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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1318856
審判番号 不服2015-19857  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-04 
確定日 2016-09-01 
事件の表示 特願2011-132492「光応答素子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月 7日出願公開、特開2013- 4238〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年6月14日の出願であって、平成26年5月19日付けで拒絶理由が通知され、平成26年7月25日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、同年11月25日付けで拒絶理由(最後)が通知され、平成27年2月2日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたが、平成27年7月28日付けで平成27年2月2日付けの手続補正の補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これに対して、平成27年11月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後、平成28年2月16日付けで前置報告がなされ、これに対して、同年3月10日付けで、請求人から上申書が提出された。


第2 平成27年11月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年11月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成27年11月4日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、本件補正前の(平成26年7月25日付けの手続補正により補正された)特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項8である、

「【請求項1】
透明基板、導電膜、短絡防止層、半導体層及び対向電極がこの順に積層される光応答素子であって、
上記半導体層が、
上記短絡防止層の表面に配設される多孔質体、及びこの多孔質体の表面に付着した色素を有するn型半導体部と、
このn型半導体部及び対向電極の間に配設されるp型半導体部と
を備え、
上記短絡防止層がチタン酸化物又は亜鉛酸化物から形成され、
上記n型半導体部の多孔質体がチタン酸化物又は亜鉛酸化物から形成され、
上記n型半導体部が平均孔径が10nm以上50nm以下の多孔質状であり、
上記p型半導体部が金属酸化物から形成され、
上記p型半導体部を形成する金属酸化物のバンドギャップが3eV以上4eV以下であり、
上記色素のバンドギャップが1.4eV以上1.7eV以下であることを特徴とする光応答素子。」
「【請求項8】
上記n型半導体部が層状に形成され、このn型半導体部の膜厚が2μm以上10μm以下である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光応答素子。」
から、次のように補正されたものと認める。

「透明基板、導電膜、短絡防止層、半導体層及び対向電極がこの順に積層される光応答素子であって、
上記半導体層が、
上記短絡防止層の表面に配設される多孔質体、及びこの多孔質体の表面に付着した色素を有するn型半導体部と、
このn型半導体部及び対向電極の間に配設されるp型半導体部と
を備え、
上記短絡防止層がチタン酸化物又は亜鉛酸化物から形成され、
上記n型半導体部の多孔質体がチタン酸化物又は亜鉛酸化物から形成され、
上記n型半導体部が平均孔径が10nm以上50nm以下の多孔質状であり、
上記n型半導体部が層状に形成され、このn型半導体部の膜厚が4μm以上8μm以下であり、
上記p型半導体部が金属酸化物から形成され、かつn型半導体部の孔内部に浸透し、
上記p型半導体部を形成する金属酸化物のバンドギャップが3eV以上4eV以下であり、
上記色素のバンドギャップが1.4eV以上1.7eV以下であることを特徴とする光応答素子。」
(下線は、当審が付したものであり、補正箇所である。)

2 補正の目的
本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1を引用する請求項8の、「2μm以上10μm以下」を「4μm以上8μm以下」に限定し、また、「かつn型半導体部の孔内部に浸透し、」という「p型半導体部」と「n型半導体部」の配置関係を限定する記載が追加されたものであるから、本件補正の請求項1についての補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するか否か)について、以下に検討する。

3 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2004-319873号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(公報中に付されている下線以外の下線は当審で付したものである。)

ア 「【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の色素増感型光電変換素子(色素増感型太陽電池)の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の色素増感型光電変換素子1の模式的構成例を示したものである。図1の紙面の右側には、左側に位置する全体構成図の四角で囲まれたエリアの部分拡大図が模式的に示されている。
【0022】
図1に示されるように、本発明の色素増感型光電変換素子1は、2つの電極70,80が例えば固体電荷移動層40を介して対向配置された構成をなしている。2つの電極のうち一方の電極である70は、有機色素を備える光電変換用酸化物半導体電極70であり、このものは、例えば、透明基板50と、この上に形成された透明導電層11と、この透明導電層11の表面に形成された第1の金属酸化物半導体膜30と、その第1の金属酸化物半導体膜30の上に形成された第2の金属酸化物半導体膜6と、この第2の金属酸化物半導体膜6の表面に吸着された有機色素7を有して構成されている。
【0023】
まず最初に、有機色素を備える光電変換用酸化物半導体電極70について、各構成要件ごとに説明する。
【0024】
透明導電層11を有する透明基板50の構成
電極用の基板としては、少なくともその表面に導電性が付与(例えば、透明導電層11が形成)された透明基板50が用いられる。表面に導電性が付与された基板としては、例えば、ガラスなどの耐熱性基板上に、酸化インジウム、酸化錫の導電性金属酸化物薄膜、金、銀、白金などの金属薄膜、導電性高分子等を形成したものや、金属等の導電性材料からなる基板が用いられる。このような導電性基板は従来よく知られたものである。耐熱性を有する樹脂基板を用いることもできる。
基板の厚さは特に制限されないが、通常、0.05?5mm程度である。
【0025】
図1において、導電性表面を有する基板の一例として、透明基板50と、この上に形成された透明導電層11との組み合わせ体が示されている。しかしながら、透明基板50そのものを導電性材質から形成することも可能であり、この場合には、導電性材質から形成された透明基板50そのものが、本発明で言う基板と導電層との組み合せ体に相当することになる。
【0026】
第1の金属酸化物半導体膜の構成
透明導電層11の上に形成される第1の金属酸化物半導体膜30は、酸化対象となる金属薄膜を形成した後に、この金属薄膜を陽極酸化処理することにより形成されたものである。以下、透明導電層11の上に第1の金属酸化物半導体膜30を形成するステップを詳細に説明する。
【0027】
(1)金属薄膜の形成
透明導電層を有する基板上にスパッタリングまたは蒸着により金属薄膜を形成する。成膜対象となる金属は、Ti,Ta,Al,Mg,Nb,Zr,Zn,Siのグループから選択された少なくとも1つの金属とするのがよい。特に、Tiが好適に用いられる。このような金属薄膜の膜厚は10?100nm、好ましくは20?80nm、さらに好ましくは、20?50nmとされる。この膜厚が10nm未満となると、成膜される金属薄膜が島状となりやすくなり、緻密な膜を得ることが困難となってしまう。また、この膜厚が100nmを超えると膜の抵抗が大きくなり過ぎてしまい電池特性が低下してしまうという不都合が生じる。
【0028】
(2)成膜した金属薄膜の陽極酸化処理
このような金属薄膜を形成した後に、当該金属薄膜の陽極酸化処理が行なわれる。
【0029】
すなわち、金属薄膜を有する基板を陽極とし、白金やカーボンなどを陰極として用い、リン酸、硫酸あるいはこれらの混酸、あるいはアジピン酸ニアンモニウムのような中性塩からなる電解質水溶液中で陽極酸化を行なう。
【0030】
Ti,Ta,Al,Mg,Nb,Zr,Zn,Siなどの弁金属を陽極酸化すると、数100Vの高電圧まで安定して陽極酸化処理することができ、その結果、数μmの比較的厚い陽極酸化被膜が形成される。本発明では膜厚が10?100nm程度の緻密な膜を得ることが目的であるために、陽極酸化電圧は10?80V程度の低い電圧に設定することが望ましい。このような低電圧範囲では、基板表面での火花放電による放電痕の発生は極めて少なく、緻密な膜を形成することができる。
【0031】
このようにして緻密な第1の金属酸化物半導体膜30が形成される。
なお、本願の「緻密な膜」とはスパッタリングや蒸着で成膜された金属薄膜の緻密な状態を出来るだけ維持するようにとの配慮のもとに陽極酸化処理された膜をいう。
【0032】
第2の金属酸化物半導体膜の構成
緻密な第1の金属酸化物半導体膜30の上には、多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6が形成される。第2の金属酸化物半導体膜6を形成する好適例を以下に例示する。
【0033】
通常の好ましい手法として、多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6を形成するには、まず、酸化物半導体微粒子を含む塗布液を調製する。用いる酸化物半導体微粒子は、その1次粒子径が微細なほど好ましく、その1次粒子径は、通常、1?5000nm、好ましくは5?50nmとされる。
【0034】
酸化物半導体微粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化バナジウム、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。好ましくは、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブであり、最も好ましくは酸化チタンである。また、これら酸化物半導体微粒子を複合(混合、混晶、固溶体など)させて用いてもよく、例えば、酸化亜鉛と酸化スズ、酸化チタンと酸化ニオブ等の組み合わせ使用を例示することができる。
【0035】
材料選定に際しては、多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の表面に吸着される有機色素(有機色素膜7)の励起準位から、酸化物半導体微粒子の伝導帯準位への電子注入が効率よく起こりうるように酸化物半導体微粒子の種類を選択すればよい。
【0036】
また、酸化物半導体粒子同士の結合性、および酸化物半導体微粒子と前記第1の金属酸化物半導体膜30間の結合性を強化させるために、酸化物半導体微粒子前駆体を添加するのも好ましい態様である。
【0037】
酸化物半導体微粒子前駆体を共存させることは、物質の拡散・供給や、微粒子間結合に必要なエネルギーの減少に効果的であり、酸化物半導体膜をより低温で形成するのに好ましい。
【0038】
酸化物半導体微粒子が金属酸化物である場合、用いられ得る酸化物半導体微粒子前駆体として、金属アルコキシド、金属ハロゲン化物、加水分解可能な基を有する金属化合物等が挙げられる。
【0039】
金属ハロゲン化物を用いた場合には、酸化物半導体微粒子内にハロゲン原子が取り込まれることが多く電池特性に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、特に、高温加熱が適用できない場合には金属アルコキシドを用いるのが好ましい。
また、上記の金属化合物の一部または全部を加水分解したもの、その加水分解物を重合したもの、あるいはそれらの混合物も前駆体として有効である。特に、金属アルコキシドを、酸もしくはアルカリ条件下で部分的に加水分解し、さらに部分的に重合した混合物は、低温での反応性に富み、低温での結晶化も起こりやすいために本発明での使用に好都合である。この場合、好ましい酸としては、塩酸、硝酸等が挙げられるが、前記残留ハロゲンの影響を考慮すると硝酸を用いるのが好ましい。また、アルカリとしてはアンモニア、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0040】
添加され得る酸化物半導体微粒子前駆体の混合比(添加量)は、酸化物半導体微粒子に対し、2?40wt%である。2wt%未満では添加した効果が現れにくい。また、酸化物半導体微粒子前駆体が粒子化、結晶化する過程においては体積収縮が起こる。そのため、40wt%を超えるような大量の添加では膜全体の体積収縮が大きくなり、クラックの発生、それに伴う導電性表面からの膜の剥離が起こり、電池特性が悪化するおそれがある。
【0041】
酸化物半導体微粒子を含む塗布液は、ゾルまたはスラリ-の形態で得ることができる。このような形態において、使用される溶媒としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合液などが挙げられる。有機溶媒としては、メタノ-ル、エタノ-ル、プロパノ-ル、テルピネオ-ル等のアルコ-ル、メチルエチルケトン、アセトン、アセチルアセトン等のケトン、ジメチルホルムアミド、ピリジン等の塩基性溶媒等が挙げられる。溶媒への酸化物半導体微粒子の分散性を高めるため、酸もしくはアルカリを添加させて、塗布液のpHを酸化物半導体微粒子の等電点近傍のpHからなるべく遠ざけるのが好ましい。この際に好適に使用される酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸、ギ酸、酢酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。好適に使用されるアルカリ成分としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム等のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属塩基、アンモニア、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド等のアンモニウム塩基等が挙げられる。また、塗布液中には必要に応じ、界面活性剤や粘度調整剤を添加することができる。
【0042】
このようにして調製された塗布液は、緻密構造の第1の金属酸化物半導体膜30の上に塗布され、所定の処理がなされた後に、多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6が構成される。
【0043】
本発明における多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6は、その厚さが少なくとも10nm以上、好ましくは500?30000nmとされる。さらに、多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6は、その見かけ表面積に対する実表面積の比を10以上、好ましくは100以上とすることが望ましい。この比の上限は特に規制されないが、通常、1000?2000である。
【0044】
上記見かけの表面積とは、通常の表面積を意味し、例えば、その表面形状が長方形の場合には、(縦の長さ)×(横の長さ)で表される。前述した実表面積とは、クリプトンガスの吸着量により求めたBET表面積を意味する。具体的測定には、BET表面積測定装置(マイクロメリティクス社製、ASAP2000)を用い、見かけ表面積1cm^(2)の酸化物半導体膜(基板の上に形成されている)に、液体窒素温度でクリプトンガスを吸着させる方法が用いられる。この測定方法により得られたクリプトンガス吸着量に基づいてBET表面積が算出される。
【0045】
このような多孔質構造の第2の金属酸化物半導体膜6は、その内部に微細な細孔とその表面に微細凹凸を有するものである。第2の金属酸化物半導体膜6の厚さおよび見かけ表面積に対する実表面積の比が前記範囲より小さくなると、その表面に有機色素を単分子膜として吸着させたときに、その有機色素単分子膜の表面積が小さくなり、光吸収効率の良い電極を得ることが困難となる。
【0046】
本発明において、第1の金属酸化物半導体膜30の上に第2の金属酸化物半導体膜6を好適に形成させるには、酸化物半導体微粒子を含む塗布液を、スピンコ-ト法、スプレ-法、ディッピング法、スクリ-ン印刷法、ドクタ-ブレ-ド法等の塗布、印刷法により行うことができる。
【0047】
塗布液中の酸化物半導体微粒子の最適濃度は、塗布、印刷方法によって異なる。一般的には0.1?70重量%、好ましくは0.5?40重量%である。
【0048】
酸化物半導体微粒子を前記の塗布方法を用いて膜として形成した後、一般に、高温加熱処理が行われる。これにより、酸化物半導体粒子同士の結合性、および酸化物半導体微粒子と導電性表面との結合性を高めることができ、導電性を向上させ電池特性の向上を図ることができる。
【0049】
処理温度(焼成温度)は、1000℃より低く、通常、300?800℃、より好ましくは400?500℃とされる。
【0050】
第2の金属酸化物半導体膜の表面に吸着された有機色素7の構成
次いで、このようにして得られた多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の表面には、有機色素が単分子として吸着させられる。有機色素としては、第2の金属酸化物半導体膜6と化学的に結合することができる色素が好ましく、分子内にカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、もしくは水酸基を有するものが好ましい。
【0051】
具体的には、ビピリジルRu錯体、タ-ピリジルRu錯体、フェナントロリンRu錯体、ビシンコニン酸Ru錯体などのRu錯体、フタロシアニンRu錯体、エオシンY、ジブロモフルオレセイン、フルオレセイン、ロ-ダミンB、ピロガロ-ル、ジクロロフルオレセイン、エリスロシンB、フルオレシン、マ-キュロクロム、シアニン、メロシアニン等の有機色素が挙げられる。
【0052】
多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の表面に、有機色素を単分子として吸着させるには、有機色素を有機溶媒に溶解させて形成した有機色素溶液中に、第2の金属酸化物半導体膜6を基板とともに浸漬させればよい。この場合、有機色素溶液が、多孔質構造の膜である第2の金属酸化物半導体膜6の内部深くに進入することができるように、第2の金属酸化物半導体膜6を有機色素への浸漬に先立ち、減圧処理したり、加熱処理して、第2の金属酸化物半導体膜6中に含まれる気泡をあらかじめ除去しておくことが好ましい。浸漬時間は30分?24時間程度とすればよい。有機色素の吸着を効率よく行うため、還流処理を行っても良い。また、浸漬処理は、必要に応じ、複数回繰り返し行うこともできる。このような浸漬処理を行った後、有機色素を吸着した第2の金属酸化物半導体膜6は、通常、常温?80℃の温度条件下で乾燥させられる。
【0053】
本発明においては、第2の金属酸化物半導体膜6に吸着される有機色素は、1種である必要はなく、必要によっては光吸収領域の異なる複数の有機色素を吸着させることが出来る。これによって、光を効率よく利用することが出来る。複数の有機色素を膜に吸着させるには、複数の有機色素を含む溶液中に第2の金属酸化物半導体膜6を浸漬する方法や、有機色素溶液を複数種類、用意し、これらの溶液に第2の金属酸化物半導体膜6を順次浸漬する方法等が挙げられる。
【0054】
有機色素を有機溶媒に溶解させた溶液において、その有機溶媒としては、有機色素を溶解しうるものであれば任意のものが使用可能である。このような溶媒としては、例えば、メタノ-ル、エタノ-ル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、ジクロロメタン、トルエン等が挙げられる。溶液中の有機色素の濃度は、溶液100ml中、1?200mg、好ましくは10?100mg程度とされる。
【0055】
本発明の色素増感型光電変換素子1(色素増感型太陽電池)は、前述したごとく表面に色素が吸着された光電変換用酸化物半導体電極70と、これと対をなす対向電極80と、それらの電極に接触する固体電荷移動層40とを有して構成される。
【0056】
固体電荷移動層40の構成
固体電荷移動層40の好適例としては、固体電解質が挙げられる。特に、固体中のキャリアー移動が電気伝導にかかわる材料、すなわち、電子輸送材料や正孔(ホール)輸送材料、を用いることが好ましい。
【0057】
本発明に適用可能な有機正孔輸送材料としては、芳香族アミン類やトリフェニレン誘導体類を好適に用いることができる。オリゴチオフェン化合物、ポリピロール、ポリアセチレンおよびその誘導体、ポリ(p-フェニレン)およびその誘導体、ポリ(p-フェニレンビニレン)およびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体、ポリトルイジンおよびその誘導体等の導電性高分子を好適に使用することができる。
【0058】
無機正孔輸送材料としては、p型無機化合物半導体を用いることができる。この目的のp型無機化合物半導体は、バンドギャップが2eV以上であることが好ましく、さらに2.5eV以上であることが好ましい。また、p型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルは色素の正孔を還元できる条件から、色素吸着電極のイオン化ポテンシャルより小さいことが必要である。使用する色素によってp型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルの好ましい範囲は異なってくるが、一般に4.5eV以上5.5eV以下であることが好ましく、さらに4.7eV以上5.3eV以下であることが好ましい。
【0059】
好ましいp型無機化合物半導体は一価の銅を含む化合物半導体である。具体的に、一価の銅を含む化合物半導体の例としてはCuI、CuSCN、CuInSe_(2)、Cu(In,Ga)Se_(2)、CuGaSe_(2)、Cu_(2)O、CuS、CuGaS_(2)、CuInS_(2)、CuAlSe_(2)などが挙げられる。このほかのp型無機化合物半導体として、GaP、NiO、CoO、FeO、Bi_(2)O_(3)、MoO_(2)、Cr_(2)O_(3)等を用いることができる。
【0060】
このような固体電荷移動層の形成方法に関しては、光電変換用酸化物半導体電極70の上に直接、固体電荷移動層40を形成する方法で、対極80はその後に形成付与することになる。
【0061】
有機正孔輸送材料は、真空蒸着法、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法、電解重合法、光電解重合法等の手法により電極内部に導入することができる。無機固体化合物の場合も、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法、電解メッキ法等の手法により電極内部に導入することができる。
【0062】
このように形成される固体電荷移動層40(特に、正孔(ホール)輸送材料)のごく一部は、図1に示されるように多孔質構造の源である金属半導体膜粒子の隙間に固体正孔輸送性材料が部分的に浸透する形態となることがある。すなわち、粒子間を浸透した固体正孔輸送性材料41が第1の金属酸化物半導体膜30と直接的に接触することがある。
【0063】
対極80の構成
対極80は、導電性材料からなる対極導電層の単層構造でもよいし、図1に示されるように対極導電層21と支持基板50との組み合わせ構造体から構成されていてもよい。対極導電層21に用いる導電材としては、金属(例えば白金、金、銀、銅、ロジウム、ルテニウム、アルミニウム、マグネシウム、インジウム等)、炭素、または導電性金属酸化物(インジウム-スズ複合酸化物、フッ素ドープ酸化スズ、等)が挙げられる。対極の好ましい支持基板50としては、ガラスまたはプラスチックが例示でき、これに導電剤を塗布または蒸着して上記導電層21が形成される。
【0064】
本発明においては、前記光電変換用酸化物半導体電極70と対極80のいずれか一方または両方から光を照射してよいので、有機色素の層に光が到達するためには、光電変換用酸化物半導体電極70と対極80の少なくとも一方が実質的に透明であれば良い。このような構造の素子は、その光電変換用酸化物半導体電極70に太陽光または太陽光と同等な可視光を当てると、光電変換用酸化物半導体電極70とその対極80との間に電位差が生じ、両極70,80間に電流が流れるように作用する。より詳細な作用は以下のとおり。
【0065】
有機色素7を担持した多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6に入射した光は、有機色素7を励起する。励起された有機色素7の高エネルギーの電子が多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6および第1の金属酸化物半導体膜30の伝導帯に渡され、さらに透明導電層11に到達する。
【0066】
電子注入した後の有機色素7は、電子の欠損した酸化体ラジカル(正孔)となるが、固体正孔輸送層40などの固体電荷移動層(40)によって電子的に還元されて速やかに再生される。固体正孔輸送層40中に生じた正孔は陽極である対極80に移動し、陰極70から外部回路を経て移動してきた電子と再結合する。このようにして、陰極から陽極に外部電極を通って一方向の電子の流れが生じ、これが外部回路で光電流として観測される。
【0067】
本発明においては、金属薄膜を形成した後に陽極酸化処理することにより形成された緻密状の第1の金属酸化物半導体膜30が、透明導電層11と多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の間に介在されている。そのため、第2の金属酸化物半導体膜6を構成している金属酸化物半導体粒子の間の間隙に固体正孔輸送材料が流入(浸透)した構造であっても内部短絡、すなわち、光励起された有機色素から多孔質金属半導体膜を経て、透明導電層表面へ到達した電子が外部回路へと取り出される前に、固体正孔輸送性材料の方へ戻ってしまう現象を回避することができる。第1の金属酸化物半導体膜30は極めて緻密性に優れ、膜の安定性も極めてよい。
【0068】
上述してきた色素増感型光電変換素子をいわゆる色素増感型太陽電池に適用する場合、そのセル内部の構造は基本的に同じである。太陽電池は光電変換素子にリード等を配置し、外部回路で仕事をさせるようにしたものである。外部回路の構成は従来公知のものであってよい。
【0069】
また、本発明における色素増感型太陽電池は、従来の太陽電池モジュールと基本的に同様のモジュール構造をとることができる。」

イ 「【図1】



ウ 上記記載事項アの段落【0022】の「本発明の色素増感型光電変換素子1は、2つの電極70,80が例えば固体電荷移動層40を介して対向配置された構成をなしている。2つの電極のうち一方の電極である70は、有機色素を備える光電変換用酸化物半導体電極70であり」、段落【0063】の「対極80は、導電性材料からなる対極導電層の単層構造でもよいし、図1に示されるように対極導電層21と支持基板50との組み合わせ構造体から構成されていてもよい。」という記載、図1の記載から、表面に「有機色素7」が吸着された「第2の金属酸化物半導体膜6」の上に「固体電荷移動層40」が形成され、この「固体電荷移動層40」の上に「対極導電層21」が形成されていると認められる。

すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「透明基板50と、この上に形成された透明導電層11と、この透明導電層11の表面に形成された第1の金属酸化物半導体膜30と、その第1の金属酸化物半導体膜30の上に形成された多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6と、この多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の表面に吸着された有機色素7と、この表面に有機色素7が吸着された多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の上に形成された固体電荷移動層40と、この固体電荷移動層40の上に形成された対極導電層21を有して構成されている色素増感型光電変換素子1であって、
第1の金属酸化物半導体膜30は、酸化対象となるTi薄膜を形成した後に、このTi薄膜を陽極酸化処理することにより形成されたものであって、
多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6は、酸化チタン、酸化亜鉛である酸化物半導体微粒子から形成された多孔質膜であって、
多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6は、その厚さが500?30000nmとされ、さらに、多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6は、その見かけ表面積に対する実表面積の比が100以上であり、
多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の表面には、ビピリジルRu錯体などのRu錯体である有機色素が単分子として吸着させられ、
固体電荷移動層40として、NiO、CoO、Bi_(2)O_(3)、MoO_(2)、Cr_(2)O_(3)等のバンドギャップが2eV以上であるp型無機化合物半導体を用い、この固体電荷移動層40のごく一部は、多孔質構造の源である金属半導体膜粒子の隙間に固体正孔輸送性材料が部分的に浸透する形態となる、すなわち、粒子間を浸透した固体正孔輸送性材料41が第1の金属酸化物半導体膜30と直接的に接触することがある、色素増感型光電変換素子1。」

4 対比
(1)本願補正発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「透明基板50」、「透明導電層11」、「第1の金属酸化物30」、「多孔質の第2の金属酸化物6」、「有機色素7」、「対極導電層21」及び「色素増感型光電変換素子1」は、それぞれ、本願補正発明の「透明基板」、「導電膜」、「短絡防止層」、「多孔質体」、「色素」、「対向電極」及び「光応答装置」に相当する。

イ 引用発明の「その第1の金属酸化物半導体膜30の上に形成された多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6と、この多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の表面に吸着された有機色素7」は、本願補正発明の「上記短絡防止層の表面に配設される多孔質体、及びこの多孔質体の表面に付着した色素を有するn型半導体部」に相当する。
また、引用発明の「この表面に有機色素7が吸着された多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の上に形成された固体電荷移動層40」は、「この固体電荷移動層40の上に形成された対極導電層21を有して」いるのであるから、本願補正発明の「このn型半導体部及び対向電極の間に配設されるp型半導体部」に相当する。
すると、引用発明の「その第1の金属酸化物半導体膜30の上に形成された多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6と、この多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の表面に吸着された有機色素7と、この表面に有機色素7が吸着された多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の上に形成された固体電荷移動層40」は、本願補正発明の「半導体層」に相当する。

ウ 上記ア及びイから、引用発明の
「透明基板50と、この上に形成された透明導電層11と、この透明導電層11の表面に形成された第1の金属酸化物半導体膜30と、その第1の金属酸化物半導体膜30の上に形成された多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6と、この多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の表面に吸着された有機色素7と、この表面に有機色素7が吸着された多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の上に形成された固体電荷移動層40と、この固体電荷移動層40の上に形成された対極導電層21を有して構成されている色素増感型光電変換素子1」は、本願補正発明の
「透明基板、導電膜、短絡防止層、半導体層及び対向電極がこの順に積層される光応答素子であって、
上記半導体層が、
上記短絡防止層の表面に配設される多孔質体、及びこの多孔質体の表面に付着した色素を有するn型半導体部と、
このn型半導体部及び対向電極の間に配設されるp型半導体部と
を備え」る構成に相当する。

エ 引用発明の「第1の金属酸化物半導体膜30は、酸化対象となるTi薄膜を形成した後に、このTi薄膜を陽極酸化処理することにより形成されたものであ」る構成は、本願補正発明の「上記短絡防止層がチタン酸化物又は亜鉛酸化物から形成され」る構成に相当する。

オ 引用発明の「多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6は、酸化チタン、酸化亜鉛である酸化物半導体微粒子から形成された多孔質膜であ」る構成は、本願補正発明の「上記n型半導体部の多孔質体がチタン酸化物又は亜鉛酸化物から形成され」る構成に相当する。

カ 引用発明の「多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6」が層状であることは自明であるから、「多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6は、その厚さが500?30000nmとされ」る構成と、本願補正発明の「上記n型半導体部が層状に形成され、このn型半導体部の膜厚が4μm以上8μm以下であ」る構成は、「上記n型半導体部が層状に形成され」る構成で一致する。

キ 引用発明の「固体電荷移動層40として、NiO、CoO、Bi_(2)O_(3)、MoO_(2)、Cr_(2)O_(3)等のバンドギャップが2eV以上であるp型無機化合物半導体を用い、この固体電荷移動層40のごく一部は、多孔質構造の源である金属半導体膜粒子の隙間に固体正孔輸送性材料が部分的に浸透する形態となる、すなわち、粒子間を浸透した固体正孔輸送性材料41が第1の金属酸化物半導体膜30と直接的に接触することがある」構成と、本願補正発明の「上記p型半導体部が金属酸化物から形成され、かつn型半導体部の孔内部に浸透し、上記p型半導体部を形成する金属酸化物のバンドギャップが3eV以上4eV以下であ」る構成とは、「上記p型半導体部が金属酸化物から形成され、かつn型半導体部の孔内部に浸透する」構成で一致する。

(2)一致点
してみると、両者は、
「透明基板、導電膜、短絡防止層、半導体層及び対向電極がこの順に積層される光応答素子であって、
上記半導体層が、
上記短絡防止層の表面に配設される多孔質体、及びこの多孔質体の表面に付着した色素を有するn型半導体部と、
このn型半導体部及び対向電極の間に配設されるp型半導体部と
を備え、
上記短絡防止層がチタン酸化物又は亜鉛酸化物から形成され、
上記n型半導体部の多孔質体がチタン酸化物又は亜鉛酸化物から形成され、
上記n型半導体部が層状に形成され、
上記p型半導体部が金属酸化物から形成され、かつn型半導体部の孔内部に浸透する光応答素子。」
で一致し、次の点で相違する。

(3)相違点
ア 多孔質体について、本願補正発明では、「上記n型半導体部が平均孔径が10nm以上50nm以下の多孔質状であり、」「このn型半導体部の膜厚が4μm以上8μm以下であ」るのに対して、引用発明では、「多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6は、その厚さが500?30000nmとされ、さらに、多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6は、その見かけ表面積に対する実表面積の比が100以上であ」る点。(以下「相違点ア」という。)

イ バンドギャップについて、本願補正発明では、「上記p型半導体部を形成する金属酸化物のバンドギャップが3eV以上4eV以下であり、上記色素のバンドギャップが1.4eV以上1.7eV以下である」のに対して、引用発明では、「多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6の表面には、ビピリジルRu錯体などのRu錯体である有機色素が単分子として吸着させられ、固体電荷移動層40として、NiO、CoO、Bi_(2)O_(3)、MoO_(2)、Cr_(2)O_(3)等のバンドギャップが2eV以上であるp型無機化合物半導体を用い」とのみ規定され、「有機色素7」のバンドギャップは明らかでなく、「p型無機化合物半導体」のバンドギャップも「2eV以上である」とのみ規定される点。(以下「相違点イ」という。)

5 判断
(1)相違点アについて
まず、引用発明の「見かけ表面積に対する実表面積の比」について考察する。
引用発明の「多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6」において、その平均孔径を小さくすると、ある程度までは「酸化物半導体微粒子」が密になって実表面積が大きくなるが、ある程度以上小さくすると、「酸化物半導体微粒子」同士が接触する面積が増えて、実表面積が小さくなっていき、逆に平均孔径を大きくすると、「酸化物半導体微粒子」が疎になって実表面積が小さくなること、また、厚さを小さくすると実表面積が小さくなり、厚さを大きくすると実表面積が大きくなることは、幾何学的に明らかである。
すると、「見かけ表面積に対する実表面積の比」を一定以上大きくすると、平均孔径が一定の範囲内になると認められる。
したがって、引用発明における「見かけ表面積に対する実表面積の比」を「100以上」のように一定以上大きくすることと、本願補正発明の「平均孔径」を「10nm以上50nm以下」のように一定の範囲内とすることには、相当程度の相関があるものと認められるから、その技術的意義については、両者に実質的な差異はない。

次に、引用発明の「多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6は、その厚さが500?30000nmとされ、さらに、多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6は、その見かけ表面積に対する実表面積の比が100以上であ」る構成について、引用文献1の段落【0045】に、
「このような多孔質構造の第2の金属酸化物半導体膜6は、その内部に微細な細孔とその表面に微細凹凸を有するものである。第2の金属酸化物半導体膜6の厚さおよび見かけ表面積に対する実表面積の比が前記範囲より小さくなると、その表面に有機色素を単分子膜として吸着させたときに、その有機色素単分子膜の表面積が小さくなり、光吸収効率の良い電極を得ることが困難となる。」
と記載されている。
他にも、引用発明のように、pn接合を利用する光電変換素子ではpn接合の界面が広い方が光電変換効率がよくなること、また、半導体層は薄すぎると光を十分に吸収できないが、厚すぎても光の吸収効率には限界がある上、電子やホールの移動距離が増えてかえって光電変換効率が低下することが技術常識であるから、引用発明において、これらの技術事項を考慮して、「厚さ」を「500?30000nm」の範囲からさらに狭い範囲に絞り込むこと、また、「見かけ表面積に対する実表面積の比」に換わる平均孔径を一定の範囲に絞り込むことは、当業者が設計時に当然に行うことにすぎない。
そして、具体的な数値は、各材料やその他光電変換素子全体としての構造等により、適宜設計されるものであるから、引用発明において、「多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6」の平均孔径を10nm以上50nm以下、膜厚を4μm以上8μm以下とすることは、当業者が適宜設計し得ることである。

(2)相違点イについて
引用発明の「ビピリジルRu錯体などのRu錯体である有機色素」のバンドギャップは不明であるが、「ビピリジルRu錯体」の実施例として、引用文献1の段落【0074】に記載された「(4,4’-ジカルボン酸-2,2’-ビピリジン)ルテニウム(II)ジイソチアネ-ト」と、本願補正発明の「色素」の実施例として、本願の明細書段落【0040】?【0043】に記載された「色素9は、色素増感型太陽電池に使用される公知のものを用いることができる。この色素9としては、例えばRu金属錯体・・・等の有機色素を挙げることができる。これらの中でも、当該光応答素子10が高い光応答性等を発揮できる点から、金属錯体色素が好ましく、Ru金属錯体がさらに好ましい。・・・色素9としての好ましいRu金属錯体の市販品としては、SOLARONIX社製のRuthenizer 535-bisTBA(cis-diisothiocyanato-bis(2,2’-bipyridyl-4,4’-dicarboxylato)rutheniumu(II)bis(tetrabutylammoniumu)、Ruthenizer 535、Ruthenizer 620-1H3TBA、Ruthenizer 520-DN等を挙げることができる。」と記載される有機色素は、極めて類似した色素であるから、引用発明の「ビピリジルRu錯体」も、本願補正発明の「1.4eV以上1.7eV以下」程度のバンドギャップを有する蓋然性が極めて高い。
また、特開2008-59851号公報(平成26年5月19日付けの拒絶理由通知で挙げられた引用文献1である。特に、段落【0051】の【化1】参照。)等に示されるように、色素増感型光電変換素子で、「cis-diisothiocyanato-bis(2,2’-bipyridyl-4,4’-dicarboxylato)rutheniumu(II)bis(tetrabutylammoniumu)のようなRu錯体」を使用することが周知であることも勘案すれば、引用発明において、「ビピリジルRu錯体などのRu錯体である有機色素」として、バンドギャップが1.4eV以上1.7eV以下の範囲のものを使用することは、当業者が適宜選択し得ることである。

また、引用発明の「p型無機化合物半導体」を形成する「NiO、CoO、Bi_(2)O_(3)、MoO_(2)、Cr_(2)O_(3)」と、本願補正発明の「p型半導体部を形成する金属酸化物」の例として、本願の明細書段落【0046】に記載された「p型半導体部7を形成する金属酸化物(p型半導体)としては、p型半導体として機能するものであれば特に限定されず、銅酸化物、パラジウム酸化物、クロム酸化物、モリブデン酸化物、ニッケル酸化物、ビスマス酸化物等を挙げることができる。」は、同じ材料(クロム酸化物、モリブデン酸化物、ニッケル酸化物、ビスマス酸化物)を含んでいる。
そして、引用文献1の段落【0058】に「使用する色素によってp型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルの好ましい範囲は異なってくる」と記載されるように、p型無機化合物半導体のバンドギャップは、色素やその他の電極材料等により適宜設計されるものであることは、当業者には周知である。
すると、引用発明の「NiO、CoO、Bi_(2)O_(3)、MoO_(2)、Cr_(2)O_(3)等のバンドギャップが2eV以上であるp型無機化合物半導体」において、具体化された色素とその他の電極材料等との組み合わせに応じて、バンドギャップが3eV以上4eV以下のものを使用することは、当業者が適宜選択し得ることである。

(3)効果について
本願補正発明が奏し得る効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は、平成27年2月2日付けの意見書の「(3-1)」、審判請求書の【請求の理由】の「(3-3-1)」において、
「引用文献1には、多孔質構造の源である金属半導体膜粒子の隙間に固体正孔輸送性材料(p型半導体部)が部分的に浸透することは記載されていますが、この「金属半導体膜粒子」は焼結する前の状態であるため、焼結後の金属半導体膜の孔内部に浸透することは記載されていません。」と、
また、審判請求書の【請求の理由】の「(4)」において、
「確かに引用文献1の段落0010、0062等には、金属半導体膜粒子の隙間にp型半導体部が部分的に浸透すると記載されていますが、焼結した状態でp型半導体が半導体膜の孔の内部に浸透していることは記載されていません。」と、
また、平成28年3月10日付けの上申書(以下、単に「上申書」という。)において、
「引用文献1の段落0010等に記載されている金属半導体微粒子が、半導体部を形成する前の固定されていない状態のもの(材料の状態のもの)であり、焼結により固定された本願発明のn型半導体部と異なる」と主張している。
しかし、引用文献1の段落【0046】?【0049】(上記「第2」「[理由]」「3」「ア」参照)には、「多孔質の第2の金属酸化物半導体膜6」の形成方法として、酸化物半導体粒子を含む塗布液を塗布した後、400?500℃の処理温度(焼成温度)で高温加熱処理する方法、すなわち、焼結する方法が記載されていることは明らかである。
すると、上記請求人の主張は、引用文献1の記載の誤認に基づくものであって、採用することはできない。

イ 請求人は、審判請求書の【請求の理由】の「(4)」において、
「引用文献1の図1を参照すれば、上述の「金属半導体膜粒子の隙間」とは、p型半導体との界面部分(金属半導体膜の表面)の凹凸を指していると考えるのが自然であり、図1ではこの界面部分への浸透のみが示されています。このようにp型半導体を半導体膜の孔の内部に浸透させることは引用文献1には示唆されていません。」と主張している。
しかし、引用文献1の段落【0062】には、
「このように形成される固体電荷移動層40(特に、正孔(ホール)輸送材料)のごく一部は、図1に示されるように多孔質構造の源である金属半導体膜粒子の隙間に固体正孔輸送性材料が部分的に浸透する形態となることがある。すなわち、粒子間を浸透した固体正孔輸送性材料41が第1の金属酸化物半導体膜30と直接的に接触することがある。」と記載され、引用文献1の図1(上記「第2」「[理由]」「3」「イ」参照)において、図番41(「固定正孔輸送性材料」)は、図番6(「第2の金属酸化物半導体膜」)と図番30(「第1の金属酸化物半導体膜」)との境界部分を指していることが明らかであることから、「固定正孔輸送性材料41」は、「第1の金属酸化物半導体膜6」を形成する「金属半導体膜粒子」の隙間を、「第2の金属酸化物半導体膜6」と「第1の金属酸化物半導体膜30」の境界面まで浸透するものと認められる。
すると、請求人の、引用文献1では、「金属半導体膜粒子の隙間」が「固体電荷移動層40」(上記請求人の主張での「p型半導体」に相当)と「第2の金属酸化物半導体膜6」との界面部分の凹凸を指しているとの主張は、引用文献1の記載の誤認に基づくものであって、採用することはできない。

(5)結論
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 小括
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成27年11月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年7月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2」「[理由]」「1」の本件補正前の請求項1の記載を参照。)

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された引用文献1、その記載内容及び引用発明は、上記「第2」「[理由]」「3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」「[理由]」「4」及び「5」で検討した本願補正発明から、
「上記n型半導体部が層状に形成され、このn型半導体部の膜厚が4μm以上8μm以下であり、」
「かつn型半導体部の孔内部に浸透し、」
という事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に限定したものに相当する本願補正発明は、前記「第2」「[理由]」「4」及び「5」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様に、本願発明も、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
してみると、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 上申書で提示された補正案について
上申書で、請求項1をさらに減縮する補正をする用意があるとして、補正案を提示しているので、この請求項1の補正案について、当審の見解を示しておく。

1 補正案の内容
補正案は、請求項1を以下の内容に補正するというものである。

「透明基板、導電膜、短絡防止層、半導体層及び対向電極がこの順に積層される光応答素子であって、
上記半導体層が、
上記短絡防止層の表面に配設される多孔質体、及びこの多孔質体の表面に付着した色素を有するn型半導体部と、
このn型半導体部及び対向電極の間に配設されるp型半導体部と
を備え、
上記短絡防止層がチタン酸化物又は亜鉛酸化物から形成され、
上記n型半導体部が、チタン酸化物又は亜鉛酸化物からなる平均粒径60nm以上100nm以下の粒子のペーストを短絡防止層の表面に塗布し焼結させることで膜厚が4μm以上8μm以下の層状に形成され、
上記n型半導体部が平均孔径が10nm以上50nm以下の多孔質状であり、
上記p型半導体部が金属酸化物から形成され、かつn型半導体部の全ての孔内部に浸透し、
上記p型半導体部を形成する金属酸化物のバンドギャップが3eV以上4eV以下であり、
上記色素のバンドギャップが1.4eV以上1.7eV以下であることを特徴とする光応答素子。」(下線は、請求人が付したものであり、本件補正をさらに補正する箇所である。)

2 新規事項
請求人は、上申書において、
「上記補正は、本願の図2に基づき、n型半導体部の全ての孔の内部にp型半導体部が浸透することを特定するものであるため、拒絶査定不服審判における補正の要件を満たします。」と主張している。
本願の図2の記載は、以下のとおりである。

イ 「【図2】



本願の図2には、一見すると、「n型半導体部の全ての孔の内部にp型半導体部が浸透する」と記載される事項に相当する構成が記載されているように見受けられる。
しかし、図2は、本願の明細書の【図面の簡単な説明】である段落【0018】に、
「【図2】図1とは異なる実施形態に係る光応答素子を示す模式的断面図」と記載されるように、単なる模式図であるから、当該図面の記載をもって、「n型半導体部の全ての孔の内部にp型半導体部が浸透する」ことまで記載されているということはできない。
また、本願の明細書には、段落【0058】に、
「上記n型半導体部17は、図1の光応答素子10のn型半導体部7と異なり、多孔質状のn型半導体部6の孔内部にまで浸透した構造を有している。当該光応答素子20によれば、このように、p型半導体部17がn型半導体部6の孔内部にまで浸透しているため、p型半導体部17とn型半導体部6との接触面積が広く、より高い光応答性を発揮することができる。」と記載されるのみで、p型半導体部17がn型半導体部6の全ての孔内部にまで浸透しているという記載はなく、本願の全明細書を精査しても、「n型半導体部の全ての孔の内部にp型半導体部が浸透する」構成の記載も示唆もないことは明らかである。
すると、図2を含む本願の全明細書及び図面から、「n型半導体部の全ての孔の内部にp型半導体部が浸透する」と記載される事項を読み取ることはできない。
したがって、上申書の補正案は、本願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものとはいえない。

3 むすび
よって、上申書の補正案は、本願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものとはいえないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであると判断されるものである。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-29 
結審通知日 2016-07-05 
審決日 2016-07-19 
出願番号 特願2011-132492(P2011-132492)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森江 健蔵  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 松川 直樹
伊藤 昌哉
発明の名称 光応答素子  
代理人 天野 一規  

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