ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16C |
---|---|
管理番号 | 1318688 |
審判番号 | 不服2016-2420 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-02-17 |
確定日 | 2016-09-13 |
事件の表示 | 特願2012-529563「転がり軸受及び工作機械用主軸装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月23日国際公開、WO2012/023437、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2011年8月3日(優先権主張2010年8月18日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年5月27日付けで拒絶理由が通知され、平成27年7月30日付けで手続補正されたが、平成27年12月7日付け(発送日:平成27年12月15日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して、平成28年2月17日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成27年7月30日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する複数のポケットを有する保持器と、を備える転がり軸受であって、 前記保持器は、軸方向に並んで配置された第1円環部および第2円環部と、前記第1円環部と前記第2円環部とを繋ぐように周方向に所定の間隔で配置される複数の柱部と、を有し、 前記第1円環部および前記第2円環部は、それぞれの外周面上に周方向に離間して形成された複数の凸状突起部を有し、 前記第2円環部の凸状突起部は、前記第1円環部の凸状突起部とは周方向の異なる位置に形成され、 前記凸状突起部は、前記柱部の外周面よりも大径で円周方向に沿った凸状突起部外周面をそれぞれ有し、 前記外輪の内周面に形成された保持器案内面によって、前記凸状突起部外周面が案内されることを特徴とする転がり軸受。」 第3 原査定の理由の概要 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物1(特開2005-061483号公報) 刊行物2(特開平11-022737号公報) ・備考 刊行物1には、ころ軸受用合成樹脂製保持器及びころ軸受に関し、以下の事項が記載されている。 ・運転時の発熱を最小にする為、工作機械用のころ軸受は、グリースや潤滑油等の潤滑剤を必要最小限に抑える事により、潤滑剤の撹拌抵抗と、この撹拌抵抗に基づく発熱とを抑えている点(段落0006) ・潤滑剤の枯渇が、様々な不具合を招く点(段落0011) ・リム部11d,11dの被案内面のうちで各柱部12a,12aと整合する部分に、中心軸に直交する仮想平面に関する断面を円弧形とした凸部14,14を設ける点(段落0043,図8) ・各凸部14、14の外接円又は内接円の真円度は、金型の調整等の容易な作業で確保できる点(段落0028) 本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、 ・本願発明は、第2円環部の凸状突起部は、第1円環部の凸状突起部とは周方向の異なる位置に形成される構成を備えるのに対し、刊行物1に記載された発明は、当該構成を備えていない点で相違し(相違点1)、 ・本願発明は、凸状突起部は、円周方向に沿った凸状突起部外周面をそれぞれ有する構成を備えるのに対し、刊行物1に記載された発明は、当該構成を備えていない点で相違する(相違点2)。 上記相違点1について検討するに、刊行物2には、ころ軸受用保持器に関し、左右の環状体23,23に広幅部23Aと狭幅部23Bとを交互に形成することにより潤滑油を流通させる外側油路31を形成して、潤滑油の流動性を高める点(段落0040-0043)、一方の環状体の広幅部及び狭幅部を他方の環状体とずらして形成する点(図1-6)、が記載されており、刊行物2に記載のものは、ころ軸受用保持器に関する点で刊行物1に記載された発明と技術分野が共通し、潤滑性の確保する点で、刊行物1に記載された発明と課題が共通する。 上記相違点2について検討するに、凸条突起部の外周面をどのような形状とするか(円周方向に沿ったものとするか否か)は、当業者が必要に応じて適宜決定し得た設計的事項である。 よって、当該本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 当審の判断 1 刊行物1及び引用発明 刊行物1には、「円筒ころ軸受」に関して、図面(特に図1ないし図3参照)とともに、以下の事項が記載されている。 (1)「【0003】 この鍔付きの円筒ころ軸受3は、上記外輪1と上記内輪2と複数の円筒ころ4、4とを備える。このうちの外輪1は、内周面の中間部に円筒状の外輪軌道5を、同じく両端部に上記1対の内向鍔部6a、6bを、それぞれ設けている。又、上記内輪2は、外周面の中間部に円筒状の内輪軌道7を、同じく一端部に上記外向鍔部8を、それぞれ設けている。又、上記複数の円筒ころ4、4は、銅合金等の自己潤滑性を有する金属により造られた、円環状の保持器9により、転動自在に保持された状態で、上記外輪軌道5と上記内輪軌道7との間に設けている。 【0004】 この状態で、上記各円筒ころ4、4の転動面がこれら外輪軌道5及び内輪軌道7に転がり接触する。これに対して、上記各円筒ころ4、4の軸方向両端面の外径寄り部分は、上記各内向鍔部6a、6bの内側面と、上記外向鍔部8の内側面とに、近接対向若しくは滑り接触する。又、この状態で、上記保持器9の両端部外周面を、上記外輪1の両端部に設けた上記各内向鍔部6a、6bの内周面に近接対向させる事により、この保持器9の径方向位置をこの外輪1により規制する、外輪案内としている。」 (2)「【0017】 図1?3は、請求項1、2、4、6、7、8、9に対応する、本発明の実施例1を示している。本例の合成樹脂製保持器10は、図3に示す様に、鍔付の円筒ころ軸受3aに組み込んだ状態で、この円筒ころ軸受3aを構成する各円筒ころ4、4を転動自在に保持する。尚、この円筒ころ軸受3aの基本構成は、上記合成樹脂製保持器10の構造を除き、前述の図12?13に示した鍔付の円筒ころ軸受3と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。」 (3)「【0019】 この様な合成樹脂により造られた本例の合成樹脂製保持器10は、軸方向に互いに間隔をあけて配置した1対のリム部11、11と、円周方向に亙って間欠的に配置され、それぞれの両端部を上記各リム部11、11の互いに対向する内側面に連続させた複数本の柱部12、12とを備える。そして、円周方向に隣り合うこれら各柱部12、12の円周方向両側面と上記各リム部11、11の互いに対向する内側面とにより四周を囲まれる矩形の空間部分を、上記各円筒ころ4、4を転動自在に保持する為のポケット13、13としている。又、これと共に、上記合成樹脂製保持器10の外周面のうち軸方向両端部外周面、即ち、上記各リム部11、11の外周面を、上記円筒ころ軸受3aを構成する内向鍔部6a、6bの内周面(案内面)に近接対向させる事により、上記合成樹脂製保持器10の直径方向位置決めを行なう被案内面としている。 【0020】 更に、本例の合成樹脂製保持器10の場合、上記各リム部11、11の外周面(被案内面)に、この外周面から突出する状態で、軸方向に直交する仮想平面に関する断面を円弧形とした、凸部14、14を設けている。本例の場合、これら各凸部14、14同士の間部分、即ち、これら各凸部14、14同士の間に存在する円筒面部分を、上記被案内面に設けたこの被案内面の他の部分よりも径方向に凹んだ、特許請求の範囲に記載した凹部としている。そして、上記円筒ころ軸受3aに上記合成樹脂製保持器10を組み込んだ状態で、上記各凸部14、14の頂部は、上記内向鍔部6a、6bの内周面に近接する。これら各凸部14、14は、上記各リム部11、11にそれぞれ3乃至上記各ポケット13、13と同数ずつ、軸方向に関して互いに整合する状態で設ける事が好ましい。」 上記記載事項(1)ないし(3)並びに図示内容を総合し、本願発明に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 [引用発明] 「外周面に内輪軌道7を有する内輪2と、内周面に外輪軌道5を有する外輪1と、前記内輪軌道7と前記外輪軌道5との間に転動自在に設けられた複数の円筒ころ4と、前記複数の円筒ころ4を保持する複数のポケット13を有する合成樹脂製保持器10と、を備える円筒ころ軸受3aであって、 前記合成樹脂製保持器10は、軸方向に間隔を開けて配置された一対のリム部11、11と、前記一対のリム部11、11に連続するように円周方向に亙って間欠的に配置される複数の柱部12、12と、を有し、 前記一対のリム部11、11は、それぞれの外周面上に円筒面部分を介して形成された複数の凸部14、14を有し、 前記一対のリム部11、11の凸部14、14は、軸方向に関して互いに整合する状態で設けられ、 前記凸部14、14は、前記柱部12、12の外周面よりも大径で断面を円弧形とした頂部をそれぞれ有し、 前記外輪1の内向鍔部6a、6bの内周面に形成された案内面によって、前記凸部14、14の頂部が案内される円筒ころ軸受3a。」 2 刊行物2 刊行物2には、「ころ軸受用保持器」に関して、図面(特に図4ないし図6参照)とともに、以下の事項が記載されている。 (1)「【0051】また、周方向に位置した各支柱44の外周側には、一のテーパ面46と他のテーパ面47が交互に形成されているから、各支柱44の左右方向一側では、一方の支柱44の大径部分と他方の支柱44の小径部分とが左側の環状体43に対して交互に連結されている。また、各支柱44の左右方向他側では、一方の支柱44の小径部分と他方の支柱44の大径部分とが右側の環状体43に対して交互に連結されている。このため、左右の環状体43には、広幅部43Aと狭幅部43Bとが交互に配置される。」 (2)「【0055】ここで、環状体43の側面には、テーパ面46,47によって、広幅部43Aと狭幅部43Bとが交互に繰り返して形成されている。これにより、外側油路51の連通路面積は、従来の外側油路10の面積に比較し、環状体43に広幅部43Aと狭幅部43Bとを交互に形成している分だけ大きくなる。このように外側油路51の通路面積により、ころ軸受41内に流れる込む潤滑油の油量を増大させることができる。」 3 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「内輪軌道7」は、その技術的意義及び機能からみて、本願発明の「内輪軌道」に相当し、以下同様に、「内輪2」は「内輪」に、「外輪軌道5」は「外輪軌道」に、「外輪1」は「外輪」に、「円筒ころ4」は「転動体」に、「ポケット13」は「ポケット」に、「合成樹脂製保持器10」は「保持器」に、「円筒ころ軸受3a」は「転がり軸受」に、「軸方向に間隔を開けて」は「軸方向に並んで」に、「一対のリム部11、11」は「第1円環部および第2円環部」に、「連続するように」は「繋ぐように」に、「円周方向に亙って間欠的に」は「周方向に所定の間隔で」に、「柱部12、12」は「柱部」に、「外周面上に円筒面部分を介して形成された」は「外周面上に周方向に離間して形成された」に、「凸部14、14」は「凸状突起部」に、「外輪1の内向鍔部6a、6bの内周面」は「外輪の内周面」に、「案内面」は「保持器案内面」に、それぞれ相当する。 そして、引用発明の「断面を円弧形とした頂部」と本願発明の「円周方向に沿った凸状突起部外周面」は、「凸状突起部外周面」という限りで共通する。 したがって、本願発明と引用発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する [一致点] 「外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する複数のポケットを有する保持器と、を備える転がり軸受であって、 前記保持器は、軸方向に並んで配置された第1円環部および第2円環部と、前記第1円環部と前記第2円環部とを繋ぐように周方向に所定の間隔で配置される複数の柱部と、を有し、 前記第1円環部および前記第2円環部は、それぞれの外周面上に周方向に離間して形成された複数の凸状突起部を有し、 前記凸状突起部は、前記柱部の外周面よりも大径の凸状突起部外周面をそれぞれ有し、 前記外輪の内周面に形成された保持器案内面によって、前記凸状突起部外周面が案内される転がり軸受。」 [相違点] 本願発明は、「前記第2円環部の凸状突起部は、前記第1円環部の凸状突起部とは周方向の異なる位置に形成され」ており、「凸状突起部」は「円周方向に沿った凸状突起部外周面」を有するのに対し、引用発明は、「前記一対のリム部11、11の凸部14、14は、軸方向に関して互いに整合する状態で設けられ」ており、「凸部14、14」は「断面を円弧形とした頂部」を有する点。 4 判断 上記相違点について検討する。 刊行物1には、リム部11、11の凸部14、14を、周方向の異なる位置に形成することを示唆する記載はなく、むしろ、「これら各凸部14、14は、上記各リム部11、11にそれぞれ3乃至上記各ポケット13、13と同数ずつ、軸方向に関して互いに整合する状態で設ける事が好ましい。」(段落【0020】)と記載されているように、積極的に整合させるものであり、また、保持器の軸方向両端の被案内部分を、周方向の異なる位置に形成することが設計的事項であるとも認められないから、引用発明を起点として上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。 また、刊行物2には、ころ軸受用保持器において「環状体43の側面に、支柱44のテーパ面46,47によって、環状体43の側面に広幅部43Aと狭幅部43Bとを交互に設けること」が記載されているものの、この「テーパ面46,47」は、周方向に対して傾いた面であるうえに、支柱44の面であって本願発明の「柱部の外周面よりも大径」のような構成ではない。そうであれば、刊行物2の「テーパ面46,47」は、本願発明の「凸状突起部外周面」や引用発明の「凸部14の頂部」と、技術的に異なる面であるから、引用発明に刊行物2に記載された「テーパ面46,47」に関する事項を適用しても、上記相違点に係る本願発明の構成とならない。 したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものでないから、特許法第29条第2項の規定に適合しない。 また、本願の請求項2ないし4に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるから、同様に引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-08-29 |
出願番号 | 特願2012-529563(P2012-529563) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F16C)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 瀬川 裕 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
内田 博之 中川 隆司 |
発明の名称 | 転がり軸受及び工作機械用主軸装置 |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |