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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1318392
審判番号 不服2015-20956  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-25 
確定日 2016-08-19 
事件の表示 特願2012-535028「焦電型赤外線検出装置及び焦電型赤外線検出装置における焦電素子の交換方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月29日国際公開、WO2012/039374〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年9月20日(優先権主張:平成22年9月24日)を国際出願日とする日本語特許出願であって、平成27年2月26日付けで拒絶理由が通知され、同年3月27日に意見書が提出されたが、同年8月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月25日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 本願発明について

本願の請求項1ないし7に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、つぎのとおりのものである。

「【請求項1】
焦電素子と取付基板とを有する焦電型赤外線検出装置であって、
前記焦電素子は、板状の焦電体からなる焦電体板と、素子側電極とを備えており、
前記焦電体板は、上面及び下面を有しており、
前記焦電体板の前記上面は赤外線を受光する受光面であり、
前記焦電体板の前記下面には前記素子側電極が形成されており、
前記取付基板は、基板側電極が設けられた上面を有しており、
前記素子側電極と前記基板側電極とは、硬化した導電性接着剤により接続されており、
前記導電性接着剤は、エポキシ樹脂を含むものであり、
前記硬化した導電性接着剤は、JIS K 5600-5-4(ISO 15184)に規定される硬度として4B以上7H以下の鉛筆硬度を有している
焦電型赤外線検出装置。」


第3 引用例及びその記載事項

1 本願の優先権主張日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-64105号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審により付加したもの。)。
(1)「【0003】図1は一般的な焦電型赤外線センサの構成を示す分解図である。焦電型赤外線センサ1(図の全体)は、焦電素子2と、その焦電素子2を機構的に支持し、かつ、電気信号を取出すための回路を有する基板3と、その基板3に実装されたFETチップ4(図示せず)、抵抗チップ5(図示せず)と、この基板3を取付けるための例えばTO-5型パッケージのべ一ス部分を用いたステム6と、窓材7が例えばTO-5型パッケージの蓋の部分に取付けられたキャップ8とで構成される。」
(2)「【0004】従来、焦電素子2を基板3に固定するのに、銀エポキシ樹脂などの導電性接着剤が用いられた。一般に、銀エポキシ樹脂の硬化後の硬度は鉛筆硬度でH以上の硬さである。」
(3)「【0008】本発明の焦電型赤外線センサは、焦電素子2と基板3とを接合する導電性接着剤が硬化後の鉛筆硬度が4B以下の柔らかさであるので、接着剤塗布状態の不均一性が存在しても、これによって発生する応力は接合部の接着剤自身で緩和され、焦電素子2へ応力は加わらないので、ノイズ出力が発生することはない。また、周囲の温度変化による焦電素子2の熱膨張係数と、基板3のそれとの違いからくる応力も、接合部の接着剤によって緩和されるため、熱応力によるノイズも発生しない。」
(4)「【0010】【発明の実施の形態】本発明で使用する導電性接着剤には、例えばスリーボンド社製ウレタン系導電性接着剤「TB3302F」などが挙げられる。これに限定されないことはいうまでもなく、例えば、ゴム系、シリコーン系、ウレタン系、ポリオレフィン系、あるいはこれらのエポキシ樹脂との混合によって得られる導電性接着剤を用いることもできる。」
(5)図1


2 引用例1に記載された発明について
(1)上記1(5)の図1において、板状の焦電素子2の上面には、2つの「実線の矩形部分」が図示されるとともに、その下面には、上面の2つの「実線の矩形部分」にそれぞれ対向する2つの「破線の矩形部分」と、2つの「破線の矩形部分」を互いに接続する「破線の接続部」が図示されている。
ここで、焦電素子は板状の焦電体の上面、下面にそれぞれ電極を有し、1組の電極対を形成するものであるとの本願の優先権主張日前の技術常識を考慮すると、上記1(5)の図1の焦電素子2は、「板状の焦電体」を有し、その上面の2つの「実線の矩形部分」と、その下面の2つの「破線の矩形部分」とがそれぞれ電極となり、2組の電極対を形成していると理解できる。
そして、2つの「破線の矩形部分」は2組の電極対の一端をなすとともに、「破線の接続部」によって互いに接続されているから、焦電素子2は2組の電極対が直列接続されるものであり、2つの「破線の矩形部分」は、「電極対のうち直列接続する側の電極(以下、「直列接続側電極」という。)」であると理解できる。さらに、2組の電極対を直列接続するものを一般にデュアルタイプの焦電素子と呼ぶとの本願の優先権主張日前の技術常識を考慮すると、上記1(5)の図1の焦電素子2はデュアルタイプに当たると解される。
(2)上記1(5)の図1において図示された焦電体板と窓材7の配置関係と、赤外線は窓材7から入射するとの本願の優先権主張日前の技術常識を考慮すると、「板状の焦電体」の上面が受光面になると理解できる
(3)上記1(5)の図1には、2つの「リード線10」が、2つの「実線の矩形部分」と、基板3の上面に設けられた2つの「多角形領域(縦縞線)」とを接続した状態を上下方向に分解した様子が図示されている(分解図であるため見かけ上は接続されていないだけで、組み立てられた完成品の状態では接続されるものである。)。
また、上記1(1)に記載されるとおり、「基板3」は、焦電素子2からの「電気信号を取出すための回路を有する」ものであることを考慮すると、「基板3」の上面には、焦電素子からの電気信号を回路に電気的に接続するための「接点」の存在が不可欠である。
してみると、上記1(5)の図1における、基板3の上面に設けられた2つの「多角形領域(縦縞線)」は、「リード線10」によって、焦電素子2の2つの「実線の矩形部分」と接続される「接点」であって、焦電素子2の2つの「実線の矩形部分」から「リード線10」を経由して入力される電気信号を回路に電気的に接続するためのものであると解される。さらに、2つの「実線の矩形部分」は、「電極対のうち基板3の接点に接続する側の電極(以下、「接点接続側電極」という。)」であると理解できる。

(4)引用例1の、上記1(1)ないし(4)の記載及び(5)の図面、上記2(1)ないし(3)を総合すると、つぎの発明が記載されていると認められる。

「デュアルタイプの焦電素子2と基板3とで構成される焦電型赤外線センサ1であって、
前記デュアルタイプの焦電素子2は、板状の焦電体と、2つの接点接続側電極、2つの直列接続側電極、1つの接続部とを備えており、
前記板状の焦電体は、上面及び下面を有しており、
前記板状の焦電体の前記上面は赤外線を受光する受光面であり、
前記板状の焦電体の前記上面には2つの前記接点接続側電極が形成されており、
前記板状の焦電体の前記下面には2つの前記直列接続側電極及び1つの前記接続部が形成されるとともに、2つの前記直列接続側電極が前記接続部により互いに接続されており、
2つの前記接点接続側電極と2つの前記直列接続側電極とは、対向することで2組の電極対をなし、
前記基板3の上面には、接点が2つ設けられており、
2つの前記接点接続側電極と2つの前記接点とは、それぞれリード線10により電気的に接続されることで、2組の対をなすものであり、
前記焦電素子2を前記基板3に固定するのに、硬化後の導電性接着剤が用いられており、
前記導電性接着剤は、銀エポキシ樹脂であり、
前記硬化後の導電性接着剤は、鉛筆硬度でH以上の硬さである
焦電型赤外線センサ1。」(以下、引用発明という。)


3 本願の優先権主張日前に頒布された特開平10-38679号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審により付加したもの。)。
(1)「【0005】この点を考慮した素子として、図2(a) に示すように、焦電体21に2対の対向電極22a,22bと23a,23bを形成した、いわゆるデュアルタイプのものがある。このデュアルタイプの素子では、図2(b) の等価回路に示すように分極方向の異なる焦電素子を直列に接続した形となり、これにより周囲の温度変化、振動等の外乱を相殺することができる。通常こうしたデュアルタイプの素子を、導電性接着剤を用いて導通をとりながら基板に接着する(図3参照)。なお、このようなデュアルタイプの焦電素子においても、赤外線を効率よく吸収するため、素子の表面、裏面のいずれか一方の面に赤外線吸収膜が形成される。」
(2)「【0015】まず、この例の焦電素子Dは、TGS系結晶、PZTまたはLiTaO3 等を薄板状に加工した焦電体1に、2対の対向電極2a,2bと3a,3bを形成したデュアルタイプの素子で、その片面側の電極2bと3bとは互いに導通しており、これら2対の対向電極2a,2bと3a,3bにより、図3(b) (当審注:「図3(b)」は、「図2(b)」の誤記である。)の等価回路に示すように、分極方向が互いに異なる二つの焦電素子を直列に接続した形となっている。」
(3)「【0016】そして、以上のデュアルタイプの焦電素子Dが、導電性接着剤A1 を用いて基板4の導体パターン4aに導通をとりながら接着されており、この例では、導電性接着剤A1 として固化状態での硬度が鉛筆硬度5B?6B程度の柔らかさを有するもの、例えばスリーボンド社製の接着剤;商品番号3302、3302B、3302F、3303、3303Bまたは33A-301を用いたところに特徴がある。」
(4)図2


(5)図3


4 本願の優先権主張日前に頒布された実願平03-060332号(実開平05-014860号)のCD-ROM(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審により付加したもの。)。
(1)「【0009】 図1は本考案の一実施例の焦電形赤外線検出器10の斜視図、図2は図1におけるA-A線断面図である。本焦電形赤外線検出器10は、表面14aにコ字状の表面電極12、裏面14bに2個の裏面電極13a及び各裏面電極13aに接続された引出電極13bが形成された焦電効果を有する焦電体14と、複数の導電性パターン15を形成した絶縁性部材からなる支持基板17とを有し、引出電極13bを導電性パターン15に導電性接着剤19により接着して前記焦電体14を前記支持基板17に固定した2素子タイプのものである。」
(2)図1


(3)図2


5 本願の優先権主張日前に頒布された特開平6-147979号公報(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審により付加したもの。)。
(1)「【0003】図4は、前記公報に開示された焦電型赤外線検出器を示し、この図において、31は赤外線透過窓32を備えたケースで、その内部には、FETおよび抵抗体(いずれも図外)を具備した回路基板33が設けられており、その上面には電極34が形成されている。35は焦電体で、その上下両面には電極36,37が形成され、エポキシ樹脂に銀などの金属フィラーを分散させたペースト状の導電性樹脂接着剤38によって保持されると共に、この導電性樹脂接着剤38によって、電極34,37が電気的に接続されている。なお、39はケース31の下方を閉鎖するように設けられるステム、40,41はリード端子である。」
(2)図4


6 引用例2ないし4に記載された慣用技術について
上記第3の3ないし5において摘記した引用例2ないし4の記載及び図面を総合すると、つぎの慣用技術が記載されていると認められる。
「デュアルタイプの焦電素子において、導電性接着剤によって、板状の焦電体の下面の2つの電極と基板の上面の2つの接点とを電気的に接続するとともに、板状の焦電体と基板を固定することにより、導電性接着剤を電気的接続と固定の両方に兼用すること」(以下、慣用技術という。)


第4 対比及び判断

1 本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明の「デュアルタイプの焦電素子2」、「焦電型赤外線センサ1」、「板状の焦電体」は、それぞれ、本願発明の「焦電素子」、「焦電型赤外線検出装置」、「焦電体板」に相当する。
また、引用発明の「基板3」は、焦電素子2を導電性接着剤によって固定するものであるから、本願発明の「取付基板」に相当する。
また、引用発明の基板3の上面に設けられる「接点」はリード線10と接続されるものであり、導電性を有することが明らかであるから、本願発明の「基板側電極」に相当する。
(2)引用発明の「接点接続側電極」と、本願発明の「素子側電極」とは、焦電素子の一方の面に備える「焦電素子側電極」であって、基板の上面に設けられる「基板側電極(接点)」と電気的に「接続されて」いる「焦電素子側電極」である限りにおいて一致する。
(3)引用発明の「前記デュアルタイプの焦電素子2は、板状の焦電体と、2つの接点接続側電極、2つの直列接続側電極、1つの接続部とを備えて」いることと、
本願発明の「前記焦電素子は、板状の焦電体からなる焦電体板と、素子側電極とを備えて」いることとは、
焦電素子が「板状の焦電体からなる焦電体板と、焦電素子側電極とを備え」ることである限りにおいて一致する。
(4)引用発明の「前記板状の焦電体は、上面及び下面を有して」いること、及び、「前記板状の焦電体の前記上面は赤外線を受光する受光面であ」ることは、それぞれ、
本願発明1の「前記焦電体板は、上面及び下面を有して」いること、及び、「前記焦電体板の前記上面は赤外線を受光する受光面であ」ることに相当する。
(5)引用発明の「前記板状の焦電体の前記上面には2つの前記接点接続側電極が形成されており、前記板状の焦電体の前記下面には2つの前記直列接続側電極及び1つの前記接続部が形成されるとともに、2つの前記直列接続側電極が前記接続部により互いに接続されており、2つの前記接点接続側電極と2つの前記直列接続側電極とは、対向することで2組の電極対をなし」ていることと、
本願発明の「前記焦電体板の前記下面には前記素子側電極が形成されて」いることとは、
「前記焦電体板の一方の面に前記素子側電極が形成され」ていることである限りにおいて一致する。
(6)引用発明の「前記基板3の上面には、接点が2つ設けられて」いることは、
本願発明1の「前記取付基板は、基板側電極が設けられた上面を有して」いることに相当する。
(7)引用発明の「2つの前記接点接続側電極と2つの前記接点とは、それぞれリード線10により電気的に接続されることで、2組の対をなすものであり、前記焦電素子2を前記基板3に固定するのに、硬化後の導電性接着剤が用いられて」いることと、
本願発明1の「前記素子側電極と前記基板側電極とは、硬化した導電性接着剤により接続されて」いること(本願発明の「接続」は、「電気的接続」と「固定(物理的接続)」の両方の接続機能を意味すると認められる。)とは、
「前記電極と前記基板側電極とは、電気的に接続されて」いることという点について共通し、「前記焦電体板と前記取付基板とは、硬化した導電性接着剤により固定されて」いる点について一致する。
(8)引用発明の「導電性接着剤」は「銀エポキシ樹脂」からなり、エポキシ樹脂を含むものであることは明らかであるから、
引用発明の「前記導電性接着剤は、銀エポキシ樹脂であ」ることと、
本願発明1の「前記導電性接着剤は、エポキシ樹脂を含むものであ」ることとは、
「前記導電性接着剤は、エポキシ樹脂を含むものであ」るという点で共通する。
(9)引用発明における「鉛筆硬度」は、「鉛筆」そのものの「硬度」を表しているのではなく、「導電性接着剤のような鉛筆とは異なる材料」の「硬度」の特性を、「鉛筆」の「硬度」により間接的に表現するものであるから、
引用発明の「鉛筆硬度」は、本願発明の「JIS K 5600-5-4(ISO 15184)に規定される硬度として」の「鉛筆硬度」に相当する。
したがって、引用発明の「前記硬化後の導電性接着剤は、鉛筆硬度でH以上の硬さである」ことと、
本願発明1の「前記硬化した導電性接着剤は、JIS K 5600-5-4(ISO 15184)に規定される硬度として4B以上7H以下の鉛筆硬度を有している」こととは、
「前記硬化した導電性接着剤は、JIS K 5600-5-4(ISO 15184)に規定される硬度として所定範囲の鉛筆硬度を有している」ことという点で共通する。
(10)以上のことから、本願発明と引用発明1とは、つぎの一致点で一致し、つぎの相違点1及び相違点2で相違する。

<一致点>
「焦電素子と取付基板とを有する焦電型赤外線検出装置であって、
前記焦電素子は、板状の焦電体からなる焦電体板と、焦電素子側電極とを備えており、
前記焦電体板は、上面及び下面を有しており、
前記焦電体板の前記上面は赤外線を受光する受光面であり、
前記焦電体板の一方の面に前記焦電素子側電極が形成されており、
前記取付基板は、基板側電極が設けられた上面を有しており、
前記焦電素子側電極と前記基板側電極とは、電気的に接続されており、
前記焦電体板と前記取付基板とは、硬化した導電性接着剤により固定されており、
前記導電性接着剤は、エポキシ樹脂を含むものであり、
前記硬化した導電性接着剤は、JIS K 5600-5-4(ISO 15184)に規定される硬度として所定範囲の鉛筆硬度を有している
焦電型赤外線検出装置。」

<相違点1>
本願発明は、焦電体板の「下面」に形成された「素子側電極」を「硬化した導電性接着剤」により取付基板の基板側電極に接続している(本願発明の「接続」は、「電気的接続」と「固定(物理的接続)」の両方の接続機能を意味すると認められる。)のに対して、
引用発明は、板状の焦電体の「上面」に形成された「接点接続側電極」を「リード線10」により取付基板の接点に「電気的に接続」するとともに、「硬化後の導電性接着剤」により「焦電素子2」と「基板3」が「固定」されている点

<相違点2>
「硬化した導電性接着剤」の「鉛筆硬度」の範囲が、本願発明は、「4B以上7H以下」であるのに対して、引用発明は、「H以上」である点

2 当審の判断
(1) 相違点1についての検討
上記第3の6で説示したとおり、「デュアルタイプの焦電素子において、導電性接着剤によって、板状の焦電体の下面の2つの電極と基板の上面の2つの接点とを電気的に接続するとともに、板状の焦電体と基板を固定することにより、導電性接着剤を電気的接続と固定の両方に兼用すること」は慣用技術である。
デュアルタイプの焦電素子の「電気的接続」と「固定」は、慣用技術のように導電性接着剤のみで行うことも、引用発明のようにリード線10と導電性接着剤の両方で行うようにすることも、いずれも慣用される技術であり、どちらを選択するかは設計的事項であるから、引用発明において、上記慣用技術を採用して、焦電素子の「下面」で「電気的接続」を行うようにするとともに、「硬化後の導電性接着剤」を接点との「電気的接続」と「固定」のために兼用することは当業者が適宜なし得たことである。
(2) 相違点2についての検討
引用発明の「鉛筆硬度」の範囲は「H以上」であるが、鉛筆硬度の最高硬度は「9H」であるとの本願の優先権主張日前の技術常識を考慮すると、引用発明の「鉛筆硬度」は「H以上9H以下」と解され、その大半(「H以上7H以下」)が本願発明の数値範囲内となるところ、引用発明において「H以上7H以下」の「鉛筆硬度」を有する銀エポキシ樹脂を採用することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
さらに、上記第3の1(3)、(4)で摘記したとおり、引用例1には、ノイズの発生を防ぐために、従来の銀エポキシ樹脂の代わりに、「4B」の「鉛筆硬度」を有するエポキシ樹脂を含む導電性接着剤を採用し得る点が示唆されているから、引用発明において「硬化後の導電性接着剤」を「4B」の「鉛筆硬度」とすることも当業者が容易に想到し得たことである。
(3) 本願発明の効果について
引用発明は、上記(2)で説示したとおり、鉛筆硬度に関し、本願発明の数値範囲内となり得るものであることから、本願発明の効果は、引用発明に対して格別有利なものとはいえない。

3 小活
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


第5 むすび

上記で検討したとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明ついて論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-15 
結審通知日 2016-06-22 
審決日 2016-07-05 
出願番号 特願2012-535028(P2012-535028)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 喜々津 徳胤  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 小川 亮
藤田 年彦
発明の名称 焦電型赤外線検出装置及び焦電型赤外線検出装置における焦電素子の交換方法  
代理人 山崎 拓哉  

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