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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04H
管理番号 1318716
審判番号 不服2015-17864  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-01 
確定日 2016-08-25 
事件の表示 特願2010-294623「建築物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月26日出願公開、特開2012-140803〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年12月31日の出願であって、平成26年11月4日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、平成27年1月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正がなされたものである。


第2 平成27年10月1日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成27年10月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。


[理由]

1 補正の内容

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を補正する内容を含んでおり、本件補正前と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。


本件補正前(平成27年1月13日付け手続補正書)

「【請求項1】
2階建て以上の建築物であって、1階を囲む外壁の1つである第1外壁に平行な構造壁線を当該第1外壁の内側に設定して、この構造壁線と前記第1外壁との間に、当該第1外壁に沿って玄関、玄関ホール、回り階段の折り返し部、トイレ、洗面脱衣室、浴室をこの順序で配列する一方、階段を下りたところに1階の唯一の通路を、前記トイレの出入口と前記洗面脱衣室の出入口とに面した状態で方形状に形成し、前記第1外壁の対向位置にある第2外壁と前記構造壁線との間に居室を形成し、さらにこの居室のうち前記通路に面する位置と前記玄関ホールに面する位置とにそれぞれ第1出入口および第2出入口を設けて、前記1階の唯一の通路の4面を、階段の上がり口ならびにトイレ、脱衣場、居室の出入口によって囲み、玄関ホールから前記1階の唯一の通路へのアクセスを、第2出入口、居室及び第1出入口を介してのみ可能としたことを特徴とする建築物。」


本件補正後(平成27年10月1日付け手続補正書)

「【請求項1】
2階建て以上の建築物であって、1階を囲む外壁の1つである第1外壁に平行な構造壁線を当該第1外壁の内側に設定して、この構造壁線と前記第1外壁との間に、当該第1外壁に沿って玄関、玄関ホール、回り階段の折り返し部、トイレ、洗面脱衣室、浴室をこの順序で配列する一方、階段を下りたところに1階の唯一の通路を、前記トイレの出入口と前記洗面脱衣室の出入口とに面した状態で方形状に形成し、前記第1外壁の対向位置にある第2外壁と前記構造壁線との間に居室を形成し、さらにこの居室のうち前記通路に面する位置と前記玄関ホールに面する位置とにそれぞれ第1出入口および第2出入口を設けて、前記1階の唯一の通路の4面を、階段の上がり口ならびにトイレ、脱衣場、居室の出入口によって半畳のほぼ正方形状に囲み、玄関ホールから前記1階の唯一の通路へのアクセスを、第2出入口、居室及び第1出入口を介してのみ可能としたことを特徴とする建築物。」(下線は、補正箇所を示す。)。


2 補正の目的及び新規事項の追加の有無

本件補正の請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「1階の唯一の」「方形状」の「通路の4面を」「囲」むことに関して、「半畳のほぼ正方形状に」囲むことに限定したものであって、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、本件補正は、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項の規定を満たしている。


3 独立特許要件について

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)刊行物1に記載された発明

原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である、特開2000-248764号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、狭小間口の敷地に立設するのに好適な住宅建物に関するものである。」

イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記従来の住宅建物のように、廊下、階段といった生活動線と、各室内空間とを分断してしまうと、間口が狭いので充分な室内空間を確保するのが困難となり、各室内の広がり感が無くなってしまう。そのため、外部からの訪問客を居間などに招き入れるような場合、窮屈に感じることとなる。そのため、このような狭小間口の住宅建物では、居間と食堂と厨房とを連続する空間に構成することが行われているが、この場合、居間に訪問客を招き入れると、食堂や厨房を見通されることとなってしまう。
【0005】また、上記従来の住宅建物のように、廊下、階段、各室内空間を分断する場合、室内に設ける間仕切壁などが増えるので、住宅建物がコスト高になってしまう。
【0006】本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、広がり感のある機能性の高い居住空間を確保することができるとともに、外部からの訪問客に対してはプライバシーを確保しつつ、快適にもてなすことができる狭小間口の敷地に好適な住宅建物を提供することを目的としている。」

ウ 「【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明の住宅建物は、狭小間口の敷地に立設するように間口が狭く奥行きが長く形成されてなる住宅建物であって、玄関ホールに隣接して居間が設けられ、この玄関ホールと居間とが連続する空間となされるとともに、上記居間と、この居間に隣接する室内との間が仕切戸で仕切られてなるものである。
【0008】また、上記住宅建物において、居間に隣接して土間が設けられ、この居間と土間とが連続する空間を形成するようになされたものである。」

エ 「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0010】図1は住宅建物1の間取りを示している。すなわち、この住宅建物1は、狭小間口21の敷地2に立設するように間口Wが狭く、奥行きDが長く形成されてなり、一階11の玄関ホール11aに隣接して居間11bが設けられ、この玄関ホール11aと居間11bとが連続する空間となされるとともに、居間11bと、この居間11bに隣接するダイニングキッチン11cとの間がスライディングスクリーン11dによって仕切られている。
【0011】一階11は、玄関ポーチ11eから玄関口11fを入って玄関ホール11aが設けられている。玄関ホール11aの間口方向に隣接して居間11bが設けられている。居間11bと玄関ホール11aとの間は、仕切りが無く連続する空間となされている。
【0012】居間11bに隣接する住宅建物1の正面には、居間11bと連続する空間を形成するように土間11gが設けられている。土間11gには、住宅建物1の正面に面して掃き出し窓11hが設けられている。この掃き出し窓11hは、敷地2の前庭22に面するようになされている。また、居間11bから住宅建物1の奥行きDに沿った裏方向には、ダイニングキッチン11c、寝室11iが設けられている。このうち、居間11bとダイニングキッチン11cとの間は、床面から天井面までの大開口を塞ぐスライド式のスライディングスクリーン11dによって仕切られており、ダイニングキッチン11cから寝室11iへは、ドア11jを介して出入りするようになされている。このダイニングキッチン11cから間口Wに沿って隣接した位置には、二階12へ上がる階段11kが設けられている。また、この階段11k下にはトイレ11mが設けられている。この階段11kから住宅建物1の奥行きDに沿った裏方向には、洗面所11n、浴室11o、寝室11iにつながるクローゼット11pが設けられている。寝室11iには掃き出し窓11qが設けられている。この掃き出し窓11qは、敷地2の裏庭23に面するようになされている。」

オ 「【0013】二階12は、階段11kを上がった正面に手洗い12aが設けられている。手洗い12aから住宅建物1の奥行きDに沿った裏方向には、トイレ12b、納戸12cが設けられている。納戸12cに面した住宅建物1の外側にはバルコニー12dが設けられている。また、納戸12cから間口Wに沿って隣接した位置には、和室12eが設けられている。この和室12eから住宅建物1の奥行きDに沿った正面方向には、洋室12fが設けられている。和室12eと洋室12fとの間には、それぞれ押入れ12gとクローゼット12hとが設けられている。洋室12fに面した住宅建物1の外側には、バルコニー12iが設けられている。洋室12fから間口12fに沿って隣接した位置には、吹き抜け12jが設けられ、一階11の玄関ホール11aからの縦方向の空間の広がりが得られるようになされている。
【0014】このようにして構成される住宅建物1によると、訪問客を居間11bに招き入れた場合であっても、スライディングスクリーン11dを閉めた状態にしておくことで、ダイニングキッチン11cや寝室11iなどを見通されることなくもてなすことができる。また、居間11bには、連続する空間で土間11gを設けているので、この居間11bと土間11gとの連続する広がり感のある空間で訪問客をもてなすことができる。また、居間11bと土間11gとによって、連続する広がり感のある空間が得られるので、居間11bとダイニングキッチン11cとの間のスライディングスクリーン11dを閉めても空間が閉鎖的にならない。特に、土間11gは、前庭22の感覚で観葉植物などを置いて半屋外的な雰囲気にすることができるので、この土間11gに設けた掃き出し窓11hを介して前庭22と融合した一層の解放感のある空間とすることができる。
【0015】また、訪問客などが無い普段の時には、スライディングスクリーン11dを開けた状態にしておくことで、一層の広がり感および解放感のある空間とすることができる。
【0016】さらに、この住宅建物1は、一階11の玄関ホール11a、居間11b、ダイニングキッチン11c、土間11hによって構成される空間が、スライディングスクリーン11dによって仕切られているだけで、余分な間仕切壁や廊下が無いので、効率的で安価な間取りを構成することができる。
【0017】なお、スライディングスクリーン11dは、光を通さない遮光性のものであっても良いし、光を通す採光性のある透明または半透明のものであっても良い。ただし、透明の場合、スライディングスクリーン11dを閉めても、このスライディングスクリーン11d越しに室内を見通されることとなるので、部分的に透明となされたものでなければならない。
【0018】また、住宅建物1は、本実施の形態では、二階建てとなされているが、一階建てであっても良いし、三階建て以上のものであっても良い。
【0019】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によると、玄関ホールに隣接して居間を設け、この玄関ホールと居間とを連続する空間となするとともに、上記居間と、この居間に隣接する室内との間を仕切戸で仕切っているので、訪問客を居間に招き入れた場合であっても、仕切戸を閉めた状態にしておくことで、室内を見通されることなくもてなすことができる。
【0020】また、玄関ホールと居間とを連続する空間とし、居間と、この居間に隣接する室内との間を仕切戸で仕切ることで、狭小間口の住宅建物であっても、室内に余分な間仕切壁や廊下を作ることなく、効率的で安価な間取りを構成することができる。
【0021】また、請求項2記載の本発明によると、居間に隣接して土間を設け、この居間と土間とを連続する空間としているので、この土間を庭の感覚で観葉植物などを置いて利用することができる。したがって、居間に隣接する室内との仕切戸を閉めた状態であっても、居間に居ながらにして半屋外的な広がり感のある雰囲気を楽しむことができる。」

カ 上記エを踏まえて図1(特に、図1(a))をみると、
(ア)1階を囲む外壁の1つである、玄関ホール11a、トイレ11m、洗面所11n、浴室11oと接している外壁に平行な構造壁線が当該外壁の内側に設定されていること、
(イ)上記構造壁線と上記外壁との間に、上記外壁に沿って、玄関口11f、玄関ホール11a、階段11kの折り返し部とトイレ11m、洗面所11n、浴室11oがこの順序で配列されており、階段11kの折り返し部とトイレ11mは略同じ位置に配列されていること、
(ウ)階段11kを下りたところに1階の唯一の通路が形成されており、当該通路がトイレ11mの出入口と洗面所11nの出入口とに面した状態で形成されていること、
(エ)上記外壁と対向位置にある外壁と上記構造壁線との間に居間11b、ダイニングキッチン11c、寝室11iが形成されていること、
(オ)ダイニングキッチン11cの上記通路に面する位置に出入口が設けられ、居間11bの玄関ホール11aに面する位置に出入口が設けられていること、
(カ)玄関ホール11aから上記通路へのアクセスが、居間11bの玄関ホール11aに面する位置に設けられた出入口、居間11b、ダイニングキッチン11c、ダイニングキッチン11cの上記通路に面する位置に設けられた出入口を介してのみ可能であること、
がみてとれる。

上記した摘記事項及び図示内容からみて、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物1発明」という。)。

「二階建ての住宅建物1であって、1階を囲む外壁の1つである、玄関ホール11a、トイレ11m、洗面所11n、浴室11oと接している外壁に平行な構造壁線が当該外壁の内側に設定され、上記構造壁線と上記外壁との間に、上記外壁に沿って、玄関口11f、玄関ホール11a、階段11kの折り返し部とトイレ11m、洗面所11n、浴室11oがこの順序で配列され、階段11kの折り返し部とトイレ11mは略同じ位置に配列され、階段11kを下りたところに1階の唯一の通路が形成され、当該通路がトイレ11mの出入口と洗面所11nの出入口とに面した状態で形成され、上記外壁と対向位置にある外壁と上記構造壁線との間に居間11b、ダイニングキッチン11c、寝室11iが形成され、ダイニングキッチン11cの上記通路に面する位置に出入口が設けられ、居間11bの玄関ホール11aに面する位置に出入口が設けられ、玄関ホール11aから上記通路へのアクセスが、居間11bの玄関ホール11aに面する位置に設けられた出入口、居間11b、ダイニングキッチン11c、ダイニングキッチン11cの上記通路に面する位置に設けられた出入口を介してのみ可能である住宅建物1。」

(2)刊行物2に記載された技術事項

原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である、特開2001-32543号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、1階をパブリックな第1居室空間とし、2階をプライベートな第2居室空間とし、1階中央にキッチンを配置した住宅に関する。
・・・
【0006】本発明の目的は、2階建て以上の建物の階段のレイアウトと寝室等の独立部屋との関係、主婦の仕事場となるキッチンの関係に着目し、リビングルームのようなパブリックな空間と、寝室、子供室等のようなプライベートな空間とを上下に分離した間取りであっても、玄関からの家族の出入りなどを主婦がキッチンで仕事をしている場合であっても、十分に気を配ることができ、また、1階部分の開放感をも十分持たせることのできる住宅を提供することにある。」

イ 「【0023】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0024】(第1実施形態例)これらの図において、1は平面ほぼ矩形の二階建の建物(住宅)であり、切り妻の屋根2を有する。この切り妻の屋根2には、実施例では、太陽電池パネル3が屋根全面に亘って組み込まれている。
【0025】また、この建物1は、下階と上階との間に複数の大型収納区画K1、K2を備えた収納階KFを備え、かつ、この収納階KFの階高Hが上下階の階高H1、H2よりも低く構成された構造となっており、また、1階1Fはパブリックな第1居室空間R1とされ、2階2Fはプライベートな第2居室空間R2とされている(図5参照)。
【0026】図2は1階1Fの平面図を示すもので、第1居室空間R1のほぼ中央位置には、第1共通空間であるリビングダイニング区画L1が配置され、このリビングダイニング区画L1は、北側(図2上側)に配置された階段10と、中央に配置されたキッチン11と、南側に配置された居間12とから構成されている。
【0027】また、このリビングダイニング区画L1の左右両側にはリビングルーム等の第2共通空間L2、L3がそれぞれ配置されている。
【0028】これら第2共通空間について詳細に説明すると、リビングダイニング区画L1の東側(図2右側)に位置する第2共通空間は、北側に玄関15を備え、南側にリビングルーム16を備えた玄関区画L2とされており、またもう一方の第2共通空間である居間水回り区画L3は、北側に洗面17、防水パン18、トイレ19等の水回りと南側に和室20を備えた構成となっている。
【0029】そして、階段10は、居間水回り区画L3の水回りに面して配置され、これにより、階段10を使って上階に進む場合には、玄関15からリビングルーム16、居間12、和室20(図示例では廊下21)を通って進むこととなる。
【0030】なお、リビングダイニング区画L1のキッチン11は、シンク11aと調理台11bとがほぼU字型にレイアウトされ、シンク11aの前面に居間12が設けられた構成となっている。
【0031】また、玄関区画L2の玄関15はポーチ15aを入って東側に面したドア15bから入るようになっており、玄関土間15cとリビングルーム16との間にはドア25が設けられている。
【0032】一方、居間水回り区画L3には和室20を囲むようにしてL字型をした廊下21が設けられ、さらにトイレ19は回り階段10の下に位置するようになっている。」

ウ 上記イを踏まえて図2をみると、
(ア)1階における構造壁線と外壁との間に、外壁に沿って、玄関15、階段10の折り返し部、トイレ19、洗面17が設けられた空間がこの順序で配列されていること、
(イ)階段10を下りたところに1階の通路が形成されており、階段10の1階部分の左右端を規定する2つの壁のうちトイレ19側の壁の延長線上にトイレ19の出入口を設けることにより、上記通路がトイレ19の出入口に面した状態に形成されていること、
がみてとれる。

上記した摘記事項及び図示内容からみて、刊行物2には、次の技術事項が記載されていると認められる(以下「刊行物2技術」という。)。

「二階建の建物において、
1階における構造壁線と外壁との間に、外壁に沿って、玄関15、階段10の折り返し部、トイレ19、洗面17が設けられた空間をこの順序で配列させ、階段10を下りたところに1階の通路が形成されており、階段10の1階部分の左右端を規定する2つの壁のうちトイレ19側の壁の延長線上にトイレ19の出入口を設けることにより、上記通路がトイレ19の出入口に面した状態に形成すること。」

(3)対比

本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。

ア 刊行物1発明の「住宅建物1」は、本願補正発明の「建築物」に相当し、以下同様に、「(玄関ホール11a、トイレ11m、洗面所11n、浴室11o、クローゼット11pと接している)外壁」は「第1外壁」に、「構造壁線」は「構造壁線」に、「玄関口11f」は「玄関」に、「玄関ホール11a」は「玄関ホール」に、「階段11kの折り返し部」は「回り階段の折り返し部」に、「トイレ11m」は「トイレ」に、「浴室11o」は「浴室」に、「通路」は「通路」に、「(玄関ホール11a、トイレ11m、洗面所11n、浴室11o、クローゼット11pと接している)外壁」「と対向位置にある外壁」は「第1外壁の対向位置にある第2外壁」に、「居間11b」及び「ダイニングキッチン11c」は「居室」に相当する。

イ 刊行物1発明の「洗面所11n」は、「浴室11o」と隣接しており、入浴の際に脱衣スペースとして利用されることは明らかであるから、本願補正発明の「洗面脱衣室」に相当するといえる。

ウ 刊行物1発明の「二階建ての住宅建物1」は、本願補正発明の「2階建て以上の建築物」に相当する。

エ 刊行物1発明の「一階を囲む外壁の1つである、玄関ホール11a、トイレ11m、洗面所11n、浴室11oと接している外壁に平行な構造壁線が当該外壁の内側に設定され」は、本願補正発明の「1階を囲む外壁の1つである第1外壁に平行な構造壁線を当該第1外壁の内側に設定して」に相当する。

オ 刊行物1発明の「上記構造壁線と上記外壁との間に、上記外壁に沿って、玄関口11f、玄関ホール11a、階段11kの折り返し部とトイレ11m、洗面所11n、浴室11oがこの順序で配列され、階段11kの折り返し部とトイレ11mは略同じ位置に配列され」と、本願補正発明の「この構造壁線と前記第1外壁との間に、当該第1外壁に沿って玄関、玄関ホール、回り階段の折り返し部、トイレ、洗面脱衣室、浴室をこの順序で配列する」は、「この構造壁線と前記第1外壁との間に、当該第1外壁に沿って玄関、玄関ホール、洗面脱衣室、浴室をこの順序で配列し、玄関ホールと洗面脱衣室の間に回り階段の折り返し部とトイレを配置する」で共通する。

カ 刊行物1発明の「階段11kを下りたところに1階の唯一の通路が形成され、当該通路がトイレ11mの出入口と洗面所11nの出入口とに面した状態で形成され」と、本願補正発明の「階段を下りたところに1階の唯一の通路を、前記トイレの出入口と前記洗面脱衣室の出入口とに面した状態で方形状に形成し」は、「階段を下りたところに1階の唯一の通路を、前記トイレの出入口と前記洗面脱衣室の出入口とに面した状態で形成し」で共通する。

キ 刊行物1発明の「上記外壁と対向位置にある外壁と上記構造壁線との間に居間11b、ダイニングキッチン11c、寝室11iが形成され」は、本願補正発明の「前記第1外壁の対向位置にある第2外壁と前記構造壁線との間に居室を形成し」に相当する。

ク 刊行物1発明の「ダイニングキッチン11cの上記通路に面する位置に出入口が設けられ」は、本願補正発明の「居室のうち前記通路に面する位置」「に」「第1出入口」「を設けて」に相当し、同様に、「居間11bの玄関ホール11aに面する位置に出入口が設けられ」は、「居室のうち」「前記玄関ホールに面する位置」「に」「第2出入口を設けて」に相当する。

ケ 刊行物1発明の「玄関ホール11aから上記通路へのアクセスが、居間11bの玄関ホール11aに面する位置に設けられた出入口、居間11b、ダイニングキッチン11c、ダイニングキッチン11cの上記通路に面する位置に設けられた出入口を介してのみ可能である」は、本願補正発明の「玄関ホールから前記1階の唯一の通路へのアクセスを、第2出入口、居室及び第1出入口を介してのみ可能とした」に相当する。

コ したがって、本願補正発明と刊行物1発明とは、

「2階建て以上の建築物であって、1階を囲む外壁の1つである第1外壁に平行な構造壁線を当該第1外壁の内側に設定して、この構造壁線と前記第1外壁との間に、当該第1外壁に沿って玄関、玄関ホール、洗面脱衣室、浴室をこの順序で配列し、玄関ホールと洗面脱衣室の間に回り階段の折り返し部とトイレを配置する一方、階段を下りたところに1階の唯一の通路を、前記トイレの出入口と前記洗面脱衣室の出入口とに面した状態で形成し、前記第1外壁の対向位置にある第2外壁と前記構造壁線との間に居室を形成し、さらにこの居室のうち前記通路に面する位置と前記玄関ホールに面する位置とにそれぞれ第1出入口および第2出入口を設けて、玄関ホールから前記1階の唯一の通路へのアクセスを、第2出入口、居室及び第1出入口を介してのみ可能とした建築物。」

の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]:「第1外壁」に沿った(玄関から浴室に至る方向における)「回り階段の折り返し部」と「トイレ」の配列に関して、
本願補正発明は、「回り階段の折り返し部、トイレ」の「順序で配列」されるのに対して、
刊行物1発明では、両者が略同じ位置に配列される点。

[相違点2]:「1階の唯一の通路」に関して、
本願補正発明が、「方形状に形成」され、その「4面を、階段の上がり口ならびにトイレ、脱衣場、居室の出入口によって半畳のほぼ正方形状に囲」まれているのに対して、
刊行物1発明では、そのような構成を有さない点。

(4)判断

「第1外壁」に沿った「回り階段の折り返し部」と「トイレ」の配列は、トイレの出入口に面する「1階の唯一の通路」の構成に影響するので、上記相違点1及び2をまとめて検討する。

ア 刊行物2技術
刊行物2には、上記(2)で認定したとおりの刊行物2技術が記載されている。

イ 周知技術
「階段の折り返し部の下の空間を収納空間として利用するために、トイレを階段の折り返し部下の空間ではなく上階側の階段下の空間に設け、階段の1階部分の左右端を規定する2つの壁のうちトイレ側の壁の延長線上にトイレの出入口を設けて階段を下りたところの通路をトイレの出入口に面した状態に形成すること」は、例えば原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である、「住まいのベスト間取り540集」,ニューハウス出版株式会社,1996年2月29日発行,第74、206、233頁(以下「刊行物3」という。)の、第74頁下欄の1階平面図及び2階平面図、第206頁上欄の1階平面図及び2階平面図、第233頁上欄の1階平面図及び2階平面図に開示されているように、本願出願時において周知技術である。

ウ 刊行物1発明、刊行物2技術に基づく検討

(ア)刊行物2技術は、トイレを階段の折り返し部より階段の上階側に設けることで、トイレの天井高を高くできるという効果を有することは当業者にとって自明である。

(イ)また、建築物の設計にあたり、尺モジュールを採用することは、ごく一般的に行われている。

(ウ)そして、刊行物1発明において、トイレの天井高が高いほどトイレの使用者に与える圧迫感がなくなって好ましいことは明らかであるから、刊行物1発明において、そのような観点で刊行物2技術を採用し、また、尺モジュールを採用して、階段11kの折り返し部、トイレ11mの順序でこれらを配列し、階段11kの1階部分の左右端を規定する2つの壁のうちトイレ11m側の壁の延長線上にトイレ11mの出入口を設けること、及び、それに伴い洗面所11nの出入口をダイニングキッチン11c側にずらすことで、半畳の方形状の通路の4面を、階段11kの上がり口ならびにトイレ11m、洗面所11n、ダイニングキッチン11cの出入口で囲むようにすること、すなわち、上記相違点1及び2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(エ)また、本願出願時において、階段の折り返し部の下の空間を収納空間として利用することは周知であるから(上記イを参照。)、刊行物2技術
において、トイレを階段の折り返し部より階段の上階側に設けることで階段の折り返し部の下の空間が収納空間として利用可能になることは、当業者にとって自明である。

(オ)そして、住宅建物において、デッドスペースをなくし、多くの収納空間を設けることは極めて一般的な課題に過ぎないから、刊行物1発明において、階段の折り返し部の下の空間を収納空間として利用可能にする観点で刊行物2技術を採用し、また、尺モジュールを採用して、階段11kの折り返し部、トイレ11mの順序でこれらを配列し、階段11kの1階部分の左右端を規定する2つの壁のうちトイレ11m側の壁の延長線上にトイレ11mの出入口を設けること、及び、それに伴い洗面所11nの出入口をダイニングキッチン11c側にずらすことで、半畳の方形状の通路の4面を、階段11kの上がり口ならびにトイレ11m、洗面所11n、ダイニングキッチン11cの出入口で囲むようにすること、すなわち、上記相違点1及び2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

エ 刊行物1発明、周知技術に基づく検討

(ア)「階段の折り返し部の下の空間を収納空間として利用するために、トイレを階段の折り返し部下の空間ではなく上階側の階段下の空間に設け、階段の1階部分の左右端を規定する2つの壁のうちトイレ側の壁の延長線上にトイレの出入口を設けて階段を下りたところの通路をトイレの出入口に面した状態に形成すること」は、周知技術である(上記イを参照。)。

(イ)そして、住宅建物において、デッドスペースをなくし、多くの収納空間を設けることは極めて一般的な課題に過ぎないため、明示的な記載がないとしても、刊行物1発明がそのような課題を内包していることは明らかである。

(ウ)また、建築物の設計にあたり、尺モジュールを採用することは、ごく一般的に行われている。

(エ)したがって、刊行物1発明において、デッドスペースをなくし、収納空間を確保すべく、上記周知技術を採用し、また、尺モジュールを採用して、トイレ11mを階段11kの折り返し部下の空間ではなく上階側の階段下の空間に設け、すなわち、階段11kの折り返し部、トイレ11mの順序でこれらを配列し、階段11kの1階部分の左右端を規定する2つの壁のうちトイレ11m側の壁の延長線上にトイレ11mの出入口を設けること、及び、それに伴い洗面所11nの出入口をダイニングキッチン11c側にずらすことで、半畳の方形状の通路の4面を、階段11kの上がり口ならびにトイレ11m、洗面所11n、ダイニングキッチン11cの出入口で囲むようにすること、すなわち、上記相違点1及び2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

オ 本願補正発明が奏する効果について

本願補正発明が奏する効果は、当業者が刊行物1発明及び刊行物2技術、又は、刊行物1発明及び上記周知技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

カ 請求人の主張について

(ア)請求人は、審判請求書において、以下の主張を行っている。

a 「引用文献1では居住空間の連続性を最大のテーマとして間取りが収斂している」(第5頁末行ないし第6頁1行)、「引用文献2の図2に、「トイレを階段10の折り返し部の真下ではなく、折り返し部から上階の間の階段の下に位置させて、階段10の上がり口の前の通路をトイレの出入口に面するようにした」構成が開示されているからといって、これを引用文献1の構成に適用してトイレの出入口を居住空間を狭める位置に変更することは、引用文献1の発明思想を没却することになり、そこには阻害要因が存していると言える」(第6頁17行ないし22行)

b 「引用文献1では既に回り階段の1階側階段部分の段数を多くとって、折り返し部の下にトイレに必要な天井高さを確保できており、同引用文献1のコンセプトである空間の連続性を犠牲にしてまでトイレの空間を広くする合理的理由はどこにもありません。」(第6頁10行ないし13行)

c 「回り階段の折り返し部の下に収納を確保するためにトイレの位置を回り階段側の上階側にずらすことが引用文献3に記載されているとしても、本発明と主引用文献1との差異点を埋める動機付けの根拠が引用文献2に無いために、引用文献3に求めることは、いわゆる「容易の容易」的な組み立て」である。(第7頁5行ないし8行)

d 「引用文献1も引用文献2も、むしろ逆に階段の昇降口のトコロの通路が方形に閉ざされないように、一辺を隣接フロアに連続するように開放するという技術的思想を開示していると見るべきであり、また、階段の上がり口に複数の出入口が面しないようにするというこれまでの当業界において常識的な配置を開示しているに過ぎないと見るべきです。そうとなれば、引用文献1に引用文献2を適用する合理性はさらに薄いと言わざるを得ません。」(第7頁19行ないし24行)

(イ)上記主張について検討する。

a 刊行物1に記載された発明は、「広がり感のある機能性の高い居住空間を確保することができるとともに、外部からの訪問客に対してはプライバシーを確保しつつ、快適にもてなすことができる狭小間口の敷地に好適な住宅建物を提供すること」という課題を解決するために(段落【0006】)、「玄関ホールに隣接して居間が設けられ、この玄関ホールと居間とが連続する空間となされるとともに、上記居間と、この居間に隣接する室内との間が仕切戸で仕切られてな」り(段落【0007】)、「居間に隣接して土間が設けられ、この居間と土間とが連続する空間を形成する」(段落【0008】)との構成を採用したものであるから、階段を下りたところの通路とトイレ出入口の配置に関し、刊行物1発明に刊行物2技術を適用するにあたり、阻害要因があるとは認められない。
そして、刊行物1発明に対して刊行物2技術を適用可能であることは、上記ウで検討したとおりである。
よって、上記(ア)aの主張は採用できない。

b 刊行物1に階段11kの1階側階段部分の段数を多くとることが記載されているとしても、刊行物1発明に刊行物2技術を採用することでトイレ11mの天井高をより高くできること、階段11kの折り返し部の下に収納空間を形成可能になることに相違ない。
そして、刊行物1発明に対して刊行物2技術を適用可能であることは、上記ウで検討したとおりである。
よって、上記(ア)bの主張は採用できない。

c 刊行物3は、あくまで刊行物2技術の意義を検討するための周知技術が記載された刊行物の例として挙げたものに過ぎず、刊行物2技術とともに刊行物1発明と組み合わせるために引用したものではない。
よって、上記(ア)cの主張は採用できない。

d 刊行物1、2の記載を参酌しても、階段の上がり口の前の通路が方形に閉ざされないように一辺を隣接フロアに連続するように開放するという技術思想を開示していると解すべき根拠は見あたらない。
なお、階段の上がり口の前の通路に複数の出入口が面する構成は、例えば特開平8-218651号公報(図1を参照。)、特開平11-270156号公報(図3を参照。)に開示されているように、当業者にとって周知であるから、そのような構成を採用しないことが当業界において常識的とまではいえない。
よって、上記(ア)dの主張は採用できない。

キ まとめ

以上のように、本願補正発明は、刊行物1発明及び刊行物2技術、又は、刊行物1発明及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。


4 補正却下の決定についてのむすび

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成27年1月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]の「1 補正の内容」における「本件補正前」に記載したとおりである。


2 刊行物に記載された事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び2の記載事項は、上記第2の3(1)及び(2)に記載したとおりである。


3 対比・判断

本願発明は、上記第2で検討した本願補正発明から、「1階の唯一の」「方形状」の「通路の4面を」「囲」むことに係る限定事項である、「半畳のほぼ正方形状に」囲む点を省いたものである。

そうすると、本願発明の特定事項をすべて含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2の3(4)に記載したとおり、刊行物1発明及び刊行物2技術又は刊行物1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、本件補正で限定された事項に係る判断を除き同様の理由により、当業者が刊行物1発明及び刊行物2技術又は刊行物1発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-20 
結審通知日 2016-06-21 
審決日 2016-07-08 
出願番号 特願2010-294623(P2010-294623)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04H)
P 1 8・ 575- Z (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渋谷 知子  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 住田 秀弘
谷垣 圭二
発明の名称 建築物  
代理人 大西 雅直  

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