層が、前記バーコード部の読み取りの、少なくともシンボルコントラスト(SC)値を高めるためのものである」が、甲2発明は明らかでない点。

相違点1、相違点Aは、上記4.で検討したとおりである。
相違点Bについて検討する。
本件発明2の下地層は、「バーコード部の読み取りの、少なくともシンボルコントラスト(SC)値を高める」ための、甲2発明にない特別の構成を有するものではない。
製品性能の一つである読み取り性を高めるという課題は、当然求められる課題である。
そして、総合評価Aの一要素であるシンボルコントラスト(SC)値についても、甲3には、SCのBグレード以上の確保が望ましいこと(42ページ右欄)、甲5には、SCがグレードC以上が推奨されること(30ページ)が、記載されている。
下地層の構成自体は、4.(1)で検討したとおり、当然に容易想到であり、結果としてシンボルコントラスト(SC)値が高められることとなる。
また、これら相違点を総合勘案しても、格別の技術的意義が生じるとは認められない。
よって、本件発明2は、甲2発明、甲3又は4記載事項、周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。

なお、以下、同様の相違点については検討したとおりである旨の記載、相違点を総合勘案しても格別の技術的意義が生じるものではない旨の記載を、省略する。

(2)本件発明3
本件発明3と甲2発明とを対比すると、さらに、以下の点で相違する。
相違点C:本件発明3は、「白着色層は、20重量%?30重量%の白色顔料を含む」ものであるが、甲2発明は明らかでない点。

相違点Cについて検討する。
本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0021】
白色顔料の含有量は固形分基準で白着色層中20重量%?30重量%とするのが好ましい。白着色層3中の白色顔料の含有量が20重量%未満の場合には、発色に乏しくなり、バーコードの読み取り精度が落ちるおそれがある。白着色層3中の白色願料の含有量が30重量%を超えると、白色顔料の分散不良の原因になり、インキの粘度調整がしにくくなり、印刷不良の原因になるおそれがある。」
すなわち、相違点Cの技術的意義は、読み取り精度と印刷不良との観点から、適した範囲を選択したものと解される。

甲2には、以下の記載がある。
「【0023】
・・・
実施例1
20μm厚みのアルミニウム箔の艶面に、酸化チタン40%を含有した塩化ビニル系白インキをヘリオクリショグラフで製造した54線/cmのベタ版で印刷し、180℃で乾燥して塗工層(3g/m2 )を形成する。」

甲2には、「酸化チタン40%」であることの必然性は記載されていない。
甲2記載の「40%」が「重量%」であるか明記はないが、インキや塗料の含有量としては、「原子%」、「体積%」ではなく、「重量%」が一般的である(甲26?28)。
また、酸化チタンは白色顔料として周知なものである(甲27)。
甲2発明においても、「読み取り精度と印刷不良」は、求められる課題であるから、最適な範囲とすべく、相違点Cの「白着色層は、20重量%?30重量%の白色顔料を含む」ものとすることに、困難性は認められない。

よって、本件発明3は、甲2発明、甲3又は4記載事項、周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。

(3)本件発明4
本件発明4と甲2発明とを対比すると、さらに、以下の点で相違する。
相違点D:本件発明4は、「白着色層が、単位面積当たり1.0g/m^(2)?4.0g/m^(2)で前記アルミニウム箔上に設けられている」ものであるが、甲2発明は明らかでない点。

相違点Dについて検討する。
本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0009】
また、上記の白着色層が、単位面積当たり1.0g/m^(2)?4.0g/m^(2)でアルミニウム箔上に分布する構成をとることが好ましい。・・・。乾燥状態における白着色層の単位面積当たりの重量が1.0g/m^(2)未満では、バーコードリーダーは小面積化・高密度化したバーコードを精度よく確実に読み取ることができず、一方、4.0g/m^(2)を超えると、白着色インキの乾燥に長時間かかる上、液ダレや乾燥後の偏肉が生じ、コイル巻き取り時のアルミニウム箔(包装用シート)のたるみ、しわの発生等の不具合を生じやすくなる。」
すなわち、相違点Dの技術的意義は、読み取り精度と生産性との観点から、適した範囲を選択したものと解される。

甲2には、以下の記載がある。
「【0012】次にまた、上記の本発明において、アルミニウム箔面に印刷層の下塗りとして設ける一色の塗工層は、全面ベタの塗工層であってもよいし、商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷絵柄部分のみのパート塗工層であってもよい。・・・。また、使用する塗工液としては、・・・樹脂組成物を用い、上記の印刷法ないしコーティング法で印刷ないし塗工することにより、該樹脂組成物による塗工層を得ることができる。上記において、樹脂組成物によるドライの場合の塗工量としては、0.1?5g/m^(2) 位の範囲内であることが好ましい。」

「【0023】
・・・
実施例1
20μm厚みのアルミニウム箔の艶面に、酸化チタン40%を含有した塩化ビニル系白インキをヘリオクリショグラフで製造した54線/cmのベタ版で印刷し、180℃で乾燥して塗工層(3g/m^(2) )を形成する。」

甲2における白着色層は、「0.1?5g/m^(2)」であり、実施例として「3g/m^(2)」が記載されており、相違点Dの範囲に含まれている。
甲2発明においても、「読み取り精度と生産性」は、求められる課題であるから、相違点Dは、実質的相違点ではない。

よって、本件発明4は、甲2発明、甲3又は4記載事項、周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。

(4)本件発明5
本件発明5と甲2発明とを対比すると、さらに、以下の点で相違する。
相違点E:本件発明5は、「バーコード部は、フレーム処理されたグラビア版を用いて、印刷されている」ものであるが、甲2発明は明らかでない点。

相違点Eについて検討する。
印刷手段として、「グラビア版」によるものは、甲2の段落0014、甲8の第2欄第8?14行に示されるごとく周知である。そして、「グラビア版」においては、印刷精度向上のため「フレーム処理」することが、普通に行われている。
甲2発明の印刷手段として、かかる周知技術を適用することは、適宜選択しうる事項にすぎない。
よって、本件発明5は、甲2発明、甲3又は4記載事項、周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。

(5)本件発明6
本件発明6と甲2発明とを対比すると、さらに、以下の点で相違する。
相違点F:本件発明6は、「バーコード部のインキ層の中心線から公称幅分を越えてはみ出たはみ出し幅ΔWが、その他の印刷部または裏面印刷部のインキ層の上記はみ出し幅ΔWと比較して、10%以上小さい」ものであるが、甲2発明は明らかでない点。

相違点Fについて検討する。
本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0028】
包装用シート10が作製された後に、バーコード部5がフレーム処理されたグラビア版で印刷されたかどうかは、バーコード部5のインキ層5aと、その他の印刷部9または裏面印刷部16のインキ層とを比較することで、特定することができる。・・・。フレーム処理をしていないグラビア印刷を行った、その他の印刷部9および裏面印刷部のインキ層のΔWに比較して、バーコード部のフレーム処理したグラビア版で印刷したインキ層のそれは、10%以上小さいので、フレーム処理されたグラビア版を用いたかどうかを、特定することができる。」

すなわち、相違点Fの技術的意義は、フレーム処理されたグラビア版を用いたかどうかの特定のためと解される。
相違点Eで検討したとおり、甲2発明においても、フレーム処理されたグラビア版を用いて印刷することは、適宜選択しうる事項にすぎず、かかる印刷手段により得られたものは、結果として、相違点Fの構成を有するものとなる。

よって、本件発明6は、甲2発明、甲3又は4記載事項、周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。

(6)本件発明7
本件発明7は、「シートの製造方法」であるが、本件発明1を引用する本件発明5の「包装用シート」の層構造を、順次、「製造方法」として特定したにすぎず、「製造方法」として特別の技術的特徴はない。
よって、本件発明7は、甲2発明、甲3又は4記載事項、周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。

第9.甲12を主とする第29条第2項の無効理由についての当審の判断
1.本件発明
本件発明2?7は、上記第3.のとおりと認められる。

2.甲12蓋材
甲12蓋材については、上記第7.の2.のとおりである。

3.本件発明2との対比・判断
本件発明2と甲12蓋材とを対比すると、上記第7.の3.のとおり、本件発明1と甲12蓋材とは一致するので、以下の点で相違する。

相違点2:本件発明2は、「下地層が、前記バーコード部の読み取りの、少なくともシンボルコントラスト(SC)値を高めるためのものである」が、甲12蓋材は明らかでない点。

相違点2について検討する。
本件発明2の下地層は、「バーコード部の読み取りの、少なくともシンボルコントラスト(SC)値を高める」ための、甲12蓋材にない特別の構成を有するものではない。
製品性能の一つである読み取り性を高めるという課題は、当然求められる課題である。
そして、総合評価Aの一要素であるシンボルコントラスト(SC)値についても、甲3には、SCのBグレード以上の確保が望ましいこと(42ページ右欄)、甲5には、SCがグレードC以上が推奨されること(30ページ)が、記載されている。
下地層の構成自体は、4.(1)で検討したとおり、当然に容易想到であり、結果としてシンボルコントラスト(SC)値が高められることとなる。
また、これら相違点を総合勘案しても、格別の技術的意義が生じるとは認められない。
よって、本件発明2は、甲12蓋材、甲3又は4記載事項、周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。

4.本件発明3?7
本件発明3?7については、上記第8.の5.と同様の理由、すなわち甲12蓋材、甲2記載事項、甲3又は4記載事項、周知技術に基づいて、容易に発明することができたものである。

第10.むすび
(1)本件発明1?2は、甲1発明と同一であるから、本件発明1?2についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、(2)本件発明1は、甲12蓋材と同一であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、本件発明1についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、(3)本件発明1?7は、甲2発明をもとに当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?7についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、(4)本件発明2?7は、甲12蓋材をもとに当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2?7についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件発明1?7についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するので、無効とすべきものである。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-21 
結審通知日 2016-06-23 
審決日 2016-07-05 
出願番号 特願2012-149603(P2012-149603)
審決分類 P 1 113・ 112- Z (B65D)
P 1 113・ 121- Z (B65D)
P 1 113・ 16- Z (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 種子島 貴裕  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 千葉 成就
蓮井 雅之
登録日 2013-10-04 
登録番号 特許第5376697号(P5376697)
発明の名称 包装用シート及びその製造方法  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ