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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H05B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1318378
審判番号 不服2014-22900  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-10 
確定日 2016-09-06 
事件の表示 特願2009-517031「OLEDアプリケーション用の、三重項発光体としての、イソニトリル-金属錯体のオリゴマー」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月10日国際公開,WO2008/003464,平成21年11月26日国内公表,特表2009-542023,請求項の数(23)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,2007年7月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年7月4日,ドイツ)を国際出願日とする出願であって,平成21年3月4日に翻訳文が提出され,平成24年10月31日付けで拒絶理由が通知され,平成25年2月4日に意見書及び手続補正書が提出され,同年11月28日付けで拒絶理由が通知され,平成26年3月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年6月25日付けで,平成26年3月3日提出の手続補正書でした補正が却下されるとともに,同日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされた。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成26年11月10日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成28年1月13日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年5月19日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1ないし23に係る発明は,平成28年5月19日提出の手続補正書によって補正された請求項1ないし23に記載された事項によって特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1ないし23のうち独立形式で記載された請求項は請求項1及び請求項23であって,当該請求項1及び請求項23の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
(i)アノードと,
(ii)カソードと,
(iii)上記アノードと上記カソードとの間に配置され,上記アノードと上記カソードとに直接的または間接的に接触した発光層とを備え,
上記発光層は,一般式(I)
(NC)_(n)M(CNR)_(m)
で表される少なくとも1つの錯体を含み,
Mは,Pt(II),または,Pd(II)を示し,
Rは,ヘテロ原子を含有し得る炭化水素基を示し,
n+m=4であり,
n=m=2であり,
上記発光層における一般式(I)の錯体の割合は,上記発光層の全重量に対して10重量%よりも多く,
気体が周囲から上記発光層の中に侵入しないように,周囲に対して遮断されている,有機発光素子(OLED)であることを特徴とする,発光素子。」(以下,「本願第1発明」という。)

「【請求項23】
一般式(Ia)
(NC)_(n)Pd(CNR)_(m)
で表される錯体であって,
Rは,ヘテロ原子を含有し得る炭化水素基を示し,
n+m=4であり,
n=m=2である,錯体。」(以下,「本願第2発明」という。)


第3 原査定の拒絶の理由について
1 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,概略,次のとおりである。

本願の請求項1ないし34(平成25年2月4日提出の手続補正書による補正後の請求項1ないし34)に係る発明は,その優先権主張の日より前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1:特開2002-241751号公報
引用例2:米国特許第6137118号明細書
引用例3:特開2004-281274号公報

発光効率の向上のため,錯体ドーパントの発光層に占める割合を増加させる手段は,引用例3等に記載されたように従来から知られており,この手法を引用例1の錯体ドーパント又は引用例2の錯体ドーパントを用いた有機EL素子において採用する程度のことは当業者であれば容易に適宜なす程度の事項である。
また,EL発光素子は,通常素子劣化を防ぐため外気に触れないように封止することは当業者であれば当然なす程度の従来周知の処置である(例えば特開2005-276581号公報の段落【0030】の記載等を参照,他の手段も多数存在することも周知である。)から,引用例1及び引用例2の発光層(引用例2の発光層を単なるEL発光層(材料)として使用可能なことも当業者にとって自明)においても,同様の封止処置を採ることは,当業者にとって単なる設計的事項にすぎない。

2 原査定の拒絶の理由に対する判断
(1)引用例
ア 引用例1
(ア)引用例1の記載
引用例1は,本願の優先権主張の日(以下,「優先日」という。)より前に頒布された刊行物であって,当該引用例1には次の記載がある。(下線は,後述する引用例1装置発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【請求項1】 下記一般式(1)で表される部分構造を有する化合物からなることを特徴とする発光素子用材料。
【化1】

一般式(1)中,X^(11)は酸素原子又はN-R^(11)基を表す。ここでR^(11)は置換基を表す。
・・・(中略)・・・
【請求項3】 請求項1に記載の発光素子用材料において,前記化合物が下記一般式(3)で表されることを特徴とする発光素子用材料。
【化3】

一般式(3)中,L^(31)は配位子を表し,Y^(31)は対イオンを表す。n31は1?5の整数を表し,n32は1?5の整数を表し,n33は0?5の整数を表す。R^(31)は置換基を表す。」

b 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電気エネルギーを光に変換して発光する発光素子に関し,特に表示素子,ディスプレイ,バックライト,電子写真,照明光源,記録光源,露光光源,読み取り光源,標識,看板,インテリア,光通信デバイス等に好適に使用できる発光素子に関する。更に本発明はその発光素子に用いる発光素子用材料に関する。
【0002】
【従来の技術】今日,種々の表示素子に関する研究開発が活発に行われており,中でも有機電界発光(EL)素子は低電圧で高輝度の発光が可能であるため注目されている。例えば,有機化合物の蒸着により形成した有機薄膜を有する発光素子が知られている(アプライド フィジックス レターズ,51巻,913頁,1987年)。この発光素子は,電子輸送材料(トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq))と正孔輸送材料(アミン化合物)を積層した構造を有し,従来の単層型素子に比べて大幅に向上した発光特性を示す。
【0003】また,りん光性白金錯体(Pt(ppy)2:Bis-Ortho-Metalated Complex of Pt(II) with 2-Phenylpyridine)からの発光を利用することにより,発光特性を改善した発光素子が報告されている(WO 00/057676)。この発光素子はりん光性発光材料を用いているが,発光輝度及び耐久性が低く改良が求められていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,高輝度発光が可能で耐久性に優れた発光素子を得るために使用する発光素子用材料,及びそれを用いた発光素子を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的に鑑み鋭意研究の結果,本発明者は,特定の構造を有する白金錯体を発光素子用材料として使用した発光素子は高輝度発光が可能であり,且つ耐久性に優れていることを発見し,本発明に想到した。
【0006】本発明の発光素子用材料は,下記一般式(1)で表される部分構造を有する化合物からなることを特徴とする。
【化4】

一般式(1)中,X^(11)は酸素原子又はN-R^(11)基を表す。ここでR^(11)は置換基を表す。
【0007】上記一般式(1)で表される部分構造を有する化合物は,下記一般式(2)又は(3)で表されるのが好ましい。
【化5】
・・・(中略)・・・
【化6】

一般式(2)中,L^(21)は配位子を表し,Y^(21)は対イオンを表す。n21は1?5の整数を表し,n22は1?5の整数を表し,n23は0?5の整数を表す。一般式(3)中,L^(31)は配位子を表し,Y^(31)は対イオンを表す。n31は1?5の整数を表し,n32は1?5の整数を表し,n33は0?5の整数を表す。R^(31)は置換基を表す。
【0008】本発明の発光素子は一対の電極間に,発光層又は発光層を含む複数の有機化合物層を有し,この発光層又は複数の有機化合物層のうち少なくとも一層が上記本発明の発光素子用材料を含有することを特徴とする。発光素子用材料を含有する層は塗布プロセスで成膜するのが特に好ましい。」

c 「【0009】
【発明の実施の形態】[1]発光素子用材料
本発明の発光素子用材料は,下記一般式(1)で表される部分構造を有する化合物からなる。以下本発明では,「一般式(1)で表される部分構造を有する化合物」を「化合物(1)」と称する。
【化7】

【0010】一般式(1)中,X^(11)は酸素原子又はN-R^(11)基を表す。ここでR^(11)は置換基を表し,該置換基の例としては,アルキル基(好ましくは炭素数1?30,より好ましくは炭素数1?20,特に好ましくは炭素数1?10であり,例えばメチル基,エチル基,イソプロピル基,t-ブチル基,n-オクチル基,n-デシル基,n-ヘキサデシル基,シクロプロピル基,シクロペンチル基,シクロヘキシル基等),アルケニル基(好ましくは炭素数2?30,より好ましくは炭素数2?20,特に好ましくは炭素数2?10であり,例えばビニル基,アリル基,2-ブテニル基,3-ペンテニル基等),アルキニル基(好ましくは炭素数2?30,より好ましくは炭素数2?20,特に好ましくは炭素数2?10であり,例えばプロパルギル基,3-ペンチニル基等),アリール基(好ましくは炭素数6?30,より好ましくは炭素数6?20,特に好ましくは炭素数6?12であり,例えばフェニル基,p-メチルフェニル基,ナフチル基,アンスリル基,フェナンスリル基,ピレニル基等),アシル基(好ましくは炭素数1?30,より好ましくは炭素数1?20,特に好ましくは炭素数1?12であり,例えばアセチル基,ベンゾイル基,ホルミル基,ピバロイル基等),アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2?30,より好ましくは炭素数2?20,特に好ましくは炭素数2?12であり,例えばメトキシカルボニル基,エトキシカルボニル基等),アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7?30,より好ましくは炭素数7?20,特に好ましくは炭素数7?12であり,例えばフェニルオキシカルボニル基等),スルホニル基(好ましくは炭素数1?30,より好ましくは炭素数1?20,特に好ましくは炭素数1?12であり,例えばメシル基,トシル基等),スルフィニル基(好ましくは炭素数1?30,より好ましくは炭素数1?20,特に好ましくは炭素数1?12であり,例えばメタンスルフィニル基,ベンゼンスルフィニル基等),ヘテロ環基(好ましくは炭素数1?30,より好ましくは炭素数1?12であり,ヘテロ原子として窒素原子,酸素原子,硫黄原子等を含み,脂肪族ヘテロ環基であってもヘテロアリール基であってもよく,例えばイミダゾリル基,ピリジル基,キノリル基,フリル基,チエニル基,ピペリジル基,モルホリノ基,ベンゾオキサゾリル基,ベンゾイミダゾリル基,ベンゾチアゾリル基,カルバゾリル基,アゼピニル基等)等が挙げられる。これらの置換基は更に置換されていてもよい。
・・・(中略)・・・
【0014】化合物(1)は中性錯体であっても,対イオンを有するイオン性錯体であってもよい。対イオンは特に限定されず,好ましくはアルカリ金属イオン,アルカリ土類金属イオン,ハロゲンイオン,パークロレートイオン,PF_(6)イオン,アンモニウムイオン(テトラメチルアンモニウムイオン等),ボレートイオン又はホスホニウムイオンであり,より好ましくはパークロレートイオン又はPF_(6)イオンである。化合物(1)は中性金属錯体であることが好ましい。
【0015】化合物(1)は,下記一般式(2)又は(3)で表されるのが好ましい。
【0016】
【化8】

【0017】
【化9】

【0018】以下一般式(2)について説明する。一般式(2)中,L^(21)は配位子を表し,その例としては上記「他の配位子」として例示したもの等が挙げられる。配位子L^(21)は,好ましくはハロゲン配位子,含窒素ヘテロ環配位子,ジケトン配位子,シアノ配位子,CO配位子,イソニトリル配位子,リン配位子又はカルボン酸配位子であり,より好ましくは含窒素へテロ環配位子(ビピリジル配位子,フェニルピリジン配位子,2-(ベンゾイミダゾ-2-イル)-ピリジン配位子,2-フェニルベンゾチアゾール配位子等)である。
【0019】Y^(21)は対イオンを表し,その例としては上述した化合物(1)がイオン性錯体である場合に有する対イオンの例と同様のものが挙げられ,好ましい範囲も同じである。
【0020】n21は1?5の整数を表し,好ましくは1又は2である。n22は1?5の整数を表し,好ましくは1又は2である。n23は0?5の整数を表す。n21が複数のとき,複数のL^(21)は同じであっても異なっていてもよい。n23が複数のとき,複数のY^(21)は同じであっても異なっていてもよい。n21及びn22は化合物(1)が中性錯体になる組み合わせであるのが好ましい。また,化合物(1)が4配位錯体になる組み合わせが好ましい。
【0021】一般式(3)中のL^(31),Y^(31),n31,n32,n33及びR^(31)はそれぞれ上記L^(21),Y^(21),n21,n22,n23及びR^(11)と同義であり,好ましい範囲も同じである。
・・・(中略)・・・
【0031】化合物(1)からなる本発明の発光素子用材料は正孔注入材料,正孔輸送材料,発光材料,電子輸送材料,電子注入材料等として機能するものであってよく,複数の機能を併せ持っていてもよい。本発明の発光素子用材料は発光材料又は電荷輸送材料として使用するのが好ましい。以下,化合物(1)の具体例を示すが,それらは本発明を限定するものではない。
【0032】
【化12】

【0033】
【化13】

【0034】
【化14】



d 「【0038】[2]発光素子
本発明の発光素子は,一対の電極(陽極及び陰極)間に,発光層又は発光層を含む複数の有機化合物層を有する。この発光層又は複数の有機化合物層のうち少なくとも一層は,前述した本発明の発光素子用材料を含有する。本発明の発光素子のシステム,駆動方法,利用形態等は特に問わないが,本発明の発光素子用材料を発光材料又は電荷輸送材料として利用したものであるのが好ましい。代表的な発光素子として,有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を挙げることができる。
・・・(中略)・・・
【0040】本発明の発光素子は,発光層に加えて正孔注入層,正孔輸送層,電子注入層,電子輸送層,保護層等を含んでいてよく,これらの各層はそれぞれ他の機能を備えたものであってもよい。前述の通り,本発明の発光素子用材料はこれらの層のいずれに含まれていてもよく,好ましくは発光層又は電荷輸送層に含まれる。以下,各層について詳述する。
・・・(中略)・・・
【0048】(D)発光層
発光素子に電界を印加すると,発光層において陽極,正孔注入層又は正孔輸送層から注入された正孔と,陰極,電子注入層又は電子輸送層から注入された電子とが再結合し,光を発する。発光層をなす材料は,電界印加時に陽極等から正孔を受け取る機能,陰極等から電子を受け取る機能,電荷を移動させる機能,及び正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層を形成することができるものであれば特に限定されない。発光層の材料は一重項励起子及び三重項励起子のいずれから発光するものであってもよく,例えばベンゾオキサゾール,ベンゾイミダゾール,ベンゾチアゾール,スチリルベンゼン,ポリフェニル,ジフェニルブタジエン,テトラフェニルブタジエン,ナフタルイミド,クマリン,ペリレン,ペリノン,オキサジアゾール,アルダジン,ピラリジン,シクロペンタジエン,ビススチリルアントラセン,キナクリドン,ピロロピリジン,チアジアゾロピリジン,シクロペンタジエン,スチリルアミン,芳香族ジメチリディン化合物,金属錯体(8-キノリノール誘導体の金属錯体,希土類錯体,遷移金属錯体等),高分子発光材料(ポリチオフェン,ポリフェニレン,ポリフェニレンビニレン等),有機シラン,これらの誘導体,本発明の発光素子用材料等が使用できる。
・・・(中略)・・・
【0052】(F)保護層
保護層は水分,酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有する。」

e 「【0054】
【実施例】以下,実施例により本発明をさらに詳細に説明するが,本発明はそれらに限定されるものではない。
【0055】比較例1
40mgのポリ(N-ビニルカルバゾール),12mgの2-(4-ビフェニル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)及び1mgの下記化合物A(WO 00/057676に記載)を2.5mlのジクロロエタンに溶解し,得られた溶液を洗浄した基板上にスピンコート(1500rpm,20sec)して有機層を形成した。得られた有機層の膜厚は98nmであった。次に得られた有機層上に発光面積が4mm×5mmとなるようにパターニングしたマスクを設置し,蒸着装置内でマグネシウム及び銀(マグネシウム:銀=10:1(質量比))を50nm共蒸着(1×10^(-3)Pa)し,更に銀を50nm蒸着し,比較例1の発光素子を作成した。得られた発光素子に,東陽テクニカ製「ソースメジャーユニット2400型」を用いて直流定電圧を印加して発光させ,その発光輝度をトプコン社製「輝度計BM-8」を用いて測定した。その結果,微弱な青緑色発光が得られ,最高輝度は100cd/m^(2)であった。また発光素子を1日大気下に放置し再度測定したところ,最高輝度は10cd/m^(2)以下であった。
【0056】
【化16】

【0057】実施例1
化合物Aの代わりに化合物(1-1)を用いて比較例1と同様に素子作成すると,比較例1に比べ,高輝度発光可能かつ高い耐久性を有する素子を作成することができた。
【0058】実施例2
化合物Aの代わりに化合物(1-11)を用いて比較例1と同様に素子作成すると,比較例1に比べ,高輝度発光可能かつ高い耐久性を有する素子を作成することができた。同様に,使用する化合物(1)を適宜選択することにより,種々の発光色を示す高輝度・高耐久発光素子を作成することが可能である。」

(イ) 引用例1に記載された発明
前記(ア)aないしeの記載から,引用例1に,次の発明が記載されていると認められる。

「陽極及び陰極間に,発光層又は発光層を含む複数の有機化合物層を有し,水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有する保護層を形成した有機EL素子であって,
前記発光層に含まれる発光材料として,下記一般式(3)で表される化合物を用いた,
有機EL素子。

一般式(3)中,L^(31)はハロゲン配位子,含窒素ヘテロ環配位子,ジケトン配位子,シアノ配位子,CO配位子,イソニトリル配位子,リン配位子又はカルボン酸配位子を表し,Y^(31)は対イオンを表す。n31は1又は2を表し,n32は1又は2を表し,n33は0?5の整数を表す。R^(31)はアルキル基,アルケニル基,アルキニル基,アリール基,アシル基,アルコキシカルボニル基,アリールオキシカルボニル基,スルホニル基,スルフィニル基又はヘテロ環基を表す。n31が複数のとき,複数のL^(31)は同じであっても異なっていてもよく,n33が複数のとき,複数のY^(31)は同じであっても異なっていてもよい。n31及びn32は,一般式(3)で表される化合物が中性錯体になる組み合わせであり,4配位錯体になる組み合わせであることが好ましい。」(以下,「引用例1装置発明」という。)

イ 引用例2
(ア) 引用例2の記載
引用例2は,本願の優先日より前に頒布された刊行物であって,当該引用例2には次の記載がある。(下線は,後述する引用例2装置発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「TECHNICAL FIELD
The present invention relates generally to molecular electronics, and, more particularly, to vapor-sensitive, molecular photodiodes based on thin films of certain platinum complexes.

BACKGROUND ART
・・・(中略)・・・
However, to the best of the present inventors' knowledge, a photodiode which can detect the arrival of organic vapors has not been described. Such a device would be of interest in detecting the presence of organic vapors by a change in photocurrent.
DISCLOSURE OF INVENTION
In accordance with the present invention, a molecular photodiode is provided. The molecular photodiode employs an organic complex that acts as both a sensor to certain organic molecules, or analyte vapors, and as an active light emitter. The molecular photodiode of the present invention comprises:
(a) a first electrode;
(b) a first molecular layer formed on the first electrode, capable of at least transporting charge;
(c) a sensing/emitting layer formed on the first electrode, the sensing/emitting layer comprising a material that changes color upon exposure to the analyte vapors and that forms a rectifying junction with the first molecular layer; and
(d) a second electrode formed on the sensing/emitting layer, wherein at least the first electrode comprises an optically transparent material. The device is preferably formed on a transparent dielectric substrate, on which the first electrode is formed.」(1欄12行ないし2欄33行)
[日本語訳]
「技術分野
本発明は一般に分子電子工学に関し,特に特定の白金錯体の薄膜の蒸気に敏感な分子フォトダイオードに関する。

背景技術
・・・(中略)・・・
しかしながら,本発明者の知る限りでは,有機蒸気の出現を検出できるフォトダイオードは記述されてこなかった。そのようなデバイスは,光電流の変化による有機蒸気の存在を検出する場合に興味深いであろう。

発明の開示
本発明に従って分子フォトダイオードは提供される。分子フォトダイオードには,特定の有機分子や蒸気分析物に対するセンサ,アクティブな発光体の両方の機能をする有機化合物を使用する。本発明の分子フォトダイオードは,以下を備えている。
(a)第1電極;
(b)少なくとも電荷を輸送できる第1電極上に形成される第1分子層;
(c)第1電極上に形成される検出/発光層,蒸気分析物にさらされると変色し,第1分子層との整流接合を形成する材料を構成する検出/発光層;および
(d)少なくとも第1電極が光透過性材料を構成する,検出/発光層上に形成される第2電極。デバイスは好ましくは,第1電極が形成される透明誘電体基板上に形成される。」

b 「BEST MODES FOR CARRYING OUT THE INVENTION
・・・(中略)・・・
Herein is described a vapochromic photodiode based on chemical and electrical effects related to those involved in the LED disclosed and claimed in the related application, Ser. No. 09/225,758.
To the knowledge of the present inventors, a photodiode which can detect the arrival of organic vapors has not been heretofore described. In accordance with the present invention, such a photodiode comprises an electrode transparent to the incident light, a second molecular layer that forms a rectifying junction with an emitter layer, a third layer of an appropriate vapochromic material that functions as the emitter layer, and a second electrode that permits vapor to reach the molecular materials.
Bis(cyanide)-bis(p-dodecylphenylisocyanide) platinum (II) (Compound 2, FIG. 1b) was chosen as the stacked platinum complex because it forms good films by spin casting and it exhibits a large color change in response to organic vapors. This complex was disclosed by C. L. Exstrom, Ph.D. Dissertation, University of Minnesota (1995). Compound 2 was prepared by a melt method, as disclosed by Exstrom, supra. Tetrakis(p-decylphenylisocyano)platinum tetracyanoplatinate, from C. A. Daws et al, supra, (1.785 g, 1.20 mmoles) was placed in a flask and left under an argon atmosphere. As the deep blue sample was slowly heated to 165℃., the solid melted forming a reddish brown liquid. Upon cooling, the liquid solidified. The resulting solid was extracted from the flask with dichloromethane and purified by column chromatography with 17:3 dichloromethane:ethyl acetate (1.526 g, 2.08 mmoles, 87% yield). The purified product gave appropriate combustion analysis and spectroscopic data, as listed by Exstrom, supra.
The color of the film cast from chloroform solution was yellow (λ_(max) : 400 nm); see Curve 10 in FIG. 2. Exposure of the film to acetone vapor changed the color to reddish-purple λ_(max) : 560 nm); see Curve 12 in FIG. 2. This reddish-purple color was 10 stable for several months under ambient laboratory conditions, but could be switched back to yellow by exposure to chloroform or dichloromethane vapor. Devices were prepared by spin casting Compound 2 from chloroform solution onto electrically-conducting indium-tin oxide (ITO) coated glass, followed by vapor deposition of aluminum. These devices, like single layer devices formed from Compound 1 (FIG. 1a) and reported by Y. Kunugi et al, supra, were very resistive, unstable, and did not show rectification.
Recently, the inventors have shown that electrochemical oligomerized tris(4(2-thienyl)phenyl)amine (Compound 3, FIG. 1c) can be used as a hole transport layer to make a two-layer device; see, Y. Kunugi et al, supra. Because the layer of Compound 3 is insoluble in solvents such as chloroform or acetone, it was possible to spin cast a layer of Compound 2 on top of Compound 3 without layer interdiffusion. The two-layer device ITO/3/2/Al was, therefore, prepared by anodically oxidizing tris(p-thienylphenyl)amine (Compound 4, FIG. 1d) in acetonitrile, lithium perchlorate providing the oxidized form of Compound 3, and then electrochemically reducing it to form the neutral Compound 3 (film thickness=200 nm). The absorption spectrum of Compound 3 as a function of wavelength is depicted in FIG. 2, Curve 14. After drying, a layer of Compound 2 (film thickness=250 nm) was spin-cast from chloroform on top of Compound 3, and then aluminum (150 nm thick) was vapor deposited through a mask onto Compound 2. To insure a quick response to the vapor, the aluminum electrode was fabricated as fingers spaced apart by 0.1 mm (FIGS. 3a-3b).
FIGS. 3a-3b depict one embodiment of the vapochromic photodiode 16 of the present invention. The transparent indium tin oxide (ITO) layer 18 is formed on a transparent substrate 20. A layer 22 of Compound 3 is formed on the ITO layer 18. A layer 24 of Compound 2 is formed on the layer 22. An aluminum electrode 26 is formed on the top of the layer 24.
The transparent electrode 18 may comprise indium tin oxide or polyaniline, while the second electrode 26 may comprise aluminum, magnesium, calcium, or silver.
The molecular layers 22 and 24 are typically less than 1,000 nm thick.
The device ITO/3/2/Al gave rectification (rectification ratio 100 at.±5 V) of the current favoring electron flow from Al 26 through the molecular layers 24, 22 to ITO 18. For photocurrent action spectra, a 450 W Xe lamp was used, and the photo-current was normalized to account for the variation of lamp output with wavelength. A calibrated silicon photodiode was used to measure light intensities. The photocurrent action spectrum of the device ITO/3/2/Al has a broad peak between 400 and 500 nm (Curve 28 of FIG. 4). Exposure to argon saturated with acetone vapor gave a shifted action spectrum (Curve 30 of FIG. 4) (λ_(max) : 560 run), corresponding to the shifted absorption spectrum of Compound 2 (Curve 12 of FIG. 2). This spectrum was stable in air in the absence of acetone vapor. Exposure of the device to chloroform vapor in argon (or air) caused the spectrum to revert to the original. The shapes of these spectra are independent of light intensity. Illuminated through ITO with 560 nm light (1.0 mW cm^(-2)), the quantum efficiency (electron/photon of absorbed light) of the device 16 was 0.03% at 0 V and 16.5% at 20 V reverse bias. It is noted that Compound 2 is visibly photoluminescent and so at low bias voltages, emission of light can effectively compete with charge separation and photocurrent generation.」(3欄26行ないし5欄3行)
[日本語訳]
「本発明を実施する最良の態様
・・・(中略)・・・
本明細書に記述されているのは,関連する出願第09/225,758号で開示および請求されているLEDに必要なものに関連する化学的ならびに電気的効果に基づく蒸気発色性フォトダイオードである。
本発明者の知る限りでは,有機蒸気の出現を検出できるフォトダイオードはこれまで記述されてこなかった。本発明に従って,そのようなフォトダイオードは,入射光には透明な電極,エミッタ層との整流接合を形成する第2分光層,エミッタ層として機能する適切な蒸気発色性材料の第3層,および蒸気が分子材料に到達できるようにする第2電極からなる。
ビス(シアニド)-ビス(p-ドデシルフェニルイソシアニド)白金(II)(化合物2,図1b)は,回転成形により良好な膜を形成して有機蒸気に応じて大幅な変色を示すため,積層白金錯体として選択された。この錯体は,ミネソタ大学のC.L.Exstromによる博士論文(1995)で開示された。化合物2は,前記のExstromに開示されたように溶融式で作成された。前記のC.A.Dawsらからのテトラキス(p-デシルフェニルイソシアン化物)白金テトラシアン化白金酸塩(1.785g,1.20ミリモル)は,フラスコ内に置かれ,アルゴン雰囲気下に置かれた。濃いブルーの試料が165°Cにゆっくり加熱されるにつれて,固体が溶融して赤褐色の液体が形成された。冷却されると液体は凝固した。その結果生じた固体は,ジクロロメタンによりフラスコから抽出されて,17:3のジクロロメタン:酢酸エチル(1.526g,2.08ミリモル,87%収率)により精製された。精製産物により,前記のExstromにより示されたような適切な燃焼分析および分光分析データが提供された。
クロロホルム溶液からのフィルムキャストの色は黄色(λmax:400nm)であった。図2の曲線10を参照のこと。膜をアセトン蒸気へさらすと色が赤紫色に変わった(λmax:560nm)。図2の曲線12を参照すること。この赤紫は実験室の周囲条件下で,何カ月も10の状態で安定していたが,クロロホルムまたはジクロロメタン蒸気にさらすと黄色に戻る場合があった。デバイスは,クロロホルム溶液からの回転成形化合物2により導電性インジウムスズ酸化物(ITO)でコーティングされたガラス上へ作成され,その後にルミニウムの蒸着が続いた。化合物1(図1a)から形成される単一層デバイスで前記のY.Kunugiらによって報告されたこれらのデバイスは,抵抗性が高く不安定であり,また,整流作用を示さなかった。
発明者は近年,2層デバイスを作るために電気化学的にオリゴマー形成されたトリス(4(2-チエニル)フェニル)アミン(化合物3,図1c)を使用できることを示した。化合物3の層は,クロロホルムやアセトンなどの溶媒中の不溶性物質であるため,層反転なしに化合物3の上に化合物2の層を回転成形することが可能であった。したがって,2層デバイスITO/3/2/Alは,アセトニトリル中の陽極酸化されたトリス(p-チエニルフェニル)アミン(化合物4,図1d)により作成され,過塩素酸リチウムは,化合物3の酸化物を供給した後,それを電気化学的に低減して中性化合物3(膜厚=200nm)を形成した。波長に応じた化合物3の吸収スペクトルは,図2の曲線14に示されている。乾燥後,化合物2(膜厚=250nm)は化合物3の上のクロロホルムから回転成形された後,アルミニウム(150nm厚)はマスクを通して化合物上へ蒸着された。蒸気への迅速な応答を確実にするために,アルミニウム電極は,0.1mm間隔のフィンガーで作られた(図3a?3b)。
図3a?3bは,本発明の蒸気発色性フォトダイオード16に関する1つの実施例を示している。透明なインジウムスズ酸化物(ITO)層18は,透明基板20上に形成される。化合物3の層22は,ITO層18上に形成される。化合物2の層24は,層22上に形成される。アルミニウム電極26は,層24の上に形成される。
透明電極18がインジウムスズ酸化物またはポリアニリンからなる場合があるのに対し,第2電極26はアルミニウム,マグネシウム,カルシウム,または銀からなる場合がある。
分子層22および24の厚さは通常,1,000nm未満である。
デバイスITO/3/2/Alは,Al26から分子層24,22からITO18までの電子流に好都合な電流を整流(±5Vで整流率100)する。光電流作用スペクトルの場合,450WのXeランプが使用されて,波長に伴うランプ出力の変動の原因を説明するために光電流は正規化された。較正されたシリコンフォトダイオードは,光度を測定するために使用された。デバイスITO/3/2/Alの光電流作用スペクトルには,400?500 nmの間に広いピークがある(図4の曲線28)。アセトン蒸気で飽和したアルゴンにさらされると,作用スペクトルは,化合物2のシフトされた吸収スペクトル(図4の曲線30)(λmax:560nm)に対応してシフトした(図2の曲線12)。このスペクトルは,アセトン蒸気がない場合は空中で安定していた。デバイスをアルゴン(空気)中のクロロホルム蒸気にさらすと,スペクトルは元に戻った。これらのスペクトルの形状は,光度と無関係である。560nmの光(1.0mWcm^(-2))によりITOを通して照射された場合,デバイス16の量子効率(吸収光の電子/光子) は0 Vの逆バイアスで0.03%,20Vの逆バイアスで16.5%であった。化合物2は明らかに光輝性であるため,低バイアス電圧で,発光は電荷分離および光電流生成と効果的に競合することができる。」

c 「What is claimed is;
1. A molecular photodiode that changes colors as a function of analyte vapors comprising:
(a) a first electrode;
(b) a first molecular layer formed on the first electrode capable of at least transporting charge;
(c) a sensing/emitting layer formed on the first electrode, the sensing/emitting layer comprising a material that changes color upon exposure to the analyte vapors and that forms a rectifying junction with the first molecular layer; and
(d) a second electrode formed on the sensing/emitting layer, wherein at least the first electrode comprises an optically transparent material and wherein an application of voltage to both electrodes and exposure of said photodiode to light results in a change in photocurrent in the presence of an organic vapor.」(6欄10ないし26行)
[日本語訳]
「請求の範囲
1. 蒸気分析物に応じて変色する分子フォトダイオードであって,
(a)第1電極;
(b)少なくとも電荷を輸送できる第1電極上に形成される第1分子層;
(c)第1電極上に形成され,蒸気分析物にさらされると変色し,第1分子層との整流接合を形成する材料を構成する検出/発光層;及び
(d)検出/発光層上に形成される第2電極,
を備え,第1電極が少なくとも光透過性材料で形成され,両電極間への電圧印加及び前記フォトダイオードの光照射によって,有機蒸気の存在下で光電流が変化するよう構成された分子フォトダイオード。」


(イ)引用例2に記載された発明
前記(ア)bの記載中の「蒸気発色性フォトダイオード16」,「ITO層18」,「化合物3の層22」,「化合物2の層24」及び「アルミニウム電極26」が,前記(ア)cに記載された「分子フォトダイオード」,「第1電極」,「第1分子層」,「検出/発光層」及び「第2電極」に相当することが明らかであり,前記(ア)cの「蒸気分析物」と「有機蒸気」が同じ物(有機蒸気)を指していることが明らかであるから,前記(ア)aないしcの記載から,引用例2に,次の発明が記載されていると認められる(なお,混乱を避けるため,「化合物3の層22」及び「化合物2の層24」をそれぞれ「第1分子層22」及び「検出/発光層26」と表現した。)。

「透明基板20と,
前記透明基板20上に形成されたITO層18と,
前記ITO層18上に形成され,オリゴマー形成されたトリス(4(2-チエニル)フェニル)アミンからなり,電荷を輸送できる第1分子層22と,
前記第1分子層22上に形成され,ビス(シアニド)-ビス(p-ドデシルフェニルイソシアニド)白金(II)からなり,有機蒸気にさらされると変色する検出/発光層24と,
前記検出/発光層24上に形成されたアルミニウム電極26と,
を備えた蒸気発色性フォトダイオード16であって,
両電極間への電圧印加及び蒸気発色性フォトダイオード16の光照射によって,有機蒸気の存在下で光電流が変化するよう構成された,
有機蒸気の出現を検出するための蒸気発色性フォトダイオード16。」(以下,「引用例2装置発明」という。)

ウ 引用例3
(ア)引用例3の記載
引用例3は,本願の優先日より前に頒布された刊行物であって,当該引用例3には次の記載がある。(下線は,後述する引用例3記載の技術的事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【0001】
【発明の属する分野】
本発明は,陽極と,陰極と,電界を加えることで発光が得られる有機化合物を含む層(以下,「電界発光層」と記す)と,を有する有機発光素子,およびそれを用いた発光装置に関する。また特に,白色発光を呈する有機発光素子,およびそれを用いたフルカラーの発光装置に関する。」

b 「【0038】
まず,本発明の基本的概念は,青色発光を呈する第一発光層と,燐光発光とエキシマー発光の両方を同時に発する燐光材料を用いた第二発光層と,を適用することである。
・・・(中略)・・・
【0041】
ところで,本発明を完成するには,燐光材料から燐光発光とエキシマー発光の両方を取り出す必要がある。その具体的な方法としては,例えば,白金錯体のように平面性の高い構造を持つ燐光材料をゲスト材料として用い,なおかつ,そのドープ濃度を高くする(より具体的には10wt%以上にする)手法がある。10wt%以上の高濃度にドープすることにより,燐光材料同士の相互作用が大きくなり,その結果エキシマー発光が導出される。あるいはまた,燐光材料をゲスト材料として用いるのではなく,薄膜状の発光層あるいはドット状の発光領域として用いる手法も考えられる。ただし,エキシマー発光を導出する手法はこれらに限定されるものではない。」

c 「【0063】
一方,第二発光層における発光体としては,白金を中心金属とする有機金属錯体が有効である。具体的には,下記構造式(1)?(4)で示される物質を高濃度にホスト材料に分散すれば,燐光発光とそのエキシマー発光の両方を導出することができる。ただし,本発明においてはこれらに限定されることはなく,燐光発光とエキシマー発光の両方を同時に発する燐光材料であれば何を用いてもよい。
【0064】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】



d 「【0074】
[実施例1]
本実施例では,本発明の有機発光素子の素子構造および作製方法について,図5を用いて説明する。
・・・(中略)・・・
【0079】
さらに,第二発光層513を形成する。なお,本実施例では,ホスト材料としてCBPを用い,ゲスト材料として上記構造式(1)で表されるPt(ppy)acacを用い,その濃度が15wt%となるように調整し,共蒸着法により20nmの膜厚で形成した。」

(イ)引用例3に記載された技術的事項
前記(ア)aないしdの記載から,引用例3に,次の技術的事項が記載されていると認められる。

「ゲスト材料として,例えば,

等の白金錯体のような,平面性の高い構造を持つ燐光材料を,10wt%以上の高濃度にドープして有機発光素子の発光層を形成することにより,前記燐光材料同士の相互作用が大きくなり,その結果エキシマー発光が導出されるので,燐光発光ばかりでなくエキシマー発光をも取り出すことができること。」(以下,「引用例3記載の技術」という。)

(2)引用例1に記載された発明を主引例とする拒絶の理由について
ア 本願第1発明について
(ア)対比
a 引用例1装置発明の「『陽極』及び『陰極』」,「発光層」及び「有機EL素子」は,本願第1発明の「『アノード』及び『カソード』」,「発光層」及び「『有機発光素子(OLED)』である『発光素子』」に,それぞれ相当する。

b 引用例1装置発明の「陽極及び陰極間に,発光層又は発光層を含む複数の有機化合物層を有する」という構成は,本願第1発明の「(i)アノードと,(ii)カソードと,(iii)上記アノードと上記カソードとの間に配置され,上記アノードと上記カソードとに直接的または間接的に接触した発光層とを備え」るという発明特定事項に相当する。

c 引用例1装置発明の「一般式(3)で表される化合物」と,本願第1発明の「『一般式(I)』で表される『錯体』」は,いずれも「金属錯体」であるから,引用例1装置発明と本願第1発明は「発光層が金属錯体を含む」点で共通する。

d 引用例1装置発明は,水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有する保護層を有しているところ,当該「保護層」によって「水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止」されることが,本願第1発明の「気体が周囲から上記発光層の中に侵入しないように,周囲に対して遮断されている」に相当する。

e 前記aないしdに照らせば,引用例1装置発明と本願第1発明は,
「(i)アノードと,
(ii)カソードと,
(iii)上記アノードと上記カソードとの間に配置され,上記アノードと上記カソードとに直接的または間接的に接触した発光層とを備え,
上記発光層が金属錯体を含み,
気体が周囲から上記発光層の中に侵入しないように,周囲に対して遮断されている,有機発光素子(OLED)である発光素子。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本願第1発明では,発光層が,一般式(I)
(NC)_(n)M(CNR)_(m)
で表される少なくとも一つの錯体(Mは,Pt(II),または,Pd(II)を示し,Rは,ヘテロ原子を含有し得る炭化水素基を示し,n+m=4であり,n=m=2である。)を,発光層の全重量に対して10重量%よりも多く含んでいるのに対して,
引用例1装置発明では,発光層が,

で表される化合物(L^(31)はハロゲン配位子,含窒素ヘテロ環配位子,ジケトン配位子,シアノ配位子,CO配位子,イソニトリル配位子,リン配位子又はカルボン酸配位子を表し,Y^(31)は対イオンを表す。n31は1又は2を表し,n32は1又は2を表し,n33は0?5の整数を表す。R^(31)はアルキル基,アルケニル基,アルキニル基,アリール基,アシル基,アルコキシカルボニル基,アリールオキシカルボニル基,スルホニル基,スルフィニル基又はヘテロ環基を表す。n31が複数のとき,複数のL^(31)は同じであっても異なっていてもよく,n33が複数のとき,複数のY^(31)は同じであっても異なっていてもよい。n31及びn32は,一般式(3)で表される化合物が中性錯体になる組み合わせであり,4配位錯体になる組み合わせであることが好ましい。)を含んでおり,当該化合物の含有割合は特定されていない点。

(イ) 判断
a 引用例1装置発明において,発光層に含まれる発光材料として用いている一般式(3)で表される化合物のうち,L^(31)としてその選択肢中から「シアノ配位子」を選択し,n31及びn32として「2」を選択し(当該選択をしたものは配位子の数が4であるから,4配位錯体である。),n33として「0」を選択したもの(当該選択は化合物として中性錯体を選択することに他ならない。)は,本願第1発明の一般式(I)で表される錯体のうち,Mとして「Pt(II)」を選択したものに該当する。
しかしながら,そもそも,引用例1には,引用発明におけるL^(31)の選択肢として多数の配位子(ハロゲン配位子,含窒素ヘテロ環配位子,ジケトン配位子,シアノ配位子,CO配位子,イソニトリル配位子,リン配位子,カルボン酸配位子)が記載されているのであって,「シアノ配位子」は当該多数の例示された配位子のうちの一つにすぎない。
また,引用例1の【0018】に「より好ましい」配位子として例示された配位子(含窒素へテロ環配位子(ビピリジル配位子,フェニルピリジン配位子,2-(ベンゾイミダゾ-2-イル)-ピリジン配位子,2-フェニルベンゾチアゾール配位子)中に「シアノ配位子」は存在しない。
さらに,引用例1の【0031】ないし【0034】に「具体例」として例示された化合物や,引用例1の【0057】及び【0058】に記載された実施例1及び実施例2で用いている化合物中にも,L^(31)として「シアノ配位子」を選択した化合物は存在しない。
そうすると,引用例1装置発明において,発光材料として用いる一般式(3)で表される化合物について,L^(31)として「シアノ配位子」を選択し,n31及びn32として「2」を選択し,n33として「0」を選択した化合物を用いることが,引用例1に実質的に開示されているとはいえず,かつ,たとえ当業者といえども,そのような選択をした化合物を用いることが容易に想到し得たともいえない。

b また,引用例3記載の技術は,前記(1)ウ(イ)で認定したように,ゲスト材料として,例えば,

等の白金錯体のような,平面性の高い構造を持つ燐光材料を,10wt%以上の高濃度にドープして有機発光素子の発光層を形成することにより,燐光発光ばかりでなくエキシマー発光をも取り出すことができるようにする技術であるから,引用例1装置発明において,燐光発光ばかりでなくエキシマー発光をも取り出すために,当該引用例3記載の技術を適用して,発光材料として,一般式(3)で表される化合物の中でも,特に平面性の高い構造を持つ化合物を用いることは当業者にとって,容易に想到し得たことであるといえる。
しかしながら,引用例3には,前記平面性の高い構造を持つ燐光材料を10重量%以上の高濃度にドープして有機発光素子の発光層を形成することは開示されてはいるものの,当該平面性の高い構造を持つ燐光材料として,本願第1発明に係る,2つのシアノ配位子と,2つのイソシアニド配位子とを有する白金又はパラジウムの4配位錯体は開示されていないから,たとえ引用例1装置発明に引用例3記載の技術を適用したとしても,本願第1発明の構成には至らない。

c 前記a及びbのとおりであるから,本願第1発明は,引用例1装置発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本願第2発明について
(ア)対比
引用例1の記載から,引用例1装置発明で,発光材料として用いている一般式(3)で表される化合物についての発明(以下,「引用例1化合物発明」という。)をも把握できるところ,本願第2発明と引用例1化合物発明は,「錯体。」である点でのみ一致し,次の点で相違する。

相違点2:
本願第2発明が,「一般式(Ia)(NC)_(n)Pd(CNR)_(m)で表される錯体であって,Rは,ヘテロ原子を含有し得る炭化水素基を示し,n+m=4であり,n=m=2である,錯体」であるのに対して,
引用例1化合物発明が,「下記一般式(3)で表される化合物。

一般式(3)中,L^(31)はハロゲン配位子,含窒素ヘテロ環配位子,ジケトン配位子,シアノ配位子,CO配位子,イソニトリル配位子,リン配位子又はカルボン酸配位子を表し,Y^(31)は対イオンを表す。n31は1又は2を表し,n32は1又は2を表し,n33は0?5の整数を表す。R^(31)はアルキル基,アルケニル基,アルキニル基,アリール基,アシル基,アルコキシカルボニル基,アリールオキシカルボニル基,スルホニル基,スルフィニル基又はヘテロ環基を表す。n31が複数のとき,複数のL^(31)は同じであっても異なっていてもよく,n33が複数のとき,複数のY^(31)は同じであっても異なっていてもよい。n31及びn32は,一般式(3)で表される化合物が中性錯体になる組み合わせであり,4配位錯体になる組み合わせであることが好ましい。」である点。

(イ)判断
引用例1及び引用例3のいずれにも,パラジウム錯体は記載も示唆もされていないから,引用例1化合物発明の白金錯体を,相違点2に係る本願第2発明のパラジウム錯体として構成することは,たとえ当業者といえども,容易に想到し得たことでない。
したがって,本願第2発明は,引用例1化合物発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本願の請求項2ないし22に係る発明について
請求項2ないし22は,請求項1の記載を引用する形式で記載されているから,請求項2ないし22に係る発明は,いずれも,本願第1発明の発明特定事項をすべて含み,さらに限定を付加したものに相当する。
そして,前記アで述べたとおり,本願第1発明は,引用例1装置発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項2ないし22に係る発明も同様の理由により,引用例1装置発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。


(3)引用例2に記載された発明を主引例とする拒絶の理由について
ア 本願第1発明について
(ア)対比
a 引用例2装置発明の「『ITO層18』及び『アルミニウム電極26』」及び「検出/発光層24」は,本願第1発明の「『アノード』及び『カソード』」及び「発光層」に,それぞれ相当する。

b 引用例2装置発明のITO層18上に第1分子層22が形成され,第1分子層22上に検出/発光層24が形成され,検出/発光層24上にアルミニウム電極26が形成されるという構成は,本願第1発明の「(i)アノードと,(ii)カソードと,(iii)上記アノードと上記カソードとの間に配置され,上記アノードと上記カソードとに直接的または間接的に接触した発光層とを備え」るという発明特定事項に相当する。

c 引用例2装置発明の「検出/発光層24」は,オリゴマー形成された「トリス(4(2-チエニル)フェニル)アミン」からなるところ,当該「ビス(シアニド)-ビス(p-ドデシルフェニルイソシアニド)白金(II)」は,本願第1発明の「『一般式(I)』で表される『錯体』」に該当し,引用例2装置発明の「検出/発光層24」(本願第1発明の「発光層」に相当。以下,「(ア)対比」欄中で,引用例2装置発明の構成に付したカッコ内の記載は,当該構成に相当する本願第1発明の構成を表す。)中での「ビス(シアニド)-ビス(p-ドデシルフェニルイソシアニド)白金(II)」(「一般式(I)」で表される「錯体」)の割合は100重量%であるから,引用例2装置発明は,本願第1発明の「一般式(I)(NC)_(n)M(CNR)_(m)で表される少なくとも1つの錯体を含み,Mは,Pt(II),または,Pd(II)を示し,Rは,ヘテロ原子を含有し得る炭化水素基を示し,n+m=4であり,n=m=2であり,上記発光層における一般式(I)の錯体の割合は,上記発光層の全重量に対して10重量%よりも多」いという本願第1発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

d 引用例2装置発明は「蒸気発色性フォトダイオード16」であるところ,ITO層18及びアルミニウム電極26への電圧印加により「検出/発光層24」が発光するよう構成され,かつ,当該「検出/発光層24」は「ビス(シアニド)-ビス(p-ドデシルフェニルイソシアニド)白金(II)」という有機物で形成されているから,引用例2装置発明は,「有機EL素子(OLED)である発光素子」であるといえる。
したがって,引用例2装置発明と本願第1発明は,「有機発光素子(OLED)である発光素子」である点で一致する。

e 前記aないしdに照らせば,引用例2装置発明と本願第1発明は,
「(i)アノードと,
(ii)カソードと,
(iii)上記アノードと上記カソードとの間に配置され,上記アノードと上記カソードとに直接的または間接的に接触した発光層とを備え,
上記発光層は,一般式(I)
(NC)_(n)M(CNR)_(m)
で表される少なくとも1つの錯体を含み,
Mは,Pt(II),または,Pd(II)を示し,
Rは,ヘテロ原子を含有し得る炭化水素基を示し,
n+m=4であり,
n=m=2であり,
上記発光層における一般式(I)の錯体の割合は,上記発光層の全重量に対して10重量%よりも多い,
有機発光素子(OLED)である発光素子。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点3:
本願第1発明では,気体が周囲から発光層の中に侵入しないように,周囲に対して遮断されているのに対して,
引用例2装置発明では,そのような構成を有していない点。

(イ)判断
引用例2装置発明は,有機蒸気にさらされると「検出/発光層24」の発光が変色するよう構成されているのだから,「検出/発光層24」が有機蒸気と接触するよう構成されたものである。
しかるに,引用例2装置発明では,前記「検出/発光層24」の発光の変色によって,有機蒸気の出現を検出するものであるところ,当該引用例2装置発明において,「気体が周囲から発光層の中に侵入しないように,周囲に対して遮断されている」という相違点3に係る本願第1発明の構成を採用したのでは,「検出/発光層24」が有機蒸気と接触することができなくなり,その結果,有機蒸気の出現を検出できなくなるのであるから,引用例2装置発明において,相違点3に係る本願第1発明の構成を採用することには,阻害要因が存在するといわざるを得ない。
したがって,本願第1発明は,引用例2装置発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本願第2発明について
(ア)対比
引用例2の記載から,引用例2装置発明で,発光材料として用いている「ビス(シアニド)-ビス(p-ドデシルフェニルイソシアニド)白金(II)」についての発明(以下,「引用例2化合物発明」という。)をも把握できるところ,本願第2発明の「一般式(Ia)(NC)_(n)Pd(CNR)_(m)
で表される錯体であって,Rは,ヘテロ原子を含有し得る炭化水素基を示し,n+m=4であり,n=m=2である,錯体」と,引用例2化合物発明「ビス(シアニド)-ビス(p-ドデシルフェニルイソシアニド)白金(II)」は,どちらも,「一般式(NC)_(n)M(CNR)_(m)で表される錯体であって,Mは,白金属元素を示し,Rは,ヘテロ原子を含有し得る炭化水素基を示し,n+m=4であり,n=m=2である,錯体。」に該当するから,両者は,
「一般式
(NC)_(n)M(CNR)_(m)
で表される錯体であって,
Mは,白金属元素を示し,
Rは,ヘテロ原子を含有し得る炭化水素基を示し,
n+m=4であり,
n=m=2である,錯体。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点4:
本願第2発明では,一般式(I)中の「M」が「Pd」である,すなわち,パラジウム錯体であるのに対して,
引用例2化合物発明が,一般式(I)中の「M」が「Pt」である,すなわち,白金錯体である点。

(イ)判断
引用例2及び引用例3のいずれにも,パラジウム錯体は記載も示唆もされていない。
そもそも,引用例2化合物発明は,有機蒸気の存在下で光電流が変化するという特性から,有機蒸気の出現を検出するための分子フォトダイオードにおける検出/発光層の材質として採用されるものであって,一般式(NC)_(n)M(CNR)_(m)で表される錯体のうち,「M」を「Pd」としたものが,当該特性と同じ特性を有していると理解することは,引用例2及び引用例3の記載からは不可能といわざるを得ない。
したがって,引用例2化合物発明の白金錯体を,相違点4に係る本願第2発明のパラジウム錯体として構成することは,たとえ当業者といえども,容易に想到し得たことでない。
したがって,本願第2発明は,引用例2化合物発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本願の請求項2ないし22に係る発明について
請求項2ないし22は,請求項1の記載を引用する形式で記載されているから,請求項2ないし22に係る発明は,いずれも,本願第1発明の発明特定事項をすべて含み,さらに限定を付加したものに相当する。
そして,前記アで述べたとおり,本願第1発明は,引用例2装置発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項2ないし22に係る発明も同様の理由により,引用例2装置発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)小括
前記(2)及び(3)のとおりであって,本願の請求項1ないし23に係る発明は,いずれも,引用例1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,かつ,引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審において平成28年1月13日付けで通知した拒絶理由の概要は,次のとおりである。

理由1:この出願は,請求項1(平成26年11月10日提出の手続補正書による補正後の請求項1。以下,「1 当審拒絶理由の概要」欄における請求項は,当該補正後の請求項を表す。)の一般式(I)中の「M」が表す中心原子に関する記載が,特許法36条6項1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない。

理由2:この出願は,請求項4の「特にガラス基板上に」という記載,請求項20の「柱状構造内」という記載,請求項22の「一般式(I)の錯体」という記載,請求項26の「請求項1に記載の通りに定義される」という記載,請求項27の「ジシアノビス(4-クロロフェノルイソシアニド)白金(II),Pt(CN)_(2)(C_(6)H_(4)CINC)_(2)」,「ジシアノビス(4-ブロムフェニルイソシアニド)白金(II),Pt(CN)_(2)(C_(6)H_(4)CINC)_(2)」,及び「ジシアノビス(2,6-ジクロロベンジルイソシアニド)白金(II),Pt(CN)_(2)(CNCH_(2)C_(6)H_(3)Cl_(3))_(2)」という記載,請求項28の「電荷キャリア移動度が有利となるか,または,望ましいものであるアプリケーションのための,請求項1に定義した一般式(I)の錯体を含有する,オリゴマー層,または/および,結晶層または準結晶層の電荷キャリア移動度の使用。」という記載,請求項30の「太陽電池における,請求項1に定義した一般式(I)の錯体の使用。」という記載に関して,特許法36条6項2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていない。

理由3:この出願の請求項22及び27に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,又は,当該発明に基づいて,その優先権主張の日より前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1:米国特許第6137118号明細書
引用例2:米国特許第5766952号明細書
引用例3:Phillip J. Martellaro et al.,Multinuclear nuclear magnetic resonance and X-ray crystallographic investigation of some mixed ligand alkylisocyanide platinum(II) complexes,Inorganica Chimica Acta,358(2005),p3377-3383

2 当審拒絶理由に対する判断
(1)理由1について
平成28年5月19日提出の手続補正書によって補正された請求項1では,一般式(I)中の「M」が表す中心原子について,「Pt(II),または,Pd(II)」に限定されており,サポート要件に違反するとはもはやいえなくなった。

(2)理由2について
平成28年5月19日提出の手続補正書による補正によって,請求項4,20,22,27,28及び30は削除され,かつ,請求項26(補正後の請求項23)の記載は,独立形式の記載に補正されており,明確性要件に違反するとはもはやいえなくなった。

(3)理由3について
平成28年5月19日提出の手続補正書による補正によって,理由3の対象とされた請求項22及び27が削除されており,新規性又は進歩性を欠如する請求項に係る発明は,存在しなくなった。

3 小括
以上のとおりであるから,当審拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-22 
出願番号 特願2009-517031(P2009-517031)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H05B)
P 1 8・ 113- WY (H05B)
P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 越河 勉  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 清水 康司
樋口 信宏
発明の名称 OLEDアプリケーション用の、三重項発光体としての、イソニトリル-金属錯体のオリゴマー  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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