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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B63B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B63B
管理番号 1318707
審判番号 不服2015-10761  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-08 
確定日 2016-08-25 
事件の表示 特願2010-201042号「液化ガス運搬船」拒絶査定不服審判事件〔平成24年3月22日出願公開、特開2012- 56429号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年9月8日の出願であって、平成26年8月18日付けで拒絶理由が通知され、同年10月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年3月6日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年6月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされ、 その後、当審において平成28年3月23日付けで平成27年6月8日付けの手続補正を却下するとともに最後の拒絶理由を通知したところ、平成28年5月30日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.平成28年5月30日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年5月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正により、明細書の段落【0025】は、
「また、図2に示すように、これら偏平球状タンク2はそれぞれ、その上端部が偏平球状タンク2の赤道部に固定され、その下端部がファンデーションデッキ4上に固定された円筒形のスカート3を介して船体5に支持されている。すなわち、これら偏平球状タンク2の重量は、スカート3を通して船体5で受けられるようになっている。」
とあったものを
「また、図2に示すように、これら偏平球状タンク2はそれぞれ、その上端部が偏平球状タンク2の円筒部に固定され、その下端部がファンデーションデッキ4上に固定された円筒形のスカート3を介して船体5に支持されている。すなわち、これら偏平球状タンク2の重量は、スカート3を通して船体5で受けられるようになっている。」
と補正されたとともに、
特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
内部に液化されたガスを貯蔵するとともに、船首尾方向に沿って配置され、かつ、スカートを介して船体に固定された複数個の偏平球状タンクと、
これら偏平球状タンクの上半部を覆うとともに、船首尾方向および船幅方向に沿って延びる一つの連続したタンクカバーと、
前記船体の船底に設けられた複数のバラストタンクとを備え、
前記タンクカバーが、前記船体に対して剛に結合され、前記船体と一体となって縦強度を確保する構造を有している液化ガス運搬船であって、
前記偏平球状タンクは、赤道部より上方に、円筒部と、この円筒部の上方に連設されて、上に凸の鏡板構造の頂部とを備え、赤道部より下方に、前記円筒部の下方に連設されて、下に凸の鏡板構造の底部とを備えているとともに、鉛直方向の直径が赤道の直径よりも短い偏平球状とされており、
前記複数のバラストタンクの上部は、前記偏平球状タンクの周方向に沿って配置されるとともに前記スカートの一部として前記偏平球状タンクを支持することを特徴とする液化ガス運搬船。」
とあったものを
「【請求項1】
内部に液化されたガスを貯蔵するとともに、船首尾方向に沿って配置され、かつ、スカートを介して船体に固定された複数個の偏平球状タンクと、
これら偏平球状タンクの上半部を覆うとともに、船首尾方向および船幅方向に沿って延びる一つの連続したタンクカバーと、
前記船体の船底に設けられた複数のバラストタンクとを備え、
前記タンクカバーが、前記船体に対して剛に結合され、前記船体と一体となって縦強度を確保する構造を有している液化ガス運搬船であって、
前記偏平球状タンクは、赤道部より上方に、円筒部と、この円筒部の上方に連設されて、上に凸の鏡板構造の頂部とを備え、赤道部より下方に、前記円筒部の下方に連設されて、下に凸の鏡板構造の底部とを備えているとともに、鉛直方向の直径が赤道の直径よりも短い偏平球状とされており、
前記複数のバラストタンクの上部は、前記偏平球状タンクの周方向に沿って配置されるとともに前記スカートの一部として用いられ、該スカートが前記偏平球状タンクを支持し、
前記スカートは、前記鉛直方向の上端部から下端部近傍までの範囲で前記偏平球状タンクが備える前記円筒部に接触していることを特徴とする液化ガス運搬船。」
と補正された。(下線は補正箇所を示すために審判請求人が付したものである。)

本件補正は、
ア.補正前の明細書の段落【0025】の「赤道部」を「円筒部」と補正するとともに、
イ.補正前の請求項1に記載された発明の「スカート」に関して、「前記鉛直方向の上端部から下端部近傍までの範囲で前記偏平球状タンクが備える前記円筒部に接触している」との事項の追加
を含むものである。

2.補正の根拠
請求人は、平成28年5月30日に提出された意見書において、
上記ア.の補正に関し、「誤記の訂正を目的としたものであり、段落0025の誤記を偏平球状タンク2の円筒部31にスカート3の上端部が固定されていることを示す図2,5に沿って訂正したものです。」と主張し、
上記イ.の補正に関し、「誤記を訂正した段落0025の『また、図2に示すように、これら偏平球状タンク2はそれぞれ、その上端部が偏平球状タンク2の円筒部に固定され、その下端部がファンデーションデッキ4上に固定された円筒形のスカート3を介して船体5に支持されている。すなわち、これら偏平球状タンク2の重量は、スカート3を通して船体5で受けられるようになっている。』との記載、および図2,図5等を根拠としています。図2,5に示すように、スカート3は、鉛直方向の上端部から下端部近傍までの範囲で偏平球状タンク2が備える円筒部31に接触しています。」と主張している。

3.新規事項(特許法第17条の2第3項)の判断
(1)上記ア.の補正について
本件の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)のうち、当初明細書の段落【0025】には、スカートが偏平状タンクのどの部分に接触して固定されるかに関し、該スカートの「上端部が偏平球状タンク2の赤道部に固定される」ことが記載されている。
本件は、当初明細書の段落【0005】に記載されている「船体全体の受圧面積を減少させ、風圧抵抗を減少させることができて、船舶の重心位置を低くして、船体の安定性を向上させることができる液化ガス運搬船を提供する」との課題に対し、偏平球状タンクを採用することを主な構成としており、スカートが偏平状タンクのどの部分に接触して固定されるかに関しては、当初明細書全体をとおしてみても、上記段落【0025】の記載しか見当たらない。
そして、スカートの「上端部が偏平球状タンク2の赤道部に固定される」構造で、偏平球状タンク2を支持することは、例えば、後記原査定の拒絶理由で引用文献2として引用された特開平3-128791号公報の3ページ左下欄15行?20行に記載され、第3図に示されるように技術的に可能なことであるから、当初明細書の段落【0025】の記載が誤記といえるものではないし、誤った技術常識に基づいて記載されたともいえない。
また、請求人は図2,図5を根拠としているが、図2では、スカートを示す符号3の引出線は、ファンデーションデッキ4の少し上のあたりを指していて、スカートがバラストタンク10の上部から延びる長さの程度は不明であるが、図5において赤道部はH2とH3の境界であるところ(当初明細書の段落【0020】を参照。)、図2及び図5の図示内容を照らし合わせてみても、該スカートの「上端部が偏平球状タンク2の赤道部に固定される」ことが誤りであるという根拠は見出せない。
そうすると、上記ア.の補正は誤記の訂正とは認められず、新たな技術的事項を導入するものであり、当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものではない。

(2)上記イ.の補正について
上記ア.の補正を根拠とする上記イ.の補正も同様に、当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものではない。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成26年10月27日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前述した次のとおりのものである。
「【請求項1】
内部に液化されたガスを貯蔵するとともに、船首尾方向に沿って配置され、かつ、スカートを介して船体に固定された複数個の偏平球状タンクと、
これら偏平球状タンクの上半部を覆うとともに、船首尾方向および船幅方向に沿って延びる一つの連続したタンクカバーと、
前記船体の船底に設けられた複数のバラストタンクとを備え、
前記タンクカバーが、前記船体に対して剛に結合され、前記船体と一体となって縦強度を確保する構造を有している液化ガス運搬船であって、
前記偏平球状タンクは、赤道部より上方に、円筒部と、この円筒部の上方に連設されて、上に凸の鏡板構造の頂部とを備え、赤道部より下方に、前記円筒部の下方に連設されて、下に凸の鏡板構造の底部とを備えているとともに、鉛直方向の直径が赤道の直径よりも短い偏平球状とされており、
前記複数のバラストタンクの上部は、前記偏平球状タンクの周方向に沿って配置されるとともに前記スカートの一部として前記偏平球状タンクを支持することを特徴とする液化ガス運搬船。」

2.引用文献の記載事項及び引用発明
(1)原査定の拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-76743号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「液化ガス運搬船」に関して、次の事項が図面とともに記載されている。(下線は、当審で付与。以下同様。)

ア.「【請求項1】
内部に液化ガスを貯蔵するとともに、船首尾方向に沿って配置され、かつ、スカートを介して船体に固定された複数個の球形タンクと、
これら球形タンクの上半部を覆うとともに、船首尾方向および船幅方向に沿って延びる一つの、または複数個のタンクカバーとを備えた液化ガス運搬船であって、
前記タンクカバーの側面と船側外板との間に位置する上甲板の上方に、荷役作業を行うために着岸したターミナルに設置されているギャングウェイラダーが架け渡されるウォークウェイが設けられていることを特徴とする液化ガス運搬船。」

イ.「【0001】
本発明は、液化ガス運搬船に関し、特に、モス方式球形タンク内に低温にて液化された天然ガス(LNG)を貯蔵して運搬するLNG船に関するものである。」

ウ.「【0017】
図1(a)、図1(b)、および図3(a)に示すように、本実施形態に係る液化ガス運搬船(本実施形態では「LNG船」)1は、例えば、四個のアルミニウム製の球形タンク(「モス方式球形タンク」ともいう。)2を備えた船舶であり、これらアルミニウム製の球形タンク2はそれぞれ、その内部に、液化ガス(本実施形態では低温にて液化された天然ガス)を貯蔵することができるように構成されたものである。
また、図2に示すように、これら球形タンク2はそれぞれ、その上端部が球形タンク2の赤道部に固定され、その下端部がファンデーションデッキ4上に固定された円筒形のスカート3を介して船体5に支持されている。すなわち、これら球形タンク2の重量は、スカート3を通して船体5で受けられるようになっている。
【0018】
さらに、図1(a)、図1(b)、および図2に示すように、これら球形タンク2の上半部は、その下端部が上甲板6上に固定されるとともに、船首尾方向および船幅方向に沿って延びる一つの連続したタンクカバー7により覆われている。また、タンクカバー7と上甲板6との間に、伸縮継手は一切設けられておらず、タンクカバー7は剛体構造になっている。すなわち、タンクカバー7は、船体5とともに、船級協会のルール等で要求される船舶の縦強度(船首尾方向(縦方向)に対し、自重、積載される貨物、波の力により生じる曲げの力およびせん断力に対する強度)を確保する構造となっている。
なお、図2中の符号8,9はそれぞれ、縦通隔壁、船側外板を示している。
【0019】
図1(a)から図4に示すように、船体5の船底部には、船首尾方向および船幅方向に沿って、複数個(本実施形態では17個)のバラストタンク10が設けられている。
これらバラストタンク10のうち、船首に最も近い位置に配置されたバラストタンク10以外のバラストタンク10はそれぞれ、球形タンク2の周方向に沿うとともに、球形タンク2の底部上方を取り囲むように配置された上部と、船体5の船側外板9および船底(船底外板)11に沿って、船首尾方向に配置された下部とを備えている。」

エ.「【0036】
さらにまた、図4に示すように、バラストタンク10の上部が、球形タンク2の周方向に沿うとともに、球形タンク2の底部上方を取り囲むように配置されているので、これらバラストタンク10の上部を、球形タンク2を支持するスカート3の一部として流用することができ、スカート3を構成する材料の総量を低減させることができて、建造コストの低減化を図ることができる。」

これら記載事項、及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「内部に液化ガスを貯蔵するとともに、船首尾方向に沿って配置され、かつ、スカート3を介して船体5に固定された複数個の球形タンク2と、
これら球形タンク2の上半部を覆うとともに、船首尾方向および船幅方向に沿って延びる一つの連続したタンクカバー7と、
前記船体5の船底11に設けられた複数個のバラストタンク10とを備え、
前記タンクカバー7が、該タンクカバー7と上甲板6との間に伸縮継手は一切設けられておらず、剛体構造になっており、船体5とともに船舶の縦強度を確保する構造を有している液化ガス運搬船1であって、
前記複数個のバラストタンク10の上部は、前記球形タンク2の周方向に沿って配置されるとともに前記スカート3の一部として流用され、前記スカート3が前記球形タンク2を支持する液化ガス運搬船1。」

(2)原査定の拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平3-128791号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「スカートで支持された舶用LNGタンク」に関して、次の事項が図面とともに記載されている。

カ.特許請求の範囲
「外周面に防熱材を施され、竪円筒形のスカートを介して船体に支持されるとともに、赤道部の上方が円筒部と同円筒部の上方に連設されて上に凸の鏡板構造の頂部とから形成される一方、上記赤道部より下方が若干偏平な半球殻構造で形成された偏平球状のLNGタンクにおいて、上記赤道部より下方が、ほぼ南緯30°までの範囲で上記赤道部水平断面の半径と同じ半径の球体の一部により形成され、それよりも下側は横長の回転隋円体あるいは疑似隋円体の一部で縦横比がほぼ1.5の部分から形成されていることを特徴とする、スカートで支持された舶用LNGタンク。」

キ.1ページ左下欄18行?20行
「〔産業上の利用分野〕
本発明は、LNG運搬船に搭載される舶用LNGタンクに関する。」

ク.2ページ左上欄9行?17行
「〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、このような従来のLNGタンクの問題点を解決しようとするもので、球形タンクの欠点を改善して、すなわち容積効率をより大きくするとともに船体を小型化し、さらにタンクの甲板上の突出を減少させて船橋見通しの改善および風圧抵抗の減少ならびに、重心位置の低下および船体構造との不干渉をはかったスカートで支持された舶用LNGタンクを提供することを目的とする。」

ケ.2ページ左下欄14行?18行
「まず第1実施例において、符号1は竪円筒形のスカート2を介して船体3に支持されたLNGタンクを示しており、LNGタンク1は鉛直方向の直径が赤道の直径よりも若干短い偏平球状に形成されている。」

コ.2ページ右下欄4行?13行
「LNGタンク1の形状をさらに詳述する。
LNGタンク1の赤道部の上方には、半径R、高さH2の円筒部5とこの円筒部5の上方に連設されて高さH1の上に凸の鏡板構造の頂部4とが設けられている。
一方赤道部の下方(南半球)6が、ほぼ南緯30°までの範囲で赤道部水平断面の半径Rと同じ半径の球体の一部により形成された球状部分7と、球状部分7の下方に連設された回転隋円体部分8とから構成されている。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
・後者の「スカート3」及び「船体5」は前者の「スカート」及び「船体」に、それぞれ相当し、後者の「球形タンク2」と前者の「偏平球状タンク」とは、「タンク」という限りで共通する。

・後者の「タンクカバー7」、「船底11」、「複数個」、及び「バラストタンク10」は前者の「タンクカバー」、「船底」、「複数」、及び「バラストタンク」に、それぞれ相当する。
また、後者の「前記タンクカバー7が、該タンクカバー7と上甲板6との間に伸縮継手は一切設けられておらず、剛体構造になっており」は、タンクカバー7と船体5が剛に結合されことを意味するものであるから、前者の「前記タンクカバーが、前記船体に対して剛に結合され」に相当し、後者の「船体5とともに船舶の縦強度を確保する」は前者の「船体5とともに船舶の縦強度を確保する」に相当し、後者の「液化ガス運搬船1」は前者の「液化ガス運搬船」に相当する。

・前者の「前記複数のバラストタンクの上部は、前記偏平球状タンクの周方向に沿って配置されるとともに前記スカートの一部として前記偏平球状タンクを支持する」は、本願明細書の段落【0035】の記載内容から、前記複数個のバラストタンクの上部は、前記偏平球状タンクの周方向に沿って配置されるとともに前記スカートの一部として流用され、前記スカートが前記偏平球状タンクを支持することを意味する(平成28年5月30日に提出された意見書(「1.補正について」)において、請求人も段落【0035】を根拠に同様の解釈をしている。)と解されるから、後者の「前記複数個のバラストタンク10の上部は、前記球形タンク2の周方向に沿って配置されるとともに前記スカート3の一部として流用され、前記スカート3が前記球形タンク2を支持する」とは、「前記複数のバラストタンクの上部は、前記タンクの周方向に沿って配置されるとともに前記スカートの一部として前記タンクを支持する」という限りで共通する。

そうすると、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「内部に液化されたガスを貯蔵するとともに、船首尾方向に沿って配置され、かつ、スカートを介して船体に固定された複数個のタンクと、
これらタンクの上半部を覆うとともに、船首尾方向および船幅方向に沿って延びる一つの連続したタンクカバーと、
前記船体の船底に設けられた複数のバラストタンクとを備え、
前記タンクカバーが、前記船体に対して剛に結合され、前記船体と一体となって縦強度を確保する構造を有している液化ガス運搬船であって、
前記複数のバラストタンクの上部は、前記タンクの周方向に沿って配置されるとともに前記スカートの一部として前記タンクを支持する液化ガス運搬船。」
そして、両者は次の点で相違する。

[相違点]
本願発明は、「タンク」が「偏平球状タンク」であり、「前記偏平球状タンクは、赤道部より上方に、円筒部と、この円筒部の上方に連設されて、上に凸の鏡板構造の頂部とを備え、赤道部より下方に、前記円筒部の下方に連設されて、下に凸の鏡板構造の底部とを備えているとともに、鉛直方向の直径が赤道の直径よりも短い偏平球状とされて」おり、前記複数のバラストタンクの上部は、前記「偏平球状タンク」の周方向に沿って配置されるとともに前記スカートの一部として前記「偏平球状タンク」を支持するのに対し、
引用発明は、「タンク」が「球形タンク2」であり、かかる偏平球状タンクの構造を有していない点。

4.当審の判断
(1)上記相違点について検討する。
引用文献2には、「LNG運搬船に搭載され、スカートを介して船体3に支持された偏平球状のLNGタンクであって、該偏平球状のLNGタンクには、赤道部の上方に円筒部5と、この円筒部5の上方に連設されて上に凸の鏡板構造の頂部4とが設けられ、赤道部より下方に球状部分7と該球状部分7の下方に連設された回転隋円体部分8が設けられているとともに、鉛直方向の直径が赤道の直径よりも若干短い偏平球状とされていること。」が記載されている。(以下、「引用文献2に記載されている事項」という。)
ここで、引用文献2の「LNG運搬船」、「船体3」、「偏平球状のLNGタンク」、「円筒部5」、「頂部4」、「赤道部より下方に球状部分7と該球状部分7の下方に連設された回転隋円体部分8が設けられている」は、本願発明の「液化ガス運搬船」、「船体」、「偏平球状タンク」、「円筒部」、「頂部」、「赤道部より下方に、前記円筒部の下方に連設されて、下に凸の鏡板構造の底部とを備えている」に、それぞれ相当する。
そして、航行性能を損なうことなく、タンクの液化ガスの容量を向上させることはLNG運搬船において、自明な課題であるから、引用発明に引用文献2に記載されている事項を適用して、引用発明の球形タンク2に代えて、引用文献2の偏平球状のLNGタンクを採用し、前記偏平球状のLNGタンクは、赤道部より上方に、円筒部と、この円筒部の上方に連設されて、上に凸の鏡板構造の頂部とを備え、赤道部より下方に、前記円筒部の下方に連設されて、下に凸の鏡板構造の底部とを備えているとともに、鉛直方向の直径が赤道の直径よりも短い偏平球状とし、前記複数のバラストタンクの上部は、前記偏平球状のLNGタンクの周方向に沿って配置されるとともに前記スカートの一部として前記偏平球状のLNGタンクを支持する構造とすることは当業者であれば適宜になし得ることである。
よって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)本願発明による効果も、引用発明及び引用文献2に記載されている事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び引用文献2に記載されている事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-24 
結審通知日 2016-06-28 
審決日 2016-07-12 
出願番号 特願2010-201042(P2010-201042)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B63B)
P 1 8・ 561- WZ (B63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須山 直紀  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 平田 信勝
島田 信一
発明の名称 液化ガス運搬船  
代理人 上田 邦生  
代理人 藤田 考晴  

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