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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61N |
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管理番号 | 1318945 |
審判番号 | 不服2015-10250 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-06-02 |
確定日 | 2016-08-17 |
事件の表示 | 特願2010-225808号「電気的作動による浸透性向上を伴う経粘膜的薬物送達のための装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日出願公開、特開2011- 78769号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年10月5日(パリ条約による優先権主張 2009年10月8日 (US)アメリカ合衆国)の出願であって、平成26年5月1日付けで拒絶理由が通知され、平成26年8月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年1月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年6月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。 第2 平成27年6月2日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成27年6月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正の内容の概要 本件補正は、平成26年8月12日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。(なお、下線部は補正箇所を示す。) (1)補正前 「経粘膜的薬物送達のための内腔内装置であって、 ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されるように構成されたハウジングと、 少なくとも一つの薬物を含む薬物分配投与部分と、 前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されている間における、選択された時間に、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部をレーザー穿孔、レーザー焼灼、ジェット貫通、ジェットクリーニング、吸引、音響的破壊、またはそれらの組み合わせによって破壊するように構成された、電気的に作動可能な部分と を備え、前記電気的に作動可能な部分により破壊された粘膜障壁部分に前記ハウジングから前記薬物を分配投与するように作動する、装置。」 (2)補正後 「経粘膜的薬物送達のための内腔内装置であって、 ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されるように構成されたハウジングと、 ピストン、アクチュエータ、および薬物貯留槽を備える、少なくとも一つの薬物を含む薬物分配投与部分と、 前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されている間における、選択された時間に、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部をレーザー穿孔、レーザー焼灼、ジェット貫通、吸引、または音響的破壊によって破壊するように構成された、電気的に作動可能な部分と を備え、前記電気的に作動可能な部分により破壊された粘膜障壁部分に前記ハウジングから前記薬物を分配投与するように作動する、装置。」 2.補正の目的及び新規事項の追加の有無 本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、以下の補正事項1及び補正事項2からなるものである。 (1)補正事項1 発明を特定するために必要な事項である「薬物分配投与部分」について、「少なくとも一つの薬物を含む薬物分配投与部分」との限定事項を、「ピストン、アクチュエータ、および薬物貯留槽を備える、少なくとも一つの薬物を含む薬物分配投与部分」と更に限定して補正するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明とは、その産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)補正事項2 補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「レーザー穿孔、レーザー焼灼、ジェット貫通、ジェットクリーニング、吸引、音響的破壊、またはそれらの組み合わせ」との限定事項のうち、平成27年1月28日付けでなされた拒絶査定時に明りょうでないと指摘された「ジェットクリーニング」及び「それらの組み合わせ」を削除して、「レーザー穿孔、レーザー焼灼、ジェット貫通、吸引、または音響的破壊」と補正するものであるから、補正事項2は、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 以上から、本件補正は、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、本件補正は、同法同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。 3.独立特許要件 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。 3-1.補正発明 補正発明は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「1.(2)補正後」に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 3-2.引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特表2003-529401号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は強調のために当審において付与したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。以下同じ。) (1-ア)「【請求項20】哺乳類動物のバリア膜を通して分子を輸送するための装置において、 皮膚接触面部を有するハウジングと、 前記皮膚接触面部に対して連通しているオリフィスを有する貯蔵器と、 前記膜を切除できる一定の電流を作成するための電流制御装置と、 前記皮膚接触面部の近くに配置されていて前記膜に対して前記電流を供給するための治療用電極を備えており、当該治療用電極が前記電流制御装置に対して電気的に連絡しており、 前記皮膚接触面部を前記膜に接触する時に、前記装置が前記電流により前記膜を切除すること、および前記貯蔵器から前記膜を通して前記哺乳類動物の体内に、あるいは、当該哺乳類動物から前記膜を通して前記貯蔵器の中に前記分子を輸送することの両方が可能になる装置。」(請求項20) (1-イ)「【0001】 発明の分野 本発明は治療目的のために薬物供給を増進すること、および診断目的のために生物学的物質のサンプリングを可能にすることの両方のために電流によりバリア膜を切除するための方法および装置に関する。」(0001段落) (1-ウ)「【0010】 発明の概要 態様の一例において、本発明は治療用電極からの電流によりバリア膜を切除する(例えば、その膜の細胞を破壊する)工程、および駆動力を利用して穿孔処理した膜の中において分子を移動する(例えば、その膜を通して哺乳類動物の中または外のいずれかに移動する)工程を含む細胞(例えば、人間等の哺乳類動物の皮膚)の少なくとも1個の層のバリア膜を通して分子を輸送するための方法を特徴とする。このような膜の例は皮膚、頬、膣、および直腸の各膜(例えば、人間の)を含むがこれらに限らない。 【0011】 ・・・本発明の方法および/または装置により供給可能な分子(例えば、活性物質等の化合物)はポリペプチド、タンパク質、糖類、多糖類、ポリヌクレオチド、および栄養素等の有機性および高分子の化合物を含むがこれらに限らない治療薬等の人体に生物学的な作用を及ぼすことのできるあらゆる物質を含むがこれらに限らない。」(0010?0011段落) (1-エ)「【0014】 駆動力の例は膜を通して分子を輸送するために供給電極および帰還電極を使用するイオン導入法、電気浸透法、逆イオン導入法、および電気穿孔法、分子を輸送するために電気的エネルギーを音響エネルギーに変換する超音波トランスデユーサを使用するフォノフォレーシス(phonophoresis)、それぞれ、哺乳類動物の体内または体外に分子を移動するためにバリア膜を跨いで正圧または負圧のいずれかを発生できる機械的な装置を使用する圧力勾配、温度上昇により分子の輸送を増大するための熱、および膜の一方の側における分子の濃度を比較的に高くすることによりその膜を介する分子の輸送を誘引する濃度勾配を含むがこれらに限らない。」(0014段落) (1-オ)「【0023】 態様の一例において、本発明は方法に関し、当該方法により、分子の輸送経路としてバリア膜内に開口部(例えば、孔)を形成するための電流を使用することにより、当該バリア膜(例えば、直腸、膣、頬の膜等の哺乳類動物における皮膚および粘膜を含む組織)を介する分子の輸送を増加および制御することが可能になる。このバリア膜を切除する方法は本明細書において「エレクトロパーフォレーション(electroperforation)」という用語で表現されている。この膜の切除(例えば、細胞層の破壊)は電流が当該膜の中を流れる際に発生する熱により生じる。本明細書において使用するように、用語の「孔(pore)」は分子輸送の増大につながる膜の崩壊を意味する。・・・」(0023段落) (1-カ)「【0045】 本発明は上記の本発明のエレクトロパーフォレーション法を実行するための装置を特徴とする。・・・ 【0046】 ・・・電流発生器14および電流制御装置12は治療用電極16に連絡していて、特定の波形、周波数、電圧、アンペア数、および継続時間の電流を治療用電極16に供給する。この電流は治療用電極16から角質層52に流れる。この電流の流れにより、その供給部位における角質層52が破壊されて小孔50が形成される。・・・ 【0047】 ・・・この時点において、エレクトロパーフォレーション処理が完了し、組織のバリア膜が孔あけされている(例えば、次の供給処理中に供給される分子に対して透過性になっている)。 【0048】 上記の結果として形成される孔50は治療のための薬剤または診断用のサンプリングのための間質液等の関連する分子のための輸送通路として作用する。・・・」(0045?0048段落) (1-キ)「【0061】 従って、図5において符号500として概略的に示されている本発明の装置の別の実施形態においては、経皮的なイオン導入装置が上記のエレクトロパーフォレーション装置の中に組み込まれている。この組み合わせ装置500はエレクトロパーフォレーションおよびイオン導入の両方を行なうことができ、ハウジング10、接着剤層11、電流発生器14、電流制御装置12、エレクトロパーフォレーション用の治療用電極16、皮膚抵抗検出用のセンサー電極18、薬物/間質液用の貯蔵器としてのチャンバー34、イオン導入式薬物供給用の導電性電極としての供給電極32、イオン導入処理用のイオン導入用電極32と共に全体的な回路を完成するための帰還電極36、および電流発生器14、イオン導入用の導電性電極32、および帰還電極36に対してそれぞれ連絡しているイオン導入制御ユニット30を備えている。 【0062】 イオン導入法による薬物供給はエレクトロパーフォレーション処理に続いて、またはこの処理と同時に行なうことができる。・・・」(0061?0062段落) 上記(1-ア)?(1-キ)の記載事項を、技術常識を踏まえつつ補正発明に照らして整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「哺乳類動物のバリア膜を通して分子を輸送するための装置であって、 ハウジング10と、 薬物/間質液用の貯蔵器としてのチャンバー34、イオン導入式薬物供給用の導電性電極としての供給電極32、イオン導入処理用のイオン導入用電極32と共に全体的な回路を完成するための帰還電極36、および電流発生器14、イオン導入用の導電性電極32、および帰還電極36に対してそれぞれ連絡しているイオン導入制御ユニット30と、 エレクトロパーフォレーション用の治療用電極16と、 を備え、前記貯蔵器から前記膜を通して前記哺乳類動物の体内に、あるいは、当該哺乳類動物から前記膜を通して前記貯蔵器の中に前記分子を輸送することの両方が可能になる装置」 3-3.対比 補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用文献1における「分子の輸送経路としてバリア膜内に開口部(例えば、孔)を形成するための電流を使用することにより、当該バリア膜(例えば、直腸、膣、頬の膜等の哺乳類動物における皮膚および粘膜を含む組織)を介する分子の輸送を増加および制御することが可能になる。」(記載事項1-オ)との記載によれば、哺乳類動物における皮膚および粘膜を含む組織として「直腸」及び「膣」が例示されているところ、技術常識を参酌すれば、「直腸」及び「膣」の「バリア膜」は「粘膜」であることは明らかである。そして、「直腸」及び「膣」は、「内腔」ということができ、その「粘膜」は「内腔内」の組織であるから、引用発明の装置は、「内腔内」に適用されるものといえる。 また、引用文献1における「本発明の方法および/または装置により供給可能な分子(例えば、活性物質等の化合物)はポリペプチド、タンパク質、糖類、多糖類、ポリヌクレオチド、および栄養素等の有機性および高分子の化合物を含むがこれらに限らない治療薬等の人体に生物学的な作用を及ぼすことのできるあらゆる物質を含む・・・」(記載事項1-ウ)との記載を参酌すれば、引用発明における「分子を輸送する」ことは、「薬物送達」ということができる。 そうすると、引用発明における「哺乳類動物のバリア膜を通して分子を輸送するための装置」は、補正発明における「経粘膜的薬物送達のための内腔内装置」に相当する。 (イ)引用文献1における「・・・その膜を通して哺乳類動物の中または外のいずれかに移動する)工程を含む細胞(例えば、人間等の哺乳類動物の皮膚)・・・」(記載事項1-ウ)との記載を参酌すれば、引用発明の装置は、「ヒトである患者又は動物である患畜」に適用されるものといえる。 また、上記(ア)に示したように、引用発明における装置は、内腔内に適用されるものといえるところ、引用文献1の図5の図示事項によれば、「ハウジング10」は、その適用部位に配置されるように構成されていることが看取できるから、引用発明における「ハウジング10」は、「ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されるように構成され」ているといえる。 (ウ)引用発明における「薬物/間質液用の貯蔵器としてのチャンバー34」は、「薬物」「用の貯蔵器」としての機能を有しているから、補正発明における「薬物貯留槽」に相当する。そして、引用発明における「薬物/間質液用の貯蔵器としてのチャンバー34、イオン導入式薬物供給用の導電性電極としての供給電極32、イオン導入処理用のイオン導入用電極32と共に全体的な回路を完成するための帰還電極36、および電流発生器14、イオン導入用の導電性電極32、および帰還電極36に対してそれぞれ連絡しているイオン導入制御ユニット30」からなる構成は、「薬物分配投与」を行うものといえるから、補正発明における「ピストン、アクチュエータ、および薬物貯留槽を備える、少なくとも一つの薬物を含む薬物分配投与部分」と、「薬物貯留槽を備える、少なくとも一つの薬物を含む薬物分配投与部分」の限りにおいて一致している。 (エ)引用文献1における「・・・電流発生器14および電流制御装置12は治療用電極16に連絡していて、特定の波形、周波数、電圧、アンペア数、および継続時間の電流を治療用電極16に供給する。この電流は治療用電極16から角質層52に流れる。この電流の流れにより、その供給部位における角質層52が破壊されて小孔50が形成される。・・・この時点において、エレクトロパーフォレーション処理が完了し、組織のバリア膜が孔あけされている(例えば、次の供給処理中に供給される分子に対して透過性になっている)。」(記載事項1-カ)との記載を参酌すれば、引用発明における「エレクトロパーフォレーション用の治療用電極16」は、「適用部位に配置されている間における、選択された時間」に、バリア膜に小孔50を形成するものといえる。そして、上記(イ)及び上記(ア)に示したように、引用発明の装置は、「ヒトである患者又は動物である患畜」の「内腔内」に適用されるものであるから、引用発明における「エレクトロパーフォレーション用の治療用電極16」は、「ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されている間における、選択された時間」に、バリア膜に小孔50を形成するものといえる。 また、上記(ア)に示したように、引用発明の装置は、「バリア膜」である「粘膜」を通して薬物送達を行うものであるところ、引用文献1の図5の図示事項によれば、「孔50」が、「ハウジングに隣接する」バリア膜の一部に形成されていることが看取できる。さらに、引用文献1には「態様の一例において、本発明は治療用電極からの電流によりバリア膜を切除する(例えば、その膜の細胞を破壊する)工程・・・」(記載事項1-ウ)と記載されているから、引用発明における「エレクトロパーフォレーション用の治療用電極16」は、「ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部を」「破壊するように構成された」ものということができる。 また、引用発明における「エレクトロパーフォレーション用の治療用電極16」は、「電気的に作動可能」であることは明らかである。 そうすると、引用発明における「エレクトロパーフォレーション用の治療用電極16」は、補正発明における「前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されている間における、選択された時間に、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部をレーザー穿孔、レーザー焼灼、ジェット貫通、吸引、または音響的破壊によって破壊するように構成された、電気的に作動可能な部分」と、「前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されている間における、選択された時間に、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部を」「破壊するように構成された、電気的に作動可能な部分」の限りにおいて一致している。 (オ)引用発明は、「前記貯蔵器から前記膜を通して前記哺乳類動物の体内に、あるいは、当該哺乳類動物から前記膜を通して前記貯蔵器の中に前記分子を輸送することの両方が可能になる装置」であるところ、引用文献1における「上記の結果として形成される孔50は治療のための薬剤または診断用のサンプリングのための間質液等の関連する分子のための輸送通路として作用する。・・・」(記載事項1-カ)との記載を参酌すれば、引用発明における「前記貯蔵器から前記膜を通して前記哺乳類動物の体内に」「前記分子を輸送すること」は、補正発明における「電気的に作動可能な部分による破壊された粘膜障壁部分に前記ハウジングから前記薬物を分配投与するように作動する」ことに相当する。 してみると、両者は次の点で一致している。 (一致点) 「経粘膜的薬物送達のための内腔内装置であって、 ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されるように構成されたハウジングと、 薬物貯留槽を備える、少なくとも一つの薬物を含む薬物分配投与部分と、 前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されている間における、選択された時間に、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部を破壊するように構成された、電気的に作動可能な部分と を備え、前記電気的に作動可能な部分により破壊された粘膜障壁部分に前記ハウジングから前記薬物を分配投与するように作動する、装置。」 そして、両者は次の点で相違している。 (相違点1) 「薬物分配投与部分」について、補正発明は、「ピストン、アクチュエータ、および薬物貯留槽を備える」のに対し、引用発明は、薬物/間質液用の貯蔵器としてのチャンバー34、イオン導入式薬物供給用の導電性電極としての供給電極32、イオン導入処理用のイオン導入用電極32と共に全体的な回路を完成するための帰還電極36、および電流発生器14、イオン導入用の導電性電極32、および帰還電極36に対してそれぞれ連絡しているイオン導入制御ユニット30からなるものであって、「ピストン、アクチュエータ」を備えていない点。 (相違点2) 「前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部を」「破壊するように構成された、電気的に作動可能な部分」について、補正発明は、「レーザー穿孔、レーザー焼灼、ジェット貫通、吸引、または音響的破壊によって破壊するように構成された」ものであるのに対し、引用発明は、「エレクトロパーフォレーション用の治療用電極16」である点。 3-4.判断 次に、上記相違点について検討する。 (1)相違点1について 薬物送達の技術分野における薬物分配投与部分として、ピストン、アクチュエータを備えるものは、特表2006-517827号公報(0001段落、0264-0266段落、FIG27A、FIG27B等参照)、特開2005-124708号公報(0056?0061段落、0065?0070段落、図16?18、図21?24等参照)、実公平1-37613号公報(第6欄第26?32行、第1?2図等参照)に記載されているように周知の技術手段(以下、「周知技術A」という。)である。 また、引用文献1における「・・・駆動力を利用して穿孔処理した膜の中において分子を移動する(例えば、その膜を通して哺乳類動物の中または外のいずれかに移動する)工程・・・」(記載事項1-ウ)及び「駆動力の例は膜を通して分子を輸送するために供給電極および帰還電極を使用するイオン導入法、電気浸透法、逆イオン導入法、および電気穿孔法、分子を輸送するために電気的エネルギーを音響エネルギーに変換する超音波トランスデユーサを使用するフォノフォレーシス(phonophoresis)、それぞれ、哺乳類動物の体内または体外に分子を移動するためにバリア膜を跨いで正圧または負圧のいずれかを発生できる機械的な装置を使用する圧力勾配、温度上昇により分子の輸送を増大するための熱、および膜の一方の側における分子の濃度を比較的に高くすることによりその膜を介する分子の輸送を誘引する濃度勾配を含むがこれらに限らない。」(記載事項1-エ)との記載によれば、膜を通して分子を輸送するための手段として、バリア膜を跨いで正圧を発生できる機械的な装置等、種々の手段を採用することが示唆されているといえる。 そして、薬物分配投与部分としてどのような手段を用いるかは、当業者であれば、装置が適用される部位や、投与される薬物の種類や用量・用法等に応じて適宜決定し得ることであるから、引用発明における薬物分配投与部分について上記周知技術Aを採用して、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2)相違点2について 薬物送達の技術分野におけるバリア膜を破壊する手段として、レーザー穿孔、ジェット貫通、音響的破壊によるものは、原査定時に示した特開2008-307391号公報(0001段落、0011段落、0130段落、0141?0142段落等参照)、特表2005-528137号公報(0001段落、0025段落等参照)に記載されているように周知の技術手段(以下、「周知技術B」という。)である。 ここで、薬物送達にあたってバリア膜を破壊する際、どのような手段でバリア膜を破壊するかは、当業者であれば、装置が適用される部位や、薬物の送達に必要とされるバリア膜の損傷の大きさ等に応じて適宜選択し得ることであるから、引用発明における電気的に作動可能な部分について上記周知技術Bを採用し、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 したがって、補正発明は、引用発明、周知技術A及び周知技術Bに基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、補正発明の効果は、引用発明、周知技術A及び周知技術Bからみて、当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。 以上のとおり、補正発明は、引用発明、周知技術A及び周知技術Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3-5.まとめ 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。 よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。 第3 本願発明 1.本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成26年8月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「第2」の「1.(1)補正前」に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 第4 引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記「第2」の「3-2.引用文献の記載事項」に示したとおりである。 第5 対比・判断 補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、上記「第2」の「3-3.対比」に示したとおりであるところ、本願発明は、補正発明から、発明を特定するために必要な事項である「少なくとも一つの薬物を含む薬物分配投与部分」の限定事項について、「ピストン、アクチュエータ、および薬物貯留槽を備える」との限定を削除し、また、補正発明における「レーザー穿孔、レーザー焼灼、ジェット貫通、吸引、または音響的破壊」の限定事項について、「ジェットクリーニング」及び「それらの組み合わせ」を付加して、「レーザー穿孔、レーザー焼灼、ジェット貫通、ジェットクリーニング、吸引、音響的破壊、またはそれらの組み合わせ」としたものである。 そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。 (相違点2’) 「前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部を」「破壊するように構成された、電気的に作動可能な部分」について、本願発明は、「前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一部をレーザー穿孔、レーザー焼灼、ジェット貫通、ジェットクリーニング、吸引、音響的破壊、またはそれらの組み合わせによって破壊するように構成された」ものであるのに対し、引用発明は、「エレクトロパーフォレーション用の治療用電極16」である点。 上記相違点2’について検討するに、上記「第2」の「3-4.判断」の「(2)相違点2について」に示したとおり、薬物送達の技術分野におけるバリア膜を破壊する手段として、レーザー穿孔、ジェット貫通、音響的破壊によるものは、原査定時に示した特開2008-307391号公報(0001段落、0011段落、0130段落、0141段落、0142段落等参照)、特表2005-528137号公報(0001段落、0025段落等参照)に記載されているように周知の技術手段(「周知技術B」)である。 ここで、薬物送達にあたって生体膜を破壊する際、どのような手段で生体膜を破壊するかは、当業者であれば、装置が適用される部位や、薬物の送達に必要とされるバリア膜の損傷の大きさ等に応じて適宜選択し得ることであるから、引用発明における電気的に作動可能な部分について上記周知技術Bを採用し、上記相違点2’に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-03-18 |
結審通知日 | 2016-03-22 |
審決日 | 2016-04-04 |
出願番号 | 特願2010-225808(P2010-225808) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61N)
P 1 8・ 575- Z (A61N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石川 薫 |
特許庁審判長 |
内藤 真徳 |
特許庁審判官 |
平瀬 知明 土田 嘉一 |
発明の名称 | 電気的作動による浸透性向上を伴う経粘膜的薬物送達のための装置及び方法 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 加藤 和詳 |