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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1318519
審判番号 不服2014-23966  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-25 
確定日 2016-08-24 
事件の表示 特願2009-547440「細胞計数及び分析のための方法、システム及び組成」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月31日国際公開、WO2008/092075、平成22年 5月20日国内公表、特表2010-517046〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年1月25日(パリ条約による優先権主張 平成19年1月26日 米国(US),平成19年9月28日 米国(US))を国際出願日とする外国語特許出願であって、平成24年8月20日付けで拒絶の理由が通知され、平成25年1月24日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月23日付けで最後の拒絶の理由が通知され、同年12月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年7月9日付けで、平成25年12月6日提出の手続補正書の補正の却下の決定がされるとともに、拒絶の査定がなされ、その謄本は同月22日に請求人に送達された。
これに対して、平成26年11月25日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正書の提出がなされた。
その後当審より、平成27年11月17日付けで拒絶の理由が通知され、それに対して、平成28年2月24日付けで、意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成28年2月24日に提出された手続補正書により適法に補正された補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)はつぎのとおりのものである。
「【請求項1】
血液検体内で複数の分別励起可能なラベルを付けられた非赤血球を分析するための装置であって、前記装置は、
血液検体を含み、赤血球の光妨害層の形成を妨げる光収集軸に沿った寸法を有することができる試料チャンバーであって、前記試料チャンバーの光学的に透過する壁と底部壁との間の垂直の前記寸法は44μm以上50μm未満の範囲内であり、前記光学的に透過する壁は前記底部壁に対して実質的に平行である、試料チャンバーと、
帯域通過フィルタを有し、互いに対向する位置に配置された2つの光源であって、各々が、明確な波長帯域を有する照明ビームで前記血液検体を連続的に照らすことができる2つの光源と、
前記複数の分別励起可能なラベルの各々が、単一の検出器によって検出できる同じ波長帯域内の光信号を連続的に放射させられるように、それぞれの光源の前記照明ビームを前記血液検体上に連続的に導くための前記2つの光源に結合されたコントローラと、
そのような放射された光信号を収集し、それらに対応する連続的な画像を、画像データの連続的な組を形成するための光応答性表面に形成することができる光学システムとを含み、
画像データの前記連続的な組を分析することによって、前記血液検体内の非赤血球を数えることを特徴とする装置。」

第3 平成27年11月17日付け拒絶の理由の通知の概要
平成27年11月17日付けで当審から通知された拒絶の理由(以下、「本件拒絶理由通知」という。)のうち、その拒絶の理由1の概要は、本件出願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前(優先権主張日前、以下同じ。)日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた引用例1(特表2002-516982号公報)及び引用例2(国際公開第2006/119368号)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

第4 引用例に記載された事項
1 本件拒絶理由通知において引用され、本件出願前に頒布された刊行物である引用例1(特表2002-516982号公報)には、つぎの事項が記載されている。(下線は当審により付加したもの。)
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 血液サンプルの中の様々な形態成分を示差的にハイライト化するのに及び血液サンプルの中の血漿を着色するのにも作用可能である一つ又はそれ以上の着色剤と混合されている実質的に希釈されてない抗凝固全血静止サンプルで全血の構成要素の計数を行うための方法であって、前記血液サンプル及び着色剤は変動厚さ領域を有する観察用チャンバー(14)の中に収容されており、
a)血液サンプルを、既知面積の視野(1、3、5、7′、7、9、11)を有する光学機器(54)によって走査する工程;
b)前記静止血液サンプルの中の、個々の赤血球(32)、赤血球の単層(31)又は赤血球の凝集体(33)のどれかを含有しておりそして血液サンプル中のその他の形態成分(30、34)を含有してもよい区域(1、3、5)を突き止める工程; 及び
c)静止血液サンプルの中の前記区域を、様々な形態の血液サンプル要素を示差的にハイライト化するように選択された波長の光によって照射する工程であって、この照射はハイライト化された血液サンプル要素に関する情報の前記光学機器による誘導を可能にする仕方で、行う工程;
を特徴とする前記方法。
・・・
【請求項11】 前記走査工程が、白血球も含有しているチャンバーの領域で行われ; 更に、選択視野の中の個々の白血球を計数し、そして前記選択視野の容積を求めて血液サンプルについての容量白血球数を誘導する、諸工程が含まれている、請求項1の方法。
【請求項12】 前記容量白血球数を誘導するのに臨床上有意な数の異なる視野が走査される、請求項11の方法。
【請求項13】 前記着色剤が、様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能であり、それによって特異白血球数が前記血液サンプルから誘導されることができる、請求項11の方法。
【請求項14】 選択視野の容積が、視野の面積に各視野のチャンバーの厚さを掛けることによって求められる、請求項11の方法。」
(2)「 【0001】
(技術分野)
本発明は抗凝固全血(anticoagulated whole blood)の静止サンプル(quiescent sample)を分析するための装置及び方法に関する。特に、本発明は分析過程中に血液サンプル分析装置の中に液流を通過させることを必要とせずに、血液サンプルを静止状態で分析するための装置及び方法に関する。サンプルの単位体積当りの血液成分計数(blood constituent counts); 血液成分容積; ヘマトクリット; ヘモグロビン測定; 赤血球沈降速度の厳密な近似; 及び血液成分タイプの同定は、いずれも本発明の装置及び方法を使用して遂行できる。」
(3)「【0011】
チャンバー厚さは、血液サンプル中の細胞状又は微粒子状の要素を同定し数え上げるのに使用されるチャンバーの中に漸次厚くなる領域を形成するように、チャンバーの最も薄い領域から増加する。全ての場合において、かかる計数はチャンバーの領域で起こり、その領域の厚さは決定することができる、そこで血球又は成分の計数値はサンプルの所定容量の中の血球又は成分の数値として与えることができる。チャンバーの中のより厚い領域の一つは白血球および赤血球連銭形(rouleaux)を集めるであろう。チャンバーのこの領域の厚さは代表的には約7?約40μの範囲にある。チャンバーは血液サンプルを引き入れることができるサンプルホルダーの中に収容されている。」
(4)「【0027】
ところで、図4及び図5を引用すると、容器アセンブリー2の更に2つの態様が示され、その両者も、変動する通し面厚さを有するサンプルチャンバー14を生じるであろう。両方の図に示された態様においては、装置2は下部壁4と上部壁8を包含している。両方の図に示された態様においては、下部壁4は壁8の縁10に向かって縁12から出発開始する方向に壁8に向けて収斂する一般にテーパーを付けた窪んだ表面18をもって形成されている。どちらの態様の装置2においても、壁8は壁4の上面に平らに配置されている。図4に示された態様の装置2においては、窪んだ表面18は予め定められた距離だけ壁8から離される複数の階段増分20、22、24、及び必要ならばそれ以上を包含している。従って、図4に示された態様においては、チャンバー14の表面はチャンバーの一方の縁からチャンバーの反対の縁まで直線的ではなく増分的又は非直線的に収斂する。図5に示された態様の装置2においては、窪んだ表面18は壁8に向かって一定角度で収斂し、それによってチャンバー14の通し面厚さは壁8の縁12から縁10まで測定したとき直線的に変動する。従って、図4及び図5に示された態様の装置は増分的又は直線的に変動する通し面厚さの領域を包含するサンプルチャンバー14を例証する。窪んだ表面18に凸状又は凹状に湾曲した構造を与えることによって非直線的に変動する通し面厚さをもったチャンバーをつくることができるであろうということは認識されるであろう。」
(5)「【0030】
図9はチャンバー14を組み込んである装置2であってチャンバーが血液サンプルで満たされたときにチャンバー14の中には被検血液サンプル中に存在する如何なる異なるサイズの形態成分も静止的に分布するであろう仕方を表す概略平面図である。数字10はチャンバー14のより小さな厚さの領域を示し、そして数字12はチャンバー14のより大きな厚さの領域を示す。図9に示された装置2の描写においては、描かれたチャンバー14の部分には3つの異なる厚さの領域A、B及びCが存在する。領域Aはチャンバーの中のより小さな厚さの領域であり、領域Bはチャンバー14の中の中位の厚さの領域であり、そして領域Cはチャンバー14の中の最も大きな厚さの領域である。明らかなように、異なる厚さ領域のこの具体的な数は本発明のチャンバー14の主な特徴を単に例示するのに使用されており、そして本発明を制限するものではない、何故ならば、チャンバー14は、上に言及した通り、本質的に無限数の異なる厚さの領域を包含することができる。図9には3つの異なる視野1、3及び5も示されている。これら視野1、3及び5は顕微鏡のような光学機器によって観察されるときの視野を図解するように円として描写されている。図9に描写された図解においては、血液サンプルがチャンバー14の中に満たされ、そして少なくとも数秒間は静止された。チャンバー14の最も薄い領域Aには、平らになった赤血球、単独32又は単層31どちらか、が見いだされる。少数の血小板30も領域Aには見いだされるかも知れない。平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)及びその他の血球細胞計量(cellular metrics)の測定は視野1の中で、又は領域Aに見いだされる似たような視野の中で、行われてもよい。
【0031】
領域Bの下方部には、赤血球が赤血球無しの血漿によって包囲されている連銭状赤血球又はその他凝集体33を形成するのに十分な場所が存在する。視野3では、血小板30が数え上げられるかも知れない。領域Bの上方部では、視野5には、白血球34の計数及び分類を可能にするのに十分なチャンバー容積が存在する。従って、白血球34は表面受容体サイトのためのこの領域で検定することができ; 類型に分類することができ; 容積測定することができ; 形態学的に研究することができる; そして白血球34についての付加的な小さな情報は領域Bの上方部における血液サンプルから誘導することができる。チャンバー厚さが領域Cに示されたものにまで増加すると、赤血球凝集体33は融合層(confluent layer) を形成し、そして白血球を突き止める能力は低下するが、この領域は非常に低い白血球数には利用されるかも知れない。
【0032】
図10はチャンバー14の部分平面図であり、数字12はチャンバー14の厚い方の端を示しそして数字10はチャンバー14の薄い方の端を示す。その最も薄い部分10における約0?約3μからその最も厚い部分12における約200μまで変化する変動厚さを有するチャンバー14は血液サンプルの単位容量当たりの粒子計数の動的範囲(dynamic range) を100倍にするであろう。4つの概略視野7′、7、9及び11が図9に示されている。形態成分32が視野7、9及び11の各々に描かれており、そして視野7′には何も示されていない。空位の又は明澄流体のスペース35は視野7′、7および9にも描かれているが、視野11には描かれてない。この図解は有効情報を含有する視野を見いだすことにおけるチャンバー14の動的有効範囲を説明している。この図に示された成分32は前述した血液成分のいずれか、即ち、血小板、赤血球、又は白血球、でありえよう。視野7′は成分32が欠けており、そして視野11は成分32が過剰に群がっているので、成分32に関する有効な情報を何ら含有しない2つの視野11及び7′が存在するということは注目されるであろう。しかしながら、微粒子物の単なる存否も或る種の環境では意味があり、例えば、異常血球が見いだされる場合がそのケースであろう。視野7及び9はどちらも、成分32と明澄血漿区域35を含有している。走査機器はこれら視野の一つを詳細分析用に選択してもよい。上に言及した通り、走査機器はチャンバー14の中のサンプルの単位容量当たりの形態成分32の計数を誘導することを伴うサンプル検査の遂行においてチャンバー14の中の有効領域を求めてチャンバー14を探索するときに、それは7′、7、9及び11のような視野を調べるであろう。
【0033】
走査機器は計数検査の遂行時には明澄流体要素35を有しない視野を無視するようにプログラミングすることができる、何故ならば、幾つかの場合には、かかる視野要素35の存在は機器がそれが見ている視野の深度を決めるのに必要とされるからである、また、形態成分を欠く7′のような視野を無視するようにプログラミングすることもできる。先に言及した通り、深度測定は明澄要素31から発する着色剤信号強度の関数又は幾つかの他の性質例えばチャンバーにおける走査機器のX-Y位置の関数であってもよい。走査機器は視野の面積を知るようにプログラミングしたコンピューターを含んでおり、そして機器は任意視野の深度を測定したらその視野の容積を計算する。走査機器は必要な明澄要素31を有するが形態成分32の有意数を含有しない特定視野を無視するようにプログラミングされてもよい。従って、走査機器は視野7を無視することがありうるし、そして視野7′及び11を無視するであろう。かかる場合には、走査機器は視野9の中の形態成分32の数を計数するだけであろう。
【0034】
走査機器は臨床上有意な数の成分32を計数するように十分な数の有効視野を検分したときに、それはチャンバー14の中のサンプルの単位容量当たりの成分32の数を計算するであろう。何が臨床上有意な数の計数成分32を構成するかの決定は計数手順にとっての予め定められた臨床上許容される誤差限界に依存するであろう。この数字はどんな成分32が計数されるかに依存するかも知れないということが認識されよう。走査機器コンピューターは任意の特定視野で何が観察されるかに依存して、有効視野を見つけ出すのにはチャンバー14の端10又は端12どちらに向かって動かなければならないかをわかるようプログラミングされるであろうことが認識されよう。従って、機器は11のような視野を見るときは、より有効な視野を突き止めるためにチャンバー14の端10に向かって動かなければならないことをわかるであろう。9のような有効視野が突き止められたら、機器はチャンバー14の端10及び12に平行に動くことによってチャンバー14の中に似たような視野を多分見つけるであろうことをわかるであろう。幾つかの成分はチャンバー14の幾つかの領域からは必然的に排除されるであろうので、他の領域でのそれらの濃度が増すことになるということに留意すべきである。実際、チャンバー14の最も薄い領域におけるサンプルの容量は他での検査容量に比べて少量であるので、その濃度効果は無視できる。機器が視野当たりの微粒子計数を遂行できるように10以上の成分と明澄区域を有する視野を見つけ出すようにプログラミングされているならば、それは視野9を選ぶであろう;それは成分32をそれらの明るい発光特性によって同定するであろう; それは視野9の成分32を計数するであろう; そして、それは視野9の容積を推定するであろう、従って、視野9の容積当たりの成分計数を誘導する。サンプル全体についての特定成分の計数はチャンバー14の中の臨床上有意な数の類似視野を探し出しそしてその中の同成分の計数を行うことから導くことができる。
【0035】
アクリジンオレンジのような着色剤によって超生体染色されたサンプル中に存在する白血球は460nm範囲の光によって励起されたときの540nmの蛍光性発光における細胞特有核蛍光(cells' characteristic nuclear fluorescence)及び620nmの蛍光性発光における細胞質蛍光(cytoplasmic fluorescence)によって同定されてもよい。有核赤血球もこの手順に従って同定できる。これら2つの波長の比は顆粒白血球(granulocyte) のようないくつかの炎症細胞(inflammatory cells)を同定するのにも使用できる。アストロゾンオレンジのような他の染料が類似分析を遂行するのに類似波長と共に使用されてもよい。 」
(6)「【0045】
図13は数字54によって一般的に表示されている自動化された比色顕微鏡機器アセンブリーの概略図であり、そしてそれは装置2の中に収容されている血液サンプルを走査するのに使用することができ、そして有意な人間の介在無しに血液サンプルの様々な成分からの発色波長を比色分析することができ、それによって様々な成分を同定する。それはまた、サンプルの中の様々な形態成分の単位血液サンプル当たりの容積計数を遂行することができ; 走査される血液サンプルの中の形態成分の様々なタイプの間を比色的及び/又は形態学的に差別化し; そして血液サンプルのヘモグロビン量及びヘマトクリットを比色的に測定することができる。機器アセンブリー54は走査された血液サンプルの中の形態成分の画像を生じ保存又は伝送するように設計されている。機器アセンブリー54には、サンプルホルダー2に携わるクリップ58を包含しそしてサンプルホルダー2の内容物が走査されるときサンプルホルダー2をXとYの方向に水平に動かすことを可能にするステージ56が包含されている。
【0046】
可逆的電気モーター59はサンプルホルダー2をXとYの方向に水平に動かせるように駆動スクリュー60を反対方向に選択的に回転させるのに使用できる。この仕方で、サンプルホルダー2の内容物全体が走査できる。機器アセンブリー54の自動の態様は、サンプルホルダーアセンブリー2の中のサンプル含有部に焦点を合わせるようにZ方向に選択的に動かせる、CCDカメラ62、ビームスプリッター64、及びレンズ66のセットを包含している。CCDカメラ62は選択回転可能なフィルターホイール74の上に搭載されていてもよい複数の異なる発光波長フィルター68、70及び72を通してサンプルの画像を観察し記録する。機器アセンブリー54はビームスプリッター64及び焦点を結ぶレンズセット66を通してサンプルホルダー2に励起光ビームを向ける励起光源75も包含している。一連の励起光波長フィルター76、78および80は選択回転可能なフィルターホイール82の上に搭載されてもよい。励起光ビームは焦点を結ぶレンズ66に向かってビームスプリッター64によって偏向され、そしてレンズ66によってサンプルホルダー2の上に焦点を結ばされる。従って、2つのフィルターホイール74と82は励起光源ばかりでなく発光光源の波長を選択的に制御し変動させることができる。予めプログラミングされたプロセッサーコントローラー84はサンプルホルダー2の運動; フィルターホイール74と82の回転; およびCCDカメラ62の操作を、選択的に制御するように操作可能である。従って、コントローラー84は有意な人間の介在の必要無しに機器アセンブリー12の完全自動操作を可能にする。
(7)図4

(8)図9

(9)図13


2 引用例1に記載された発明
(1)上記1(6)及び図13によれば、「選択回転可能なフィルターホイール74の上に搭載され」た「複数の異なる発光波長フィルター68,70及び72を通してサンプル画像を観察し記録する」「CCDカメラ62」と、「選択回転可能なフィルターホイール82の上に搭載され」た「一連の励起光波長フィルター76,78および80」を通して「サンプルホルダー2」に「励起光ビームを向ける」「励起光源」と、「サンプルホルダー2の運動」、「フィルターホイール74と82の回転およびCCDカメラ62の操作」を、「選択的に制御するように操作可能である」「予めプログラミングされたプロセッサーコントローラー84」とを備え、「励起光源」と「発光光」の波長を選択的に制御し変動させるように構成された装置構成が開示されていると認められる。
(2)上記1(1)ないし(9)の記載事項および上記(1)の認定を総合すると、引用例1には、つぎの発明が記載されているものと認められる。

「血液サンプルの中の様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能である一つ又はそれ以上の着色剤と混合されている実質的に希釈されてない抗凝固全血静止サンプルで全血の構成要素の計数を行うための装置であって、前記血液サンプル及び着色剤は下部壁4と上部壁8を包含し上部壁8は下部壁4の上面に平らに配置され、下部壁4は上部壁8の縁10に向かって縁12から出発開始する方向に上部壁8に向けて収斂する一般にテーパーを付けた窪んだ表面18をもって形成されており、窪んだ表面18は予め定められた距離だけ壁8から離される複数の階段増分22、24、26を含んだ変動厚さ領域を有する観察用チャンバー(14)の中に収容されており、
a)血液サンプルを、既知面積の視野(1、3、5、7′、7、9、11)を有する光学機器(54)によって、容量白血球数を誘導するのに臨床上有意な数の異なる視野を走査する工程;
b)前記静止血液サンプルの中の、白血球も含有している区域(5)を突き止める工程; 及び
c)静止血液サンプルの中の前記区域を、様々な形態の血液サンプル要素を示差的にハイライト化するように選択された波長の光によって照射する工程であって、この照射はハイライト化された血液サンプル要素に関する情報の前記光学機器による誘導を可能にする仕方で、行う工程;
d)選択視野の中の個々の白血球を計数し、そして前記選択視野の容積を求めて血液サンプルについての容量白血球数を誘導する工程を行うものであって、その際に様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって特異白血球数が血液サンプルから誘導されるものであり、
選択回転可能なフィルターホイール74の上に搭載された複数の異なる発光波長フィルター68,70及び72を通してサンプル画像を観察し記録するCCDカメラと、選択回転可能なフィルターホイール82の上に搭載された一連の励起光波長フィルター76,78および80を通してサンプルホルダー2に励起光ビームを向ける励起光源と、サンプルホルダー2の運動、フィルターホイール74と82の回転およびCCDカメラ62の操作を選択的に制御するように操作可能である予めプログラミングされたプロセッサーコントローラー84を備え励起光源と発光光の波長を選択的に制御し変動させるように構成されている
全血の構成要素の計数を行うための装置」の発明(以下、「引用発明1」という。)

3 本件拒絶理由通知において引用され、本件出願前電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例2(国際公開第2006/119368号)にはつぎの事項が記載されている。
なお、その記載内容については、対応日本語出願である特願2008-510169号の国内公表公報(特表2008-541055号)の記載に基づいて摘示した。(下線は、当審により付加したもの。)
(1)「【0002】
(分野)
本教示は、蛍光色素からの蛍光を検出する検出システム、および蛍光色素を検出する方法に関連している。」
(2)「【課題を解決するための手段】
【0004】
(要旨)
多種の実施形態によれば、本教示は、2つ以上の励起源、少なくとも1つの検出器および色素のセットを備える検出システムを提供する。励起源は、複数の異なる個々の励起ビームの波長範囲を放出するように適合され得、ここで、各励起源は、励起源のうちの少なくとも1つの他の励起源の励起ビームの波長範囲内では放出されない少なくとも1つの波長を放出する。各励起源は、それぞれの個々の放射線源を含み得るか、もしくは2つ以上の励起源は、同じ放射線源を含み得る。例えば、各励起源は、別々の発光ダイオード(LED)もしくはレーザー源を含み得るか、あるいは2つ以上の励起源は、一般的な広域スペクトルの光源、および適切な光学機器(optics)、フィルタ、回折格子などを含み得る。典型的実施形態において、約460nm?約475nmの第一の励起ビームの波長範囲を放出するように適合される第一の励起源が提供され得、そして約480nm?約495nmの第二の励起ビームの波長範囲を放出するように適合される第二の励起源が提供され得る。第二の励起ビームの波長範囲は、第一の励起ビームの波長範囲とは異なる時間もしくは異なる方向で放出され得る。いくつかの実施形態において、2つ、3つ、4つもしくはそれより多くの異なっていてかつオーバーラップしていない波長範囲の励起ビームを放出するように適合される励起源の群が提供される。」
(3)「【0006】
多種の実施形態によれば、本明細書中に記載されるような検出システムとともに使用するための色素のセットが提供され、ここで、このセットのうちの少なくとも2つの色素が、同じかもしくは実質的にオーバーラップしている放出波長範囲ではなく、異なる吸収波長範囲を有する。いくつかの実施形態において、本教示は、色素のセットを提供し、ここで、このセットの色素のうちの少なくとも1つが、エネルギー移動色素である。いくつかの実施形態において、このセットの色素のうちの少なくとも1つが、ドナー色素部分、アクセプター色素部分および必要に応じてリンカー部分を含み得る。いくつかの実施形態において、本教示は、2つ以上のエネルギー移動色素を含む色素のセットを提供し、ここで、色素のセットの各エネルギー移動色素は、このセット中の他のエネルギー移動色素とは異なるドナー色素部分を含み、そして、色素のセットの各エネルギー移動色素は、アクセプター色素部分を含み、これは、このセットの他のエネルギー移動色素のアクセプター色素部分と、同じタイプもしくは同じ構造であり、ならびに/あるいはこれは、同じスペクトル特性および/もしくは放出波長範囲を有する。いくつかの実施形態において、本教示は、エネルギー移動色素のセットを提供し、ここで、セットの各エネルギー移動色素は、このセット中の他のエネルギー移動色素とは異なるドナー色素部分を含み、そしてセットの各エネルギー移動色素は、アクセプター色素部分を含み、これは、このセットの他のエネルギー移動色素のアクセプター色素部分と、同じタイプもしくは構造であり、ならびに/あるいはこれは、同じスペクトル特性および/もしくは放出波長を有する。 」
(4)「【0020】
図面に関して、図1は、サーマルサイクルされる一定の容量でPCRを使用した核酸配列の検出のための典型的なシステムを説明する。励起源10、20、30および40は、異なるピーク波長および/もしくは異なるピーク波長の範囲の放射線をそれぞれ提供し得る。例えば、励起源10は、約540nmの第一波長のビーム592と表される放射線を放出し得、励起源20は、約560nmの第二波長のビーム594と表される放射線を放出し得、励起源30は、約580nmの第三波長のビーム596と表される放射線を放出し得、そして励起源40は、約600nmの第四波長のビーム598と表される放射線を放出し得る。励起源10、20、30および40から放出される励起ビームは、それぞれのバイアル中に入れられた液体サンプル部分70に向けられ得る。液体サンプル部分70はそれぞれ、検出される核酸および色素のセットを含み得、ここで、この色素のセットは、励起源10、20、30および40から放出されるそれぞれの励起波長によってそれぞれ励起可能な色素を含む。例えば、4つのエネルギー移動色素が選択され得、ここで、各エネルギー移動色素は、4つの異なる励起源10、20、30および40のうちのそれぞれによって励起可能である異なるそれぞれのドナー色素部分を含む。この4つのエネルギー移動色素のそれぞれのアクセプター色素部分は、各エネルギー移動色素と同じになるように(例えば、励起されると各色素が同じ波長の放射線を放出するように)選択され得る。サンプルから放出された放出ビーム600(例えば、約620nmの放出波長で)は、検出器50によって検出され得る。いくつかの実施形態において、色素のセット(ここで、このセットの各色素は、同じピーク放出波長(例えば、620nm)を放出する)を使用することは有益であり得る。このような場合、検出器が、620nmでの最適な検出に合わせられ得るか、もしくはどんな放出波長でもこのセットの2つ以上の色素によって共有される。
【0021】
いくつかの実施形態において、図1に示されるシステムは、励起源によって照射される励起ビームをフォーカスさせるための1つ以上のレンズ(図示されていない)、および/もしくは励起ビームを導くための1つ以上の鏡(図示されていない)を含み得る。複数の励起源として複数の放射線源を含む図1に示されるようなシステムにおいて、励起波長および放出波長は、それら全てが互いに異なり、かつ分光的に互いに一定の間隔があるか、あるいは離れていて、その結果、オーバーラップする放射線を減じるもしくは除去するためのフィルタを必要としないシステムとなるように選択され得る。
【0022】
いくつかの実施形態において、図1中で説明される励起源10、20、30および40は、4つの個々のLEDを含み得る。いくつかの実施形態において、励起源は、例えば、それぞれ異なるOLED(これは、2つの異なり、かつ分光的に一定の間隔があるそれぞれの励起波長を提供し得る)の2層を含む2層OLEDの形態に統合され得る。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される多種の放射線源のいずれも、励起源10、20、30および40として使用され得る。
【0023】
いくつかの実施形態において、図1中で説明されるシステムは、励起源10、20、30および40のそれぞれに対する独立したコントロール(例えば、CPUもしくは他のプロセッサーによる、あるいは論理によるコントロール)を提供し得る。プロセッサーは、例えば、励起源を1つずつ動作させるようにプログラムされたコンピューターを含み得る。プロセッサーは、機器制御回路をその中に含み得る。プロセッサーは、動作される励起源と検出器によって検出される放出波長、放出波長の範囲もしくは放出スペクトルとを調整および/もしくは相関させるために検出器と連結され得る。動作される励起源は、核酸配列を検出するために、このシステム内で使用される色素と相関され得る。」

(5)図1



4 上記3(1)ないし(5)を総合すると引用例2には、つぎの発明が記載されているものと認められる。
「2つ以上の励起源、少なくとも一つの検出器及び色素のセットを備える検出システムであって、励起源は、複数の異なる個々の励起ビームの波長範囲を放出するように適合され得、ここで各励起源は、励起源の少なくとも1つの他の励起源の励起ビームの波長範囲内では放出されない少なくとも1つの波長を放出するものであり、色素のセット中には、複数のエネルギー移動色素が含まれ、各エネルギー移動色素は、他のエネルギー移動色素とは異なるドナー色素部分を含み、他のエネルギー移動色素と同じスペクトル特性及び/又は放出波長を有するアクセプター色素部分を含む検出システム」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

第5 対比
1 引用発明1の「チャンバー」の厚さ寸法に関して
(1)上記第4の1(3)には「・・・チャンバーの中のより厚い領域の一つは白血球および赤血球連銭形(rouleaux)を集めるであろう。チャンバーのこの領域の厚さは代表的には約7?約40μの範囲にある。チャンバーは血液サンプルを引き入れることができるサンプルホルダーの中に収容されている。」と記載され、「白血球」を集める領域におけるチャンバーの厚さが約7?約40μmの範囲にあることが示されている。
(2)そして、引用例1の図9の説明として、上記第4の1(5)の段落【0031】には「・・・領域Bの上方部では、視野5には、白血球34の計数及び分類を可能にするのに十分なチャンバー容積が存在する。従って、白血球34は表面受容体サイトのためのこの領域で検定することができ; 類型に分類することができ; 容積測定することができ; 形態学的に研究することができる; そして白血球34についての付加的な小さな情報は領域Bの上方部における血液サンプルから誘導することができる。チャンバー厚さが領域Cに示されたものにまで増加すると、赤血球凝集体33は融合層(confluent layer) を形成し、そして白血球を突き止める能力は低下するが、この領域は非常に低い白血球数には利用されるかも知れない。」と記載されており、あまり、チャンバーの厚さ方向の寸法を大きくすることは、赤血球により白血球の検出能力が低下することが示されている。また、チャンバーの厚さ方向の寸法を大きくして、赤血球凝集体33が融合層を形成する場合であっても、白血球数が非常に低いときには利用され得ることについても記載されている。
(3)以上のことから、 引用発明1のチャンバの厚み方向の寸法に関しては、つぎのaないしcのことを理解することができる。
a チャンバーの厚み方向の寸法を大きくすると、赤血球の影響により白血球の検出能力が低下する。
b 代表的には、白血球を集める領域におけるチャンバーの厚み方向の寸法は、約7?約40μの範囲である。
c 白血球を集めるとされるチャンバーの厚み方向の寸法は、約7?約40μの範囲に限らず、それより大きく赤血球が多く検出されるような厚みでも、白血球数が少ないときには利用され得る。
(4)また、試料チェンバーの「領域Bの上方部の視野5において、白血球の計数及び分類を可能にする十分なチェンバー容積が存在する」旨が開示されていることからすれば、図4に示された「試料チェンバー」の下部壁4の窪み18の階段増分22ないし24を用いて、白血球数を集める領域を形成することは、明らかであるから、引用発明1の「試料チェンバー」は、その上部壁と下部壁の間の光収集軸に沿った寸法が赤血球の光妨害層の形成を妨げる光収集軸に沿った寸法を含むものといえる。

2 以上のことを前提に、本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「血液サンプルの中」、「血液サンプル中の様々なタイプの白血球」は、それぞれ、本願発明の「血液検体内」、「非赤血球」に相当し、引用発明1の「異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能である一つ又はそれ以上の着色剤」、「実質的に希釈されていない抗凝固全血静止サンプルで全血の構成要素の計数を行うための装置」と、本願発明1の「複数の分別励起可能なラベルを付けられた非赤血球」、「血液検体内」の「非赤血球を分析するための装置」は、それぞれ、「複数のラベルを付けられた非赤血球」、「血液検体内」の「非赤血球を分析するための装置」である点で共通するものといえる。
してみると、引用発明1の「血液サンプルの中の様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能である一つ又はそれ以上の着色剤と混合されている実質的に希釈されてない抗凝固全血静止サンプルで全血の構成要素の計数を行うための装置」と本願発明の「血液検体内で複数の分別励起可能なラベルを付けられた非赤血球を分析するための装置」は、「血液検体内で複数のラベルを付けられた非赤血球を分析するための装置」である点で共通する。
(2)引用発明1の「血液サンプル及び着色剤」が収容されている「下部壁4と上部壁8を包含し上部壁8は下部壁4の上面に平らに配置され、下部壁4は上部壁8の縁10に向かって縁12から出発開始する方向に上部壁8に向けて収斂する一般にテーパーを付けた窪んだ表面18をもって形成されており、窪んだ表面18は予め定められた距離だけ壁8から離される複数の階段増分22、24、26を含んだ変動厚さ領域を有する観察用チャンバー(14)」と本願発明の「血液検体を含み、赤血球の光妨害層の形成を妨げる光収集軸に沿った寸法を有することができる試料チャンバーであって、前記試料チャンバーの光学的に透過する壁と底部壁との間の垂直の前記寸法は44μm以上50μm未満の範囲内であり、前記光学的に透過する壁は前記底部壁に対して実質的に平行である、試料チャンバー」とは、上記1で検討したことを前提とすれば、「血液検体を含み、赤血球の光妨害層の形成を妨げる光収集軸に沿った寸法を含む試料チャンバーであって、前記試料チャンバーの光学的に透過する壁と底部壁との間の垂直の前記寸法を有し、前記光学的に透過する壁は前記底部壁に対して実質的に平行である、試料チャンバー」である点で共通するものといえる。
そして、引用発明1の「 a)血液サンプルを、既知面積の視野(1、3、5、7′、7、9、11)を有する光学機器(54)によって、容量白血球数を誘導するのに臨床上有意な数の異なる視野を走査する工程; b)前記静止血液サンプルの中の、白血球も含有している区域(5)を突き止める工程; 」を有する装置は、「容量白血球数」を計数するための「臨床上有意な数の異なる視野を走査し」、「静止血液サンプル中の白血球」を「含有している区域を突き止め」るのであるから、試料チェンバーの「赤血球の光妨害層の形成を妨げる光収集軸に沿った寸法を有する」試料チェンバー部分の画像を用いて、白血球数を誘導するものであることも明らかであるといえる。
(3)引用発明1の「c)静止血液サンプルの中の前記区域を、様々な形態の血液サンプル要素を示差的にハイライト化するように選択された波長の光によって照射する工程であって、この照射はハイライト化された血液サンプル要素に関する情報の前記光学機器による誘導を可能にする仕方で、行う工程」を有する装置が、「複数の波長帯域を有する照明ビーム」で血液サンプルの中の区域を照射するものであることは明らかであり、そのための構成として「選択回転可能なフィルターホイール82の上に搭載された一連の励起光波長フィルター76,78および80を通してサンプルホルダー2に励起光ビームを向ける励起光源」であって、「予めプログラミングされたプロセッサーコントローラ84がフィルターホイール82の回転を制御して励起光源を選択的に制御」するよう構成されている。
したがって、引用発明1の「選択回転可能なフィルターホイール82の上に搭載された一連の励起光波長フィルター76,78および80を通してサンプルホルダー2に励起光ビームを向ける励起光源」と本願発明の「帯域通過フィルタを有し、互いに対向する位置に配置された2つの光源であって、各々が、明確な波長帯域を有する照明ビームで前記血液検体を連続的に照らすことができる2つの光源」とは、「帯域通過フィルタを有し」「複数の明確な波長帯域を有する照明ビームで血液検体を連続的に照らすことができる光源」である点で共通するものといえる。
(4)そして、引用発明1の「選択回転可能なフィルターホイール74の上に搭載された複数の異なる発光波長フィルター68,70及び72を通してサンプル画像を観察し記録するCCDカメラ」と「選択回転可能なフィルターホイール82の上に搭載された一連の励起光波長フィルター76,78および80を通してサンプルホルダー2に励起光ビームを向ける励起光源」の「フィルターホイール74と82の回転およびCCDカメラ62の操作を選択的に制御するように操作可能である予めプログラミングされたプロセッサーコントローラー84」は、励起光源の励起光ビームを異なる複数の励起光波長で連続的にサンプルを照射するように制御することが可能であり、また、CCDカメラを複数の異なる発光波長にてサンプル画像を連続的に観察し記録する用制御することが可能であることは技術的に明らかである。
してみると、引用発明1の「プロセッサーコントローラ84」と本願発明の「前記複数の分別励起可能なラベルの各々が、単一の検出器によって検出できる同じ波長帯域内の光信号を連続的に放射させられるように、それぞれの光源の前記照明ビームを前記血液検体上に連続的に導くための前記2つの光源に結合されたコントローラ」とは、「光源の複数の波長の照明ビーム」を「血液検体上に連続的に導くための」「光源に結合されたコントローラ」である点および「複数のラベルの各々が、単一の検出器によって検出できる光信号を連続的に放射させられるように、それぞれの光源の前記照明ビームを前記血液検体上に連続的に導くための前記2つの光源に結合されたコントローラ」である点で共通するものといえる。
(5)引用発明1の「d)選択視野の中の個々の白血球を計数し、そして前記選択視野の容積を求めて血液サンプルについての容量白血球数を誘導する工程を行うものであって、その際に様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって特異白血球数が血液サンプルから誘導される、全血の構成要素の計数を行うための装置」は、複数の波長のビームにより照射された際の「血液サンプルの中の様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能である一つ又はそれ以上の着色剤」からの異なる信号強度を測定するものであるから、複数の波長のビームの照射に応じて放射された光信号を収集するものであることは明らかである。
そして、引用発明1の「選択回転可能なフィルターホイール82の上に搭載された一連の励起光波長フィルター76,78および80を通してサンプルホルダー2に励起光ビームを向ける励起光源」が、異なる複数の励起光波長の励起光ビームを連続的に照射可能であること、また、「選択回転可能なフィルターホイール74の上に搭載された複数の異なる発光波長フィルター68,70及び72を通してサンプル画像を観察し記録するCCDカメラ」が、複数の異なる発光波長のサンプル画像を連続的に観察可能なものであるから、「異なる複数の連続的な画像を収集することができる光学システム」ともいい得るものである。
してみると、引用発明1の「d)選択視野の中の個々の白血球を計数し、そして前記選択視野の容積を求めて血液サンプルについての容量白血球数を誘導する工程を行うものであって、その際に様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって特異白血球数が血液サンプルから誘導される、選択回転可能なフィルターホイール74の上に搭載された複数の異なる発光波長フィルター68,70及び72を通してサンプル画像を観察し記録するCCDカメラと、選択回転可能なフィルターホイール82の上に搭載された一連の励起光波長フィルター76,78および80を通してサンプルホルダー2に励起光ビームを向ける励起光源と、サンプルホルダー2の運動、フィルターホイール74と82の回転およびCCDカメラ62の操作を選択的に制御するように操作可能である予めプログラミングされたプロセッサーコントローラー84」を備え励起光源と発光光の波長を選択的に制御し変動させるように構成されている全血の構成要素の計数を行うための装置」は、本願発明の「そのような放射された光信号を収集し、それらに対応する連続的な画像を、画像データの連続的な組を形成するための光応答性表面に形成することができる光学システムとを含み、画像データの前記連続的な組を分析することによって、前記血液検体内の非赤血球を数えることを特徴とする装置」に相当するものであるともいえる。
(6)上記(1)ないし(5)によれば、本願発明と引用発明1とは、つぎの一致点で一致し、つぎの相違点において相違するものと認められる。

<一致点>
血液検体内で複数のラベルを付けられた非赤血球を分析するための装置であって、前記装置は、
血液検体を含み、赤血球の光妨害層の形成を妨げる光収集軸に沿った寸法を含む試料チャンバーであって、前記試料チャンバーの光学的に透過する壁と底部壁との間の垂直の前記寸法を有し、前記光学的に透過する壁は前記底部壁に対して実質的に平行である、試料チャンバーと、
帯域通過フィルタを有し複数の明確な波長帯域を有する照明ビームで血液検体を連続的に照らすことができる光源と、
前記複数のラベルの各々が、単一の検出器によって検出できる光信号を連続的に放射させられるように、それぞれの光源の前記照明ビームを前記血液検体上に連続的に導くための前記光源に結合されたコントローラと、
そのような放射された光信号を収集し、それらに対応する連続的な画像を、画像データの連続的な組を形成するための光応答性表面に形成することができる光学システムとを含み、
画像データの前記連続的な組を分析することによって、前記血液検体内の非赤血球を数えることを特徴とする装置

<相違点1>
「試料チャンバー」の「赤血球の光妨害層の形成を妨げる光収集軸に沿った寸法」に関して、本願発明が、「44μm以上50μm未満の範囲内」であると特定されているのに対して、引用発明1は、どの程度の寸法であるのかが特定されない点

<相違点2>
本願発明の「光源」が「帯域通過フィルタを有し、互いに対向する位置に配置された2つの光源であって、各々が、明確な波長帯域を有する照明ビームで前記血液検体を連続的に照らすことができる2つの光源」であるのに対して、引用発明1の「光源」は、「選択回転可能なフィルターホイール82の上に搭載された一連の励起光波長フィルター76,78および80を通してサンプルホルダー2に励起光ビームを向ける励起光源」である点

<相違点3>
本願発明の「複数の分別励起可能なラベル」が非赤血球に付けられるものであり、「前記複数の分別励起可能なラベルの各々が、単一の検出器によって検出できる同じ波長帯域内の光信号を連続的に放射させられるように、それぞれの光源の前記照明ビームを前記検体上に連続的に導くための前記2つの光源に結合されたコントローラと」を備えるものであるのに対して、引用発明1は、「血液サンプルの中の様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能である一つ又はそれ以上の着色剤と混合されている」ものであり、「静止血液サンプルの中の前記区域を、様々な形態の血液サンプル要素を示差的にハイライト化するように選択された波長の光によって照射する工程であって、この照射はハイライト化された血液サンプル要素に関する情報の前記光学機器による誘導を可能にする仕方で、行う」ものである点

第6 当審の判断
1 相違点1について
(1)相違点1について検討するに、引用発明1の「試料チャンバー」の寸法は、「赤血球の光妨害層の形成を妨げる光収集軸に沿った寸法」を含むものである点で、請求項1に係る発明において特定されている寸法範囲「44μm以上50μm未満」と同様の作用を奏するものである。
また、引用発明1において、「b チャンバーの厚さ方向の寸法の大きさが約7?40μmとすれば、白血球が集まり」、「a 赤血球により白血球の検出能力が低下することはない」が、「c 白血球が少ないときには、それ(40μm)よりも大きくする」ことが理解できることは、上記第5の1(3)で説示したとおりであるし、引用発明1の装置を白血球数の計数を目的として用いるに当たって、引用発明1の「試料チャンバー」の厚さ方向の寸法の大きさを、その目的に応じて最適化することは、当業者が当然考慮し得る設計的条件である。
してみると、そのような最適範囲の検討により、当該厚さ方向の寸法の大きさを「44?50μm」の範囲内として、請求項1に係る発明の上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のことというべきである。
(2)上記のように、引用発明1の「試料チャンバー」の厚さ方向の寸法の大きさを「44?50μm」の範囲内とすることが容易になし得るとしても、当該数値範囲が、その他の数値範囲と比較して格別な効果を奏する、すなわち臨界的意義を有する場合には、本願発明の進歩性は肯定されることとなることから、本願発明において特定される数値範囲の臨界的意義について検討する。
ア 本願明細書の発明の詳細な説明には、当該寸法に関しては、【0029】「上述のように、試料チャンバー(502)の上部壁(514)と底部壁(516)との間の距離は、全血試料の分析にとって重要である。その距離、例えば図5Bの(518)が大きすぎる場合、除核赤血球(520)は関心のある細胞種類(522)から生成される通過光信号を妨害する(526)可能性があり、その場合には、そのような細胞は数えられない可能性があり、細胞数又は濃度の過小評価をもたらす。本発明によると、及び図5Cで例示されるように、試料チャンバー(502)の上部壁(514)と底部壁(516)との間の距離(518)は、除核赤血球の妨害層が、関心のある細胞(522)と上部壁(514)との間で形を成すことができず、光信号(524)がすべて試料チャンバー(502)から撮像光学系へとなるように、関心のある細胞種類(522)の直径又は有効直径と実質的に同等である。一態様では、試料チャンバー(502)は、撮像光学系の被写界深度と実質的に同等な距離(518)を有する。別の態様では、試料チャンバー(502)は、10から100μm、又は10から50μm、又は20から50μmの範囲内の距離(518)を有する。」と記載されているのみであり、当該寸法範囲に関しての臨界的な意義については何らの開示もない。
イ 図8Aなどをみても、ここでの数値範囲について臨界的意義を見出すことはできない。
(3)以上のとおりであるから、相違点1は、当業者が容易になし得る程度のことである。

2 相違点2について
(1)例えば特開2000-292354号公報(以下、「周知例1」という。)には、測定表面に「波長λ1の励起ビームを与えるための励起フィルタ7及び光源6」と「波長λ2の励起ビームを与えるための励起フィルタ9及び光源8」を備えた光源であって、互いに対向して配置されるもの(段落【0024】及び段落【0037】図5等参照)が記載されており、また、特表2006-515065号公報(以下、「周知例2」という。)には、「Cy3励起用の緑色ピーク波長をもったルミレッド高輝度LED402」と「Cy5励起用のピーク波長を持った第2のルミレッド高輝度LED404」を配列位置周りの直径両端に配置した配列読み取り器(段落【0064】及び図7参照)が記載されているように、「検出対象に2つの波長の励起光を照射する光源として、それぞれの波長を照射するための帯域通過フィルタを有し、互いに対向する位置に配置された2つの光源」は、本願優先権主張日前に従来周知の技術であるといえる。
(2)引用発明1の「選択回転可能なフィルターホイール82の上に搭載された一連の励起光波長フィルター76,78および80を通してサンプルホルダー2に励起光ビームを向ける励起光源」が複数の異なる波長を励起光ビームとして照射するものである点で、当該周知技術の「光源」と同じ作用を奏するものであるから、当業者であれば、引用発明1において、複数の異なる励起光波長の励起光ビームをサンプルホルダーに向ける励起光源として、上記従来周知の「光源」を用いることができることは明らかである。
また、複数の異なる励起光波長の光源を、複数の異なる波長のフィルタを切り換えて単一光源により実現することと、異なる波長光を放出する複数の光源を用いて実現することは、どちらも周知の技術であって、そのどちらを採用するのかは、当業者が必要に応じて選択し得る程度の設計的事項でもある。
(3)以上のとおりであるから、引用発明1の光源を上記周知技術を適用して、上記相違点2に係る本願発明の構成のごとく構成することは、当業者が容易になし得る程度のことというべきである。

3 相違点3について
(1)本願発明と引用発明2の対比
ア 引用発明2の「エネルギー移動色素」は、「他のエネルギー移動色素とは異なるドナー色素部分を含む、他のエネルギー移動色素と同じスペクトル特性及び/又は放出波長を有するアクセプター色素部分を含む」ものであることから、本願発明の「複数の分別励起可能なラベル」であって、「各々が、単一の検出器によって検出できる同じ波長帯域内の光信号を連続的に放射」できるものに相当し、また、引用発明2の「励起源は、複数の異なる個々の励起ビームの波長範囲を放出するように適合され得、ここで各励起源は、励起源の少なくとも1つの他の励起源の励起ビームの波長範囲内では放出されない少なくとも1つの波長を放出するもの」は、本願発明の「明確な波長帯域を有する照明ビームで前記血液検体を連続的に照ら」すよう作動するものであることは明らかである。
イ 引用発明2の「少なくとも一つの検出器」により検出される各エネルギー移動色素のアクセクター色素部分は、他のエネルギー移動色素と同じ波長の放出波長を有するのである。
してみると、引用発明2の「少なくとも一つの検出器」は、励起源により照らされた血液サンプルからの同じ波長の放出波長を検出することができるものであるといえるから、本願発明の「そのような放射された光信号を収集」する「光学システム」に対応するものである。
ウ 引用発明2の装置の「2つ以上の励起源」は、「複数の異なる個々の励起ビームの波長範囲を放出するように適合され得、ここで各励起源は、励起源の少なくとも1つの他の励起源の励起ビームの波長範囲内では放出されない少なくとも1つの波長を放出するものであ」るから、本願発明の「前記複数の分別励起可能なラベルの各々が、単一の検出器によって検出できる同じ波長帯域内の光信号を連続的に放射させられるように、それぞれの光源の前記照明ビームを前記検体上に連続的に導くための前記2つの光源に結合されたコントローラ」と同様に制御されるものであることは明らかである。
(2)引用発明1に引用発明2を適用することの想到容易性について
ア 引用発明2の「複数の」「エネルギー色素」は、複数の異なる波長の励起光源を用いて選択的にそれぞれのエネルギー色素を励起し、その検出光を単一波長の光を用いて検出するようにすることで、検出器の構成を簡素化することができるという技術的意義を有するものである。
そして、引用発明1「着色剤」として引用発明2の「エネルギー移動色素」を用いることにより、「検出光を単一波長の光を用いて検出するようにすることで検出器の構成を簡素化することができる」ことは、当業者にとって明らかであるから、引用発明1に引用発明2の「エネルギー移動色素」を採用することには十分動機付けがあるものということができる。
イ 引用発明1において、「血液サンプルの中の様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能である一つ又はそれ以上の着色剤」として、引用発明2の「複数」の「エネルギー移動色素」を用いることができることは当業者にとって明らかであるから、引用発明1の「血液サンプルの中の様々なタイプの白血球から発する異なる信号強度によって白血球のタイプを互いに区別するのに作用可能である一つ又はそれ以上の着色剤」を「複数の」「エネルギー移動色素」を用いるようにすることに格別の困難性はない。
ウ 引用発明1において「複数」の「エネルギー移動色素」を用いて各白血球の計数を行うにあたっては、上記引用例2に記載のように、「励起光源」を「複数の異なる個々の励起ビームの波長範囲を放出するように適合され得、ここで各励起源は、励起源の少なくとも1つの他の励起源の励起ビームの波長範囲内では放出されない少なくとも1つの波長を放出するもの」ようにするとともに、「励起源により照らされた血液サンプルからの同じ波長の放出波長を検出する」よう制御されるものとしなければならないことは明らかであるところ、引用発明1の「選択回転可能なフィルターホイール74の上に搭載された複数の異なる発光波長フィルター68,70及び72を通してサンプル画像を観察し記録するCCDカメラと、選択回転可能なフィルターホイール82の上に搭載された一連の励起光波長フィルター76,78および80を通してサンプルホルダー2に励起光ビームを向ける励起光源と、サンプルホルダー2の運動、フィルターホイール74と82の回転およびCCDカメラ62の操作を選択的に制御するように操作可能である予めプログラミングされたプロセッサーコントローラー84」を備え励起光源と発光光の波長を選択的に制御し変動させるように構成されている装置」をそのように動作させるよう構成することにも格別の困難性は認められないし、また、上記相違点2において検討したように、引用発明1の光源を周知の光源に置き換えたとした場合においても同様である。
(3)小括
以上のことからすれば、引用発明1に引用発明2を適用することにより、上記相違点3に係る本願発明の如く構成することは、当業者が容易に想到し得るものといえる。

4 そして、本願発明の効果についても、引用例1及び2に記載の事項並びに周知技術に基づいて当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとは認められない。

5 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1及び引用発明2並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 まとめ
上記のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項について論及するまでもなく、本願は、特許を受けることができない。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-25 
結審通知日 2016-03-29 
審決日 2016-04-11 
出願番号 特願2009-547440(P2009-547440)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 波多江 進  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 尾崎 淳史
藤田 年彦
発明の名称 細胞計数及び分析のための方法、システム及び組成  
復代理人 濱中 淳宏  
復代理人 西田 憲孝  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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