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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1318850
審判番号 不服2015-15322  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-17 
確定日 2016-08-31 
事件の表示 特願2013-513054号「燃料電池システム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月8日国際公開、WO2012/150630〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、本願は、2011年5月2日を国際出願日とする出願であって、平成26年6月12日付けで拒絶理由が通知がされ、平成26年8月13日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年2月10日付けで最後の拒絶理由が通知がされ、平成27年4月14日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年5月11日付けで平成27年4月14日の手続補正書の補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定がされ、この査定に対し、平成27年8月17日に本件審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年8月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年8月17日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正の目的に関して
(1)請求人は、補正前の
「【請求項1】
燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応によって発電する燃料電池と、
電力の蓄電または電力の供給を行うバッテリと、
電力の供給を受けて駆動する駆動源とを備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池と前記駆動源との間に設けられた燃料電池電力供給経路と、
前記バッテリから延びて前記燃料電池電力供給経路に接続されたバッテリ電力供給経路と、
前記燃料電池電力供給経路と前記バッテリ電力供給経路との接続点よりも前記燃料電池側または前記バッテリ側に設けられた回路遮断装置とを備え、
前記回路遮断装置は、コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動する可動鉄片と、を備えてなり、前記可動鉄片が作動したときに回路が開き、当該回路を遮断する燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、前記可動鉄片は、過負荷時または短絡時に作動する燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池の発電電力を昇圧する第1コンバータと、前記バッテリの放電電力を昇圧する第2コンバータの少なくとも一方が設けられ、
前記第1コンバータが前記燃料電池電力供給経路に設けられている場合において、前記回路遮断装置が前記第1コンバータの後段に設けられている燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池の発電電力を昇圧する第1コンバータと、前記バッテリの放電電力を昇圧する第2コンバータの少なくとも一方が設けられ、
前記第1コンバータが前記燃料電池電力供給経路に設けられている場合においては、前記回路遮断装置が前記第1コンバータの前段に設けられている燃料電池システム。
【請求項5】
燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応によって発電する燃料電池と、
電力の供給を受けて駆動する駆動源と、を備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池と前記駆動源との間に設けられた燃料電池電力供給経路と、
前記燃料電池電力供給経路に設けられた回路遮断装置と、を備え、
前記回路遮断装置は、コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動する可動鉄片と、を備えてなり、過負荷時または短絡時に前記可動鉄片が作動することによって回路が開き、当該回路を遮断する燃料電池システム。」を、
本件補正で
「【請求項1】
燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応によって発電する燃料電池と、
電力の供給を受けて駆動する駆動源と、を備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池と前記駆動源との間に設けられた燃料電池電力供給経路と、
前記燃料電池電力供給経路に設けられた回路遮断装置と、を備え、
前記回路遮断装置は、コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動可能な可動鉄片と、を備えてなり、
前記可動鉄片は、通常運転時における最大電流の2割増以上の過電流が一時的に前記コイルに流れることにより発生する磁力では作動せず、前記過電流が前記コイルに流れる過負荷状態が一定時間以上継続することにより発生する磁力によって作動して回路を遮断する燃料電池システム。」
と補正している。
(2)この補正は、補正前の【請求項5】の「過負荷時または短絡時に前記可動鉄片が作動することによって回路が開き、当該回路を遮断する」を、「前記可動鉄片は、通常運転時における最大電流の2割増以上の過電流が一時的に前記コイルに流れることにより発生する磁力では作動せず、前記過電流が前記コイルに流れる過負荷状態が一定時間以上継続することにより発生する磁力によって作動して回路を遮断する」に変更する補正を含むものである。
そして、当該「過負荷時または短絡時に前記可動鉄片が作動すること」を、「前記過電流が前記コイルに流れる過負荷状態が一定時間以上継続することにより発生する磁力によって作動」して回路を遮断する(なお、「前記過電流」は「通常運転時における最大電流の2割増以上の過電流」)に変更する補正は、可動鉄片が作動する「過負荷時または短絡時」に可動鉄片が作動するという条件の「過負荷時」を「通常運転時における最大電流の2割増以上の過電流」に限定すると共に、「短絡時」に可動鉄片が作動するという条件を削除するものであって、「短絡時」に可動鉄片が作動するという条件を削除した点において、請求項の削除、特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とするものとも認められない。
(3)なお、補正後の【請求項1】を、補正前の別の独立請求項である【請求項1】を補正したものとして検討しても、「電力の蓄電または電力の供給を行うバッテリ」、「前記バッテリから延びて前記燃料電池電力供給経路に接続されたバッテリ電力供給経路」、「前記燃料電池電力供給経路と前記バッテリ電力供給経路との接続点よりも前記燃料電池側または前記バッテリ側に設けられた」回路遮断装置という発明特定事項を削除しているので、請求項の削除、特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とするものとも認められない。
(4)請求人は、審判請求書「3.(1)」の「(2)補正の根拠」において、「記請求項1の補正は、出願当初明細書の段落0033、0034の記載に基づいています。以上のように、今般の補正は、出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であり、かつ、限定的減縮に該当することから、補正の要件を満たす適法なものであります。」旨主張している。
しかし、上記(1)の補正は、上記(2)(3)に記載したように発明特定事項である「短絡時」に可動鉄片が作動するという条件を削除するものであって、「限定的減縮に該当する」と認められるようなものではないので、当該請求人の主張は採用できない。
(5)したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2.独立特許要件について
次に、仮に上記1.の補正が、請求人が主張するように特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであるとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについても検討する。

(1)引用刊行物とその記載事項
ア.原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-3444号公報(以下「刊行物1」という。)には、「燃料電池車両」に関し、図面とともに、次の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与。)。
(ア)「【請求項1】
駆動モータと、
前記駆動モータを駆動する燃料電池と、
前記燃料電池と並列に前記駆動モータに接続され、前記駆動モータを駆動する蓄電装置と、
前記駆動モータと前記蓄電装置との間に配置され、前記蓄電装置の出力電圧を昇圧して前記燃料電池の出力電流を制御する昇圧器と、
前記蓄電装置から前記燃料電池への電流の流入を防止する逆流防止用のダイオードと、
前記燃料電池と前記ダイオードとの間に配置された電圧センサと、
前記燃料電池と前記駆動モータとの間に配置され、前記燃料電池と前記駆動モータとの接続状態を切り替えるコンタクタと、
前記ダイオードの短絡を検知する短絡検知部と、
を備える燃料電池車両であって、
前記短絡検知部は、
前記昇圧器による昇圧後の電圧が前記燃料電池の開放電圧よりも高いとき、前記電圧センサの検出値に基づいて前記ダイオードの短絡検知を行い、
前記ダイオードの短絡を検知したとき、前記コンタクタを開く
ことを特徴とする燃料電池車両。」
(イ)「【0021】
A.第1実施形態
1.燃料電池車両10の構成
(1)全体構成
図1は、この発明の第1実施形態に係る燃料電池車両10(以下「FC車両10」とも称する。)の回路図である。FC車両10は、基本的には、モータユニット20と、FCユニット40と、バッテリユニット60と、統括制御部80{以下「統合制御ECU80」とも称する。}とを有する。・・・
【0024】バッテリユニット60は、FC車両10の力行時には、エネルギストレージである蓄電装置62(以下「バッテリ62」とも称する。)からの出力電力(バッテリ出力電力Pbat)[W]をモータユニット20に対して供給し、FC車両10の回生時には、モータ回生電力Preg及びFC発電電力Pfcをバッテリ62に蓄電する。」
(ウ)「【0032】FC42は、例えば固体高分子電解質膜をアノード電極とカソード電極とで両側から挟み込んで形成されたセルを積層したスタック構造である。FC42には、水素タンク44とエアコンプレッサ46が配管により接続されている。水素タンク44内の加圧水素は、FC42のアノード電極に供給される。また、エアコンプレッサ46により空気がFC42のカソード電極に供給される。水素タンク44及びエアコンプレッサ46の動作は、FCECU48により制御される。FC42内で反応ガスである水素(燃料ガス)と空気(酸化剤ガス)の電気化学反応によりFC発電電流Ifが生成される。」
(エ)「【0044】(6)その他
車両状態を検出する各種スイッチ及び各種センサとしては、上述した電圧センサ52、64、66、電流センサ54、68、70の他、通信線82に接続されるイグニッションスイッチ90、アクセルセンサ92、ブレーキセンサ94、及び車速センサ96等がある。」
(オ)「【0053】ステップS9において、統合制御ECU80は、通信線82を介してFCコンタクタ56a、56bを開く。これにより、FC42が、モータユニット20やバッテリユニット60から完全に切り離される。従って、ダイオード50が短絡していても、2次電圧V2がFC42に印加されることを回避し、FC42を保護することができる。
【0054】ステップS10において、統合制御ECU80は、FC発電電力Pfcなしにバッテリ出力電力Pbatのみでモータ22を駆動するバッテリ走行モードに移行する。そして、アクセルセンサ92から通知されるアクセルペダル(図示せず)の踏込み量に応じてバッテリ出力電力PbatのみでFC車両10を駆動する。」
(カ)「【0090】上記各実施形態では、FCコンタクタ56a、56bをFC42とダイオード50との間に配置したが、これに限られず、FCコンタクタ56a、56bがFC42とモータユニット20との接続状態を切り替えるものであれば(FCコンタクタ56a、56bの動作が、モータユニット20とバッテリユニット60との接続状態に影響しなければ)、FCコンタクタ56a、56bを、ダイオード50よりもモータユニット20側に配置することもできる。」
(キ)図1には、燃料電池と駆動モータとの間に設けられた燃料電池の電力供給経路が記載されている。
(ク)図1には、バッテリ62から延びて、燃料電池の電力供給経路に接続された、バッテリ62からの電力供給経路が記載されている。
(ケ)図1には、燃料電池の電力供給経路とバッテリ62からの電力供給経路との接続点よりも燃料電池側に設けられ燃料電池と駆動モータとの接続状態を切り替えるコンタクタが記載されている。
(コ)記載事項(イ)等の「FC」は、記載事項(イ)の「燃料電池車両10(以下「FC車両10」とも称する。)」のものであるので、「燃料電池」といえる。

そうすると、刊行物1には次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているといえる。
「駆動モータと、
前記駆動モータを駆動する燃料電池と、
バッテリ出力電力をモータユニットに対して供給し、燃料電池車両の回生時には、モータ回生電力及び燃料電池発電電力を蓄電するバッテリと、
を備えた燃料電池車両であって、
前記燃料電池と前記駆動モータとの間に設けられた燃料電池の電力供給経路と、
前記バッテリから延びて、前記燃料電池の電力供給経路に接続された、バッテリからの電力供給経路と、
前記燃料電池の電力供給経路と前記バッテリからの電力供給経路との接続点よりも前記燃料電池側に設けられ、前記燃料電池と前記駆動モータとの接続状態を切り替えるコンタクタと、を備え、
前記コンタクタは、ダイオードの短絡を検知したとき開き、これにより、燃料電池が、モータユニットやバッテリユニットから完全に切り離され、統合制御ECUは、燃料電池発電電力なしにバッテリ出力電力のみでモータを駆動するバッテリ走行モードに移行する燃料電池車両。」

イ.原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願平3-89713号(実開平5-41051号)のCD-ROM(以下「刊行物2」という。)には、「回路遮断器の過電流検出装置」に関し、図面とともに、次の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与。)。

(ア)「【請求項1】プランジャ及び該プランジャを底部に押圧する復帰バネを収納する有底筒型シリンダの開口を磁性蓋で密封したポットと、このポットの略中央に取着した水平片及び器体の隔壁に形成された嵌入溝に両端が嵌入される垂直片とで略L字とした固定ヨークと、この固定ヨークの垂直片に可動可能に支持され前記磁性蓋に対向させると共に可動により接点遮断機構を開極駆動させる可動板と、前記ポットの磁性蓋と前記固定ヨークとの間で前記ポットに巻回された遮断接点に直列接続されるコイルとで成る回路遮断器の過電流検出装置に於いて、前記固定ヨークの垂直片に略逆L字の非磁性弾性板の垂直片を並設して、この非磁性弾性板の水平片により前記コイルを前記固定ヨークの水平片側に弾圧させると共に、この非磁性弾性板の垂直片の両端に、前記固定ヨークの両端と共に前記器体の嵌入溝に嵌入される弾圧片を形成したことを特徴とする回路遮断器の過電流検出装置。」
(イ)「【0012】この回路遮断器は、接点遮断機構1が操作ハンドル11の開閉操作により固定接点12と可動接点13とを開閉連動させると共に過負荷電流或いは短絡電流等の過電流又は漏洩電流等に応答してトリップ部材14が駆動されると固定接点12から可動接点13を強制的に開離させて回路を遮断させるものである。尚、この接点遮断機構1は特開平1-246740号公報にて公知の技術である。
【0013】また、回路遮断器の器体2には、両側部に端子ネジ21を螺合した端子板22を装備し、一方の端子板22には固定接点12を取着して、他方の端子板22には過電流検出装置3が装備されている。この器体2は、中器体23と、この中器体23にネジ取着される上カバー24及び下カバー25とでなる。」
(ウ)「【0014】この過電流検出装置3は、ポット31を、有底円筒型シリンダ311 に、プランジャ312と、プランジャ312を底部に押圧する復帰バネ313と、制動油とを収納すると共に、このシリンダ311の開口縁を外側に広げて磁性蓋314の下面をスポット溶接してシリンダ311の開口を密封して構成している。
・・・
【0017】この固定ヨーク32の垂直片321の先端には、可動板33の基端331を回転可能に取付け、垂直片321の先端と可動板33の先端332との間に張架したバネ333により、可動板33をポット31の磁性蓋314から離れる方向に付勢している。
【0018】さらに、この可動板33はポット31の磁性蓋314に対向させ、先端331を接点遮断機構1のトリップ部材14に対向させて、可動板33が磁性蓋314側に移行すると先端331がトリップ部材14を駆動するようになっている。
【0019】さらに、固定ヨーク32の水平片322とポット31の磁性蓋314との間で、コイル34をポット31に巻回している。このコイル34は、予め導体をコイル状に巻回しておき、ポット31を嵌込ませて巻回するようにしている。このコイル34の一端は、他方の端子板22に溶接により接続され、コイル34の他端は、可動接点13に電気的接続された編組線15が接続される。この接続により、端子板22間は、接点12,13 と編組線15とコイル34とが直列接続される。」
(エ)「【0023】しかして、この過電流検出装置3は、コイル34に回路遮断器の定格電流を超える電流が流れると、コイル34に流れる電流により生ずる磁束によって、ポット31のプランジャ312に磁性蓋314との間で吸引力が発生し、復帰バネ313の押圧力に打ち勝って磁性蓋314側に移行する。このとき、プランジャ312には制動油による急激な移動を阻止する制動作用が働き、磁性蓋314側への移行は徐々に移行することとなる。
【0024】このプランジャ312の磁性蓋314側への移行に伴って、ポット31と固定ヨーク32と可動板33とでなる磁気抵抗は小さくなり、コイル34に流れる電流により生ずる磁束は大きくなって、プランジャ312 が磁性蓋314に接触又は近接した状態で磁性蓋314と可動板33との間の磁気吸引力が確保され、可動板33が可動して接点遮断機構1のトリップ部材14を駆動し固定接点12から可動接点13を強制的に開離させて回路を遮断させる。
【0025】一方、コイル34に回路遮断器の定格電流を遙かに超える電流が流れると、ポット31のプランジャ312が磁性蓋314へ接触又は近接する以前に、既に磁性蓋314と可動板33との間の磁気吸引力が確保されるため、即座に可動板33が可動して接点遮断機構1のトリップ部材14を駆動し固定接点12から可動接点13を強制的に開離させて回路を遮断させる。」
(オ)「【0026】この作用によって、定格電流を超える過電流に対し、電流の大きさに対応した時間をもって、可動板33が接点遮断機構1のトリップ部材14を駆動し固定接点12から可動接点13を強制的に開離させて回路を遮断させることができる。」
(カ)「【図1】本考案の一実施例を示す過電流検出装置の斜視図である。
【図2】図1の過電流検出装置を用いた回路遮断器の断面正面図である。
【図3】図2の要部の断面正面図である。
【図4】図2の要部の異なる断面図である。」
(キ)図1?4には、過電流検出装置3を備えてなる回路遮断器が記載されており、
過電流検出装置3は、ポット31と、固定ヨーク32と、コイル34と、可動板33と、を備えている。
(ク)「可動板33」は、(エ)の「コイル34に回路遮断器の定格電流を超える電流が流れると、コイル34に流れる電流により生ずる磁束によって、・・吸引力が発生し、復帰バネ313の押圧力に打ち勝って磁性蓋314側に移行する。このとき、プランジャ312には制動油による急激な移動を阻止する制動作用が働き、磁性蓋314側への移行は徐々に移行する・・こととなる。・・プランジャ312が磁性蓋314に接触又は近接した状態で・・可動板33が可動して・・回路を遮断させる。・・
一方、コイル34に回路遮断器の定格電流を遙かに超える電流が流れると、・・即座に可動板33が可動して・・回路を遮断させる。」ものであるので、コイル34に電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動可能な可動板33といえる。
また、可動板33は、定格電流を超える過電流に対し、電流の大きさに対応した時間をもって、可動板33が接点遮断機構1のトリップ部材14を駆動し固定接点12から可動接点13を強制的に開離させるものといえる。

そうすると、刊行物2には次の発明(以下「刊行物2記載の発明」という。)が開示されているといえる。
「過電流検出装置3が装備され、接点遮断機構1が操作ハンドル11の開閉操作により固定接点12と可動接点13とを開閉連動させると共に過負荷電流或いは短絡電流等の過電流又は漏洩電流等に応答してトリップ部材14が駆動されると固定接点12から可動接点13を強制的に開離させて回路を遮断させる回路遮断器であって、
回路遮断器は、過電流検出装置3を備えてなり、
過電流検出装置3は、ポット31と、固定ヨーク32と、コイル34と、コイル34に電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動可能な可動板33と、を備えてなり、
可動板33は、定格電流を超える過電流に対し、電流の大きさに対応した時間をもって、可動板33が接点遮断機構1のトリップ部材14を駆動し固定接点12から可動接点13を強制的に開離させる回路遮断器。」


(2)本願補正発明と引用発明との対比
ア.両発明の対応関係
(a)引用発明の「駆動モータを駆動する燃料電池」は、記載事項(ウ)によれば「FC42内で反応ガスである水素(燃料ガス)と空気(酸化剤ガス)の電気化学反応によりFC発電電流Ifが生成される」ものであるので、本願補正発明の「燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応によって発電する燃料電池」に相当する。
(b)引用発明の「駆動モータ」は、「駆動モータを駆動する燃料電池」で駆動されるものであるので、本願補正発明の「電力の供給を受けて駆動する駆動源」に相当する。
(c)引用発明の「燃料電池車両」は、「駆動モータ」「燃料電池」「バッテリ」「コンタクタ」等の集合体であるので、本願補正発明の「燃料電池システム」に相当する。
(d)引用発明の「燃料電池の電力供給経路」は「前記燃料電池と前記駆動モータとの間に設けられた」ものであるので、本願補正発明の「前記燃料電池と前記駆動源との間に設けられた燃料電池電力供給経路」に相当する。
(e)引用発明の「コンタクタ」は、「前記燃料電池の電力供給経路と前記バッテリからの電力供給経路との接続点よりも前記燃料電池側に設けられ」たものであるので、本願補正発明の「燃料電池電力供給経路に設けられた回路遮断装置」に相当する。
(f)引用発明の「コンタクタは、ダイオードの短絡を検知したとき開き、これにより、燃料電池が、モータユニットやバッテリユニットから完全に切り離され」ることと、本願補正発明の「回路遮断装置は、コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動可能な可動鉄片と、を備えてなり、前記可動鉄片は、通常運転時における最大電流の2割増以上の過電流が一時的に前記コイルに流れることにより発生する磁力では作動せず、前記過電流が前記コイルに流れる過負荷状態が一定時間以上継続することにより発生する磁力によって作動して回路を遮断する」こととは、「回路遮断装置は、異常状態時に回路を遮断する」点で共通する。

イ.両発明の一致点
「燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応によって発電する燃料電池と、
電力の供給を受けて駆動する駆動源と、を備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池と前記駆動源との間に設けられた燃料電池電力供給経路と、
前記燃料電池電力供給経路に設けられた回路遮断装置と、を備え、
前記回路遮断装置は、異常状態時に回路を遮断する燃料電池システム。」

ウ.両発明の相違点
相違点:回路遮断装置が、本願補正発明は「コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動可能な可動鉄片と、を備えてなり、前記可動鉄片は、通常運転時における最大電流の2割増以上の過電流が一時的に前記コイルに流れることにより発生する磁力では作動せず、前記過電流が前記コイルに流れる過負荷状態が一定時間以上継続することにより発生する磁力によって作動して回路を遮断する」ものであるのに対して、引用発明の「コンタクタ」は、「ダイオードの短絡を検知したとき開き、これにより、燃料電池が、モータユニットやバッテリユニットから完全に切り離され」るものである点。

(3)容易想到性の検討
ア.相違点について
(ア)本願補正発明と刊行物2記載の発明との対応関係
(a)刊行物2記載の発明の「回路遮断器」は、本願補正発明の「回路遮断装置」に相当し、以下同様に、
「コイル34に電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動可能な可動板33」は、「コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動可能な可動鉄片」に、
「過電流に対し、電流の大きさに対応した時間をもって、可動板33が接点遮断機構1のトリップ部材14を駆動し固定接点12から可動接点13を強制的に開離させ」ることは、「対応した時間」までは開離させないことであるので、「過電流が一時的に前記コイルに流れることにより発生する磁力では作動」しないことに、
それぞれ相当する。
また、刊行物2記載の発明の「定格電流を超える過電流」の状態は、本願補正発明の「過負荷状態」に相当する。
そして、刊行物2記載の発明の「可動板33は、定格電流を超える過電流に対し、電流の大きさに対応した時間をもって、可動板33が接点遮断機構1のトリップ部材14を駆動し固定接点12から可動接点13を強制的に開離させ」ることは、過電流が、過電流の大きさに対応した時間前迄は、可動接点13を開離させず(本願補正発明の「一時的に前記コイルに流れることにより発生する磁力では作動せず」に相当)、対応した時間継続(本願補正発明の「一定時間以上継続」に相当)することにより可動接点13を開離させることであるので、本願補正発明の「過電流が一時的に前記コイルに流れることにより発生する磁力では作動せず、前記過電流が前記コイルに流れる過負荷状態が一定時間以上継続することにより発生する磁力によって作動して回路を遮断する」こと(ただし、「過電流」が「通常運転時における最大電流の2割増以上の過電流」である点は除く。)に相当する。
(b)そうすると、刊行物2記載の発明の回路遮断器は、本願補正発明の表現に倣うと「コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動可能な可動鉄片と、を備えてなり、前記可動鉄片は、過電流が一時的に前記コイルに流れることにより発生する磁力では作動せず、前記過電流が前記コイルに流れる過負荷状態が一定時間以上継続することにより発生する磁力によって作動して回路を遮断する」ものといえる。

(イ)回路遮断装置の構造に関して
(a)一般的に、異常状態時に回路を遮断する装置として、刊行物2記載の発明の回路遮断器(所謂ブレーカー)は、広く用いられているものであって、引用発明のごとき車両分野においてもそのことは変わらない(例えば、本願の出願前に頒布された特許4271347号公報には「【0029】・・燃料電池断続器19b・・はコンタクタからなるとしたが、これに限定されず、・・例えば遮断器(ブレーカ)・・等であっても良い。」と記載され、同じく特開2002-300734号公報には「【0002】・・電気機器及び電子機器として、自走用駆動源であるモーター(自走用モーター)」を前提に「【0005】・・過負荷又は短絡があると、ブレーカーによって電源ラインから当該搭載機器が切り離される。」と記載されている。)。
(b)そうすると、引用発明の「コンタクタ」(本願補正発明の「回路遮断装置」に相当するもの)を、異常状態時に回路を遮断する回路遮断装置の一態様として周知である、上記「(ア)(b)」の構成を備える刊行物2記載の発明の回路遮断器(所謂ブレーカー)に変更することは当業者が容易になし得ることである。

(ウ)回路遮断装置の遮断条件に関して
(a)過負荷や短絡は、電動車両の回路遮断装置の遮断条件として代表的なものである(例えば、前記特開2002-300734号公報にも「【従来の技術】・・【0005】・・過負荷又は短絡があると、ブレーカーによって電源ラインから当該搭載機器が切り離される。」と記載され、本願の出願前に頒布された国際公開2010/122648号には「【背景技術】・・蓄電装置の電力入出力経路の導通および遮断を制御するために、電磁リレーに代表される開閉器が設けられることが一般的である。・・
【0005】・・電力変換器を構成する電力用半導体スイッチング素子に短絡故障が発生したときに・・開閉器を開放(オフ)すると、電弧の発生により接点間に溶着を生じさせて、開閉器が開放不能となってしまう事態、すなわち溶着故障の発生が懸念される。」「【0075】・・電源システム5内に短絡経路が形成されることによって、大きな短絡電流が発生する。
【0076】このとき、各リレーをオフすることが必要となる・・」と記載されている。)。
(b)そして、引用発明の「コンタクタ」(本願補正発明の「回路遮断装置」に相当するもの)で回路を遮断する条件を、電動車両の回路遮断装置の遮断条件として代表的なものである過負荷や短絡とすることは、当業者が適宜選択し得ることである。
(c)また、回路遮断器を過負荷遮断(所謂時延動作)する過負荷の程度(すなわち、正常時の最大電流をどの程度の超えた場合に時延動作後遮断するか。)の選定は、回路保護における基本的設計上事項であって、その選択は当業者が適宜選択すべき設計的事項である。
さらに、「通常運転時における最大電流の2割増以上」は、過負荷状態の程度として想定できない量ではない。
(d)なお、引用発明は「燃料電池が、モータユニットやバッテリユニットから完全に切り離され」ても「燃料電池発電電力なしにバッテリ出力電力のみでモータを駆動するバッテリ走行モードに移行する」ことができるものであって、当該作用効果に着目すると、引用発明のコンタクタは、電動車両の回路遮断装置として理解できるものであるので、引用発明のコンタクタを開く条件が「ダイオードの短絡を検知したとき」のみに限定されるものと解するのは合理的でない。


(エ)総合判断
そうすると、上記(イ)の引用発明の「コンタクタ」を、刊行物2記載の発明の回路遮断器(所謂ブレーカー)に変更するとともに、「過電流」(全文記載すると、上記「(ア)(b)」の「過電流が一時的に前記コイルに流れることにより発生する磁力では作動せず、前記過電流が前記コイルに流れる過負荷状態が一定時間以上継続することにより発生する磁力によって作動して回路を遮断する」時の「過電流」。)の値として、過負荷状態の程度として想定できる「通常運転時における最大電流の2割増以上の過電流」を選択して、本願補正発明の相違点に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願補正発明の作用効果は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び上記当業者に周知の事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び上記当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)したがって、仮に上記1.の補正が、請求人の主張する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであるとしても、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本件出願の請求項1?5に係る発明
平成27年8月17日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1?5に係る発明は、平成26年8月13日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その発明(以下「本願発明1」等という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応によって発電する燃料電池と、
電力の蓄電または電力の供給を行うバッテリと、
電力の供給を受けて駆動する駆動源とを備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池と前記駆動源との間に設けられた燃料電池電力供給経路と、
前記バッテリから延びて前記燃料電池電力供給経路に接続されたバッテリ電力供給経路と、
前記燃料電池電力供給経路と前記バッテリ電力供給経路との接続点よりも前記燃料電池側または前記バッテリ側に設けられた回路遮断装置とを備え、
前記回路遮断装置は、コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動する可動鉄片と、を備えてなり、前記可動鉄片が作動したときに回路が開き、当該回路を遮断する燃料電池システム。」
「【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、前記可動鉄片は、過負荷時または短絡時に作動する燃料電池システム。」
「【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池の発電電力を昇圧する第1コンバータと、前記バッテリの放電電力を昇圧する第2コンバータの少なくとも一方が設けられ、
前記第1コンバータが前記燃料電池電力供給経路に設けられている場合において、前記回路遮断装置が前記第1コンバータの後段に設けられている燃料電池システム。」
「【請求項4】
請求項1又は2に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池の発電電力を昇圧する第1コンバータと、前記バッテリの放電電力を昇圧する第2コンバータの少なくとも一方が設けられ、
前記第1コンバータが前記燃料電池電力供給経路に設けられている場合においては、前記回路遮断装置が前記第1コンバータの前段に設けられている燃料電池システム。」
「【請求項5】
燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応によって発電する燃料電池と、
電力の供給を受けて駆動する駆動源と、を備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池と前記駆動源との間に設けられた燃料電池電力供給経路と、
前記燃料電池電力供給経路に設けられた回路遮断装置と、を備え、
前記回路遮断装置は、コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動する可動鉄片と、を備えてなり、過負荷時または短絡時に前記可動鉄片が作動することによって回路が開き、当該回路を遮断する燃料電池システム。」

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?2とその記載事項は、前記の「第2 2.(1)」に記載したとおりである。

3.本願発明1について、
(1)本願発明1と引用発明との対比
ア.両発明の対応関係
(a)引用発明の「駆動モータを駆動する燃料電池」は、記載事項(ウ)によれば「FC42内で反応ガスである水素(燃料ガス)と空気(酸化剤ガス)の電気化学反応によりFC発電電流Ifが生成される」ものであるので、本願発明1の「燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応によって発電する燃料電池」に相当する。
(b)引用発明の「バッテリ出力電力をモータユニットに対して供給し、燃料電池車両の回生時には、モータ回生電力及び燃料電池発電電力を蓄電するバッテリ」は、本願発明1の「電力の蓄電または電力の供給を行うバッテリ」に相当する。
(c)引用発明の「駆動モータ」は、「駆動モータを駆動する燃料電池」で駆動されるものであるので、本願発明1の「電力の供給を受けて駆動する駆動源」に相当する。
(d)引用発明の「燃料電池車両」は、「駆動モータ」「燃料電池」「バッテリ」「コンタクタ」等の集合体であるので、本願発明1の「燃料電池システム」に相当する。
(e)引用発明の「燃料電池の電力供給経路」は「前記燃料電池と前記駆動モータ(駆動源)との間に設けられた」ものであるので、本願発明1の「前記燃料電池と前記駆動源との間に設けられた燃料電池電力供給経路」に相当する。
(f)引用発明の「コンタクタ」は、「燃料電池の電力供給経路と前記バッテリからの電力供給経路との接続点よりも前記燃料電池側に設けられ」たものであるので、本願発明1の「前記燃料電池電力供給経路と前記バッテリ電力供給経路との接続点よりも前記燃料電池側または前記バッテリ側に設けられた回路遮断装置」に相当する。
(g)引用発明の「コンタクタは、ダイオードの短絡を検知したとき開き、これにより、燃料電池が、モータユニットやバッテリユニットから完全に切り離され」ることと、本願発明1の「前記回路遮断装置は、コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動する可動鉄片と、を備えてなり、過負荷時または短絡時に前記可動鉄片が作動することによって回路が開き、当該回路を遮断する」こととは、「回路遮断装置は、異常状態時に回路を遮断する」点で共通する。

イ.両発明の一致点
「燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応によって発電する燃料電池と、
電力の蓄電または電力の供給を行うバッテリと、
電力の供給を受けて駆動する駆動源とを備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池と前記駆動源との間に設けられた燃料電池電力供給経路と、
前記バッテリから延びて前記燃料電池電力供給経路に接続されたバッテリ電力供給経路と、
前記燃料電池電力供給経路と前記バッテリ電力供給経路との接続点よりも前記燃料電池側または前記バッテリ側に設けられた回路遮断装置とを備え、
前記回路遮断装置は、異常状態時に回路を遮断する燃料電池システム。」

ウ.両発明の相違点
相違点:回路遮断装置が、本願発明1は「コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動する可動鉄片と、を備えてなり、過負荷時または短絡時に前記可動鉄片が作動することによって回路が開き、当該回路を遮断する」ものであるのに対して、引用発明の「コンタクタ」は、「ダイオードの短絡を検知したとき開き、これにより、燃料電池が、モータユニットやバッテリユニットから完全に切り離され」るものである点。

(3)容易想到性の検討
ア.相違点について
(ア)本願発明1と刊行物2記載の発明との対応関係
(a)刊行物2記載の発明の「回路遮断器」は、本願発明1の「回路遮断装置」に相当し、以下同様に、
「コイル34に電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動可能な可動板33」は、「コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動する可動鉄片」に、
「可動板33が接点遮断機構1のトリップ部材14を駆動し固定接点12から可動接点13を強制的に開離させ」ることは、「可動鉄片が作動したときに回路が開き、当該回路を遮断する」ことに、
それぞれ相当する。
(b)そうすると、刊行物2記載の発明の回路遮断器は、本願発明1の表現に倣うと「コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動する可動鉄片と、を備えてなり、前記可動鉄片が作動したときに回路が開き、当該回路を遮断する」ものといえる。

(イ)回路遮断装置の構造及び遮断条件に関して
(a)前記「第2 (3)ア.(イ)(a)」に記載したように、一般的に、異常状態時に回路を遮断する装置として、刊行物2記載の発明の回路遮断器(所謂ブレーカー)は、広く用いられているものであって、引用発明のごとき車両分野においてもそのことは変わらない。
また、前記「第2 (3)ア.(ウ)(a)」に記載したように、過負荷や短絡等の過電流は、電動車両の回路遮断装置の遮断条件として代表的なものである。
(b)そうすると、引用発明の「コンタクタ」(本願発明1の「回路遮断装置」に相当するもの)を、異常状態時に回路を遮断する回路遮断装置の一態様として周知である、上記「(ア)(b)」の構成を備える刊行物2記載の発明の回路遮断器(所謂ブレーカー)に変更して、本願発明1の相違点に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明1の作用効果は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び上記当業者に周知の事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願発明1は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び上記当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.本願発明5について、
(1)本願発明5と引用発明との対比
ア.両発明の対応関係
(a)引用発明の「駆動モータを駆動する燃料電池」は、記載事項(ウ)の「FC42内で反応ガスである水素(燃料ガス)と空気(酸化剤ガス)の電気化学反応によりFC発電電流Ifが生成される」ものであるので、本願発明5の「燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応によって発電する燃料電池」に相当する。
(b)引用発明の「駆動モータ」は、「駆動モータを駆動する燃料電池」で駆動されるものであるので、本願発明5の「電力の供給を受けて駆動する駆動源」に相当する。
(c)引用発明の「燃料電池車両」は、「駆動モータ」「燃料電池」「バッテリ」「コンタクタ」等の集合体であるので、本願発明5の「燃料電池システム」に相当する。
(d)引用発明の「燃料電池の電力供給経路」は「前記燃料電池と前記駆動モータとの間に設けられた」ものであるので、本願発明5の「前記燃料電池と前記駆動源との間に設けられた燃料電池電力供給経路」に相当する。
(e)引用発明の「コンタクタ」は、「燃料電池の電力供給経路と前記バッテリからの電力供給経路との接続点よりも前記燃料電池側に設けられ」たものであるので、本願発明5の「燃料電池電力供給経路に設けられた回路遮断装置」に相当する。
(f)引用発明の「コンタクタは、ダイオードの短絡を検知したとき開き、これにより、燃料電池が、モータユニットやバッテリユニットから完全に切り離され」ることと、本願発明5の「前記回路遮断装置は、コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動する可動鉄片と、を備えてなり、過負荷時または短絡時に前記可動鉄片が作動することによって回路が開き、当該回路を遮断する」こととは、「回路遮断装置は、異常状態時に回路を遮断する」点で共通する。

イ.両発明の一致点
「燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応によって発電する燃料電池と、
電力の供給を受けて駆動する駆動源と、を備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池と前記駆動源との間に設けられた燃料電池電力供給経路と、
前記燃料電池電力供給経路に設けられた回路遮断装置と、を備え、
前記回路遮断装置は、異常状態時に回路を遮断する燃料電池システム。」

ウ.両発明の相違点
相違点:回路遮断装置が、本願発明5は「コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動する可動鉄片と、を備えてなり、過負荷時または短絡時に前記可動鉄片が作動することによって回路が開き、当該回路を遮断する」ものであるのに対して、引用発明の「コンタクタ」は、「ダイオードの短絡を検知したとき開き、これにより、燃料電池が、モータユニットやバッテリユニットから完全に切り離され」るものである点。

(3)容易想到性の検討
ア.相違点について
(ア)本願発明5と刊行物2記載の発明との対応関係
(a)刊行物2記載の発明の「回路遮断器」は、本願発明5の「回路遮断装置」に相当し、以下同様に、
「コイル34に電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動可能な可動板33」は、「コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動する可動鉄片」に、
「可動板33が接点遮断機構1のトリップ部材14を駆動し固定接点12から可動接点13を強制的に開離させ」ることは、「可動鉄片が作動することによって回路が開き、当該回路を遮断する」ことに、
それぞれ相当する。
(b)そうすると、刊行物2記載の発明の回路遮断器は、本願発明5の表現に倣うと
「コイルと、前記コイルに電流が流れたときに発生する磁力の大きさに応じて作動する可動鉄片と、を備えてなり、前記可動鉄片が作動することによって回路が開き、当該回路を遮断する」ものといえる。

(イ)回路遮断装置の構造及び遮断条件に関して
(a)前記「第2 (3)ア.(イ)(a)」に記載したように、一般的に、異常状態時に回路を遮断する装置として、刊行物2記載の発明の回路遮断器(所謂ブレーカー)は、広く用いられているものであって、引用発明のごとき車両分野においてもそのことは変わらない。
そして、引用発明の「コンタクタ」(本願発明5の「回路遮断装置」に相当するもの)を、異常状態時に回路を遮断する回路遮断装置の一態様として周知である、上記「(ア)(b)」の構成を備える刊行物2記載の発明の回路遮断器(所謂ブレーカー)に変更することは当業者が容易になし得ることである。
(b)また、前記「第2 (3)ア.(ウ)(a)」に記載したように、過負荷や短絡等の過電流は、電動車両の回路遮断装置の遮断条件として代表的なものである。
そして、引用発明の「コンタクタ」(本願発明5の「回路遮断装置」に相当するもの)で回路を遮断する条件を、電動車両の回路遮断装置の遮断条件として代表的なものである過負荷や短絡とすることは、当業者が適宜選択し得ることである。
(c)そうすると、引用発明の「コンタクタ」を、刊行物2記載の発明の回路遮断器(所謂ブレーカー)に変更するとともに、「過電流」の内容を、電動車両の回路遮断装置の遮断条件として代表的なものである過負荷及び短絡として、本願発明5の相違点に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明5の作用効果は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び上記当業者に周知の事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願発明5は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び上記当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本願発明1、5については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-07 
結審通知日 2016-07-08 
審決日 2016-07-20 
出願番号 特願2013-513054(P2013-513054)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 572- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武市 匡紘関口 哲生  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 矢島 伸一
中川 真一
発明の名称 燃料電池システム  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  

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