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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1318521
審判番号 不服2014-24999  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-05 
確定日 2016-08-24 
事件の表示 特願2012-20872「局所適用される凝血材料」拒絶査定不服審判事件〔平成24年6月7日出願公開、特開2012-107033〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2000年2月29日を国際出願日とする特許出願(特願2001-563048号)の一部を平成24年2月2日に新たな特許出願としたものであって、平成25年10月1日付けで拒絶理由が通知され、平成26年4月2日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月1日付けで拒絶査定がなされたのに対して、同年12月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成27年2月12日にその審判請求の理由が補正されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1-18にかかる発明は、平成26年4月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-18に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1にかかる発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「血管外血流が存在する動物の傷の上での凝血塊の形成を増強するための、0.5?1000マイクロメーターの平均直径寸法を有する自由流動性多孔性粒子を含む、医薬組成物であって、
当該自由流動性多孔性粒子が、血管外血流が存在する前記傷の少なくとも一部に対し適用され、血液又は低分子量の血液成分を当該粒子の表面上に吸着させ、及び/又は当該粒子の表面に吸収させるように、凝血が前記傷で開始している間、当該粒子は前記血管外血流と接触したまま留められる、医薬組成物。」

3 原査定の理由
原査定の理由は、「この出願については、平成25年10月 1日付け拒絶理由通知書に記載した[理由1、2]によって、拒絶をすべきものである。」というものであり、要するに、当該理由1として、本願発明は、その原出願の出願日前に頒布された下記の刊行物5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という拒絶理由を含むものである。
5 特開昭51-34978号公報

4 刊行物5の記載事項
刊行物5には、次の事項が記載されている。
(1)
「コハク酸アミロース、コハク酸デキストラン、コハク酸プルラン、グルタル酸アミロース、グルタル酸デキストランまたはグルタル酸プルランであるジエステル架橋ポリグルカンから成り、ヒドロゲル固形物が水に不溶性であり、その中性pHナトリウム塩が前記ヒドロゲル固形物の重量を5?90倍に増加させるに十分な生理的食塩水の食塩水保留を有するジエステル架橋ポリグルカンヒドロゲル固形物を製造する方法において、置換度0.35?2.5を有するようモノ-エステルコハク酸ポリグルカンまたはモノ-エステルグルタル酸ポリグルカンを生成し、モノ-エステルコハク酸ポリグルカンまたはモノ-エステルグルタル酸ポリグルカンをpH5.2以下に酸化し、温度約135℃以下で前記モノ-エステルコハク酸ポリグルカンまたはモノ-エステルグルタル酸ポリグルカンを脱水してモノ-エステルを架橋し、ジエステルを生成することを特徴とするジエステル架橋ポリグルカンヒドロゲル固形物の製造方法。」(特許請求の範囲)
(2)
「本発明は新規な組成物およびその製造方法に関し、さらに特定すれば、多量の流体を吸収できるばかりでなく、出血組織に適用されたとき、優れた付着および止血作用をも行うジエステル架橋コハク酸ポリグルカンまたはジエステル架橋グルタル酸ポリグルカンから成る新規なヒドロゲル粉末および網状ヒドロゲルスポンジに関する。本発明はさらに前記新規な組成物を使用した止血方法に関する。」(1頁右下欄6-14行)
(3)
「現在、本発明者が知るかぎりにおいて、即時の止血活動を開始するとともに適用された有機体すなわち生体の自然新陳代謝産物に酵素的に加水分解されることにより完全かつ均一に吸収されるような中性pHを有するポリグルカン生体吸収性止血剤はこれまで開発されなかつた。
本発明による網状多孔性ヒドロゲルは、ジエステル架橋コハク酸ポリグルカンまたはジエステル架橋グルタル酸ポリグルカン、特にアミロースから成る連結糸から形成された立体網構造(ネット・ワーク)を含む。前記連結糸には実質的に“窓”すなわち独立気泡がない。したがつて、これらの組成物は“網状”スポンジと呼称することができる。前記網状スポンジはその間隙に水を保持することができるばかりでなく、ジエステル架橋コハク酸ポリグルカンまたはグルタル酸ポリグルカンがヒドロゲルであるので、前記連結糸自身が膨張するとともに流体を保持する。したがつて、生成物は全体としては“網状ジエステル架橋ポリグルカンヒドロゲル”と呼称される。」(2頁左下欄15行-右下欄14行)
(4)
「本発明者が知る限りにおいて、コハク酸アミロースまたはグルタル酸アミロース網状ヒドロゲルスポンジ構造は提案されておらず、また即時的止血活動を行い、出血傷への優れた付着性を示し、かつ適用された組織の過度の刺激または毒性効果を起さずに適用された生体の自然新陳代謝産物に酵素的に加水分解されることにより完全かつ均一に吸収される生体吸収性スポンジもこれまで提案されていない。
したがつて、本発明の一つの目的はジエステル架橋コハク酸ポリグルカンまたはジエステル架橋グルタル酸ポリグルカンから成るヒドロゲル粉末または網状スポンジおよびこれらの製造方法を提供することにある。
本発明のもう一つの目的は前記粉末を出血傷表面に適用することにより外科的止血を行う方法を提供することにある。
本発明のさらにもう一つの目的は先行技術の欠点を排除した生体吸収性ヒドロゲル粉末および網状スポンジを提供することにある。」(3頁右上欄5行-左下欄4行)
(5)
「本発明に使用する適当なポリグルカンはアミロース、プルランおよびデキストラン、あるいはこれらの一部解重合により得られた生成物を含む。生体吸収性止血剤として使用するためには、多糖類は線状およびアルフア架橋グルカンであることが好ましい。」(3頁右下欄7-12行)
(6)
「液体の乾燥剤および吸収剤としての自明な用途は別にして、本発明によるヒドロゲル粉末およびスポンジは吸収性止血スポンジとして極めて価値のあるものである。本発明の粉末およびスポンジは即時の止血を達成するとともに傷口に非常に確実に付着するので、組織が裂けてこれらを傷口表面から移動させる。本発明の生成物は実質的に炎症を起すことなく、治癒を遅延させることなく、また毒性分解生成物を生成することなく体内に完全に吸収される。本発明の生成物はその止血作用を改良するために他の吸収性あるいは非吸収性床(マトリクス)に加えることもできる。その他の使用目的としては錠剤の膨化剤、水保持性緩下剤薬品の解放遅延剤、および分子篩(モレキユラーシーブ)剤の用途がある。
本発明による好ましい網状スポンジ生成物は1mm以下の泡径および80?95%、好ましくは90?93%の空隙率、0.30?0.075g/cm^(3)、好ましくは0.15?0.11g/cm^(3)の見掛密度を有する。
本発明によるスポンジはスポンジ間隙に水を保持するばかりでなく、その構成要素そのものも自身の重量の生理的食塩水の5?40倍吸収する。これらの生成物は当然ヒドロゲルである。
傷口に適用されるスポンジの表面に粉末を適用することによりこの止血粉末のみを残してスポンジを取除いて止血作用を改良し、これにより止血を維持するのに必要とされる止血剤の全体量を最小にすることもできることが確認されている。スポンジ1単位重量あたり粉末約0.1?1.0重量部の相対量が特に満足できるものであることが見出された。この目的で止血粉末が約200?50メツシユ(75?200ミクロン)の平均粒度を有することが好ましい。」(6頁右下欄5行-7頁左上欄18行)
(7)
「実施例1
〔コハク酸アミロース〕
ポテトアミロース…400gを迅速に攪拌した23℃の水4000mlに移して均一乳化混合物を作成した。この混合物を温度10℃で冷却し、水酸化ナトリウム595gと水1700mlを加えた。混合物が澄み、温度が13℃になつた後、無水コハク酸粉末685gをこの反応混合物に移した。pHが約8に下つた後、5ノルマル水酸化ナトリウム溶液(1000mlの溶液が使用される)が反応pHを8?9に維持する割合で漏斗により添加した。この5ノルマル水酸化ナトリウム溶液および使用量は正確に929.8または788.0mlに決めた。反応全体を通して容器は10℃?22℃の反応温度を維持するよう冷却した。コハク酸基の置換度は次式の反応化学量論から計算した。
162(20x-y)
置換度=──────────
1000z
xは無水コハク酸のグラム単位重量、yは使用する水酸化ナトリウムのミリモル、zはアミロースのグラム単位乾燥重量、したがつて、
162〔20(685)-11466〕
置換度=──────────────────
1000(363.6)
前記反応を行つたと同じ日に反応溶液を濾過して5ミクロン以上のすべての粒状物質を除去した。
濾過された溶液のpHを酢酸で4.0に調整した。この溶液はセルローズ管から透析されて溶液の比電導度が一定となるまで低分子量塩を除いた。溶液をフラツシユ蒸発器により固形分13.2%の濃度に濃縮した。
このようにして得た部分ナトリウム塩の形のコハク酸アミロース溶液(固形分13.2%、置換度1.00、pH4.0)をガラス板上に厚さ1mmの膜としてキヤストした。この膜を強制空気オーブン内において60℃で2時間乾燥し、かつ直ちに120℃の強制空気オーブンに移して20分間収容することにより架橋した。冷却後、この膜とガラス板を重炭酸ナトリウムの5%溶液に15分間浸した。ガラス板から分離された膜を一平方ヤードあたり0.85オンスのセレツクス(Cerex;登録商標;モンサント社)(不織成ナイロン、すなわち結合剤を用いないナイロン)布に集め、次に、高速で15分間17オート・ワーリング・ブレンダー内の蒸留水で粉砕した。pHをコハク酸水溶液で約7.0に調整した。今やヒドロゲル粉末である生成物をセレツクス布に集めて蒸留水で5倍の容量に膨張するよう2回洗浄した。ゲルはその無水アセトンの膨張容量の10倍に沈澱させることにより乾燥させた容媒であつた。アセトンは上澄を除かれ、生成物を1時間60℃のオーブンで乾燥した。生成物はモルタルときねで軽く粉砕されて、この粉末を50、100および200メツシユのフルイに順次かけた。
食塩水保留は、100メツシユのフルイ上に残された所定水分を含む粉末500mgを0.9%の塩化ナトリウム水溶液50mlに入れ、23℃で10分間攪拌して膨張させることにより決定した。ヒドロゲル粉末をしずくが止るまで所定重量のセレツクス布の上で脱水することにより回復した。食塩水保留値は次式により計算された。
粉末の湿潤量
食塩水保留=──────
粉末の乾燥量
食塩水保留数は19.5であつた。
止血効果の試験を成長した犬の脾臓組織の切採手術による出血を補える止血剤の能力に基づき行つた。ナトリウムペントバビルタールを使用して犬に麻酔をかけ、腹部の中心線を切開し、脾を外部に出した。彎曲したメーヨ解剖鋏を使用してこの脾組織の一部を切採した。このように切採した部分は約1×3/8インチであり、その深さは鋏の彎曲程度により決定した(約1/8インチ)。十分な出血が観察された後、前記切採部分を乾燥した綿ガーゼで吸取つた後、直ちにこの実施例の中性コハク酸ナトリウムアミロースヒドロゲル乾燥粉末をある量(約300mg)傷口に適用し、かつ乾燥セルロースガーゼスポンジで30秒間軽い圧力を加えるよう押えた。ガーゼスポンジを取除いた後、出血は再び起らなかつた。さらに、実際ほとんどの粉末は血液で湿潤されていなかつた。10分間観察後、以後の出血は見られなかつたので、余分の粉末を生理的食塩水をこれに加えることにより取除いた。ほとんどの粉末が生理的食塩水で膨張し、かつ洗流されたが、血液に湿潤した粉末は傷口に残つて止血を維持するとともに、軟度においてゴムのようになつた。血餅がゴムのような軟度を有するとともに下の組織にしつかりと付着したので、傷口はかなりの動きに耐えることができたばかりでなく出血が停止した。」(7頁右上欄5行-8頁右上欄13行)
(8)
「実施例3
〔最大置換度を有するコハク酸アミロース〕
水200mlに溶解したアミロース30gと、無水コハク酸200gと、50.6%のNaOH21.1gと、5ノルマルNaOH784.9gとを使用して前記実施例1の方法によりコハク酸アミロースを得た。このコハク酸アミロースの置換度は2.43であつた。この生成物を前記実施例1の方法により濾過し、透析し、かつ架橋したが、ある膜を120℃で22分間熱し、他の膜を120℃で35分間熱した点だけ異なる。これらの試料(100メツシユ粉末)の食塩水保留は夫々16.0および15.6であつた。これらの粉末(100メツシユ)は犬の脾の傷の出血を30秒以内で止めた。」(8頁左下欄7行-右上欄1行)
(9)
「実施例5
〔コハク酸デキストラン〕
10℃の水1l中のデキストラン100gにpH8?9および温度6?10℃を維持しながら交互に無水コハク酸(100g)および5ノルマルNaOH(314.8g)を添加した。このようにして得られたコハク酸デキストランの置換度は1.14であつた。このコハク酸デキストラン溶液を氷酢酸でpH4に酸化し、比導電率が時間と伴に変化しなくなるまで蒸留水に対して透析し、かつフラツシユ蒸発器を用いて温度45?55℃で固形分51%に濃縮した。この重合溶液の厚さ1mmの膜をガラス板上に拡げた。あるガラス板を温度60℃で2時間熱し、さらに120℃で1時間熱した。また、他のガラス板を60℃で220分間熱し、さらに120℃で127分間熱した。膜を5%重炭酸ナトリウム溶液で中和し、ワーリングブレンダを用いて15分間水100ml中で粉砕し濾過し、かつ水600mlと混合した。この混合物のpHをコハク酸で7.0に調整し、粉砕された膜は水(各600ml)で2回以上、アセトン(各400ml)で2回洗浄し、かつ真空オーブンを用いて60℃で1時間加熱した。この乾燥試料をモルタルときねで粉砕し、次にメツシユサイズ100(300?150ミクロメータ);200(150?75ミクロメータ):および200(75ミクロメータ)以上のフルイにかけた。より短い時間加熱された100メツシユ試料の食塩水保留は85であつた。より長い時間加熱された100メツシユ試料の食塩水保留15.4であつた。これらの粉末の試料は犬の脾の傷に良好な止血作用を示し、30秒以内で出血を止めた。
実施例6
〔コハク酸プルラン〕
10℃の水225ml中のプルラン25gに50.6重量%NaOH24.0gを添加した。無水コハク酸(35g)および5ノルマルNaOH(53.7g)を交互に前記実施例5の方法によりプルラン溶液に添加した。このコハク酸プルランの置換度は1.1であつた。このコハク酸プルラン溶液を前記実施例5の方法により架橋粉末に作成したが、この場合、膜を36.3%溶液から60℃で90分間および120℃で40分間熱してキヤストした点が異る。食塩水保留は100メツシユ粉末に対し19.9であつた。100メツシユ粉末試料は犬の脾の傷に良好な止血作用を示し、30秒以内で出血を止めた。
実施例7
〔グルタル酸アミロース〕
10℃の水500ml中のアミロース55gに50.6重量%NaOH25.8gを添加した。無水グルタル酸(114.1g)および5ノルマルNaOH(277g)を前記実施例5の方法で交互にアミロース溶液に添加した。グルタル酸アミロースの置換度は1.6であつた。このグルタル酸アミロース溶液を前記実施例5の方法により架橋したが、この場合、膜を27.1%溶液から60℃で1時間および120℃で25分間熱してキヤストした点が異なる。食塩水保留は14.3であつた。この粉末の試料は犬の脾の傷に良好な止血作用を示し、30秒以内で出血を止めた。
実施例8
〔デキストラン、アミロース、コハク酸塩〕
前記実施例5で得られた架橋されていないコハク酸デキストラン44g(固形分52%)を機械的攪拌器を使用して前記実施例1の方法で得られた架橋されてないコハク酸アミロース156g(固形分14.5%)と混合し、pHをNaHCO_(3)溶液で4.2に調整した。この溶液の1mm膜を60℃で150分間および120℃で100分間加熱し、かつ前記実施例5の方法により粉末にした。食塩水保留は100メツシユ粉末で11.5であった。100メツシユ粉末の試料は犬の脾の傷に良好な止血作用を示し、30秒以内で出血を止めた。」(9頁左上欄8行-10頁左上欄2行)
(10)
「実施例10
〔グルタル酸アミロース、コハク酸アミロース〕
前記実施例7で得られた架橋されてないグルタル酸アミロース80g(固形分21.7%)を前記実施例8の方法により得られたコハク酸アミロース120g(固形分14.5%)と混合した。前記実施例8と異なる点は膜を120℃で25分間熱したことである。食塩水保留は22.8であり、止血作用は良好にして、出血を30秒以内で止めた。」(10頁左上欄11-19行)

5 刊行物5に記載された発明
刊行物5には、「多量の流体を吸収できる」(上記4(2))「出血傷表面に適用することにより外科的止血を行う」(上記4(4))「網状多孔性」(上記4(3))ヒドロゲル粉末に関し、かかる粉末は「出血組織に適用されたとき、優れた付着および止血作用をも行う」(上記4(2))ものであり、また、「即時の止血を達成するとともに傷口に非常に確実に付着する」(上記4(6))ものであること、かかる粉末の粒径は「約200?50メツシユ(75?200ミクロン)の平均粒度を有することが好ましい」(上記4(6))ものであること、実施例において「犬の脾臓組織の切採手術による出血を補える止血剤の能力に基づき」止血効果の試験を行い、かかる粉末を適用することで「血液に湿潤した粉末は傷口に残つて止血を維持するとともに、軟度においてゴムのようになつた。血餅がゴムのような軟度を有するとともに下の組織にしつかりと付着したので、傷口はかなりの動きに耐えることができたばかりでなく出血が停止した」こと(上記4(7)-(10))が、それぞれ記載されている。これらの点を踏まえると、刊行物5には以下の刊行物発明が記載されていると認められる。
「出血が存在する動物の傷の上での血餅の形成のための、75?200ミクロンの平均粒径を有する網状多孔性ヒドロゲル粉末を含む止血剤であって、当該ヒドロゲル粉末を含む止血剤が、出血が存在する前記傷に適用され、出血を当該粉末に吸収させるように、血餅が前記傷で形成されている間、当該粉末は前記出血と接触したまま留められる、止血剤。」

6 対比
本願発明1と刊行物発明とを対比する。
刊行物発明の「出血」は本願発明1の「血管外血流」に、「血餅」は「凝血塊」に、「網状多孔性ヒドロゲル粉末」は「自由流動性多孔性粒子」に、それぞれ相当する。刊行物発明は「血餅の形成」を「増強」するものであり、傷口で血餅が形成されているということは凝血が傷で開始しているものと認められ、また、止血作用を有する止血剤であるから、本願発明1の「医薬組成物」に相当するものと認められる。刊行物発明にかかる粉末の平均粒径「75?200ミクロン」は、本願発明1の自由流動性多孔性粒子の平均直径寸法の値と重複する。
そうすると、本願発明1と刊行物発明とは、
「血管外血流が存在する動物の傷の上での凝血塊の形成を増強するための、0.5?1000マイクロメーターの平均直径寸法を有する自由流動性多孔性粒子を含む、医薬組成物であって、
当該自由流動性多孔性粒子が、血管外血流が存在する前記傷の少なくとも一部に対し適用され、出血を当該粉末に吸収させるように、凝血が前記傷で開始している間、当該粒子は前記血管外血流と接触したまま留められる、医薬組成物。」
の点で一致し、次の点で一応相違するものといえる。
一応の相違点:
本願発明1は「血液又は低分子量の血液成分を当該(自由流動性多孔性)粒子の表面上に吸着させ、及び/又は当該粒子の表面に吸収させるように」したものであるのに対し、刊行物発明は、出血を網状多孔性ヒドロゲル粉末に吸収させるようにしたものである点。

7 判断
刊行物発明に係る網状多孔性ヒドロゲル粉末は、傷口での出血により湿潤、すなわち、出血を吸収するものである。このため、当該粉末は本願発明1でいう「血液又は低分子量の血液成分」を粒子の表面に吸収するものと認められる。
このため、上記一応の相違点に関し、本願発明1と刊行物発明とは実質的に相違しない。

8 請求人の主張
請求人は審判請求の理由において「引用文献5…には、アミロース等の多糖類を架橋させてなるヒドロゲル乾燥粒子を即時の出血に適用することが開示されているようです。しかし、通常、「ハイドロゲル」は巨視的孔構造を有することが当業者の技術常識でありますので、本願発明における多孔性粒子とは全く相違するものです。
また、同引用文献では、血液がヒドロゲル乾燥粒子の「網状スポンジ」(第402頁右下欄第7行)に吸収され、粒子が膨潤することによって止血されると考えられます。一方、本願発明では、血液等が流動性多孔性粒子の表面上に吸着されるか、あるいは当該粒子の表面に吸収されて、出血創傷にクロットが形成されます。したがって、本願発明は、ヒドロゲル乾燥粒子を用いる引用文献5に記載の発明とこの点において相違します。」と主張する。
本願明細書【0014】には、「本発明の実施において有用な具体的な材料の例は、多糖類、セルロース誘導体、ポリマー(天然及び合成)、…に由来する多孔性材料を含んで成る。…多糖類が好ましいのは、それらの入手が容易で安価であるためである。多孔性粒子の多糖類は、デンプン、セルロース及び/又はペクチンとして提供され、…いずれにせよ、全ての有用な材料が、血液及び低分子量の血液成分を表面上に吸着せしめ、そして/あるいは粒子の表面へと吸収せしめるのに十分なほど多孔性でなければならない。」と記載されている。すなわち、本願発明にかかる「自由流動性多孔性粒子」は多糖類から得られるものを含む。刊行物発明の「ヒドロゲル粉末」が巨視的孔構造を有するものとしても、「血液に湿潤した粉末は傷口に残つて止血を維持する」(上記4(7))ものであるから、その表面において血液を吸収あるいは吸着しているものと認められる。さらに、刊行物発明の「その他の使用目的」として、「分子篩(モレキユラーシーブ)剤の用途がある」(上記4(6))との記載に鑑みると、刊行物発明の多孔性は巨視的孔構造にのみとらわれることはできず、本願発明と同様の多孔性を有するものと認められる。このため、請求人の上記主張を勘案することができない。

9 むすび
以上のことから、本願発明1は、刊行物発明と相違する点が存在せず、刊行物5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。このため、本願については、他の請求項について検討するまでもなく上記理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-23 
結審通知日 2016-03-29 
審決日 2016-04-11 
出願番号 特願2012-20872(P2012-20872)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 裕美子  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 大熊 幸治
関 美祝
発明の名称 局所適用される凝血材料  
代理人 中村 和美  
代理人 石田 敬  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 福本 積  
代理人 武居 良太郎  

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