• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1318501
審判番号 不服2014-25138  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-08 
確定日 2016-08-16 
事件の表示 特願2013- 13176「エマルジョンベースの微粒子の製造のための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月11日出願公開、特開2013-136591〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年4月12日(パリ条約による優先権主張 2003年4月10日 米国)を国際出願日とする特許出願(特願2006-532408号)の一部を平成21年12月25日に新たな特許出願(特願2009-296315号)とし、その一部を、更に、平成25年1月28日に新たな特許出願としたものであって、平成26年3月12日付で拒絶理由が通知され、同年6月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月1日付で拒絶査定されたのに対して、同年12月8日に拒絶査定不服審判が請求されると共に手続補正書が提出され、平成27年4月17日及び同年5月7日に上申書が提出されたものである。

第2 平成26年12月8日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年12月8日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.平成26年12月8日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正は、本願の請求項1を、補正前(平成26年6月11日提出の手続補正書参照)の
「以下の製造方法:
(a)層流条件下で充填層装置においてエマルジョンを調製する工程であって、該方法は、微粒子の形成をもたらす、工程;および
(b)該微粒子を収集する工程、
を包含する前記方法によって得られる、生物学的薬剤または化学的薬剤を含む微粒子。」
から、
「以下の製造方法:
(a)層流条件下で充填層装置においてエマルジョンを調製する工程であって、該方法は、微粒子の形成をもたらす、工程;および
(b)該微粒子を収集する工程、
を包含する前記方法によって得られる、生物学的薬剤または化学的薬剤を含む、直径1?200ミクロンの微粒子。」
と補正することを含むものである。
(下線部は対応する補正箇所を明示するため当審で付した。)

2.補正の適否
上記請求項1についての補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「微粒子」について「直径1?200ミクロンの微粒子」と直径を限定するものであり、当該限定事項は、出願当初の本願明細書の段落【0049】の「1つの実施形態において、微粒子は、標準規格注射針を介する患者への投与を容易にするために、1ミクロン?200ミクロンである。」なる箇所に記載されている。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

3.独立特許要件について
(1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で刊行物1として引用された、本願優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である特表平9-505308号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(刊1a)「すなわち、本発明による微粒子製造方法の一つの利点は、生物学的または薬的活性剤を含有する微粒子の適度に定めた狭いサイズ分布を達成しつつ、実験室から工業的規模へのバッチサイズを精密に信頼性をもってスケールアップすることができるということである。このことは、いずれの適当な封入法(溶媒抽出および相分離を包含するが、それに限定されない)においても達成し得る。本発明の方法の更なる利点は、適当に定めたサイズ分布を有する活性剤含有微粒子を、種々のバッチサイズで形成するのに、同一の装置を使用し得るということである。」(12頁5?12行)

(刊1b)「本発明の方法において、有機相および水相を、それらが同時にスタティックミキサーに流れ、ポリマーマトリックス材料中に封入した活性剤を含有する微粒子を含むエマルジョンを形成するように、ポンプ輸送する。有機相および水相を、スタティックミキサーを経て大量のクエンチ液へポンプ輸送する。クエンチ液は、単なる水、水溶液、または他の適当な液体であり得る。クエンチ液中で洗浄または撹拌する間に、微粒子から有機溶媒を除去し得る。本発明の方法によって有機相および水相をスタティックミキサーを経て溶媒除去用クエンチ液にポンプ輸送すると、前記タイスらの特許(第4389330号)に記載の2段階溶媒除去を行わなくても、活性剤濃度の高い高品質の微粒子が生成する。微粒子をクエンチ液中で洗って有機溶媒を抽出または除去した後、例えば篩過により分離し、乾燥する。」(25頁5?15行)

(刊1c)「実施例1
ノルエチンドロンを30%……理論的に含有する微粒子の製造
ノルエチンドロン30%含有微粒子1kgバッチの製造に、直径3/4"×12要素のスタティックミキサー[……]を使用する。ポリマー/薬物溶液(有機相)を、次のようにして調製する。酢酸エチルNF(2.2kg)およびベンジルアルコールNF(2.2kg)中のメディソーブ85:15^(dl)PLGA(インヘレント粘度(IV)=0.65dl/g)(770g)の加熱(65?70℃)した溶液に、ノルエチンドロンUSP(329g)を溶解する。溶液を濾過(0.2μm)し、65?70℃に保つ。加工水溶液(水相)を、次のようにして調製する。WFI(注射用水)(27.27kg)にポリビニルアルコール[……](150g)を加え、溶解するまで加熱(65?70℃)し、濾過(0.2μm)する。この溶液に、濾過(0.2μm)したベンジルアルコール(810g)および濾過(0.2μm)した酢酸エチル(1770g)を加える。溶液を65?70℃に保つ。クエンチ液を、次のようにして調製する。冷WFI(750l)に、酢酸エチルNF(0.2μm濾過)(26.25kg)を溶解し、2?4℃に保つ。
有機相を909cc/分、水相を4500cc/分の流速でスタティックミキサーを通して、クエンチ液にポンプ輸送する。1時間クエンチ後、材料を90および25μm篩に通す。25?90μmフラクションを周囲温度で撹拌下に36時間減圧乾燥する。ノルエチンドロン含有微粒子650gが得られる。
……
30%および50%含有粒子を、次いで、ヒヒに注射する2種の65mg(NET)製剤の調製に使用した。」(34頁18行?36頁23行)

(2)引用発明
ア 上記(刊1a)、(刊1b)によれば、引用刊行物1は、生物学的または薬的活性剤を含有する微粒子の狭いサイズ分布を達成しつつ、実験室から工業的規模へのバッチサイズを精密にスケールアップすることができる微粒子製造方法に関するものであって、有機相および水相を同時にスタティックミキサーに流して、ポリマーマトリックス材料中に封入した活性剤を含有する微粒子を含むエマルジョンを形成させ、スタティックミキサーを経てクエンチ液へポンプ輸送し、微粒子をクエンチ液中で洗って有機溶媒を除去した後、例えば篩過により分離し、乾燥して微粒子を製造することが記載され、その実施例として、実施例1((刊1c))には、酢酸エチルおよびベンジルアルコール中の^(dl)PLGAの溶液に、ノルエチンドロンUSPを溶解したポリマー/薬物溶液(有機相)と、注射用水にポリビニルアルコールを溶解し、ベンジルアルコールおよび酢酸エチルを加えた水相とを、スタティックミキサーを通して、クエンチ液にポンプ輸送し、微粒子をクエンチ液中で洗って有機溶媒を除去した後、この材料を90および25μm篩に通して25?90μmフラクションを減圧乾燥し、ノルエチンドロン含有微粒子を製造したこと、ノルエチンドロン30%含有微粒子を注射製剤の調製に使用したことが記載されている。

イ そうすると、引用刊行物1には、
「酢酸エチルおよびベンジルアルコール中の^(dl)PLGAの溶液に、ノルエチンドロンUSPを溶解したポリマー/薬物溶液(有機相)と、注射用水にポリビニルアルコールを溶解し、ベンジルアルコールおよび酢酸エチルを加えた水相とを、スタティックミキサーを通して、ポリマーマトリックス材料中に封入したノルエチンドロンUSPを含有する微粒子を含むエマルジョンを形成させて、クエンチ液にポンプ輸送し、微粒子をクエンチ液中で洗って有機溶媒を除去した後、この材料を90および25μm篩に通して分離した25?90μmフラクションを減圧乾燥して製造したノルエチンドロン含有微粒子」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「ノルエチンドロンUSP」は黄体ホルモン作用を有する薬剤であることは本願の優先日前周知であるところ、本願明細書【0060】には、「本発明において使用される生物学的薬剤」として「ホルモン」が例示されている。したがって、引用発明の「ノルエチンドロン含有微粒子」は、本願補正発明の「生物学的薬剤または化学的薬剤を含む微粒子」に相当する。

イ 引用発明の「スタティックミキサーを通して、ポリマーマトリックス材料中に封入したノルエチンドロンUSPを含有する微粒子を含むエマルジョンを形成させ」ることは、本願補正発明の「エマルジョンを調製する工程」とエマルジョンを調製する工程である点で共通する。

ウ 本願補正発明の「該方法は、微粒子の形成をもたらす、工程」なる特定事項の「微粒子の形成をもたらす」ことについて、本願明細書をみると、請求項1と同様の記載以外には、以下の記載がある。
・【0016】の(発明の要旨)に「溶媒除去後に生物学的薬剤または化学的薬剤を含有粒子をもたらすエマルジョンを製造する。」
・【0018】に「溶媒除去の際に微粒子をもたらすエマルジョンを生成する層流条件下で、充填層乳化機を通って通過される。」
・【0019】に「このエマルジョンは、溶媒除去の際に微粒子をもたらすエマルジョンを生成するために、」
・【0028】に「溶媒除去後に生物学的薬剤または化学的薬剤を含む微粒子をもたらすエマルジョンを製造し得る装置が提供される。」
そうすると、本願補正発明の「該方法は、微粒子の形成をもたらす、工程」とは、「エマルジョンを調製する工程」を説明するものであって、溶媒除去後に微粒子をもたらすエマルジョンを調製することを意味するものと解される。

エ 一方、引用発明においても、微粒子をクエンチ液中で洗って有機溶媒を除去した後、篩で微粒子が分離されるのであるから溶媒除去後に微粒子がもたらされるといえるので、上記イ、ウを合わせ考慮すれば、引用発明の「ポリマーマトリックス材料中に封入したノルエチンドロンUSPを含有する微粒子を含むエマルジョンを形成させ」る工程は、本願補正発明の「エマルジョンを調製する工程であって、該方法は、微粒子の形成をもたらす、工程」に相当するといえる。

オ 引用発明の「25?90μmフラクションを減圧乾燥して製造したノルエチンドロン含有微粒子」についてみると、技術常識からみて減圧乾燥により微粒子の粒径が大きく変化するとは考え難いので、減圧乾燥後のノルエチンドロン含有微粒子の粒径が1?200ミクロンの範囲内であることは明らかである。

カ してみると、本願補正発明と引用発明とは、
「以下の製造方法:
エマルジョンを調製する工程であって、該方法は、微粒子の形成をもたらす、工程;および
該微粒子を収集する工程、
を包含する前記方法によって得られる、生物学的薬剤または化学的薬剤を含む、直径1?200ミクロンの微粒子」である点で一致し、
次の点で一応、相違する。

<相違点1>
エマルジョンを調製する工程が、本願発明は「層流条件下で充填層装置において」行われるのに対して、引用発明は「スタティックミキサーを通して」行われる点。

(4)判断
上記一応の相違点について検討する。
ア ここで、本願補正発明の「層流条件下で充填層装置においてエマルジョンを調製する」ことに関して、本願明細書の記載をみてみると、請求項1の記載に対応する記載以外には、以下の記載がある。
(アa)「【0016】
……(発明の要旨)
乱流に依存して微粒子(例えば、静的ミキサーまたは動的ミキサーを使用して作製される微粒子)を製造する公知の方法と対照的に、本発明の装置および方法は、層流条件を利用し、溶媒除去後に生物学的薬剤または化学的薬剤を含有する微粒子をもたらすエマルジョンを製造する。」
(アb)「【0018】
1つの実施形態において、溶媒、活性剤およびポリマーを含有する第1、および溶媒を含有する第2の相は、溶媒除去の際に微粒子をもたらすエマルジョンを生成する層流条件下で、充填層乳化機を通って通過される。」
(アc)「【0019】
……次いで、このエマルジョンは、溶媒除去の際に微粒子をもたらすエマルジョンを生成するために、溶媒を含有する第3の相と一緒に層流条件下で、充填層装置を通って通過される。」
(アd)「【0020】
第3の実施形態において、エマルジョンが溶媒除去の際に微粒子を生成し得る充填層装置における層流条件下でのエマルジョン製造を介して、生物学的薬剤または化学的薬剤を含有する微粒子を製造する方法が、提供される。……」
(アe)「【0032】
……エマルジョンベースの微粒子製造のための以前から公知の方法と対照的に、本発明は、狭小で再現性の粒子サイズ分布を有する微粒子を製造するための非乱流プロセスまたは層流プロセスであって、スケールアップされる容積を有する大体積および小体積の両方を用いて使用し得る一方で、その結果のより大きなバッチにおいて一貫した予測可能な特性を提供するプロセスを提供する。……」
(アf)「【0033】
本発明は、非乱流または層流、ミキサー以外の充填層系の使用によって、これまでの微粒子製造方法の不利益を克服する。静的ミキサーおよび動的ミキサーの両方は、大いに変動しやすい微粒子サイズ分布に関連する乱流条件を生じる。エマルジョンを作製するための充填層系の使用は、一様な液滴およびその結果生じる微粒子サイズ分布、ならびに多くの化学的薬剤または生物学的薬剤に適する条件を提供する。さらに、本発明の装置および方法は、拡大縮小が可能な結果を容易に生じ得る。小スケールで研究室において製造される微粒子の所望のバッチは、単により大きな直径を有する容器において同じ充填材料を利用することによって、より大きな製造スケールで容易に再現され得る。これは、一旦所望の微粒子が研究室において小スケールで製造されると、安価かつ効果的な製造プロセスの拡大を可能にする。」
(アg)「【0039】
微粒子を製造するための装置およびこのような装置を使用する方法は、乱流に依存しない。本発明の微粒子を作製する方法は、以前の微粒子作製方法と対照的に、層流速度において機能する。本発明において、狭小かつ繰り返して正確な粒子サイズ分布を有する微粒子が製造され得る。さらに、この微粒子は、小スケールで製造され得、そして単に容器の直径を変化させることによって製造サイズ(manufacturing size)に容易にスケールアップされ得る。これは、以前の乱流方法論では可能でない。驚くべきことに、層流レジメン内でエマルジョンを作製することは、上記のような乱流エマルジョン形成プロセスに関連する問題の多くを解決する。」
(アh)「【0042】
本発明において、上記エマルジョンは、2つの流体、または相(代表的には油および水)として作製され、充填内の間隙を通って流動している。この2つの相が固体の層を通って流動しているので、この2つの相は、互いの通路を何度も横断し、そして連続相(通常は水)が不連続相(通常は油)を液滴に分裂しており、従って、エマルジョンを作製する。この不連続相の液滴サイズは、最終液滴サイズが達成されるまで、繰り返して縮小される。一旦不連続な液滴が特定のサイズに達すると、この不連続な液滴は、これらが充填を通って流動し続ける場合でさえも、これ以上縮小されない。このエマルジョン作製機構は、層流条件下で正確なサイズのエマルジョンの形成を可能にする。
【0043】
充填層の非常に独特な動力学は、混合デバイスでは不可能な、連続的に非常に遅い流速において微粒子の製造を可能にする。これは、一貫した粒子サイズ分布を維持する0.1グラム程の小さなバッチにおいて高品質の微粒子の一貫した製造を可能にする。さらに、これらの非常に独特な流動の動力学はまた、研究室サイズバッチから製造サイズバッチへの拡張性(scalability)を提供する。
【0044】
上記装置およびこのような装置を使用する方法は、層流領域内の流速に反応しない微粒子を作製するためのエマルジョンベースのプロセスを提供する。乱流混合ベースのプロセスと異なり、本発明の方法は、層流領域内で操作される場合、流速の変化に反応しない。本発明において使用される流速は、任意の層流速度であり得る。特定の実施形態において、この流速は、0.0001リットル/分?100リットル/分である。」
(アi)「【0046】
上記装置およびこのような装置を使用する方法は、粒子サイズ分布の厳密な制御を提供する微粒子を作製するためのエマルジョンベースのプロセスを提供する。微粒子サイズ分布は、上記充填材料のサイズ、形態および種類を変更することによって;入口の封入物または出口の封入物を再配置することによって;第1の相、第2の相、または第3の相の物理的特性の変化によって;容器の長さまたは幅を変更することなどによって、操作され得る。例えば、最終微粒子サイズは、充填材料のサイズ(例えば、ガラスビーズの直径)によって決定され得る。さらに、上記容器の長さは、粒子サイズ分布に直接的に影響を与え得る。」
(アj)「【0050】
上記相は、任意の方法によって充填層乳化剤中に導入され得る。1つの実施形態において、上記相は、パイプまたはチューブを通って導入され、そして上記相は、ポンピングされ得るか、気体もしくは別の種類の圧力源によって力を受け得るか、重力によって供給される得るか、または上記充填層乳化剤の排出側での減圧によって引かれ得る。この液相は、使用される溶媒および温度に適合するステンレス鋼、ガラスまたはプラスチックを含むパイプによって輸送され得る。この液相は、周囲温度、または、特定の流体についてほぼ凝固することとほぼ沸騰することとの間で必要とされる任意の温度にあり得る。本発明の装置および方法は、利用される装置(equipment)に適合する任意の圧力において利用され得る。この圧力は、圧力が上記充填層の抵抗を上回ることが必要な場合はいつでも調整され得、そして層流領域における流速を提供し得る。」

イ 上記アに挙げた本願明細書の記載を詳細に検討すると、(アa)?(アd)は「層流条件下で、充填層装置を通す」との記載が繰り返されているに留まり、(アe)?(アj)によれば、乱流プロセスとは対照的に、層流プロセス、充填層の使用によって「狭小で再現性の粒子サイズ分布を有する微粒子を製造」できること、小スケールで製造された微粒子はより大きな製造スケールで容易に再現でき容易にスケールアップできること、微粒子サイズ分布は、充填材料のサイズ、形態および種類の変更等によって操作され得、充填材料の容器の長さは、粒子サイズ分布に影響を与えることが記載されている。

ウ また、本願明細書記載の実施例1?7において、製造された微粒子について分析しているのは、いずれの実施例も、平均直径(体積統計)と粒子サイズ分布についてのみである。

エ そうすると、本願補正発明の「層流条件下で充填層装置においてエマルジョンを調製する」ことの技術的意義は、狭小で再現性の粒子サイズ分布を有する微粒子を製造でき、小スケールから大スケールに容易にスケールアップできることにあるものと解される。

オ そして、本願明細書全体の記載を見渡しても、微粒子サイズ及び粒子サイズ分布の点を除いて、「層流条件下で充填層装置においてエマルジョンを調製する」工程により製造した微粒子が、それ以外の条件でエマルジョンを調製して製造した微粒子と、粒子の形状や構造、特性において特段の違いがあるとの記載は見当たらない。

カ してみると、最終的に製造された微粒子のサイズ(直径)が同一範囲内にあるのであれば、個々の微粒子自体は、「層流条件下で充填層装置においてエマルジョンを調製する」工程により製造した場合と、それ以外の条件でエマルジョンを調製して製造した場合とで区別がつくとはいえない。

キ したがって、上記<相違点1>にかかる相違によっても、本願補正発明と引用発明とでは、最終的に製造された微粒子において区別がつかないから、本願補正発明の微粒子と引用発明の微粒子に差違はない。
よって、上記一応の相違点は実質的な相違点ではなく、本願補正発明と引用発明とに差違はない。

(5)独立特許要件のまとめ
上記(4)で検討したとおり、本願補正発明は、引用発明と同一であり、引用刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、独立して特許を受けることができない。

4.本件補正についてのむすび
上記3.のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成26年12月8日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年6月11日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「以下の製造方法:
(a)層流条件下で充填層装置においてエマルジョンを調製する工程であって、該方法は、微粒子の形成をもたらす、工程;および
(b)該微粒子を収集する工程、
を包含する前記方法によって得られる、生物学的薬剤または化学的薬剤を含む微粒子。」

2.引用刊行物の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物1の記載事項、及び引用発明は、前記「第2 3.(1)」及び「第2 3.(2)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]」で検討した本願補正発明から「微粒子」の限定事項である「直径1?200ミクロンの」との特定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に発明特定事項を限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3.」に記載したとおり、引用発明と同一であり、引用刊行物1に記載された発明である以上、本願発明も同様の理由により、引用刊行物1に記載された発明である。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

<付記>
なお、平成27年5月7日提出の上申書に添付された補正案について検討しておく。
上記補正案の請求項1は以下のとおりである。
「以下の製造方法:
(a)層流条件下で充填層装置においてエマルジョンを調製する工程であって、該方法は、微粒子の形成をもたらす、工程;および
(b)該微粒子を収集する工程、
を包含する前記方法によって得られる、生物学的薬剤または化学的薬剤を含む、微粒子でって、該微粒子が、D10が27μmで、D90が53μmの粒度分布を有する微粒子、D10が35μmで、D90が58μmの粒度分布を有する微粒子、又は、D10が42μmで、D90が79μmの粒度分布を有する微粒子。」

上記下線部分の補正の根拠は、本願明細書の実施例1?3で製造された微粒子の粒子サイズ分布の分析結果に基づくと解される(ここで、実施例1は生分解ポリマー微粒子であって、生物学的薬剤または化学的薬剤を含まないので、本願発明の実施例には該当しないことを付言しておく。)が、実施例2、3及びその他本願明細書の記載全体をみても、「D10が27μmで、D90が53μm、……又は、D10が42μmで、D90が79μmの粒度分布」であるとの特定において、D10が27μmでD90が53μm等の粒径の具体的な数値自体に臨界的意義があるものではなく、これらの特定は粒度分布が狭小であることを意味していると理解される。そうであるところ、上記「第2 3.(2)」に示したとおり、減圧乾燥して製造した微粒子を注射製剤の調製に使用できる程度の粒径の微粒子であって、粒度分布が狭小である微粒子を得ようとする試みは、引用刊行物1に開示されるのであるから、遠心分離や、引用刊行物1(52頁16?17行)にも記載されるような分子篩カラム等、本願の優先日前に周知の手法によって所望の粒径の微粒子を得る、すなわち、更に粒度分布が狭い微粒子を得ることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。そして、本願は「微粒子」という物の発明であって、微粒子の製造方法の発明ではないから、補正案の下線部分の特定事項の点によって引用発明からの進歩性を認めることはできない。
よって、補正案のとおり補正されたとしても、本願は拒絶されるべきものとの判断は変更されない。
 
審理終結日 2016-03-15 
結審通知日 2016-03-22 
審決日 2016-04-05 
出願番号 特願2013-13176(P2013-13176)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 隆興  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 齊藤 光子
小川 慶子
発明の名称 エマルジョンベースの微粒子の製造のための方法  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 篠 良一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ