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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G21K
管理番号 1318977
審判番号 不服2015-7894  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-28 
確定日 2016-09-26 
事件の表示 特願2011-150994「中性子線照射装置及び中性子線照射装置のメンテナンス方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月31日出願公開、特開2013- 19692、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の概要
本願は、平成23年7月7日の出願であって、 平成26年10月8日付けで拒絶理由が通知され、同年12月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年1月29日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされた。
本件は、これに対して、平成27年4月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成27年7月7日付けで前置報告がなされ、同年8月18日付けで上申書が提出された。
さらに、その後、当審において、平成28年3月7日付けで拒絶理由(以下、「当審拒理(最初)」という。)が通知され、平成28年5月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年5月26日付けで拒絶理由(最後)(以下、「当審拒理(最後)」という。)が通知され、同年7月22日付けで意見書及び手続補正書が提出された。


第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成28年7月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明、(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
照射室内の被照射体に中性子線を照射する中性子線照射装置であって、
荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、
前記荷電粒子線が照射されることで中性子線を発生させる中性子線発生部と、
前記加速器と前記中性子線発生部とを接続するダクトと、
前記中性子線発生部を収容する収容室を有すると共に、前記中性子線発生部で発生した中性子線を減速させて前記被照射体へ照射される中性子線のエネルギーを低下させる減速体と、
を備え、
前記減速体は、
前記中性子線を減速させるための減速材と、
前記減速材の外側を覆って前記中性子線の漏洩を防止すると共に、前記中性子線の出射方向における下流側に開口が設けられた遮蔽材と、を有し、
前記収容室は、前記減速材中に設けられ、前記中性子線の出射方向における上流側に開いており、
前記中性子線発生部は、
前記ダクトの端部に取り付けられ、
前記ダクトの延伸方向と直交する直交方向における長さが、前記ダクトの前記直交方向における長さよりも長く、
前記減速体の前記収容室に収容された状態から、前記減速体を移動させることなく、前記減速体から離間するように前記ダクトに沿って前記ダクトの上流側へ移動させて、前記減速体の外部へ取り出すことが可能であることを特徴とする中性子線照射装置。」


第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要

本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開2009-204428号公報
引用文献2:実公昭45-9520号公報

引用文献1に記載された発明に、引用文献2に記載された発明を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。

2 原査定の理由の判断
(1)引用文献の記載事項
ア 引用文献1には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るターゲット回収装置の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るターゲット回収装置及びBNCT装置の側面図であり、図2はBNCT装置及びターゲット回収装置の平面図であり、図3はBNCT装置及びターゲット回収装置の背面図である。
【0016】
図1?図3に示されるように、BNCT装置(中性子発生装置)1は、中性子捕捉療法(NCT:Neutron Capture Therapy)によってがん治療等を行うための装置である。BNCT装置1は、患者が治療を受けるために座る治療台3と、サイクロトロンでつくられる高速の陽子(以下、「陽子線」という)Pを受けて中性子を発生させるターゲット(ターゲット部)6(図4及び図5参照)を保持するターゲット装置5と、ターゲット6で発生した中性子Nを減速させ、低エネルギーの中性子Nとして患者に照射する中性子減速装置(「モデレータ」ともいう)7と、を備えている。陽子線Pは、加速粒子に相当する。なお、以下の説明では、図1における中性子減速装置7の治療台3側を前、逆側を後として説明する。
【0017】
中性子減速装置(中性子減速部)7は、減速材を収容した本体部8を備える。本体部8の後側には、ターゲット装置5を受け入れる円筒状の空洞が形成された収容室8aが形成されており、収容室8aの前方には減速材として鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、CaF_(2)が順番に配置されている。また、収容室8a及び減速材の周囲には、中性子Nの漏洩を防止するために、鉛からなる反射材が配置されている。本体部8の前方には、中性子Nの照射方向を整えるコリメータ9が配置されている。
【0018】
中性子減速装置7の下には、前後方向に沿って延在する左右一対のレールR1が敷設されており、中性子減速装置7の下部には、レールR1に沿って前後方向に移動するLMガイド(駆動手段)10が設けられている。LMガイド10の駆動により、中性子減速装置7は、前後に往復動可能である。
【0019】
ターゲット装置5は、サイクロトロンに繋がるように敷設されたビームダクト(ダクト管)11の終端に、着脱自在に取り付けられている。ビームダクト11は、サイクロトロンによって加速された陽子線Pが通る真空ラインを形成する。ターゲット装置5(図4及び図9参照)は、陽子線Pの照射を受けて中性子Nを発生するターゲット6(ターゲット部)と、ターゲット6を保持するターゲットホルダー5aとからなる。ターゲット6はベリリウム(Be)からなる円板状の部材であり、陽子線Pの照射を受けて中性子Nを発生する。
【0020】
ターゲットホルダー5aは、銅(Cu)またはグラファイトによって製作される。ターゲットホルダー5aは、中性子Nを発生するターゲット6を冷却するための冷却水流路が形成された冷却部5bと、ビームダクト11に連通する接続用短管(管部)5cとを備えている。ターゲット6は冷却部5b及び接続用短管5cに挟持されている。
【0021】
図4?図6に示されるように、接続用短管5cは、主接続手段(接続手段)13によってビームダクト11に着脱自在に接続されている。ビームダクト11の終端には固定側フランジ11aが設けられており、接続用短管5cには、固定側フランジ11aに当接する受け側フランジ5d(図5参照)が設けられている。受け側フランジ5dの外縁径は、固定側フランジ11aの外縁径に一致しており、受け側フランジ5dは、固定側フランジ11aに外縁を合わせた状態で当接される。
【0022】
主接続手段13は、固定側フランジ11a及び受け側フランジ5dの両外縁に沿って掛け回すように装着される一本のクランプチェーン15を備える。クランプチェーン15の両端には、L字状の締結部16,17が設けられている。第1の締結部16(図6参照)にはボルト(ボルト部)19が螺合する雌ねじH1が形成されており、第2の締結部17にはボルト19が挿通する挿通孔H2が形成されている。
【0023】
ボルト19の軸部19aの周囲には、筒状の形状記憶合金部(熱膨張部)21が装着されている。形状記憶合金部21は、第2の締結部17とボルト19の頭部19fとの間に挟まれるように配置され、両端が、それぞれ座金を介して第2の締結部17またはボルト19の頭部19fを押圧する。ボルト19を締め付けることにより、第1の締結部16、第2の締結部17及び形状記憶合金部21は固定される。第1の締結部16と第2の締結部17とを締め付けると、クランプチェーン15が固定側フランジ11a及び受け側フランジ5dを外縁から中心方向に向けて締め付ける。クランプチェーン15は、固定側フランジ11a及び受け側フランジ5dを掛け回すように配置されているため、固定側フランジ11a及び受け側フランジ5dには周方向で均等な押圧がかかり、ビームダクト11とターゲット装置5とを精度良く確実に接続する。
【0024】
形状記憶合金部21の周囲には筒状のヒータ部23が装着されており、ヒータ部23の周囲にはカバー部25が装着されている。ヒータ部23には電源回路26(図2参照)に接続された配線27が接続されており、ヒータ部23に通電すると、ヒータ部23は形状記憶合金部21を加熱する。形状記憶合金部21は、ヒータ部23からの加熱によって主としてボルト19の軸線L方向に熱膨張し、ボルト19を軸線L方向に引っ張る。ボルト19の軸部19aには、ノッチ(切り込み部)19bが形成されている。ノッチ19bは、第1の締結部16と第2の締結部17とが接する境界近傍位置に形成されている。ボルト19は、軸線L方向への引っ張り力を受けると、ノッチ19bで破断する(図7参照)。すると、クランプチェーン15を締め付けていた力が解かれ、ターゲット装置5とビームダクト11との接続が解かれる(図8参照)。クランプチェーン15及びボルト19によって固定手段20が構成され、固定手段20、形状記憶合金部21及びヒータ部23によって主接続手段13が構成される。
【0025】
ターゲット装置5の冷却部5b(図9参照)には、冷却水の導入のための上流側短管31が固定されており、上流側短管31は、副接続手段41によって、冷却水導入のために敷設された上流管33に着脱自在に接続されている。また、冷却部5bには、冷却水の排出のための下流側短管35が固定されており、下流側短管35は、副接続手段41によって、冷却水排出のために敷設された下流管37に着脱自在に接続されている。上流管33と上流側短管31とはフランジ同士が当接しており、同様に、下流管37と下流側短管35とはフランジ同士が当接している。副接続手段41は、主接続手段13と同様な構成によって上流管33と上流側短管31とを接続し、また、下流管37と下流側短管35とを接続している。
【0026】
図2及び図3に示されるように、中性子減速装置7は、レールR1に沿って前後に移動可能であり、最も後方に移動した状態が、ターゲット装置5を収容室8a内に収容した収容位置A1となる。中性子減速装置7は、収容位置A1から前方に移動することで、ターゲット装置5を収容室8a内から露出させることができ、この状態は退避位置A2となる。中性子減速装置7は、収容位置A1と退避位置A2との間を往復動でき、この往復動によって中性子減速装置7が通過する領域は、中性子減速装置7の軌道Cになる。
【0027】
ターゲット回収装置2は、ターゲット装置5を回収する回収容器(回収部)43と、回収容器43を平行移動可能に保持する回収容器駆動手段(回収部駆動手段)45とを備える。回収容器43には、上部開口43aが形成されている。中性子減速装置7が設置されている床面には、中性子減速装置7の軌道Cに沿った前後方向に対して直交するように延在するレールR2が敷設されている。回収容器駆動手段45は、回収容器43が固定されたテーブル45aと、テーブル45aをレールR2に沿って移動させるLMガイド45bを備える。回収容器駆動手段45は、中性子減速装置7の軌道Cから外れた待機位置B2にて回収容器43を保持し、中性子減速装置7が前進して退避位置A2にある場合には、中性子減速装置7の軌道C上に回収容器43を進入させ、ターゲット装置5の鉛直下方である回収位置B1にて回収容器43を保持する。
【0028】
図3に示されるように、ターゲット回収装置2は、待機位置B2の回収容器43の上方に配置された容器封鎖装置47を備える。容器封鎖装置47は、回収容器43の上部開口43aを封鎖する蓋部46を保持する蓋保持部47aと、蓋保持部47aを上下方向に駆動する駆動部47bとを備えている。駆動部47bは、回収容器43の上部開口43aを塞ぐように蓋部46を回収容器43に装着する
【0029】
ターゲット回収装置2は、中性子減速装置7を移動させるLMガイド10、主接続手段13に電力を供給する電源回路26、回収容器駆動手段45及び容器封鎖装置47の駆動部47bに有線または無線によって接続された制御手段48を備える。制御手段48は、CPU、RAM及びROMなどが実装された制御基板、入出力装置及び外部記憶装置などを備えており、CPUやRAMなどのハードウェア上に所定のソフトウェアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで入出力装置が動作して、所定の機能が実現される。
【0030】
すなわち、制御手段48は、収容位置A1と退避位置A2との間での中性子減速装置7の往復動を制御する。また、制御手段48は、回収容器駆動手段45の駆動を制御し、中性子減速装置7が収容位置A1にある場合には、中性子減速装置7の軌道Cから外れた待機位置B2にて回収容器43を待機させ、中性子減速装置7が退避位置A2にある場合には、回収容器43をターゲット装置5の鉛直下方である回収位置B1まで進入させる。また、制御手段48は、電源回路26を制御して主接続手段13のヒータ部23に通電してボルト19を破断させ、ターゲット装置5とビームダクト11との接続を解く。さらに、制御手段48は、落下したターゲット装置5を受け入れた回収容器43を待機位置B2まで移動させ、容器封鎖装置47を駆動して蓋部46で回収容器43の上部開口43aを封鎖する。ターゲット回収装置2は、LMガイド10、主接続手段13、副接続手段41、回収容器43、回収容器駆動手段45、容器封鎖装置47、制御手段48を備えて構成される。」

(イ)「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】



上記図1、2及び4から、「ターゲット装置5」の径が「ビームダクト11」の径より大きい構成が読み取れる。

すると、上記引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「患者が治療を受けるために座る治療台3と、サイクロトロンでつくられる陽子線Pを受けて中性子を発生させるターゲット6を保持するターゲット装置5と、ターゲット6で発生した中性子Nを減速させ、低エネルギーの中性子Nとして患者に照射する中性子減速装置7とを備えているBNCT装置1であって、
中性子減速装置7は、減速材を収容した本体部8を備え、本体部8の後側には、ターゲット装置5を受け入れる円筒状の空洞が形成された収容室8aが形成されており、収容室8aの前方には減速材として鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、CaF_(2)が順番に配置されており、また、収容室8a及び減速材の周囲には、中性子Nの漏洩を防止するために、鉛からなる反射材が配置されていて、本体部8の前方には、中性子Nの照射方向を整えるコリメータ9が配置されており、
中性子減速装置7の下には、前後方向に沿って延在する左右一対のレールR1が敷設されており、中性子減速装置7の下部には、レールR1に沿って前後方向に移動するLMガイド10が設けられていて、LMガイド10の駆動により、中性子減速装置7は、前後に往復動可能であり、
ターゲット装置5は、サイクロトロンに繋がるように敷設された、ビームダクト11の終端に、着脱自在に取り付けられていて、ビームダクト11は、サイクロトロンによって加速された陽子線Pが通る真空ラインを形成し、
ターゲット装置5の径がビームダクト11の径より大きく、
中性子減速装置7は、最も後方に移動した状態が、ターゲット装置5を収容室8a内に収容した収容位置A1となり、収容位置A1から前方に移動することで、ターゲット装置5を収容室8a内から露出させることができ、この状態は退避位置A2となり、
ターゲット回収装置2は、ターゲット装置5を回収する回収容器43と、回収容器43を平行移動可能に保持する回収容器駆動手段45とを備え、中性子減速装置7が設置されている床面には、中性子減速装置7の軌道Cに沿った前後方向に対して直交するように延在するレールR2が敷設されていて、回収容器駆動手段45は、回収容器43が固定されたテーブル45aと、テーブル45aをレールR2に沿って移動させるLMガイド45bを備え、回収容器駆動手段45は、中性子減速装置7の軌道Cから外れた待機位置B2にて回収容器43を保持し、中性子減速装置7が前進して退避位置A2にある場合には、中性子減速装置7の軌道C上に回収容器43を進入させ、ターゲット装置5の鉛直下方である回収位置B1にて回収容器43を保持する、
BNCT装置1。」

イ 引用文献2には、以下の事項が記載されている。

(ア)「考案の詳細な説明
本案は中性子発生装置等粒子加速器に係り、特にターゲツトを支持する延長管装置の改良に関するものである。
放射化分析装置の放射熱源として、最近よく中性子線発生装置を用いる。この装置は粒子発生源から射出された粒子を加速管で加速し、これをその加速管の先端部に延長管を介して設けたターゲツトに当て、中性子を発生するものである。
而して、この装置により発生する中性子をオペレータ或は、他の物体に曝射することは、大変危険であるので、この装置を比較的厚いコンクリートで作つた室に納める必要がある。しかしこのような室を作ることは経費がかさむので前記装置の延長管の部分のみを、放射線遮蔽材で被覆するものがある。この場合、ターゲツトの点検、 交換に際し、いちいち被照射体と延長管とを解体操作するか、あるいはターゲツトの取着け方法を特殊なものとしなければならず、またその都度調整を行わなければならない煩雑さがある。
本案は前記のような煩雑な操作を必要としない有効適切な粒子加速器用延長管装置を提供しようとするものであつて延長管と、この延長管を支持する溝を有する第一の放射線遮蔽材と、前記延長管を被覆するように般けられ、第一の放射線遮蔽材に当接される第二の放射線遮蔽材と、前記延長管の中間部に設けられ屈折自在とするヒンジとしてなるものである。
以下図面につき本案の実施例を説明すると、ベローズ1で気密接続した延長管Mの前後管体2,3はベローズ1の中点を通る垂直軸上で屈折し得るようヒンジ4で結合してあり、該ヒンジのピン5,5を中心として前方の管体2を水平方向に屈折変位自在とするものである。
2分割し、一方をレール6,6により移動自在とし他方を固定した鉛等の放射練遮蔽材7,8の他方8に溝8aを設ける。ターゲツト9を前記管体2の先端部に取り付けこれら管体を前記溝8aを設けたクリツプ10により支持する。
しかして前記クリツプ10に管体2を支持させたときは、両管体2,3は直線状にすることができ又、このクリツプから第1図或は第2図のように鎖線方向に引くと、前記ヒンジ4のピン5を中心として回動することができる。
なお図中11は管体3と接続する加速管、12はイオン源、14は前記ターゲツト9の前面であつて放射線遮蔽材8の溝8aに支持され中性子を照射する試料である。
本案は前記のように構成するものであるから試料14に中性子を照射するときは、これを第1図図示状態にし、放射線遮蔽材7を矢印方向に移し放射線遮蔽材8に衝合する. 次にこの装置を付勢し、イオン源12から荷電粒子を発生し、加速管11で加速し、延長管Mを介してターゲツト9に当て、中性子を発生して、この中性子を前記試料14に照射し、放射化し、これを周知の方法によつて分析する。更に2,3,4・・・・・・n回試料の放射化分析するのも前記と同様な方法によつて行えばよい。
このような試料を多数回放射化分析すると、ターゲツト9の中性子発生源が失われてくるので、このターゲツトの位置を変えたり、又これをとりかえる必要がある。そのような場合には、放射線遮蔽材7は第1図図示状態のように放射遮蔽材8から離間したとき、管体2を鎖線のように引き出しターゲツト9の点検、交換などをすればよい。
ターゲツト9の点検、交換が了れば、再び管体2を放射線遮蔽材8に押し込むようにして変位させるだけで、管体2,3の直線状態が得られる。
したがつて本案延長管装置はターゲツトの点検交換に際し、前方の管体を水平方向に屈折するだけでターゲツトを放射線遮蔽材から露出でき、また該管体を元に戻せばターゲツトを元の状態に復帰させることができるし、ターゲツトの取着けが最も一般的な前面からのねじ止めや締付けによることができるなど優れた効果を具備するものである。
なお上記実施例に於いては、延長管を、放射線遮蔽材によつて支持したが、試料が比較的に大きくなつた場合には、この試料によつて延長管を支持しても良い。この場合、この試料は、放射線遮蔽材によつて被覆することは勿論である。」

(イ)「



(2)対比
本願発明と引用発明1を対比すると、
「照射室内の被照射体に中性子線を照射する中性子線照射装置であって、
荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、
前記荷電粒子線が照射されることで中性子線を発生させる中性子線発生部と、
前記加速器と前記中性子線発生部とを接続するダクトと、
前記中性子線発生部を収容する収容室を有すると共に、前記中性子線発生部で発生した中性子線を減速させて前記被照射体へ照射される中性子線のエネルギーを低下させる減速体と、
を備え、
前記減速体は、
前記中性子線を減速させるための減速材と、
前記減速材の外側を覆って前記中性子線の漏洩を防止すると共に、前記中性子線の出射方向における下流側に開口が設けられた遮蔽材と、を有し、
前記収容室は、前記減速材中に設けられ、前記中性子線の出射方向における上流側に開いており、
前記中性子線発生部は、
前記ダクトの端部に取り付けられ、
前記ダクトの延伸方向と直交する直交方向における長さが、前記ダクトの前記直交方向における長さよりも長く、
前記減速体の前記収容室に収容された状態から、前記減速体の外部へ取り出すことが可能である、
中性子線照射装置。」
で一致し、次の点で相違する。

・中性子線発生部の取り出しに際して、
本願発明は、「前記減速体の前記収容室に収容された状態から、前記減速体を移動させることなく、前記減速体から離間するように前記ダクトに沿って前記ダクトの上流側へ移動させて、前記減速体の外部へ取り出すことが可能である」(特に、下線部)のに対して、
引用発明1は、「後側には、ターゲット装置5を受け入れる円筒状の空洞が形成された収容室8aが形成され」た「減速材を収容した本体部8を備え」た「中性子減速装置7」を移動させて、「ターゲット装置5を回収する」構成(特に、下線部)である点。(以下、「相違点ア」という。)

(3)判断
上記相違点アについて検討する。
引用文献2に記載された「放射化分析装置」は、「ターゲツト9」の前面に、減速体ないしは減速材を介さずに配置した「試料14」に中性子を照射するものであって、減速体ないしは減速材を有さないものである。また、該「放射化分析装置」は、「放射線遮蔽材7」(本願発明の「遮蔽材」、引用発明1の「反射材」に相当する。)を移動させて、「ターゲツト9」を交換するものである。
すると、引用発明1と引用文献2に記載された「放射化分析装置」は、減速体ないしは減速材を有する/有しないという前提構成がそもそも相違するうえ、引用文献2に記載された「放射化分析装置」は、「放射線遮蔽材7」を移動させて、「ターゲツト9」を交換するものであることを考慮すれば、引用発明1に引用文献2に記載された「放射化分析装置」における「ターゲツト9」の交換のための構成を組み合わせることはできないことは明らかである。
すると、上記相違点アは、引用発明1に、引用文献2に記載された「放射化分析装置」を採用することにより当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

また、他に、上記相違点アに係る構成が公知であることを示す証拠もない。

そして、本願発明は、上記相違点アに係る構成を備えることにより、メンテナンス時に作業者が受ける放射線の影響を低減するとともに、減速体を設置する部屋の面積の増大を抑制することができるという格別な効果を奏する。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明1、引用文献2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、本願の請求項2、3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであり、本願の請求項4に係る発明は、上記相違点アに係る構成を備える「中性子線照射装置のメンテナンス方法」に係る発明であり、本願の請求項5に係る発明は、本願の請求項4に係る発明を更に限定したものであるから、本願発明と同様に、当業者が引用発明、引用文献2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1 当審拒理(最初)について
(1)当審拒理(最初)の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献3:特開2001-349990号公報
引用文献1:特開2009-204428号公報

引用文献1に記載された発明に、引用文献2に記載された構成を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。

(2)当審拒理(最初)の判断
ア 引用文献3には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、中性子を発生させる中性子発生施設、およびその保守点検方法に係り、更に詳しくは中性子減速材や中性子反射体の交換や保守点検を容易に行なえるようにした中性子発生施設、およびその保守点検方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図7は、この種の従来から用いられている中性子発生施設の配置構成例を示す正面断面図である。
【0003】すなわち、この種の中性子発生施設は、タンク1の中に、中性子減速材6と、中性子反射体7と、陽子ビーム管8と、ターゲット部9とを収納し、タンク1の上部をタンク蓋2で覆った構成としている。
【0004】そして、陽子ビーム管8によって導入された高エネルギーの陽子ビーム11が、陽子ビーム窓10を介してターゲット部9を照射することにより、核破砕が生じるとともに、高エネルギーの中性子が発生する。この高エネルギーの中性子を、中性子減速材6によって減速させることによって低エネルギーの中性子を取得し、この低エネルギーの中性子を図示しない設備側に供給して、病気の治療や物質化学の研究等に用いている。
【0005】なお、中性子反射体7としては、例えば鉛が用いられ、中性子を反射させることによって、中性子発生施設外への中性子の漏洩を防ぎ、これによって中性子を有効に活用することができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の中性子発生施設では、以下のような問題がある。
【0007】すなわち、低エネルギーの中性子を効率良く発生させるとともに、その中性子を設備側に効率良く供給するためには、ターゲット部9と中性子減速材6との幾何学的配置、および中性子減速材6と設備側とをつなぐ中性子輸送管の配置を精度良く行なうことが必要である。
【0008】そのため、中性子減速材サポート12を設け、これによって中性子減速材6を中性子反射体7に固定している。また、中性子反射体7も、タンク1底部に固定された中性子反射体支持脚5によって支持されている。
【0009】このように、従来技術による中性子発生施設では、サポートを用いて、所定の配置寸法を実現している。
【0010】一方、陽子ビーム窓10は、高エネルギーの陽子ビーム11の照射により、発熱するとともに劣化する。また、中性子減速材6および中性子反射体7も中性子の照射によって劣化する。したがって、これらについては、定期的な保守点検、および交換が必要となる。
【0011】しかしながら、従来の中性子発生施設では、上述したように、中性子減速材6が中性子減速材サポート12により中性子反射体7に固定されている。また、中性子反射体7も中性子反射体支持脚5によってタンク1底部に固定されている。
【0012】したがって、これらの保守点検、および交換作業を行なう場合には、まず中性子減速材サポート12をはずしたり、中性子反射体7を中性子反射体支持脚5からはずす必要があり、容易ではない。
【0013】このため、従来の中性子発生施設では、一旦、保守点検および交換作業に入ると、それらに多大な時間を費やすという問題がある。
【0014】特に、この中性子発生施設によって発生した中性子を、病気の治療に用いる場合には、患者は再びこの施設を利用できるようになるまでに長期間待たねばならず、この問題は更に深刻となる。
【0015】本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、タンク内に中性子減速材および中性子反射体を合理的に配置し、もって、保守点検および必要な交換作業を容易に行なうことが可能な中性子発生施設およびその保守点検方法を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0017】すなわち、請求項1の発明では、中性子を発生させる中性子発生手段と、中性子発生手段を配置するための配置部を内部に備え、中性子発生手段により発生した中性子を減速させる中性子減速手段と、中性子減速手段を配置するための凹部を備えるとともに、中性子減速手段に備えられた配置部へ中性子発生手段を導入するための導入口を備え、中性子発生手段により発生した中性子を反射させる中性子反射体と、少なくとも中性子発生手段と中性子減速手段と中性子反射体とを収納する収納タンクとを備え、収納タンクに中性子反射体を、その凹部を備えた面が上面となるように収納し、かつ凹部に中性子減速手段を配置し、中性子発生手段を、中性子反射体に備えられた導入口から導入して、中性子減速手段に備えられた配置部に配置する。
【0018】請求項2の発明では、請求項1の発明の中性子散乱施設において、中性子減速手段として液体減速材を用いるとともに、中性子減速手段に、液体減速材を循環させるための配管を備える。
【0019】請求項3の発明では、請求項1または請求項2の発明の中性子発生施設における配置部に配置されている中性子発生手段を、配置部から導入口側に取り出し、しかる後に中性子減速手段を凹部から取り外して、当該中性子減速手段の交換または保守点検を行う。
【0020】請求項4の発明では、請求項1または請求項2の発明の中性子発生施設における配置部に配置されている中性子発生手段を、配置部から導入口の外側に取り出し、次に中性子減速手段を凹部から取り外し、しかる後に中性子反射体を収納タンクから取り出して、当該中性子減速手段、中性子反射体、中性子発生手段および収納タンクのうちの少なくとも一つの交換または保守点検を行う。
【0021】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】なお、以下の各実施の形態の説明に用いる図中の符号は、図7と同一部分については同一符号を付して示すことにする。
【0023】(第1の実施の形態)本発明の第1の実施の形態を図1から図5を用いて説明する。
【0024】図1は、第1の実施の形態に係る中性子発生施設の配置構成例を示す正面断面図である。
【0025】図2は、図1の正面断面図のA-A線に沿った側面断面図である。
【0026】図3は、タンク蓋に吊り下げられた中性子反射体の一例を示す斜視図である。
【0027】図4は、中性子減速材収納容器の一例を示す斜視図である。
【0028】本実施の形態に係る中性子発生施設では、従来技術の中性子発生施設において用いられていた中性子反射体支持脚5を省略し、その代わりに、中性子反射体7をタンク蓋2から、中性子減速材6を収納している中性子減速材収納容器3をタンク蓋4から、それぞれ吊り下げた構成としている。また、中性子減速材6を支持する中性子減速材サポート12を、中性子減速材収納容器3の内部に備えている。
【0029】これによって、陽子ビーム管11とターゲット部9とを一旦中性子反射体7の外側に取出した後は、タンク蓋4を持上げることによって、中性子減速材6をタンク1内から容易に取出すことができ、更にタンク蓋2を持上げることによって、中性子反射体7をタンク1内から容易に取出すことができる構成としている。
【0030】すなわち、本実施の形態に係る中性子発生施設は、図1に示すように、タンク1の中に、中性子減速材収納容器3と、中性子反射体7と、陽子ビーム管8と、ターゲット部9とを収納し、タンク蓋2とタンク蓋4とでタンク1の上面を覆った構成としている。
【0031】タンク蓋2は、図3に示すように、吊り下げ部13によって中性子反射体7を吊り下げているとともに、中性子減速材収納容器3を挿入するための開口部20を備えている。この吊り下げ部13は、堅固な金属からなり、タンク蓋2と中性子反射体7とのそれぞれに溶接等により接続している。これによって、タンク蓋2と中性子反射体7とを一体化している。
【0032】中性子反射体7は、中性子減速材6を収納している中性子減速材収納容器3を配置するための凹部21と、陽子ビーム管8およびターゲット部9を挿入するための導入管22とを備えている。この中性子反射体7は、図2に示すように、発生した中性子を設備側に輸送するための中性子輸送管17に、発生した中性子を供給するための中性子経路16を備えているが、図3ではそれを省略している。
【0033】タンク蓋4は、図4に示すように、中性子減速材6を収納している中性子減速材収納容器3を下部に固定している。また、この中性子減速材収納容器3は、陽子ビーム11が放出される陽子ビーム窓10、および陽子ビーム11が照射されて中性子を発生するターゲット部9の先端を配置する配置部30を備えている。
【0034】この中性子減速材収納容器3は、図2に示すように、配置部30の上下にそれぞれ中性子減速材6を備えている。中性子減速材6には、例えば液体水素のような液体減速材を用いる場合には、図2に示すような減速材入口配管14と減速材出口配管15とを備えた専用の容器に収納する。なお、中性子減速材6には、ポリエチレンのような固体減速材を用いても良い。この場合には、上述したような配管は不要である。
【0035】すなわち、本実施の形態に係る中性子発生施設は、まずタンク1の上縁部を、中性子反射体7を吊り下げているタンク蓋2で覆う。すなわち、ここで、タンク蓋2の外形寸法はタンク1の外枠寸法よりも大きくして、タンク蓋2がタンク1の上縁部を覆うようにしている。
【0036】次に、タンク蓋4を、タンク蓋2の開口部20より、中性子減速材収納容器3を下に向けた状態で降ろす。中性子減速材収納容器3は開口部20よりも断面寸法が小さいので、中性子減速材収納容器3のみが開口部20を通過し、中性子反射体7に設けられた凹部21に嵌合されるようにしている。
【0037】さらに、このように凹部21に中性子減速材収納容器3を嵌合すると、中性子反射体7に設けられた導入管22と、中性子減速材収納容器3に設けられた配置部30とが接続するようにしている。
【0038】そして、一方の導入管22から陽子ビーム管8を挿入して、配置部30に陽子ビーム窓10を配置するとともに、他方の導入管22からターゲット部9を挿入して、配置部30にターゲット部9の先端を配置し、図示しない固定手段によって陽子ビーム管8およびターゲット部9をそれぞれ中性子反射体7に固定する。
【0039】次に、以上のように構成した本実施の形態に係る中性子発生施設の作用について説明する。
【0040】図5は、第1の実施の形態に係る中性子発生施設の組み立て方法を示すフローチャートである。
【0041】まず、まずタンク1の上縁部を、タンク蓋2で覆う。これによって、タンク蓋2が吊り下げている中性子反射体7がタンク1の中に収納される(S1)。またこのとき、中性子反射体7の重量によって、タンク蓋2がタンク1の上縁部に固定されることによって、中性子反射体7自身も固定される。
【0042】次に、タンク蓋2に設けられた開口部20から中性子減速材収納容器3を挿入する。これによって、中性子反射体7の凹部21に中性子減速材収納容器3が嵌合されるとともに、タンク蓋2の開口部20にタンク蓋4が載せられる(S2)。
【0043】また、中性子反射体7の凹部21に中性子減速材収納容器3が嵌合されると、中性子反射体7に設けられた導入管22と、中性子減速材収納容器3に設けられた配置部30とが連結される(S3)。
【0044】したがって、一方の導入管22から陽子ビーム管8を挿入して、配置部30に陽子ビーム窓10を配置できるようになる。また、他方の導入管22からは、ターゲット部9を挿入して、配置部30にターゲット部9の先端を配置できるようになる。
【0045】そこで、一方の導入管22から陽子ビーム管8を挿入して、配置部30に陽子ビーム窓10を配置し、他方の導入管22からターゲット部9を挿入して、配置部30にターゲット部9の先端を配置する(S4)とともに、この状態で調整運転を行なう(S5)。この調整運転によって、陽子ビーム11がターゲット部9に正しく命中しているか、また発生する中性子の特性(エネルギー、フラックス等)等が確認されるとともに、陽子ビーム窓10およびターゲット部9の配置、中性子減速材収納容器3の配置等の微調整がなされる(S6)。
【0046】所望の特性の中性子が得られる配置条件が得られた場合には、中性子減速材収納容器3、陽子ビーム管8およびターゲット部9を、図示しない固定手段によって、それぞれ中性子反射体7に固定する(S7)。これによって、所望の特性の中性子が再現性良く得られるようになる。
【0047】上述したように、本実施の形態に係る中性子発生施設は、タンク1をタンク蓋2で覆うことにより、中性子反射体7はタンク1内に必然的に収納されるので、中性子反射体7の据え付けを極めて容易に行なうことができる。
【0048】また、中性子反射体7はタンク蓋2と一体化して構成されているので、収納された中性子反射体7をタンク1内で固定する必要が無くなるため、タンク1からの支持サポートが不要となる。
【0049】更に、中性子減速材収納容器3は、タンク蓋2に設けられた開口部20から挿入されることによって、中性子反射体7の凹部21に嵌合され、固定されるので、中性子減速材6の据え付けが容易となり、かつ、タンク1からの支持サポートも不要となる。
【0050】以上の結果、タンク1内の支持サポートを不要とするとともに、各構成部品を、タンク1内へ容易に据え付けるとともに、かつ、コンパクトに配置することができる。その結果、タンク1内の配置構成が極めて簡素な中性子発生施設を実現することが可能となる。
【0051】なお、請求項でいう中性子発生手段は本実施の形態においてターゲット部9を備えた陽子ビーム11に相当するが、本実施の形態に係る中性子発生施設は、これに限るものではなく、ターゲットを備えた電子ビームなど加速器から得られる一般的な高エネルギー荷電粒子、あるいはカリフォルニウム-252(Cf-252)など中性子を放出する放射線源であってもよい。
【0052】(第2の実施の形態)本発明の第2の実施の形態を図6を用いて説明する。
【0053】図1に示す中性子発生施設では、陽子ビーム管8から陽子ビーム11が出力され、この陽子ビーム11がターゲット部9の先端を照射する。そして、ターゲット部9の先端で引き起こる核破砕により高エネルギーの中性子を発生させ、この高エネルギーの中性子を中性子減速材6によって減速させることによって低エネルギーの中性子を発生させるようにしている。
【0054】陽子ビーム11は高エネルギーであるために、陽子ビーム11が出力されると、陽子ビーム管8の先端に備えられた陽子ビーム窓10およびターゲット部9の先端は、このエネルギーによって発熱するとともに劣化する。また、ターゲット部9の先端からは中性子が発生するために、陽子ビーム窓10およびターゲット部9の先端は、この中性子に照射されることによっても劣化するので、定期的に保守点検するとともに、場合によっては交換する必要もある。
【0055】さらに、中性子減速材6および中性子反射体7も、この中性子によって照射され劣化するので、同様に、定期的に保守点検するとともに、場合によっては交換する必要もある。
【0056】本実施の形態では、第1の実施の形態で説明した中性子発生施設の保守点検方法について説明する。なお、中性子発生施設の構成については、既に第1の実施の形態で説明しているので、ここではその構成に関する説明を省略し、その保守点検方法のみについて説明する。
【0057】図6は、第2の実施の形態に係る中性子発生施設の保守点検方法を示すフローチャートである。
【0058】本実施の形態に係る中性子発生施設の保守点検方法では、前述した第1の実施の形態で説明した中性子発生施設から、まず、中性子減速材収納容器3の配置部30に配置されている陽子ビーム窓10およびターゲット部9先端を、配置部30から導入管22側に取り出す(S11)。これによって、中性子減速材収納容器3を、中性子反射体7の凹部21から、上方に引き抜ける状態となる。
【0059】次に、タンク蓋4を、クレーン等を用いて吊上げる。これによって、タンク蓋4と一体化して構成している中性子減速材収納容器3が、中性子反射体7の凹部21から取り外される(S12)。
【0060】そして、作業員は、取り外された中性子減速材収納容器3の中身を開け、中性子減速材6の劣化状態を確認する。劣化が激しい場合には、中性子減速材6を新しいものと交換する。また、中性子減速材収納容器3自体の劣化が激しい場合には、中性子減速材収納容器3自体を交換する(S13)。
【0061】引き続き、中性子反射体7、陽子ビーム窓10またはターゲット部9の交換または保守点検を行なわない場合(S14:No)には、図5のS2に戻って、再び中性子減速材収納容器3を据え付けるとともに、中性子発生施設の運転に必要な調整を行なう。
【0062】一方、引き続いて、中性子反射体7、陽子ビーム窓10またはターゲット部9の交換または保守点検も行なう場合(S14:Yes)には、陽子ビーム窓10およびターゲット部9の先端を、導入管22の外に取り出す(S15)。これによって、中性子反射体7を、タンク1から取出せる状態となる。
【0063】次に、タンク蓋2を、クレーン等を用いて吊上げる。これによって、タンク蓋2と一体化して構成している中性子反射体7が、タンク1から取り出される(S16)。これによって、作業員がタンク1の中に入って、陽子ビーム窓10およびターゲット部9を直接点検できるようになる。作業員は、陽子ビーム窓10およびターゲット部9は、劣化が激しい場合には、新しいものと交換する(S17)。
【0064】一方、取り出された中性子反射体7も、作業員によって、その劣化状態が確認され、劣化が激しい場合には、吊り下げ部13から取り外されるとともに、代わりに、新しい中性子反射体7が、吊り下げ部13に溶接等によって接合される(S18)。
【0065】なお、中性子反射体7を交換する頻度は、陽子ビーム窓10、中性子減速材6を交換する頻度と比べると極めて低い。
【0066】陽子ビーム窓10、ターゲット部9または中性子反射体7の交換終了後には、図5のS1に戻って、再び中性子発生施設の据え付け、および運転に必要な調整を行なう。
【0067】上述したように、本実施の形態に係る中性子発生施設の保守点検方法においては、中性子減速材収納容器3を容易にタンク1から取り出すことができる。
【0068】その結果、中性子減速材6の保守点検および必要な交換作業を容易に行なうことができる。
【0069】また、中性子反射体7を容易にタンク1から取り出すことができる。本実施の形態による中性子発生施設は、タンク1の配置構成が極めて簡素であることから、作業員がタンク1内において、陽子ビーム窓10およびターゲット部9の交換や保守点検作業を容易に行なうことができる。
【0070】更に、中性子減速材6、中性子反射体7、陽子ビーム窓10、ターゲット部9の保守点検または必要な交換作業を行なった後の、再据え付け、再調整も容易に行なうことができる。
【0071】以上の結果、各構成部品の保守点検や必要な交換作業を容易に実施可能とするとともに、それに伴う再据え付け、再調整も容易に行なうことができるメンテナンス性に極めて優れた中性子発生施設を実現することが可能となる。
【0072】以上、本発明の好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0073】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の中性子発生施設およびその保守点検方法によれば、タンク内に中性子減速材および中性子反射体を合理的に配置し、もって、保守点検および必要な交換作業を容易に実現することができる。」

(イ)「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】



上記図1から、「ターゲット部9」の径が「陽子ビーム管8」の径と同じである構成が読み取れる。
また、「陽子ビーム管8」の「陽子ビーム11」の上流側に、高エネルギーの陽子ビームを生成する装置が配置されていることは、当業者には自明である。

すると、上記引用文献3には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

「陽子ビーム管8によって導入された高エネルギーの陽子ビーム11が、陽子ビーム窓10を介してターゲット部9を照射することにより、核破砕が生じるとともに、高エネルギーの中性子が発生し、この高エネルギーの中性子を、中性子減速材6によって減速させることによって低エネルギーの中性子を取得し、この低エネルギーの中性子を設備側に供給して、病気の治療や物質化学の研究等に用いる中性子発生施設であって、
タンク1の中に、中性子減速材収納容器3と、中性子反射体7と、陽子ビーム管8と、ターゲット部9とを収納し、タンク蓋2とタンク蓋4とでタンク1の上面を覆った構成とされ、
中性子反射体7は、中性子減速材6を収納している中性子減速材収納容器3を配置するための凹部21と、陽子ビーム管8およびターゲット部9を挿入するための導入管22とを備えていて、この中性子反射体7は、発生した中性子を設備側に輸送するための中性子輸送管17に、発生した中性子を供給するための中性子経路16を備えており、
中性子減速材収納容器3は、陽子ビーム11が放出される陽子ビーム窓10、および陽子ビーム11が照射されて中性子を発生するターゲット部9の先端を配置する配置部30を備えていて、配置部30の上下にそれぞれ中性子減速材6を備えており、
ターゲット部9の径が陽子ビーム管8の径と同じであって、陽子ビーム管8の陽子ビーム11の上流側に、高エネルギーの陽子ビームを生成する装置が配置されており、
中性子反射体7の凹部21に中性子減速材収納容器3が嵌合されると、中性子反射体7に設けられた導入管22と、中性子減速材収納容器3に設けられた配置部30とが連結され、一方の導入管22から陽子ビーム管8を挿入して、配置部30に陽子ビーム窓10を配置できるように、また、他方の導入管22からは、ターゲット部9を挿入して、配置部30にターゲット部9の先端を配置できるようになり、
中性子反射体7、陽子ビーム窓10またはターゲット部9の交換または保守点検も行なう場合には、陽子ビーム窓10およびターゲット部9の先端を、導入管22の外に取り出す、
中性子発生施設。」

イ 対比
本願発明と引用発明2を対比すると、
「照射室内の被照射体に中性子線を照射する中性子線照射装置であって、
荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、
前記荷電粒子線が照射されることで中性子線を発生させる中性子線発生部と、
前記加速器と前記中性子線発生部とを接続するダクトと、
前記中性子線発生部で発生した中性子線を減速させて前記被照射体へ照射される中性子線のエネルギーを低下させる減速体と、
を備え、
前記減速体は、
前記中性子線を減速させるための減速材と、
前記減速材の外側を覆って前記中性子線の漏洩を防止すると共に、前記中性子線の出射方向における下流側に開口が設けられた遮蔽材と、を有し、
前記中性子線発生部は、
前記減速体を移動させることなく、前記減速体の外部へ取り出すことが可能である、
中性子線照射装置。」
で一致し、次の各点で相違する。

・本願発明では、「減速体」が「前記中性子線発生部を収容する収容室を有すると共に、」「前記収容室は、前記減速材中に設けられ、前記中性子線の出射方向における上流側に開いて」いるのに対して、引用発明2では、「中性子反射体7の凹部21に中性子減速材収納容器3が嵌合されると、中性子反射体7に設けられた導入管22と、中性子減速材収納容器3に設けられた配置部30とが連結され、一方の導入管22から陽子ビーム管8を挿入して、配置部30に陽子ビーム窓10を配置できるように、また、他方の導入管22からは、ターゲット部9を挿入」する構成、すなわち、「ターゲット部9」は「中性子反射体7に設けられた凹部21に」収容されている点。(以下、「相違点イ」という。)

・中性子線発生部を減速体の外部に取り出すに際して、
本願発明では、「中性子線発生部は、」「前記減速体の前記収容室に収容された状態から、」「前記減速体から離間するように前記ダクトに沿って前記ダクトの上流側へ移動させて、」「減速体の外部に取り出すことが可能である」(特に、下線部) のに対して、
引用発明2では、「陽子ビーム管8」と「ターゲット部9」は、それぞれ、異なる「導入管22」に沿って、「中性子反射体7」の外部に取り出すことが可能である点。(以下、「相違点ウ」という。)

・本願発明では、「前記中性子線発生部は、前記ダクトの端部に取り付けられ、前記ダクトの延伸方向と直交する直交方向における長さが、前記ダクトの前記直交方向における長さよりも長」いのに対して、引用発明2では、「ターゲット部9」は「陽子ビーム管8」の端部に取り付けられておらず、かつ、両者の径は同じである点。(以下、「相違点エ」という。)

ウ 判断
上記相違点ウについて検討する。
引用文献1には、上記「第3」「2」「(1)」「ア」で示したとおりの引用発明1が記載されているのみであり、上記相違点ウに係る本願発明の構成は記載されていない。
また、引用発明2は、「陽子ビーム管8」と「ターゲット部9」は、それぞれ、異なる「導入管22」に挿入、取り出し可能であるものであって、「ターゲット部9」を「陽子ビーム管8」に沿って取り出すことは想定できないことは明らかであるから、引用発明2は「ターゲット部9」を「陽子ビーム管8」に沿って取り出すことが可能であるとは認められない。
すると、上記相違点ウに係る構成は、引用発明2に引用発明1を組み合わせることにより当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

また、他に、上記相違点ウに係る構成が公知であることを示す証拠もない。

そして、本願発明は、上記相違点ウに係る構成を備えることにより、メンテナンス時に作業者が受ける放射線の影響を低減するとともに、減速体を設置する部屋の面積の増大を抑制することができるという格別な効果を奏する。

よって、本願発明は、上記相違点イ及びエを検討するまでもなく、引用発明2に引用発明1を組み合わせることにより当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

(3)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明2及び引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできなくなった。
また、本願の請求項2、3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであり、本願の請求項4に係る発明は、上記相違点ウの構成を備える「中性子線照射装置のメンテナンス方法」に係る発明であり、本願の請求項5に係る発明は、本願の請求項4に係る発明を更に限定したものであるから、本願発明と同様に、当業者が引用発明2及び引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできなくなった。
そうすると、もはや、当審拒理(最初)で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

2 当審拒理(最後)について
(1)当審拒理(最後)の概要
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項4に「前記ダクト」とあるが、この記載より前に「ダクト」という記載はなく、「ダクト」が示す構成が不明である。

(2)当審拒理(最後)の判断
平成28年7月22日付けの手続補正により、本願の請求項4は、「・・・前記加速器と前記中性子線発生部とを接続するダクトと、・・・前記ダクトの・・・」と補正された。
これにより、請求項4の記載は明確となった。

(3)小括
したがって、当審拒理(最後)で通知した拒絶理由は解消した。
そうすると、もはや、当審拒理(最後)で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-05 
出願番号 特願2011-150994(P2011-150994)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G21K)
P 1 8・ 121- WY (G21K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 秋田 将行関根 裕  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 伊藤 昌哉
土屋 知久
発明の名称 中性子線照射装置及び中性子線照射装置のメンテナンス方法  
代理人 小島 誠  

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